説明

モータ駆動装置の制御方法および装置

【課題】エネルギー蓄積装置の蓄積状態に応じた効率のよい運転が行え、また、電源側変換器の変換容量を小さくするとともに、さらに、エネルギー蓄積装置の容量を小さくするモータ駆動装置の制御方法と装置を提供すること。
【解決手段】交流電源201を直流に変換する電源側変換器205と、該電源側変換器の直流側に接続されるエネルギー蓄積装置と、前記電源側変換器の直流側に接続され、前記モータを接続するモータ側変換器を具備し、前記エネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積状態と、前記モータの予め定められた運転パターンとに基づいて前記電源側変換器を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータを駆動するための駆動装置の制御方法およびそれを用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータへ電力を供給して回転駆動する電動動作(力行動作)と、モータから電力を受け取り回生動作するモータの制御装置では、交流電源に接続する電源側変換器とモータに接続するモータ側変換器の間にエネルギー蓄積装置を配設し、負荷によって起こるモータの電力変動に対してそのエネルギー蓄積装置の充放電を利用して一次側の交流電源にかかる電力変動を小さくする方式が知られている(特許文献1、2)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−344946号公報
【特許文献2】特開2006−321640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法は交流電源からの受電電力を制御する変換器の容量は小さくできるものの、電源側コンバータが一方向動作のために、回生運転時にモータとのエネルギーの授受によっては直流電圧が必要以上に上昇する可能性がある。また、エネルギー蓄積装置にはコンデンサを用いている。エネルギー蓄積装置のエネルギー授受によって、直流電圧の変化が生じるが、この直流電圧の変化幅が大きい場合はモータ制御性能に影響がでる。
【0005】
特許文献2の方法はモータが電動動作をしているときだけに電源から電力供給をし、負荷が必要とする以上のエネルギーが蓄えられたとき電源に回生運転を行うもので、制御負担を軽減できるものの、負荷が最大エネルギーを必要とする運転前に必ずしも最適にエネルギーが蓄積されない場合が生じ、このときにはエネルギー不足になってモータが所定の動作をできないおそれがある。
【0006】
本発明の目的とするところは、エネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積量を、予め定められた運転パターンに応じて適切に変化させることにより効率の良い運転を可能にすることであって、電源側変換器の変換容量を小さくするとともに、エネルギー蓄積装置の容量も小さくする事が出来るモータ駆動装置の制御方法とそれを用いた装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、予め定められた運転パターンに従ってモータを駆動するモータ駆動装置であって、交流電源を直流に変換する電源側変換器と、該電源側変換器の直流側に接続されるエネルギー蓄積装置と、前記電源側変換器の直流側に接続され、前記モータを接続するモータ側変換器と、前記エネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積状態と前記モータの運転パターンとに基づいて、前記電源側変換器を制御する指令演算部と、を有することを特徴とするモータ駆動装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のモータ駆動装置において、前記電源側変換器の直流側に接続されるモータ側変換器は複数であることを特徴とする。