説明

リチウムタンタレートの加工方法

【課題】 加工品質の悪化や加工不良、ウエーハの破損を抑制可能なリチウムタンタレートの加工方法を提供することである。
【解決手段】 リチウムタンタレートを研削又は研磨するリチウムタンタレートの加工方法であって、リチウムタンタレートをチャックテーブルで保持する保持ステップと、該チャックテーブルで保持されたリチウムタンタレートを加工手段で研削又は研磨する加工ステップとを備え、該加工ステップでは、低温の加工水をリチウムタンタレートと該加工手段へ供給しつつ、研削又は研磨を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムタンタレートを研削又は研磨するリチウムタンタレートの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の周波数帯域の電気信号を取り出すSAWフィルター(Surface Acoustic Wave Filter:表面弾性波フィルター)は、RFフィルター(Radio Frequency Filter)やIFフィルター(Intermediate Frequency Filter)として殆どの携帯電話で使用されている他、デジタルテレビやGPS、無線LAN等のフィルターとしても広く使用されている。
【0003】
SAWフィルターの製造プロセスでは、回転引き上げ法やニ重るつぼ法でリチウムタンタレート(LiTaO)の単結晶インゴットが育成され、その後、インゴットをウエーハ状にスライスした後、研削装置や研磨装置で研削、研磨して平坦化する(例えば、特開2001−332949号公報参照)。
【0004】
平坦化されたリチウムタンタレートウエーハ上には、フォトリソグラフィ技術を用いてアルミニウムやアルミニウム合金の薄膜で例えば周期2〜5μm程度の櫛型電極を複数形成する。
【0005】
櫛型電極が表面に形成されたリチウムタンタレートウエーハは、研削装置で裏面が研削されて所定の厚みへと薄化された後、適宜研磨装置で研削面を研磨することで研削によって生じた歪が除去される(例えば、特開2005−28550号公報参照)。
【0006】
その後、切削装置で薄化したリチウムタンタレートウエーハを切削して個々のチップへと分割する。分割されたチップをセラミックやガラスパッケージで気密封止することでSAWフィルターが製造される。
【0007】
近年、携帯電話等の電気機器は小型化、薄型化の傾向にあり、これらの電気機器に組み込まれるSAWフィルターも小型化、薄型化が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−332949号公報
【特許文献2】特開2005−28550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、リチウムタンタレートウエーハを研削又は研磨すると、「むしれ」と呼ばれる加工品質の悪化が生じることがある。更に、よりウエーハを平坦化するために、細粒径の砥粒を含む研削砥石でリチウムタンタレートウエーハを研削すると、研削砥石に目詰まりや目つぶれと呼ばれる異常が発生し、研削不良を引き起こすことがある。
【0010】
また、リチウムタンタレートウエーハを研削又は研磨して薄化すると反りが大きく発生し、発生した反りによってウエーハ自体が割れてしまうことがある。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工品質の悪化や加工不良、ウエーハの破損を抑制可能なリチウムタンタレートの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、リチウムタンタレートを研削又は研磨するリチウムタンタレートの加工方法であって、リチウムタンタレートをチャックテーブルで保持する保持ステップと、該チャックテーブルで保持されたリチウムタンタレートを加工手段で研削又は研磨する加工ステップとを備え、該加工ステップでは、低温の加工水をリチウムタンタレートと該加工手段へ供給しつつ、研削又は研磨を実施するリチウムタンタレートの加工方法が提供される。
【0013】
好ましくは、加工手段へ供給する低温の加工水は5℃以下の温度である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加工方法では、低温の加工水を加工手段とリチウムタンタレートウエーハへ供給しつつ、ウエーハに研削加工又は研磨加工を実施するので、「むしれ」の発生を防止することができ、加工品質の悪化や加工不良、ウエーハの破損を抑制することができ、加工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の加工方法を実施するのに適した研削装置の外観斜視図である。
【図2】保持ステップを示す斜視図である。
【図3】図3(A)は研削ステップを示す斜視図、図3(B)は研削ステップを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明の加工方法を実施するのに適した研削装置2の斜視図が示されている。4は研削装置2のハウジングであり、ハウジング4の後方にはコラム6が立設されている。コラム6には、上下方向に延びる一対のガイドレール(一本のみ図示)8が固定されている。
【0017】
この一対のガイドレール8に沿って研削ユニット(研削手段)10が上下方向に移動可能に装着されている。研削ユニット10は、そのハウジング20が一対のガイドレール8に沿って上下方向に移動する移動基台12に取り付けられている。
【0018】
研削ユニット10は、ハウジング20と、ハウジング20中に回転可能に収容されたスピンドル21(図3(B)参照)と、スピンドル21を回転駆動するサーボモータ22と、スピンドルの先端に固定されたホイールマウント24と、ホイールマウント24に着脱可能に装着された先端に複数の研削砥石26が固着された研削ホイール25とを含んでいる。
【0019】
