説明

リチウムイオン電池を搭載した電動カート及び電動カート用リチウムイオン電池の充電方法

【課題】 回生電流による回生ブレーキを最大限利用して電動カートの制動を行い、同時に、安全にリチウムイオン電池を充電することが可能な電動カート及び充電方法を提供する。
【解決手段】 複数のセルが接続されてなるリチウムイオン電池3を搭載し、回生電流を制御することにより得る回生ブレーキとブレーキ指令を発生して制動用機械ブレーキ装置を動作状態にすることによる機械ブレーキとを併用する制動制御部21を備えた電動カート1において、制動制御部21は、回生電流により充電されるリチウムイオン電池3のセルの端子間電圧が充電上限電圧よりも低い閾値電圧まで上昇したことを検知すると、回生電流を減少させて回生ブレーキを弱めるとともにブレーキ指令を出力して機械ブレーキを併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池を搭載した電動カート及びリチウムイオン電池の充電方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、小型・軽量・高容量・高出力であるという特徴があり、ゴルフカート等の電動カートの電源に用いることで、鉛蓄電池等に比べて軽量化ができ、長距離の走行が可能になる。そのため、最近では、多くの電動カートに搭載されるようになっている。
【0003】
電動カートは、電動モータを搭載しているため、制動時や斜面を降りているような場合に、電動モータが発電機として機能して発生する回生電流を用いて回生ブレーキを行うことが可能であり、同時に、回生電流によってリチウムイオン電池を充電することが可能である。しかしながら、リチウムイオン電池を充電上限電圧を超えて充電(過充電)することは、電池を急激に劣化させる原因となるだけでなく、発熱・発火を起こす原因ともなる。そのためリチウムイオン電池を充電する場合には、過充電にならないように充電を行って電池を保護する必要がある。
【0004】
そこで、例えば、特開2006−115571公報(特許文献1)には、1回目の充電量を充電上限電圧よりも低く設定し、走行時の電池電圧の測定結果に基づき、2回目以降のリチウムイオン電池の充電電圧を決定することで、充電上限電圧を超えて充電しないようにする技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−115571公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2006−115571公報(特許文献1)の技術を採用するためには、リチウムイオン電池の充電量を低く抑える必要があり、リチウムイオン電池の特性を十分に生かし切れない。すなわち、リチウムイオン電池の定格容量を100%とし、完全放電を0%と定義した場合の充電率(State of Charge:以後SOC)を低く抑える必要がある。そのためリチウムイオン電池自体は高容量の特性を持つにもかかわらず、低いSOCで使用することになり、SOC100%まで充電を行い走行した場合の理論走行距離と比べて、1充電あたりの走行距離が短くなる問題があった。また、充電電圧を低く設定していたとしても、走行方法等の条件が変わることで回生電流の発生量が変わり、充電上限電圧を超えてしまう可能性もある。
【0007】
本発明の目的は、回生電流による回生ブレーキを最大限利用して電動カートの制動を行い、同時に、安全にリチウムイオン電池を充電することが可能な電動カート及び電動カート用リチウムイオン電池の充電方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、大容量であるリチウムイオン電池の特性を生かして走行可能距離を延ばした電動カート及び電動カート用リチウムイオン電池の充電方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動カートは、複数のセルが接続されてなるリチウムイオン電池と、リチウムイオン電池のセルの端子間電圧を個々に検出するセル電圧検出部と、リチウムイオン電池を電源とする電動モータと、電動モータを駆動する駆動信号を出力するアクセルと、駆動信号を入力として電動モータにモータ電流を供給し且つ電動モータの回生時に回生電流をリチウムイオン電池に流すモータ制御部と、ブレーキ指令に基づいて動作状態となる制動用機械ブレーキ装置と、回生電流を制御することにより得る回生ブレーキとブレーキ指令を発生して制動用機械ブレーキ装置を動作状態にすることによる機械ブレーキとを併用する制動制御部とを備えており、モータ制御部は、アクセルから駆動信号が出力されていないときに回生電流をリチウムイオン電池に流すように構成されている。