説明

モールドコイルの製造方法

【課題】小型且つ生産性に優れ、コイルの端部と外部電極との接合信頼性が高いモールドコイルの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
本発明のモールドコイルの製造方法はプラスチック成形法を用いて、磁性体粉末と樹脂とを混練した磁性体モールド樹脂でコイルを封止する。コイルの端部と外部電極を接合させる。コイルと外部電極を磁性体モールド樹脂で一体成形して成形体とする。成形体の表面からコイルの端部と外部電極の少なくとも一部を露出させる。成形体の表面から露出したコイルの端部と外部電極の表面に導体膜を形成し、コイルの端部と外部電極とを二重接合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモールドコイルの製造方法に関し、特にコイルの端部と外部電極との接合信頼性を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁性体粉末と樹脂とを混練した磁性体モールド樹脂でコイルを封止してなるモールドコイルが広く利用されている。従来のモールドコイルの製造方法は、フェライトコアなどの巻芯に巻かれたコイルを金型のキャビティ内に配置し、その後キャビティ内に溶融状態の磁性体モールド樹脂を充填してコイルを封止する。巻芯を用いたモールドコイルの製造方法が特許文献1に開示されている。
【0003】
例えば、巻芯を用いずに空芯コイルをそのまま磁性体モールド樹脂で封止しようとすると、磁性体モールド樹脂の充填圧力によって空芯コイルが変形したり、キャビティ内の片側に寄ったり、または傾いたりして所定の位置からずれてしまうこともあった。これらコイルの変形や位置ずれは、外観的不良を引き起こすだけではなく、インダクタンス値や直流重畳特性等の電気的特性にも影響を与えてしまう。そこで、従来ではコイルの変形や位置ずれを防止するために巻芯などを用いることが一般的だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−338613
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年における電子機器の小型化や高機能化の技術革新は著しく、それに伴い、モールドコイルのような電子部品もまた小型化や高性能化、更には低価格化などの要求が高まっている。しかし、従来のモールドコイルで用いられる巻芯などはモールドコイルの小型化や低背化の妨げになり、さらにコストの上昇を招く原因となっていた。
【0006】
そこで出願人は、先に出願した特願2008−97874において、位置出しピンと支持ピンを有する成形金型を用いた巻芯が不要なモールドコイルの製造方法を提案した。この方法では、空芯コイルを位置出しピンと支持ピンによってキャビティ内の所定の位置に位置出しする。そして、空芯コイルを位置出しピンと支持ピンを用いて段階的に磁性体モールド樹脂に封止する。これらにより、空芯コイルは位置ずれせずに磁性体モールド樹脂に封止される。
【0007】
特に、図11に示すような空芯コイル11の端部11aに外部電極12をスポット溶接などで取り付けたコイル部材を磁性体モールド樹脂で封止すれば、所望の位置に空芯コイルの端部を引き出しやすく、さらに機械化やライン化がしやすい。しかしながら、磁性体粉末の充填率が60Vol%以上の磁性体モールド樹脂を用いている場合、封止する間にコイル部材に高い充填圧力がかかる。高い充填圧力が端部11aと外部電極12との接合部にかかると、接合部が変形したり、最悪の場合には断線してしまう可能性があった。そして、図11に示すコイル部材を磁性体モールド樹脂で封止すると、図12に示すように磁性体モールド樹脂13の表面には外部電極12のみが露出した状態の成形体が得られる。もし、端部11aと外部電極12との接合部が磁性体モールド樹脂13の充填圧力によって変形や断線しても、両者間の接合を回復させることは困難である。また、成形体の外装形状からこれらの不良は発見しにくく、コイルの端部と外部電極との接合信頼性を高める必要があった。
【0008】
そこで、本発明は小型且つ生産性に優れ、コイルの端部と外部電極との接合信頼性が高いモールドコイルの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のモールドコイルの製造方法はプラスチック成形法を用いて、磁性体粉末と樹脂とを混練した磁性体モールド樹脂でコイルを封止する。コイルの端部と外部電極を接合させる。コイルと外部電極を磁性体モールド樹脂で一体成形して成形体とする。成形体の表面からコイルの端部と外部電極の少なくとも一部を露出させる。成形体の表面から露出したコイルの端部と外部電極の表面に導体膜を形成し、コイルの端部と外部電極とを二重接合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモールドコイルの製造方法は、コイルの端部に外部電極を溶接などで接合し、それを磁性体モールド樹脂で一体成形して成形体とする。その成形体の表面からコイルの端部と外部電極の両方を露出させるため、コイルを封止した後でもコイルの端部と外部電極との接合を回復することができる。また、コイルの端部と外部電極は封止前の溶接と封止後の導体膜との両方で接合(二重接合)を得るため、コイルの端部と外部電極の間の接合信頼性が高い。また、コイルを封止する前にコイルの端部に外部電極に取り付けるため、所望の位置にコイルの端部を引き出しやすく、さらに機械化やライン化がしやすく生産性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施例で用いるコイル部材の斜視図である。
