説明

メチル化カテキン生合成酵素をコードする遺伝子

【課題】抗アレルギー活性の高いメチル化カテキンを効率的に生合成できるメチル化カテキン生合成酵素遺伝子を提供する。
【解決手段】メチル化カテキンを含む茶葉よりメチル化カテキン合成酵素遺伝子を単離し、この遺伝子を大腸菌に形質転換することにより、メチル化カテキン合成酵素を得る。該酵素を用いて、エピガロカテキンー3−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン−3−O−ガレートまたはそれらの異性体を基質として、メチル化カテキンを生合成するメチル化カテキン生合成酵素遺伝子、メチル化カテキン生合成酵素遺伝子を含有するプラスミド、該プラスミドで形質転換された生物、該生物を用いるメチル化カテキン生合成酵素の製造方法、及び該製造方法で得られたメチル化カテキン生合成酵素を用いるメチル化カテキンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学式(III)
【0003】
【化1】

【0004】
で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート、化学式(IV)
【0005】
【化2】

【0006】
で示されるエピカテキン−3−O−ガレートまたはそれらの異性体をメチル化して得られる一般式(I)
【0007】
【化3】

【0008】
(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【0009】
【化4】

【0010】
(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体またはそれらの異性体は、抗アレルギー剤として有用な天然由来の化合物である(特許文献1、非特許文献1)。
【0011】
近年、生活環境の変化によりアレルギー患者は急増しているが、アレルギー疾患の治療は長期に渡ることから、副作用がなく日常摂取しても問題がない食品によるアレルギー軽減化が強く望まれている。茶の主要成分の一つである化学式(V)
【0012】
【化5】

【0013】
で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート(以下、「EGCG」と略称することがある)は、抗アレルギー作用を有することが知られている(非特許文献2)。最近になり、エピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレートやエピカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート等は、さらに抗アレルギー活性が高いカテキン類であることが知られている (特許文献1、非特許文献1)。
【0014】
一般の茶品種、“やぶきた”はEGCGを多く含んでいるが、エピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレートやエピカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート等のいわゆるメチル化カテキンは全く含んでいない。メチル化カテキンを多く含む品種としては、“青心大ぱん”、“べにほまれ”、“べにふじ”、“べにふうき”等が知られているが、多くは普及しておらず入手が困難である。そこで、容易に入手できるEGCGをより付加価値の高いメチル化カテキンに変換する方法が強く望まれていた。
【0015】
EGCGをメチル化する方法としては、非特許文献3、特許文献2、特許文献3に記載の方法があるが、いずれも化学合成・修飾法によるものであり、次式で表されるガロイル基の3位、4位、5位のヒドロキシ基を特異的にメチル化することが非常に困難であった。
【0016】
【化6】

【0017】
また、化学合成で製造した化学物質を食品として用いるのも困難なのが現状である。そのため、部位特異的かつ高効率にメチル化カテキンを生合成できる酵素の発見が望まれていた。
【特許文献1】特開2000-159670公報
【特許文献2】特開昭61-145177号公報
【特許文献3】特開2002-255810号公報
【非特許文献1】Sano M, Suzuki M, Miyase T, Yoshino K, Maeda-Yamamoto M: J. Agric. Food Chem., 47(5), 1906-1910 (1999)
【非特許文献2】Matsuo, N. et al., Allergy 1997, 52, p58-64)
【非特許文献3】J.Biochem.55,p205(1964)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、抗アレルギー活性の高いメチル化カテキンを効率的に生合成できるメチル化カテキン生合成酵素遺伝子、該遺伝子を含有するプラスミド、該プラスミドで形質転換された生物、該生物を用いるメチル化カテキン生合成酵素の製造方法及び該製造方法で得られたメチル化カテキン生合成酵素を用いるメチル化カテキンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは上記課題を解決するために、まず、メチル化カテキンを含む茶葉である“べにふうき”よりメチル化カテキン合成酵素遺伝子を単離し、この遺伝子を大腸菌に形質転換することにより、メチル化カテキン合成酵素を得るに至った。すなわち、本発明は以下に関するものである。
【0020】
(1) 配列番号1、3及び5で示される塩基配列群より選ばれた少なくとも一つの塩基配列を含んでなる、一般式(I)
【0021】
【化7】

【0022】
(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【0023】
【化8】

【0024】
(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する酵素をコードする遺伝子。
【0025】
(2) 配列番号2、4及び6で示されるアミノ酸配列群から選ばれた少なくとも1つのアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失若しくは置換されたアミノ酸を有し、一般式(I)
【0026】
【化9】