請求項3の発明は、請求項2に記載のモータ駆動装置において、前記電源側変換器の変換容量は、モータ側変換器の総変換容量より小さいことを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至3に記載のモータ駆動装置において、前記モータは、プレス機械のスライドまたはダイクッションを駆動するサーボモータであることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、予め定められた運転パターンに従ってモータを駆動するモータ駆動装置の制御方法であって、交流電源を直流に変換する電源側変換器と、該電源側変換器の直流側に接続されるエネルギー蓄積装置と、前記電源側変換器の直流側に接続され、前記モータを接続するモータ側変換器を具備し、前記エネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積状態と、前記モータの運転パターンとに基づいて前記電源側変換器を制御することを特徴とするモータ駆動装置の制御方法である。
請求項6の発明は、請求項5に記載のモータ駆動装置の制御方法であって、前記電源側変換器の制御は電流指令または電圧指令または電流制限値またはこれらを組み合わせて、これらの値を可変制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
運転指令とエネルギー蓄積装置の蓄積状態に応じた効率のよい運転が行え、また、電源側変換器の容量を小さくするとともに、さらに、エネルギー蓄積装置の容量を小さくできる。すなわち、運転パターンによって予めモータが大きな電動電力や回生電力が必要とされる時点が分かるので、それに先立ってエネルギー蓄積装置の蓄積量を調整して大きな電力に対応し、モータ負荷の小さな時点で蓄積量を調整できる。このため、運転パターンの一周期に合わせて適切にエネルギー蓄積量を調節できる。
【0011】
電源側変換器やエネルギー蓄積装置の容量が低減できることから本願発明の設備稼動時では、交流電源にかかる電流の変化が抑制されて、高い電流値が発生せず工場設備の 受電容量が小型になり、また、受電設備の大型化を防ぎ省エネにもなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。
【0013】

運転パターンを予め定めて運転する装置の例にプレス機械がある。図1は本発明が適用される一例として簡易表現したプレス機械を示す。ここでは、プレス機械としてクランクプレスに適用した例を示す。交流モータ1の軸1Sに接続されたギヤ2にメインギヤ3が噛み合わされ、メインギヤ3にはクランク機構(クランク軸4、コンロッド5)が接続されている。クランク機構によりスライド6を静止側のボルスタ7に対して昇降可能に形成されている。
【0014】
クランク軸4を駆動する交流モータ1は、その正転、逆転、速度変化が制御装置により自由に制御されるので、時間の経過に対応してスライドを任意の位置に移動させることができる。これにより各種スライドモーションを自在に設定し、またそれらを任意に選択して利用できる。このために、プレス成形の精度、生産性を向上し、種々のプレス成形に対する適応性が拡大できる。交流モータ1としては、永久磁石を用いた同期モータや、誘導モータ、リラクタンスモータなどが利用できる。さらに、交流モータでなく直流モータでもよい。ここでは、交流モータは同期モータとして説明する。
【0015】
図2は図1の機械の交流モータ1を駆動するモータ駆動装置の例を示す。交流電源201からの交流電力はACリアクトル202を介して回生コンバータ203に入力される。回生コンバータ203の直流側は回生コンバータ203のスイッチング動作の無効電流を処理する平滑コンデンサ204を介してエネルギー蓄積装置209に接続されると共にインバータ206の直流側に接続される。エネルギー蓄積装置209としては2次電池、大容量電力コンデンサ、電気二重層コンデンサなどが用いられる。
【0016】
インバータ206の直流側には回生コンバータ203と同様にそのスイッチング動作の無効電流を処理する平滑コンデンサ207が接続される。ここでは、回生コンバータ203と平滑コンデンサ204の組を電源側変換器205と称し、インバータ206と平滑コンデンサ207の組をモータ側変換器208と称する。インバータ206の交流側は交流モータ1に接続される。交流モータ1の回転速度や回転位置はエンコーダ211で検出される。モータの回転速度の指令は運転指令部221から出される。
【0017】
