説明

モード同期レーザの外乱対策方法及びモード同期レーザ

【課題】
モード同期レーザが外乱の影響を受けにくくし、出力パルス光の位相雑音を改善する。
【解決手段】
被測定信号光よりパルス幅の狭い光パルスのサンプリングパルス光によって非線形光学効果を用いて、被測定信号光をサンプリングして被測定信号光の光波形を観測する光サンプリング波形観測装置に用いるモード同期レーザの外乱対策方法であって、
前記モード同期レーザを防振材を介して取付けると共に、周囲を吸音材で覆うモード同期レーザの外乱対策方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光サンプリング波形観測装置に使用するモード同期レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光サンプリング波形観測装置を図4を用いて説明する。
この装置は、基準信号発生器より出力される被測定信号光を観測する装置である。
図4において、1は基準信号発生器1、12はPLL回路、3は偏光ビームスプリッタ、10は非線形光学結晶、5はモード同期レーザ、6は受光器、7はA/D変換器、9はコンピュータである。
【0003】
図4の従来の光サンプリング波形観測装置では、基準信号発生器1より出力される被測定信号光を観測するために、被測定光信号と同期したモード同期レーザであるサンプリング光を用いて、和周波数光を発生させ、これをコンピュータで処理することにより、被測定信号光を観測する。
【0004】
このような光サンプリング波形観測装置としては、以下のものが知られている。(例えば、特許文献1参照)
上記特許文献1には、光サンプリング波形観測の測定原理の説明として、図5に基づく以下の記載が成されている。
図5において、繰り返し周期「fsig」を持った被測定信号光(光パルスP8)と、繰り返し周期「fsig」の整数分の一よりも数100Hzまたは数kHz程度低い繰り返し周期「(fsig/n)−Δf」を持つサンプリングパルス光P4とを、偏光ビームスプリッタ(PBS)115により多重化し、非線形光学結晶(例えば、KTP(KTiOPO4)など)素子116に入射する。
非線形光学結晶素子116内においては、和周波光発生などの非線形光学効果によって、被測定信号光P8(角周波数ω1)、サンプリングパルス光P4(角周波数ω2)の双方が入射したときのみ、位相整合によりSF光(和周波光など)を発生することが出来る。
このとき、サンプリングパルス光P4のパルス幅が、被測定信号光P8のパルス幅よりも十分に狭ければ、サンプリングの原理より上記被測定信号光P8が等時間間隔でサンプリングされることになる。
この結果、受光器118は、和周波光などのSF光を受光し、光電変換して検出信号PSを出力する。
そして、A/D変換器119は、上記検出信号PSを、デジタル値に変換し、コンピュータ120が波形表示することによって、被測定信号光P8の光波形を、光アイパターンなどの表示により観測することができる(繰り返し周期「ffsig」の波形を、繰り返し周期「(fsig/(nΔf)」の周期に拡大して波形の観測を行う)。
【0005】
次に図6のモード同期レーザ5の詳細な構成の1例を示す。
モード同期レーザ5の構成は発振器部と光増幅部とに分かれる。
発振器部では、エルビウムドープ光ファイバ(EDF)31とEDF励起用レーザダイオード(LD)32とによって光増幅され、両端で反射することによって共振器長に支配された繰り返し周期で光パルスが自励発振する。
二つのファラデー回転子33、波長板34、PBS135 によって光パルスの偏光を安定化している。
可飽和吸収体ミラー36を共振器の片側に入れることによって光パルスの自励発振の安定化を行っている。
【0006】
共振器内では光パルスが狭パルス幅であるためにピークパワーは非常に高くなり、そのために光パルスのピーク部分だけ非線形光学効果である非線形偏波回転が発生し、光パルスの一部分がPBS1 35によって分岐され、発振部からの出力光パルスとなる。
得られた光パルスは自励発振によって発生しているため、低タイミングジッタ、狭パルス幅の光パルス発生が可能となる。
【0007】
光パルスの繰り返し周期は可飽和吸収体ミラー 36に取り付けられたピエゾなどを用いた可動ステージ4によって可変可能である。
