リチウム二次電池の放電容量の予測方法
【課題】正極活物質そのものを解析することで、迅速に容量値が極大となるLi/Me比を予測する解析方法を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池の内、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物において、VSM(振動試料型磁力計)により常磁性体部分の磁化率を評価することにより、特性(特に容量)を判定する。
【解決手段】リチウム二次電池の内、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物において、VSM(振動試料型磁力計)により常磁性体部分の磁化率を評価することにより、特性(特に容量)を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池の放電容量の予測方法であり、特にそのリチウム二次電池の正極活物質材料であるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物の磁化率の値を評価することによって、放電容量を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、民生用電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源を担う小型・軽量で、高エネルギー密度を有する二次電池への要望も高まっている。このような観点から、非水系二次電池、特にリチウム二次電池は、とりわけ高電圧・高エネルギー密度を有する電池としてその期待は大きく、開発が急がれている。
【0003】
近年、リチウム含有複合ニッケル酸化物を正極活物質とし、負極に炭素質材料を用いた電池が高エネルギー密度を得られるリチウム二次電池として注目を集めている。このリチウム含有複合ニッケル酸化物としてコバルト酸リチウム(LiCoO2),ニッケル酸リチウム(LiNiO2),マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等が知られている。コバルト酸リチウムを用いる二次電池は既に商品化されているが、コバルト酸リチウムはコバルトの資源の問題と、コストの問題からこれに代わるコバルト固溶リチウム複合ニッケルニッケル酸化物の開発が進んでおり、ニッケル酸リチウムなどが注目されている。ニッケル酸リチウムはコバルト酸リチウムに比べて低コスト、高容量であるため、研究開発が盛んに行われている。しかしながら、LiNiO2はサイクル特性および熱安定性が低いという問題点を有している。
【0004】
これらリチウムイオン二次電池の内、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質に持つ場合、そのリチウム二次電池の充放電容量は、その組成、特にLiと、それ以外のMe(メタル)=Ni,Co,Mn,Mg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Feなどの金属元素の配合比率によって影響され、ある特定のLi/Me(メタル)比で極大値を示すという特徴を持っている。また、この正極活物質の焼成時の温度や酸素雰囲気、焼成時間などの焼成条件によって正極活物質の結晶性が変わり、結果として充放電容量に大きな影響を与えるという特徴を持っている。このことは、正極活物質の組成や、原料となる粉体の製造条件、粉体の粒径、形状などによって、リチウム二次電池の特性が大きく変わることを意味しており、電池の品質の安定化を実現するために大きな弊害となっている。この品質、特に充放電容量を判定するためには、従来は負極および電解質を組み合わせて電池を試作する必要があり、多くの時間と労力を必要とするとともに、電池試作の後で不良と判断された電池は廃棄するしかなく、大きなロスを生み出しているのが現状であった。
【0005】
これに対して、従来技術としては、リチウム二次電池の正極材料を単独で評価するに際し、Mnイオンの原子価およびイオン分布に敏感な磁気測定を用いて、この材料を用いて得られるリチウムイオン電池の充放電容量および作動電圧の予測を迅速に行う素材評価方法が記載されている。ここでの磁気特性評価方法としては、試料の冷却および加熱が必要な磁気天秤、SQUIDなどで、測定温度範囲としては液体ヘリウムもしくは液体窒素温度から室温までのデータから、磁化率の温度依存性のデータを得ることで充放電特性の予測を行うとしている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また他の従来技術では、電極材料の飽和磁化を測定することにより、その電極材料に含
まれる不純物を定量評価することができるため、電極材料の不純物の多い場合にその材料を不良としてロットアウトにし、生産性歩留まりの低下を可能な限り抑制する電極材料の評価方法等が記載されている。ここでの飽和磁化を測定する磁気特性評価方法としては、VSM(Vibrating Sample Magnetometer:振動試料型磁力計)が好適であるとしている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−180722号公報
【特許文献2】特開2009−164115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、この特許文献1に記載の方法は、リチウムマンガンスピネルをリチウム2次電池における正極材料として使用した場合の電池の場合は、その充放電特性を予測することが出来るものの、スピネル系以外の正極活物質材料では、本方式では予測することができない。また、その判断基準である磁気特性として、材料の磁化率の温度依存性を評価する必要があり、液体ヘリウムもしくは液体窒素温度から室温までのデータを取得する必要があるため、試料の冷却および加熱が必要な磁気天秤、SQUIDなどで評価を行う。このため、評価の方法や容量の予測方法には、高度な知識と技能、ある程度の評価時間を必要とするため、定常的に生産の現場で不良ロットを選別するなどの目的に使用するのは困難であった。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、電極材料の飽和磁化を求めることにより、その電極材料に含まれる不純物の量を予測して、多い場合はその材料を不良と判断することが出来るものの、電極材料そのものの特性(放電容量など)を予測することは出来ず、不純物は少ないが材料特性そのものが悪い場合、例えば配合時のLi/Me(メタル)比がずれて必要な電池容量が出ないような場合に、不良と判定することができない。
