説明

レーザ発振器、及び、モードフィルタ

【課題】マイクロベンドファイバグレーティングを用いることなく、特定の偏波状態を有するレーザ光を発振することができるレーザ発振器を実現する。
【解決手段】ファイバレーザ1は、マルチモードファイバ13内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、ラジアル偏波モード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタ15を備えており、マルチモードファイバ13内を伝搬するレーザ光のうち、ラジアル偏波モードを共振させることによって、ラジアル偏波レーザ光を発振する。モードフィルタ15は、ラジアル偏波モードを導波可能なマルチモードファイバに、ラジアル偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の偏波状態を有するレーザ光を発振するレーザ発振器に関する。また、特定の偏波状態を有するレーザ光を発振するために利用することができるモードフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ラジアル偏波レーザ光を発振するレーザ発振器が注目を集めている。ラジアル偏波レーザ光とは、図4(a)に示すように電場がビームスポットの径方向に振動するレーザ光のことを指す。一方、図4(b)に示すように電場が同一の方向に振動するレーザ光は、直線偏波レーザ光と呼ばれ、図4(c)に示すように電場がビームスポットの周方向に振動するレーザ光は、アジマス偏波レーザ光と呼ばれる。また、電場がランダムな方向に振動するレーザ光は、ランダム偏波レーザ光と呼ばれる。ラジアル偏波レーザ光には、他のレーザ光と比べて、焦点におけるスポットサイズが小さく、レーザ加工に使用した場合に加工効率が高いという利点がある。
【0003】
ラジアル偏波レーザ光は、例えば、マイクロベンドファイバグレーティングを用いて生成することができる(特許文献1〜2及び非特許文献1参照)。マイクロベンドファイバグレーティングは、周期的な凹凸が形成された2枚のストレッサを用いて光ファイバに周期的な外力を逆方向から交互に作用させることによって実現される光学素子であり、外力の周期に応じた波長を有するレーザ光をラジアル偏波レーザ光に変換する。
【0004】
ラジアル偏波レーザ光を発振する従来のレーザ発振器5の構成を図5に示す。レーザ発振器5は、ミラー52とハーフミラー54とにより両端を終端された光ファイバ53をレーザキャビティとするレーザ発振器であり、このレーザキャビティから出力されたレーザ光をマイクロベンドファイバグレーティング55によりラジアル偏波レーザ光に変換するものである。
【0005】
レーザ発振器5において、増幅媒体として機能する光ファイバ53は、励起光を吸収して反転分布状態に遷移する希土類元素がコアに添加された活性ファイバである。光ファイバ56を介して光源51から発せられた励起光を光ファイバ53に入射させると、反転分布状態に遷移した希土類元素からレーザ光が誘導放出される。
【0006】
光ファイバ53の光源51側の端部は、光源51から発せられた励起光を透過すると共に、希土類元素から誘導放出されたレーザ光を一定の反射率で反射するミラー52により終端されている。一方、光ファイバ53の光源51側と反対側の端部は、希土類元素から誘導放出されたレーザ光を一定の反射率で反射し、かつ、一定の透過率で透過するハーフミラー54により終端されている。
【0007】
このため、希土類元素から誘導放出されたレーザ光は、光ファイバ53内で共振して再帰的に増幅される。そして、光ファイバ53内で再帰的に増幅されたレーザ光の一部が、ハーフミラー54を透過して光ファイバ53外に出力される。
【0008】
なお、光ファイバ53は、基本モードのみを閉じ込め可能なシングルモードファイバである。ここで、基本モードとは、光ファイバの断面内において光強度分布に節がないモードをいい、一般には光の強度分布が単峰状となる。この基本モードは、互いに直交する偏波方向を有する2つの直線偏波成分からなる導波モードである。したがって、ハーフミラー54を透過して光ファイバ53外に出力されるレーザ光は、これら2つの直線偏波成分が混合されたレーザ光である。ただし、光ファイバ53内において、これら2つの直線偏波成分の位相関係は、不定であり、波長が僅かに異なる場合もある。さらに、光ファイバ53内において、これら2つの直線偏波成分は、互いに結合し得る。このため、ハーフミラー54を透過して光ファイバ53外に出力されるレーザ光は、一般には、ランダム偏波である。
【0009】
ハーフミラー54を透過して光ファイバ53外に出力された基本モードレーザ光は、光ファイバ57を介してマイクロベンドファイバグレーティング55に導かれる。マイクロベンドファイバグレーティング55は、入射した基本モードレーザ光をラジアル偏波レーザ光に変換する。マイクロベンドファイバグレーティング55から出力されたラジアル偏波レーザ光は、光ファイバ58に導かれ、光ファイバ58のマイクロベンドファイバグレーティング55側とは反対側の端から外部に出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許7177510B2号明細書
