説明

メタクリル樹脂含有液状組成物およびモノマー回収方法

【課題】メタクリル樹脂からモノマーを回収するのに適したメタクリル樹脂含有液状組成物を提供する。
【解決手段】メタクリル樹脂含有液状組成物として、メタクリル樹脂と、イオン液体を含む媒体とを含んで成り、メタクリル樹脂が媒体中に分散または溶解している液状組成物を調製する。かかる液状組成物を加熱して、メタクリル樹脂をモノマーに分解し、ガス状物としてモノマーを得、これにより、メタクリル樹脂からモノマーをより効率的に回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂含有液状組成物およびモノマー回収方法に関する。より詳細には、本発明は、メタクリル樹脂からモノマーを回収するのに適したメタクリル樹脂含有液状組成物、および、そのようなメタクリル樹脂含有液状組成物を用いて、メタクリル樹脂からモノマーを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は、透明性、耐候性、成形性などに優れ、レンズや導光板などの光学用途、自動車部品、家電照明部品など、幅広く様々な用途に使用されており、メタクリル樹脂の需要はますます拡大している。その一方で、使用済のメタクリル樹脂をいかに処理するかが課題となっており、メタクリル樹脂のリサイクル技術の確立が求められている。
【0003】
メタクリル樹脂は、加熱によりモノマーに分解して回収することが可能である。従来、このようなモノマー回収方法として、メタクリル樹脂を単独で加熱する方法(特許文献1)、メタクリル樹脂を砂やアルミナなどの固体または溶融金属や溶融金属塩などの液体の熱媒体により加熱する方法(特許文献2〜5)、メタクリル樹脂を押出機にて加熱する方法(特許文献6)が知られている。回収されたモノマーは、メタクリル樹脂を製造する原料として再使用が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−321571号公報
【特許文献2】特開平7−89900号公報
【特許文献3】特公昭47−41886号公報
【特許文献4】特公昭49−41112号公報
【特許文献5】特開2008−214320号公報
【特許文献6】特許第3410343号公報
【特許文献7】特開2008−50595号公報
【特許文献8】特表2006−521326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のモノマー回収方法はいずれも難点があり、必ずしも満足できるものではなかった。
メタクリル樹脂を単独で、熱媒体なしに加熱する方法(特許文献1)は、熱効率が低いという難点があった。また、加熱によりタール状の分解残渣が発生し、加熱停止後に(一般的には常温、例示的には大気条件下で)反応器内壁に強固に付着し、反応器から除去するのは容易でなかった。
メタクリル樹脂を固体の熱媒体(砂、アルミナなど)により加熱する方法(特許文献2および5)では、熱媒体なしの場合よりも高い熱効率が得られる。しかしながら、加熱によりタール状の分解残渣が発生し、加熱停止後に、固体の熱媒体と混ざり合って、反応器内壁に強固に付着し、反応器から除去するのは容易でなかった。また、タール状の分解残渣は固体の熱媒体と混ざり合って塊状物となっており、固体の熱媒体を分解残渣から分離回収することは困難であり、熱媒体を分解残渣と一緒に廃棄せざるを得なかった。
メタクリル樹脂を作業温度で液体の熱媒体(例えば鉛などの溶融金属または溶融金属塩など)により加熱する方法(特許文献3および4)では、固体の熱媒体を用いる場合よりも更に高い熱効率が得られる。従来一般的に使用されている液体の熱媒体は、作業温度では液体であるが、常温では固体である。このため、加熱により発生する分解残渣は、加熱停止後、熱媒体と混ざり合って一緒に凝固して反応器内壁に強固に付着し、反応器から除去するのは容易でなかった。また、凝固した熱媒体を分解残渣から分離回収することは困難であり、熱媒体を分解残渣と一緒に廃棄せざるを得なかった。
メタクリル樹脂を押出機にて加熱する方法(特許文献6)は、大量処理に適していないという難点があった。
【0006】
工業的には、熱効率が高く、大量処理に適しているという理由から、メタクリル樹脂を作業温度で液体の熱媒体(例えば鉛などの溶融金属または溶融金属塩など)により加熱する方法(特許文献3および4)が主に利用されてきた。しかし、鉛などの溶融金属または溶融金属塩は、環境および人体への影響が懸念される。
【0007】
本発明の目的は、メタクリル樹脂からモノマーを回収するのに適した組成物として、メタクリル樹脂含有液状組成物を提供すること、およびそのようなメタクリル樹脂含有液状組成物を用いて、メタクリル樹脂からモノマーをより効率的に回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
メタクリル樹脂からモノマーを回収するのに、新規なメタクリル樹脂含有液状組成物を実現できれば、少なくとも熱効率の観点から好都合である。本発明者らは、メタクリル樹脂に対して媒体(分散媒または溶媒)として使用し得る物質について鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
[1] メタクリル樹脂と、イオン液体を含む媒体とを含んで成り、メタクリル樹脂が媒体中に分散または溶解している液状組成物。
