説明

不平衡電圧補償方法、不平衡電圧補償装置、三相コンバータの制御方法、および、三相コンバータの制御装置

【課題】三相交流の不平衡電圧補償において、線間電圧の瞬時値から、互い120°の位相差を持つY結線のY相電圧の瞬時値を導出する。
【解決手段】一般的な三相配電系統の三相不平衡の線間電圧を対象とし、線間電圧から重心ベクトル演算によるY相電圧への変換手法を用いて、線間電圧の三相不平衡電圧の瞬時値から、互いに120°の位相差を持つY相電圧の三相不平衡電圧と零相分電圧の瞬時値を導出する。三相交流電圧をPWM変換して直流電圧出力する電力変換において、各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算工程と、重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出工程と、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不平衡電圧補償に関し、三相交流の不平衡を補償する方法および補償装置、三相交流電力を直流電力に変換する三相コンバータにおいて、三相交流の不平衡を補償する制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源側において瞬時電圧低下(瞬低)や長期間にわたる電圧低下等の電圧低下が生じると、電源から電力供給を受ける負荷側では、生産ラインの停止や加工品不良等に影響を与えることが知られている。特に、半導体製造装置では大きな影響が生じるため、瞬低に関する規格「SEMI F47-0200」(非特許文献1)や「SEMI F47-0706」(非特許文献2)が定められている。試験方法についてはSEMI F42-0600に記されている。
【0003】
従来の瞬低対策としては、コンデンサや蓄電池などを用いた瞬低補償装置や無停電電源装置(UPS)といった蓄電デバイス装置を設置することが行われている。蓄電デバイスを用いた補償装置は、電源側または負荷側に並列機器として設置する構成とする他、電源側と負荷側の間に直列機器として挿入して設置し、電力系統を瞬低時に切り替える構成としている。
【0004】
また、三相交流電力を直流電力に変換する(交流−直流)電力変換装置において、三相交流入力電圧が瞬停又は瞬時電圧低下になった場合に、瞬時電圧低下補償装置によって負荷への電力供給を維持することが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
図16は、従来の電圧変動補償装置102の構成例を示している。図16において、三相交流電源101は各相交流電源101a,101b,101cを有するY結線で表現しているが、蓄電デバイス装置による従来方式ではY結線やΔ結線にこだわらない。電圧変動補償装置102は、三相交流電源101と直流負荷(図示していない)との間に設けられる。なお、蓄電デバイス装置の三相交流電源は、Y結線およびΔ結線のいずれにも適用される。
【0006】
電圧変動補償装置102は、三相交流(a相、b相、c相)のそれぞれの相について、エネルギー蓄積手段としてのコンデンサ105a,105b,105cを備えた各相電圧補償回路104a,104b,104cを直列に接続し、各相電圧補償回路104a,104b,104cを制御する制御回路103を備える。
【0007】
三相交流電源には、三相均等負荷に限らず種々の単相負荷が接続されている。これら負荷の投入あるいは気象・事故現象など様々な影響を受けて、三相平衡あるいは不平衡な形態で電圧低下が随時生じる。
【0008】
各相電圧補償回路104a,104b,104cは、制御回路103の指令に基づいて各相の補償電圧を出力して電圧変動を補償する。電圧変動補償装回路102において、通常動作時にコンデンサ105a,105b,105cが充電される。瞬停又は瞬時電圧低下時には、コンデンサ105a,105b,105cから放電される電力によって、一定の出力電圧が維持され、直流負荷への電力供給が継続される。
【0009】
これらの瞬低補償装置は、大型の蓄電デバイス装置設置やコンデンサユニットの設備投資のみならず定期的なメンテナンスが必要であるという問題があるため、蓄電デバイスを使用することなく、三相交流入力電力を変換する手段によって瞬時電圧低下時にも安定した電力供給を行うという要請があり、また、蓄電デバイスを使用することなく力率改善を実現することも求められていた。
【0010】
そこで、瞬時電圧低下において、瞬低期間の入力電圧は三相不平衡の状態にあることに鑑み、三相PWMコンバータによって、蓄電デバイスを用いた電圧変動補償装置を用いることなく、瞬低期間の三相不平衡入力電圧を制御して瞬低補償を実現し、この三相PWMコンバータを用いた瞬低補償によって、瞬低状態となる以前の正常状態において供給していた電力を瞬低が発生した後においても断続することなく負荷へ供給し続けることが提案されている。
【0011】
以下、三相PWMコンバータによって三相不平衡入力電圧を制御することができることについて説明する。
【0012】
図17は瞬低時における等価回路を示している。図17において、e,e,eは送電線三相平衡電圧、Zは送電線インピーダンス、Z12,Z23,Z31は瞬低時の等価インピーダンス、eab,ebc,ecaは瞬低時に生じる三相不平衡の線間電圧、e1oは零相分電圧、Z,Z,Zは負荷インピーダンスであり、直流負荷Rdc(図18に示す)を三相交流入力側に換算した負荷インピーダンスで表している。
【0013】
振幅をEとすると、送電線三相平衡電圧e,e,eは下式(1)〜(3)で表される。
= Ecosωt …(1)
= Ecos(ωt−2π/3) …(2)
= Ecos(ωt+2π/3) …(3)
【0014】
,e,eは送電線三相平衡電圧であるため、逆相分en(rst)、零相分eo(rst)は現れない。したがって、逆相分en(rst)、零相分eo(rst)は以下の式(4)で表される。
n(rst)=eo(rst)=0 …(4)
【0015】
図17において、瞬低時は、送電線インピーダンスZに等価インピーダンスZ12,Z23,Z31が印加された状態に相当する。このとき、端子a,b,cの線間電圧eab,ebc,ecaは三相不平衡状態になり、図17に示す零相分電e1oが発生する。
【0016】
図18において、図17の端子a,b,cから見て、左側は三相交流電源100B側を表し、右側は三相コンバータ200の主回路部分を表している。三相交流電源100Bは、三相平衡電圧e,e,eと不平衡要因とによって等価的に表される。ここで、不平衡要因は、図17中に示す等価インピーダンスZ12,Z23,Z31の投入によって等価的に表すことができる。
【0017】
不平衡電圧補償装置400は、既知あるいは実測可能な三相不平衡入力相電圧を用いて補償信号を生成する。三相PWMコンバータ200は、三相PWM回路200aと三相PWM制御パルス生成部200bとを備え、三相PWM制御パルス生成部200bは、不平衡電圧補償装置400で生成した三相不平衡入力電圧に基づいて制御パルス信号を生成し、三相PWM回路200aをPWM制御する。このPWM制御によって、三相PWMコンバータ200は、不平衡電圧補償を行った直流電圧を直流負荷300に供給する。
【0018】
上記したように、三相PWMコンバータによって瞬低期間の三相不平衡入力電圧を制御することによって、コンデンサや蓄電池等の蓄電デバイスを用いた電圧変動補償装置を用いることなく瞬低補償を実現することが可能である。
【0019】
しかしながら、一般に、PFC(Power Factor Correction)を組み込んだ三相PWMコンバータを制御するためには、互いに120°の位相差を持つY結線三相不平衡相電圧の導出が必要である。導出した検出信号を回転座標(dq軸)の変数に変換処理した後、正相分電圧、逆相分電圧および零相分電圧に分離して、制御に必要なフィードバック信号として用いる。
【0020】
三相PWMコンバータ制御による瞬低補償として、例えば非特許文献3〜5が知られている。これらの非特許文献に示される三相PWMコンバータ制御では、互いに120°位相差を持つY結線三相不平衡電圧が既知あるいは実測可能な入力相電圧であるとして扱っている。
【0021】
これに対して、一般的な三相配電系統はΔ結線である。Δ結線三相配電において、実測することができる三相電圧は、各端子間の電圧である線間電圧であり、Y結線電圧および零相分電圧を実測することができない。
【0022】
このため、従来提案されている三相PWMコンバータ制御によってΔ結線三相配電の三相不平衡電圧を補償するためには、実測した線間電圧から互いに120°の位相差を持つY結線三相不平衡相電圧を導出する必要がある。
【0023】
上記したように、三相PWMコンバータによって瞬低期間の三相不平衡入力電圧を制御することによって、コンデンサや蓄電池等の蓄電デバイスを用いた電圧変動補償装置を用いることなく瞬低補償を実現することが可能となる。
【0024】
しかしながら、一般に、PFC(Power Factor Correction)を組み込んだ三相PWMコンバータを制御するためには、互いに120°の位相差を持つY結線三相不平衡相電圧の導出が必要である。導出した検出信号を回転座標(dq軸)の変数に変換処理した後、正相分電圧、逆相分電圧および零相分電圧に分離して、制御に必要なフィードバック信号として用いる。
【0025】
三相PWMコンバータ制御による瞬低補償として、例えば非特許文献3〜5が知られているが、これらの非特許文献に示され三相PWMコンバータ制御は、互いに120°位相差を持つY結線三相不平衡電圧が既知あるいは実測可能な入力相電圧であるとして扱っている。
【0026】
これに対して、一般的な三相配電系統はΔ結線である。Δ結線三相配電において、実測することができる電圧はΔ結線三相電圧であって、Δ結線の各端子間の電圧である線間電圧であり、Y結線電圧および零相分電圧を実測することができない。このため、従来提案されている三相PWMコンバータ制御によってΔ結線三相配電の三相不平衡電圧を補償するためには、実測した線間電圧から互いに120°の位相差を持つY結線三相不平衡相電圧を導出する必要がある。瞬低補償を三相PWMコンバータで制御する場合には、受電電圧である三相不平衡電圧のΔ形電圧をY形電圧に変換して、制御パラメータを求める必要がある。特に、零相分電圧の抽出が重要である。
【0027】
この三相PWMコンバータの制御によって瞬時電圧低下を補償する装置あるいは方法として、例えば特許文献3が知られている。特許文献3に示される瞬時電圧低下補償装置は、線間相電圧変換手段を備える。線間相電圧変換手段は、線間電圧検出手段で検出された線間電圧信号を相電圧変換信号に変換し、この相電圧変換信号から零相電圧信号及び相電圧信号を生成する。
【0028】
線間相電圧変換手段は、相電圧変換信号(v´,v´,v´)のピーク値を検出し、これら3つのピーク値に基づいて、係数k1,k2,k3を算出し、算出した係数k1,k2,k3に基づいて、零相電圧信号v0(=k1・v´+k2・v´+k3・v´)、相電圧信号(v,v,v)を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2003−274559号公報(図1,段落[0018])
【特許文献2】特開2004−222447号公報
【特許文献3】特開2008−141887号公報(段落[0043],[0055]〜[0059])
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】SEMI "SEMI F47-0200 半導体プロセス装置電圧サグイミュニティのための仕様", pp.859-864, 1999年9月初版発行,2000年2月発行(SEMI l999,2000),(SEMI 1999,2001)
【非特許文献2】SEMI "SEMIF47-0706 半導体プロセス装置電圧サグ対応力のための仕様",pp.1-12, 1999年9月初版発行,2006年5月発行承認(SEMI l999,2006)
【非特許文献3】J.K.kang, S.K.Sul: "Control of Unbalanced Voltage PWM Converter Using Instantaneous Ripple Power Feedback", Power Electronic Specialist Coference, PESC97, PP.503-508(1997-5)
【非特許文献4】H.S.Kim, H.S.Mok, G.H.Choe, D.S.Hyun, S.Y.Choe: "Design of Current Controller for 3-phase PWM Converter with Unbalanced Input Voltage", Power Electronics Specialist Coference, PESC98, pp.503-509(1988-8)
【非特許文献5】S.C.Ahn, D.S.Hyun: "New Control Scheme of Three-Phase PWM AC/DC Converter Without Phase Angle Detection Under the Unbalanced Input Voltage Conditions", IEEE Transaction on Power electronics, pp.616-622(2009-9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
上記した特許文献3によれば、線間相電圧変換手段によって、実測した線間電圧信号を相電圧変換信号に変換し、相電圧変換信号に基づいて零相電圧信号及び相電圧信号を生成し、これによって、一般的な三相配電系統の三相不平衡電圧(線間電圧)に基づいて三相PWMコンバータを制御し三相不平衡補償を行うことができる。
【0032】
しかしながら、この線間相電圧変換手段は、線間電圧を変換して求めた相電圧変換信号のピーク値を検出し、これら3つのピーク値に基づいて算出した係数に基づいて零相電圧信号および相電圧信号を生成する。そのため、零相電圧信号および相電圧信号の生成には、線間電圧の実測を複数回繰り返して最適な係数を求める必要があり、信号生成に要する時間が長くなるおそれがある。
【0033】
Y相電圧において不平衡の電圧と位相角が既知であれば、このY相電圧から不平衡の線間電圧を画一的に定めることができる。これに対して、線間電圧において不平衡の電圧と位相角が既知であったとしても、この線間電圧からY相電圧を画一的に定めることはできない。これは、Y相電圧の基準点が定まらないために、同じ不平衡の電圧と位相角を持った無数のY相電圧の組み合わせが存在するためである。
【0034】
三相PWMコンバータを制御するには、Y相電圧間に互いに120°の位相差の関係が必要であるため、Y相電圧の無数の組み合わせの中から、互いに120°の位相差を持つ特定のY相電圧を選定することが必要となる。互いに120°の位相差を持つ特定のY相電圧を選定することにより、正相分電圧は、Y相電圧の特定相(a相)と同相になり、その後のdq軸変換処理によって制御対象となるDC成分を取出せるため、三相PWMコンバータの制御に都合が良い。また、正相分電圧に対する逆相分電圧の位相角と零相分電圧の位相角は、互いに逆方向で同じ角度を示すため、零相分電圧の導出が可能となる。
【0035】
従来、線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求めるには、電圧の不平衡状態を検出し、さらに、測定した線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を選出する必要があるため処理時間が長くなる。例えば、交流において電圧の不平衡状態を検出するには、少なくとも1/2サイクルの間の電圧変動をモニタする必要がある。
【0036】
三相PWMコンバータを制御して電圧の不平衡を迅速に補償するには、電圧の不平衡に検出および制御信号の生成に要する時間を短縮することが求められ、瞬時の線間電圧から瞬時のY相電圧を導出することが必要である。なお、ここで、瞬時の線間電圧は、ある一時点において測定して得られる線間電圧であり、瞬時のY相電圧は、この一時点で得られた線間電圧の実測値に基づいて導出される線間電圧の値であって、線間電圧の測定時点と一対一に対応するものであり、複数時点での測定値を要することなく、一測定時点の測定値で求めることができることを意味している。
【0037】
瞬時電圧低下による影響を負荷側で迅速に解消するには、三相PWMコンバータの制御に必要な零相電圧信号および相電圧信号の生成を、三相配電系統の三相線間電圧の不平衡状態の変化に対して素早く対応する必要がある。上記した線間相電圧変換手段では、零相電圧信号および相電圧信号を生成するために、線間電圧の実測を複数回繰り返すことが予測されるため、三相線間電圧の不平衡状態の変化への応答が不十分となるおそれがある。
【0038】
瞬時電圧低下に対する応答性として、例えばSEMI F47-0200の瞬低規格が知られている。このSEMI F47-0200の瞬低規格は、広帯域(入力電圧低下範囲 0〜100%)の瞬低補償に求められる制御範囲を定めている。この瞬低規格では、例えば瞬低時から0.2秒の間の電圧低下率が50%、0.2秒から0.5秒の間の電圧低下率が70%等であることが定められている。
【0039】
瞬時電圧低下に対する応答性が不十分である場合には、この瞬低規格を満たすことが困難となる。
【0040】
従来、線間電圧の三相不平衡電圧を入力電圧とし、瞬時の線間電圧から瞬時のY相電圧を導出し、これによって三相PWMコンバータを制御して不平衡電圧を補償する技術は知られていない。
【0041】
本発明は前記した従来の問題点を解決し、三相交流の不平衡電圧補償において、線間電圧の瞬時値から、互い120°の位相差を持つY結線のY相電圧の瞬時値を導出することを目的とし、瞬時の線間電圧から瞬時のY相電圧を導出し、これによって三相PWMコンバータを制御して不平衡電圧を補償することを目的とする。
【0042】