【特許文献2】米国特許7177510B2号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S. Ramachandran, et.al., "Generation of Radially Polarised Beams from Optical Fibers", Paper # OThV2 at OFC/NFOEC, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ラジアル偏波レーザ光を発振する従来のレーザ発振器においては、マイクロベンドファイバグレーティングを用いていることに伴い、以下の(1)〜(4)のような問題が生じていた。
【0013】
(1)物理的な外乱に弱い
マイクロベンドファイバグレーティングとして使用する光ファイバに作用させるべき外力の周期は変換しようとする基本モードレーザ光の波長に応じて決まり、作用させる外力の周期がずれると変換効率が低下する。このため、従来のレーザ発振器においては、振動や衝撃などの物理的な外乱が加えられると、得られるラジアル偏波レーザ光の強度が低下したり、ラジアル偏波レーザ光が得られなくなったりするという問題を生じる。
【0014】
(2)製造コストが高い
マイクロベンドファイバグレーティングとして使用する光ファイバに作用させるべき外力の周期は、変換しようとする基本モードレーザ光の波長のみならず、使用する光ファイバの光学特性に依存する。このため、マイクロベンドファイバグレーティングとして使用する光ファイバの光学特性にばらつきがある場合には、使用する光ファイバ毎にその光学特性に適合したストレッサを作成しなくてはならない。また、使用する光ファイバの光学特性が長手方向全体に渡って一様でない場合には、使用する光ファイバの部分毎にその部分の光学特性に適合したストレッサを作成しなくてはならない。このため、マイクロベンドファイバグレーティングの製造コスト、ひいては、マイクロベンドファイバグレーティングを用いたレーザ発振器の製造コストが高くなるという問題を生じる。
【0015】
(3)信頼性が低い
マイクロベンドファイバグレーティングとして使用する光ファイバは、ストレッサから機械的な外力を受けているため破断し易い。このため、マイクロベンドファイバグレーティングの長期信頼性、ひいては、マイクロベンドファイバグレーティングを用いたレーザ発振器の長期信頼性が低下するという問題を生じる。
【0016】
(4)高出力化が困難
基本モードレーザ光をファイバレーザを用いて発振する場合、光ファイバ内で基本モードを共振させる必要がある。しかしながら、基本モードは、光ファイバの軸近傍において強度が高くなる導波モードであるため、発振する基本モードレーザ光の強度を上げると、誘導ラマン散乱や誘導ブリルアン散乱など非線形光学現象が生じて、損失を受けたり、他の波長に遷移したりする。このため、基本モードレーザ光をファイバレーザを用いて発振する場合、高出力化が困難であるという問題を生じる。
【0017】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ラジアル偏波レーザ光など、特定の偏波状態を有するレーザ光を発振するレーザ発振器を、マイクロベンドファイバグレーティングを用いることなく実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザ発振器は、キャビティ内で誘導放出されたレーザ光を発振するレーザ発振器において、上記キャビティ内を伝播するレーザ光に含まれるモードのうち、特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタであって、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバに、上記特定の偏波状態を有する導波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含むモードフィルタを備えていることを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、上記特定の偏波状態を有するモードは、上記モードフィルタにより減衰されることなく、上記キャビティ内で共振して上記キャビティ外に出力される。一方、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、上記特定の偏波状態を有するモード以外のモードは、上記モードフィルタにより減衰され、上記キャビティ外に出力され難くなる。しかも、上記モードフィルタが有する、上記特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるという機能は、上記モードフィルタに含まれる、上記長周期ファイバグレーティングにより実現される。したがって、上記の構成によれば、マクロベンドファイバグレーティングを用いることなく、上記特定の偏波状態を有するレーザ光を発振することができるという効果を奏する。
【0020】
