説明

レーザー溶接構造

【課題】 レーザー光に照射ブレが発生した場合でも、溶着部の両端に焦げや未溶融部が生じないレンズとシェードのレーザー溶接構造を提供する。
【解決手段】 車両用灯具1において、レンズ2の周縁にフランジ部2aを設け、シェード3の端面に溶着部5、ダボ6、ピン7を突設する。フランジ部2aを透過したレーザー光で溶着部5を溶融させ、ダボ6によりレンズ2を光軸方向に位置決めし、溶着部5の溶融樹脂でレンズ2をシェード3に溶接する。溶着部5と重なる部位のフランジ部2aに透明部10を設け、溶着部5と重ならない部位のフランジ部2aに拡散部11を設ける。拡散部11は溶着部5から外れたレーザー光を拡散し、溶着部5の両端から焦げや未溶融部を解消する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いて2つの樹脂成形品を溶接する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用灯具のレンズとシェードをレーザー光によって溶接する構造が知られている。例えば、図6に示す車両用灯具51では、透明なレンズ52と不透明なシェード53を接合し、レンズ52のフランジ部52aを透過したレーザー光でシェード53の溶着部54を溶かし、溶着部54の溶融樹脂でレンズ52をシェード53に溶接している。
【0003】
図7(a)に示すように、シェード53の端面には、レンズ52を光軸方向に位置決めするダボ56が突設されている。そして、図7(b)に示すように、レーザー溶接機LWから照射したレーザー光LBで溶着部54を溶かし、ダボ56をフランジ部52aに当て、レンズ52の沈み込みを防止できるようになっている。なお、特許文献1には、ダボ56を用いたレーザー溶接構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−262876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のレーザー溶接構造によると、図7(c)に示すように、レーザー光LBが溶着部54から外れた場合、溶着部54の一端側でシェード53に焦げ57が生じ、溶着部54の他端側に未溶融部58が残ることがあった。また、溶着部54の両端54a(図7a参照)はシェード53の端面からほぼ直角に起立しているので、溶着部54から外れたレーザー光LBがシェード53の端面を直射し、焦げ57が拡散しやすくなるという問題点もあった。
【0006】
特に、レンズ52とシェード53のレーザー溶接にあたっては、溶着部54の全域が溶けない場合、未溶融部58がフランジ部52aに当たり、ダボ56が機能しなくなり、レンズ52の焦点距離に狂いが生じる。焦げ57や未溶融部58はレーザー光の照射精度を高めることで発生しにくくなるが、そのためには溶接工程を厳格に管理する必要があり、工数が増えるという別の問題が発生する。
【0007】
本発明の目的は、レーザー光をそれほど高精度に照射しなくても、溶着部の両端から焦げや未溶融部を解消できるレーザー溶接構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、第1樹脂成形品を透過したレーザー光によって第2樹脂成形品の溶着部を溶融させ、溶融樹脂により第1および第2樹脂成形品を溶接するレーザー溶接構造において、次のような特徴的手段を提供する。
【0009】
(1)第2樹脂成形品の溶着部と重ならない部位の第1樹脂成形品に、少なくとも一部のレーザー光を拡散する拡散部を設けたことを特徴とするレーザー溶接構造。
【0010】
(2)第1樹脂成形品がレーザー光透過性樹脂で成形されたレンズを含み、第2樹脂成形品がレーザー光吸収性樹脂で成形されたシェードを含み、シェードの端面にレンズを光軸方向に位置決めするダボを突設したことを特徴とする(1)に記載のレーザー溶接構造。
【0011】
(3)レンズにシェードの端面と接合するフランジ部を形成し、シェードの端面に溶着部をダボよりも高く突出するように形成し、溶着部と重ならない部位のフランジ部に拡散部を設けたことを特徴とする(2)に記載のレーザー溶接構造。
【0012】
(4)溶着部と重なる部位のフランジ部に透明部を形成し、シェードの端面に透明部をレンズの光軸周りで溶着部に位置決めするピンを突設したことを特徴とする(3)に記載のレーザー溶接構造。
【0013】
(5)溶着部の両端に5°以上の型抜き角を設定したことを特徴とする(3)または(4)に記載のレーザー溶接構造。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレーザー溶接構造によれば、第1樹脂成形品の拡散部が溶着部と重ならない部位で第2樹脂成形品を遮蔽するので、照射ブレによって溶着部から外れたレーザー光は拡散部で拡散した状態で第2樹脂成形品に到達し、溶着部と隣接する部位でレーザー光のエネルギー密度が減少する。このため、レーザー光の照射精度をそれほど高くしなくても、溶着部の両端から焦げや未溶融部を解消でき、工程管理が容易になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す車両用灯具の分解斜視図である。
【図2】レンズとシェードのレーザー溶接構造を示す立面図である。
【図3】レンズの拡散部とシェードの溶融部を示す正面図である。
【図4】レンズとシェードのレーザー溶接方法を示す要部拡大図である。
【図5】拡散部の変更例を示すレンズおよびシェードの正面図である。
【図6】従来の車両用灯具を示す分解斜視図である。
【図7】従来のレンズとシェードのレーザー溶接構造を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を車両用灯具に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す車両用灯具1は、第1樹脂成形品としてのレンズ2と、第2樹脂成形品としてのシェード3とを備え、シェード3の内側に光源4が収められている。
