説明

モーション習得システムおよびその制御方法

【課題】未知の実環境との安定した接触動作を確立すると共に、人間の指のようなモーションを個々に抽出,保存,再現できるようにする。
【解決手段】ロバスト性を保ちつつ制御剛性をゼロにする加速度制御を、外乱オブザーバにより各ロボットシステムのアクチュエータ1に行なう。アクチュエータ1の外乱加速度θ・・extと加速度応答θ・・resとを、モード加速度変換手段27,28によりモードクオリー行列を用いて直交座標系の非干渉モードにおける加速度外乱m・・extや加速度応答値m・・resに変換する。そして、これらの加速度外乱m・・extや加速度応答値m・・resを基に、非干渉モードの各々に対応した対象物47に対するモーションを抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熟練者などのモーションの抽出,保存,再現を可能にするモーション習得システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットによる低侵襲性外科医療や熟練者のスキル保存といった人間の高度な作業支援のための技術の確立が求められている。こうした要求に対し、画像情報に基づいて人間のスキルを抽出する研究が数多く行なわれているが、環境との接触動作を繰り返し行なうようなタスク(人間の作業内容)の抽出と再現は、力制御に基づく動作が必要であるため困難な状況となっている。
【0003】
例えば特許文献1には、ワークである皿内面に対しての筆記動作に関する筆記情報とワーク情報を、マスター機構部によって認識すると、コントローラーがスレーブ機構のロボットアームとスレーブ側皿を動作制御して、前記筆記動作を再現させるシステムが開示されている。しかし、これも前記画像情報と同じく、位置情報だけでモーションの抽出と再現を行なおうとしているので、環境との接触・被接触の繰り返し動作を再現することが難しい。
【特許文献1】特開2006−62052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした問題に対し、他の技術として、仮想環境下で再現を行なうものや、位置と力のハイブリッド制御を用いたものなどが提案されている。しかしながら、現状では人間の動作やタスク内容に応じて再現を行なうような満足のいく力制御系が計装されてはおらず、実現は必ずしも容易ではない。その理由として、力覚情報は本来「作用・反作用の法則」に支配される双方向的情報であるにもかかわらず、現状の力制御系は単方向(Unilateral)性であり、双方向(Bilateral)性情報を取り扱う基本的な手法を欠いているからであると考えられる。また、ロボットに人間のような器用な動作を実現させるためには、多自由度システムの効率的な統合モーションが強く望まれていた。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、未知の実環境との安定した接触動作を確立すると共に、例えば人間の指のようなモーションを個々に抽出することができるモーション習得システムの制御方法およびその装置を提供することにある。
【0006】
また、本発明の別な目的は、前記抽出したモーションを保存できるモーション習得システムの制御方法およびその装置を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の別な目的は、多自由度システムの効率的な統合モーションを実現して、位置と力のハイブリッドモーションの再現を行なうことができるモーション習得システムの制御方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、ロバスト性を保ちつつ制御剛性をゼロにする加速度制御を、実空間の動作自由度に対応して配置した複数のロボットシステムの各アクチュエータに行なう第1のステップと、前記各アクチュエータへの外力の等価加速度と当該各アクチュエータの加速度応答とを、モードクオリー行列を用いて直交座標系で定義される各々が独立した非干渉モードの外力の等価加速度と加速度応答に変換する第2のステップと、前記第2のステップで得た非干渉モードにおける外力の等価加速度と加速度応答とに基づいて、前記非干渉モードの各々に対応した対象物に対するモーションを抽出する第3のステップと、からなる。
【0009】
上記制御方法においては、前記ロボットシステムがマスターシステムとスレーブシステムとにより構成され、前記第1のステップで、前記マスターシステムと前記スレーブシステムの各アクチュエータを、前記加速度制御に基づくバイラテラル制御により制御することが好ましい。
【0010】
また、前記非干渉モードに変換した加速度情報を保存する第4のステップをさらに含むことが好ましい。
【0011】
また、前記各非干渉モード毎に、当該非干渉モードにおける外力の等価加速度に対する加速度応答の比を決定し、前記第4のステップで保存した加速度情報に基づく加速度目標値と、前記第2のステップで得た非干渉モードにおける外力の等価加速度または加速度応答との偏差を入力として、前記比に基づき設定した前記非干渉モードにおける加速度制御系からその加速度参照値を算出する第5のステップと、前記モードクオリー行列の逆行列を用いて、前記非干渉モードにおける加速度参照値を各ロボットシステムへの加速度参照値に変換する第6のステップと、をさらに含むことが好ましい。
【0012】
また、前記アクチュエータがリニアアクチュエータであることが好ましい。
【0013】
本発明におけるモーション習得システムは、ロバスト性を保ちつつ制御剛性をゼロにする加速度制御を、実空間の動作自由度に対応して配置した複数のロボットシステムの各アクチュエータに行なう加速度制御手段と、前記各アクチュエータへの外力の等価加速度と当該各アクチュエータの加速度応答とを、モードクオリー行列を用いて直交座標系で定義される各々が独立した非干渉モードの等価加速度と加速度応答に変換するモード加速度変換手段と、前記モード加速度変換手段で得た非干渉モードにおける等価加速度と加速度応答とに基づいて、前記非干渉モードの各々に対応した対象物に対するモーションを抽出するモーション抽出手段と、を備えている。
【0014】
上記システムにおいては、前記ロボットシステムがマスターシステムとスレーブシステムとにより構成され、前記加速度制御手段は、前記マスターシステムと前記スレーブシステムの各アクチュエータを、前記加速度制御に基づくバイラテラル制御により制御するものであることが好ましい。
【0015】
また、前記非干渉モードに変換した加速度情報を保存する記憶手段をさらに備えることが好ましい。
【0016】
また、前記各非干渉モード毎に、当該非干渉モードにおける外力の等価加速度に対する加速度応答の比を決定し、前記記憶手段に保存される加速度情報に基づく加速度目標値と、前記モード加速度変換手段で得た非干渉モードにおける外力の等価加速度または加速度応答との偏差を入力として、前記比に基づき設定した前記非干渉モードにおける加速度制御系からその加速度参照値を算出するモード加速度算出手段と、前記モードクオリー行列の逆行列を用いて、前記非干渉モードにおける加速度参照値を各ロボットシステムへの加速度参照値に変換するモード加速度逆変換手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0017】
また、前記アクチュエータがリニアアクチュエータであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記請求項1の方法および請求項6のシステムによれば、複数のロボットシステムの各アクチュエータに対して、ロバスト性を失うことなく制御剛性をゼロにする加速度制御が行なわれるので、環境との接触を伴う動作が実現できる。また、モードクオリー行列を用いて、人間の動作やタスクに基づく直交座標系の非干渉モードを新たに定義し、そこで各々が独立したモーションを抽出することが可能であるため、例えば人間の指に対応したモーションの抽出が容易になる。したがって、未知の実環境との安定した接触動作を確立すると共に、例えば人間の指のようなモーションを個々に抽出することができる。
【0019】
上記請求項2の方法および請求項7のシステムによれば、モーション抽出に際して特に重要な環境からの反作用力の抽出が可能になる。
【0020】
上記請求項3の方法および請求項8のシステムによれば、抽出したモーションを保存して、例えば非干渉モードに変換した加速度情報を別な場所で読み出すことが可能になる。
【0021】
上記請求項4の方法および請求項9のシステムによれば、先に抽出し保存した非干渉モードに変換した加速度情報を基に、同一若しくは別なロボットシステムで再現することができ、モーションの再現性が確保される。特に、非干渉モード毎に加速度次元で制御系を構成しているので、位置情報と力情報の統合が可能になっており、非干渉モードにおける外力の等価加速度に対する加速度応答の比を1または0に設定すれば、個々の非干渉モード毎に位置次元若しくは力次元での再現が可能になり、それを実空間でのロボットシステムのモーションに反映させることができる。そのため、多自由度システムの効率的な統合モーションを実現して、位置と力のハイブリッドモーションの再現を行なうことができる。
【0022】
上記請求項5の方法および請求項10のシステムによれば、直線駆動を行なうリニアアクチュエータにより、摩擦の影響を機構的に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明における好適な各実施例を詳細に説明する。
【0024】
図1〜図10は、本発明の第1実施例を示すものである。先ず図1に基づき、本発明のモーション習得システムに適用可能な、モーションコントロールにおける加速度制御を実現したロボットシステムの一例を説明する。
【0025】
同図において、1は外乱トルクを推定する対象として設けられ、エネルギーを動力に変換する可動可能なアクチュエータであり、これはリニアモータなどの駆動源に電流値iを入力することにより、実際の位置θに動作するものである。アクチュエータ1には、実際の位置θを電気的な位置信号に変換して検出出力するために、例えばリニアエンコーダなどの位置センサ2が装着される。
【0026】
一方、アクチュエータ1を制御する位置情報型の外乱オブザーバ11は、前記アクチュエータ1への指令値である電流値iを入力すると共に、位置θを擬似微分器12で擬似微分した値、即ち応答速度値^θ(以下、数式以外では、この推定値をあらわす「^」を、対応する記号の前に併記すると共に、1階の微分を「」,2階の微分を「・・」として便宜上あらわし、対応する記号の後に併記する。)を入力して、これらの各値から外乱トルクの推定値を出力するもので、実際には擬似微分器12と共に、コンピュータのソフトウェアなどで構成される。擬似微分器12は、前記位置信号を速度信号に変換するもので、位置θに対し擬似微分を施すことで、ノイズに対する感度を抑制した変換出力を得ることができる。外乱オブザーバ11は、前記アクチュエータ1と等価的な逆モデルが組み込まれ、前記電流iをトルク(力)単位の第1信号に変換し、この第1信号と前記擬似微分器12からの応答速度^θを微分して得た第2信号とを比較した第3信号を出力する逆モデル部14と、この逆モデル部14での微分の際にカットオフ周波数を設定することにより形成され、前記逆モデル部14から低周波帯域の成分の第3信号を取り出し、これを外乱トルクの推定値^τdisとして出力するローパスフィルタ15と、により構成される。また16は、前記外乱トルクの推定値^τdisを、目標となる電流参照値Irefと同じ単位の推定電流値Icmpに逆変換するトルク−電流変換手段であり、この推定電流値Icmpと電流参照値Irefとを加算器17で加算することで、アクチュエータ1に入力する前記電流値(電流指令値)iを算出するようにしている。これにより、図1の各構成からなる装置では、外部からアクチュエータ1に加わる外乱トルクτdisを除去することができる。なお、アクチュエータ1は位置信号を出力するものなので、便宜上2段の積分器(1/s)を通して、アクチュエータ1の出力(加速度θ・・を2回積分して、実際の位置θを出力)としている。
【0027】
図1に示すロボットシステムは、モータに作用する各種外乱の影響を、外乱オブザーバ11で除去することにより、ロバストな加速度制御系を構築している。モータに作用する外乱トルクτdisは、次の数1であらわされる。
【0028】
【数1】