【0010】
従って、スピネル系以外の正極活物質の材料においても、電池の品質を安定化するために、正極活物質そのものを製造後に簡単な方法で敏速に評価をして電池を試作することなく、迅速に正極活物質材料の特性(特に放電容量)を予測する方法を確立することが要求されていた。
【0011】
我々は、上記の課題を解決する方法について鋭意研究を重ねた結果、製造後のスピネル系以外の正極活物質材料においても、簡敏なVSM(振動試料型磁力計)による評価によって、その正極活物質の常磁性体を示す部分の傾きである磁化率の値を評価することにより、当該正極活物質材料を用いて電池試作した場合の放電容量値と磁化率の値が非常に密接な関係にあることを見出した。
【0012】
本発明は、この評価方法によって測定した常磁性体部分の磁化率が大きいほど、正極活物質の放電容量値が大きくなる傾向があることを見出し、この結果から、磁化率の評価を行うことにより、電池試作を行うことなく正極活物質の材料を分析することで、容易に放電容量値を予測することが出来る、リチウム二次電池の放電容量の予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のリチウム二次電池の放電容量の予測方法とは、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0
.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質として用いるリチウム二次電池の放電容量の予測方法において、上記正極活物質を振動試料型磁力計によって常磁性体材料の磁化率を測定し、この磁化率の値によって放電容量を予測することを特徴とした、正極活物質によるリチウム二次電池の放電容量の予測方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、正極活物質材料の磁化率を測定することにより、電池試作を行うことなく、容易に放電容量値を予測することが出来るとともに、様々な工程バラつきなどの要因で、放電容量の低いロットが発生した時に、そのロットを後工程に流すことなく、判定して除外することもできる。このことにより、正極活物質の生産工程において、生産の効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】VSM(振動試料型磁力計)による評価方法の模式図
【図2】強磁性体サンプルのVSM測定結果グラフ
【図3】常磁性体サンプルのVSM測定結果グラフ
【図4】リチウム二次電池の生産の模式図
【図5】試料(1)のVSM評価結果グラフ
【図6】試料(2)のVSM評価結果グラフ
【図7】試料(3)のVSM評価結果グラフ
【図8】試料(4)のVSM評価結果グラフ
【図9】実施例1 NMC組成の放電容量−磁化率依存性グラフ
【図10】試料AのVSM評価結果グラフ
【図11】試料BのVSM評価結果グラフ
【図12】試料CのVSM評価結果グラフ
【図13】試料DのVSM評価結果グラフ
【図14】試料EのVSM評価結果グラフ
【図15】試料FのVSM評価結果グラフ
【図16】試料GのVSM評価結果グラフ
【図17】実施例2 NCA組成の放電容量−磁化率依存性グラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第一の発明は、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質として用いるリチウム二次電池の放電容量の予測方法において、上記正極活物質を振動試料型磁力計によって常磁性体材料の磁化率を測定し、この磁化率の値によって放電容量を予測することを特徴とした、リチウム二次電池の放電容量の予測方法である。この発明の効果は、正極活物質材料の磁化率を測定することにより、電池試作を行うことなく、容易に放電容量値を予測することが出来る。
【0017】
本発明の第二の発明は、前記正極活物質の磁化率を測定することにより、その正極活物質を電池に製造した時の放電容量を予測し、その放電容量値が所定のしきい値よりも低いことが予測される場合、その正極活物質材料を不良と判断する、リチウム二次電池の放電容量の予測方法である。この発明の効果は、様々な工程バラつきなどの要因で、放電容量の低いロットが発生した時に、そのロットを後工程に流すことなく、判定して除外することが出来る。
【0018】
本発明の第三の発明は、前記正極活物質の放電容量のしきい値から予測される正極活物質の磁化率のしきい値が、材料の組成と要求される放電容量の値によって異なるため、あ
らかじめ正極活物質材料の磁化率と放電容量の相関関係を確認した上で、磁化率のしきい値を決定する、リチウム二次電池の放電容量の予測方法である。この発明の効果は、良品と不良品のしきい値をあらかじめ決めておくことで、正極活物質の生産工程において、生産の効率を大幅に向上させることができる。
【0019】
本発明のリチウム二次電池の放電容量の予測方法は、サンプルの磁化率を評価することで行う。この磁化率の評価方法には、様々な方法があるが、ここではVSM(振動試料型磁力計)による評価方法が好適である。この磁化率の評価方法であるVSM(振動試料型磁力計)とは、測定したいサンプルを磁束密度が時間の経過と共に連続的に変化する磁界中に保持し、サンプルを磁界中で振動させることで、サンプルに外部の磁界に応じた誘起磁化が発生し、その値が連続的に変化する。この磁化の大きさを測定することで、常磁性体の場合はサンプルの磁化のし易さ=磁化率や、強磁性体の場合は磁界がゼロの時の残留磁化などを測定することができる評価方法である。VSMによる評価方法は、図1に示すような装置を用いて実施した。簡単に測定の原理を説明すると、外部磁場を加えるための大きな電磁石1,2の中に、測定する試料3をセットして、一定の周期で振動させる。そして、試料3の近くに設置したコイル(サーチコイル)4に、電磁誘導の原理で流れる電流値を計ることで、試料3の磁化を測定することができる。サーチコイル4には外部磁場による電流も流れるが、試料3の振動と同じ周期で振動する成分だけを取り出すことにより、試料3だけの磁化率を求めることができる。
【0020】