【0027】
(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【0028】
【化10】

【0029】
(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する酵素活性を発揮しうる酵素をコードする遺伝子。
【0030】
(3) 配列番号1、3及び5で示される塩基配列群より選ばれた少なくとも一つの塩基配列と70%以上の相同性を有し、かつ、一般式(I)
【0031】
【化11】

【0032】
(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【0033】
【化12】

【0034】
(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンの生合成活性を発揮し得る生合成酵素をコードする遺伝子。
【0035】
(4) (1)〜(3)のいずれか1項に記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクター。
【0036】
(5) (4)に記載の組換え発現ベクターで形質転換された生物体。
【0037】
(6) (5)に記載の形質転換された生物体が微生物である形質転換体。
【0038】
(7) (5)に記載の形質転換された生物体が植物細胞、植物組織または植物体である形質転換体。
【0039】
(8) (6)〜(7)のいずれか1項に記載の形質転換体を培養し、培養物中に産生された酵素を単離し、精製することからなる、一般式(I)
【0040】
【化13】

【0041】
(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【0042】
【化14】

【0043】
(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する酵素の製造方法。
【0044】
(9) (6)〜(7)のいずれか1項に記載の形質転換体を培養し、培養物中の産生物からメチル化カテキン生合成酵素を単離し、化学式(III)
【0045】
【化15】

【0046】
で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート、化学式(IV)
【0047】
【化16】

【0048】
で示されるエピカテキン−3−O−ガレート及びそれらの異性体からなる群より選ばれる少なくとも1種を基質として該メチル化カテキン生合成酵素を反応させることを特徴とする一般式(I)
【0049】
【化17】

【0050】
(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【0051】
【化18】

【0052】
(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンの製造方法。
【発明の効果】
【0053】
本発明のメチル化カテキン生合成酵素遺伝子により産生されるメチル化カテキン生合成酵素は、EGCG等のカテキン類を基質として、抗アレルギー、抗がん、抗肥満、動脈硬化予防、血圧上昇抑制、抗菌に優れたメチル化カテキンを効率的に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明におけるメチル化カテキンとは、一般式(I)
【0055】
【化19】

【0056】
(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【0057】
【化20】

【0058】
(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種を意味する。
【0059】
本発明におけるメチル化カテキンを具体的に例示すると、例えばエピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)ガレート、エピ(3−O−メチル)ガロカテキン−3−O−ガレート等を挙げることができる。
【0060】
メチル化カテキンを生合成する酵素(以下、「メチル化カテキン生合成酵素」と呼ぶことがある)は、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン−3−O−ガレート及びそれらの異性体を基質として、前記一般式(I)、一般式(II)及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する酵素である。
【0061】
本発明の遺伝子組み換え技術は、既に一般化されているが、例えばMolecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている方法で行うことができる。
【0062】
メチル化カテキン生合成酵素の遺伝子は、フラボノイド系の物質を含んでいる植物体、好ましくは茶、さらに好ましくは“青心大ぱん”、“べにほまれ”、“べにふじ”、“べにふうき”等のメチル化カテキンを含む茶品種から総RNAを抽出し、ディジェネレートプライマーを用いたRT-PCRにより、目的の遺伝子の候補となる遺伝子断片を取得すればよい。
【0063】
本発明におけるメチル化カテキン生合成酵素をコードする遺伝子は、配列番号1、3及び5で示される塩基配列群より選ばれた少なくとも一つの塩基配列を含むものである。
【0064】
なお、本発明の遺伝子は、配列番号1、3及び5で示される塩基配列群より選ばれた少なくとも一つの塩基配列と70%以上の相同性を有し、かつメチル化カテキンの生合成活性を発揮し得る生合成酵素をコードする遺伝子であってもよい。なお70%以下の相同性であっても、メチル化カテキンの生合成活性を発揮し得る遺伝子であればよい。
【0065】
候補遺伝子断片はベクターにクローニングするが、塩基配列決定が可能なベクターであればよい。例えばpUC系ベクターやpGEM系ベクター等を用いることができるが、ベクターの形態は本遺伝子のDNAまたはそれをコードするRNA分子のいずれかを含むことを特徴とする。得られた遺伝子断片については塩基配列を決定し、その配列を基にRACE-PCR法を行うことにより、全長遺伝子を取得することができる。
【0066】
次に、この遺伝子を発現ベクターに組み込むが、ベクターはタンパク質発現が可能なベクターであればよい。例えば、pET系ベクターやpQE系ベクター等を用いることができるが、本遺伝子のDNAまたはそれをコードするRNA分子のいずれかを含むことを特徴とする。タンパク質発現ベクターは、発現可能な宿主に導入することによってタンパク質を発現させることが可能となる。
【0067】
また、この遺伝子を含むベクターを導入する宿主として、植物細胞、植物組織、植物体または微生物に形質転換することができる。微生物としては大腸菌(Escherichia coli)、酵母、枯草菌(Bacillus属)またはカビ等が考えられるが、導入宿主はメチル化カテキンを生合成する酵素活性が得られることを特徴とする。
【0068】
配列番号1、3及び5で示される塩基配列群より選ばれた少なくとも一つの塩基配列からコードされる本発明のメチル化カテキン生合成酵素は、配列番号2、4及び6で示されるアミノ酸配列群から選ばれた少なくとも1つのアミノ酸配列を有するものである。
【0069】
このようにして得られた形質転換体をそれぞれの生物体の最適な条件で培養する。例えば、形質転換体に導入された発現ベクターがIPTGにより誘導されるタイプのものであれば、培養時に培地中にIPTGを添加することにより、目的酵素タンパク質を生成させることができる。
【0070】
なお、配列番号2、4及び6で示されるアミノ酸配列群から選ばれた少なくとも1つのアミノ酸配列おいて1若しくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失若しくは置換されたアミノ酸であっても、メチル化カテキンを生合成する酵素活性を発揮しうる酵素をコードする遺伝子であってもよい。
【0071】
形質転換体に用いる生物については、目的酵素を菌体内に産生するタイプあるいは菌体外に放出するタイプ何れを用いることができるが、菌対外に放出するタイプを用いることが好ましい。菌体外に放出するタイプであれば、菌体を遠心分離等により除去することにより目的の粗酵素を得ることができる。菌体内に産生するタイプであれば、菌体を超音波や溶菌酵素等で処理し菌体を破砕することにより目的粗酵素を得ることができる。得られた粗酵素はそのままでもメチル化反応に用いることができるが、分子量分画等必要に応じて精製することが望ましい。
【0072】
精製された当該酵素タンパク質をpH4.5〜8.5好ましくはpH6.5〜8の緩衝液に懸濁し、EGCGあるいはECGにS-adenosyl-L- methionine (SAM)を加え、5〜60℃好ましくは、20〜40℃で反応させることにより、反応液中にメチル化カテキンを得ることができる。
【0073】
実施例
以下実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0074】
(“べにふうき”からのtotal-RNAの抽出)
「べにふうき」茶葉1gを液体窒素中で摩砕した後total RNAを抽出した。次いで以下に示す、ディジェネレートプライマーを設計し、total RNA 2μgを用いてRT-PCRを行った。
【0075】