ここで、図1および上記数1に記載されている各記号を説明すると、Irefは電流参照値であり、Jはモータ慣性であり、Kはトルク定数であり、θはモータ位置であり、記号の後にある添え字は公称(ノミナル)値を意味する。また、上記数1の右辺第1項は慣性変動トルク,第2項はトルク定数の変動によるトルクリプル,第3項のFはクーロン摩擦トルク,第4項のDθは粘性摩擦トルク,第5項のτextは外力をあらわしている。
【0029】
前記電流参照値Irefとモータ速度θが、遮断周波数gpdを有する擬似微分器12によって検出可能であるとき、数1で定義される外乱トルクτdisは、図1に示す外乱オブザーバ11により、一次のローパスフィルタ15を通して次のように推定される。
【0030】
【数2】

但し、上記数2において、g*disは次のように表わせる。
【0031】
【数3】

この外乱トルクの推定値^τdisを、トルク−電流変換手段16で推定電流値Icmpに変換してフィードバックすることにより、外乱に対してロバストな制御系を有するロボットシステムを構築することができる。
【0032】
図2は、図1に示すロボットシステムを等価的に表わしたものである。図1におけるロボットシステムは、図2のブロック21内に示された数式の感度関数により影響を受ける。つまり外乱オブザーバ11は、ロボットシステムに加わる外力のみを推定することが可能になる。なお22は、加速度参照値θ・・refと推定した外乱トルクとの差が、加速度応答値θ・・として出力されることを等価的に表わした減算器である。
【0033】
図2に示すように、上記外乱オブザーバ11に基づくロバスト制御系は、加速度次元でアクチュエータ1のモータを制御する加速度制御系になることがわかる。この図2において、外乱オブザーバ11の遮断周波数gdisを大きく設定することで、外乱トルクτdisの影響が除去されることがわかる。これによって、アクチュエータ1を構成するモータに対するロバスト加速度制御系が実現できる。
【0034】
ここで、本発明におけるモーションの抽出,保存,再現(これらを纏めて、「習得」という)システムにおいて、加速度制御系のロボットシステムを採用する理由を説明する。モーションコントロールの設計指標となるシステムの制御剛性について、アクチュエータ1の駆動力をfとし、位置をxとすると、当該制御剛性κは次のように定義できる。
【0035】
【数4】

上記数4によれば、位置制御と力制御の関係は次のように理解できる。
【0036】
【数5】

理想的な位置制御では、位置xの変位が0になるため、制御剛性κは無限大となり、力fが有限値ならいくらでも良い、すなわち力fが不定になる。逆に理想的な力制御では、力fの変位が0になるため、制御剛性κは0となり、位置xが不定になる。
【0037】
ヒューマンインタラクションのためのモーションコントロールでは、制御剛性κが0の柔らかい制御が望まれる。ロバスト性を失わずに制御剛性κを0にするには、アクチュエータ1に対する位置制御ループを外し、外乱オブザーバ11により定められた等価外乱をキャンセルする手法が広く知られている。この結果、本発明で採用するロボットシステムは、必然的に所望の加速度が実現される加速度制御系のものになる。
【0038】
次に、上記加速度制御系のロボットシステムを利用したモーション抽出の手法について説明する。ここでは、人間の多自由度モーションを抽出するためのロボットシステム群の統合的な制御手法として、インタラクションモード制御を導入する。このインタラクションモード制御では、従来の個々のシステムに対して制御系を構成する手法と異なり、ロボットシステム間の干渉のみを考慮し、非干渉化されたモード空間で制御系の構成を行なう。このロボットシステム間におけるモードは、後述するモードクオリー行列の導入により抽出することが可能である。
【0039】
また、ロボット群で達成すべきタスクを記述するためのタスクコードとして、ハイブリッド比という新たな制御指標を導入する。インタラクションモード制御では、全ての情報が加速度ベースで相互にやり取りされるため、それぞれのモード空間にハイブリッド比を任意に決定することで、直感的でフレキシブルな分散システム設計が可能になる。
【0040】
ハイブリッド比の概念について説明すると、先ず、図1に示すような外乱オブザーバ11によって、ロボットシステムのロバスト性が確保されている場合、当該システムは図3に示すような加速度制御系に等価的に変換される。図3では、ロボットシステムへの入力は加速度参照値θ・・refと他のロボットシステムからの加速度外乱θ・・extとなり、その偏差を減算器22が加速度応答値θ・・として出力するように等価的に構成される。理想的な位置制御では、外力の影響を完全に抑圧するため、加速度参照値θ・・refと加速度応答値θ・・を等しい値に制御することが可能である。一方、理想的な力覚フィードバック制御(力制御)では、外力がシステムへ入力される指令値となるため、加速度外乱θ・・extと加速度応答値θ・・が等しくなる。ここで、加速度制御系における制御系設計の指標として導入されるハイブリッド比HRは、以下のように他システムによる加速度外乱θ・・extが、加速度応答値θ・・に及ぼす影響の割合として定義される。
【0041】
【数6】