[2] メタクリル樹脂が媒体中に溶解している、上記[1]に記載の液状組成物。
[3] イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]または[2]に記載の液状組成物。
[4] メタクリル樹脂からモノマーを回収する方法であって、
メタクリル樹脂と、イオン液体を含む媒体とを含んで成り、メタクリル樹脂が媒体中に分散または溶解している液状組成物を加熱して、メタクリル樹脂をモノマーに分解し、モノマーを含むガス状物を得ることを含む方法。
[5] モノマーを含むガス状物を液化することを更に含む、上記[4]に記載の方法。
[6] イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[4]または[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタクリル樹脂からモノマーを回収するのに適した新規なメタクリル樹脂含有液状組成物を提供することができる。また、本発明によれば、かかるメタクリル樹脂含有液状組成物を用いることにより、メタクリル樹脂からモノマーをより効率的に回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態におけるメタクリル樹脂含有液状組成物、およびメタクリル樹脂含有液状組成物を用いて、メタクリル樹脂からモノマーを回収する方法(本明細書において単に「モノマー回収方法」とも言う)について詳述する。
【0012】
メタクリル樹脂含有液状組成物は、メタクリル樹脂と、イオン液体を含む媒体とを含んで成り、メタクリル樹脂が媒体中に分散または溶解してなる。なお、本発明において用語「液状」は、組成物全体が液体状態である場合のみならず、液体状態の媒体に他の状態のものが混在(より詳細には分散)している場合をも含む意味で用いる。
【0013】
メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体である。具体的にはメタクリル酸メチル単位を通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含むメタクリル酸メチル樹脂であるのが好ましい。メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位100重量%のメタクリル酸メチル単独重合体であってもよいし、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体であってもよい。
【0014】
メタクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体の例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの如きメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル類や、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルの如きアクリル酸エステル類が挙げられる。また、スチレンや置換スチレン類、例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンの如きハロゲン化スチレン類や、ビニルトルエン、α−メチルスチレンの如きアルキルスチレン類なども挙げられる。さらに、メタクリル酸、アクリル酸の如き不飽和酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、ビニルスルホン酸なども挙げられる。これらメタクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
メタクリル樹脂には、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、離型剤、熱安定化剤、光拡散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤などが挙げられる。
【0016】
本発明を限定するものではないが、メタクリル樹脂は、成形などの製品製造過程で発生する不良品や端材に由来するものであっても、製品として使用された後に廃棄された廃棄物から回収された廃材に由来するものであってよい。また、メタクリル樹脂は、異なる組成を有する2種以上のメタクリル樹脂の混合物であってもよいし、同じまたは異なる組成を有するメタクリル樹脂の積層体であってもよい。
【0017】
イオン液体は、例えば特許文献7および8などに記載されている。イオン液体は、比較的低温で液体状態の塩であり、好ましくは融点が100℃未満の塩であり、より好ましくは大気条件下(20℃、0.1MPa)で液体状態の塩である。一般的に、イオン液体は、広い温度範囲に亘って液体状態であり、熱に対して安定であり(高耐熱性、難燃性)、蒸気圧が極めて低く(不揮発性)、常套的な水および有機溶媒に比べて特異な溶解性を示し、極性が高く、イオン伝導性を有する。
【0018】
イオン液体はカチオンとアニオンとから構成される。イオン液体のカチオンの例としては、窒素原子、リン原子または硫黄原子を含む有機化合物のカチオンが挙げられ、具体的には、A.イミダゾリウムイオン、B.ピリジニウムイオン、C.アンモニウムイオン、D.ホスホニウムイオン、E.スルホニウムイオンからなる群から選択されるものが挙げられる。これらA〜Eの構造式を以下に示す。