そして、制動制御部は、回生電流により充電されるリチウムイオン電池のセルの端子間電圧が充電上限電圧よりも低い閾値電圧まで上昇したことを検知すると、回生電流を減少させて回生ブレーキを弱めるとともにブレーキ指令を出力して機械ブレーキを併用するように構成されている。このように構成することで、リチウムイオン電池のセルの端子間電圧が閾値電圧に達するまでは、回生ブレーキのみで制動を行い且つリチウムイオン電池を充電できる。そして、リチウムイオン電池のセルの端子間電圧が閾値電圧を超えた場合には、回生ブレーキを弱めて、機械ブレーキを併用することで、リチウムイオン電池を過充電から保護しながら充電し、且つ、電動カートの制動を行うことが可能になる。
【0010】
制動制御部による回生電流の減少のさせ方は、リチウムイオン電池が早期に過充電状態にすることを抑制または防ぐことができれば任意である。例えば、セルの端子間電圧が閾値電圧まで上昇したことを検知すると、回生電流を1/2に減少させるように回生電流を制御してもよい。また、段階的に回生電流を減少させてもよく、その場合には、回生電流を減少させる割合に比例してブレーキ指令を増大させることが好ましい。このように回生電流を減少させ、ブレーキ指令を増大させることで、急激なブレーキの切換を防ぐことができ、制動時の乗員の乗り心地を損なうことを防止できる。
【0011】
なお、セルの端子間電圧が閾値電圧まで上昇したことを検知して、回生電流を減少させることで、ほとんどの場合は、リチウムイオン電池を過充電から保護することができる。ただし、回生電流による充電が継続されると、1セルの端子間電圧が充電上限電圧に達してしまう可能性もある。そこで制動制御部を、リチウムイオン電池のセルが回生電流により充電上限電圧まで充電されたことを検知すると、回生電流が0になるように制御を行い、機械ブレーキのみで制動を行うように制御を行うようにしてもよい。このように制御すれば、リチウムイオン電池の各セルを充電上限電圧を超えて充電することを確実に防止できる。
【0012】
本発明の電動カートは、搭載しているリチウムイオン電池を外部電源で充電するための充電器を備えていてもよい。充電器による充電電圧は、充電上限電圧を超えないようにすればよい。より好ましくは、充電器が充電電圧を設定する充電電圧設定部を備えていて、充電電圧設定部により充電電圧を閾値電圧よりも低い第1の充電電圧に設定して、外部電源によりリチウムイオン電池を充電するようにしてもよい。このように充電電圧を設定すれば、外部電源による充電完了時から、回生ブレーキを優先的に使用して充電と制動とを併用した制御を行うことができる。
【0013】
ただし、第1の充電電圧で充電して実際にカートを走行した場合に、初めに設定した第1の充電電圧があまり高いと、機械ブレーキの使用比率が多くなってしまい回生ブレーキがあまり使用できない不適切な状態が発生することが考えられる。また、初めに設定した第1の充電電圧があまり低いと、SOCが低すぎて走行可能距離が短くなってしまうことが考えられる。そこで、走行した際のデータに基づいて外部電源による充電電圧(第1の充電電圧)を変更すれば、回生ブレーキを中心にして制動を実施するのに適切な充電電圧でリチウムイオン電池を充電できる。例えば、本発明の電動カートがゴルフカートである場合、多くの場合、走行するコースは共通しており、回生電流の発生傾向は共通することが多く、前回走行した際のデータに基づいて外部電源による充電電圧(第1の充電電圧)を変更すれば、適切な充電電圧でリチウムイオン電池を充電できる。そのため、電動カートに電動カートの走行時のリチウムイオン電池のセルの端子間電圧を記憶する電圧記憶部を備え、電圧記憶部に記憶された電動カートの走行時のリチウムイオン電池のセルの端子間電圧のピーク電圧が充電上限電圧よりも低い場合に、充電電圧を、充電上限電圧よりも低く、且つ、第1の充電電圧よりも高い第2の充電電圧に設定変更することが考えられる。走行時のリチウムイオン電池のセルの端子間電圧のピーク電圧が充電上限電圧よりも低い場合は、回生電流によって充電上限電圧を超えて充電される可能性が低いため、第1の充電電圧よりも高い第2の充電電圧で充電しても充電上限電圧を超える可能性が低い。そこで、許容可能な範囲で充電電圧を高くすることで、リチウムイオン電池の充電量を多くして走行可能距離を延ばすことが期待できる。