更に、上記の構成によれば、上記特定の偏波状態を有する導波モード以外の導波モードを減衰させるためのグレーティングを、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバに書き込むことによって、上記特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタを製造することができる。グレーティングの書き込みは、例えば、コアにゲルマニウムが添加されたマルチモードファイバに紫外線を照射することによって実現することができる。したがって、所望の導波モードを選択的に減衰させる、すなわち、所望の偏波状態を有するモードを選択的に減衰させるモードフィルタを精度良く製造することができるという更なる効果を奏する。
【0021】
本発明に係るレーザ発振器において、上記モードフィルタは、2次までの導波モードを導波可能なマルチモードファイバに、HE11モード、TE01モード、及び、HE21モードの各々を選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含んでいることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、上記キャビティがTM01モードを導波可能なマルチモードファイバである場合、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、TM01モード(ラジアル偏波モード)は、上記モードフィルタにより減衰されることなく、上記キャビティ内で共振して上記キャビティ外に出力される。一方、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、HE11モード(基本モード)、TE01モード(アジマス偏波モード)、及び、HE21モード(ラジアル偏波成分とアジマス偏波成分とからなるモード)は、上記モードフィルタにより減衰され、上記キャビティ外に出力され難くなる。また、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、3次以上の高次モードは上記モードフィルタを導波せず、上記キャビティ外に出力され難くなる。したがって、上記の構成によれば、マクロベンドファイバグレーティングを用いることなく、ラジアル偏波レーザ光を発振することができるという更なる効果を奏する。
【0023】
なお、上記キャビティがマルチモードファイバでない場合であっても、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、ラジアル偏波成分からなるモードは、上記モードフィルタにより減衰されることなく、上記キャビティ内で共振して上記キャビティ外に出力される。一方、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、直線偏波成分又はアジマス偏波成分を含むモードは、上記モードフィルタにより減衰され、上記キャビティ外に出力され難くなる。したがって、上記の構成によれば、マクロベンドファイバグレーティングを用いることなく、ラジアル偏波レーザ光を発振することができるという更なる効果を奏する。
【0024】
本発明に係るレーザ発振器において、上記キャビティは、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバであって、ミラー及びハーフミラーにより両端を終端されたマルチモードファイバであることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、上記キャビティ(マルチモードファイバ)と上記モードフィルタ(長周期ファイバグレーティング)とを溶着により互いに接続することができる。したがって、頑健なレーザ発振器を容易に実現することができるという更なる効果を奏する。
【0026】
また、上記モードフィルタがラジアル偏波モード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタである場合、上記キャビティ(マルチモードファイバ)を伝搬するラジアル偏波モード(TM01モード)は、軸近傍において強度が低く、かつ、その周辺において強度が高くなる円環状の強度分布を有するので、発振するラジアル偏波レーザ光の強度を上げても非線形光学現象が生じ難い。したがって、高出力化が容易になるという更なる効果を奏する。
【0027】
本発明に係るレーザ発振器において、上記ミラー及びハーフミラーは、それぞれ、ファイバブラッググレーティングであることが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、上記キャビティ内を伝搬するレーザ光を反射させるためのグレーティングをマルチモードファイバに書き込むことによって、上記ミラー及びハーフミラーを製造することができる。グレーティングの書き込みは、例えば、コアにゲルマニウムが添加されたマルチモードファイバに紫外線を照射することによって実現することができる。したがって、所望の反射率を有するミラー、及び、所望の反射率と透過率とを有するハーフミラーを精度良く製造することができるという更なる効果を奏する。
【0029】