【化1】

【0019】
上記の式中、R、R’、R、R、R、R基は、炭化水素基またはポリオキシアルキレン基である。炭化水素基は、直鎖、分岐状または環式であってよく、飽和または不飽和であってよく、特に飽和であり、また、置換されていてもよく(1つまたはそれ以上の置換基を有していてもよく)、例えば炭素数1〜40、特に炭素数1〜30、より特に炭素数1〜12、更に特に炭素数1〜10である。具体的には、R、R’、R、R、R、R基は、互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基(イソプロピル基、n−プロピル基)、ブチル基(n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等)、ペンチル基、ヘキシル基(n−へキシル基、シクロヘキシル基等)、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基およびドデシル基からなる群から選択され得、特にメチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−へキシル基、シクロヘキシル基およびドデシル基からなる群から選択され得る。上記炭化水素基が置換されている場合、炭化水素基に結合し得る1つまたはそれ以上の置換基の例として、炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられ、より詳細には、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。これらの炭化水素基は他の置換基および/または官能基を有することもでき、それによってイオン液体の所望の特性を調節することができる。
【0020】
上記イミダゾリウムイオンおよびピリジニウムイオンにおいて、環構造を成す炭素上に1つまたはそれ以上の置換基を有していてもよい。例えば、上記イミダゾリウムイオンは、1,3位に結合したR,R’基に加えて、2位に置換基(例えばメチル基等)を有してよい。また、上記ピリジニウムイオンは、1位に結合したR基に加えて、3位および/または4位に置換基(例えばメチル基、ヒドロキシメチル基等)を有していてもよい。
【0021】
上記アンモニウムイオンにおいて、R、R、RおよびR基から選択される2つの基は、互いに結合してNとともに環構造を形成してもよい。例えば、上記アンモニウムイオンは、ピペリジニウムイオン、ピロリジニウムイオンなどであってよい。これらの構造式を以下に示す。式中、R、R’基は、上記の通りである。
【化2】

【0022】
イオン液体のアニオンの例としては、ハロゲン、硫酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アルミン酸ハロゲン、ホウ酸ハロゲン、アンチモン酸ハロゲン、硝酸塩、ハロゲン化銅、ハロゲン化スズ、アルキルハロゲン化アルミニウム、アルキル亜硫酸塩、カルボン酸塩またはトリアルキルホウ酸塩のアニオンが挙げられ、具体的には、以下a〜yの群から選択されるものが挙げられる。
a.Cl
b.AlCl
c.AlCl
d.AlCl10
e.BCl
f.BF
g.PF
h.SbF
i.NO
j.HSO
k.CHCOO
l.CFCOO
m.CFSO
n.(CFSO
o.CuCl
p.CuCl
q.CuCl
r.SnCl
s.SnCl
t.AlEtCl
u.AlEtCl
v.n−CSO
w.CCOO
x.CH−C−SO
y.Et(C13)B
【0023】
上記A〜Eのカチオンと上記a〜yのアニオンとの組み合わせは、考えられる全ての組み合わせが含まれる。かかる組み合わせから成るイオン液体のうち、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好ましく、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドがより好ましく、耐熱性の点で、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが特に好ましい。
N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの構造式を以下に示す。
【化3】

1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの構造式を以下に示す。
【化4】

1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの構造式を以下に示す。
【化5】

1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの構造式を以下に示す。
【化6】

1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの構造式を以下に示す。
【化7】

【0024】
イオン液体は、上述したもの(カチオンとアニオンの組み合わせ)のうち少なくとも1種を用いればよく、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0025】