より詳細には、三相交流の不平衡電圧補償において、Δ結線に生じる三相不平衡電圧である線間電圧の一実測値から、その実測時において互い120°の位相差を持つY結線の三相不平衡電圧である正相電圧、逆相電圧、零相電圧を導出することを目的とし、線間電圧の一実測値から、その実測時において互い120°の位相差を持つY結線の三相不平衡電圧を導出し、これによって三相PWMコンバータを制御して不平衡電圧を補償することを目的とする。
【0043】
ここで、線間電圧の瞬時値は、ある一時点で実測した線間電圧の値であり、Y相電圧の瞬時値は、線間電圧の実測値に基づいて導出するY相電圧の値である。
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明は、複数の測定時点で取得した線間電圧の実測値を用いることなく、一時点で実測した線間電圧を用いて、その測定時点におけるY相電圧を導出し、導出したY相電圧を用いて三相PWMコンバータを制御して不平衡電圧を補償する。
【0045】
図1は、本発明の不平衡電圧補償を説明するための概略図である。
本発明は、この三相不平衡電圧e1a,e1b,e1caが未知あるいは直接測定することができない場合に、端子a,b,cの線間電圧を用いることによって不平衡電圧を補償するものであり、さらに、一時点で実測した線間電圧を用いて互い120°の位相差を持つY結線のY相電圧の瞬時値を求め、不平衡補償を行う。
【0046】
前記した図17において、端子a,b,cに対して三相交流電源100B側は、平衡電圧er,e,eと、送電線インピーダンスZと、瞬低時の等価インピーダンスZ12,Z23,Z31の等価回路で表される。従来、この三相交流電源100Bの不平衡状態は、図18で示したように、平衡電圧er,e,eに対して不平衡要因により不平衡が発生したものとして扱い、不平衡電圧補償装置400は、三相不平衡電圧e1a,e1b,e1caが既知あるいは測定可能であるものとして不平衡電圧補償を行うことができるが、三相不平衡電圧e1a,e1b,e1caが未知あるいは測定できない場合には、不平衡電圧を補償できない。
【0047】
上記した従来の不平衡状態の取り扱いに対して、図1に示すように、三相交流電源100Aは互いに2π/3の位相角を持つ不平衡電圧e1a,e1b,e1caを有し、この不平衡電圧によって端子a,b,cに誘起電圧eab,ebc,ecaが誘起されると見なすことができる。これにより、誘起電圧eab,ebc,ecaは、三相交流電源100Aの三相不平衡電圧e1a,e1b,e1caによる発生電圧であると扱いことができ、三相不平衡電圧e1a,e1b,e1caを直接に求めることができない場合に、不平衡電圧e1a,e1b,e1caの取得を補うものとして扱うことができる。
【0048】
本発明は、上記した不平衡状態の取り扱い概要に基づいて、三相不平衡電圧e1a,e1b,e1caが未知あるいは測定できない場合であっても、誘起電圧eab,ebc,ecaを用いることによって三相不平衡電圧e1a,e1b,e1caを求め、不平衡電圧を補償する。ここで、誘起電圧eab,ebc,ecaは、端子a,b,cの線間電圧に相当する。
【0049】
本発明は、三相交流の不平衡電圧補償において、線間電圧の瞬時値から、互い120°の位相差を持つY結線のY相電圧の瞬時値を導出し、これによって三相PWMコンバータを制御して不平衡電圧を補償するものであり、三相不平衡入力電圧が未知あるいは測定困難な場合であっても、不平衡電圧補償を行うことができる。
【0050】
本発明は、一般的な三相配電系統の入力電圧がY形結線(Y相電圧)ではなくΔ形結線(線間電圧)であることに着目して、線間電圧をベクトル演算することによって互いに120°の位相差を持つY相電圧、零相電圧の瞬時値を導出する。三相コンバータの制御を行うためには、Y相電圧、零相分電圧を導出する必要がある。本発明は、ベクトル演算によって求めたY相電圧をdq軸変換処理して、正相分の直流成分を抽出し、直流成分をフィードバック信号として三相インバータの制御に使用する。
【0051】
本発明は一般的な三相配電系統の三相不平衡の線間電圧を対象とし、線間電圧から重心ベクトル演算によるY相電圧への変換手法を用いて、線間電圧の三相不平衡電圧の瞬時値から、互いに120°の位相差を持つY相電圧の三相不平衡電圧と零相分電圧の瞬時値を導出する。
【0052】
本発明は、不平衡電圧補償方法、不平衡電圧補償装置、三相コンバータの制御方法、三相コンバータの制御装置、および不平衡電圧補償プログラムの各形態を含み、いずれも、重心ベクトル演算、対称分算出、不平衡電圧補償の各技術事項を共通して備えるものである。
【0053】
本発明の第1の形態は不平衡電圧補償方法に関し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する電力変換において、三相交流の入力電圧の不平衡を補償する方法に関する。
【0054】
本発明の不平衡電圧補償方法は、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する電力変換において、各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算工程と、重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出工程と、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償工程とを備える。
【0055】
本発明の重心ベクトル演算工程は、三相線間電圧の内から選択される二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、このベクトル演算によって三相線間電圧であるΔ電圧の端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、求めた各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧とする。
【0056】
本発明の発明者は、三相交流電圧の各相の端子電圧を頂点が形成する三角形において、本発明による重心ベクトル演算工程によって、2つの端子間を結ぶ線間電圧ベクトルについて重心ベクトルを求めると、この重心ベクトルの重心は互いに120°の位相差を有する各Y相電圧の零相分の基準点と一致することを見出した。
【0057】
この重心ベクトルの重心と零相分の基準点とが一致する関係によれば、線間電圧から求めた重心ベクトル電圧は、対称分電圧の内、零相分については含まないものの、正相分および逆相分を含み、dq軸変換処理によって互いに120°の位相差を有するY相電圧として扱うことができる。
【0058】
対称分算出工程は、重心ベクトル演算工程で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出する。
【0059】
また、重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧は零相分を含んでいないため、対称分算出工程において零相分電圧を算出するために、逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出する。
【0060】
不平衡電圧補償工程は、対称分算出工程で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相線間電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成し、対称分電圧および補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、求めたY相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する。
【0061】
線間電圧の実測値と制御信号とは一対一に対応し、線間電圧の一測定時点の実測値に基づいて一つの制御信号を生成する。
【0062】
本発明によれば、不平衡補償を行う補償信号および制御信号は、三相交流電圧において一時点での測定値である線間電圧に基づいて求めることができるため、従来のように複数時点で測定することなく求めることができる。
【0063】
したがって、不平衡補償を行う補償信号および制御信号を形成するための測定データを用意するための時間を省くことができ、一測定時点の測定データから補償信号および制御信号を生成することができ、この意味で瞬時の補償信号および制御信号を生成することができる。
【0064】
本発明の第2の形態は不平衡電圧補償装置に関し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する電力変換において、三相交流の入力電圧の不平衡を補償する装置に関する。
【0065】
本発明の不平衡電圧補償装置は、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する電力変換において、各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算部と、重心ベクトル演算部で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出部と、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償部とを備える。
【0066】
本発明の重心ベクトル演算部は、三相線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、このベクトル演算によって三相線間電圧であるΔ電圧の端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、求めた各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧として出力する。
【0067】
本発明の不平衡電圧補償部は、対称分算出部で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成して出力し、対称分電圧および前記補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、求めたY相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する。
【0068】
本発明の対称分算出部は、重心ベクトル演算部で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出し、不平衡電圧補償部に出力する。
【0069】
本発明の対称分算出部は、逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出し、不平衡電圧補償部に出力する。
【0070】
本発明の不平衡電圧補償部は、線間電圧の一測定時点の実測値に対して一つの制御信号を生成する。
【0071】
本発明の不平衡電圧補償にかかる技術事項は、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する三相コンバータの制御に適用することができる。
【0072】
本発明の第3の形態は三相コンバータの制御方法であり、本発明の第4の形態は三相コンバータの制御装置である。
【0073】
本発明の第3の形態の三相コンバータの制御方法は、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する三相コンバータの制御方法において、第1の形態の不平衡電圧補償方法と同様に、各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算工程と、重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出工程と、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償工程とを備える。
【0074】
重心ベクトル演算工程は、三相線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、このベクトル演算によって当該三相線間電圧であるΔ電圧の端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、求めた各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧とする。
【0075】
不平衡電圧補償工程は、対称分算出工程で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相線間電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成し、対称分電圧および補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、求めたY相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成し、不平衡電圧補償工程で生成した制御信号によって三相コンバータのスイッチング動作を制御して三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する。
【0076】
対称分算出工程は、重心ベクトル演算工程で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出する。
【0077】
対称分算出工程は、逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出する。線間電圧の実測値と制御信号とは一対一に対応し、線間電圧の一測定時点の実測値に基づいて一つの制御信号を生成する。
【0078】
本発明の第4の形態の三相コンバータの制御装置は、第2の形態の不平衡電圧補償装置と同様に、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する三相コンバータを制御する制御装置において、各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算部と、重心ベクトル演算部で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出部と、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償部とを備える。
【0079】
本発明の重心ベクトル演算部は、三相線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、このベクトル演算によって当該三相線間電圧であるΔ電圧の端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、求めた各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧として出力する。
【0080】
本発明の不平衡電圧補償部は、対称分算出部で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成して出力し、対称分電圧および前記補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、求めたY相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成し、不平衡電圧補償部で生成した制御信号によって三相コンバータのスイッチング動作を制御して三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する。
【0081】
本発明の対称分算出部は、重心ベクトル演算部で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出し、不平衡電圧補償部に出力する。
【0082】
本発明の対称分算出部は、逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって零相分電圧を算出し、不平衡電圧補償部に出力する。
【0083】
本発明の制御信号生成部は、線間電圧の一測定時点の実測値に対して一つの制御信号を生成する。
【0084】
さらに、本発明は、不平衡電圧補償プログラムの形態とすることができる。
本発明の不平衡電圧補償プログラムは、三相コンバータの制御においてコンピュータに各工程を実行させるプログラムであり、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力する三相コンバータの制御において、各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算工程と、重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出工程と、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償工程の各工程をコンピュータを実行させるプログラムである。
【0085】
ここで、各工程は、本発明の第3の不平衡電圧補償方法と同様に重心ベクトル演算工程、対称分算出工程、および不平衡電圧補償工程の工程を含む。
【0086】
重心ベクトル演算工程は、三相線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、ベクトル演算によって当該三相線間電圧であるΔ電圧の端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、求めた各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧とする。
【0087】