速度制御部222は運転指令部221からの速度指令、およびエンコーダ211と電流検出器223からのフィードバック信号によって動作し、交流モータ1の速度制御、電流制御、PWM制御を実施し、この出力によってインバータ206がPWM制御される。この制御は周知であるので、詳細な説明は省略する。また、本例は運転指令部221から速度指令が出されるとして説明したが、位置指令を出し、速度制御部222で、交流モータ1の位置制御、速度制御、電流制御、PWM制御を実施するように構成してもよい。
【0018】
一方、エネルギー蓄積装置209のエネルギー蓄積状態は、蓄積エネルギー検出部231により検出される。また、交流モータ1の所要電力は運転指令部221で演算される。蓄積エネルギー検出部231の検出値と運転指令部221からの所要電力は電流指令演算部232に入力され、電流指令演算部232において電源側変換器205の出力電流が指令される。すなわち、交流電源201の力率が1のときは、交流電源201の電流の大きさが指令される。電流制御部233は電流指令演算部232の出力と交流電源201の電圧および電流検出器234からの信号によって動作し、交流電源201の電流制御、PWM制御を実施し、回生コンバータ203をPWM動作させる。
【0019】
次に図2に示す電源側変換器205の動作について説明する。運転指令部221において交流モータ1の瞬時瞬時の所要電力、すなわち運転パターンに従い時々刻々と変化する交流モータ1の所要電力が計算される。所要電力は運転パターンに基づいて速度指令とトルク指令の積から求められる。速度指令はスライド6の運転パターン、すなわち、交流モータの速度指令として求められ、トルク指令はそのプレス作業の内容や速度指令から演算、あるいはトライ運転時のトルク指令から求められる。プレス作業は材料や金型、プレス動作を予め定め、運転パターンを定めてから実際の作業に入る。このため、プレス作業が決まれば、所要電力は容易に求められる。
【0020】
さらに加工を行ないながら、駆動系のイナーシャや加工による実際の負荷を反映したエンコーダ211と電流検出器223からのフィードバック信号、すなわち交流モータ1の位置及び速度の検出値と、それに対応した電流の検出値を利用して、運転パターンに従い時々刻々と変化する交流モータ1の実際の所要電力を把握し、運転指令部221に記憶しても良い。
【0021】
交流モータ1に必要な電力はエネルギー蓄積装置209と電源側変換器205から供給される。この両者の供給割合を決めるのが電流指令演算部232である。蓄積エネルギー検出部231で蓄積量から出力及び蓄積可能な電力を演算する。電流指令演算部232は運転指令部221からのモータ所要電力とエネルギー蓄積装置231からの検出値により、電源側変換器205から出力する電力、すなわち電力に対応する電流指令値を演算する。
【0022】
電流指令部221からのモータの所要電力は現時点と現時点以降を含む値を刻々出してもよいし、運転パターン1周期分を予め電流指令演算部232に出してもよい。エネルギー蓄積装置209の蓄積量はエネルギー蓄積装置209に出入りする電圧と電流から演算できる。あるいは、電圧や電流の何れか一方からだけでも把握できる。また、蓄積エネルギー検出部231では、蓄積量そのものを検出するのではなく、エネルギー蓄積装置209に流入または流出する電力から検出してもよい。
電流指令演算部232の演算はこのように、運転パターンに応じたモータ所要電力とエネルギー蓄積装置に蓄えられている蓄積エネルギーを考慮して電流指令を演算する。この具体例は後述する。
【0023】
電流制御部233はこのように演算した電流指令値に対応する電源電流が電源側変換器205に交流電源201から流れるように電源側変換器205を制御する。ここでは、電流値は出力と関連する交流電源側から検出しフィードバック制御する。また、交流電源201の電流を電圧位相に同期させるために、その電圧も検出する。この構成を用いると、電源電流を正弦波、かつ、力率1になるように制御できる。こうして、運転パターンに従い交流モータ1で必要となる入力とエネルギー蓄積装置からの出力の差分が電源側変換器205、すなわち、交流電源201から供給される。なお、電流制御部233に与える電流指令値としては前述したように力率=1に制御するだけでなく、無効分制御も併用して、力率=1以外の制御ができるのは言うまでもない。
【0024】
図3は運転パターンにより電源側変換器を制御する動作を示す一例である。(a)はモータ回転速度のパターン、(b)はモータの所要トルク、(c)はモータ所要電力、(d)は電源側変換器の出力、(e)はエネルギー蓄積装置の出力、(f)はエネルギー蓄積装置に蓄えられている蓄積エネルギーを示す。横軸は(a)〜(f)に共通の時間軸である。