本実施形態におけるメタクリル樹脂含有液状組成物は、これらメタクリル樹脂とイオン液体とを混合して調製され、メタクリル樹脂がイオン液体(媒体)中に分散または溶解する。本実施形態に使用可能なメタクリル樹脂の形状(イオン液体に分散または溶解させる前の形状)は、特に制限されないが、例えば、粉末状、ペレット状、板状、フィルム状、切削屑状などが挙げられる。なお、メタクリル樹脂の成型品とイオン液体とを混合する場合には、メタクリル樹脂の成型品を予め破砕しておくことが好ましい。メタクリル樹脂の含有割合は、1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%(メタクリル樹脂含有液状組成物全体基準)である。
【0026】
この場合、イオン液体が媒体となる。しかしながら、媒体は、イオン液体のほか、任意の適切な他の成分、例えばメタクリル樹脂の良溶媒や重合禁止剤などを含んでいてよい。
【0027】
メタクリル樹脂は、かかるイオン液体からなる媒体またはイオン液体を含む媒体(以下、単に「イオン液体媒体」と言う)中にて分散または溶解する。イオン液体媒体中でメタクリル樹脂は、その全部が分散していても、一部が分散して残部が溶解していても、全部が溶解していてもよい。本発明を限定するものではないが、メタクリル樹脂はイオン液体媒体中に溶解すること(この場合、イオン液体媒体は溶媒として理解される)が好ましい。
【0028】
これにより得られるメタクリル樹脂含有液状組成物は、比較的低温、好ましくは100℃未満、より好ましくは大気条件下(20℃、0.1MPa)で、液状であり、より詳細には溶液または分散液の状態である。
【0029】
次に、このようなメタクリル樹脂含有液状組成物を用いたモノマー回収方法について説明する。
【0030】
上記で得られたメタクリル樹脂含有液状組成物を加熱して、メタクリル樹脂をモノマーに分解する。かかる加熱操作(熱分解)は、具体的には、例えばジャケット式の反応器にメタクリル樹脂含有液状組成物を入れて、好ましくは不活性ガス(例えば窒素)雰囲気下にて、撹拌しながら実施される。
【0031】
メタクリル樹脂含有液状組成物の加熱温度は、その組成物中でメタクリル樹脂が熱分解する温度以上であればよいが、あまり高いとイオン液体の分解が進行するおそれがあるため、その加熱温度は、例えば300〜500℃、好ましくは325〜475℃、より好ましくは350〜450℃、更に好ましくは350〜395℃の温度である。加熱は、常圧下、加圧下および減圧下のいずれで行ってもよい。なお、メタクリル樹脂単独の分解温度と、かかる組成物中でのメタクリル樹脂の分解温度とは異なり得る。
【0032】
この加熱操作において、イオン液体媒体は、メタクリル樹脂を加熱するための熱媒体として機能する。イオン液体は、広い温度範囲に亘って液体状態であり、熱に対して安定である(例えば400℃以上の高い耐熱性を示し得る)ので、熱媒体として好適に機能し、高い熱効率を得ることができる。特に、本発明を限定するものではないが、メタクリル樹脂がイオン液体媒体中に溶解している場合には、メタクリル樹脂を分子レベルで加熱(伝熱)できるので、更に高い熱効率を得ることができる。
【0033】
メタクリル樹脂の分解によって生じたモノマーは、ガス状物として得られ、具体的には、反応器の上部に設けられたガス抜き出し口より、モノマーを含むガス状物が抜き出される。
【0034】
モノマーを含むガス状物は、必要に応じて液化してよく、これによりモノマーを液体状態で回収することができる。液化には、一般的な凝縮器を用いることができる。ガス状物は、モノマー以外の他の成分を含み得るので、適宜、蒸留などの精製処理に付してよい。
【0035】
他方、反応器内では、加熱により分解残渣が発生し得る。分解残渣は固体または固形状であり、反応器に強固に付着することなく、イオン液体媒体中に含まれることとなる。加熱停止後、比較的低温、好ましくは100℃未満、より好ましくは大気条件下(20℃、0.1MPa)であっても、イオン液体媒体は液体状態のままであるので、イオン液体媒体を分解残渣と一緒に反応器から容易に取り出すことができ、そして、イオン液体媒体を分解残渣から固液分離により容易に分離回収することができる。固液分離には、一般的な固液分離操作、例えば遠心分離、圧搾分離、沈降・浮上分離、濾過分離、膜分離などを利用することができる。回収されたイオン液体は、必要に応じてさらに不純物を除去する精製処理を施した後、媒体としてリサイクル使用が可能である。
【0036】
加えて、イオン液体媒体は、不揮発性および難燃性であるので、環境および人体への影響が極めて小さく、問題とならないレベルである。
【0037】
更に、イオン液体媒体は、広い温度範囲に亘って液体状態であるので、従来、熱媒体として使用されていた鉛などの溶融金属または溶融金属塩に比較して取扱いが容易である。
【0038】
本実施形態のモノマー回収方法は、バッチ式および連続式のいずれで実施してもよく、大量処理に適している。
【0039】
以上、本実施形態によれば、メタクリル樹脂からモノマーを回収するのに適したメタクリル樹脂含有液状組成物を提供することができ、また、モノマーを効率的に回収でき、加熱により発生する分解残渣を容易に反応器から取り出し得るモノマー回収方法を提供することができる。
【実施例】
【0040】
(実施例1〜6および比較例1〜3)
実施例1〜6について溶解性試験を実施し、実施例1〜6および比較例1〜3について熱分解温度測定を実施した。
【0041】