【0014】
さらに、電動カートの走行時間と、機械ブレーキの動作時間とを記憶する時間記憶部を備え、電動カートの走行時間に対する機械ブレーキの動作時間が所定の割合を超える場合には、充電電圧を、第1の充電電圧よりも低い第3の充電電圧に設定変更することが考えられる。電動カートの走行時間に対する機械ブレーキの動作時間が所定の割合を超える場合は、回生電流による充電が十分に行われていないことを意味しており、回生されているエネルギの多くが損失になっている。そこで、充電電圧を第1の充電電圧よりも低い第3の充電電圧に設定変更することで、機械ブレーキの比率を下げて、回生ブレーキの比率を上げて、効率的に回生電流によってリチウムイオン電池を充電することができる。
【0015】
なお、機械ブレーキの動作時間には、機械ブレーキが動作した時の回生電流の値に応じた重み付けをすると、より適切に判定ができるようになる。すなわち、例えば、回生電流が最大で100[A]発生し、リチウムイオン電池のセルの端子間電圧が閾値電圧まで上昇すると回生電流を50[A]に制御し、充電上限電圧まで上昇すると回生電流を0[A]に制御するような場合には、機械ブレーキが動作した時の回生電流が0[A]の場合には機械ブレーキの動作時間の1倍、50[A]の場合には機械ブレーキの動作時間の0.5倍とするようにすれば、より適切に判定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明をゴルフカートに適用した実施の形態のブロック図である。
【図2】本実施の形態のゴルフカートで制動を行う際の制御のフロー図である。
【図3】図2のフロー図に沿って制動制御を行った場合のリチウムイオン電池の1つのセルの端子間電圧及び充放電電流の波形の一例を示した図である。
【図4】リチウムイオン電池を外部電源で充電する際の充電電圧を決定する過程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を電動カートの一例であるゴルフカートに適用した場合の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態のブロック図であり、図2は、本発明の実施の形態のゴルフカートで制動を行う際の制御のフロー図であり、図3は、図2のフロー図に沿って制動制御を行った場合のリチウムイオン電池の1つのセルの端子間電圧及び充放電電流の波形の一例を示した図であり、図4は、リチウムイオン電池を外部電源で充電する際の充電電圧を決定する過程を示すフロー図である。
【0018】
〈ゴルフカートの構成〉
図1に示すように、本実施の形態のゴルフカート(電動カート)1は、主に、複数のセルが接続されてなるリチウムイオン電池3と、制御部5と、電動モータ7と、駆動信号を出力するアクセルであるアクセルペダル9と、制動用機械ブレーキ装置11とから構成されている。リチウムイオン電池3には複数のセルの端子間電圧を個々に検出するセル電圧検出部4が備えられている。図1においては、セル電圧検出部4の検出線の一部を簡略化して示してある。また図1において、制御部5の入出力部については、複数の入出力部がある場合でも図示の簡略化のために代表して1つの入出力部だけを示してある。複数のセルの端子間電圧を個々に検出するセル電圧検出部4の演算部は制御部5内のマイクロコンピュータ17によって実現されている。セル電圧検出部4が検出する複数のセル電圧は、制御部5のセル電圧入力部51に入力される。またリチウムイオン電池3の一端と制御部5の充電端子部52と充放電端子部53との間には、切り替え回路を構成するリレー15が配置されている。またリチウムイオン電池3の他端と制御部5の入力端子部54との間には、放電電流を検出する電流検出器13が配置されている。電流検出器13の一対の出力部は、制御部5の電流入力部55に接続されている。
【0019】