また、上記の構成によれば、上記キャビティ(マルチモードファイバ)と上記ミラー及びハーフミラー(ファイバブラッググレーティング)とを溶着により互いに接続することができる。したがって、精度が高く、かつ、頑健なレーザ発振器を容易に実現することができるという更なる効果を奏する。
【0030】
上記課題を解決するために、本発明に係るモードフィルタは、レーザ光に含まれるモードのうち、特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタであって、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバに、上記特定の偏波状態を有する導波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含んでいることを特徴としている。
【0031】
上記の構成によれば、上記特定の偏波状態を有する導波モード以外の導波モードを減衰させるためのグレーティングを、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバに書き込むことによって、上記特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタを製造することができる。グレーティングの書き込みは、例えば、コアにゲルマニウムが添加されたマルチモードファイバに紫外線を照射することによって実現することができる。したがって、所望の導波モードを選択的に減衰させる、すなわち、所望の偏波状態を有するモードを選択的に減衰させるモードフィルタを精度良く製造することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明に係るレーザ発振器は、キャビティ内を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタを備えている。そして、本発明に係るレーザ発振器が備えているモードフィルタは、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバに、上記特定の偏波状態を有する導波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含んでいる。したがって、マクロベンドファイバグレーティングを用いることなく、特定の偏波状態を有するレーザ光を発振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係るファイバレーザの構成を示す構成図である。
【図2】長周期ファイバグレーティングとして使用する光ファイバを示す図であり、(a)は、その光ファイバの断面図であり、(b)は、その光ファイバの径方向の屈折率分布を示すグラフであり、(c)は、その光ファイバの側面図である。
【図3】図1のファイバレーザが備えているモードフィルタの構成を示す構成図である。
【図4】(a)は、ラジアル偏波レーザ光における電場の振動方向を示す模式図であり、(b)は、直線偏波レーザ光における電場の振動方向を示す模式図であり、(c)は、アジマス偏波レーザ光における電場の振動方向を示す模式図である。
【図5】ラジアル偏波レーザ光を発振する従来のレーザ発振器の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本実施形態に係るレーザ発振器について、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施形態に係るレーザ発振器は、ミラーとハーフミラーとにより両端を終端された光ファイバをレーザキャビティとするレーザ発振器、すなわち、ファイバレーザとして実現されている。以下では本実施形態に係るレーザ発振器を「ファイバレーザ」と呼称する。
【0035】
(ファイバレーザの構成)
本実施形態に係るファイバレーザの構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るファイバレーザ1の構成を示す構成図である。ファイバレーザ1は、図1に示すように、光源11と、ミラー12と、マルチモードファイバ13と、ハーフミラー14と、モードフィルタ15とを備えている。
【0036】
ファイバレーザ1は、ミラー12とハーフミラー14とにより両端を終端されたマルチモードファイバ13をレーザキャビティとするレーザ発振器である。ファイバレーザ1において増幅媒体として機能するマルチモードファイバ13は、励起光を吸収して反転分布状態に遷移するレーザ媒質がコアに添加された活性ファイバであり、マルチモードファイバ13に励起光を入射させると反転分布状態に遷移したレーザ媒質からレーザ光が誘導放出される。
【0037】
マルチモードファイバ13のコアに添加するのに適したレーザ媒質としては、イッテルビウム、エルビウム、プラセオジム、ビスマスなどの希土類元素が挙げられる。例えば、マルチモードファイバ13のコアにイッテルビウムを添加する場合、マルチモードファイバ13に波長900nm以上980nm以下の励起光を入射させると、反転分布状態に遷移したイッテルビウムから波長1030nm以上1090nm以下のレーザ光が誘導放出される。
【0038】