光増幅部では、発振部のPBS135から出力された光パルスを、光増幅部のPBS237 によって光増幅部のEDF38に結合し、EDF用LD39によって光増幅される。
さらに、ミラー40 で反射されて再び光増幅される。
【0008】
このとき、ファラデー回転子 41によって光パルスの偏光を安定化するが、ファラデー回転子 41が一つであるために反射された光パルスの偏光はPBS37へ入射された偏光と90°直交した偏光状態となる。
そのため、反射された光パルスはPBS2 37を通過し、光増幅された出力パルス光23となる。
この出力パルス光23の一部をビームスプリッタ 42で分岐し、受光器 6で光電変換することによって帰還信号24を生成する。光電変換することによって光パルスの繰り返し周期をモニターする。
【0009】
以上より、モード同期レーザ5の動作制御は次のとおりである。
基準信号発生器1から出力された信号は、帰還信号24とともに位相比較器2へ入力される。
位相比較器2は2つの入力信号の位相差に対応した誤差信号21をループフィルタ3に出力する。
ループフィルタ3は誤差信号21を制御信号22へ変換し、モード同期レーザ5の可動ステージ4に出力する。
モード同期レーザ5は、制御信号22に依存する可動ステージ4に応じた繰り返し周波数を持つ出力パルス光23を発生する。
出力パルス光23は受光器6によって帰還信号24へ変換され、帰還信号24は位相比較器2へ入力される。
【特許文献1】特開2003−35603号公報(図2,(0016)〜(0017))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図4の従来の光サンプリング波形観測装置におけるモード同期レーザ5を発振器とするPLL回路12は、基準信号発生器に対して位相同期するように、モード同期レーザ5は出力パルス光を発生する。
一般に、PLL回路の発振器は、外乱の周波数に対して、カットオフ周波数fc1が1次のハイパスフィルタの役割を持つ。
ここで、カットオフ周波数fc1はPLL回路のループ帯域と同値である。
すなわち、カットオフ周波数fc1よりも十分に低い周波数f1を持つ外乱がモード同期レーザに加わる場合、モード同期レーザ5は、外乱の影響が少なくPLL回路の基準信号発生器1に同期して動作する。
逆に、PLL回路のループ帯域fc1と同等もしくは、それ以上の周波数f2を持つ外乱がモード同期レーザ5に加わる場合、モード同期レーザ5は、外乱の影響を受け、位相雑音が悪化した出力パルス光を発生する。
【0011】
図4において構成例において、モード同期レーザ5は、光サンプリング波形観測装置内に実装され、光サンプリング波形観測装置の筐体内の電気回路を冷却するために複数の冷却ファンが備わっている。
冷却ファンは、ファンの回転数と羽根に依存する軸振動と風切り音を発生する。
この軸振動と風切り音は、光サンプリング波形観測装置の筐体を伝搬して、モード同期レーザ5に到達する。
伝搬した振動は、モード同期レーザ5すなわち、PLL回路の発振器の外乱となり、振動(外乱)の共振周波数により、出力パルス光の位相雑音が悪化する。
【0012】
これは、カットオフ周波数fc1の値が小さく、外乱の共振周波数が常にfc1よりも大きいためである。
この状態を図3に示す。
出力パルス光の位相雑音が悪化すると、被測定信号光と出力パルス光により生成される和周波数光の位相雑音が悪化する。
和周波数項の位相雑音の悪化は、光サンプリング波形観測装置における観測波形の品質劣化の要因となり、被測定信号光を忠実に観測できない。
【0013】
従来の構成では同期モードレーザ5が外乱の影響を受け、出力パルス光23の位相雑音が悪化する。
振動は様々な共振周波数を持ち、この振動源をおさえることが先決であるが、振動源を完全に除去することは現実的ではない。
【0014】
本発明の課題(目的)は、同期モードレーザが外乱の影響を受けにくくし、出力パルス光の位相雑音を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、被測定信号光よりパルス幅の狭い光パルスのサンプリングパルス光によって非線形光学効果を用いて、被測定信号光をサンプリングして被測定信号光の光波形を観測する光サンプリング波形観測装置に用いるモード同期レーザの外乱対策方法であって、