上記式によれば、理想的な位置制御ではハイブリッド比HRが0になり、理想的な力覚フィードバック制御ではハイブリッド比HRが1になる。提案するハイブリッド比HRと前記制御剛性κとの関係は、次の表1のようになる。
【0042】
【表1】

次に、モードクオリー行列について説明すると、インタラクションモード制御は、複数のロボットシステム間の干渉についてのみ、制御を行なうものであるため、本実施例ではモードクオリー行列を用いて、直交座標系で定義される非干渉モードを抽出する。パラメータ変換手段であるモードクオリー行列を用いることにより、ロボットシステムの物理パラメータを、コンピュータ内で処理される仮想モード空間でのパラメータに変換することができる。モードクオリー行列Q(n=1〜5)は、例えば以下のように定義される。
【0043】
【数7】

上記モードクオリー行列Qの次数はロボットシステム群で実現できるタスク自由度の数に一致する。そのため、例えば人間の指のモーションに対応した数のロボットシステムを用意した場合には、そのロボットシステムの数に一致した次数でモードクオリー行列Qが決定される。また、モードクオリー行列Qの性質として、当該モードクオリー行列Qとその転置行列の積は直交行列になるため、直交性を有することが確認できる。従って、個々のロボットごとに制御系を設計するのではなく、モードクオリー行列Qにより非干渉化された仮想の直交モード上で制御系を設計し、モードクオリー行列Qの逆行列である逆モードクオリー行列Q−1により、多自由度に構成される各ロボットシステムにおいて、加速度参照値θ・・refを統合することが可能になる。
【0044】
図4は、インタラクションモード制御の一般構造を示すブロック線図で、ここでは、モーション習得システムとして実現したインタラクションモード制御によるロボットシステム群の分散制御設計を表している。同図において、θ・・はロボットシステムの関節座標系における加速度を示す。また関節空間において、最初の添え字A〜Nは、各ロボットシステムの識別子をアルファベット順に表わし、2番目の添え字1〜Nは、各々のロボットシステム中におけるアクチュエータ1の識別子を数字順に表している。また、作業空間における添え字A〜Nは、各ロボットシステムの識別子に対応して付けられたものである。
【0045】
図4において、一般的な関節動作を行なうN個のロボットシステムは、各々が一乃至複数のアクチュエータ1を備えて、実空間である関節空間に配置される。また、ここには図示していないが、それぞれのアクチュエータ1は、前記図3に示すようなロバスト加速度制御系を実現するために、擬似微分器12やトルク−電流変換手段16を含む外乱オブザーバ11が設けられる。また、各アクチュエータ1の加速度応答値θ・・resと他のロボットシステムからの加速度外乱θ・・extは、加速度変換手段25,26により、ヤコビ行列を用いて作業空間における加速度x・・に変換できるようになっている。ここで、第1の加速度変換手段25は、一つのロボットシステムを構成する各アクチュエータ1への加速度外乱θ・・extを取り込んで、作業空間における加速度外乱x・・extに変換する。また別な第2の加速度変換手段26は、一つのロボットシステムを構成する各アクチュエータ1からの加速度応答値θ・・resを取り込んで、作業空間における加速度応答値x・・resに変換する。好ましくは、前記加速度外乱θ・・extを、擬似微分器12を含む外乱オブザーバ11で推定して得ることにより、各アクチュエータ1において力覚センサレスを実現して、システム構成を簡素化することができる。また、アクチュエータ1からの加速度応答値θ・・resも、前述した位置センサ2からの検出信号を、微分器(図示せず)で2回微分するなどして取得することができる。
【0046】
27,28は、前述したモードクオリー行列Qを記憶保存するモード加速度変換手段である。当該モード加速度変換手段27,28は、前記加速度変換手段25,26により得られた加速度応答値x・・refを受けて、作業空間におけるロボットシステム群の干渉を抽出し、内蔵するモードクオリー行列Qを利用して、直交モード空間における非干渉な加速度m・・に変換し出力するものである。具体的には、第1のモード加速度変換手段27は、第1の加速度変換手段25でそれぞれ得た作業空間における加速度外乱x・・extを、モード空間における加速度外乱m・・extに変換する。また、第2のモード加速度変換手段28は、第2の加速度変換手段26でそれぞれ得た作業空間における加速度応答値x・・resを、モード空間における加速度応答値m・・resに変換する。こうして得られたモード空間の加速度外乱m・・extや加速度応答値m・・resは、ロボットシステムの数に対応した複数の独立したモードの加速度情報として、後述するインタラクションモード制御部31に出力されると共に、好ましくはコンピュータの記憶手段30に記憶保存される。
【0047】
31は、モード空間における加速度外乱m・・ext,加速度応答値m・・res,加速度目標値m・・cmd,およびタスクコードを入力として、モード空間でのモーションの抽出やロボットシステムによるモーションの再現を行なえるように、個々のモード空間における加速度参照値m・・refを生成するインタラクションモード制御部である。また32は、コンピュータ内で設定されるタスクコマンドを受けて、前述した外力の等価加速度と加速度応答との比を定義する所望のハイブリッド比HRを、インタラクションモード制御部31が設定した個々のモード空間毎に決定し、これをタスクコードとしてインタラクションモード制御部31に出力するハイブリッド比決定手段である。ハイブリッド比決定手段32は、例えば図示しない操作手段により、後述する「抽出モード」を選択した旨のタスクコマンドを受けると、実際のロボットシステムの構成を考慮したハイブリット比を決定し、後述する「再現モード」を選択した旨のタスクコマンドを受けると、前記モードクオリー行列Qで規定される所望のモード空間に対応したハイブリッド比を決定して、その何れかのハイブリッド比に対応したタスクコードを生成するようになっている。
【0048】
さらに33は、インタラクションモード制御部31で得られた各モードの加速度参照値m・・refを、作業空間における加速度参照値x・・refに逆変換する逆モードクオリー行列Q−1を備えたモード加速度逆変換手段である。このモード加速度逆変換手段33で得られた作業空間における加速度参照値x・・refは、ロボットシステムの数に対応して設けた逆ヤコビ行列を有する加速度逆変換手段34によって、関節空間における加速度参照値θ・・refに逆変換され、各アクチュエータ1に出力される。これにより、インタラクションモード制御部31から出力される各モードの加速度参照値m・・refに基づいて、実空間に配置した各ロボットシステムでモーションを再現させることが可能になる。
【0049】
なお、アクチュエータ1を除く各部の構成は、何れもコンピュータの処理手段として設けられる。したがって、図4に示す各ブロック構成は、理解を容易にするために機能的に区画されたに過ぎず、処理手段に同等の機能を備えてあれば、全て本発明の範疇に含まれる。
【0050】
上述した各構成において、モード加速度変換手段27,28で変換されたモード空間の加速度m・・は、モードクオリー行列Qの性質として直交座標系で表現されるため、それぞれのモード空間で独立な制御系の設計が可能となる。即ち、所望のタスクに応じたハイブリッド比HRをモード空間ごとに実現することができるため、各モードのハイブリッド比HRをまとめたものを、前記ハイブリッド比決定手段32でタスクコードとして対応付けることができる。個々のモード空間で生成される加速度参照値m・・refは、モード加速度逆変換手段33に用意された逆モードクオリー行列Q−1により、各ロボットシステムの加速度参照値θ・・refとして統合され実現される。従って、ここでのインタラクションモード制御部31によるインタラクションモード制御は、ヤコビ行列を用いたロボットの運動学と同様に、モードクオリー行列Qによる新たな直交モード座標変換手法として、ロボットシステム群のモーション統合を実現できる。
【0051】
次に、上記インタラクションモード制御に基づき、人間の物体把持モーションの抽出と再現を行なう各手法について説明する。操作物を人間の指とした場合、モードクオリー行列Qの次数は、再現可能な人間の指の本数に対応するため、独立したモード空間において、容易に人間のスキルドモーションの取得および解析を行なうことができる。ここでは、前記モード空間に人間のモーション情報を抽出し、保存するための「抽出モード」と、前記保存情報とタスクコードに基づいてモーションの再現を行なう「再現モード」について、その一連の動作を説明する。
【0052】
図5は、図4に示す装置構成を実現する実験装置の一例である。ここでの実験装置は、インタラクションモード制御を3体のリニアモータシステムに適用する。したがって、人間の親指,人差し指,中指の3本の指に対応したモーションの抽出と再現が可能になる。図5の実験装置では、実空間に配置される3つの各ロボットシステムA,B,Cに、摩擦の影響を機構的に除去することが可能なロッド型のリニアアクチュエータを採用する。これは、基台42に対して水平方向に可動可能なロッド状の可動部43を備えたリニアモータ44として配設される。また、46は前記位置センサ2に相当するリニアエンコーダである。なお、各アクチュエータの詳細パラメータは、次の表2のように設定した。実験でのサンプリングタイムは、100μsに設定している。
【0053】
【表2】