光源11は、マルチモードファイバ13に添加されたレーザ媒質を反転分布状態に遷移させるための励起光を発する光源であり、例えば、半導体レーザ光源である。マルチモードファイバ13のコアにイッテルビウムを添加する場合、例えば、励起光として波長915nmのレーザ光を発振する半導体レーザ光源を光源11として利用すればよい。光源11とミラー12とは、励起光を伝搬させるための光ファイバ16を用いて接続されており、光源11から発せられた励起光は、この光ファイバ16を介してミラー12に入射する。
【0039】
マルチモードファイバ13の光源11側の端部(図1において左側の端部)は、光源11から発せられた励起光を透過すると共に、レーザ媒質から誘導放出されたレーザ光を一定の反射率で反射するミラー12により終端されている。一方、マルチモードファイバ13の光源11側とは反対側の端部(図1において右側の端部)は、レーザ媒質から誘導放出されたレーザ光を一定の反射率で反射し、かつ、一定の透過率で透過するハーフミラー14により終端されている。
【0040】
このため、レーザ媒質から誘導放出されるレーザ光は、マルチモードファイバ13内で共振して再帰的に増幅される。そして、マルチモードファイバ13内で再帰的に増幅されたレーザ光の一部が、ハーフミラー14を透過してマルチモードファイバ13外に出力される。ハーフミラー14は、ハーフミラー14を透過してマルチモードファイバ13外に出力されるレーザ光を伝搬させるための光ファイバ17に接続されており、ハーフミラー14を透過してマルチモードファイバ13外に出力されたレーザ光は、この光ファイバ17のハーフミラー14側とは反対側の端部から出力される。
【0041】
本実施形態に係るファイバレーザ1において特徴的な点は、(1)ラジアル偏波成分からなる導波モード(例えばTM01モード)を導波可能な(閉じ込め可能な)マルチモードファイバ13を増幅媒体として利用している点、及び、(2)マルチモードファイバ13を伝搬するレーザ光に含まれるモードのうち、ラジアル偏波成分からなるモード以外のモード(ラジアル偏波以外の偏波成分を含むモード)を選択的に減衰させるモードフィルタ15がマルチモードファイバ13に挿入されている点である。
【0042】
本実施形態においては、マルチモードファイバ13として、少なくとも2次までのモードを導波可能な光ファイバを使用する。すなわち、マルチモードファイバ13として、少なくともHE11モードと呼ばれる1つの基本モードと、それぞれTM01モード、TE01モード、HE21モードと呼ばれる3つの2次モードとを導波可能な光ファイバを使用する。
【0043】
ここで、HE11モードは、偏波方向が互いに直交する2つの直線偏波成分からなる導波モードであり、TM01モードは、ラジアル偏波成分からなる導波モードであり、TE01モードは、アジマス偏波成分からなる導波モードであり、HE21モードは、ラジアル偏波成分とアジマス偏波成分とからなる導波モードである。
【0044】
したがって、マルチモードファイバ13を伝搬するレーザ光には、直線偏波成分からなる基本モードの他に、ラジアル偏波成分からなる高次モード(以下ではこれを「ラジアル偏波モード」と呼ぶ)、及び、アジマス偏波成分からなる高次モード(以下ではこれを「アジマス偏波モード」と呼ぶ)が含まれ得る。ただし、ラジアル偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタ15がマルチモードファイバ13に挿入されているので、マルチモードファイバ13内で共振して再帰的に増幅される導波モードは、ラジアル偏波モードのみである。このため、ハーフミラー14を透過してマルチモードファイバ13外に出力されるレーザ光は、ラジアル偏波レーザ光になる。
【0045】
このようなモードフィルタ15は、例えば、長周期ファイバグレーティングを用いて実現することができる。長周期ファイバグレーティングを用いたモードフィルタ15の構成については、参照する図面を代えて後述する。
【0046】
本実施形態に係るファイバレーザ1は、上述したように、マルチモードファイバ13を伝搬するレーザ光のうち、ラジアル偏波モードを共振させて再帰的に増幅するものである。したがって、ミラー12は、マルチモードファイバ13を伝搬するレーザ光のうち、ラジアル偏波モードを一定の反射率で反射するものであればよい。また、ハーフミラー14は、マルチモードファイバ13を伝搬するレーザ光のうち、ラジアル偏波モードを一定の反射率で反射し、かつ、一定の透過率で透過するものであればよい。
【0047】
このようなミラー12及びハーフミラー14は、例えば、ファイバブラッググレーティングにより実現することができる。ここで、「ファイバブラッググレーティング」とは、コアとクラッドとの屈折率差が長手方向に沿って周期的に変化する光ファイバであって、その周期に応じた波長のレーザ光を選択的に反射(ブラッグ反射)する光ファイバのことを指す(コアとクラッドとの屈折率差は、通常、コアの屈折率のみを変化させることにより与える)。
【0048】
ミラー12としては、例えば、少なくとも2次までのモードを導波可能な(閉じ込め可能な)光ファイバに、TM01モードに対する反射率(レーザ媒質から誘導放出されるレーザ光の波長における反射率)が95%以上になるようにグレーティングを書き込んだファイバブラッググレーティングを使用することができる。この際、TM01モード以外の導波モードに対する反射率は、TM01モードに対する反射率と異なっていても構わない。