5’側ディジェネレートプライマー:CAGTAYATWYTNGARACHAGTGT
3’側ディジェネレートプライマー:TGTGRGCAACDCCRGCTTTYTBAAT
配列記号:Y=C,T、W=A,T、R=A,G、H=A,T,C、
D=G,A,T B=G,T,C、N=A,C,G,T

RT-PCR産物をアガロースゲル電気泳動にかけた結果、確認された増幅バンドをアガロースゲルから回収し、pGEM-Tベクター(プロメガ社)へクローニングした後、大腸菌JM-109株(タカラ社)へ形質転換した。得られたJM-109株をLB培地にて37℃で終夜振とう培養し、プラスミドを抽出した後、インサートの塩基配列を確認した。
【実施例2】
【0076】
(遺伝子の全長の単離)
単離した遺伝子の塩基配列をもとに特異的プライマーを設計し、5’側と3’側の全長を取得するためにRACE-PCR法を行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、増幅バンドを回収した後、pGEM-Tベクターへクローニングし、塩基配列を確認した。その結果、本酵素タンパク質遺伝子の全長を単離した。
【0077】
次に、確認した塩基配列をもとに5’および3’末端配列のプライマーを設計し、本酵素タンパク質遺伝子の全長を単離するためにtotal RNA 3μgを用いてRT-PCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動し、増幅バンドを回収した。回収したPCR産物をpGEM-Tベクターへクローニングし、大腸菌JM109株へ形質転換後、再度塩基配列を確認した。決定した塩基配列およびアミノ酸配列は配列表に示した。
【実施例3】
【0078】
(酵素タンパク質の発現誘導)
本酵素タンパク質遺伝子をインサートに持つpGEM-TベクターをRT-PCRの際にプライマーに付加した制限酵素NdeI、BamHIで処理した後、アガロース電気泳動してインサートを回収した。またpET28a(+)ベクター(ノバジェン社)を同様にNdeI、BamHI処理し、アガロース電気泳動後、ゲルからベクターを回収した。インサートをpET28a(+)ベクターのNdeI、BamHIサイトへクローニングした後、大腸菌BL21(DE3)株(STRATAGENE社)へ形質転換した。得られたBL21(DE3)株をLB培地にて37℃で終夜振とう培養した後、その一部を再度新しいLB培地へ移し培養後IPTGを最終濃度1mMになるように添加し、28℃で振とう培養して酵素タンパク質の発現誘導を行った。発現誘導した大腸菌を遠心分離し(7,000rpm×10min、4℃)、沈殿物を1mM DTT を含む20mM リン酸buffer(pH7.4)に懸濁した。この大腸菌懸濁液を超音波摩砕し、再度遠心分離(7,500rpm×10min、4℃)した。上清をポアサイズ0.45μmのフィルターでろ過し、得られたろ液を粗酵素液として用いた。粗酵素液を12%SDS-PAGEにて電気泳動した結果、酵素タンパク質の発現誘導を行っていない大腸菌を電気泳動した場合と比較して、約27kDa付近に発現した酵素タンパク質のバンドを確認した。先に決定したアミノ酸配列より本酵素タンパク質の分子量は27.6kDaであった。誘導された酵素の電気泳動像を図1に示す。
【実施例4】
【0079】
(酵素反応)
粗酵素液を用いて、下記の反応系により変換反応を行った。

