説明

レーザおよびパルスレーザ放射を生成する方法

【課題】最大パルス繰り返し率をより高くできるように、かつパルス繰り返し率が増大してもパルス長を維持できる、あるいはより短いパルス長を選択できるように、Qスイッチレーザを改良すること。
【解決手段】パルスレーザ放射2を生成するレーザは、共振器3と、共振器3内に配置されるレーザ活性媒質6と、共振器3内に配置され、かつ共振器の質を設定するために第1状態と第2状態とに設定可能なQスイッチ8とを備える。共振器の質は、第2状態よりも第1状態で低い。またこのレーザは、Qスイッチ8が第2状態にあるとき、形成中のレーザパルスの強度を測定し、その測定値を強度信号Iとして出力する検出部10と、レーザパルスのパルス形成が完了する前に、所定パルス期間と供給された強度信号Iとに応じてQスイッチ8を第2状態から第1状態に切り替え、Qスイッチ8を制御する制御部11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザ放射を生成するQスイッチレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
Qスイッチレーザには、可能なパルス繰り返し率が比較的低いという難点がある。このため、たとえば周知のYb:YAGレーザでは、最大パルス繰り返し率が約30kHzである。パルスレーザ放射の個々のパルスのパルス長も、パルス繰り返し率の増大に伴い高くなる。
【0003】
特許文献1には、レーザとパルスレーザ放射を生成する方法とについて記載されている。特許文献2には、固体レーザと、固体レーザのパルスエネルギを調節する方法とについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2006 006 582(A1)号明細書
【特許文献2】独国特許発明第196 34 969(B4)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このことから本発明の目的は、最大パルス繰り返し率をより高くできるように、かつパルス繰り返し率が増大してもパルス長を維持できる、あるいはより短いパルス長を選択できるように、Qスイッチレーザを改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、パルスレーザ放射を生成するレーザによって達成される。このレーザは、共振器と、共振器内に配置されるレーザ活性媒質と、共振器内に配置され、かつ共振器の質を設定するために一つの第1状態と少なくとも一つの第2状態とに設定可能なQスイッチと、共振器の質は第2状態よりも第1状態で低いことと、Qスイッチが第2状態にあるとき、形成中のレーザパルスの強度を測定し、その測定値を強度信号として出力する検出部と、レーザパルスのパルス形成が完了する前に、所定パルス期間と供給された強度信号とに応じてQスイッチを第2状態から第1状態に切り替え、Qスイッチを制御する制御部とを備える。
【0007】
これによりパルス期間を短くでき、したがって所望値に設定できる。パルス形成が中断されない場合に比べて、パルス形成が中断された場合、レーザ活性媒質の反転レベルは高いままとなる(たとえば、2〜10倍、特に3〜5倍)。このため、高いパルス最大出力が可能となる。
【0008】
特に、本発明のレーザを用いることにより、パルス期間とパルス繰り返し率とを独立に広範囲で設定できる。また、パルス形成が中断されない通常のQスイッチレーザに比べて、最大パルス繰り返し率は有意に高い。
【0009】
特に、本発明のレーザにおいては、レーザパルスの立上りまたは立下り時の強度値を、所望のパルス期間に関係付けてもよい。この場合、この強度値に達するとQスイッチの切り替えが行われる。
【0010】
特にレーザの実装においては、所望のパルス期間を設定するために、第2状態から第1状態へのQスイッチ切替期間を考慮する。また、Qスイッチの制御電子装置によって生じる遅延も考慮できる。
【0011】
Qスイッチは、音響−光学変調器または電子−光学変調器として実装できる。
また、設定可能な最大パルス期間を長くするために、制御部は、第2状態から第1状態へのQスイッチの切り替えを電子的に遅延させることができる。
【0012】
レーザは設定部を備えることができる。この設定部は、所定パルス期間と所定パルス繰り返し率とが入力可能であり、制御部に接続される。制御部は、所定パルス期間と所定パルス繰り返し率とを有するパルスがパルスレーザ放射に含まれるように、Qスイッチを制御するものである。