制御部5は、マイクロコンピュータ17を備えており、このマイクロコンピュータ17はモータ制御部19及び制動制御部21の演算部として機能する。制御部5内のモータ制御部19は、電動モータ7を駆動制御する駆動回路を備えており、この駆動回路に、電動モータ7の動力線が接続されている。なおこの駆動回路は、リチウムイオン電池3の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ機能と、モータが発生する回生電流を直流に変換するコンバータ機能とを有するものである。また制御部5内の制動制御部21は、制動用機械ブレーキ装置11(機械ブレーキ)と回生ブレーキの併用を制御する。モータ制御部19と制動制御部21には、アクセルペダル9からの速度指令と車速センサ23からの車速データとが入力される。
【0020】
本実施の形態では、リチウムイオン電池3を外部電源で充電するための充電器25が備えられている。充電器25は、商用電源(外部電源)27からの交流電圧を直流電圧に変換し、リチウムイオン電池3の充電に必要な直流電圧に電圧調整する。充電器25の出力は制御部5内を経由して充電端子部52から出力される。後述する操作パネル29からの切り替え指令によりリレー15が充放電端子部53から充電端子部52に接続を切り替えることにより、リチウムイオン電池3の充電が行われる。リレー15は操作パネル29を操作することによって切り換えることができる。接点をA側(充電端子部52側)に切り換えることでリチウムイオン電池3と充電器25とが接続されて、商用電源27を利用した充電が行われる。リレー15の接点をB側(充放電端子部53側)に切り換えることで、リチウムイオン電池3と電動モータ7とが制御部5内のモータ制御部19を介して接続される。
【0021】
ゴルフカート1の走行時には、制御部5のモータ制御部19を介して、リチウムイオン電池3と電動モータ7の間では、双方向で電流が流れるため、以降の説明では、リチウムイオン電池3から電動モータ7に流れる電流を放電電流とし、電動モータ7からリチウムイオン電池3に流れる電流を充電電流とする。
【0022】
さらに、本実施の形態では、記憶部31が備えられており、この記憶部31には商用電源27によってリチウムイオン電池3を充電する際の充電電圧を設定するための情報を記憶している。詳細については、後述する。
【0023】
なお、図1は各構成要素の動作を説明するブロック図のため、走行用のタイヤ、ハンドル、乗員の着座するシートなどは図示していない。
【0024】
〈リチウムイオン電池の充放電電流及び電池電圧の測定〉
リチウムイオン電池3の充放電時の電流値は、電流検出部13で電圧値に変換されて制御部5に入力されている。一方、リチウムイオン電池の複数のセルの端子間電圧は、そのまま制御部5に入力されている。これらの電圧値は、制御部5内に内蔵されている図示しないA/D変換器を通して、デジタル信号に変換された後、マイクロコンピュータ17に入力されて演算処理に使用する。
【0025】
〈ゴルフカートの走行、制動〉
運転者がアクセルペダル9を踏み込むと、速度指令がモータ制御部19に入力される。モータ制御部19は、速度指令に応じてインバータ動作を行って電動モータ7に対して駆動電流を出力する。アクセルペダル9が離されると、速度指令がゼロとなり、モータ制御部19は電動モータ7から回生される回生電流をリチウムイオン電池3へ回生するためのコンバータ動作を行う。リチウムイオン電池3から電動モータ7に直流電流が供給されて電動モータ7が回転すると、図示しないクラッチ、車軸を介して駆動力を走行用のタイヤに伝達し、ゴルフカート1が走行を開始する。
【0026】
ゴルフカート1の加速は、運転者がアクセルペダル9を踏み込んだ量に応じて出力される速度指令を制御部5のモータ制御部19内でトルク指令及び電流指令に変換することにより実行される。減速は、アクセルペダル9を離すことで速度指令がゼロとなるか、または、車速センサ23により検出されたゴルフカート1の速度が走行時の制限速度(例えば、20[km/h])を超える場合、モータ制御部19内の駆動回路がコンバータ動作を行う状態となり、主として電動モータ7から回生される回生電流をリチウムイオン電池3側に回生することにより生じる回生ブレーキと、制動制御部21からの指令で動作する機械ブレーキの併用で実施される。制動制御部21が自動で行う制動以上の減速を行いたい場合は、図示しないブレーキペダルを運転者が踏み込むことによって、制動用機械ブレーキ装置11を強制的に動作させることにより減速が可能である。ブレーキペダルを踏み込んだ量に応じて、制動制御部21が機械ブレーキをかける。
【0027】
ゴルフカート1が、ゴルフ場の平坦路や上り斜面を走行する時には、リチウムイオン電池3から電動モータ7に放電電流が流れる。リチウムイオン電池3が放電すると、リチウムイオン電池の電圧は低下する。なおモータ制御部19は、電動モータの減速時にも、電動モータが発生する回生電流をリチウムイオン電池3側に回生する。