不平衡電圧補償工程は、対称分算出工程で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成し、対称分電圧および補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、求めたY相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する。
【0088】
本発明の対称分算出工程は、重心ベクトル演算工程で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出する。
【0089】
また、本発明の対称分算出工程は、逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって零相分電圧を算出し、不平衡電圧補償部に出力する。線間電圧の実測値と制御信号とは一対一に対応し、線間電圧の一測定時点の実測値に基づいて一つの制御信号を生成する。
【0090】
本発明の態様によれば、複数の測定時点で取得した線間電圧の実測値を用いることなく、一時点で実測した線間電圧を用いて、その測定時点におけるY相電圧を導出することができる。
【発明の効果】
【0091】
以上説明したように、本発明の不平衡電圧補償方法、不平衡電圧補償装置、三相コンバータの制御方法、三相コンバータ制御装置、および不平衡電圧補償プログラムの各形態によれば、三相交流の不平衡電圧補償において、線間電圧の瞬時値から、互い120°の位相差を持つY結線のY相電圧の瞬時値を導出することができる。
【0092】
また、本発明によれば、三相交流の不平衡電圧補償において、三相不平衡電圧である線間電圧の一実測値から、その実測時において互い120°の位相差を持つY結線の三相不平衡電圧である正相電圧、逆相電圧、零相電圧を導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の不平衡電圧補償を説明するための概略図である。
【図2】本発明の不平衡電圧補償装置の概略構成を説明するための図である。
【図3】本発明の不平衡補償の重心ベクトル演算により線間電圧からY相電圧を求める手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の不平衡補償の重心ベクトル演算によりY相電圧から対称分電圧を算出する手順を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の不平衡補償の重心ベクトル演算を説明するための電圧ベクトル図である。
【図6】本発明の不平衡補償の重心ベクトル演算を説明するための電圧ベクトル図である。
【図7】本発明の不平衡電圧補償装置のより詳細な構成例を説明するための図である。
【図8】本発明の不平衡電圧補償動作をソフトウエアによるCPUの演算処理で行う構成例を説明するための図である。
【図9】本発明の不平衡電圧補償動作をソフトウエアによるCPUの演算処理で行う構成例を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の不平衡電圧補償による実験例を説明するための図である。
【図11】本発明の不平衡電圧補償による実験例を説明するための図である。
【図12】本発明の不平衡電圧補償による実験例を説明するための図である。
【図13】本発明の不平衡電圧補償による実験例を説明するための図である。
【図14】本発明の不平衡電圧補償による実験例を説明するための図である。
【図15】本発明の不平衡電圧補償による実験例を説明するための図である。
【図16】従来の電圧変動補償装置の構成例を示す図である。
【図17】瞬低時における等価回路を示す図である。
【図18】三相コンバータの入力側および負荷側の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
本発明の不平衡電圧補償装置の構成および本発明の不平衡電圧補償制御方法について、三相コンバータを例として、図2〜図9を用いて説明し、実施例による実験結果について図10〜図15を用いて説明する。
【0095】
本発明の不平衡電圧補償装置の概略構成について図2を用いて説明する。図2において、三相交流電源100から供給される三相交流電力において、三相コンバータ200によって三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を直流負荷300に出力する。
【0096】
本発明の不平衡電圧補償装置1は、三相交流電力の不平衡電圧を補償して直流負荷300に出力する電圧の変動を抑制する。また、不平衡電圧補償装置1は、直流負荷300への入力電圧および入力電流をフィードバックし、PFC制御によって力率制御を行う。
【0097】
不平衡電圧補償装置1は、各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算部10と、重心ベクトル演算部10で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称座標成分算出部20と、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する加算部30とを備える。
【0098】
三相コンバータ200は、三相PWM回路200aと、三相PWM回路200aの動作を制御してPWM制御を行わせるパルス信号を発生する三相PWMパルス生成部200bを備える。三相PWMパルス生成部200bは、加算部30で生成した制御信号に基づいてパルス信号を形成する。三相PWM回路200aは、例えば、スイッチング素子によりブリッジ回路を構成することで形成することができ、パルス信号によってスイッチング素子のオン/オフ動作を制御してPWM制御を行わせる。
【0099】
重心ベクトル演算部10は、線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算を行い、このベクトル演算によって三相線間電圧であるΔ電圧の端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、求めた各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有するY相電圧として、対称座標成分算出部20に出力する。
【0100】
対称座標成分算出部20は、重心ベクトル演算部10で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧である、正相分電圧、逆相分電圧、零相分電圧を算出し、加算部30に出力する。
【0101】
不平衡電圧補償は、対称座標成分算出部20で算出した正相分電圧と、負荷側への入力電力のフィードバック値に基づいて定電流制御を行って電流指令値を生成する定電流制御部40と、この電流指令値と三相コンバータ200への入力電流とに基づくPI制御によってPFC制御(力率制御)を行う平均電力演算部50と、定電流制御後の正相分電圧と逆相電圧と零相分電圧を加算する加算部30とによって構成される。零相分電圧は、三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号として加算される。
【0102】
加算部30は、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧が出力する。加算部30から出力されるY相電圧は、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号として、三相コンバータ200の三相PWMパルス生成部200bに出力される。
【0103】
定電流制御部40にフィードバックする入力電力は、例えば、平均電力演算部50によって、負荷側で検出した電流と電圧に基づいて電力を算出することで取得することができる。
【0104】
[重心ベクトル演算によるY相電圧の算出]
次に、本発明の不平衡補償において、重心ベクトル演算を用いて線間電圧から互いに120°の位相差を有したY相電圧を求める手順、および求めたY相電圧から対称分電圧を算出する手順について、図3,4のフローチャート、および図5,6のベクトル図を用いて説明する。
【0105】
三相交流の各端子間の線間電圧(eab,ebc,eca)を検出する。ここで、線間電圧eabは端子aと端子bと間のベクトル電圧であり、線間電圧ebcは端子bと端子cと間のベクトル電圧であり、線間電圧ecaは端子cと端子aと間のベクトル電圧である(S1)。
【0106】
検出した線間電圧(eab,ebc,eca)をベクトル演算して重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)を算出する。
2a=(eab−eca)/3 …(5)
2b=(ebc−eab)/3 …(6)
2c=(eca−ebc)/3 …(7)
【0107】
本発明の発明者は、線間電圧の重心ベクトルを算出して得られる重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)と、互いに120°の位相差を有するY相のベクトル電圧(e1a,e1b,e1c)との間に以下の式(8)の関係があることに注目した。
1a=e2a+e1o
1b=e2b+e1o
1c=e2c+e1o
…(8)
【0108】
式(8)は、互いに120°の位相差を有するY相電圧(e1a,e1b,e1c)は、線間電圧の重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)と零相分電圧e1oとのベクトル和で表されることを示している。本発明の発明者は、上記式(8)から、零相分電圧e1oを導出することによって、線間電圧の重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)から互いに120°の位相差を有するY相電圧(e1a,e1b,e1c)が得られることを見出し、さらに、この関係から、線間電圧の重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)から、互いに120°の位相差を有するY相電圧(e1a,e1b,e1c)の正相分電圧e1pと逆相分電圧e1nを求められることを見出した。
【0109】
本発明は、上記した、線間電圧の重心ベクトルとY相電圧との関係を利用することによって、互いに120°の位相差を有するY相電圧(e1a,e1b,e1c)を直接検出することに代えて、Δ電圧である線間電圧(eab,ebc,eca)からベクトル演算によって容易に算出することができる重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)を用い、この重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)を三相PWMコンバータの制御に適用することによって、三相交流の不平衡電圧補償を容易に行うものである。
【0110】
(重心ベクトルと相電圧との関係)
以下、ベクトル演算で求めた重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)が、互いに120°の位相差を有するY相電圧に相当することについて説明する。
【0111】
図5は、Δ電圧とY相電圧との関係を示している。図5において、Δ電圧は端子a,b,c間の線間電圧(eab,ebc,eca)で表され、Y相電圧(eka,ekb,ekc)は任意の点kから各端子a,b,cへのベクトル電圧で表される。点kはY相電圧において任意に定める基準点である。
【0112】
ここで、Y相電圧(eka,ekb,ekc)が予め既知であれば、Δ電圧(eab,ebc,eca)は画一的に定まる。これに対して、Δ電圧(eab,ebc,eca)が予め既知であっても、基準点kの位置は任意に定めることができ無数に存在するため、Y相電圧(eka,ekb,ekc)は画一的に定まらず、Y相電圧(eka,ekb,ekc)で表記できる無数の組み合わせが存在する。なお、Y相電圧(eka,ekb,ekc)による零相分電圧をekoとし、点oを零相分電圧の基準点とする。
【0113】
図5に示すΔ電圧(線間電圧)とY相電圧との関係から、
ab−eca=eka−ekb−(ekc−eka
=3eka−(eka+ekb+ekc
=3eka−3eko …(9)
が得られる。
【0114】
式(9)の関係から、Y相電圧(eka,ekb,ekc)は、Δ電圧(eab,ebc,eca)と零相分電圧ekoとによって、以下の式(10)〜(12)で表すことができる。
ka=(eab−eca)/3+eko …(10)
kb=(ebc−eab)/3+eko …(11)
kc=(eca−ebc)/3+eko …(12)
【0115】
一方、互いに120°の位相差を持つY相電圧は、a相の位相角φ1aをαで表すと、a相、b相、c相の各相の位相角φ1a、φ1b、φ1cは、
φ1a=α
φ1b=α−2π/3
φ1c=α+2π/3 …(13)
で表され、正相分電圧の位相角は、互いに120°の位相差の関係を持つY相電圧のa相と同相となる。この関係によれば、dq軸変換によって三相PWMコンバータの制御対象となる直流成分を取り出すことができるため、三相PWMコンバータの制御が容易となる。
【0116】
また、互いに120°の位相差を持つY相電圧では、逆相分電圧と零相分電圧の正相分電圧に対する位相角は逆方向で同角度となる。
【0117】
図6(a)は、互いに120°の位相差の関係を持つY相電圧と、零相分電圧の基準点oとの関係を示し、図6(b)は、互いに120°の位相差の関係を持つY相電圧と、重心ベクトルの基準点(重心)との関係を示している。なお、図6では、互いに120°の位相差の関係を持つY相電圧の基準点をK=1で表し、重心ベクトルの基準点(重心)の基準点をK=2で表している。
【0118】
図6(a)で示すように、互いに120°の位相差を持つY相電圧(e1a,e1b,e1c)は、式(10)〜(12)においてK=1として以下の式(14)で表される。
1a=(eab−eca)/3+e1o =eoa+e1o
1b=(ebc−eab)/3+e1o =eob+e1o
1c=(eca−ebc)/3+e1o =eoc+e1o
…(14)
【0119】
一方、図6(b)で示すように、Δ電圧(eab,ebc,eca)の内の2つの線間電圧について重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)をベクトル演算によって求め、この重心ベクトルの点をK=2として表すと、以下の式(15)で表される(S2)。
2a=(eab−eca)/3
2b=(ebc−eab)/3
2c=(eca−ebc)/3
2o=(e2a+e2b+e2c)/3=0
…(15)
【0120】
また、図6(b)から、重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)を用いて、互いに120°の位相差を持つY相電圧(e1a,e1b,e1c)を表すと前記した式(8)が得られる。
【0121】
式(8)は、前記したように、互いに120°の位相差を有するY相電圧(e1a,e1b,e1c)は、線間電圧の重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)と零相分電圧e1oとのベクトル和で表されることを示している。
【0122】
一方、互いに120°の位相差を持つY相電圧は、a相の位相角φ1aをαで表すと、a相、b相、c相の各相の位相角φ1a、φ1b、φ1cは、
φ1a=α
φ1b=α−2π/3
φ1c=α+2π/3 …(16)
で表され、正相分電圧の位相角は、互いに120°の位相差の関係を持つY相電圧のa相と同相となる。
【0123】
この関係によれば、dq軸変換によって三相PWMコンバータの制御対象となる直流成分を取り出すことができるため、三相PWMコンバータの制御が容易となる(S3)。
【0124】
また、互いに120°の位相差を持つY相電圧では、逆相分電圧と零相分電圧の正相分電圧に対する位相角は逆方向で同角度となる。
【0125】
したがって、互いに120°の位相差を持つY相電圧(e1a,e1b,e1c)に代えて、線間電圧の重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)を用い、この重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)から正相分電圧eおよび逆相分電圧eを抽出することによって三相PWMコンバータの制御対象となる直流成分を取り出すことができ、また、零相分電圧を抽出することによって不平衡電圧の補償を行うことができる(S4)。
【0126】
次に、ステップS2で求めた重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)をdq軸変換処理し、d軸成分e1dとq軸成分e1qとを求める。これは、三相PWMコンバータの制御を直流成分によって行うためである(S3)。
【0127】
dq軸変換を行うために、空間ベクトルから実数ベクトルヘの変換を行う。Y相電圧(e1a,e1b,e1c)と三相平衡電圧(e,e,e)の位相差をαとすると、Y相電圧(e1a,e1b,e1c)は、空間ベクトルで表したY相電圧の実数部に相当し、以下の式(17)で表される。
1a=E1amcos(ωt+α)
1b=E1bmcos(ωt+α−2π/3)
1c=E1cmcos(ωt+α+2π/3)
…(17)
【0128】
これらをdq軸変換するとd軸、q軸、零相分が得られる。しかしながら、Δ結線では互いに120°の位相差を持つY相電圧(e1a,e1b,e1c)は直接検出できず未知数である。そのため、その零相分電圧e1oは不明である。
【0129】
そこで、本発明では、直接検出できないY相電圧(e1a,e1b,e1c)に代えて、検出が可能な線間電圧を重心ベクトル演算して得られる重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)を使用する。これによって、三相不平衡電圧補償を、一測定時における線間電圧によって行うことができる。
【0130】
式(8)のY相電圧(e1a,e1b,e1c)をdq軸変換した場合には、
【数1】

