説明

モノパイル式基礎施工方法

【課題】工期の短縮化や施工コストの低減化を図る。
【解決手段】本発明は、基礎杭打設空間3が形成された導枠1,19をクレーン5,8により吊り上げ、沿岸水域の所定位置に設置する工程と、クレーン5,8を使用して導枠1,19の基礎杭打設空間3に基礎杭16を建込み、打設する工程と、クレーン5,8を使用して導枠1,19及び導杭6a,6b,6c,6dを引き抜く工程とを備え、前記基礎杭16を打設する前に、掘削装置15を水平移動させながら基礎杭16の打設範囲の海底地盤を繰り返し掘削し、攪拌すると共に、該海底地盤の障害物を破砕する工程を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸水域にモノパイル式基礎を構築するためのモノパイル式基礎施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境にやさしいクリーンなエネルギー源として風力発電が注目されている。一般に、この種の風力発電の施設は、常に安定した一定以上の風力の得られる場所に設置することが必要条件とされるが、国土が狭く、山間部の多い地理的事情を有する我が国では、このような条件を満たす適当な設置場所を陸上に確保するのは極めて困難であった。
【0003】
そこで、最近、我が国の山形県酒田市や北海道瀬棚町では、洋上に風力発電所が設置され、運転されている。これらの洋上風力発電所では、いずれも、ドルフィン式基礎構造が採用され、作業台船とクレーンを使用して防波堤内の陸側水域に施工されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、この他にモノパイル式基礎構造を採用して洋上風力発電施設を施工する方法も提案されている。この種の従来技術としては、例えば、杭運搬用SEPと基礎杭打ち用SEPとを洋上に固定し、両SEPに搭載されたクローラクレーンを用いてモノパイル式鋼管杭を吊り上げて基礎杭打ち用SEPに搭載された位置決め保持装置に保持固定した後、基礎杭打ち用SEPに搭載された杭打込み装置によりモノパイル式鋼管杭を所定深度まで貫入させる洋上風力発電施設の施工方法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】川崎重工業株式会社ウェブサイト(http://www.khi.co.jp/knews/backnumber/bn_2004/pdf/news134_05.pdf)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開20006−37397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来の基礎施工方法では、海底地盤に障害物がある場合には、基礎杭を所定の位置に施工することが難しく、特に、沿岸水域の海底にはテトラポット等の障害物が多いため、基礎杭の施工には非常に手間が掛かっており、工期の短縮化や施工コストの低減化が図り難いといった問題があった。
【0008】
また、上記した従来のドルフィン式基礎構造では、多数の杭を海上に精度良く打設する必要があるため、工期の短縮化や施工コストの低減化が図り難く、また、施工場所が防波堤内の陸側水域に限定されていた。
【0009】
さらに、上記した従来のドルフィン式基礎構造やモノパイル式基礎構造を採用した施工方法では、作業台船(又はSEP)を使用した海上作業となり、天候や海象の影響を受け易く、座礁等の危険性があると共に、波浪の影響を受け易いため、精度良く施工することが難しいといった問題があった。さらにまた、施工場所の水深が浅い場合には施工ができないといった問題や、大型クレーン船のリース料が高いため、施工コストの低減化が図り難いといった問題などもあった。
【0010】
本発明は、上記した各課題を解決すべくなされたものであり、工期の短縮化や施工コストの低減化が可能なモノパイル式基礎施工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明は、沿岸水域にモノパイル式基礎を構築するためのモノパイル式基礎施工方法であって、基礎杭打設空間が形成された導枠をクレーンにより吊り上げ、沿岸水域の所定位置に設置する工程と、前記クレーンを使用して前記導枠の基礎杭打設空間に基礎杭を建込み、打設する工程とを備え、前記基礎杭を打設する前に、下端に上下に振動可能且つ水平回転可能なヘッドを有する掘削装置を水平移動させながら前記基礎杭の打設範囲の海底地盤を繰り返し掘削し、攪拌すると共に、該海底地盤の障害物を破砕する工程を備えていることを特徴とする。