【0028】
ゴルフカート1が、ゴルフ場の下り斜面を走行する時、アクセルペダル9を離す、または、車速センサ23により検出されたゴルフカート1の速度が走行時の制限速度を超えている場合、制動制御部21が回生ブレーキと機械ブレーキを併用した制動を行う。このとき、ゴルフカート1の制動時の運動エネルギを、タイヤから車軸を介して電動モータ7に伝達し、電動モータ7の発電機能によって電気エネルギに変換して、リチウムイオン電池3に戻す、いわゆる回生充電が行われる。このような制動方式を回生ブレーキと称する。回生充電により、リチウムイオン電池3は充電されるため、リチウムイオン電池3の電圧は上昇する。
【0029】
〈ゴルフカートの運用パターン〉
一般的なゴルフカートの運用パターンは、次の通りである。
【0030】
(1)充電状態:ゴルフカート車庫で、ゴルフカート1を充電する。本実施の形態では、充電上限電圧Vf[V]以下の値V1[V](第1の充電電圧)まで充電を行う。例えば、充電上限電圧Vf=4.2[V/セル]に対して、V1=4.13[V/セル]になるまで充電を行う。
【0031】
(2)停車状態:充電器の充電電圧に達すると、充電が終了する。その後、走行開始までゴルフカート1は停車している。
【0032】
(3)走行状態:運転者が乗車し、ゴルフコースを走行している状態である。ゴルフ場によって、コース中には、(i)平坦路、(ii)上り斜面、(iii)下り斜面が存在する。
【0033】
(4)停車状態:ゴルフコースの走行が終了すると、ゴルフカート1はゴルフカート車庫で停車する。
【0034】
ゴルフカート1は(1)〜(4)の状態を1サイクルとする運用パターンで運用される。
【0035】
以下特に、上記(3)の走行状態における制動制御と上記(1)の充電状態における充電制御について説明する。
【0036】
〈制動制御〉
図2を用いて、本実施の形態におけるゴルフカート1の制動制御を説明する。本実施の形態では、ゴルフカート1のアクセルペダル9が離されているか否かによって制限速度が切り換わるように設定されている(ステップST1)。アクセルペダル9を離すことによって速度指令が0になると、ゴルフカート1が停止するように制限速度が0[km/h]に設定され(ステップST2)、アクセルペダル9が踏み込まれている場合には走行時の制限速度が20[km/h]に設定される(ステップST3)。アクセルペダル9が離されたときには、当然にして速度指令は0[km/h]であり、ゴルフカート1が停止するまで回生状態は継続される。またアクセルペダル9が操作されている状態で、ゴルフカート1の速度が制限速度を超える場合は、典型的には、坂道を下っている場合である。したがってこのときには、ゴルフカートが走行中でも、回生状態が発生することになる。そこでいずれの場合であっても、実際の速度が制限速度(0[km/h]または20[km/h])を超えていると(ステップST4)、リチウムイオン電池3の各セルの電圧を測定し(ステップST5)、そのうち最大の電圧を示したセルの電圧を最大セル電圧Vb[V]として(ステップST6)、閾値電圧Vref[V](本実施の形態ではVref=4.15[V])と比較を行う(ステップST7)。最大セル電圧Vb[V]が、閾値電圧Vref[V]に達しない場合には、電動モータ7の最大電流以下(例えば、100[A])になるように電動モータ7を制御し、機械ブレーキをかけないで回生ブレーキだけで制動を行う(ステップST8)。最大セル電圧Vb[V]が閾値電圧Vref[V]を超えている場合には、リチウムイオン電池が過充電にならないようにするために回生電流を減少させる。本実施の形態では、最大セル電圧Vb[V]を充電上限電圧Vf[V]と比較し(ステップST9)、充電上限電圧Vf[V]に達しない場合には、回生電流が50[A]以下になるように、モータ制御部19のコンバータ機能が回生電流の回生を制御する。ただし、回生電流を減少させることで回生ブレーキを弱めることになるため、併せて、機械ブレーキを作動させ、制動のバランスをとるようにする(ステップST10)。最大セル電圧Vb[V]が充電上限電圧Vf[V]以上の場合には、回生電流がリチウムイオン電池3側に回生しないようにモータ制御部19のコンバータ機能が変換動作を停止する。その結果、機械ブレーキのみで制動を行う(ステップST11)。