VSMで評価する試料としては、量産工程で混合、焼成、粉砕した正極活物質の粉体を用いる。具体的な測定方法としては、試料の粉体を定量し、所定のケースに封入し、試料3とする。これを、図1のVSMの振動子の付いた支持棒5の先端に取り付け、磁界の発生する電磁石1,2からなるコイルの中にセットする。試料3を振動させながら、電磁石1,2からなるコイルより磁界を印加し、磁場の強さ(磁束密度)を連続的に変化させながら、試料3に生じる誘起磁界を、試料3近傍に設置したホール素子等の検出器(サーチコイル4)で測定する。これにより、電磁石1,2からなるコイルから印加した磁束密度と、試料3に生じる誘起磁界が磁束密度の変化と共に連続的に測定されて、例えば横軸=磁束密度(単位エルステッド)、縦軸=誘起磁界(単位emu/g)のグラフにプロットできる。試料3が強磁性体の場合には、図2に示すように残留磁化をもつため、非連続のヒステリシス状のループが出力されるが、常磁性体の場合は、図3に示すようにほぼ直線のグラフとなる。このグラフの傾きが、試料3の磁化のされやすさ、即ち磁化率である。この磁化率を測定することによって、試料3の放電容量値を予測することができる。
【0021】
なお、この磁化率と放電容量の相関関係は、対象となる正極活物質の組成によって固有のものであるため、組成が変わるとおのずと磁化率との相関関係も変わってくる。従って、生産現場においては、ある組成の正極活物質を連続して生産するような場合にこの方法を適用することができる。即ち、その生産現場で製造する正極活物質の磁化率と放電容量との相関関係をあらかじめ確認しておき、生産時のロットのバラつきによる放電容量と磁化率の評価データを蓄積する。また、製造する電池の要求仕様から導き出される放電容量を別途算出する。この要求仕様の放電容量と蓄積した評価データからしきい値となる磁化率が決定される。
【0022】
そして生産時に、正極活物質の磁化率を上記の方法で評価することによりその材料の放電容量が予測され、磁化率がしきい値以下の場合は、その材料を不良と判定して後工程に流す前に不良ロットを排除することができる。即ち通常のリチウム二次電池の生産は、図4に示すように正極材料、負極材料、セパレータ、電解液、電池部材などの多くの種類の材料と部品を順次構成する工程によって成り立っている。そのため、最終の電池完成品を評価して不良品を排除する場合に、正極活物質の材料起因の容量不足が発生すると、その材料を用いた電池完成品は全て不良となるため、時間的にも金額的にも大きなロスが発生
していた。これを防ぐために、図4の正極活物質の完成後にその材料の磁化率を評価することで材料の良不良を判別し、不良ロットを排除することで、上記のロスを回避することができ、生産上で非常に大きな利点を有する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
正極活物質として、Ni:Mn:Coの組成比が1:1:1の、NMCと呼称される組成の材料において、VSM(振動試料型磁力計)による磁化率の評価と、電池試作による容量確認を行った。NMCの材料は、同一メーカーで製造方法は同じであるが、製造日が異なる4種類(試料(1)〜(4))のロットよりサンプリングしたものを準備して、以下の手順で評価を行った。
【0024】
まず、磁化率の測定方法であるが、VSMは東英工業(株)製のVSM−P7・15型装置を用いた。樹脂製のサンプルホルダー(直径φ6.0mm、高さ2.0mm)に試料の粉体を定量(約1.5g)後に封入し、振動子の付いたサンプル保持機の先端に取り付け、磁界の発生する電磁石のコイルの中にセットし、振動させる。そこに、電磁石のコイルより磁界を印加し、磁場の強さ(磁束密度)を0→5000→0→5000→0(単位Oe:エルステッド)の間で連続的に変化させながら、試料に生じる誘起磁界を、試料近傍に設置したホール素子等の検出器(サーチコイル)で測定した。この測定結果を、横軸=磁束密度(単位エルステッド)、縦軸=誘起磁界(単位emu/g)のグラフにプロットした結果、試料(1)〜(4)に応じた4つのグラフが得られた。その結果を図5〜図8に示す。これら4種類の測定結果は、グラフが全て直線の形状を示し常磁性体であることを示している。このグラフの傾きから、4種類の試料の磁化率を計算した結果、図5〜図8に追記したように、試料(1)は磁化率が2.562E−05、試料(2)は磁化率が2.526E−05、試料(3)は磁化率が2.572E−05、試料(4)は磁化率が2.570E−05の値が得られた。
【0025】
続いて容量の測定方法であるが、これは上記の4種類の正極活物質を用いてラミネートセル型電池を試作することにより、評価を行った。まず正極活物質の粉体を有機溶媒と練合してアルミ製の極板に塗工し、乾燥、圧延を行う。これを所定のサイズ(4.0×3.0mm)に切り出し、正極活物質の重量を極板の計量、計算により算出した後、Al製のリード線を溶着して正極極板とする。同様に、負極についても同じサイズの極板を準備し、Ni製のリード線を溶着して、負極極板とする。これらを、アラミド樹脂を塗布したセパレータで絶縁しながら巻きつけて、電極群を形成する。この電極群をラミネート袋の中に入れ、電解液を入れて真空封入して、ラミネート型の試作電池とした。
【0026】
この試作電池に所定のプログラムによる仕上げ充放電を行った後に、3サイクルの容量確認用の充放電を行い、その放電カーブから、1〜3サイクルの各サイクルの放電容量を算出した。この結果から、それぞれ4種類の正極活物質の容量値の平均値を算出した結果と、先に評価した磁化率の結果を(表1)に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
上記の放電容量と磁化率の相関関係をグラフ化した結果を図9に示す。このように横軸に放電容量、縦軸に磁化率をプロットした時にほぼ直線上にデータが乗り、材料の放電容量と磁化率の間には、正の相関関係があることが明らかになった。本材料の場合、仮に容量の規格値が148mAh/gであるとすると、そのしきい値の磁化率は約2.558E−5となる。従って、量産工程においては、正極活物質の合成後に、材料の磁化率を評価し、その値がしきい値以下である場合は、そのロットは容量不足になることが予測されるため、このロットを生産から除外することで、不良の電池を作成することなく、選別することが出来る。
【0029】
なお、上記の実施例1では、説明を簡略化するために、評価した試料数は4個としたが、実際の生産現場では、もっと多くの試料をあらかじめ評価しておくことにより、データの精度を高めて運用することは言うまでも無い。
【0030】
(実施例2)