【図2】第1の実施例で用いる成形金型を説明する図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A’断面図である。
【図3】第1の実施例の成形金型内でのコイル部材の配置を示す図である。
【図4】第1の実施例のモールドコイルの主な製造工程を説明する図である。
【図5】第1の実施例の成形体の表面における空芯コイルの端部と外部電極の露出を示す図である。
【図6】第1の実施例のモールドコイルの斜視図である。
【図7】第2の実施例で用いるコイル部材の斜視図である。
【図8】第2の実施例で成形金型内でのコイル部材の配置を示す図である。
【図9】第2の実施例の成形体の表面における空芯コイルの端部と外部電極の露出を示す図である。
【図10】第2の実施例のモールドコイルの斜視図である。
【図11】従来のコイル部材の斜視図である。
【図12】従来の成形体の表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施例)
図1〜図6を参照しながら、本発明のモールドコイルの製造方法の第1の実施例を説明する。
【0013】
まず、本実施例で用いるコイル部材について説明する。図1に第1の実施例で用いるコイル部材の斜視図を示す。幅が0.25mmで厚さが0.06mmの自己融着性の平角線を芯径1.0mmの芯材を用いて、外外巻きで12ターン巻き、空芯コイル1を得る。空芯コイル1の端部1aと外部電極2をスポット溶接し、図1に示すコイル部材を得た。本実施例では端部1aが露出しやすいように、空芯コイル1の巻回部を基本に外部電極2よりも外側に端部1aを配置して接合した。なお、外部電極2はリン青銅や電解金属箔などで作製すればよい。
【0014】
次に、第1の実施例で用いる成形金型について説明する。図2に本発明の第1の実施例で用いる圧縮成形用の成形金型を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A’断面図を示す。図2に示すように、第1の実施例で用いる成形金型は上型3と下型4を有し、上型3と下型4を組み合わせることによってキャビティ5が形成され、下型4は上型3と組み合わさることでキャビティ5の底部を形成する。下型4は、キャビティ5の底部にキャビティ5の開口部方向に突出したキャビティの上下方向に昇降可能な位置出しピン4aと支持ピン4bが図2(a)に示す配置で設けられている。
【0015】
本実施例では、位置出しピン4aに直径0.97mm、支持ピン4bに直径0.4mmの円柱状の金属棒を用いた。そして、位置出しピン4aはキャビティ5の底部から突出する高さh1を初期状態として0.75mmに設定し、支持ピン4bはキャビティ5の底部から突出する高さh2を初期状態として0.38mmに設定した。
【0016】
次に、第1の実施例のモールドコイルの製造方法について説明する。図3に第1の実施例の成形金型内でのコイル部材の配置を示す。図4に第1の実施例のモールドコイルの製造工程の主要部分を示す。図5に第1の実施例の成形体の表面における空芯コイルの端部と外部電極の露出を示す。図6に第1の実施例のモールドコイルの斜視図を示す。なお、図4は図2(a)のA−A’断面図における各段階での断面を示している。
【0017】
図3と図4(a)に示すように、コイル部材1をキャビティ5内に配置し、成形金型を180℃で予熱する。コイル部材1は、位置出しピン4aが空芯コイル2の中空部分に挿入され、さらに支持ピン4b上に空芯コイル2の底面が載るように配置される。そうしてコイル部材1は、位置出しピン4aによってキャビティ5内における水平方向が固定され、支持ピン4bによって中空保持される。このとき、空芯コイル2が支持ピン4bによって中空保持されるキャビティ5内の位置は、成形後のモールドコイル内の空芯コイル封止位置よりも高い位置に保持されていることが望ましい。また、予熱温度は磁性体モールド樹脂が軟化できる温度以上(磁性体モールド樹脂中の樹脂の軟化温度以上の温度)に設定すればよく、本実施例では180℃に設定した。
【0018】
図4(b)に示すように、上型3の開口部からコイル部材1の上に所定量秤量した磁性体モールド樹脂6をキャビティ5内に投入し、成形金型の予熱で磁性体モールド樹脂6を溶融させる。本実施例では磁性体モールド樹脂6として、アモルファス合金粉末とノボラック型エポキシ樹脂とを混練分散し、その混練物を冷却後粉砕した粉末状のものを用いた。なお、磁性体モールド樹脂中のアモルファス合金粉末の充填率は60Vol%になるように調製した。
【0019】
図4(c)に示すように、上型3の開口部にパンチ7をセットする。次に、図4(d)に示すように、パンチ7を用いて3kgfで5秒間加圧する。次に、図4(e)に示すように、位置出しピン4aをキャビティ5の底部の位置まで下降させた後、パンチ7を用いて5kgfで20秒間加圧する。このようにすると、位置出しピン4aのあった部分に磁性体モールド樹脂6が充填される。次に、パンチ7からの加圧をやめてパンチ7をフリー状態とした上で、図4(f)に示すように支持ピン4bをキャビティ5の底部の位置まで下降させる。続いて再びパンチ7を用いて10kgfで20秒間加圧する。このようにすると、支持ピン4bのあった部分に磁性体モールド樹脂6が充填される。その後、180℃で10分間加熱放置して磁性体モールド樹脂6を硬化させて成形体を得る。