機械ブレーキを用いて制動を行う場合(ステップST10及びステップST11)には、ゴルフカート1が制限速度以下になるかを監視し(ステップST12)、制限速度以下にならない場合には、機械ブレーキの割合を増加させる(ステップST13)。その後、ゴルフカート1が停止するまで、ステップST1〜ステップST14を繰り返す(ステップST14)。本実施の形態では、5[ms]の間隔でステップST1〜ステップST14を繰り返している。ステップST14でゴルフカート1の停止が検出されると動作は終了する。アクセルペダル9が離されていない状態では、ステップST14で、ゴルフカート1が停止することはないため、アクセルペダル9が離されない限り、常にステップST1へ戻ることになる。
【0037】
なお、リチウムイオン電池全体の電圧ではなく、最大セル電圧Vb[V]を比較対象にしているのは、リチウムイオン電池を構成するセルの特性にはバラツキがあるのが通常であるためである。1つのセルでも充電上限電圧に達してしまうと、リチウムイオン電池3の特性に影響が出てしまうため、最も早く充電上限電圧に達してしまうセルを基準に電圧を制御することが望ましいため、最大セル電圧Vb[V]を比較対象にしている。
【0038】
図3は、図2のフロー図に沿って制動制御を行った場合の一例である。なお、(a)の実線が最大セル電圧Vb[V]、(b)の実線がリチウムイオン電池3の充放電電流であり、図3において、充電電流は正極性、放電電流は負極性で描かれている。
【0039】
図3の例では、時間t0で下り斜面を降り始めてアクセルペダル9を踏み込んだ状態である。時間t1まで、リチウムイオン電池からは放電が行われ、セル電圧は第1の充電電圧V1[V]から下降している。本例では、時間t1において、閾値電圧Vref[V]よりも最大セル電圧Vb[V]が低くなっているため、機械ブレーキを用いることなく、回生ブレーキでのみ制動が行われている(ステップST8)。その後、回生電流によって充電が行われ、時間t2において、最大セル電圧Vb[V]が閾値電圧Vref[V]に達したため、回生電流を減少させ、機械ブレーキを併用して制動が行われている(ステップST10)。回生電流が減少したため、最大セル電圧Vb[V]の上昇を示す傾きが小さくなっている。さらに、その後、時間t3において、最大セル電圧Vb[V]が充電上限電圧Vf[V]に達したため、回生電流を0[A]にして、機械ブレーキでのみ制動が行われている(ステップST11)。回生電流が0[A]であるため、充電は行われず、最大セル電圧Vb[V]は上昇しなくなっている。
【0040】
以上のように、本発明を適用したゴルフカート1では、リチウムイオン電池の電圧を測定し、閾値電圧Vref[V]及び充電上限電圧Vf[V]と比較を行い、回生ブレーキと機械ブレーキを併用した制動制御を行うことで、リチウムイオン電池を過充電から保護しながら充電し、且つ、ゴルフカートの制動を行うことが可能になる。
【0041】
〈充電電圧の決定〉
本実施の形態では、充電電圧を第1の充電電圧(V1=4.13[V/セル])としている。しかしながら、走行コースの起伏の程度や長さに応じて、より適切な充電電圧で充電することが望ましい場合がある。特に、ゴルフカートの場合、多くの場合、走行するコースは共通しており、回生電流の発生傾向は共通することが多く、前回走行した際のデータに基づいて外部電源による充電電圧を変更すれば、より適切な充電電圧でリチウムイオン電池を充電できる。そこで、本実施の形態では、ゴルフカート1の走行時のリチウムイオン電池3のセルの端子間電圧を記憶する電圧記憶部33と、ゴルフカート1の走行時間と機械ブレーキの動作時間とを記憶する時間記憶部35を備えた記憶部31を備えており、記憶された情報に基づいて商用電源27で充電を開始する前に制御部5が充電器25の充電電圧を設定している。
【0042】
図4は、充電電圧を設定するまでの過程を示すフロー図である。まず、前提として、ゴルフカート1は、上記〈ゴルフカートの運用パターン〉に従い、第1の充電電圧(V1=4.13[V/セル])まで充電され、ゴルフ場のコースを走行し、(4)の停車状態にあるとする。
【0043】