【0025】
この例の運転パターンは、(a)のように、時刻t0において、スライドが上死点にあり、モータは高速で運転をしている。t1でプレス作業のための減速に入り、t2まで減速を続ける。t2からt3は加速しながらプレス作業をする期間であり、t3からt4でプレス作業終了後に加速をして高速運転になり、t5で上死点に戻る。その後は、t0からの動作を繰り返す。
【0026】
予め決められるこの運転パターンは金型や加工製品の材料、加工製品の形状、プレス作業方法、生産計画に応じてそれぞれ最適パターンが異なり、図の例以外にも種々多数の運転パターンがある。図の例では、モータはt1からt2は減速トルクが必要になり、t2からt3はプレス作業のためのトルク、t3からt4は加速トルクが必要である。この運転のトルクはプレス作業内容に応じて予めシミュレーション計算やトライ運転時の結果から求められる。(c)のモータ所要電力は(a)と(b)の積として決まる。プレス作業時のt2からt3で大きな電力、さらに時間積分として大きなエネルギーが必要であることがわかる。
【0027】
このようなプレス時の大きなエネルギーに対処するために、次のように動作をさせる電流指令を出力する。図ではt1の時点から電源側変換器に所定の出力が得られる電流指令を出す。t1からt2はモータが回生動作しているにも関わらず電源側変換器は電力を交流電源から直流回路側に出力させる。この結果、(e)のようにt1からt2まではモータからの回生電力と電源からの電力がエネルギー蓄積装置に流入(図示eの時間軸と平行な細線から下側は蓄積装置に流入する電力、上側は流出する電力を示す)し、t2のプレス開始時点で蓄積エネルギー量は(f)のように例えば最大値MAXのエネルギー蓄積ができる。
【0028】
t2からはエネルギー蓄積装置と電源からの両者の電力がモータに流れ、t4まで続く。この後、エネルギー蓄積状態を見ながらエネルギー蓄積装置に蓄積動作をさせるように電流指令を出し、t41の時点で蓄積エネルギー量が初期状態に戻ったのを検出して、電流指令をゼロに戻す。このように、運転パターンから分かる必要な所要電力を算出し、電流指令を定めると電源側変換器の変換容量やエネルギー蓄積装置の蓄積容量が小さくてもモータの所要電力をまかなう運転ができる。
【0029】
この例では電源側変換器の出力、すなわち、電流指令は一定であるが、一定でなくてもよい。例えば、モータに大きな電力が必要な時点、例えば時刻t2の前で指令を増加させてもよい。この時点は予め定めても、あるいは状況監視して変更してもよい。また、電流指令はt1から出しているが、エネルギー蓄積装置の状態により指令を出す時点を決めてもよい。さらに、このケースでは電源側変換器は電力を交流電源側から直流電源側に出す動作だけをしている。この場合、電源側変換器205は図2に示す双方向電力変換器ではなく、交流電源から直流側に一方向だけに電力を送る構成の変換器でもよい。また、当然ながら、変換器やモータ、エネルギー蓄積装置には損失がある。電流指令演算部232はこれらの損失を考慮して電流指令の演算を実施してもよい。
【0030】
図4は図3と別の動作例を示す。(c)はモータ所要電力、(d)は電源側変換器の出力、(e)はエネルギー蓄積装置の出力、(f)はエネルギー蓄積装置に蓄えられている蓄積エネルギーを示す。図4の運転パターンは図3と同じで、(c)に示すモータ所要電力も図3と同じであるが、エネルギー蓄積装置への蓄積の仕方を図3と変更している。
図のようにt1の減速開始の時点から交流電源から直流側に電力が流れる電流指令を電源側変換器に出す。t1からの減速時だけ電流指令は他のときより大きくしている。t1からt2はモータが回生動作しているので、電源側変換器とモータからの電力がエネルギー蓄積装置に入力される。
【0031】
この結果、(f)に示すように蓄積エネルギーは増加し、t11で最大値MAXに達する。このため、t11からt2まではエネルギー蓄積装置に電力は流入せず電源側変換器にはモータからの回生電力をすべて交流電源に流す指令を出す。そして、t2からの動作は図3の場合と同じである。このケースのようにエネルギーを使うt2からのパターンに先だって、本例では減速時、他より大きな電流指令により電源から大きめに電力を蓄積すればプレス開始t2前に確実にエネルギー蓄積状態を最大にしておくことが可能であるので、エネルギー蓄積装置の容量をさらに最適化できる。なお、蓄積状態を最大にするために動作開始する時点は、本例では減速開始時刻t1としたが、t1ではなく、それより前の時点、あるいは、後の時点としてもよい。