【0013】
詳細には、設定部は、所定パルス期間または所定パルス繰り返し率を入力されると、可能なパルス繰り返し率または可能なパルス期間を選択用に表示できる。このため、パルス期間とパルス繰り返し率とを簡単に設定できるレーザが提供される。
【0014】
設定部は、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらを組み合わせたものとして実装されてもよい。
詳細には、レーザは、レーザ活性媒質のポンピングを行うポンプ源も備える。
【0015】
レーザはさらに、レーザの動作に必要な当業者に周知の要素を含む。
さらに、共振器と、共振器内に配置されているQスイッチおよびレーザ活性媒質とを備え、共振器の質を設定するためにQスイッチを第1状態と第2状態とに設定可能であり、共振器の質は第1状態において第2状態より低いレーザにおいて、パルスレーザ放射を生成する方法を提供する。この方法では、Qスイッチが第2状態にあるとき、形成中のレーザパルスの強度を測定し、強度信号として出力する工程と、レーザパルスのパルス形成が完了する前に、所定パルス期間と所定強度信号とに応じて、Qスイッチを第2状態から第1状態に切り替える。
【0016】
この方法を用いることにより、Qスイッチレーザにおいて、パルス期間とパルス繰り返し率とを独立に広範囲で設定できる。また、通常のQスイッチレーザに比べて、パルス繰り返し率を有意に高くできる。
【0017】
本発明の方法の利点については、従属請求項に開示する。
上記の特性および以下に説明する特性は、本発明の範囲内において、開示の組み合わせでだけでなく、他の組み合わせまたは単体で有用であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるレーザの一実施形態の概略図。
【図2】パルス生成の説明図。
【図3】パルス生成の別の説明図。
【図4】可能なパルス期間および可能なパルス繰り返し率の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面に基づき、本発明について以下に例を挙げ詳細に説明する。図面も本発明に不可欠な特徴を開示するものである。
図1に示す実施形態において、パルスレーザ放射2を生成するレーザ1は、高反射端ミラー4と分離(デカップリング)ミラー5とを含む共振器3を備える。分離ミラー5の分
離率は約10%である。
【0020】
共振器3内にはレーザ活性媒質6(Yb:YAG)が配置される。レーザ活性媒質6は、ポンプ光源7の光を使用して(この実施形態においては連続的に)ポンピングが行われる(矢印P1)。
【0021】
共振器3内にはさらに、音響−光学変調器としてのQスイッチ8と、偏光ミラー9とが配置される。偏光ミラー9は、反射したレーザ放射のうちの小部分を分離する。この部分は検出部10で測定される。検出部10は偏光ミラー9の背後に配置されており、強度信号Iを出力する。
【0022】
レーザ1は、強度信号Iが供給され、かつ音響−光学変調器8を低質の第1状態と高質の第2状態との間で切り替え可能である制御部11と、所望のパルス繰り返し率および所望のパルス期間を設定可能な設定部12とを備える。
【0023】
本発明のレーザ1において、設定されたパルス期間を有するパルス(以降、調整済みパルスともいう)は、以下のように生成される。音響−光学変調器8が低質の第1状態に切り替わると、共振器での損失が高いためにレーザ動作は見られないが、反転分布が所望の準位で生じる。
【0024】
音響−光学変調器を高質の第2状態に切り替えると、レーザ動作が開始する。音響−光学変調器8が十分長い時間、第2状態のままであると、図2において点線で示すレーザパルス13(未調整パルス)が生成されることがある。
【0025】
しかしながら、共振器における強度、またしたがって形成中のレーザパルス13の強度は、検出部10によって連続的に測定され、強度信号Iとして制御部11に供給される。制御部11は、強度値Iを所望のパルス期間と関係付けるように設計される。これにより、時間tにおいてこの関係付けた強度値Iに達すると、制御部11は音響−光学変調器8を第2状態から第1状態に切り替える。ここで共振器における損失が再び大きくなるため、パルス形成を中断させ、最大パルス出力がより高い、より短いパルス14が共振器3から出力される。
【0026】