となり、式(15)の重心ベクトル(e2a,e2b,e2c)をdq軸変換した場合には、
【数2】

となる。
【0131】
式(18)と式(19)式で表されるdq軸変換したd軸成分e1d,e2dおよびq軸成分e1q,e2qは、式(14)式に示す零相分電圧e1o成分に影響されず、それぞれ等しい値を示す。
【0132】
このことは、一測定時点で得られる瞬時の線間電圧(eab,ebc,eca)の式(15)をdq軸変換して得られる式(24)式を採用することによって、PFC制御を、複数時点の測定値を用いることなく、一測定時点の線間電圧を取得することで、高速で応答することが可能になる。
【0133】
なお、式(19)式を用いてPFC制御を行う場合には、式(19)中に零相分電圧e1oが現れない。そのため、零相分電圧e1oは、正相分電圧および逆相分電圧を用いて算出する。この零相分電圧e1oの算出については後述する(S3)。
【0134】
次に、dq軸変換で得られたd軸成分e1dとq軸成分e1qから対称分電圧(正相分電圧、逆相分電圧、零相分電圧)を求める(S4)。
【0135】
(対称分電圧の算出)
以下、対称分電圧の算出について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0136】
互いに120°の位相差を持つY相電圧(e1a,e1b,e1c)の正相分電圧をe1p、逆相分電圧をe1n、零相分電圧をe1oとすると、Y相電圧(e1a,e1b,e1c)は
1a=e1p+e1n+e1o
1b=e1p・e-j2π/3+e1n・ej2π/3+e1o
1c=e1p・ej2π/3+e1n・e-j2π/3+e1o
1a=E1pmcos(ωt+α)+E1nmcos(ωt+φ1n
+E1omcos(ωt+φ1o
1b=E1pmcos(ωt+α−2π/3)+E1nmcos(ωt+φ1n+2π/3)
+E1omcos(ωt+φ1o
1c=E1pmcos(ωt+α+2π/3)+E1nmcos(ωt+φ1n−2π/3)
+E1omcos(ωt+φ1o
…(20)
で表され、これらをdq軸変換することによって以下の式(21)が得られる。
【0137】
【数3】

【0138】
式(21)の正相分電圧(e1dp、e1qp)は直流分に相当し、逆相分電圧(e1dn、e1qn)は交流分に相当するため、周波数分離によって正相分電圧(e1dp、e1qp)と逆相分電圧(e1dn、e1qn)とを抽出することができる。
【0139】
この周波数分離は、バンドパスフィルターやローパスフィルターを用いて行うことができる。例えば、正相分電圧(e1dp、e1qp)はローパスフィルターによって抽出することができ、(E1pmcosα、E1pmsinα)が得られる。また、逆相分電圧(e1dn、e1qn)はdq軸変換した元信号から抽出した正相分電圧(e1dp、e1qp)を減算することによって抽出することができ、(E1nmcos(2ωt+φ1n)、−E1nmsin(2ωt+φ1n))が得られる(S41,S42)。
【0140】
測定時点の時刻をtとすると、正相分電圧の位相角αと逆相分電圧の位相角φ1nはそれぞれ
α=tan−1(e1qp/e1dq) …(22)
φ1n=−2ωt−tan−1(e1qn/e1dn) …(23)
で求めることができる。
【0141】
また、逆相分電圧e1nは、
3e1n=E1amcos(ωt+α)+E1bmcos(ωt+α+2π/3)
+E1cmcos(ωt+α−2π/3) …(24)
から、
【数4】