図5において、47は各ロボットシステムA,B,Cの可動部43先端に支持された対象物である。ここでは、ロボットシステムA,B,Cを3本の指に見立てて、ロボットシステムAの各可動部43と、ロボットシステムB,Cの可動部43で、対象物47を両側から把持している。
【0054】
このように構成されたシステムは3自由度を有するために、それぞれのアクチュエータの加速度応答値x・・refと加速度外乱x・・extは、モード加速度変換手段27,28の3次のモードクオリー行列Qを用いて、次の数8や数9に示すモード座標上の加速度応答値m・・resと加速度外乱m・・extに変換できる。
【0055】
【数8】

【0056】
【数9】

ここで、x・・(i=A〜C)は、それぞれのロボットシステムA〜Cにおける加速度を示し、m・・(i=1〜3)は、モード空間における加速度をあらわす。図6に示すように、上記モードクオリー行列Qを用いて、ロボットシステムA〜Cにおける加速度x・・res,x・・extを、それぞれモード空間における加速度m・・res,m・・extに変換することで、第1モードである重心位置(center of gravity:COG),第2モードであるヨーイング,第3モードである内部の独立した3個のモードに変換できる。このようなモードに変換した理由は、人間の3指を考えた場合、そのモーションは、対象物47の重心を動かすアクチュエータ,対象物47を遥動回転するアクチュエータ,および対象物47を把持するアクチュエータの独立した3モードに分解できることに基づいている。操作物が物体把持タスクである場合、個々のモードは、移動タスク,回転タスク,把持タスクに対応することになる。したがって、モード空間で定義される仮想のアクチュエータ(タスク)は、考慮すべき操作物に応じて、上記COG,ヨーイング,内部動作以外のものを設定してもよく、その場合、コンピュータ内で設定される独立したモードは2つ以上あればよい。
【0057】
抽出モードと再現モードの切り換えは、ハイブリッド比を統合したタスクコードにより実現することができる。すなわち、タスクコマンドにより、抽出モードと再現モードの何れか一方を指示すると、ハイブリッド比決定手段32はそれぞれのモード毎に異なる値のハイブリッド比を、統合したタスクコードとしてインタラクションモード制御部31に出力するようになっている。上記3体のロボットシステムA〜Cのタスクコードは以下のように定義できる。
【0058】
【数10】

図7は、インタラクションモード制御に基づく人間の物体把持モーションの抽出および再現制御を実現するモーション習得システムのブロック線図を示しており、前記図4と同一箇所には同一の符号を付記している。ここで用いる実験装置は、ロボットシステムA〜Cの駆動源として、それぞれリニアモータを用いた1自由度のシステムであるため、図4で示した作業空間と関節空間が等しいものとなっている。したがって、このようなシステムでは、図4に示すような加速度変換手段25,26や加速度逆変換手段34は不要であり、関節空間に設置した各ロボットシステムA〜Cの加速度外乱x・・extが、第1のモード加速度変換手段27に直接入力され、各ロボットシステムA〜Cの加速度応答値x・・resが、第2のモード加速度変換手段28に直接入力される。また、モード空間において生成される加速度参照値m・・refは、モード加速度逆変換手段33により逆モードクオリー行列Q−1を利用して関節空間における加速度参照値x・・refに変換され、各ロボットシステムA〜Cのアクチュエータ1へ分配,統合される。
【0059】
さらに、この図7において、51はハイブリッド比決定手段32で決定されるハイブリッド比ひいてはタスクコードに応じて、モード加速度変換手段27,28で変換されたモード空間の加速度参照値m・・refまたは加速度外乱m・・extのいずれか一方を、モード空間の各単位毎にインタラクションモード制御部31に送り出すタスクコード選択手段である。インタラクションモード制御部31は、各モード空間毎の加速度目標値m・・cmdから、加速度参照値m・・refまたは加速度外乱m・・extのいずれか一方を減算する減算器52A〜52Cと、前記各モード空間毎に得られた減算器52A〜52Cの算出結果に、内蔵する伝達要素C(s)〜C(s)を乗算して、モード空間における加速度参照値m・・refを算出する積算手段53A〜53Cと、を備えている。
【0060】
上記構成において、抽出モードでは3体のロボットシステムA〜Cが人間の操作入力に従って動作を行なうため、人間からの反作用力を制御する必要がある。そのため、抽出モードを選択した旨のタスクコマンドをハイブリッド比決定手段32に出力すると、当該ハイブリッド比決定手段32は、前述した3つの非干渉モードにおいて、それぞれのハイブリッド比HRを理想的な力制御とする1に設定する。このときのタスクコードは以下のようになる。
【0061】
【数11】

また、上記数11で表わされるタスクコードを実現するために、モード空間における制御系の各伝達要素C(s)(i=1〜3)を、以下のような力サーボとして構成設定する。なお、ここでKfi(i=1〜3)は力サーボゲインである。
【0062】
【数12】

それと共に、ハイブリッド比決定手段32は、各モードのハイブリッド比HRが何れも1であることから、第1のモード加速度変換手段27で変換された各モードの加速度外乱m・・ext,m・・ext,m・・extが、インタラクションモード制御部31に入力されるように、タスクコード選択手段51を制御する。抽出モードでは、各モード空間毎の加速度目標値m・・cmd,m・・cmd,m・・cmdが0であることから、インタラクションモード制御部31は、前記各モードの加速度外乱m・・ext,m・・ext,m・・extと、数12で記述された力サーボのゲインとを掛け合わせて、モード空間における加速度参照値m・・ref,m・・ref,m・・refを算出する。この加速度参照値m・・ref,m・・ref,m・・refは、モード加速度逆変換手段33における逆モードクオリー行列Q−1によって、関節空間における加速度参照値x・・refに逆変換され、各アクチュエータ1に分配される。各アクチュエータ1の加速度参照値は、前記外乱オブザーバに基づくロバスト制御系により実現される。
【0063】
図8は、抽出モードでの実験結果を示したものである。人間が親指,人差し指,中指の3本の指を用いて、3体のロボットシステムA〜Cに力を加えて操作し、物体(対象物)を把持しながら搬送動作を行っている。このときの各ロボットシステムA〜Cにおける時間−位置の特性を、図8(a)〜(c)に示す。また、モードクオリー行列Qを用いて変換されたモード空間における時間−位置応答の特性を、図8(d)〜(f)に示す。なお、モード1は重心位置(COG),モード2はヨーイング,モード3は内部の各動作を意味する。モード空間における実験結果より、先にモード1の位置応答が大きく変位し、次にモード2の位置応答が大きく変位していることから、人間がまずCOG動作を行ない、続いてヨーイング動作を行っていることが確認できる。また,全てのモードにおいてハイブリッド比HRは1に設定されているため、人間の力覚フィードバック制御が実現され、モード空間におけるモーションが抽出できる。
【0064】
また、この抽出モードでは、モード加速度変換手段27,28で得られたモード空間の加速度情報である加速度外乱m・・extや加速度応答値m・・resを、記憶手段30に記憶保存することができる。これにより、モード空間で抽出したモーションを加速度次元で記憶保存することができる。なお記憶手段30は、前記加速度外乱m・・extや加速度応答値m・・resと、ハイブリッド決定手段32で決定されるハイブリッド比HRとに基づいて、インタラクションモード制御部31で得られる個々のモード空間における位置応答や力応答を、非干渉モードに変換した加速度情報として保存するようにしてもよい。
【0065】
一方、再現モードでは、各ロボットシステムA〜Cが自動的に物体を把持しながら、抽出モードで抽出したモーションを記憶手段30から読み出して、これを各ロボットシステムA〜Cで再現することができる。ここでは、再現モードを選択した旨のタスクコマンドをハイブリッド比決定手段32に出力すると、当該ハイブリッド比決定手段32は、前述した3つの非干渉モードにおいて、モード1とモード2に対するハイブリッド比HRを0とし、モード3に対するハイブリッド比HRを1に設定する。その理由は、モード1の重心モードとモード2のヨーイングモードに関しては、位置次元の再現を行ない、モード3の内部モードに関しては、力次元の再現を行なう必要があるからである。このときのタスクコードは以下のようになる。
【0066】
【数13】