第2状態から第1状態へ切り替える切替信号が音響−光学変調器8へ供給されてから第1状態になるまでに、所定時間ΔAOMが経過する。このため、音響−光学変調器8は時間tにおいて初めて第1状態に切り替わる。この時間t以降は実際にパルス形成が中断され、パルス期間がパルス13よりも短いパルス14が生成される。反転レベルが高いままであるため、一層高い繰り返し率(この実施形態においては、未調整パルス13に比べて約3倍高い繰り返し率)と、一層高いパルス安定性とが保証される。
【0027】
利点として明らかになっていることは、パルス13の立上り時に強度を決定すること、および、設定するパルス長の尺度としてその強度を使用することである。したがって、この実施形態に記載の例においては、時間t〜時間tの強度値を所望パルス期間の設定に用いることができる。可能な最小パルス長の範囲は、切替期間ΔAOMによって決定される。この実施形態で選択した構造において、最小パルス長は100ns〜200nsである。
【0028】
設定可能な最大パルス長tmax1は、図2に示すように、tおよびΔAOMによって決定される。この実施形態において、この最大パルス長tmax1は約700nsである。
【0029】
パルス13とパルス14とは勿論同時には生じないが、図2にはパルス開始の時間が一致するように示す。このため、パルス14の立上りはパルス13の立上りよりも急勾配であることが図から推測できる。これは主に、本発明のパルスの生成においては、各パルスの生成中にパルス形成が中断されるため、パルス13がそうした調整なしで生成される場合よりも高い反転レベルが共振器において持続することによる。
【0030】
図3は、未調整のパルスであるレーザパルス13と比較して、生成可能な各種レーザパルス14,14,14,...14を示す。各レーザパルス13,14,14,...14は、トリガ時間に対して時間軸tで示される。トリガ時間とは、音響−光学変調器8が第1状態から第2状態へ切り替わるように動作させる時間である。このトリガ時間は図示していない。
【0031】
パルス期間が最も長い調整済みパルス14は未調整パルス13と非常に似たパルス形状であることが図より分かる。立下りの中ほどに見られる急な低下から、パルス生成が中断されたことは明らかである。
【0032】
パルス14,14,...14,14とパルス期間が短くなるにつれ、パルス最大出力(より高いパルス)が増大し、トリガ時間に対するパルス生成開始までの時間が減少する(図3の左方へのパルス「ずれ」)。この挙動は、上記に記載したとおり、高い反転レベルが維持されることに起因している。
【0033】
図4は、設定可能な繰り返し率(横軸)との関係で可能なパルス幅(縦軸)を示す。図4の曲線K1は、パルス幅を制御しなかった場合を示す。この場合、音響−光学変調器8は、パルス13の生成中、パルス生成が完了したときにのみ、第2状態から第1状態にだけ切り替わる。曲線K1から推測されるように、8kHz〜30kHzの範囲内のパルス繰り返し率が可能である。
【0034】
図4に示す範囲B1は、本発明のパルス生成の中断を利用して設定可能なパルス幅の範囲である。範囲200ns〜700nsのパルス幅が可能であるが、未調整パルス13の生成におけるよりも非常に高いパルス繰り返し率が設定可能である。これは主に、上記のようにパルス形成を中断させることによってパルス期間を短くする場合、パルス形成を中断させない場合よりもレーザ活性媒質6で維持される反転レベルが高くなり、またその結果、一層高い反転レベルが維持されるために、パルス繰り返し率が有意に増大可能となる一方、非常に安定したパルスも得られるためである。
【0035】
パルス繰り返し率およびパルス幅は、図4に概略的に示す範囲B1で自由に選択できる。
本発明のレーザ1において、パルス14の制御パルス幅を増大させることが可能である。また、既存の変調器切替期間ΔAOMに加えて、制御部11を用いることにより電子的な遅延ΔRが導入される。この結果、図2に概略的に示すように、一層長い最大パルス期間tmax2が得られる。この一層長いパルス期間は図4に斜線で示す範囲B2を含む。結果として、この範囲内のパルス期間とパルス繰り返し率の値の対が設定可能となり、B1とB2とが含まれる。
【0036】
特に設定部12は、所望のパルス幅(すなわち、パルス期間)の入力時、このパルス期間で可能なパルス繰り返し率(範囲B1によって、および任意で範囲B2による)を選択用に提示するよう実装されてもよい。選択したパルス期間とパルス繰り返し率の値の対は、設定部12を介して制御部11に供給され、これに従って音響−光学変調器8が動作する。この結果、所望パルス期間と所望パルス繰り返し率とを有するパルスレーザ放射2のパルス14が生じる。勿論、所望パルス繰り返し率の入力時に、設定部12が可能なパル