【数5】

となる。
【0142】
また、零相分電圧e1oは、
【数6】

となる。
【0143】
上記式において、
1om=E1nm
φ1n=α+φ´
φ1o=α−φ´
の関係から、
φ1o=2α−φ1n …(28)
の関係があるため、零相分電圧e1oの位相φ1oは以下の式(29)で表される。
φ1o=2ωt+2tan−1(e1qn/e1dn)+tan−1(e1qp/e1dq) …(29)
(S43)。
【0144】
また、零相分電圧e1oの振幅E1omは、逆相分電圧(e1dn、e1qn)から
1om=(e1dn+e1qn1/2 …(30)
で表される(S44)。
【0145】
したがって、零相分電圧e1oは、
1o=(e1dn+e1qn1/2・cos(ωt+φ1o) …(31)
となる(S45)。
【0146】
これにより、互いに120°の位相差を持つY相電圧(e1a,e1b,e1c)は以下の式(32)〜(34)で表される。
1a=(eab−eca)/3+(e1dn+e1qn1/2・cos(ωt+φ1o)…(32)
1b=(ebc−eab)/3+(e1dn+e1qn1/2・cos(ωt+φ1o)…(33)
1c=(eca−ebc)/3+(e1dn+e1qn1/2・cos(ωt+φ1o)…(34)
【0147】
次に、零相分電圧により不平衡電圧補償を行うと共にPFC制御を行い(S5)、互いに120°の位相角を持ち、不平衡電圧補償および力率制御が行われたY相電圧(e1a,e1b,e1c)を求め(S6)、求めたY相電圧(e1a,e1b,e1c)に基づいて三相PWMコンバータを制御する制御信号を生成する(S7)。
【0148】
[不平衡電圧補償装置の構成例]
次に、本発明の不平衡電圧補償装置について、より詳細な構成例について図7を用いて説明する。
【0149】
図7に示す不平衡電圧補償装置の構成例は、図2に示した概略構成と同様に、三相交流電源100から供給される三相交流電力の三相交流電圧を、三相コンバータ200でPWM変換して直流電圧を直流負荷300に出力する。
【0150】
本発明の不平衡電圧補償装置1は、配電線三相平衡電圧がe,e,eの各線間電圧(eab,ebc,eca)からY相電圧(e2a,e2b,e2c)を求める重心ベクトル演算部10と、重心ベクトル演算部10で求めたY相電圧(e2a,e2b,e2c)から三相の平衡系の対称分電圧(e1dp,e1dq,e1dn,e1qn)を算出する対称座標成分算出部20と、三相交流電圧の不平衡電圧e1oを補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する加算部30とを備え、不平衡電圧補償部を構成する。
【0151】
また、本発明の不平衡電圧補償装置1は、PFC制御を行うために、定電流制御部40、平均電力演算部50を備える。このほか、配電線上において、三相PWMコンバータ200の入力側には、線間電圧を検出するための接点61と電流値を測定するためのセンサ63と交流リアクトル60が設けられ、三相PWMコンバータ200の出力側には直流電圧を検出するための接点67と直流電流を測定するためのセンサ65と出力平滑用のコンデンサ69が設けられる。
【0152】
三相PWMコンバータ200の入力側では、接点61に線間電圧検出部62が接続され、線間電圧検出部62によって三相電圧の線間電圧が測定される。また、センサ63には電流検出部64が接続され、電流検出部64によって三相電圧の電流が測定される。
【0153】
また、三相PWMコンバータ200の出力側では、接点67に電圧検出部68が接続され、電圧検出部68によって出力電圧が測定される。また、センサ65には電流検出部66が接続され、電流検出部66によって出力電流が測定される。
【0154】
3相交流電源は、電圧V,V,Vの3相入力電力を出力する。電圧V,V,Vは、それぞれa相、b相、c相の相電圧である。接点61は、a相、b相、c相の線とのそれぞれの接点を有する。センサ63は、a相、c相の線に設けられ、3相交流電源から入力される交流入力電流を検出する電流センサである。交流リアクトル60は、a相、b相、c相の線上に設けられ、高周波電流を阻止する。
【0155】
3軸から2軸への変換、あるいは2軸から3軸への変換を行うdq軸変換部81,82,83を備える。dq軸変換部81は重心ベクトル演算部10で求めたY相電圧(e2a,e2b,e2c)をd軸電圧e1dとq軸電圧e1qに変換し、dq軸変換部82は2軸の逆相分電圧(e1dn、e1qn)を3軸の逆相分電圧(e1an、e1bn、e1cn)に変換し、dq軸変換部83は電流検出部64で求めたi、i,iをd軸電流iとq軸電流iに変換し、dq軸変換部84は2軸の定電流制御後の正相分電圧(vdp*r、vqp*r)を3軸の正相分電圧(e1ap、e1bp、e1cp)に変換する。
【0156】
また、同期信号生成部70を重心ベクトル演算部10に接続し、重心ベクトル演算部10で求めたY相電圧(e2a,e2b,e2c)に基づいて、dq軸変換部81,82,83の同期をとるための同期信号sを生成する。
【0157】
三相コンバータ200は、三相PWM回路200aと、三相PWM回路200aの動作を制御してPWM制御を行わせるパルス信号を発生する三相PWMパルス生成部200bを備え、三相PWMパルス生成部200bは加算部30で生成した相電圧(V,V,V)に基づいてパルス信号を形成する。三相PWM回路200aは、例えば、スイッチング素子によりブリッジ回路を構成することで形成することができ、パルス信号によってスイッチング素子のオン/オフ動作を制御してPWM制御を行わせる。
【0158】
三相コンバータ200の三相PWM回路200aは、例えば、IGBT等の半導体スイッチング素子とダイオードとにより構成され、半導体スイッチング素子の各ゲートのオンオフ制御によって、入力される3相交流電力を直流電力に変換して出力する。
【0159】
三相コンバータ200の出力側には、コンデンサ69と、センサ65と、接点67とが設けられる。コンデンサ69は、三相コンバータ200から出力される直流電圧を平滑化する。センサ65は、三相コンバータ200から出力される直流出力電流を検出する電流センサであり、電流検出部66によって直流出力電流の電流値Idcが検出される。接点67は、三相コンバータ200の直流出力の線との接点であり、電圧検出部68によって直流出力電圧の電圧値Vdcが検出される。
【0160】
以下、不平衡電圧補償装置1の各部について説明する。
【0161】
線間電圧検出部62は、接点61における3相交流入力電圧の線間電圧(eab,ebc,eca)を検出する。重心ベクトル演算部10は、線間電圧検出部62で検出した線間電圧(eab,ebc,eca)の信号から重心ベクトル電圧(e2a,e2b,e2c)を演算して求め、求めた重心ベクトル電圧(e2a,e2b,e2c)を互いに120°の位相差を持つ相電圧(e1a,e1b,e1c)に代わりの信号として用いる。
【0162】
dq変換部(3相2相変換)81は、重心ベクトル演算部10で求めた重心ベクトル電圧(e2a,e2b,e2c)をd軸,q軸(2相)の電圧信号(e1d,e1q)に変換する。また、同期信号生成部70は重心ベクトル演算部10で求めた重心ベクトル電圧(e2a,e2b,e2c)を用いて同期信号sを生成する。このdq変換部81のdq軸変換は、前記した式(21)に基づいて行うことができる。
【0163】
電流検出部64は、センサ63により検出されたa相、c相の交流入力電流の検出信号を取得して3相交流入力電流(i,i,i)の信号を生成する。電流検出部64は、a相、b相、c相の交流入力電流の総和が0になることを利用して3相交流入力電流信号を生成するため、a相、b相、c相のうち少なくとも2つの交流入力電流を検出する構成であれば3相の入力電流を取得できる。
【0164】
dq変換部(3相2相変換)83は、電流検出部64で検出した3相交流入力電流(i,i,i)の信号をd軸,q軸(2相)の電流信号(i,i)に変換する。
【0165】
対称座標成分算出部20は、正相分電圧算出部21,逆相分電圧算出部22,φ1o算出部23,および零相分電圧算出部24を備え、dq変換部(3相2相変換)81で変換したd軸,q軸(2相)の電圧信号(e1d,e1q)を入力し、対称分電圧である正相分電圧(e1dp,e1qp),逆相分電圧(e1dn,e1qn)、零相分電圧に(e1o)を算出する。
【0166】
前記した式(21)において、重心ベクトル電圧(e2a,e2b,e2c)をdq軸変換して得られるd軸電圧e1dおよびq軸電圧e1qにおいて、直流分(E1pmcosα、E1pmsinα)は正相分電圧(e1dp、e1qp)に相当し、交流分(E1nmcos(2ωt+φ1n)、−E1nmsin(2ωt+φ1n))は逆相分電圧(e1dn、e1qn)に相当し、周波数分離によって正相分電圧(e1dp、e1qp)と逆相分電圧(e1dn、e1qn)とを抽出することができる。
【0167】
正相分電圧算出部21は、例えば、バンドパスフィルターやローパスフィルターを用いて正相分電圧(e1dp、e1qp)を抽出することができる。また、逆相分電圧算出部22は、dq軸変換した元の信号から、正相分電圧算出部21で抽出した正相分電圧(e1dp、e1qp)を減算することによって、逆相分電圧(E1nmcos(2ωt+φ1n)、−E1nmsin(2ωt+φ1n))を抽出することができる。
【0168】
前記したように、零相分電圧e1oは式(31)で表すことができ、この内、零相分電圧e1oの位相φ1oは式(29)で表され、零相分電圧e1oの振幅E1omは、式(30)で表される。
【0169】
そこで、φ1o算出部23によって、正相分電圧(e1dp、e1qp)と逆相分電圧(e1dn、e1qn)を用いて位相φ1oを算出して零相分電圧算出部24に入力し、零相分電圧算出部24は、φ1o算出部23で算出した位相φ1oと、逆相分電圧算出部22で算出した逆相分電圧(e1dn、e1qn)を用いて零相電圧e1oを算出する。
【0170】
正相分電圧算出部21で算出された正相分電圧(e1dp、e1qp)は、定電流制御部40において定電流制御され、dq変換部84の2−3軸変換によって正相分電圧(e1ap,e1bp,e1cp)に対応した正相分電圧(V1ap,V1bp,V1cp)に変換された後、加算部30に入力される。
【0171】
また、逆相分電圧算出部22で算出された逆相分電圧(e1dn、e1qn)は、dq変換部82で2−3軸変換され、逆相分電圧(e1an,e1bn,e1cn)に変換された後、加算部30に入力される。また、零相分電圧算出部24で算出された零相分電圧e1oは、加算部30に入力される。
【0172】
加算部30は、入力した正相分電圧(V1ap,V1bp,V1cp)と逆相分電圧(e1an,e1bn,e1cn)と零相分電圧e1oとを加算して相電圧(e,e,e)を出力する。この相電圧(e,e,e)は、不平衡補償および定電流制御が成された信号である。三相PWMコンバータ200の三相PWM制御パルス生成部200bは、この相電圧(e,e,e)に基づいて三相PWM回路200aを制御する制御パルス信号を生成する。
【0173】
以下、定電流制御のための構成について説明する。
三相PWMコンバータの定電流制御を行うために、入力電力と入力電圧の関係式を知る必要がある。
【0174】
正相分電流振幅Ipm、逆相分電流振幅Inmによるa相電流iを空間ベクトルIで表現し、
Ia=Ipmj(ωt+β)+Inm−j(ωt+β) …(35)
とする。
【0175】
一方、(20)式に示すa相分電圧e1aを空間ベクトルV1aに変換して、入力電力Pinを求めると、
【数7】

となる。
逆相分電流Inmは零電流制御をすることにより、Inm=0となる。
【0176】
この"Inm=0"の条件下において、式(36)で表される入力電力Pin中のPとQは、
【数8】

【数9】

である。
【0177】
但し、
【数10】

である。
【0178】
式(36)式のPinの平均値電力制御と逆相分電流の零制御を行う場合は、式(37)と式(38)の2ωtの項は消去でき、PおよびQの平均値電力をPave、Qaveとすれば、
【数11】

が得られる。
【0179】
一方、PI制御によるPinの平均値電力Paveは電圧指令値をVdc*rとすれば
【数12】

として与えられる。
【0180】
式(40)のQaveを零制御する場合の電流指令値は、式(40)式の電流項をそれぞれidc*r、iqc*rと置換して、
【数13】

となる。
【0181】
この式(42)は入力電力と入力電圧による電流指令値を表わしている。この電流指令値を用いた定電流制御による出力信号vdp*r、vqp*rは、
【数14】