【0012】
そして、前記海底地盤の障害物を破砕する工程は、障害物撤去用導枠の中央に形成された掘削装置挿入空間上に渡設された位置決め鋼材によって前記掘削装置の位置決めを行った上で前記海底地盤の障害物を破砕する工程とを備えているのが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るモノパイル式基礎施工方法において、前記位置決め鋼材によって前記掘削装置の位置決めを行う際、前記掘削装置のケーシングを前記位置決め鋼材に係合し、前記掘削装置のヘッドの水平回転時に前記ケーシングの回転を拘束するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工期の短縮化や施工コストの低減化を図ることができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法において使用される仮導枠を示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法の一工程を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法において使用される障害物撤去導枠を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法において使用される障害物撤去導枠を示す側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法において使用される掘削装置を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法において使用される本導枠を示す平面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法において使用される仮導枠を示す平面図、図2は同モノパイル式基礎施工方法の一工程を示す側面図、図3は同モノパイル式基礎施工方法において使用される障害物撤去導枠を示す平面図、図4は同モノパイル式基礎施工方法において使用される障害物撤去導枠を示す側面図、図5は同モノパイル式基礎施工方法において使用される掘削装置を示す断面図、図6は同モノパイル式基礎施工方法において使用される本導枠を示す平面図、図7は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図、図8は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図、図9は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
なお、以下の説明では、本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法を洋上風力発電所の基礎工事に適用した場合について例示して説明する。
【0017】
先ず、準備作業として、陸上において仮導枠1の組立てを行う。この仮導枠1は、図1に示されているように、H鋼2を箱型に結合することにより形成されており、例えば、外径寸法が8.0m×8.0m×8.0mの立方体形状を成している。この仮導枠1の中央には直方体形状の基礎杭打設空間3が形成され、基礎杭打設空間3の周囲の四隅にはそれぞれ直方体形状の導杭打設空間4a,4b,4c,4dが形成されている。
【0018】
次に、図2に示すように、沿岸陸地に設置した第1のクローラクレーン5(例えば、450t)を使用して、この仮導枠1を吊り上げ、沿岸水域の海底の所定位置に設置する。この時、海底が平坦でない場合には、海底と仮導枠1との間にH鋼等を介装して仮導枠1が水平姿勢となるようにレベル調整する。そして、この仮導枠1を目安にして所要箇所(例えば、図1の黒丸部分)にH鋼(例えば、H−300)を海底に打込み、障害物の探査を行った後、第1のクローラクレーン5を使用して仮導枠1の導杭打設空間4a,4b,4c,4dにそれぞれ導杭6a,6b,6c,6d(例えば、φ800mmの鋼管)を建込み、油圧バイブロハンマ7で各導杭6a,6b,6c,6dを打設する。
【0019】
次に、沿岸陸地に設置した第2のクローラクレーン8(例えば、750t)を使用して、仮導枠1を吊り上げ、海底から撤去した後、導杭6a,6b,6c,6d上に障害物撤去用導枠9を設置する。
【0020】
図3及び図4に示すように、この障害物撤去用導枠9は、H鋼10を井桁状に結合することにより形成されており、例えば、外径平面寸法が7.9m×7.9m×7.9mの正方形状を成している。この障害物撤去用導枠9の中央には正方形状の掘削装置挿入空間11が形成され、掘削装置挿入空間11の周囲には足場板12が取り付けられ、さらに外周には作業員の落下防止用手摺13が取り付けられている。