【0049】
また、ハーフミラー14としては、例えば、少なくとも2次までのモードを導波可能な(閉じ込め可能な)光ファイバに、TM01モードに対する反射率(レーザ媒質から誘導放出されるレーザ光の波長における反射率)が10%程度になるように、すなわち、TM01モードに対する透過率が90%程度になるようにグレーティングを書き込んだファイバブラッググレーティングを使用することができる。この際、TM01モード以外の導波モードに対する反射率及び透過率は、TM01モードに対する反射率及び透過率と異なっていても構わない。
【0050】
なお、ミラー12のTM01モードに対する反射率、並びに、ハーフミラー14のTM01モードに対する反射率及び透過率は、上述した値に限定されない。すなわち、定常的なレーザ光を発振可能な範囲内の値であれば上述した値以外に設定されていてもよい。
【0051】
本実施形態において例示したとおり、レーザキャビティを構成するミラー12、マルチモードファイバ13、ハーフミラー14、モードフィルタ15は、何れも、マルチモードファイバにより構成することができる。これらの部材は、同一の光学特性を有するマルチモードファイバにより構成することもできるし、異なる光学特性を有するマルチモードファイバにより構成することもできる。また、これらの部材は、別個に製造した後、溶着により一体化してもよいし、1本のマルチモードファイバに各種グレーティングを書き込んでいくことで、これらの部材を構成してもよい。
【0052】
また、本実施形態においては、ラジアル偏波レーザ光を発振するファイバレーザ1について説明したが、基本モードレーザ光を発振するファイバレーザ、及び、アジマス偏波レーザ光を発振するファイバレーザについても、同様にして実現することができる。
【0053】
例えば、図1に示した構成において、ラジアル偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタ15に代えて、基本モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタをマルチモードファイバ13に挿入すれば、基本モードレーザ光を発振するファイバレーザを実現することができる。また、ラジアル偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタ15に代えて、アジマス偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタをマルチモードファイバ13に挿入すれば、アジマス偏波レーザ光を発振するファイバレーザを実現することができる。
【0054】
また、本実施形態においては、光ファイバをレーザキャビティとするレーザ発振器について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、光ファイバ以外の増幅媒体をレーザキャビティとするレーザ発振器についても、本発明を適用することができる。固体レーザ、液体レーザ、気体レーザ、及び、半導体レーザの何れについても、本発明を適用することができる。
【0055】
(モードフィルタの構成)
次に、長周期ファイバグレーティングを用いたモードフィルタの構成について、図2〜図3を参照して説明する。なお、「長周期ファイバグレーティング」とは、コアとクラッドとの屈折率差が長手方向に沿って周期的に変化する光ファイバであって、その周期に応じた実効屈折率を有する導波モードを選択的に減衰させる光ファイバのことを指す(コアとクラッドとの屈折率差は、通常、コアの屈折率のみを変化させることにより与える)。また、コアとクラッドとの屈折率差に長手方向に沿った周期的な変化を付けることを、本明細書においては「グレーティングを書き込む」と表現する。
【0056】
図2(a)は、長周期ファイバグレーティングとして使用する光ファイバ2の断面図であり、図2(b)は、その光ファイバ2の径方向に沿った屈折率分布を示すグラフであり、図2(c)は、その光ファイバ2の側面図である。
【0057】
長周期ファイバグレーティングとして使用する光ファイバ2は、図2(a)に示すように、円盤状の中心領域21と、この中心領域21を取り囲む円環状の高屈折率領域22と、この高屈折率領域22を取り囲むクラッド23とを含む断面構造を有している。高屈折率領域22には、ゲルマニウムが添加され、その屈折率は、図2(b)に示すように、中心領域21の屈折率、及び、高屈折率領域22を取り囲むクラッド23の屈折率よりも高くなっている。本実施形態において、この高屈折率領域22の外縁によって囲まれる領域(中心領域21と高屈折率領域22)をコアという。なお、図2(a)及び図2(b)に示すように、光ファイバ2の直径は125μmであり、中心領域21の直径は6μmであり、高屈折率領域22の厚みは2μmであり、コアの直径は10μmである。
【0058】