【数15】

と与えられる。
【0182】
定電流制御部40は、平均電力演算部50で求めた平均電力に基づいて電流指令値を求め、この電流指令値と電流検出部64で検出した入力側電流とを比較することによって、正相分電圧算出部21から得られた正相分電圧を定電流制御し、得られた制御値(Vdp*r,Vqp*r)をdq変換部84で3軸の正相信号(V1ap,V1bp,V1cp)に変換した後、加算部30に入力する。
【0183】
電流検出部66は、センサ65により検出された直流出力電流の検出信号を取得して直流出力電流信号idcを生成する。電圧検出部68は、接点67における直流出力電圧を検出して直流出力電圧信号vdcを生成する。
【0184】
平均電力演算部50は、乗算部51,減算部52,直流電圧制御部53、加算部54を備える。
【0185】
減算部52は、電圧指令値として設定されたある一定の電圧値を示す直流電圧指令値信号vdc*rから、電圧検出手段68により検出された直流出力電圧信号vdcを減算してその偏差信号を出力する。乗算部51は、電流検出部66により検出された直流出力電流信号idcと、電圧検出部68により検出された直流出力電圧信号vdcとを掛け合わせて瞬時電力信号Pdcを算出する。
【0186】
直流電圧制御部53は、減算部52により算出された偏差信号から、直流出力電圧信号vdcを一定電圧値に制御するためのPI(Proportional Integral)制御結果としての直流電圧制御信号を生成する。加算部54は、乗算部51により算出された瞬時電力信号Pdcと、直流電圧制御部53により生成された直流電圧制御信号とを加算して平均電力信号Pを生成する。
【0187】
定電流制御部40は、電流指令値を生成する定電流指令値生成部41,電流指令値に基づいて定電流制御した出力信号を生成する定電流制御出力部42a,42bを備える。定電流制御出力部42aはd軸の出力信号vdp*rを生成し、定電流制御出力部42bはq軸の出力信号vqp*rを生成する。
【0188】
定電流指令値生成部41は、加算部54で算出された平均電力信号Paveと、正相分電圧算出部21により分離されたd軸、q軸の電圧信号の正相分(e1dp、e1qp)とに基づいて演算により電流指令値の信号(idp*r,iqp*r)を生成する。
【0189】
定電流制御出力部42aは、dq変換部83からのiと電流指令値の信号idp*rとに基づいて定電流制御を行ってd軸の出力信号vdp*rを生成する。定電流制御出力部42bは、dq変換部83からのiと電流指令値の信号iqp*rとに基づいて定電流制御を行ってq軸の出力信号vqp*rを生成する。定電流制御は、入力電流を一定電流値に制御するためのPI制御により行う。
【0190】
三相PWM制御パルス生成部200bは、加算部30の加算部31bにより算出された信号(V,V,V)をゲート制御信号とし、キャリア周波数発生部(図示していない)により発生された三角波信号と比較して、PWM信号としてのゲートパルス信号を生成して、三相PWM回路200aの半導体スイチング素子の各ゲートに出力する。
【0191】
[不平衡電圧補償装置の動作例]
次に、不平衡電圧補償装置1の動作例を説明する。
重心ベクトル演算部10は、線間電圧(eab,ebc,eca)から重心ベクトル電圧(e2a,e2b,e2c)を算出し、dq軸変換部81は算出した重心ベクトル電圧(e2a,e2b,e2c)を式(21)で示されるd軸の電圧信号e1dとq軸の電圧信号e1qに変換する。
【0192】
式(21)の右辺第1項は、d軸、q軸の電圧信号e1d,e1qの正相分e1dp,e1qpを示し、右辺第2項はd軸、q軸の電圧信号e1d,e1qの逆相分e1dn,e1qnを示しているので、d軸、q軸の電圧信号e1d,e1qは、フィルタ等による周波数分離によってd軸、q軸の電圧信号の正相分e1dp,e1qpと、逆相分e1dn,e1qnとに正相逆相分離することができる。正相逆相分離は、正相分電圧算出部21および逆相分電圧算出部22によって行うことができる。dq軸変換部82は、正相逆相分離したd軸、q軸の電圧信号e1d,e1qの逆相分e1dn,e1qnを、3相の逆相分の相電圧信号(e1an,e1bn,e1cn)に変換する。
【0193】
一方、零相分電圧算出部24は、算出した正相分電圧および逆相分電圧の信号値を用いて零相分電圧e1oを算出する。
【0194】
また、入力電力について、有効電力信号Pave及び無効電力信号Qaveは、d軸、q軸の電圧信号vd,vqの正相分vdp,vqpと、入力指令電流信号idp,iqpとにより式(40)で表される。
【0195】
電流検出部66は、センサ65を介して直流出力電流信号idcを検出する。電圧検出部68は、接点67を介して直流出力電圧信号vdcを検出する。乗算部51は、直流出力電流信号idcと直流出力電圧信号vdcとを乗算し、直流出力電力信号Pdcを出力する。減算部52は、直流電圧指令値信号vdc*rから直流出力電圧信号vdcを減算して偏差信号を生成し、直流電圧制御部53は、直流電圧指令値信号vdc*rと直流出力電圧信号vdcとの偏差信号について、直流出力電圧信号vdcを一定電圧値に制御するためのPI制御を行って直流電圧制御信号を生成する。
【0196】
加算部54は、直流電圧制御部53から出力される直流電圧制御信号と直流出力電力信号Pdcとを加算して平均電力信号Paveとして出力される。平均電力信号Paveは、式(41)に示すように、直流電圧指令値信号Vdc*rと直流出力電圧信号vdcとの偏差信号をPI制御して得られる直流電圧制御信号と、直流出力電力信号Pdc(=vdc・idc)とを加えたものとなる。
【0197】
式(40)の無効電力Qは、入力力率が1になるように制御されるため零となる。これにより、式(40)は、式(42)に示す入力指令電流信号idp*r、iqp*rの式に変形される。
【0198】
定電流指令値生成部41は、平均電力信号Paveと、正相分電圧算出部21で算出されたd軸、q軸の電圧信号の正相分e1dp,e1qpとに基づいて入力指令電流信号idp*r,iqp*rを生成して出力する。
【0199】
定電流制御の入力電流側において、電流検出部64はセンサ63を介して3相交流電源100から出力される3相交流電力の3相交流入力電流信号i,i,iを検出する。
【0200】
dq軸変換部83(3相2相変換)は、検出した3相交流入力電流信号i,i,iを、d軸、q軸の電流信号i,iに変換する。
【0201】
d軸、q軸の定電流制御出力部42a、42bは、d軸、q軸の電流信号i,iを入力電流のフィードバック値として入力する。また、定電流制御出力部42a、42bは、定電流指令値生成部41からd軸、q軸の正相分の電流指令値の信号idp*r,iqp*rを入力し、d軸、q軸の電流信号i,iと電流指令値の信号idp*r,iqp*rの偏差信号に基づいて、所定の演算により入力電流を一定電流値に制御するための制御信号Vdp*r,Vqp*rを生成し出力する。
【0202】
なお、定電流制御出力部42aが行うd軸制御は式(43)で表され、定電流制御出力部42bが行うq軸制御は式(44)で表される。
【0203】
dq変換部84は、制御値Vdp*r,Vqp*rを3軸の正相信号(V1ap,V1bp,V1cp)に変換した後、加算部30に入力する。
【0204】
加算部30において、加算部31aは、dq軸変換部82で変換して得られた逆相分の相電圧信号(e1an,e1bn,e1cn)に、零相分電圧算出部24で算出した零相分電圧e1oを加算する。加算部31bは、加算部31aで加算した相電圧信号(e1an,e1bn,e1cn)と零相分電圧e1oとの加算信号に、dq軸変換部84で変換して得られた正相分の相電圧信号(V1ap,V1bp,V1cp)を加算し、3相の電圧信号(V,V,V)を生成し、三相PWM制御パルス生成部200bに出力する。
【0205】
三相PWM制御パルス生成部200bは、3相の電圧信号(V,V,V)に基づいて、三相PWM回路200aを制御するゲート制御信号を生成し、キャリア周波数発生部(図示していない)から発生された三角波信号とを比較し、PWM(Pulse Width Modulation)変換によってゲートパルス信号を生成して三相PWM回路200aの半導体スイッチング素子の各ゲートに出力し、各ゲートをオン/オフ制御する。
【0206】
次に、不平衡電圧補償装置1の平衡状態時及び不平衡状態時の動作を説明する。なお、不平衡状態は、短時間の期間電圧が低下する電圧状態(瞬時電圧低下)の他、長期間に渡って三相の電圧間に不平衡状態が生じる場合を含むものである。なお、直流負荷300の負荷量は一定であるものと仮定する。
【0207】
[平衡状態の動作]
瞬時電圧低下が発生する前の状態では、3相交流電源100の3相交流入力電圧は、平衡状態にある。この平衡状態では、図17に示す様に、3相電圧信号e,e,eは正相電圧e1pのみとなり、このとき、式(21)に示すd軸電圧信号e1dはE1pm,q軸電圧信号e1qは0となる。ここで、Z12,Z23,Z31は開放されているため、Z12による位相遅れは無視することができ、式(1),(2),(3)、式(17)は一致すると云え、α=0とすることができる。
【0208】
このとき、電流指令値の信号idp*r、iqp*rは、式(42)から
dp*r=(2/3)・(Pave/E1pm
qp*r=0 …(45)
で表される。
【0209】
指令値電流信号iqp*rが0であることから、定電流指令値生成部41から入力力率が1になるよう電流制御が行われる。また、直流電圧制御部53により、直流出力電圧が一定値に制御されることから、直流負荷300側には常に一定の直流電力が送出される。
【0210】
[不平衡状態の動作]
次に、3相交流電源100の3相交流入力電圧の少なくとも一相の交流入力電圧が瞬時電圧低下となり、交流入力電圧が不平衡になった不平衡状態の場合について説明する。
【0211】
交流入力電圧が瞬時電圧低下になると、対称座標成分算出部20の正相分電圧算出部21はd軸、q軸の電圧信号の正相分e1dp,e1qpを出力し、逆相分電圧算出部22はd軸、q軸の電圧信号の逆相分e1dn,e1qnを出力し、零相分電圧算出部24は零相分e1oを出力する。
【0212】
d軸、q軸の電圧信号の正相分e1dp,e1qpは、定電流制御出力部42a、42bにより電流指令値信号と加算され、また、d軸、q軸の電圧信号の逆相分e1dn,e1qnは、加算部31a,31bを介して加算され出力信号(V,V,V)が生成され、定電流指令値生成部41から入力力率が1になるよう電流制御が行われる。また、直流電圧制御部53により、直流出力電圧が一定値に制御されることから、直流負荷300側には常に一定の直流電力が送出される。
【0213】
また、出力信号(V,V,V)に対して、逆相分および正相分に零相分e1oを加算することによって電源電圧の零相分を重畳させ、この零相分を重畳させた出力信号に基づいて三相PWMコンバータの制御信号を生成することによって、3相交流入力電圧が瞬時電圧の低下を補償することができる。
【0214】
本発明は、前記したように三相の相電圧を、一測定時点において取得した線間電圧に対してベクトル演算を施すことによって取得し、この相電圧の正相電圧および逆相電圧に基づいてPFC制御によって定電流制御を行い、さらに、相電圧から零相電圧を算出し、この零相電圧を正相電圧および逆相電圧に重畳させることで不平衡を補償する。
【0215】
本発明の不平衡電圧補償では、零相電圧を算出する元信号として、一測定時点において取得する線間電圧を用いている。これによって、一測定時点で取得した測定値から不平衡を補償する制御信号を取得することができる。
【0216】
通常、相電圧の電圧変動の検出には、少なくとも半サイクルの時間間隔を必要とし、一測定時点の測定値では、不平衡状態を検出および補償を行うことはできず、複数の測定時点で求めた測定値が必要である。これに対して、本発明では、一測定時点において取得した線間電圧に対してベクトル演算を施すことによって相電圧の正相電圧および逆相電圧を求め、この正相電圧および逆相電圧から零相電圧を算出することで、一測定時点で取得した値のみから不平衡を補償する信号を生成することができる。
【0217】
また、線間電圧の取得と、取得した線間電圧に基づく不平衡電圧補償は、一測定時点に限らず、線間電圧の取得と不平衡補償とを逐次繰り返すことによって、瞬時の電圧低下を補償するに限らず、長期間にわたる電圧の不平衡状態を補償することができる。
【0218】
次に、本発明の不平衡電圧補償について、不平衡電圧補償動作をソフトウエアによるCPUの演算処理で行う構成例について図8、9を用いて説明する。
【0219】
本発明の不平衡電圧補償装置1は、回路構成により瞬時電圧低下補償および電力変換の機能を実現する他、プログラムによってCPUを実行させて瞬時電圧低下補償および電力変換の機能を実現することもできる。
【0220】
図8は本発明の不平衡電圧補償装置をCPUおよびソフトウエアによって実現する場合の構成例を示している。以下では、CPUおよびソフトウエアによる構成の不平衡電圧補償装置について符号2を付して説明する。
【0221】
図8に示すように、三相交流電源100から供給される三相交流電力において、三相コンバータ200によって三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を直流負荷300に出力する。コンピュータ制御部2は不平衡電圧補償の機能を有し、三相コンバータ200を制御して、電力変換および不平衡電圧補償を行う。
【0222】