【0021】
次に、この障害物撤去用導枠9の掘削装置挿入空間11上に複数の第1の位置決め鋼材14を所定の間隔で平行に渡設し、さらにこの第1の位置決め鋼材14に直交するように第2の位置決め鋼材21を渡設し、この第1の位置決め鋼材14と第2の位置決め鋼材21によって囲まれた矩形の空間内に掘削装置15を挿入する。
【0022】
図5に示されているように、この掘削装置15は、外周に設けられる円筒形状のケーシング22と、このケーシング22と同心にケーシング22内に設けられる円筒形状の内管23と、内管23を回転させる回転駆動装置(図示省略)と、内管23内を上下に往復運動するピストン24と、ピストン24により打撃されて上下動するハンマ25と、下端に設けられ、内管23の回転動に伴い水平回転すると共にハンマ25の上下動に伴い上下に振動するヘッド26とを備えて構成されており、ヘッド26の径は、打設する基礎杭16の径より小さい。
【0023】
また、この掘削装置15のケーシング22の外周部の径方向に対向する位置には、それぞれ突条部(図示省略)が突設されており、この突条部を第2の位置決め鋼材21に形成された溝部27(図3参照)に係合することにより、掘削装置15を掘削装置挿入空間11上に確実に位置決めできるようになっている。なお、この溝部27は、第2の位置決め鋼材21ではなく、第1の位置決め鋼材21に所定間隔で形成されていてもよい。
【0024】
上記したように、打設する基礎杭16の径がヘッド26の径より大きいため、掘削装置15を水平移動させながら、順次、掘削装置15の位置決めを行った上で、掘削装置15のヘッド26を上下に振動させると共に水平回転させ、基礎杭16の打設範囲の海底地盤を繰り返し掘削し、攪拌すると共に、該海底地盤の障害物を破砕し、1回目の施工を行う(図3及び図4の二点鎖線部分参照)。その後、前記間隔を保持しながら各第1の位置決め鋼材14の位置を平行にずらした上、前記1回目の施工と同様の手順で、2回目の施工を行い、基礎杭16を打設する範囲の海底地盤の攪拌及び障害物の破砕作業を行う。
【0025】
なお、この時、掘削装置15のケーシング22の外周部に形成された突条部が第2の位置決め鋼材21の溝部27に係合しているため、掘削装置15のヘッド26が水平回転した時に生じる反力によってケーシング22が回転するのを拘束することができる。したがって、海底地盤の攪拌作業及び障害物の破砕作業を円滑且つ確実に行うことができ、海底地盤の地耐力の増大及び海底地盤の均一化を図ることができる。
【0026】
なお、掘削装置15により掘削する範囲は、上記したように基礎杭16の打設範囲に限定されるものではなく、基礎杭16の打設に影響を与える可能性のある前記打設範囲の周囲の海底地盤まで拡げてもよく、これにより、安定した基礎杭を設置するための地盤を確保することができる。
【0027】
次に、図6に示すように、仮導枠1の各導杭打設空間4a,4b,4c,4dの上部を横切るように鋼材17(例えば、H−400)をそれぞれ掛け渡すと共に、基礎杭打設空間3に臨む部分の上部にガイドローラ18を取り付け、下部にガイド(図示省略)を取り付けることにより、仮導枠1を本導枠19に加工し直す。
【0028】
その後、図7に示すように、第2のクローラクレーン8を使用して、本導枠19を吊り上げ、導杭6a,6b,6c,6dの上に各鋼材17を載せ、振れ止め用専用金具で導杭6a,6b,6c,6dを各鋼材17に固定して、本導枠19を海底の所定位置に設置する。そして、図8に示すように、第2のクローラクレーン8を使用して、基礎杭16(例えば、φ3500mmの鋼管)を吊り上げ、本導枠19の中央の基礎杭打設空間3に建込む。
【0029】
次に、図9に示すように、第2のクローラクレーン8を使用して、基礎杭16にヤットコ20を載せ、さらにヤットコ20に第1の油圧ハンマ21を載せて、基礎杭16を打設する。その後、特に図示しないが、本導枠19を吊り上げ、海底から撤去すると共に、海側の2本の導杭6a,6bを引き抜く。なお、この時、陸側の2本の導杭6c,6dは、風力発電所の完成後にメンテナンスで使用する管理橋(図示せず)の基礎として利用するため、引き抜かずに残しておく。
【0030】