前記モード同期レーザを防振材を介して取付けると共に、周囲を吸音材で覆うことを特徴とする。(請求項1)
【0016】
また、前記外乱は、床を伝搬する第1の外乱と、空気を伝搬する第2の外乱であり、
前記防振材としてカットオフ周波数の小さいローパスフィルタ特性の材料を選定して床を伝搬する第1の外乱を減衰させ、
前記吸音材としてカットオフ周波数の小さいローパスフィルタ特性の材料を選定して空気を伝搬する第2の外乱を減衰させ、
前記モード同期レーザに到達した外乱を該モード同期レーザの内蔵するPLL回路により吸収してモード同期レーザの出力パルス光の位相雑音を減少させることを特徴とする。
(請求項2)
【0017】
また、被測定信号光よりパルス幅の狭い光パルスのサンプリングパルス光によって非線形光学効果を用いて、被測定信号光をサンプリングして被測定信号光の光波形を観測する光サンプリング波形観測装置に用いるモード同期レーザであって、前記モード同期レーザを防振材を介して取付けると共に、周囲を吸音材で覆うことを特徴とする。(請求項3)
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜3に記載の発明によれば、吸音材9、防振材10、高速可動ステージ8により、任意の周波数を持つ外乱に対して、モード同期レーザ5への影響を減少することができる。 例えば、外乱の周波数fd1、fd2が大きい値の時は、吸音材9、防振材10効果により、モード同期レーザ5に到達する外乱を低減でき、fd1、fd2が小さい場合は、吸音材9、防振材10の効果は薄れるが、モード同期レーザ5のPLL回路で外乱を抑圧することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態を図1を用いて説明する。
図1の本発明では、モード同期レーザ5に使用する可動ステージを少しでも高速応答が可能なステージを使用する。
また、モード同期レーザ5の取り付けは、防振材10を用いる。
さらに、モード同期レーザ5の周辺は、吸音材9または、防音材で囲う。
その構造の概要を図2に示す。
【0020】
図1の本発明実施形態における動作は、基準信号発生器1から出力された信号は、帰還信号24とともに位相比較器2へ入力される。
位相比較器2は2つの入力信号の位相差に対応した誤差信号21をループフィルタ3に出力する。
ループフィルタ3は誤差信号21を制御信号22へ変換し、モード同期レーザ5の高速応答可動ステージ8に出力する。
【0021】
モード同期レーザ5は、制御信号22に依存する可動ステージ4に応じた繰り返し周波数を持つ出力パルス光23を発生する。
出力パルス光23は受光器6によって帰還信号24へ変換され、帰還信号24は位相比較器2へ入力される。
高速応答可動ステージ8により、モード同期レーザ5は、PLL回路の発振器として動作している時は、外乱に対して、カットオフ周波数fc1のハイパスフィルタと等価である。 従って、周波数f1、f2を持つ外乱がモード同期レーザ5に及ぼす影響は、図3のように表される。
【0022】
モード同期レーザ5が動作中に、モード同期レーザ5へ外乱25、外乱26が加わる。 前者は、床を伝搬する任意の周波数fd1を持つ振動であり、後者は空気を伝搬する任意の周波数fd2を持つ振動である。
外乱25は床面を伝わり、防振材10へ到達する。
この防振材10が外乱の周波数成分に対し、カットオフ周波数fc2のローパスフィルタの性能を持っており、fd1<fc2であれば、振動は防振材10を通過して、モード同期レーザ5に到達する。
一方、fd1>fc2であれば、防振材10により外乱25は減衰され、モード同期レーザ5に到達する外乱25は減少する。
fc2の値が小さい防振材10を選定することにより、fd1<fc2の時、モード同期レーザ5に到達するfd1の値は小さくすることが可能である。
従って、fd1の値が小さい時、右上図より、モード同期レーザ5への影響は小さい。
この時、外乱fd1がモード同期レーザ5に到達しても、fd1が小さければ、fd1≪fc1となり、モード同期レーザ5のPLL回路により、モード同期レーザ5の出力パルス光23の位相雑音への影響は少ない。
外乱26は空気を伝搬し、吸音材9へ到達する。