【0020】
図5に示すように、成形体を成形金型から取り出してサンドブラストでバリ取りを行うとともに、成形体の表面に空芯コイル1の端部1aと外部電極を露出させる。図6に示すように、半田ディップを行って成形体の表面に露出した端部1aと外部電極2の表面に半田層8を形成し、半田層8によって端部1aと外部電極2とを電気的に接続させたモールドコイルを得る。
【0021】
(第2の実施例)
図7〜図10を参照しながら、本発明のモールドコイルの製造方法の第2の実施例を説明する。第2の実施例では、空芯コイルと外部電極との接続に半田ディップを行わずにめっき処理を行う。なお、第1の実施例で用いたコイル部材と磁性体モールド樹脂と同様のものを用い、同様の成形金型を用いてモールドコイルを成形する。第1の実施例と共通する部分の説明は割愛する。
【0022】
まず、本実施例で用いるコイル部材について説明する。図7に第2の実施例で用いるコイル部材の斜視図を示す。第1の実施例で用いた平角線を芯径1.0mmの芯材を用いて、外外巻きで12ターン巻き、空芯コイル1を得る。空芯コイル1の端部1aと外部電極2をスポット溶接し、図1に示すコイル部材を得た。本実施例では端部1aが露出しやすいように、空芯コイル1の端部1bが外部電極2からはみ出るようにした。
【0023】
次に、第1の実施例のモールドコイルの製造方法について説明する。図3に第1の実施例の成形金型内でのコイル部材の配置を示す。図5に第1の実施例の成形体の表面における空芯コイルの端部と外部電極の露出を示す。図6に第1の実施例のモールドコイルの斜視図を示す。
【0024】
図8に示すように、位置出しピン3aを空芯コイル1の内径部分に挿入し、外部電極2がキャビティ4の底部側になるようにコイル部材を配置する。コイル部材を配置した後、第1の実施例で図4を参照しながら説明した操作を行い、磁性体モールド樹脂でコイル部材を封止して硬化させた。磁性体モールド樹脂を硬化させて得た成形体を成形金型から取り出して、図9に示すようにサンドブラストでバリ取りを行うとともに空芯コイル1の端部1aと外部電極2を露出させる。図10に示すように、めっき処理を行って端部1aと外部電極2の表面にめっき層9を形成し、めっき層9によって端部1aと外部電極2とを電気的に接続させたモールドコイルを得る。
【0025】
上記実施例に示すように本発明のモールドコイルの製造方法は、コイル部材において空芯コイルの端部と外部電極を溶接するとともに、モールド成形体とした後にさらに導体膜による接合を行う二重接合法を用いることによって接合信頼性を高めることができる。
【0026】
上記実施例では、コイルを磁性体モールド樹脂で封止する方法として圧縮成形法を用いたが、これに限ることなく、トランスファ成形法やインジェクション成形法などのプラスチック成形法を用いても実施できる。
【0027】
第2の実施例において、めっき処理を用いてコイルの端部と外部電極とを接続したが、めっき処理を行う前に導電性樹脂の塗布や複数のめっき処理を行っても良い。また、めっき層を形成する位置もコイルの端部や外部電極の表面だけではなく、成形体の表面の一部にも形成しても良い。
【符号の説明】
【0028】
1:空芯コイル、1a:端部、2:外部電極、3:上型3:下型、4a:位置出しピン、4b:支持ピン、5:キャビティ、6:磁性体モールド樹脂、7:パンチ、8:半田層、9:めっき層、11:空芯コイル、11a:端部、12:外部電極、13:磁性体モールド樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形法を用いて、磁性体粉末と樹脂とを混練した磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルの製造方法において、
該コイルの端部と外部電極を接合させ、
該コイルと該外部電極を該磁性体モールド樹脂で一体成形して成形体とし、
該成形体の表面から該コイルの端部と該外部電極の少なくとも一部を露出させ、
該成形体の表面から露出した該コイルの端部と該外部電極の表面に導体膜を形成し、
該コイルの端部と該外部電極とを二重接合してなることを特徴とするモールドコイルの製造方法。
【請求項2】
前記磁性体モールド樹脂において、
前記磁性体粉末が該磁性体モールド樹脂中に60vol%以上有することを特徴とする請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項3】
前記コイルの端部と外部電極の接合が溶接によって接合されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項4】
前記導体膜が半田ディップによって形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項5】
前記導体膜がめっき処理によって形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のモールドコイルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−186910(P2010−186910A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30836(P2009−30836)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】