正極活物質として、Ni:Co:Alの組成比が7:2:1の、NCAと呼称される組成の材料において、VSM(振動試料型磁力計)による磁化率の評価と、電池試作による容量確認を行った。NCAの材料は、同一メーカーで製造方法は同じであるが、製造日が異なる7種類(試料A〜G)のロットよりサンプリングしたものを準備して、以下の手順で評価を行った。
【0031】
まず、磁化率の測定方法であるが、VSMは同じ東英工業(株)製のVSM−P7−15型装置を用いた。樹脂製のサンプルホルダー(直径φ6.0mm、高さ2.0mm)に試料の粉体を定量(約1.7g)後に封入し、振動子の付いたサンプル保持機の先端に取り付け、磁界の発生する電磁石のコイルの中にセットし、振動させる。そこに、電磁石のコイルより磁界を印加し、磁場の強さ(磁束密度)を0→5000→0→5000→0(単位Oe:エルステッド)の間で連続的に変化させながら、試料に生じる誘起磁界を、試料近傍に設置したホール素子等の検出器(サーチコイル)で測定した。この測定結果を、横軸=磁束密度(単位エルステッド)、縦軸=誘起磁界(単位emu/g)のグラフにプロットした結果、試料A〜Gに応じた7つのグラフが得られた。その結果を図10〜図16に示す。これら7種類の測定結果は、グラフが全て直線の形状を示し常磁性体であることを示している。このグラフの傾きから、7種類の試料の磁化率を計算した結果、図10〜図16に追記したように、試料Aは磁化率が1.649E−05、試料Bは磁化率が1.671E−05、試料Cは磁化率が1.642E−05、試料Dは磁化率が1.666
E−05、試料Eは磁化率が1.688E−05、試料Fは磁化率が1.642E−05、試料Gは磁化率が1.662E−05の値が得られた。先程の実施例1の場合と磁化率の大きさが異なるのは、実施例1がNi−Mn−Co系の正極活物質、実施例2がNi−Co−Al系の正極活物質であり、材料の組成が異なるためである。
【0032】
続いて、容量の測定方法であるが、これは上記の7種類の正極活物質を用いてラミネートセル型の電池に試作することにより、評価を行った。まず正極活物質の粉体を有機溶媒と練合してアルミ製の極板に塗工し、乾燥、圧延を行う。これを所定のサイズ(4.0×3.0mm)に切り出し、正極活物質の重量を極板の計量、計算により算出した後、Al製のリード線を溶着して正極極板とする。同様に、負極についても同じサイズの極板を準備し、Ni製のリード線を溶着して負極極板とする。これらを、アラミド樹脂を塗布したセパレータで絶縁しながら巻きつけて電極群を形成する。この電極群をラミネート袋の中に入れ、電解液を入れて真空封入し、ラミネート型の試作電池とした。
【0033】
この試作電池に所定のプログラムによる仕上げ充放電を行った後に、3サイクルの容量確認用の充放電を行い、その放電カーブから、1〜3サイクルの各サイクルの放電容量を算出した。この結果から、それぞれ7種類の正極活物質の容量値の平均値を算出した結果と、先に評価した磁化率の結果を(表2)に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
上記の放電容量と磁化率の相関関係をグラフ化した結果を図17に示す。このように横軸に放電容量、縦軸に磁化率をプロットした時にほぼ直線上にデータが乗り、材料の放電容量と磁化率の間には、正の相関関係があることが明らかになった。本材料の場合、仮に
容量の規格値が191mAh/gであるとすると、そのしきい値の磁化率は約1.665E−5となる。従って、量産工程においては、正極活物質の合成後に材料の磁化率を評価し、その値がしきい値以下である場合は、そのロットは容量不足になることが予測されるため、このロットを生産から除外することで不良の電池を作成することなく、選別することが出来る。
【0036】
なお、上記の実施例2では、説明を簡略化するために、評価した試料数は7個としたが、実際の生産現場では、実施例1と同様に、もっと多くの試料をあらかじめ評価しておくことにより、データの精度を高めて運用することは言うまでも無い。
【0037】
また、以上の実施例1および2では、材料組成がNi:Mn:Coの組成比が1:1:1のNMCと、Ni:Co:Alの組成比が7:2:1のNCAの材料について、その一例について記述したが、本発明は以上の2例の材料組成に限定されること無く、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物用いた正極活物質であれば、同様の方法で磁化率を測定し、データを蓄積することで、正確な放電容量値を予測することが出来る。また、その予測の絶対値については、材料組成や出来上がった電池の容量値が、他の負極材料、電解液の種類や組成、また電池の構造形態やサイズによって異なるため、一概には規定できないが、同一材料、同一構成の電池を作成する条件では、容量と磁化率の相関関係よりしきい値を設定し、不良ロットの選別に運用することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかるリチウム二次電池の放電容量の予測方法は、正極活物質材料の磁化率を測定することにより、電池試作を行うことなく容易に放電容量値を予測することが可能になるので、正極活物質の生産時の工程バラつきなどの要因で放電容量の低いロットが発生した時にそのロットを後工程に流すことなく、判定して除外することも出来るなど、生産の効率を大幅に向上させることができる等の利点があり、産業上非常に有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 電磁石
2 電磁石
3 試料
4 サーチコイル
5 支持棒
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池の放電容量の予測方法であり、特にそのリチウム二次電池の正極活物質材料であるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物の磁化率の値を評価することによって、放電容量を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、民生用電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源を担う小型・軽量で、高エネルギー密度を有する二次電池への要望も高まっている。このような観点から、非水系二次電池、特にリチウム二次電池は、とりわけ高電圧・高エネルギー密度を有する電池としてその期待は大きく、開発が急がれている。
【0003】