中心領域21、高屈折率領域22、及びクラッド23の材料は何れも石英であるが、高屈折率領域22にはゲルマニウムが添加されている。このため、図2(c)に示すように、光ファイバ2の被覆を部分的に剥ぎ取って、露出した芯線に紫外線を照射すると、紫外線を照射された部分の高屈折率領域22の屈折率が紫外線を照射されていない部分の高屈折率領域22の屈折率よりも高くなる。この際、露出した芯線に照射する紫外線の波長は、通常、240nm〜250nm程度である。なお、長周期ファイバグレーティングの製造方法の詳細については、例えば、特開2000−249851を参照されたい。
【0059】
書き込むグレーティングの周期Λを(1)式を満たすように設定することによって、波長(真空における波長)λのレーザ光を入射させたときに、コアを伝搬する実効屈折率n1の導波モードを、クラッド23を伝搬する実効屈折率n2のクラッドモードに結合させ、その導波モードを選択的に減衰させる長周期ファイバグレーティングを実現することができる。
【0060】
λ=Λ|n1−n2| ・・・(1)
ここで、導波モードの実効屈折率n1とは、その導波モードのコアにおける波長のz軸成分(光ファイバ2の長手方向にz軸をとる。以下同様。)をλ1として、n1=λ/λ1により定義される屈折率のことを指す。また、クラッドモードの実効屈折率n2とは、そのクラッドモードのクラッド23における波長のz軸成分をλ2として、n2=λ/λ2により定義される屈折率のことを指す。
【0061】
図3は、長周期ファイバグレーティングを用いたモードフィルタ3の構成を示す構成図である。図3に示すモードフィルタ3は、ラジアル偏波モードを導波可能なマルチモードファイバに、ラジアル偏波モード以外の導波モードを減衰させるためのグレーティングを書き込んだものである。
【0062】
モードフィルタ3は、ラジアル偏波モード以外の各導波モードを選択的に減衰させる長周期ファイバグレーティングを連結することにより構成することができる。長周期ファイバグレーティングとして使用する光ファイバが2次までのモードを導波可能な(閉じ込め可能な)光ファイバである場合、モードフィルタ3は、図3に示したように、2次までのモードのうちTM01モード以外の3つの導波モードの各々を選択的に減衰させる3つの長周期ファイバグレーティング31〜33を連結することにより構成することができる。
【0063】
すなわち、図3において、長周期ファイバグレーティング31に書き込まれたグレーティングの周期は、波長λにおいてHE11モードを選択的に減衰させるように設定されている。また、長周期ファイバグレーティング32に書き込まれたグレーティングの周期は、波長λにおいてTE01モードを選択的に減衰させるように設定されている。また、長周期ファイバグレーティング33に書き込まれたグレーティングの周期は、波長λにおいてHE21モードを選択的に減衰させるように設定されている。したがって、波長λのレーザ光をモードフィルタ3に入射させると、ラジアル偏波モード以外の導波モードは、長周期ファイバグレーティング31〜33の何れかにより減衰される。なお、長周期ファイバグレーティング31〜33に書き込まれたグレーティングの周期は、何れも、TM01モードをクラッドに結合させないように設定されており、ラジアル偏波モードは、減衰されることなくモードフィルタ3を透過する。
【0064】
例えば、グレーティングを書き込む光ファイバが図2に示す光ファイバ2と同一の構造及び光学特性を有し、かつ、モードフィルタ3に入射させるレーザ光の波長λ(真空における波長)が1064nmである場合、HE11モードを選択的に減衰させる長周期ファイバグレーティング31に書き込むべきグレーティングの周期は602μmであり、TE01モードを選択的に減衰させる長周期ファイバグレーティング32に書き込むべきグレーティングの周期は1190μmであり、HE21モードを選択的に減衰させる長周期ファイバグレーティング33に書き込むべきグレーティングの周期は1197μmである。何れにおいても60箇所程度の高屈折領域からなるグレーティングを書き込めば十分である。
【0065】
なお、図3においては、長周期ファイバグレーティング31〜33を入射側から長周期ファイバグレーティング31、長周期ファイバグレーティング32、長周期ファイバグレーティング33の順に連結する構成を示したが、モードフィルタ3の構成はこれに限定されるものではない。すなわち、長周期ファイバグレーティング31〜33を連結する順序は任意であり、例えば、長周期ファイバグレーティング31〜33を入射側から長周期ファイバグレーティング32、長周期ファイバグレーティング31、長周期ファイバグレーティング33の順に連結してもよい。
【0066】
また、図3においては、ラジアル偏波モード以外の各導波モードの実効屈折率に応じたグレーティングを、3つの長周期ファイバグレーティング31〜33に別個に書き込む構成を示したが、モードフィルタ3の構成はこれに限定されるものではない。すなわち、ラジアル偏波モード以外の各導波モードの実効屈折率に応じたグレーティングを、1つの長周期ファイバグレーティングに重ねて書き込む構成を採用してもよい。
【0067】
また、モードフィルタ3を構成する長周期ファイバグレーティングとして使用可能な光ファイバは、2次までのモードを導波可能な光ファイバに限らない。すなわち、n次までのモードを導波可能な光ファイバを使用した長周期ファイバグレーティングによっても、モードフィルタ3を構成することができる(nは3以上の整数)。この場合、ラジアル偏波モード以外の導波モードを減衰する長周期ファイバグレーティングを、図3に示した構成に追加すればよい。