【0032】
さらに、モータからエネルギーが回生される時点、すなわち、減速開始時点t1では、蓄積エネルギー容量を最大値でなくそれより低減させ、その時点以後にエネルギー蓄積装置にエネルギーを蓄えることができるようにしている。このため、エネルギー蓄積装置と電源側変換器の双方が動作でき、この動作により蓄積装置と変換器の容量を適切化している。すなわち運転中にモータが必要とする最大電力の供給を電源側変換器のみで負担する場合と比べ、エネルギー蓄積装置から電力供給を得られる分、電源側変換器の容量を小さくすることができる。
【0033】
上記実施例のように運転パターンが決められていれば、モータの所要電力とモータの所要エネルギーの時間的推移が分かる。運転パターンが決まると、運転時の電源側変換器の動作は、減速開始時刻t1、蓄積エネルギーが最大になる時点t11や、プレス開始時点t2といったようなパターンの変化点やエネルギー蓄積量だけを監視しながら電源変換器の動作を動作させることもできる。このため制御方法が簡易にかつ確実に構築できる。また、この運転パターンにより電源側変換器を制御する動作をサーボプレスの駆動装置に適用するには、プレス加工内容によって決まる運転パターンに対応して、どの時点でどのように制御するかを決定すればよい。
また、運転パターンからエネルギー蓄積がどうあるべきか予測がつくので、所要電力を求めることなく、運転パターンに対する電流指令を決めておくこともできる。
【0034】
以上のように、運転パターンが定められるサーボプレスにおいて、その所要電力が時間的にどのように推移するかを知ることにより、エネルギー蓄積装置の蓄積エネルギー量を適切に管理しながら運転することができる。このため、エネルギー蓄積装置209の容量や、電側変換器205の容量を低減できる。また、エネルギー蓄積装置の蓄積状態に応じた効率のよい運転が行える。さらに、上記実施例で示したサーボモータを駆動してスライドを制御するサーボプレスだけでなく、これと同様の運転を行う用途、すなわち、モータの運転パターンが定められており、その運転中に大きな電力変化がある用途、例えば、プレス機のダイクッション装置、また、射出成形機や工場内設備機械、生産機械、搬送装置などでも本発明の意図するところが適用できるのは言うまでもない。
【0035】
図5は本発明の他の実施例を示す。図5において、図1と同様の要素には同一の符号を付している。この実施例は運転指令部221からの信号と蓄積エネルギー検出部231からの信号により、電圧指令値を電圧指令演算部251で演算することに特徴がある。
電圧指令演算部251の電圧指令信号と電圧検出部253からの直流電圧検出信号を電圧制御部252に入力する。電圧制御部252からの電流指令信号を電流制御部233に入力する。このように、運転指令とエネルギー蓄積状態によって電圧指令を変化させ、それに対応する電流指令を得、電源側変換器205を動作させる。エネルギー蓄積状態によりエネルギー蓄積装置209の電圧が違うので、運転指令とエネルギー蓄積状態に応じて、直流電圧の指令値を変更する。このようにしても本発明の意図するところは実現できる。
【0036】
図6は本発明のさらに他の実施例を示す。図6において、図1、5と同様の要素には同一の符号を付している。運転指令と蓄積エネルギーとから電圧指令と電流リミッタ値を演算するのが特徴である。
電源側変換器の出力電圧指令と電源側変換器の電流リミッタ値の演算を電圧指令電流リミッタ演算部261で行う。電圧指令電流リミッタ演算部261は運転指令部221からの指令とエネルギー検出部231からの信号により、電圧指令と電流制限値の両方を演算する。電圧指令部262は電圧指令電流リミッタ演算部261からの信号で電源変換器205の直流側電圧を指令する。電圧制御部263は直流電圧指令と電圧検出部253で検出した直流電圧の偏差に応じて働き、交流電源の電流指令値を出力する。この出力は電流リミッタ部264に入力される。
【0037】