ス幅を選択用に表示することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ放射(2)を生成するレーザであって、
共振器(3)と、
共振器(3)内に配置されるレーザ活性媒質(6)と、
共振器(3)内に配置され、かつ共振器の質を設定するために第1状態と第2状態とに設定可能なQスイッチ(8)と、共振器の質は第1状態において第2状態より低いことと、
Qスイッチ(8)が第2状態にあるとき、形成中のレーザパルスの強度を測定し、その測定値を強度信号(I)として出力する検出部(10)と、
所定パルス期間と供給された強度信号(I)とに応じてQスイッチ(8)を制御し、レーザパルスのパルス形成が完了する前に、Qスイッチ(8)を第2状態から第1状態に切り替える制御部(11)と
を備えるレーザ。
【請求項2】
レーザパルスの立上りまたは立下りの強度値が所定パルス期間に関係付けられる、請求項1に記載のレーザ。
【請求項3】
Qスイッチ(8)は、音響−光学変調器または電子−光学変調器として実装される、請求項1または2に記載のレーザ。
【請求項4】
制御部は、電子的な遅延によってQスイッチ(8)を第2状態から第1状態に切り替えてパルス期間を設定する請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載のレーザ。
【請求項5】
制御部(11)に接続され、所定パルス期間と所定パルス繰り返し率とを入力可能な設定部(12)を備え、
制御部(11)は、パルスレーザ放射(2)のパルス(14)が所定パルス期間と所定パルス繰り返し率とを有するようにQスイッチ(8)を制御する、請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載のレーザ。
【請求項6】
所定パルス期間および所定パルス繰り返し率のうちの1つ以上の入力時に、設定部(12)は、それぞれ可能なパルス繰り返し率および可能なパルス期間のうちの1つ以上を選択用に表示する、請求項5に記載のレーザ。
【請求項7】
共振器と、共振器内に配置されているQスイッチおよびレーザ活性媒質とを備え、共振器の質を設定するためにQスイッチを第1状態と第2状態とに設定可能であり、共振器の質は第1状態において第2状態より低いレーザにおいて、パルスレーザ放射を生成する方法であって、
Qスイッチが第2状態にあるとき、形成中のレーザパルスの強度を測定し、強度信号として出力するとともに、レーザパルスのパルス形成が完了する前に、所定パルス期間と所定強度信号とに応じて、前記Qスイッチを第2状態から第1状態に切り替える方法。
【請求項8】
前記レーザパルスの立上りの強度値は、所定パルス期間に関係付けられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記Qスイッチは、音響−光学変調器または電子−光学変調器として実装される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
電子的な遅延によってQスイッチを第2状態から第1状態へ切り替えてパルス期間を設定する請求項7乃至9のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
レーザは所定パルス期間と所定パルス繰り返し率とを入力可能な設定部を備え、Qスイッチはパルスレーザ放射のパルスが所定パルス期間と所定パルス繰り返し率とを有するように制御される、請求項7乃至10のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
設定部は、所定パルス期間および所定パルス繰り返し率のうちの1つ以上の入力時に、それぞれ可能なパルス繰り返し率および可能なパルス期間のうちの1つ以上を選択用に表示する、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−80957(P2010−80957A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210369(P2009−210369)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(504470646)イェノプティック レーザー オプティーク システメ ゲーエムベーハー (4)
【氏名又は名称原語表記】JENOPTIK LASER,OPTIK,SYSTEME GMBH
【Fターム(参考)】