近年、リチウム含有複合ニッケル酸化物を正極活物質とし、負極に炭素質材料を用いた電池が高エネルギー密度を得られるリチウム二次電池として注目を集めている。このリチウム含有複合ニッケル酸化物としてコバルト酸リチウム(LiCoO2),ニッケル酸リチウム(LiNiO2),マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等が知られている。コバルト酸リチウムを用いる二次電池は既に商品化されているが、コバルト酸リチウムはコバルトの資源の問題と、コストの問題からこれに代わるコバルト固溶リチウム複合ニッケルニッケル酸化物の開発が進んでおり、ニッケル酸リチウムなどが注目されている。ニッケル酸リチウムはコバルト酸リチウムに比べて低コスト、高容量であるため、研究開発が盛んに行われている。しかしながら、LiNiO2はサイクル特性および熱安定性が低いという問題点を有している。
【0004】
これらリチウムイオン二次電池の内、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質に持つ場合、そのリチウム二次電池の充放電容量は、その組成、特にLiと、それ以外のMe(メタル)=Ni,Co,Mn,Mg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Feなどの金属元素の配合比率によって影響され、ある特定のLi/Me(メタル)比で極大値を示すという特徴を持っている。また、この正極活物質の焼成時の温度や酸素雰囲気、焼成時間などの焼成条件によって正極活物質の結晶性が変わり、結果として充放電容量に大きな影響を与えるという特徴を持っている。このことは、正極活物質の組成や、原料となる粉体の製造条件、粉体の粒径、形状などによって、リチウム二次電池の特性が大きく変わることを意味しており、電池の品質の安定化を実現するために大きな弊害となっている。この品質、特に充放電容量を判定するためには、従来は負極および電解質を組み合わせて電池を試作する必要があり、多くの時間と労力を必要とするとともに、電池試作の後で不良と判断された電池は廃棄するしかなく、大きなロスを生み出しているのが現状であった。
【0005】
これに対して、従来技術としては、リチウム二次電池の正極材料を単独で評価するに際し、Mnイオンの原子価およびイオン分布に敏感な磁気測定を用いて、この材料を用いて得られるリチウムイオン電池の充放電容量および作動電圧の予測を迅速に行う素材評価方法が記載されている。ここでの磁気特性評価方法としては、試料の冷却および加熱が必要な磁気天秤、SQUIDなどで、測定温度範囲としては液体ヘリウムもしくは液体窒素温度から室温までのデータから、磁化率の温度依存性のデータを得ることで充放電特性の予測を行うとしている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また他の従来技術では、電極材料の飽和磁化を測定することにより、その電極材料に含
まれる不純物を定量評価することができるため、電極材料の不純物の多い場合にその材料を不良としてロットアウトにし、生産性歩留まりの低下を可能な限り抑制する電極材料の評価方法等が記載されている。ここでの飽和磁化を測定する磁気特性評価方法としては、VSM(Vibrating Sample Magnetometer:振動試料型磁力計)が好適であるとしている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−180722号公報
【特許文献2】特開2009−164115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、この特許文献1に記載の方法は、リチウムマンガンスピネルをリチウム2次電池における正極材料として使用した場合の電池の場合は、その充放電特性を予測することが出来るものの、スピネル系以外の正極活物質材料では、本方式では予測することができない。また、その判断基準である磁気特性として、材料の磁化率の温度依存性を評価する必要があり、液体ヘリウムもしくは液体窒素温度から室温までのデータを取得する必要があるため、試料の冷却および加熱が必要な磁気天秤、SQUIDなどで評価を行う。このため、評価の方法や容量の予測方法には、高度な知識と技能、ある程度の評価時間を必要とするため、定常的に生産の現場で不良ロットを選別するなどの目的に使用するのは困難であった。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、電極材料の飽和磁化を求めることにより、その電極材料に含まれる不純物の量を予測して、多い場合はその材料を不良と判断することが出来るものの、電極材料そのものの特性(放電容量など)を予測することは出来ず、不純物は少ないが材料特性そのものが悪い場合、例えば配合時のLi/Me(メタル)比がずれて必要な電池容量が出ないような場合に、不良と判定することができない。
【0010】
従って、スピネル系以外の正極活物質の材料においても、電池の品質を安定化するために、正極活物質そのものを製造後に簡単な方法で敏速に評価をして電池を試作することなく、迅速に正極活物質材料の特性(特に放電容量)を予測する方法を確立することが要求されていた。
【0011】
我々は、上記の課題を解決する方法について鋭意研究を重ねた結果、製造後のスピネル系以外の正極活物質材料においても、簡敏なVSM(振動試料型磁力計)による評価によって、その正極活物質の常磁性体を示す部分の傾きである磁化率の値を評価することにより、当該正極活物質材料を用いて電池試作した場合の放電容量値と磁化率の値が非常に密接な関係にあることを見出した。
【0012】
本発明は、この評価方法によって測定した常磁性体部分の磁化率が大きいほど、正極活物質の放電容量値が大きくなる傾向があることを見出し、この結果から、磁化率の評価を行うことにより、電池試作を行うことなく正極活物質の材料を分析することで、容易に放電容量値を予測することが出来る、リチウム二次電池の放電容量の予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のリチウム二次電池の放電容量の予測方法とは、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0