また、上記数13で表わされるタスクコードを実現するために、モード空間における加速度制御系の各伝達要素C(s)(i=1〜3)を、以下のように設定する。
【0067】
【数14】

なお、上記数14でKpi(i=1,2)は位置制御ゲインであり、Kvi(i=1,2)は速度制御ゲインである。また、Kf3は内力制御モードにおける力サーボゲインである。
【0068】
それと共に、ハイブリッド比決定手段32は、モード1,2のハイブリッド比HRが共に0で、モード3のハイブリッド比HRが1であることから、第2のモード加速度変換手段28で変換されたモード1,2の加速度応答値m・・res,m・・resと、第1のモード加速度変換手段27で変換されたモード3の加速度応答値m・・extが、インタラクションモード制御部31の減算器52A〜52Cに各々入力されるように、タスクコード選択手段51を制御する。再現モードでは、記憶手段30で保存記憶される加速度情報から得たモード空間毎の加速度目標値m・・cmd,m・・cmd,m・・cmdが、インタラクションモード制御部31の減算器52A〜52Cに各々入力され、インタラクションモード制御部31は、各減算器52A〜52Cからの算出結果を、前記数14で記述された伝達要素C(s)(i=1〜3)とそれぞれ掛け合わせて、モード空間における加速度参照値m・・ref,m・・ref,m・・refを算出する。この加速度参照値m・・ref,m・・ref,m・・refは、モード加速度逆変換手段33における逆モードクオリー行列Q−1によって、関節空間における加速度参照値x・・refに逆変換され、各アクチュエータ1に分配される。各アクチュエータ1の加速度参照値は、前記外乱オブザーバに基づくロバスト制御系により実現される。
【0069】
本実施例で提案した手法の有効性を確認するために、従来の位置制御による再現実験と、インタラクションモード制御による再現実験との比較を行った。従来の位置制御による再現結果を図9に示す。図9(a)〜(c)は、各ロボットシステムA〜Cにおける時間−位置の特性を示しており、図9(d)〜(f)は、モードクオリー行列によって得られたモード空間における時間−位置応答の特性を示している。さらに図9(g)は、内力モードの時間−力応答を示している。これらの結果より、位置応答に関しては、各ロボットシステムA〜Cにおける位置サーボによって、再現誤差はほぼ0になっていることが分かる。しかし、内力の値に関しては不定であるため、把持モーションの再現に関しては保証がされていない(図9(g)参照)。そのため、従来の位置制御のみでは人間のモーションを再現することができない。
【0070】
一方、提案するインタラクションモード制御による再現結果を図10に示す。図10(a)〜(c)は、各ロボットシステムA〜Cにおける時間−位置の特性を示しており、図10(d)〜(f)は、モードクオリー行列によって得られたモード空間における時間−位置応答の特性を示している。これらの結果より、COG動作およびヨーイング動作は、各モードにおける位置サーボにより再現がなされていることが分かる。また、内力モードの時間−力応答の特性を図10(g)に示し、ここでは内力モードにおける把持力指令は1Nとしている。この図10(g)により、内力はCOG動作やヨーイング動作によらず一定に制御できていることが分かる。従って、人間のスキルドモーションの抽出と再現において、本実施例におけるインタラクションモード制御が有用であることが確認できる。
【0071】
このように、本実施例では、インタラクションモード制御に基づいて、人間のスキルドモーションを抽出または再現する手法を提案した。ここでのインタラクションモード制御は、モードクオリー行列を用いてロボットシステム群の非干渉化モードを抽出することが可能であるため,人間の五指に対応したモーションの抽出と再現に非常に有用である。また、他システムからの加速度外乱から加速度応答値に及ぼす影響の割合として、ハイブリッド比という新たな制御指標を定義した。これにより、人間のモーションにおけるタスクを記述するためのタスクコードを確立して、力制御,位置制御を統一的に加速度ベースで扱うことが可能になる。
【0072】
次に、本発明の第2実施例を図11〜図17に基づき説明するが、前記第1実施例と共通する箇所には共通の符号を付し、共通する部分の説明は重複を避けるために極力省略する。
【0073】
図11は、本実施例におけるモーション習得システムにおけるモーション抽出モードのブロック線図を示している。この第2実施例は、前記ロボットシステム群として、複数のロボットシステムA〜Cからなるマスターシステム61と、複数のロボットシステムA〜Cからなるスレーブシステム62とを利用して、熟練者のスキルを抽出したり、人工的に再現したりする制御方法を提案する。関節空間に配置されたマスターシステム61とスレーブシステム62の各アクチュエータ1は、前述した外乱オブザーバ11のような加速度制御に基づくバイラテラル制御により制御される。バイラテラル制御とは、マスターシステム61とスレーブシステム62との間で位置と力の状態を一致させるように制御を行なうことで、マスターシステム61からスレーブシステム62への位置制御と、スレーブシステム62からマスターシステム61への力制御を同時に行なう制御方法であり、それを具体化する制御手段は周知であるので、ここでは詳しく説明しない。このようなバイラテラル制御を用いることで、「作用・反作用の法則」に支配される双方向的情報である力覚情報から、操作者の作用力と反作用力を分離することができる。また、スキルの保存と再現に際しては、前記第1実施例と同様に、インタラクションモード制御に基づき非干渉モード毎に加速度次元で制御系を構成することで、位置情報と力情報の双方が統合可能であり、触覚ベースでのスキルデータベースとスキルシミュレーション開発への応用が期待できる。
【0074】
図11に示すモーション習得システムは、人間の3指のモーションに対応して、それぞれ3体のマスターシステム61とスレーブシステム62を備えている。また、ここでの実験装置も、アクチュエータ1としてロッド型のリニアアクチュエータを使用する。したがって、作業空間と関節空間は等しく、図4に示すような加速度変換手段25,26や加速度逆変換手段34は不要となる。
【0075】
図12は、図4に示す装置構成を実現する実験装置の一例である。個々の構成は第1実施例と共通であるので説明を省略するが、後述する抽出モードでは、操作者64が操作するマスターシステム61と、この操作者に合せて対象物47を把持するスレーブシステム62が並設されている。
【0076】
再度図11に戻り、第1のモード加速度変換手段27Aは、マスターシステム61を構成する各ロボットシステムA〜Cの加速度外乱xNm・・ext(N=A,B,C)を、モード空間における加速度外乱mim・・ext(i=1〜3)に変換すると共に、別な第1のモード加速度変換手段27Bは、スレーブシステム62を構成する各ロボットシステムA〜Cの加速度外乱xNs・・ext(N=A,B,C)を、モード空間における加速度外乱mis・・ext(i=1〜3)に変換する。同様に、第2のモード加速度変換手段28Aは、マスターシステム61を構成する各ロボットシステムA〜Cの加速度応答値xNm・・ (N=A,B,C)を、モード空間における加速度応答値mim・・(i=1〜3)に変換すると共に、別な第2のモード加速度変換手段28Bは、スレーブシステム62を構成する各ロボットシステムA〜Cの加速度外乱xNs・・(N=A,B,C)を、モード空間における加速度応答値mis・・(i=1〜3)に変換する。
【0077】
ここでは、モード空間におけるマスターシステム61とスレーブシステム62の加速度応答値を、それぞれm・・およびm・・と定義し、モード空間におけるマスターシステム61とスレーブシステム62の外力の等価加速度を、それぞれm・・extおよびm・・extと定義する。バイラテラル制御の目標は以下のように記述できる。
【0078】
【数15】