以降、特に図示しないが、第2のクローラクレーン8を使用して、打設した基礎杭16の上端部に接合管を被嵌した後、第1のクローラクレーン5を使用して、陸上で組立てた歩廊橋を基礎杭16に接続し、陸上と基礎杭16との間に掛け渡す。そして、この歩廊橋上にグラウトホースを配管し、陸上で錬り混ぜたグラウト(例えば、水中不分離性高流動無収縮モルタル)を前記接合管と基礎杭16との隙間に充填した後、陸上にコンクリートポンプ車を設置し、前記歩廊橋上に配設したコンクリート配管を介して、基礎杭16及び前記接合管の中に生コンを打設する。最後に、基礎杭16と陸側の2本の導杭6c,6dについて、電気防食を行い、モノパイル式基礎の施工を完了する。
【0031】
このように本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法によれば、仮導枠1や本導枠19を使用して導杭6a,6b,6c,6dや基礎杭16を打設しているため、導杭6a,6b,6c,6dや基礎杭16の打設時に個々に測量することなく、高精度の施工を効率的に行うことができる。また、基礎杭16を打設する前に、掘削装置15によって基礎杭16を打設する範囲の海底地盤の障害物を破砕や、海底地盤の攪拌を行っており、海底地盤の地耐力の増大と海底地盤の均一化を図ることができるため、基礎杭16を容易且つ精度良く所定位置に打設することができる。したがって、工期の短縮化を図ることができると共に、施工品質の向上を図ることができる。
【0032】
また、陸上に設置したクローラクレーンを使用して施工を行うことができるため、天候や海象の影響を受け難く、工程の管理が容易となり、工期の短縮化が可能となる。さらに、水深の浅い場所にも施工することができると共に、高価な大型クレーン船をリースする必要がないため、施工コストの低減化を図ることができる。
【0033】
なお、上記した実施の形態では、仮導枠1を使用して導杭6a,6b,6c,6dを打設した後、仮導枠1を本導枠19に加工し直した上で基礎杭16を打設しているが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、仮導枠1を使用せずに最初から本導枠19を使用して導杭6a,6b,6c,6dと基礎杭16を打設してもよい。
【0034】
また、仮導枠1や障害物撤去用導枠9や本導枠19の平面形状は上記した正方形に限定されるものではなく、例えば、三角形や六角形等の多角形、或いは円形とすることもできる。
【0035】
さらに、上記した実施の形態では、本発明を洋上風力発電所の基礎工事に適用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、本発明は他の構造物の基礎工事に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 仮導枠
3 基礎杭打設空間
5 クレーン
8 クレーン
9 障害物撤去用導枠
11 掘削装置挿入空間
14 第1の位置決め鋼材
15 掘削装置
16 基礎杭
19 本導枠
21 第2の位置決め鋼材
22 ケーシング
26 ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沿岸水域にモノパイル式基礎を構築するためのモノパイル式基礎施工方法であって、
基礎杭打設空間が形成された導枠をクレーンにより吊り上げ、沿岸水域の所定位置に設置する工程と、
前記クレーンを使用して前記導枠の基礎杭打設空間に基礎杭を建込み、打設する工程と、
を備え、
前記基礎杭を打設する前に、下端に上下に振動可能且つ水平回転可能なヘッドを有する掘削装置を水平移動させながら前記基礎杭の打設範囲の海底地盤を繰り返し掘削し、攪拌すると共に、該海底地盤の障害物を破砕する工程を備えていることを特徴とするモノパイル式基礎施工方法。
【請求項2】
前記海底地盤の障害物を破砕する工程は、障害物撤去用導枠に形成された掘削装置挿入空間上に渡設された位置決め鋼材によって前記掘削装置の位置決めを行った上で前記海底地盤の障害物を破砕する工程とを備えている請求項1に記載のモノパイル式基礎施工方法。
【請求項3】
前記位置決め鋼材によって前記掘削装置の位置決めを行う際、前記掘削装置のケーシングを前記位置決め鋼材に係合し、前記掘削装置のヘッドの水平回転時に前記ケーシングの回転を拘束する請求項2に記載のモノパイル式基礎施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−149181(P2011−149181A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10518(P2010−10518)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(592091529)東光電気工事株式会社 (10)
【Fターム(参考)】