.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質として用いるリチウム二次電池の放電容量の予測方法において、上記正極活物質を振動試料型磁力計によって常磁性体材料の磁化率を測定し、この磁化率の値によって放電容量を予測することを特徴とした、正極活物質によるリチウム二次電池の放電容量の予測方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、正極活物質材料の磁化率を測定することにより、電池試作を行うことなく、容易に放電容量値を予測することが出来るとともに、様々な工程バラつきなどの要因で、放電容量の低いロットが発生した時に、そのロットを後工程に流すことなく、判定して除外することもできる。このことにより、正極活物質の生産工程において、生産の効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】VSM(振動試料型磁力計)による評価方法の模式図
【図2】強磁性体サンプルのVSM測定結果グラフ
【図3】常磁性体サンプルのVSM測定結果グラフ
【図4】リチウム二次電池の生産の模式図
【図5】試料(1)のVSM評価結果グラフ
【図6】試料(2)のVSM評価結果グラフ
【図7】試料(3)のVSM評価結果グラフ
【図8】試料(4)のVSM評価結果グラフ
【図9】実施例1 NMC組成の放電容量−磁化率依存性グラフ
【図10】試料AのVSM評価結果グラフ
【図11】試料BのVSM評価結果グラフ
【図12】試料CのVSM評価結果グラフ
【図13】試料DのVSM評価結果グラフ
【図14】試料EのVSM評価結果グラフ
【図15】試料FのVSM評価結果グラフ
【図16】試料GのVSM評価結果グラフ
【図17】実施例2 NCA組成の放電容量−磁化率依存性グラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第一の発明は、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質として用いるリチウム二次電池の放電容量の予測方法において、上記正極活物質を振動試料型磁力計によって常磁性体材料の磁化率を測定し、この磁化率の値によって放電容量を予測することを特徴とした、リチウム二次電池の放電容量の予測方法である。この発明の効果は、正極活物質材料の磁化率を測定することにより、電池試作を行うことなく、容易に放電容量値を予測することが出来る。
【0017】
本発明の第二の発明は、前記正極活物質の磁化率を測定することにより、その正極活物質を電池に製造した時の放電容量を予測し、その放電容量値が所定のしきい値よりも低いことが予測される場合、その正極活物質材料を不良と判断する、リチウム二次電池の放電容量の予測方法である。この発明の効果は、様々な工程バラつきなどの要因で、放電容量の低いロットが発生した時に、そのロットを後工程に流すことなく、判定して除外することが出来る。
【0018】
本発明の第三の発明は、前記正極活物質の放電容量のしきい値から予測される正極活物質の磁化率のしきい値が、材料の組成と要求される放電容量の値によって異なるため、あ
らかじめ正極活物質材料の磁化率と放電容量の相関関係を確認した上で、磁化率のしきい値を決定する、リチウム二次電池の放電容量の予測方法である。この発明の効果は、良品と不良品のしきい値をあらかじめ決めておくことで、正極活物質の生産工程において、生産の効率を大幅に向上させることができる。
【0019】
本発明のリチウム二次電池の放電容量の予測方法は、サンプルの磁化率を評価することで行う。この磁化率の評価方法には、様々な方法があるが、ここではVSM(振動試料型磁力計)による評価方法が好適である。この磁化率の評価方法であるVSM(振動試料型磁力計)とは、測定したいサンプルを磁束密度が時間の経過と共に連続的に変化する磁界中に保持し、サンプルを磁界中で振動させることで、サンプルに外部の磁界に応じた誘起磁化が発生し、その値が連続的に変化する。この磁化の大きさを測定することで、常磁性体の場合はサンプルの磁化のし易さ=磁化率や、強磁性体の場合は磁界がゼロの時の残留磁化などを測定することができる評価方法である。VSMによる評価方法は、図1に示すような装置を用いて実施した。簡単に測定の原理を説明すると、外部磁場を加えるための大きな電磁石1,2の中に、測定する試料3をセットして、一定の周期で振動させる。そして、試料3の近くに設置したコイル(サーチコイル)4に、電磁誘導の原理で流れる電流値を計ることで、試料3の磁化を測定することができる。サーチコイル4には外部磁場による電流も流れるが、試料3の振動と同じ周期で振動する成分だけを取り出すことにより、試料3だけの磁化率を求めることができる。
【0020】
VSMで評価する試料としては、量産工程で混合、焼成、粉砕した正極活物質の粉体を用いる。具体的な測定方法としては、試料の粉体を定量し、所定のケースに封入し、試料3とする。これを、図1のVSMの振動子の付いた支持棒5の先端に取り付け、磁界の発生する電磁石1,2からなるコイルの中にセットする。試料3を振動させながら、電磁石1,2からなるコイルより磁界を印加し、磁場の強さ(磁束密度)を連続的に変化させながら、試料3に生じる誘起磁界を、試料3近傍に設置したホール素子等の検出器(サーチコイル4)で測定する。これにより、電磁石1,2からなるコイルから印加した磁束密度と、試料3に生じる誘起磁界が磁束密度の変化と共に連続的に測定されて、例えば横軸=磁束密度(単位エルステッド)、縦軸=誘起磁界(単位emu/g)のグラフにプロットできる。試料3が強磁性体の場合には、図2に示すように残留磁化をもつため、非連続のヒステリシス状のループが出力されるが、常磁性体の場合は、図3に示すようにほぼ直線のグラフとなる。このグラフの傾きが、試料3の磁化のされやすさ、即ち磁化率である。この磁化率を測定することによって、試料3の放電容量値を予測することができる。
【0021】
なお、この磁化率と放電容量の相関関係は、対象となる正極活物質の組成によって固有のものであるため、組成が変わるとおのずと磁化率との相関関係も変わってくる。従って、生産現場においては、ある組成の正極活物質を連続して生産するような場合にこの方法を適用することができる。即ち、その生産現場で製造する正極活物質の磁化率と放電容量との相関関係をあらかじめ確認しておき、生産時のロットのバラつきによる放電容量と磁化率の評価データを蓄積する。また、製造する電池の要求仕様から導き出される放電容量を別途算出する。この要求仕様の放電容量と蓄積した評価データからしきい値となる磁化率が決定される。
【0022】