商用電源27とゴルフカート1の給電口を給電ケーブルで接続し、充電開始の指示を操作パネル29から入力すると、制御部5は、電圧記憶部33から前回の走行時の最大セル電圧Vb[V]のピーク電圧Vp[V]を読み出す(ステップST21)。そして、ピーク電圧Vp[V]と充電上限電圧Vf[V]とを比較し(ステップST22)、ピーク電圧Vp[V]が充電上限電圧Vf[V]に満たない場合には、充電電圧を充電上限電圧よりも低く、且つ、第1の充電電圧よりも高い第2の充電電圧V2[V]に設定変更する(ステップST23)。例えば、4.13[V]に0.02[V]を加えた4.15[V]を第2の充電電圧とする。第1の充電電圧よりも高い電圧で充電しても充電上限電圧を超えることはないと判断できるためである。充電電圧の設定変更は、充電器25の充電電圧設定部26を用いて行う。ピーク電圧Vp[V]が充電上限電圧Vf[V]を超える場合には、更に走行時の機械ブレーキの動作時間Tm[s]を算出する(ステップST24)。動作時間は単純に動作時間を積算しても良いが、本実施の形態では、回生電流の0[A]、50[A]、100[A]の3つの場合で機械ブレーキの動作時間に対して重み付けを行っている。すなわち、
Tm=(回生電流0[A]のときの機械ブレーキ動作時間×1.0)+(回生電流50[A]のときの機械ブレーキ動作時間×0.5)
で求まる(なお、回生電流100[A]のときは、機械ブレーキが作動していないので、算入していない。)。このようにして求まった動作時間Tm[s]がゴルフカート1の走行時間T[s]に対して所定の割合を超えている場合には(ステップST25)、第1の充電電圧よりも低い第3の充電電圧V3[V]に設定変更する(ステップST26)例えば、4.13[V]から0.02[V]を減じた4.11[V]を第3の充電電圧とする。機械ブレーキが作動している割合が増えているため、このようにすることで、回生ブレーキで制動を行う割合を増やすことができる。動作時間Tm[s]がゴルフカート1の走行時間T[s]に対して所定の割合を超えていない場合には、第1の充電電圧V1[V]が適切な値であったとして、改めて第1の充電電圧V1[V]を用いて充電を行う。充電電圧の判定は充電の度に行ってもよいし、希望する場合にのみ実行できるようにしておいてもよいのはもちろんである。
【0044】
なお、上記回生電流の設定値、閾値などは一例として示したものであり、実施の形態によって適宜変更されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、回生電流による回生ブレーキを最大限利用して電動カートの制動を行い、同時に、安全にリチウムイオン電池を充電することができる。また、回生ブレーキと機械ブレーキを併用する電動カートで、回生ブレーキの比率を増やすことができる。そのため、リチウムイオン電池を電源とした電動カートにおいて、リチウムイオン電池の特性を最大限生かすことができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ゴルフカート
3 リチウムイオン電池
5 制御部
7 電動モータ
9 アクセルペダル
11 制動用機械ブレーキ装置
13 電流検出器
15 リレー
17 マイクロコンピュータ
19 モータ制御部
21 制動制御部
23 車速センサ
25 充電器
27 商用電源
29 操作パネル
31 記憶部
33 電圧記憶部
35 時間記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルが接続されてなるリチウムイオン電池と、
前記リチウムイオン電池の前記セルの端子間電圧を個々に検出するセル電圧検出部と、
前記リチウムイオン電池を電源とする電動モータと、
前記電動モータを駆動する駆動信号を出力するアクセルと、
前記駆動信号を入力として前記電動モータにモータ電流を供給し且つ前記電動モータの回生時に回生電流を前記リチウムイオン電池に流すモータ制御部と、
ブレーキ指令に基づいて動作状態となる制動用機械ブレーキ装置と、
前記回生電流を制御することにより得る回生ブレーキと前記ブレーキ指令を発生して前記制動用機械ブレーキ装置を動作状態にすることによる機械ブレーキとを併用する制動制御部とを備え、
前記モータ制御部が、前記アクセルから前記駆動信号が出力されていないときに前記回生電流を前記リチウムイオン電池に流すように構成されている電動カートであって、
前記制動制御部は、前記回生電流により充電される前記リチウムイオン電池の前記セルの端子間電圧が充電上限電圧よりも低い閾値電圧まで上昇したことを検知すると、前記回生電流を減少させて前記回生ブレーキを弱めるとともに前記ブレーキ指令を出力して前記機械ブレーキを併用することを特徴とする電動カート。