この吸音材9は振動に対し、カットオフ周波数fc3のローパスフィルタの性能を持っており、fd2<fc3であれば、振動は吸音材9を通過して、モード同期レーザ5に到達する。 一方、fd2>fc3であれば、吸音材9により外乱26は減衰され、モード同期レーザ5に到達する外乱26は減少する。
fc3の値が小さい吸音材9を選定することにより、fd2<fc3の時、モード同期レーザ5に到達するf2の値は小さくすることが可能である。
従って、f2の値が小さい時、fd1の時と同様に、モード同期レーザ5への影響は小さい。 この時、可動ステージ4を、高速応答可動ステージ8に変更しているため、従来構成よりもモード同期レーザ5は外乱に対して影響しない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
請求項1〜3に記載の発明では、吸音材9、防振材10、高速可動ステージ8により、任意の周波数を持つ外乱に対して、モード同期レーザ5への影響を減少することができる。 例えば、外乱の周波数fd1、fd2が大きい値の時は、吸音材9、防振材10効果により、モード同期レーザ5に到達する外乱を低減でき、fd1、fd2が小さい場合は、吸音材9、防振材10の効果は薄れるが、モード同期レーザ5のPLL回路で外乱を抑圧することが可能であるので、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の光サンプリング波形観測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明のモード同期レーザの取付け状態を示す図である。
【図3】カットオフ周波数と外乱との関係を示す図である。
【図4】従来の光サンプリング波形観測装置の構成を示すブロック図である。
【図5】光サンプリング波形観測装置の動作原理を説明するための波形図である。
【図6】モード同期レーザの詳細な構成を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 基準信号発生器
2 位相比較器
3 ループフィルタ
5 モード同期レーザ
6 受光器
8 高速応答可動ステージ
9 吸音材
10 防振材
fc1 PLLのカットオフ周波数
fc2 防振材のカットオフ周波数
fc3 吸音材のカットオフ周波数
fd1 床を伝搬する外乱1の周波数
fd2 空気を伝搬する外乱2の周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定信号光よりパルス幅の狭い光パルスのサンプリングパルス光によって非線形光学効果を用いて、被測定信号光をサンプリングして被測定信号光の光波形を観測する光サンプリング波形観測装置に用いるモード同期レーザの外乱対策方法であって、
前記モード同期レーザを防振材を介して取付けると共に、周囲を吸音材で覆うことを特徴とするモード同期レーザの外乱対策方法。
【請求項2】
前記外乱は、床を伝搬する第1の外乱と、空気を伝搬する第2の外乱であり、
前記防振材としてカットオフ周波数の小さいローパスフィルタ特性の材料を選定して床を伝搬する第1の外乱を減衰させ、
前記吸音材としてカットオフ周波数の小さいローパスフィルタ特性の材料を選定して空気を伝搬する第2の外乱を減衰させ、
前記モード同期レーザに到達した外乱を該モード同期レーザの内蔵するPLL回路により吸収してモード同期レーザの出力パルス光の位相雑音を減少させることを特徴とする請求項1に記載のモード同期レーザの外乱対策方法。
【請求項3】
被測定信号光よりパルス幅の狭い光パルスのサンプリングパルス光によって非線形光学効果を用いて、被測定信号光をサンプリングして被測定信号光の光波形を観測する光サンプリング波形観測装置に用いるモード同期レーザであって、
前記モード同期レーザを防振材を介して取付けると共に、周囲を吸音材で覆うことを特徴とするモード同期レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−10627(P2006−10627A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191279(P2004−191279)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】