【0017】
レンズ2は、レーザー光を透過する透明樹脂材料で成形され、周縁に円形のフランジ部2aが一体的に設けられている。シェード3は、レーザー光を吸収する不透明樹脂材料で成形され、内面に反射膜3aが被着されている。
【0018】
シェード3の端面はフランジ部2aと同大の円環状に形成され、端面の円周方向4箇所に溶着部5が突設され、溶着部5の両端に約5°またはそれ以上の型抜き角θ(図4a参照)が設定されている。溶着部5と異なる位置には4つのダボ6と2本のピン7が突設され、ピン7とフランジ部2aの切欠8との嵌合によりレンズ2が円周方向に位置決めされる。
【0019】
そして、図2(a)に示すように、溶着部5はダボ6よりも高く突出するように形成され(H5>H6)、図2(b)に示すように、フランジ部2aを透過したレーザー光LBで溶着部5を溶かし、ダボ6によりレンズ2を光軸方向に位置決めし、溶着部5の溶融樹脂9によってレンズ2をシェード3に溶接するようになっている。
【0020】
図3に示すように、シェード3の溶着部5と重なる部位のフランジ部2aには、レーザー光LBを透過させる透明部10が設けられ、ピン7によってレンズ2の光軸周りで溶着部5に位置決めされる。また、溶着部5と重ならない部位のフランジ部2aには、レーザー光LBを拡散する拡散部11が設けられている。拡散部11は、シェード3と反対側のフランジ部2aの表面にシボ加工によって形成されている。
【0021】
上記構成の車両用灯具1において、レンズ2とシェード3のレーザー溶接にあたっては、まず、図4(a)に示すように、レンズ2のフランジ部2aをシェード3の溶着部5に接合する。このとき、図2に示すように、ピン7と切欠8との嵌合によって、フランジ部2aの透明部10をシェード3の溶着部5に正確に位置決めすることができる。
【0022】
次に、図4(b)に示すように、レーザー溶接機LWからレーザー光LBを照射し、透明部10を透過したレーザー光LBにより溶着部5を溶融させる。そして、シェード3上のダボ6によりレンズ2の沈み込みを規制した状態で、溶着部5の溶融樹脂9を硬化させ、レンズ2をシェード3に溶接する。
【0023】
このとき、フランジ部2aの拡散部11が溶着部5と重ならない部位でシェード3の端面を遮蔽しているので、図4(c)に示すように、照射ブレによって溶着部5から外れたレーザー光LBが拡散部11で拡散した状態でシェード3に到達し、溶着部5と隣接する部位でレーザー光LBのエネルギー密度が減少する。したがって、照射精度をさほど高くしなくても、溶着部5の両端から焦げや未溶融部を解消でき、工程管理が容易となる。
【0024】
また、透明部10と重なる範囲では、溶着部5の全域が確実に溶融するので、未溶融部がフランジ部2aに当たるおそれがなくなり、すべてのダボ6を機能させて、レンズ2の焦点距離を正確に出すことができる。しかも、溶着部5の両端に大きな型抜き角θが設定されているので、溶着部5から外れたレーザー光LBを両端の傾斜部で吸収し、シェード3端面の焦げを確実に防止できる。
【0025】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するように、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構成を適宜に変更して実施することも可能である。
(a)図5に示すように、溶着部5と重ならない範囲のフランジ部2aにおいて、拡散部11を透明部10の両側に部分的に形成し、拡散部11により溶着部5の両端外側部位を遮蔽すること。
【0026】
(b)拡散部11をシボ加工によりフランジ部2aの裏面に形成すること。
(c)拡散部11をアルミ蒸着によりフランジ部2aの表面または裏面に形成すること。
(d)溶着部5、ダボ6、ピン7の個数や円周方向位置を適宜変更すること。
(e)本発明をレンズ2とシェード3のレーザー溶接の他に、車両用灯具の前面カバーとランプボディのレーザー溶接に利用すること。
(f)その他、本発明を各種の透明および不透明樹脂成形品のレーザー溶接に応用すること。
【符号の説明】
【0027】
1 車両用灯具
2 レンズ
2a フランジ部
3 シェード
5 溶着部
6 ダボ
7 ピン
9 溶融樹脂
10 透明部
11 拡散部
LB レーザー光
θ 型抜き角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂成形品を透過したレーザー光によって第2樹脂成形品の溶着部を溶融し、溶融樹脂により第1および第2樹脂成形品を溶接するレーザー溶接構造において、
前記第2樹脂成形品の溶着部と重ならない部位の第1樹脂成形品に、少なくとも一部のレーザー光を拡散する拡散部を設けたことを特徴とするレーザー溶接構造。
【請求項2】
前記第1樹脂成形品がレーザー光透過性樹脂で成形されたレンズを含み、前記第2樹脂成形品がレーザー光吸収性樹脂で成形されたシェードを含み、シェードの端面にレンズを光軸方向に位置決めするダボを突設した請求項1記載のレーザー溶接構造。
【請求項3】
前記レンズにシェードの端面と接合するフランジ部を形成し、シェードの端面に前記溶着部をダボよりも高く突出するように形成し、溶着部と重ならない部位のフランジ部に前記拡散部を設けた請求項2記載のレーザー溶接構造。
【請求項4】
前記溶着部と重なる部位のフランジ部に透明部を形成し、シェードの端面に透明部をレンズの光軸周りで溶着部に位置決めするピンを突設した請求項3記載のレーザー溶接構造。
【請求項5】
前記溶着部の両端に5°以上の型抜き角を設定した請求項3または4記載のレーザー溶接構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−101865(P2013−101865A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245445(P2011−245445)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】