【0079】
【数16】

上記数15は、「作用・反作用の法則」を実現するために、マスターシステム61とスレーブシステム62の受ける外力の等価加速度の和を0にすべきであることを示している。一方、数16はマスターシステム61とスレーブシステム62の間で同期を確保するために、加速度応答の偏差を0にすべきであることを示している。このようにバイラテラル制御系の目標は、マスターシステム61とスレーブシステム62の和と差の座標系で定義されるため、2次のモードクオリー行列Q2を用いて、次の数17〜数19のようにまとめて表現することが可能である。
【0080】
【数17】

【0081】
【数18】

【0082】
【数19】

ここで、m・・とm・・は、それぞれモード空間における加速度応答の和と差のモードをあらわし、m・・extとm・・extは、それぞれモード空間における外力の等価加速度の和と差のモードを表わしている。すなわち、図11のシステムでは、前記数19のモードクオリー行列Qを用いて、前記モード空間における等価加速度(加速度外乱)mim・・ext,mis・・extから、その和mic・・extと差mid・・extの各値をそれぞれ算出する第1の加速度算出手段71A,71B,71Cと、前記モード空間における加速度応答mim・・,mis・・から、その和mic・・と差mid・・の各値を算出する第2の加速度算出手段72とを、各々備えている。
【0083】
また、前記数15を実現するために、和のモードにおける外力の等価加速度mc・・extに対して、次のような力サーボで構成設定する。
【0084】
【数20】

【0085】
【数21】

また、和のモードでは人間の入力に従って反作用力を制御する必要があることから、抽出モードでは全ての空間モードにおいてハイブリッド比HRが1に設定される。つまり、和のモードにおけるハイブリッド比HRは以下のように表される。
【0086】
【数22】

上記のハイブリッド比に基づき、モード空間における加速度制御系の各伝達要素Cic(s)(i=1〜3)を以下のように設定する。なお、下記のKfic(i=1〜3)は、力制御ゲインを表わす。
【0087】
【数23】

一方、差のモードでは、数16を実現するために、加速度応答の偏差を0にするような定値制御が行なわれる。
【0088】
【数24】

【0089】
【数25】

ここで、Cは位置レギュレータを表わす。差のモードでは、外乱を補償して位置の同期を確保する必要があることから、全ての空間モードにおいてハイブリッド比を0にする必要がある。従って、差のモードにおけるハイブリッド比HRは以下のように表される。
【0090】
【数26】

上記ハイブリッド比HRに基づいて、モード空間における加速度制御系Cid(s)(i=1〜3)を以下のように設定する。
【0091】
【数27】

ここで、Kfid(i=1〜3)は位置制御ゲインを表わし、Kvid(i=1〜3)は速度制御ゲインを表わす。こうすることで、和と差の直交座標系において、力サーボと位置レギュレータを独立して設計することが可能である。
【0092】
上記モード空間における和のモードの加速度参照値mic・・(i=1〜3)と、差のモードの加速度参照値mid・・(i=1〜3)を算出するために、このモーション抽出モードでは、モード空間におけるインタラクションモード制御部として、和モード制御部74と差モード制御部75を備えている。和モード制御部74は、第1の加速度算出手段71で算出され、減算器77A〜77Cを経て出力された各モード空間の和のモードにおける外力の等価加速度mic・・extと、前記数21や数23で記述された伝達要素Cic(s)とをそれぞれ掛け合わせて、数20に示すモード空間における和のモードの加速度参照値mic・・refを算出する第1の積算手段78A〜78Cを備えている。また、差モード制御部75は、第2の加速度算出手段72で算出された各モード空間の差のモードにおける加速度応答値mid・・と、前記数25や数27で記述された伝達要素Cid(s)とをそれぞれ掛け合わせて、数24に示すモード空間における差のモードの加速度参照値mid・・refを算出する第2の積算手段79A〜79Cを備えている。
【0093】
前記モード空間には、以下の式のように力サーボと位置レギュレータを加速度次元で統合して、マスターシステム61とスレーブシステム62に対応するモード空間の加速度参照値mim・・ref,mis・・refを生成する加速度逆算出手段81が設けられる。
【0094】
【数28】

上記数28の各式は、前記数19で示した二次のモードクオリー行列Qの逆行列Q−1を用いて、次のように結合することが可能である。
【0095】
【数29】

上記マスターシステム61とスレーブシステム62に対応するモード空間の加速度参照値mim・・ref,mis・・refは、モード加速度逆変換手段33A,33Bにおける逆モードクオリー行列Q−1によって、関節空間における加速度参照値xNm・・ref,xNs・・ref(N=A,B,C)にそれぞれ逆変換され、各アクチュエータ1に分配される。各アクチュエータ1の加速度参照値は、第1実施例と同様に、前記外乱オブザーバに基づくロバスト制御系により実現される。モード加速度逆変換手段33A,33Bの動作を数式で表わすと、次のようになる。
【0096】
【数30】

図13は、上記構成におけるシステムのモーション抽出モードにおける実験結果を示したものである。操作者がマスターシステム61を操作して外力を与えると、スレーブシステム62がその操作に従って、対象物47を把持し移動させるタスクを行っている。マスターシステム61およびスレーブシステム62に設けた各アクチュエータ1の時間−位置応答の特性を図13(a)〜(c)に示し、上記モードクオリー行列Qを用いて各モード空間の位置応答にそれぞれ変換したものを図13(d)〜(f)に示す。また、モード空間において、把持物体への把持力に相当する内部モードの時間−力応答の特性を図13(g)に示す。
【0097】
この実験結果より、操作者が重心,ヨーイング,重心の順に対象物47を把持しながら移動させていることが確認できる。また、マスターシステム61およびスレーブシステム62を構成することにより、人間(操作者)の操作する把持物体の把持力を抽出することができる。さらに、マスターシステム61とスレーブシステム62との間の位置応答は非常によく追従しており、「作用・反作用の法則」が人工的に再現されている。従って、この実施例で提案するシステムでも、人間の3指のモーションを独立したモード毎に抽出しスキルの解析を行なうことができる。
【0098】
次に、当該第2実施例のモーション再現モードについて説明する。図14は、前記図11で抽出したモード空間のモーションを、関節空間に設置したスレーブシステム62で自動的に再現するシステムの構成を示している。なお、スレーブシステム62に代わって、同じ構成であるマスターシステム61を用いても構わない。図14では、これをロボットシステムA〜Cとして記述している。第1実施例で説明したように、物体把持タスクを実現する場合、図6に示す重心モードとヨーイングモードに関しては位置次元で再現を行ない、内部モードに関しては力次元で再現する。そのため、再現モードでのハイブリッド比HRは、以下のように表わせる。
【0099】
【数31】

上記のハイブリッド比HRに基づき、モード空間における加速度制御系の各伝達要素C(s)(i=1〜3)は、次のように設定する。なおこれは、前記数14に示したものと同じである。
【0100】
【数32】