電流リミッタ部264では、電圧指令電流リミッタ演算部261の信号により電源電流の制限値を定め、これにより交流電源から流れる電流を制限する。電流リミッタ部264の出力が実際の交流電源の電流値として指令される。このようにしても本発明の意図するところは実現できる。運転指令と蓄積エネルギーに応じて電圧指令値と電流リミッタ値を可変に制御するので、電源側変換器205やエネルギー蓄積装置209の容量をさらに小さくできる効果がある。
【0038】
図7は図6の実施例の変形例を示す。図7において、図6と同様の要素には同一の符号を付している。蓄積エネルギーを直流電圧として検出することが特徴で、電圧指令電流リミッタ演算部271は運転指令部221からの信号により電圧指令と電流リミッタ値を演算する。本例は特に、エネルギー蓄積装置としてコンデンサを用いたときに有効である。コンデンサとしては大容量電力用コンデンサや電気二重層コンデンサが利用できる。さらに、コンデンサではなく、エネルギー蓄積量が電圧によって把握できる蓄積装置でも利用できる。
【0039】
図8は図7の方式の動作波形例を示す。(o)はモータ所要電力でほぼ図4と同じ値のときのものを示し、(p)はリミッタ値(点線)と電源側変換器の入力電流(実線、電流の大きさで入力電力と等しい)を示し、(q)は電圧指令(点線)と直流電圧値を示す。(p)で示すように、t1〜t2の減速領域でモータからの回生電力が大きいので電源側変換器の回生リミッタ値(直流回路から交流電源への電流)を増加させ、t2〜t4のプレス領域と加速領域でモータへの電力が必要なので電源側変換器の電動リミッタ値(交流電源から直流回路への電流)を増加させる。また、(q)で示すように、減速前のt0時点では電圧指令は低くし、回生電力により電圧が充電可能最大値に達した時点t12で、電圧指令を高い値に変更し、t2からのプレスに備えるようにする。その後、加速が完了するt4の時点でもとの電圧指令に戻す。このように運転指令からの信号により電圧指令値と電流リミッタ値を可変して運転する。
【0040】
こうしてこの例では、電圧指令値と電流リミッタ値の制御により電源側変換器はt1〜t2では回生運転(直流回路から交流電源へ電力が流れる)、t3〜t4では電動運転(交流電源から直流回路に電力が流れる)を行うようにできる。運転パターンは予め分かっているので、電圧指令値や電流リミッタ値の最適値やこれらの値を変更する時点は予め定めることができ、これらの値を運転指令からの信号で可変制御する。このように運転することにより、電源側変換器とエネルギー蓄積装置の最適な動作ができる。このため、より電源側変換器の容量やエネルギー蓄積装置の容量を小さくすることができる。また、電圧変化の範囲を小さく抑えることができる。
【0041】
図9は本発明のこれまでとは別の実施例を示す。図9において、図1と同様の要素には同一の符号を付している。単数のモータでなく、複数モータとして構成している点に特徴がある。複数モータはそれぞれのモータ側変換器に接続され、各モータ側変換器の直流ラインを結ぶ。この直流ラインに接続されたモータ全体合計の所要電力をエネルギー蓄積装置あるいは電源側変換器から供給する。このような複数台モータの構成装置は、産業機械、ライン制御装置、輸送機器、エレベータ、多軸ロボット、搬送装置、大型プレス機械などがある。
【0042】
ここでは、交流モータは1−1、1−2、1−3の3台で構成され、それぞれのモータは各モータ側変換器208−1、208−2、208−3に接続される。モータ側変換器208−1,208−2,208−3の直流母線側を共に接続し、電源側変換器205の直流側に接続する。各モータ側変換器はそれぞれのモータ用の速度制御部291により制御される。電流指令演算部292では複数モータへの運転指令を行う運転指令部291からの信号とエネルギー検出部231からの信号によりその指令値が演算される。図ではモータ3台の例を示したが、2台の場合、4台あるいはそれ以上でもよい。
【0043】
図9の構成のとき、交流モータ1−1、1−2、1−3は、同一仕様で同一運転でもよい。あるいは、各モータが同一仕様とは限らない、また、同一仕様であっても必ずしも同一の電流、回転数で運転されるとは限らない。この場合、各モータ側変換器で必要な電力値が違い、各モータ側変換器に必要な電力がモータ側変換器相互間で授受される場合などがある。このため、電源変換器の容量は各モータ側変換器の容量の和より小さくできる。このように複数モータの構成でも本発明の意図するところは実現でき、電源側変換器やエネルギー蓄積装置の容量が単独モータで構成するときより小さくできる。