<溶解性試験>
イオン液体およびメタクリル樹脂であるポリメタクリル酸メチル(以下、「PMMA」とも言う)として下記のものを用いた。
イオン液体:N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、「DEME・TFSI」とも言う)、関東化学株式会社製
PMMA:「スミペックス」(登録商標)、MHFグレードおよびMGSSグレード、住友化学株式会社製
【0042】
これらイオン液体およびPMMAを、表1に示すように、所定量で30mLの耐圧容器に仕込み、空気または窒素雰囲気下で撹拌しながら、オイルバスを用いて200℃の温度で3時間または5時間保持した。表1に示す全ての実施例1〜6において、PMMAはDEME・TFSIに溶解することが確認された。加熱保持後の混合物について、色、着色の程度、臭気について観察した。結果を表1に合わせて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
以上から理解されるように、PMMAはDEME・TFSIに溶解することが確認された。
【0045】
<熱分解温度測定>
上記の実施例1〜6で得られたPMMA含有液状組成物(200℃で3時間または5時間加熱保持した後のPMMA含有液状組成物)および比較例として下記のものから各0.015gのサンプルを採取した。
比較例1:「スミペックス」(登録商標)、MHFグレード、住友化学株式会社製
比較例2:「スミペックス」(登録商標)、MGSSグレード、住友化学株式会社製
比較例3:DEME・TFSI、関東化学株式会社製
【0046】
これらサンプルのそれぞれについて、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定)装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の「TG/DTA6300」)を用いて、窒素流量200ml/分および昇温速度2℃/分で、50℃から500℃まで各サンプル(実施例1〜6および比較例1〜3の各サンプル)を昇温しながらその重量変化を測定した。重量変化の測定値より重量減少速度(単位時間あたりの重量減少率(重量%/分)を求め、重量減少速度のグラフから重量減少速度が極大になる温度(ピークトップ温度)を読み取った。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2を参照して、比較例1および2の分析結果より、使用したPMMAの熱分解温度は352℃〜353℃程度であると考えられる。また、比較例3の分析結果より、イオン液体(DEME・TFSI)の熱分解温度は400℃程度であると考えられる。実施例1〜6の分析結果より、PMMAをイオン液体媒体中に溶解させて成る液状組成物(溶液)については、338〜344℃の範囲に1つのピーク(ピークトップ温度、以下も同様)と、400℃にもう1つのピークとが認められた。これらのうち、338〜344℃の範囲にあるピークはPMMAの熱分解によるもの考えられ、400℃のピークはイオン液体(DEME・TFSI)の熱分解によるものと考えられる。よって、PMMAの熱分解温度は、PMMA単独の場合では352℃〜353℃程度であるのに対し、PMMAをイオン液体(DEME・TFSI)媒体中に溶解させた場合には、約338〜344℃の範囲へと低温シフトしたことがわかった。
【0049】
(実施例7)
DEME・TFSI(関東化学株式会社製) 1gと、PMMA(「スミペックス」(登録商標)、MGSSグレード、住友化学株式会社製)0.1gを、5mLの耐圧容器に仕込み、窒素雰囲気下で振盪しながら、電気炉を用いて300℃の温度で1時間保持した。加熱保持後の混合物を室温まで冷却後、9gのアセトンを用いて耐圧容器から回収した。回収した混合物中に固形物は見られなかった。回収した混合物をガスクロマトグラフィーで分析し、モノマー(メタクリル酸メチル)の含有量を求め、仕込みのPMMAに対するモノマー回収率を算出したところ、6.1%であった。
【0050】
(実施例8)
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学工業株式会社製) 1gと、PMMA(「スミペックス」(登録商標)、MGSSグレード、住友化学株式会社製)0.1gを、5mLの耐圧容器に仕込み、窒素雰囲気下で振盪しながら、電気炉を用いて300℃の温度で1時間保持した。加熱保持後の混合物を室温まで冷却後、9gのアセトンを用いて耐圧容器から回収した。回収した混合物中に固形物は殆ど見られなかった。回収した混合物をガスクロマトグラフィーで分析し、モノマー(メタクリル酸メチル)の含有量を求め、仕込みのPMMAに対するモノマー回収率を算出したところ、10.9%であった。
【0051】
(実施例9)
1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学工業株式会社製) 1gと、PMMA(「スミペックス」(登録商標)、MGSSグレード、住友化学株式会社製)0.1gを、5mLの耐圧容器に仕込み、窒素雰囲気下で振盪しながら、電気炉を用いて300℃の温度で1時間保持した。加熱保持後の混合物を室温まで冷却後、9gのアセトンを用いて耐圧容器から回収した。回収した混合物をガスクロマトグラフィーで分析し、モノマー(メタクリル酸メチル)の含有量を求め、仕込みのPMMAに対するモノマー回収率を算出したところ、9.0%であった。