ハイブリッド比決定手段32は、モード1,2のハイブリッド比HRが0で、モード3のハイブリッド比HRが1であることから、第2のモード加速度変換手段28で変換されたモード1,2の加速度応答値m・・,m・・と、第1のモード加速度変換手段27で変換されたモード3の加速度応答値m・・extが、インタラクションモード制御部31の減算器77A〜77Cに各々入力されるように、個々では図示しないタスクコード選択手段を制御する。再現モードでは、記憶手段30で保存記憶される加速度情報から得たモード空間毎の加速度目標値m・・cmd,m・・cmd,m・・cmdが、インタラクションモード制御部31の減算器77A〜77Cに各々入力され、インタラクションモード制御部31は、各減算器77A〜77Cからの算出結果を、前記数32で記述された伝達要素C(s)(i=1〜3)とそれぞれ掛け合わせて、モード空間における加速度参照値m・・ref,m・・ref,m・・refを算出する。この加速度参照値m・・ref,m・・ref,m・・refは、モード加速度逆変換手段33における逆モードクオリー行列Q−1によって、関節空間における加速度参照値x・・refに逆変換され、各アクチュエータ1に分配される。各アクチュエータ1の加速度参照値は、前記外乱オブザーバに基づくロバスト制御系により実現される。
【0101】
なお、ここにあるインタラクションモード制御部31は、前記図11に示す和モード制御部74と同じ構成とすることができる。但し、積算手段78A〜78Cで設定される伝達要素は、モーションの抽出モードと再現モードでは異なる。
【0102】
本実施例においても、その有効性を確認するために、従来の位置制御による再現実験と、本実施例で採用したインタラクションモード制御による再現実験との比較を行った。ここでも操作者はマスターシステム61を操作し、スレーブシステム62がその操作に従って対象物47を把持し移動させるタスクを行っている。従来の位置制御による再現結果を図15に示す。図15(a)〜(c)は、各ロボットシステムA〜Cにおける時間−位置の特性を示しており、図15(d)〜(f)は、モードクオリー行列によって得られたモード空間における時間−位置応答の特性を示している。一方、図16は、本実施例で採用したインタラクションモード制御による再現結果を示している。図16(a)〜(c)は、各ロボットシステムA〜Cにおける時間−位置の特性を示しており、図16(d)〜(f)は、モードクオリー行列によって得られたモード空間における時間−位置応答の特性を示している。両者を比較すると、重心位置とヨーイング位置に関しては、本実施例の提案手法も良好な再現性が得られている。さらに図17は、把持物体の把持力に相当する内部モードの力応答に関し、前記図11の構成により抽出されたマスターシステム61とスレーブシステム62の時間−力応答の特性と、従来の位置制御(位置サーボ)による時間−力応答の特性と、本実施例で提案するインタラクションモード制御での時間−力応答の特性とを、各々(a)〜(c)に示している。この実験結果からも明らかなように、従来の方法では位置制御に基づく再現であるため、把持力に関しては不定となり、これでは対象物47を把持することができない。一方、本実施例の提案法は、重心位置やヨーイング位置の変化に関係なく、一定の把持力が再現されており、対象物47を良好に把持することができる。
【0103】
こうした実験結果により、提案するインタラクションモード制御では、物体把持タスクが独立した例えば3つのモードにそれぞれ保存され、これを再現することが確認できる。
【0104】
この実施例では、マスターシステム61とスレーブシステム62を用いて、人間のモーションを抽出し、人工的に再現するモーション習得システムを提案している。ここでのモーション習得システムは、バイラテラル制御系により構成されるモーション抽出モードとインタラクションモード制御により構成されるモーション再現モードの2個のモードから構成される。モーション抽出モードでは、「作用・反作用の法則」に支配される双方向的情報である力覚情報から、操作者の作用力と反作用力の分離を行なうことが可能になる。また、モードクオリー行列を用いて人間の指に対応した直交座標系で定義される非干渉モードを抽出し、物体の把持,移動,回転といった人間の持つ動作ごとに、スキルの解析を行なうためのモーションの抽出手法を提案した。モーション再現モードでは、インタラクションモード制御に基づき、抽出モードで得られた人間のモーションを忠実に再現することができる。提案した方法を、例えば3体のリニアアクチュエータを用いた物体把持タスクに適用すれば、人間の3指からなるモーションを抽出および保存し、且つ重心,ヨーイングの移動と把持力を自動的に再現することが可能になる。
【0105】
以上のように上記各実施例では、ロバスト性を保ちつつ制御剛性をゼロにする加速度制御を、実空間の動作自由度に対応して配置した各ロボットシステムのアクチュエータ1に行なう第1のステップと、アクチュエータ1への外力の等価加速度と当該アクチュエータ1の加速度応答とを、モードクオリー行列を用いて直交座標系で定義される各々が独立した非干渉モードの等価加速度と加速度応答に変換する第2のステップと、第2のステップで得た非干渉モードにおける等価加速度と加速度応答とに基づいて、非干渉モードの各々に対応した対象物47に対するモーションを抽出する第3のステップと、からなるモーション習得システムの制御方法を提案する。
【0106】
このように、複数のロボットシステムの各アクチュエータ1に対して、ロバスト性を失うことなく制御剛性をゼロにする加速度制御が行なわれるので、環境との接触を伴う動作が実現できる。また、モードクオリー行列を用いて、人間の動作やタスクに基づく直交座標系の非干渉モードを新たに定義し、そこで各々が独立したモーションを抽出することが可能であるため、例えば人間の指に対応したモーションの抽出が容易になる。
【0107】
そしてこれは、前記第1のステップを機能的に備えた加速度制御手段としての外乱オブザーバ11と、前記第2のステップを機能的に備えたモード加速度変換手段27,27A,27B,28,28A,28Bと、前記第3のステップを機能的に備えたモーション抽出手段(インタラクションモード制御部31,ハイブリッド比決定手段32,和モード制御部74,差モード制御部75)と、を備えたモーション習得システムによっても実現できる。
【0108】
また、上記モーションの抽出に際しては、前記ロボットシステムがマスターシステム61とスレーブシステム62とにより構成され、前記第1のステップで、前記マスターシステム61と前記スレーブシステム62の各アクチュエータ1を、前記加速度制御に基づくバイラテラル制御により制御し、若しくは前記マスターシステム61と前記スレーブシステム62の各アクチュエータ1を、前記加速度制御に基づくバイラテラル制御により制御するように、前記加速度制御手段を構成することが好ましい。
【0109】
こうすれば、「作用・反作用の法則」に支配される双方向的情報である力覚情報から、操作者の作用力と反作用力を分離することができ、モーション抽出に際して特に重要な環境からの反作用力の抽出が可能になる。
【0110】
また、前記非干渉モードに変換した加速度情報を保存する第4のステップをさらに含むか、或いは前記非干渉モードに変換した加速度情報を保存する記憶手段30をさらに備えるのが好ましい。
【0111】
こうすると、抽出したモーションを保存して、例えば非干渉モードに変換した加速度情報を別な場所で読み出すことが可能になる。
【0112】
また、各非干渉モード毎に、当該非干渉モードにおける外力の等価加速度に対する加速度応答の比(ハイブリッド比HR)を決定し、前記第4のステップで保存した加速度情報に基づく加速度目標値と、前記第2のステップで得た非干渉モードにおける外力の等価加速度または加速度応答との偏差を入力として、前記ハイブリッド比HRに基づき設定した非干渉モードにおける加速度制御系からその加速度参照値を算出する第5のステップと、前記モードクオリー行列の逆行列を用いて、前記非干渉モードにおける加速度参照値を各ロボットシステムへの加速度参照値に変換する第6のステップと、をさらに含むことが好ましい。
【0113】
こうすると、先に抽出し保存した非干渉モードに変換した加速度情報を基に、同一若しくは別なロボットシステムで再現することができ、モーションの再現性が確保される。特に、非干渉モード毎に加速度次元で制御系を構成しているので、位置情報と力情報の統合が可能になっており、ハイブリッド比を1または0に設定すれば、個々の非干渉モード毎に位置次元若しくは力次元での再現が可能になり、それを実空間でのロボットシステムのモーションに反映させることができる。
【0114】