そして生産時に、正極活物質の磁化率を上記の方法で評価することによりその材料の放電容量が予測され、磁化率がしきい値以下の場合は、その材料を不良と判定して後工程に流す前に不良ロットを排除することができる。即ち通常のリチウム二次電池の生産は、図4に示すように正極材料、負極材料、セパレータ、電解液、電池部材などの多くの種類の材料と部品を順次構成する工程によって成り立っている。そのため、最終の電池完成品を評価して不良品を排除する場合に、正極活物質の材料起因の容量不足が発生すると、その材料を用いた電池完成品は全て不良となるため、時間的にも金額的にも大きなロスが発生
していた。これを防ぐために、図4の正極活物質の完成後にその材料の磁化率を評価することで材料の良不良を判別し、不良ロットを排除することで、上記のロスを回避することができ、生産上で非常に大きな利点を有する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
正極活物質として、Ni:Mn:Coの組成比が1:1:1の、NMCと呼称される組成の材料において、VSM(振動試料型磁力計)による磁化率の評価と、電池試作による容量確認を行った。NMCの材料は、同一メーカーで製造方法は同じであるが、製造日が異なる4種類(試料(1)〜(4))のロットよりサンプリングしたものを準備して、以下の手順で評価を行った。
【0024】
まず、磁化率の測定方法であるが、VSMは東英工業(株)製のVSM−P7・15型装置を用いた。樹脂製のサンプルホルダー(直径φ6.0mm、高さ2.0mm)に試料の粉体を定量(約1.5g)後に封入し、振動子の付いたサンプル保持機の先端に取り付け、磁界の発生する電磁石のコイルの中にセットし、振動させる。そこに、電磁石のコイルより磁界を印加し、磁場の強さ(磁束密度)を0→5000→0→5000→0(単位Oe:エルステッド)の間で連続的に変化させながら、試料に生じる誘起磁界を、試料近傍に設置したホール素子等の検出器(サーチコイル)で測定した。この測定結果を、横軸=磁束密度(単位エルステッド)、縦軸=誘起磁界(単位emu/g)のグラフにプロットした結果、試料(1)〜(4)に応じた4つのグラフが得られた。その結果を図5〜図8に示す。これら4種類の測定結果は、グラフが全て直線の形状を示し常磁性体であることを示している。このグラフの傾きから、4種類の試料の磁化率を計算した結果、図5〜図8に追記したように、試料(1)は磁化率が2.562E−05、試料(2)は磁化率が2.526E−05、試料(3)は磁化率が2.572E−05、試料(4)は磁化率が2.570E−05の値が得られた。
【0025】
続いて容量の測定方法であるが、これは上記の4種類の正極活物質を用いてラミネートセル型電池を試作することにより、評価を行った。まず正極活物質の粉体を有機溶媒と練合してアルミ製の極板に塗工し、乾燥、圧延を行う。これを所定のサイズ(4.0×3.0mm)に切り出し、正極活物質の重量を極板の計量、計算により算出した後、Al製のリード線を溶着して正極極板とする。同様に、負極についても同じサイズの極板を準備し、Ni製のリード線を溶着して、負極極板とする。これらを、アラミド樹脂を塗布したセパレータで絶縁しながら巻きつけて、電極群を形成する。この電極群をラミネート袋の中に入れ、電解液を入れて真空封入して、ラミネート型の試作電池とした。
【0026】
この試作電池に所定のプログラムによる仕上げ充放電を行った後に、3サイクルの容量確認用の充放電を行い、その放電カーブから、1〜3サイクルの各サイクルの放電容量を算出した。この結果から、それぞれ4種類の正極活物質の容量値の平均値を算出した結果と、先に評価した磁化率の結果を(表1)に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
上記の放電容量と磁化率の相関関係をグラフ化した結果を図9に示す。このように横軸に放電容量、縦軸に磁化率をプロットした時にほぼ直線上にデータが乗り、材料の放電容量と磁化率の間には、正の相関関係があることが明らかになった。本材料の場合、仮に容量の規格値が148mAh/gであるとすると、そのしきい値の磁化率は約2.558E−5となる。従って、量産工程においては、正極活物質の合成後に、材料の磁化率を評価し、その値がしきい値以下である場合は、そのロットは容量不足になることが予測されるため、このロットを生産から除外することで、不良の電池を作成することなく、選別することが出来る。
【0029】
なお、上記の実施例1では、説明を簡略化するために、評価した試料数は4個としたが、実際の生産現場では、もっと多くの試料をあらかじめ評価しておくことにより、データの精度を高めて運用することは言うまでも無い。
【0030】
(実施例2)
正極活物質として、Ni:Co:Alの組成比が7:2:1の、NCAと呼称される組成の材料において、VSM(振動試料型磁力計)による磁化率の評価と、電池試作による容量確認を行った。NCAの材料は、同一メーカーで製造方法は同じであるが、製造日が異なる7種類(試料A〜G)のロットよりサンプリングしたものを準備して、以下の手順で評価を行った。
【0031】
まず、磁化率の測定方法であるが、VSMは同じ東英工業(株)製のVSM−P7−15型装置を用いた。樹脂製のサンプルホルダー(直径φ6.0mm、高さ2.0mm)に試料の粉体を定量(約1.7g)後に封入し、振動子の付いたサンプル保持機の先端に取り付け、磁界の発生する電磁石のコイルの中にセットし、振動させる。そこに、電磁石のコイルより磁界を印加し、磁場の強さ(磁束密度)を0→5000→0→5000→0(単位Oe:エルステッド)の間で連続的に変化させながら、試料に生じる誘起磁界を、試料近傍に設置したホール素子等の検出器(サーチコイル)で測定した。この測定結果を、横軸=磁束密度(単位エルステッド)、縦軸=誘起磁界(単位emu/g)のグラフにプロットした結果、試料A〜Gに応じた7つのグラフが得られた。その結果を図10〜図16に示す。これら7種類の測定結果は、グラフが全て直線の形状を示し常磁性体であることを示している。このグラフの傾きから、7種類の試料の磁化率を計算した結果、図10〜図16に追記したように、試料Aは磁化率が1.649E−05、試料Bは磁化率が1.671E−05、試料Cは磁化率が1.642E−05、試料Dは磁化率が1.666
E−05、試料Eは磁化率が1.688E−05、試料Fは磁化率が1.642E−05、試料Gは磁化率が1.662E−05の値が得られた。先程の実施例1の場合と磁化率の大きさが異なるのは、実施例1がNi−Mn−Co系の正極活物質、実施例2がNi−Co−Al系の正極活物質であり、材料の組成が異なるためである。
【0032】