【請求項2】
前記制動制御部は、前記セルの端子間電圧が前記閾値電圧まで上昇したことを検知すると、前記回生電流を1/2に減少させるように前記回生電流を制御することを特徴とする請求項1に記載の電動カート。
【請求項3】
前記制動制御部は、前記リチウムイオン電池が前記閾値電圧まで充電されたことを検知すると、前記回生電流を減少させる割合に比例して前記ブレーキ指令を増大させることを特徴とする請求項1に記載の電動カート。
【請求項4】
前記制動制御部は、前記リチウムイオン電池の前記セルが前記回生電流により前記充電上限電圧まで充電されたことを検知すると、前記回生電流が0になるように制御を行い、前記機械ブレーキのみで制動を行うように制御を行うことを特徴とする請求項1乃至3に記載のいずれか1項に記載の電動カート。
【請求項5】
前記電動カートは、前記リチウムイオン電池を外部電源により充電するための充電器を備えており、
前記充電器は、充電電圧を設定する充電電圧設定部を備えており、前記充電電圧を前記閾値電圧よりも低い第1の充電電圧に設定してあることを特徴とする請求項1に記載の電動カート。
【請求項6】
前記電動カートは、更に、前記電動カートの走行時の前記リチウムイオン電池の前記セルの端子間電圧を記憶する電圧記憶部を備えており、
前記充電器は、前記電圧記憶部に記憶された前記電動カートの走行時の前記リチウムイオン電池の前記セルの端子間電圧のピーク電圧が前記充電上限電圧よりも低い場合には、前記充電電圧を、前記充電上限電圧よりも低く、且つ、前記第1の充電電圧よりも高い第2の充電電圧に設定変更することを特徴とする請求項5に記載の電動カート。
【請求項7】
前記電動カートは、更に、前記電動カートの走行時間と、前記機械ブレーキの動作時間とを記憶する時間記憶部を備えており、
前記充電器は、前記電動カートの走行時間に対する前記機械ブレーキの動作時間が所定の割合を超える場合には、前記充電電圧を、前記第1の充電電圧よりも低い第3の充電電圧に設定変更することを特徴とする請求項5または6に記載の電動カート。
【請求項8】
前記機械ブレーキの動作時間には、前記機械ブレーキが動作した時の回生電流の値に応じた重み付けがされていることを特徴とする請求項7に記載の電動カート。
【請求項9】
請求項1に記載の電動カートに搭載したリチウムイオン電池を外部電源によって充電する方法であって、
前記電動カートは、前記リチウムイオン電池を外部電源により充電するための充電器を備えており、
前記充電器は、充電電圧を設定する充電電圧設定部を備えており、
前記充電電圧を前記閾値電圧よりも低い第1の充電電圧に設定し、前記リチウムイオン電池の充電を行うことを特徴とする電動カート用リチウムイオン電池の充電方法。
【請求項10】
前記電動カートには、更に、前記電動カートの走行時の前記リチウムイオン電池の端子間電圧を記憶する電圧記憶部が備えられており、
前記電圧記憶部に記憶された前記電動カートの走行時の前記リチウムイオン電池の端子間電圧のピーク電圧が前記充電上限電圧よりも低い場合には、前記充電電圧を、前記充電上限電圧よりも低く、且つ、前記第1の充電電圧よりも高い第2の充電電圧に設定変更し、前記リチウムイオン電池の充電を行うことを特徴とする請求項9に記載の電動カート用リチウムイオン電池の充電方法。
【請求項11】
前記電動カートには、更に、前記電動カートの走行時間と、前記機械ブレーキの動作時間とを記憶する時間記憶部が備えられており、
前記電動カートの走行時間に対する前記機械ブレーキの動作時間が所定の割合を超える場合には、前記充電電圧を、前記第1の充電電圧よりも低い第3の充電電圧に設定変更し、前記リチウムイオン電池の充電を行うことを特徴とする請求項9に記載の電動カート用リチウムイオン電池の充電方法。
【請求項12】
前記機械ブレーキの動作時間には、前記機械ブレーキが動作した時の回生電流の値に応じた重み付けがされていることを特徴とする請求項11に記載の電動カート用リチウムイオン電池の充電方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−249365(P2012−249365A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117326(P2011−117326)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】