そしてこれは、前記各非干渉モード毎に、当該非干渉モードにおける外力の等価加速度に対する加速度応答の比(ハイブリッド比HR)を決定し、記憶手段30に保存される加速度情報に基づく加速度目標値と、モード加速度変換手段27,27A,27B,28,28A,28Bで得た非干渉モードにおける外力の等価加速度または加速度応答との偏差を入力として、前記ハイブリッド比HR比に基づき設定した非干渉モードにおける加速度制御系からその加速度参照値を算出するモード加速度算出手段(インタラクションモード制御部31,ハイブリッド比決定手段32,和モード制御部74,差モード制御部75)と、前記モードクオリー行列の逆行列を用いて、非干渉モードにおける加速度参照値を各ロボットシステムへの加速度参照値に変換するモード加速度逆変換手段33,33A,33Bと、をさらに備えた構成でも実現できる。
【0115】
また、直線駆動を行なうリニアアクチュエータを、上記アクチュエータとして特に用いることで、摩擦の影響を機構的に除去できる。
【0116】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本実施例で提案するモーション習得システムおよびその制御方法は、インタラクションモード制御や、マスター・スレーブシステムを用いて熟練者のスキルを抽出し、人工的に再現するもので、その新規性は高い。特に、マスター・スレーブシステムは加速度制御に基づくバイラテラル制御系により制御されるため、未知の実環境との安定した接触動作と、多自由度の統合モーションの実現が可能である。さらに、モードクオリー行列の導入により、例えば人間の五指に対応した直交座標系で定義される非干渉モードを抽出し、物体の把持,移動,回転といった人間の持つ動作毎に、スキルの保存と再現を行なうことが可能になる。スキルの保存と再現に当たっては、非干渉モード毎に加速度次元で制御系を構成することで、位置情報と力情報の双方が統合可能であり、触覚ベースでのスキルデータベースとスキルシミュレータ開発の応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1実施例におけるモーション習得システムに適用可能な、ロボットシステムの一例をあらわしたブロック線図である。
【図2】同上、図1と等価な外乱オブザーバによる加速度制御系システムのブロック線図である。
【図3】同上、図1に組み込まれる外乱オブザーバの制御ブロック線図である。
【図4】同上、インタラクションモード制御を具体化した一般構造を示すブロック線図である。
【図5】同上、図4に示す装置構成を実現する実験装置の一例を示す斜視図である。
【図6】同上、モード空間における3指による物体把持タスクを示す説明図である。
【図7】同上、インタラクションモード制御に基づく人間の物体把持モーションの抽出および再現制御を実現するモーション習得システムのブロック線図である。
【図8】インタラクションモード制御によるモーションの抽出結果を示す各特性のグラフである。
【図9】従来の位置制御によるモーションの再現結果を示す各特性のグラフである。
【図10】インタラクションモード制御によるモーションの再現結果を示す各特性のグラフである。
【図11】本発明の第2実施例を示すモーション習得システムにおけるモーション抽出モードのブロック線図である。
【図12】同上、図11に示す装置構成を実現する実験装置の一例を示す斜視図である。
【図13】同上、モーションの抽出結果を示す各特性のグラフである。
【図14】同上、モーション抽出モードで抽出したモーションを自動的に再現するのに好適なモーション習得システムのブロック線図である。
【図15】従来の位置制御によるモーションの位置応答に関する再現結果を示す各特性のグラフである。
【図16】同上、本実施例の実験結果に基づくモーションの位置応答に関する再現結果を示す各特性のグラフである。
【図17】内部モードの力応答に関する再現結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0119】
11 外乱オブザーバ(加速度制御手段)
27,27A,27B,28,28A,28B モード加速度変換手段
30 記憶手段
31 インタラクションモード制御部(モーション抽出手段,モード加速度算出手段)
32 ハイブリッド比決定手段(モーション抽出手段,モード加速度算出手段)
33,33A,33B モード加速度逆変換手段
74 和モード制御部(モーション抽出手段,モード加速度算出手段)
75 差モード制御部(モーション抽出手段,モード加速度算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロバスト性を保ちつつ制御剛性をゼロにする加速度制御を、実空間の動作自由度に対応して配置した複数のロボットシステムの各アクチュエータに行なう第1のステップと、
前記各アクチュエータへの外力の等価加速度と当該各アクチュエータの加速度応答とを、モードクオリー行列を用いて直交座標系で定義される各々が独立した非干渉モードの外力の等価加速度と加速度応答に変換する第2のステップと、
前記第2のステップで得た非干渉モードにおける外力の等価加速度と加速度応答とに基づいて、前記非干渉モードの各々に対応した対象物に対するモーションを抽出する第3のステップと、からなることを特徴とするモーション習得システムの制御方法。
【請求項2】
前記ロボットシステムがマスターシステムとスレーブシステムとにより構成され、前記第1のステップで、前記マスターシステムと前記スレーブシステムの各アクチュエータを、前記加速度制御に基づくバイラテラル制御により制御することを特徴とする請求項1記載のモーション習得システムの制御方法。
【請求項3】
前記非干渉モードに変換した加速度情報を保存する第4のステップをさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載のモーション習得システムの制御方法。
【請求項4】
前記各非干渉モード毎に、当該非干渉モードにおける外力の等価加速度に対する加速度応答の比を決定し、前記第4のステップで保存した加速度情報に基づく加速度目標値と、前記第2のステップで得た非干渉モードにおける外力の等価加速度または加速度応答との偏差を入力として、前記比に基づき設定した前記非干渉モードにおける加速度制御系からその加速度参照値を算出する第5のステップと、
前記モードクオリー行列の逆行列を用いて、前記非干渉モードにおける加速度参照値を前記各ロボットシステムへの加速度参照値に変換する第6のステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項3記載のモーション習得システムの制御方法。
【請求項5】
前記アクチュエータがリニアアクチュエータであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のモーション習得システムの制御方法。
【請求項6】
ロバスト性を保ちつつ制御剛性をゼロにする加速度制御を、実空間の動作自由度に対応して配置した複数のロボットシステムの各アクチュエータに行なう加速度制御手段と、
前記各アクチュエータへの外力の等価加速度と当該各アクチュエータの加速度応答とを、モードクオリー行列を用いて直交座標系で定義される各々が独立した非干渉モードの等価加速度と加速度応答に変換するモード加速度変換手段と、
前記モード加速度変換手段で得た非干渉モードにおける等価加速度と加速度応答とに基づいて、前記非干渉モードの各々に対応した対象物に対するモーションを抽出するモーション抽出手段と、を備えたことを特徴とするモーション習得システム。
【請求項7】
前記ロボットシステムがマスターシステムとスレーブシステムとにより構成され、前記加速度制御手段は、前記マスターシステムと前記スレーブシステムの各アクチュエータを、前記加速度制御に基づくバイラテラル制御により制御するものであることを特徴とする請求項6記載のモーション習得システム。
【請求項8】
前記非干渉モードに変換した加速度情報を保存する記憶手段をさらに備えたことを特徴とする請求項6または7記載のモーション習得システム。
【請求項9】
前記各非干渉モード毎に、当該非干渉モードにおける外力の等価加速度に対する加速度応答の比を決定し、前記記憶手段に保存される加速度情報に基づく加速度目標値と、前記モード加速度変換手段で得た非干渉モードにおける外力の等価加速度または加速度応答との偏差を入力として、前記比に基づき設定した前記非干渉モードにおける加速度制御系からその加速度参照値を算出するモード加速度算出手段と、
前記モードクオリー行列の逆行列を用いて、前記非干渉モードにおける加速度参照値を各ロボットシステムへの加速度参照値に変換するモード加速度逆変換手段と、をさらに備えたことを特徴とする請求項8記載のモーション習得システム。
【請求項10】
前記アクチュエータがリニアアクチュエータであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載のモーション習得システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−30167(P2008−30167A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207523(P2006−207523)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】