コンピュータ制御部2は、CPU(Central Processing Unit)2aと、RAM(Random Access Memory)2bと、ROM(Read Only Memory)2cと、I/O部2dとを備え、各部はバス2eによって接続されている。
【0223】
CPU2aは、コンピュータ制御部2の各部を中央制御する。CPU2aは、ROM2cに格納されているシステムプログラム及び各種アプリケーションプログラムの中から指定されたプログラムをRAM2bに展開し、RAM2bに展開されたプログラムとの協働で、各種処理を実行する。
【0224】
CPU2aは、電力変換制御プログラムとの協働により、三相コンバータ200が備える三相PWMパルス生成部を制御して、3相交流電源100から入力される3相交流入力電力を直流出力電力に変換させるとともに、交流入力電圧の不平衡電圧補償を行う。
【0225】
RAM2bは、各種情報を記憶する揮発性のメモリであり、各種データ及びプログラムを展開するワークエリアを有する。ROM2cは、各種情報を読み出し可能に記憶するメモリであり、三相コンバータを制御する電力変換制御プログラムを記憶する。
【0226】
I/O部2dは、三相コンバータ200との各種信号の入出力を介する。I/O部2dは、3相交流入力側の線間電圧およびa相,c相の交流入力電流と、直流出力側の直流出力電流および直流出力電圧とを入力する。また、I/O部2dは、三相コンバータ200の三相ブリッジ回路の半導体スイッチング素子を制御するゲートパルス信号を出力する。
【0227】
次に、図9を参照して、コンピュータ制御部2のプログラム制御による動作を説明する。
【0228】
コンピュータ制御部2において、例えば、3相交流電源100から3相交流電力を出力することをトリガとして、ROM2cから電力変換制御プログラム読み出そてRAM2bに展開し、CPU2aと協働して電力変換制御、および不平衡電圧補償処理を実行する。
【0229】
図9に示すフローチャートにおいて、先ず、電圧検出処理を行う(S101)。S101の工程では、I/O部2dを介して3相交流電圧を取得し、取得した3相交流電圧の線間電圧信号eab,ebc,caを検出し、重心ベクトル演算によって相電圧の信号e2a,e2b,e2cを算出する。重心ベクトル演算は、例えば、図7の構成例では重心ベクトル演算部10において行う。
【0230】
算出した3相の相電圧信号e2a,e2b,e2cを2相のd軸、q軸の電圧信号e1d,e1qに変換する。変換したd軸、q軸の電圧信号e1d,e1qから正相分e1dp,e1qpと逆相分e1dn,e1qnを分離して求め、d軸、q軸の電圧信号e1d,e1qの逆相分e1dn,e1qnを3相の相電圧信号e1an,v1bn,v1cnに変換する。S101の工程は、線間電圧検出部62,重心ベクトル演算部10,dq軸変換部81、正相分電圧算出部21,逆相分電圧算出部22、零相の位相φを算出する位相φ算出部23,零相分電圧算出部24で行う処理に対応する。
【0231】
なお、S101の工程内の各処理は、適宜並行して行われる。この工程内の処理の並行は、以下のS102〜S106の工程でも同様である。
【0232】
S102の工程において同期計算処理を行う。3相の相電圧信号e2a,e2b,e2cから同期信号sを生成する。同期信号sは、例えば相電圧信号e2a,e2b,e2cのいずれかの相電圧の零クロス点から求めることができ、相電圧と零電圧とを比較し、相電圧が零電圧となった時点で同期信号sを出力することで生成することができる。図7の構成例では、同期信号生成部70は、重心ベクトル演算部10の出力信号(e2a,e2b,e2c)を用いて行うことができ、例えば、出力信号e2aと零電圧とを比較する比較回路で構成することができる。また、任意の時点で同期信号を生成し、この同期信号を初期値の同期信号sとしても良い。
【0233】
同期信号sは、S101、S103、S106の各工程の2相−3相変換および3相−2相変換を含むdq軸変換の同期に用いられる。その際、直前に実行されたS102の工程で求めた同期信号s、又は初期値の同期信号sを用いて行う。よって、S102の工程は、同期信号生成部70で行う処理に対応する。
【0234】
次に、S103の工程で電流検出処理を行う。S103の工程では、I/O部2dを介して入力した3相の交流入力電流信号i,i,iを検出し、d軸、q軸の電流信号i,iに変換する。S103の工程は、電流検出部66およびdq軸変換部83で行う処理に対応する。
【0235】
次に、S104の工程で電圧制御処理を行う。S104の工程では、I/O部2dを介して直流出力電流信号idcおよび直流出力電圧信号vdcを検出する。検出した直流出力電流信号idcおよび直流出力電圧信号vdcを乗算して直流出力電力信号Pdcを算出する。また、直流出力電圧信号vdcを直流電圧指令値信号Vdc*rから減算して偏差信号を算出し、算出した偏差信号から、直流出力電圧信号vdcを一定電圧値に制御するための直流電圧制御信号が生成する。そして、直流電圧制御信号および直流出力電力信号Pdcを加算して平均電力信号Paveを生成する。S104の工程は、電流検出部66,電圧検出部68、減算部52、乗算部51、直流電圧制御部53および加算部54で行う処理に対応する。
【0236】
次に、S105の工程で電流制御処理を行う。S105の工程では、S104の工程でで生成した平均電力信号Paveと、S101の工程で正相逆相分離したd軸、q軸の電圧信号の正相分edp,eqpとに基づいて電流指令値信号i1dp*r,i1qp*rを生成し、電流指令値信号i1dp*r,i1qp*rとdq変換部で変換した求めたd軸、q軸の電流信号i,iと用いて電流制御信号を生成する。S105の工程は、定電流指令値生成部41、定電流制御出力部42が行う処理に対応する。
【0237】
次に、S106の工程で制御補正処理を行う。S106の工程では、S105の工程で生成した入力電流制御信号と、S101の工程で正相逆相分離したd軸、q軸の電圧信号の正相分e1dp,e1qpとを加算し、式(42),式(43)に示す出力信号vdp*r,vqp*rを生成し、2相の出力信号vdp*r,vqp*rを3相の制御信号V1ap,V1bp,V1cpに変換する。S101の工程で取得した相電圧信号e1an,e1bn,e1cnと零相電圧信号e1oとを加算し、制御信号V1ap,V1bp,V1cpに加算して、ゲート制御信号を生成する。
【0238】
そして、三角波信号を生成し、三角波信号とゲート制御信号とを比較することによってゲートパルス信号を生成する。そして、ゲートパルス信号をI/O部2dを介して三相コンバータ200の三相PWM回路200aの半導体スイッチング素子の各ゲートに出力する。
【0239】
S106の工程は、加算部30、dq軸変換部83、定電流制御出力部42a,42b,dq軸変換部84、三相PWM制御パルス信号生成部200bで行われる処理に対応する。
【0240】
S107の工程で、電力変換制御処理および不平衡電圧補償処理を終了するか否かを判別し、処理を終了しない場合にはS101の工程に戻って続行し、処理を終了する場合には電力変換制御処理および不平衡電圧補償処理を終了する。
【0241】
プログラムによってCPUを実行させる構成においても、回路構成による場合と同様に、不平衡電圧補償および電力変換の機能を実現することができる。
【0242】
次いで、図10〜図15を参照して、本発明の不平衡電圧補償による実験例を説明する。図10〜図15は、図7に示す構成例に基づいて、不平衡電圧補償装置によって三相コンバータを制御した測定データを示している。
【0243】
測定は、三相定格線間電圧を200V、三相定格線電流を17.5A、キャリア周波数を18.5kHz、直流リンク電圧(出力電圧)を380V、直流リンク容量を1200μF、伝送線のインダクタンスを300μH、負荷抵抗を25Ωの条件とし、三相定格線間電圧200V、三相定格線電流17.5Aの状態から不平衡電圧へ急陥没後に回復させ、瞬低等で発生する三相不平衡電圧によって出力電圧Vdcと入力電流i,i,iが変動する影響度を不平衡電圧補償の有無で比較している。この実験結果によれば、不平衡電圧補償制御の有効性を確認することができる。
【0244】
図10は入力相電圧e1aを50%に急陥没させた後、100%に回復させた場合の特性であり、図10(a)は不平衡電圧補償を行わない場合を示し、図10(b)は本発明による不平衡電圧補償を行った場合を示している。不平衡電圧補償を行った場合には、出力電圧Vdcは定電圧を維持がされており、良好な性能を示している。
【0245】
図11、図12は図10の拡大図であり、図11は入力相電圧e1aが100%から50%に急激に低下した場合を示し、図12は入力相電圧e1aが50%から100%に回復した場合を示している。図11(a),図12(a)は不平衡電圧補償を行わない場合を示し、図11(b),図12(b)は本発明の不平衡電圧補償を行った場合を示している。図から、入力電流i,i,iは急変点から高速応答していることを読み取ることができる。
【0246】
図13は、図7の三相交流電源100の入力相電圧eを50%電圧低下させた特性の比較図である。図13(a)入力電圧を示し、図13(b)は不平衡電圧補償を行わない場合を示し、図13(c)は本発明の不平衡電圧補償を行った場合を示している。
【0247】
図13(b)に示すように、不平衡電圧補償を行わない場合には、入力電流の振幅アンバランスと位相角ずれの大きいことが確認される。一方、図13(c)に示すように、本発明の不平衡電圧補償を行うことによる補償制御の効果によって、入力電流の振幅と位相角が共に良好なバランスを示していることが確認される。
【0248】
また、図14は、図7の三相交流電源100の入力相電圧eが100%電圧陥没して零電圧に達した場合を示している。図14(a)は入力電圧を示し、図14(b)は不平衡電圧補償を行わない場合を示し、図14(c)は本発明による不平衡電圧補償を行った場合を示している。
【0249】
図14(c)の結果は、本発明の不平衡電圧補償によれば、地絡による瞬低が発生した場合、すなわち図7の三相交流電源100の入力相電圧eが100%電圧陥没して零電圧に達した場合であっても、入力電流i,i,iは振幅と位相角は共に三相平衡電流をほぼ維持できることを示している。
【0250】
さらに、図15は入力相電圧陥没率と入力電流平衡率を示している。図15によれば、不平衡電圧補償が無い場合(図中の三角印)には、入力相電圧陥没率が20%の場合には、入力電流平衡率は67.9%である。一方、本発明の不平衡電圧補償が有る場合には、入力相電圧陥没率が20%の場合に入力相電圧陥没率は94.5%であり、また、入力相電圧陥没率0〜100%の全域にわたって入力相電圧陥没率は97.9%〜83.3%の範囲を維持することができ、良好な特性を示している。
【0251】
上記実験は、半導体製造装置や液晶製造装置等に使用される代表的な5kW RF(Radio Frequency)ジェネレータに本発明の不平衡電圧補償を適用して実験を行った結果であり、半導体製造装置などで要求される瞬低規格(SEMI F47-0200)(1)を満足する性能が得られるものである。
【0252】
例えば、瞬低規格(SEMI F47-0200)(1)のPercent of Nominal VoltageとDuration of Voltage Sag in secondsが規格する瞬低時の最大落ち込み電圧と時間は50%、0.2秒であるが、この規格に対応した図10の実験結果が示すように、瞬低時の最大落ち込み電圧と時間をそれぞれ50%、1秒で実験を行った場合には、瞬低時間を規格値の5倍(=1秒/0.2秒)に延長した測定データであるにもかかわらず、本発明の不平衡電圧補償による瞬低補償を施すことによって、電圧低下を大幅に改善することができる。
【0253】
以上、本発明の不平衡電圧補償によれば、瞬時電圧低下補償を行うことができ、入力電圧の瞬時電圧低下時にも、直流負荷へ安定して電力供給できる。このため、コンデンサや蓄電池等の蓄電デバイスを用いる瞬時電圧低下補償の構成に比べて、瞬時電圧低下補償を行う構成を小型化、長寿命化及び低コスト化できる。また、コンデンサや蓄電池の蓄電デバイス方式を用いないので、瞬時電圧低下補償を行う構成のメンテナンスを容易にできる。また、力率を改善でき、力率改善により高調波を抑制できる。
【0254】
本発明の不平衡電圧補償によれば、特にPFC制御を用いている場合、新たな設備投資は殆ど必要とせず、蓄電デバイス装置の削減により大幅に小型化され、定期的なコンデンサユニットのメンテナンスも省ける等の利点がある。
【0255】
また、本発明の不平衡電圧補償によれば、瞬低の極端な場合、すなわち地絡に近い事象に対しても、活相がエネルギーソースとして残存していれば、不平衡補償制御が可能である。
【0256】
また、定電流指令値生成部が、交流入力電圧に基づくd軸、q軸の電圧信号の正相分と、直流出力電圧に基づく直流電圧制御信号とから、電流指令値の信号を生成することにより、入力電流指令信号の交流入力電圧の変動に対する応答を速くでき、直流出力電圧の過渡変動を抑制できる。
【0257】
また、出力側において、平均電力演算部は、電流検出部、電圧検出部および加算部が直流出力電力信号を検出し、加算部が直流出力電力信号を直流電圧制御信号に加算することによって、直流出力電力を出力する直流負荷の負荷量変動に対する応答を速くでき、直流出力電圧の過渡変動を抑制できる。
【0258】
また、同期信号生成手部によって同期信号を生成し、各dq軸変換部を同期信号sに基づいて3相−2相変換および2相−3相変換を行うことによって、交流入力電圧の平衡、不平衡に関わらず、常に力率を1に保つことができる。