100mM Tris-HCl(pH6.8)
0.2mM MgCl2
25μM EGCGあるいはECG
80μM S-adenosyl-L- methionine (SAM)
総容量5ml

反応は30℃にて1時間行った後、200μlの1N HClを添加し反応を停止させ、8mlの酢酸エチルを加え振とう後、遠心分離(3000g, 5min)により有機層を回収し、200μlの1%アスコルビン酸を添加、吸引濃縮を行った上でHPLCにてエピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3、5−O−ジメチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3、4−O−ジメチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3、5−O−ジメチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3、4−O−ジメチル)ガレート、エピ(3−O−メチル)ガロカテキン−3−O−ガレート生成量の測定を行った。その結果、粗酵素量に対し容量依存的にエピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3、5−O−ジメチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3、4−O−ジメチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3、5−O−ジメチル)ガレート、エピカテキン−3−O−(3、4−O−ジメチル)ガレート、エピ(3−O−メチル)ガロカテキン−3−O−ガレートが生成されていることが明らかとなった。(表1)。また、反応系から、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG)やエピカテキン−3−O−ガレート(ECG)あるいはS-adenosyl-L- methionine(SAM)を除くとメチル化カテキンの生成は認められなかった。
【0080】
これらの結果から、メチル化カテキンを合成する酵素を取得できたことが明らかとなった。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のメチル化カテキン生合成酵素遺伝子により産生されるメチル化カテキン生合成酵素は、EGCG等のカテキン類を基質として、抗アレルギーに優れたメチル化カテキンを効率的に製造できるため、本発明は極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】誘導された酵素の電気泳動像を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、3及び5で示される塩基配列群より選ばれた少なくとも一つの塩基配列を含んでなる、一般式(I)
【化1】

(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【化2】

(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する酵素をコードする遺伝子。
【請求項2】
配列番号2、4及び6で示されるアミノ酸配列群から選ばれた少なくとも1つのアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失若しくは置換されたアミノ酸を有し、一般式(I)
【化3】

(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【化4】

(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する酵素活性を発揮しうる酵素をコードする遺伝子。
【請求項3】
配列番号1、3及び5で示される塩基配列群より選ばれた少なくとも一つの塩基配列と70%以上の相同性を有し、かつ、一般式(I)
【化5】

(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【化6】

(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンの生合成活性を発揮し得る生合成酵素をコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換え発現ベクターで形質転換された生物体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換された生物体が微生物である形質転換体。
【請求項7】
請求項5に記載の形質転換された生物体が植物細胞、植物組織または植物体である形質転換体。
【請求項8】
請求項6〜7のいずれか1項に記載の形質転換体を培養し、培養物中に産生された酵素を単離し、精製することからなる、一般式(I)
【化7】

(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【化8】

(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンを生合成する酵素の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜7のいずれか1項に記載の形質転換体を培養し、培養物中の産生物からメチル化カテキン生合成酵素を単離し、化学式(III)
【化9】

で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート、化学式(IV)
【化10】

で示されるエピカテキン−3−O−ガレート及びそれらの異性体からなる群より選ばれる少なくとも1種を基質として該メチル化カテキン生合成酵素を反応させることを特徴とする一般式(I)
【化11】

(式中、R〜Rは水素原子又はメチル基を表し、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピガロカテキン−3−O−ガレート誘導体、一般式(II)
【化12】

(式中、R〜Rは前記定義に同じであり、R〜Rの少なくとも1つがメチル基を表す)で示されるエピカテキン−3−O−ガレート誘導体及びそれらの異性体から選ばれた少なくとも1種のメチル化カテキンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−141242(P2006−141242A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333290(P2004−333290)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】