【0052】
(実施例10)
1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学工業株式会社製) 1gと、PMMA(「スミペックス」(登録商標)、MGSSグレード、住友化学株式会社製)0.1gを、5mLの耐圧容器に仕込み、窒素雰囲気下で振盪しながら、電気炉を用いて300℃の温度で1時間保持した。加熱保持後の混合物を室温まで冷却後、9gのアセトンを用いて耐圧容器から回収した。回収した混合物をガスクロマトグラフィーで分析し、モノマー(メタクリル酸メチル)の含有量を求め、仕込みのPMMAに対するモノマー回収率を算出したところ、8.4%であった。
【0053】
(実施例11)
1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学工業株式会社製) 1gと、PMMA(「スミペックス」(登録商標)、MGSSグレード、住友化学株式会社製)0.1gを、5mLの耐圧容器に仕込み、窒素雰囲気下で振盪しながら、電気炉を用いて300℃の温度で1時間保持した。加熱保持後の混合物を室温まで冷却後、9gのアセトンを用いて耐圧容器から回収した。回収した混合物中に固形物は殆ど見られなかった。回収した混合物をガスクロマトグラフィーで分析し、モノマー(メタクリル酸メチル)の含有量を求め、仕込みのPMMAに対するモノマー回収率を算出したところ、7.8%であった。
【0054】
実施例7〜11で使用したイオン液体(表3を参照のこと)について、5%重量減少温度測定を実施した。
【0055】
<5%重量減少温度測定>
表3に示すイオン液体(実施例7〜11で使用したもの)から各0.015gのサンプルを採取した。これらサンプルのそれぞれについて、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定)装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の「TG/DTA6300」)を用いて、窒素流量200ml/分および昇温速度2℃/分で、50℃から500℃まで各サンプルを昇温しながらその重量変化を測定した。サンプル重量は、温度が上昇するにつれて減少した。開始温度50℃におけるサンプル重量を100重量%として、サンプル重量が95重量%まで減少した時の温度(5%重量減少温度)を求めた。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
(比較例4)
PMMA(「スミペックス」(登録商標)、MGSSグレード、住友化学株式会社製)0.1gを、5mLの耐圧容器に仕込み、窒素雰囲気下で振盪しながら、電気炉を用いて300℃の温度で1時間保持した。加熱保持後の混合物を室温まで冷却後、10gのアセトンを用いて耐圧容器から回収した。回収した混合物を濾過し、濾残を乾燥させたところ、0.69mgの黒色の固形物が得られた。得られた固形物について、SEM−EDX装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製の「走査電子顕微鏡S−4800」)を用いて定性分析を行なったところ、成分として炭素および酸素が確認された。濾過により得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析し、モノマー(メタクリル酸メチル)の含有量を求め、仕込みのPMMAに対するモノマー回収率を算出したところ、3.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のメタクリル樹脂含有組成物を用いれば、メタクリル樹脂からモノマーをより効率的に回収することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂と、イオン液体を含む媒体とを含んで成り、メタクリル樹脂が媒体中に分散または溶解している液状組成物。
【請求項2】
メタクリル樹脂が媒体中に溶解している、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の液状組成物。
【請求項4】
メタクリル樹脂からモノマーを回収する方法であって、
メタクリル樹脂と、イオン液体を含む媒体とを含んで成り、メタクリル樹脂が媒体中に分散または溶解している液状組成物を加熱して、メタクリル樹脂をモノマーに分解し、モノマーを含むガス状物を得ることを含む方法。
【請求項5】
モノマーを含むガス状物を液化することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−n−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1,1,1−トリ−n−ブチル−1−n−ドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4または5に記載の方法。

【公開番号】特開2013−18955(P2013−18955A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−271476(P2011−271476)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】