続いて、容量の測定方法であるが、これは上記の7種類の正極活物質を用いてラミネートセル型の電池に試作することにより、評価を行った。まず正極活物質の粉体を有機溶媒と練合してアルミ製の極板に塗工し、乾燥、圧延を行う。これを所定のサイズ(4.0×3.0mm)に切り出し、正極活物質の重量を極板の計量、計算により算出した後、Al製のリード線を溶着して正極極板とする。同様に、負極についても同じサイズの極板を準備し、Ni製のリード線を溶着して負極極板とする。これらを、アラミド樹脂を塗布したセパレータで絶縁しながら巻きつけて電極群を形成する。この電極群をラミネート袋の中に入れ、電解液を入れて真空封入し、ラミネート型の試作電池とした。
【0033】
この試作電池に所定のプログラムによる仕上げ充放電を行った後に、3サイクルの容量確認用の充放電を行い、その放電カーブから、1〜3サイクルの各サイクルの放電容量を算出した。この結果から、それぞれ7種類の正極活物質の容量値の平均値を算出した結果と、先に評価した磁化率の結果を(表2)に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
上記の放電容量と磁化率の相関関係をグラフ化した結果を図17に示す。このように横軸に放電容量、縦軸に磁化率をプロットした時にほぼ直線上にデータが乗り、材料の放電容量と磁化率の間には、正の相関関係があることが明らかになった。本材料の場合、仮に
容量の規格値が191mAh/gであるとすると、そのしきい値の磁化率は約1.665E−5となる。従って、量産工程においては、正極活物質の合成後に材料の磁化率を評価し、その値がしきい値以下である場合は、そのロットは容量不足になることが予測されるため、このロットを生産から除外することで不良の電池を作成することなく、選別することが出来る。
【0036】
なお、上記の実施例2では、説明を簡略化するために、評価した試料数は7個としたが、実際の生産現場では、実施例1と同様に、もっと多くの試料をあらかじめ評価しておくことにより、データの精度を高めて運用することは言うまでも無い。
【0037】
また、以上の実施例1および2では、材料組成がNi:Mn:Coの組成比が1:1:1のNMCと、Ni:Co:Alの組成比が7:2:1のNCAの材料について、その一例について記述したが、本発明は以上の2例の材料組成に限定されること無く、一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物用いた正極活物質であれば、同様の方法で磁化率を測定し、データを蓄積することで、正確な放電容量値を予測することが出来る。また、その予測の絶対値については、材料組成や出来上がった電池の容量値が、他の負極材料、電解液の種類や組成、また電池の構造形態やサイズによって異なるため、一概には規定できないが、同一材料、同一構成の電池を作成する条件では、容量と磁化率の相関関係よりしきい値を設定し、不良ロットの選別に運用することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかるリチウム二次電池の放電容量の予測方法は、正極活物質材料の磁化率を測定することにより、電池試作を行うことなく容易に放電容量値を予測することが可能になるので、正極活物質の生産時の工程バラつきなどの要因で放電容量の低いロットが発生した時にそのロットを後工程に流すことなく、判定して除外することも出来るなど、生産の効率を大幅に向上させることができる等の利点があり、産業上非常に有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 電磁石
2 電磁石
3 試料
4 サーチコイル
5 支持棒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質として用いるリチウム二次電池の放電容量の予測方法において、前記正極活物質を振動試料型磁力計によって常磁性体材料の磁化率を測定し、この磁化率の値によって放電容量を予測することを特徴とした、リチウム二次電池の放電容量の予測方法。
【請求項2】
前記正極活物質の磁化率を測定することにより、その正極活物質を電池に製造した時の放電容量を予測し、その放電容量値が所定のしきい値よりも低いことが予測される場合、その正極活物質材料を不良と判断する、請求項1に記載のリチウム二次電池の放電容量の予測方法。
【請求項3】
前記正極活物質の放電容量のしきい値から予測される正極活物質の磁化率のしきい値が、材料の組成と要求される放電容量の値によって異なるため、あらかじめ正極活物質材料の磁化率と放電容量の相関関係を確認した上で、磁化率のしきい値を決定する、請求項1または2に記載のリチウム二次電池の放電容量の予測方法。
【請求項1】
一般式LixNi(1−y−z)CoyMzO2(MはMg,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Cr,Mn,Feのうち少なくとも1種以上の元素であり、0.95≦x≦1.2,0≦y<0.5,0≦z<0.5)で表されるコバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物を正極活物質として用いるリチウム二次電池の放電容量の予測方法において、前記正極活物質を振動試料型磁力計によって常磁性体材料の磁化率を測定し、この磁化率の値によって放電容量を予測することを特徴とした、リチウム二次電池の放電容量の予測方法。
【請求項2】
前記正極活物質の磁化率を測定することにより、その正極活物質を電池に製造した時の放電容量を予測し、その放電容量値が所定のしきい値よりも低いことが予測される場合、その正極活物質材料を不良と判断する、請求項1に記載のリチウム二次電池の放電容量の予測方法。
【請求項3】
前記正極活物質の放電容量のしきい値から予測される正極活物質の磁化率のしきい値が、材料の組成と要求される放電容量の値によって異なるため、あらかじめ正極活物質材料の磁化率と放電容量の相関関係を確認した上で、磁化率のしきい値を決定する、請求項1または2に記載のリチウム二次電池の放電容量の予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−89364(P2012−89364A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235343(P2010−235343)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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