【0068】
また、本実施形態においては、ラジアル偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタ3について説明したが、基本モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタや、アジマス偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタなどについても同様にして実現することができる。
【0069】
例えば、基本モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタは、基本モード(例えばHE11モード)以外の各導波モードを選択的に減衰させる長周期ファイバグレーティングを連結することにより構成することができる。また、アジマス偏波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるモードフィルタは、アジマス偏波モード(例えばTE01モード)以外の各導波モードを選択的に減衰させる長周期ファイバグレーティングを連結することにより構成することができる。
【0070】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態としてそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
例えば、本実施形態においては、光ファイバ2は、図2(a)に示すように、円盤状の中心領域21と、この中心領域21を取り囲む円環状の高屈折率領域22と、この高屈折率領域22取り囲むクラッド23とを含む断面構造としたが、コアをクラッドより屈折率を高くして、信号光の閉じ込め構造を構成し、このコア内で、屈折率変調のグレーティングを形成することができる構造であれば、光ファイバ2の断面構造はこれに限らない。例えば、中心領域21にもGeを添加した構造であっても、本実施形態と同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、レーザ加工用のレーザ発振器などに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 ファイバレーザ(レーザ発振器)
11 光源
12 ミラー(ファイバブラッググレーティング)
13 マルチモードファイバ(キャビティ)
14 ハーフミラー(ファイバブラッググレーティング)
15 モードフィルタ(長周期ファイバグレーティング)
2 光ファイバ(マルチモードファイバ)
3 モードフィルタ(長周期ファイバグレーティング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ内で誘導放出されたレーザ光を発振するレーザ発振器において、
上記キャビティ内を伝播するレーザ光に含まれるモードのうち、特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタであって、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバに、上記特定の偏波状態を有する導波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含むモードフィルタを備えている、ことを特徴とするレーザ発振器。
【請求項2】
上記モードフィルタは、2次までの導波モードを導波可能なマルチモードファイバに、HE11モード、TE01モード、及び、HE21モードの各々を選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含んでいる、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
上記キャビティは、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバであって、ミラー及びハーフミラーにより両端を終端されたマルチモードファイバである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
上記ミラー及びハーフミラーは、それぞれ、ファイバブラッググレーティングである、ことを特徴とする請求項3に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
レーザ光に含まれるモードのうち、特定の偏波状態を有するモード以外のモードを選択的に減衰させるモードフィルタであって、上記特定の偏波状態を有する導波モードを導波可能なマルチモードファイバに、上記特定の偏波状態を有する導波モード以外の導波モードを選択的に減衰させるためのグレーティングを書き込んだ長周期ファイバグレーティングを含んでいる、ことを特徴とするモードフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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