本発明の研削方法で使用する研削ホイール25は、個々の研削砥石26が隙間を開けずに連続して配設されたタイプ(コンティニアスタイプ)の研削ホイールが好ましい。勿論、セグメント状の研削砥石26が所定の隙間を開けて配設されている研削ホイールも使用可能である。また、リチウムタンタレートウエーハ11の高い精度での平坦化を実施するためには、細粒径の砥粒を含む研削砥石26を使用するのが好ましい。
【0020】
研削ユニット10は、研削ユニット10を一対の案内レール8に沿って上下方向に移動するボールねじ14とパルスモータ16とから構成される研削ユニット送り機構18を備えている。パルスモータ16をパルス駆動すると、ボールねじ14が回転し、移動基台12が上下方向に移動される。
【0021】
ハウジング4の中間部分にはチャックテーブル50を有するチャックテーブル機構28が配設されており、チャックテーブル機構28は図示しないチャックテーブル移動機構によりY軸方向に移動される。30はチャックテーブル機構28をカバーする蛇腹である。
【0022】
ハウジング4の前側部分には、第1のウエーハカセット32と、第2のウエーハカセット34と、ウエーハ搬送用ロボット36と、複数の位置決めピン40を有する位置決め機構38と、ウエーハ搬入機構(ローディングアーム)42と、ウエーハ搬出機構(アンローディングアーム)44と、スピナユニット46が配設されている。
【0023】
また、ハウジング4の概略中央部には、チャックテーブル50を洗浄する洗浄水噴射ノズル48が設けられている。この洗浄水噴射ノズル48は、チャックテーブル50が装置手前側のウエーハ搬入・搬出領域に位置付けられた状態において、チャックテーブル50に向かって洗浄水を噴射する。52は研削水供給ノズルであり、先端の噴出口53から低温の研削水を研削ホイール25とチャックテーブル50に保持されたリチウムタンタレートウエーハ11に噴出する。
【0024】
本発明の研削方法では、第1のウエーハカセット32中に収容されているリチウムタンタレートウエーハ11を、ウエーハ搬送用ロボット36で把持して位置決め機構38に搬送し、位置決めピン40で中心合わせを行った後、ウエーハ搬入機構42でリチウムタンタレートウエーハ11を吸引保持してチャックテーブル50まで搬送する。
【0025】
チャックテーブル50に吸引保持されたリチウムタンタレートウエーハ11が図2に示されている。このリチウムタンタレートウエーハ11はインゴットからスライスされた厚さ1〜2mmのウエーハであり、本発明の研削方法ではウエーハ11の表面及び裏面を研削して平坦化する。
【0026】
次に、図3を参照して、本発明の研削ステップについて説明する。本発明の研削ステップでは、チャックテーブル50で吸引保持したリチウムタンタレートウエーハ11に、研削ユニット送り機構18を駆動することにより研削ホイール25の研削砥石26を接触させ、所定の研削送り速度で研削ホイール25を研削送りしながらチャックテーブル50を矢印aで示す方向に例えば100rpmで回転しつつ、研削ホイール25を矢印bで示す方向に例えば2000〜3000rpmで回転して、リチウムタンタレートウエーハ11の研削を実施する。
【0027】
この研削時には、研削水供給ノズル52の噴出口53から低温の研削水55をリチウムタンタレートウエーハ11及び研削ホイール25に供給しながら研削を実施する。この低温の研削水55は、5℃以下の純水が好ましい。
【0028】
低温の研削水を供給しながら研削を実施することにより、研削加工で発生する加工熱を冷却することができ、「むしれ」とよばれる加工品質の悪化を防止することができる。
【実施例1】
【0029】
平均粒径5μm以下のダイアモンド砥粒をビトリファイドボンドで結合して焼成した研削砥石を用いて、研削水として5℃の純水を供給しながら、φ4インチのリチウムタンタレートウエーハのラップ仕上げ面を研削したところ、研削装置のスピンドル負荷電流値の上昇や研削砥石の異常な磨耗がなく、また加工品質も問題なく研削を行うことができた。10枚のリチウムタンタレートウエーハを連続研削しても、特に問題は発生しなかった。
【0030】
(比較例)
実施例1と同様に平均粒径5μm以下のダイアモンド砥粒をビトリファイドボンドで結合して焼成した研削砥石を用いて、研削水として22℃の純水を供給しながら、φ4インチのリチウムタンタレートウエーハのラップ仕上げ面を研削したところ、研削装置のスピンドル負荷電流値が急上昇したため、研削不可と判断し、研削を中止した。
【0031】
上述した実施形態はインゴットから切り出したリチウムタンタレートウエーハの研削について説明したが、本発明の研削方法は、表面に複数の櫛歯電極が形成されたリチウムタンタレートウエーハの裏面の研削にも同様に適用可能である。
【0032】
更に、研削装置で研削されたリチウムタンタレートに発生する研削歪を除去するために、好ましくは5℃以下の低温の加工水を供給しながら研削面を研磨する研磨方法にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
2 研削装置
10 研削ユニット
11 リチウムタンタレートウエーハ
25 研削ホイール
26 研削砥石
50 チャックテーブル
52 研削水供給ノズル
55 研削水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムタンタレートを研削又は研磨するリチウムタンタレートの加工方法であって、
リチウムタンタレートをチャックテーブルで保持する保持ステップと、
該チャックテーブルで保持されたリチウムタンタレートを加工手段で研削又は研磨する加工ステップとを備え、
該加工ステップでは、低温の加工水をリチウムタンタレートと該加工手段へ供給しつつ、研削又は研磨を実施するリチウムタンタレートの加工方法。
【請求項2】
前記低温の加工水は5℃以下の温度を有している請求項1記載のリチウムタンタレートの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−16779(P2012−16779A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155373(P2010−155373)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】