【0044】
以上示した実施例において、それぞれの特徴を活かして相互に要素を入れ替えて実施することもできる。例えば、図9の複数台モータ構成において、図5のような構成が取れるなど、それらは当業者であれば容易に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明が適用される装置の構成例である。
【図2】本発明が適用される制御装置の構成例である。
【図3】図2に示す装置の動作を説明する図である。
【図4】図2に示す装置の他の動作を説明する図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す制御装置の構成図である。
【図6】本発明のさらに他の実施例を示す制御装置の構成図である。
【図7】図6の実施例の変形例を示す。
【図8】図7に示す装置の動作を説明する図である。
【図9】本発明のこれまでとは別の実施例を示す制御装置の構成図である。
【符号の説明】
【0046】
1 交流モータ
2 ギヤ
3 メインギヤ
4 クランク軸
5 コンロッド
6 スライド
7 ボルスタ
201 交流電源
203 回生コンバータ
205 電源側変換器
206 インバータ
208 モータ側変換器
209 エネルギー蓄積装置
211 エンコーダ
221 運転指令部
222 速度制御部
231 蓄積エネルギー検出部
232 電流指令演算部
233 電流制御部
234 電流検出部
251 電圧指令演算部
252 電圧制御部
253 電圧検出部
261 電圧指令電流リミッタ演算部
262 電圧指令部
263 電圧制御部
264 電流リミッタ部
271 電圧指令電流リミッタ演算部
291 速度制御部
292 電流指令演算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた運転パターンに従ってモータを駆動するモータ駆動装置であって、
交流電源を直流に変換する電源側変換器と、
該電源側変換器の直流側に接続されるエネルギー蓄積装置と、
前記電源側変換器の直流側に接続され、前記モータを接続するモータ側変換器と、
前記エネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積状態と前記モータの運転パターンとに基づいて、前記電源側変換器を制御する指令演算部と、
を有することを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記電源側変換器の直流側に接続されるモータ側変換器は複数であることを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記電源側変換器の変換容量は、モータ側変換器の総変換容量より小さいことを特徴とする請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記モータは、プレス機械のスライドまたはダイクッションを駆動するサーボモータであることを特徴とする請求項1乃至3に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
予め定められた運転パターンに従ってモータを駆動するモータ駆動装置の制御方法であって、
交流電源を直流に変換する電源側変換器と、
該電源側変換器の直流側に接続されるエネルギー蓄積装置と、
前記電源側変換器の直流側に接続され、前記モータを接続するモータ側変換器を具備し、
前記エネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積状態と、前記モータの運転パターンとに基づいて前記電源側変換器を制御することを特徴とするモータ駆動装置の制御方法。
【請求項6】
前記電源側変換器の制御は電流指令または電圧指令または電流制限値またはこれらを組み合わせて、これらの値を可変制御することを特徴とする請求項5に記載のモータ駆動装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−136058(P2009−136058A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308681(P2007−308681)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】