【0259】
また、本発明の重心ベクトル演算部は、交流入力電圧の線間電圧信号を検出して相電圧に変換するため、3相交流電源の交流系統が3相3線式、あるいは3相4線式にかかわらず瞬時電圧低下を、各測定時点毎に補償することができる。
【0260】
なお、上記実施の形態及び変形例における記述は、本発明に係る瞬時電圧低下装置、瞬時電圧低下補償方法及び瞬時電圧低下補償プログラムの一例であり、本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0261】
本発明は、特に半導体製造装置等、負荷側において電圧変動が小さく安定した電力供給が求められる施設に適用することができる。
【符号の説明】
【0262】
1 不平衡電圧補償装置
2 コンピュータ制御部
2a CPU
2b RAM
2c ROM
2d I/O部
2e バス
10 重心ベクトル演算部
20 対称座標成分算出部
21 正相分電圧算出部
22 逆相分電圧算出部
23 φ1o算出部
24 零相分電圧算出部
30 加算部
31a,31b 加算部
40 定電流制御部
41 定電流指令値生成部
42 定電流制御出力部
42a,42b 定電流制御出力部
50 平均電力演算部
51 乗算部
52 減算部
53 直流電圧制御部
54 加算部
60 交流リアクトル
61 接点
62 線間電圧検出部
63 センサ
64 電流検出部
65 センサ
66 電流検出部
67 接点
68 電圧検出部
69 コンデンサ
70 同期信号生成部
81〜84 dq軸変換部
100 三相交流電源
100A,100B 三相交流電源
101 三相交流電源
101a,101b,101c 各相交流電源
102 電圧変動補償装置
103 制御回路
104a,104b,104c 各相電圧補償装回路
105a,105b,105c コンデンサ
200 三相コンバータ
200a 三相PWM回路
200b 三相PWM制御パルス生成部
300 直流負荷
400 不平衡電圧補償装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電圧をPWM変換して直流電圧出力する電力変換において、
三相交流の各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算工程と、
前記重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出工程と、
三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償工程とを備え、
前記重心ベクトル演算工程は、
前記線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、当該ベクトル演算によって端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、当該各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧とし、
前記不平衡電圧補償工程は、
前記対称分算出工程で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成し、前記対称分電圧および前記補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、当該Y相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成することを特徴とする、不平衡電圧補償方法。
【請求項2】
前記対称分算出工程は、
前記重心ベクトル演算工程で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、
算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出することを特徴とする、請求項1に記載の不平衡電圧補償方法。
【請求項3】
前記対称分算出工程は、
逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出することを特徴とする、請求項1または2に記載の不平衡電圧補償方法。
【請求項4】
前記線間電圧の実測値と制御信号とは一対一に対応し、線間電圧の一測定時点の実測値に基づいて一つの制御信号を生成することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の不平衡電圧補償方法。
【請求項5】
三相交流電圧をPWM変換して直流電圧出力する電力変換において、
三相交流の各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算部と、
前記重心ベクトル演算部で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出部と、
三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償部とを備え、
前記重心ベクトル演算部は、
前記線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、当該ベクトル演算によって端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、当該各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧として出力し、
前記不平衡電圧補償部は、
前記対称分算出部で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成して出力し、前記対称分電圧および前記補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、当該Y相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成することを特徴とする、不平衡電圧補償装置。
【請求項6】
前記対称分算出部は、
前記重心ベクトル演算部で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、
算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出し、前記不平衡電圧補償部に出力することを特徴とする、請求項5に記載の不平衡電圧補償装置。
【請求項7】
前記対称分算出部は、
逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出し、前記不平衡電圧補償部に出力することを特徴とする、請求項5または6に記載の不平衡電圧補償装置。
【請求項8】
前記不平衡電圧補償部は、
線間電圧の一測定時点の実測値に対して一つの制御信号を生成することを特徴とする、請求項5から7のいずれか一つに記載の不平衡電圧補償装置。
【請求項9】
三相交流電圧PWM変換してを直流電圧出力する三相コンバータの制御方法において、
各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算工程と、
前記重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出工程と、
三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償工程とを備え、
前記重心ベクトル演算工程は、
前記線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、当該ベクトル演算によって端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、当該各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧とし、
前記不平衡電圧補償工程は、
前記対称分算出工程で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成し、前記対称分電圧および前記補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、当該Y相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成し、
前記不平衡電圧補償工程で生成した制御信号によって三相コンバータのスイッチング動作を制御して三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力することを特徴とする、三相コンバータの制御方法。
【請求項10】
前記対称分算出工程は、
前記重心ベクトル演算工程で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、
算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出することを特徴とする、請求項9に記載の三相コンバータの制御方法。
【請求項11】
前記対称分算出工程は、
逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出することを特徴とする、請求項9または10に記載の三相コンバータの制御方法。
【請求項12】
前記線間電圧の実測値と制御制御信号とは一対一に対応し、線間電圧の一測定時点の実測値に基づいて一つの制御信号を生成することを特徴とする、請求項9から11のいずれか一つに記載の三相コンバータの制御方法。
【請求項13】
三相交流電圧をPWM変換して直流電圧出力する三相コンバータを制御する制御装置において
各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算部と、
前記重心ベクトル演算部で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出部と、
三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償部とを備え、
前記重心ベクトル演算部は、
前記線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、当該ベクトル演算によって端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、当該各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧として出力し、
前記不平衡電圧補償部は、
前記対称分算出部で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成して出力し、前記対称分電圧および前記補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、当該Y相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成し、
前記不平衡電圧補償部で生成した制御信号によって三相コンバータのスイッチング動作を制御して三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力することを特徴とする、三相コンバータの制御装置。
【請求項14】
前記対称分算出部は、
前記重心ベクトル演算部で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、
算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出し、前記不平衡電圧補償部に出力することを特徴とする、請求項13に記載の三相コンバータの制御装置。
【請求項15】
前記対称分算出部は、
逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出し、前記不平衡電圧補償部に出力することを特徴とする、請求項13または14に記載の三相コンバータの制御装置。
【請求項16】
前記制御信号生成部は、
線間電圧の一測定時点の実測値に対して一つの制御信号を生成することを特徴とする、請求項13から15のいずれか一つに記載の三相コンバータの制御装置。
【請求項17】
三相交流電圧をPWM変換して直流電圧出力する三相コンバータの制御において、
各線間電圧から互いに120°の位相差を有するY相電圧を求める重心ベクトル演算工程と、
前記重心ベクトル演算工程で求めたY相電圧から三相の平衡系の対称分電圧を算出する対称分算出工程と、
三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を形成し、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成する不平衡電圧補償工程の各工程をコンピュータを実行させるプログラムであり、
前記重心ベクトル演算工程は、
前記線間電圧の内から選択した二つの線間電圧の全組み合わせについてベクトル演算し、当該ベクトル演算によって端子電圧の重心から各端子電圧への重心ベクトル電圧を求め、当該各ベクトル電圧を互いに120°の位相差を有する各Y相電圧とし、
前記不平衡電圧補償工程は、
前記対称分算出工程で求めた対称分電圧の零相分電圧に基づいて三相交流電圧の不平衡電圧を補償する補償信号を生成し、前記対称分電圧および前記補償信号に基づいて、不平衡電圧を補償した互いに120°の位相差を有したY相電圧を求め、当該Y相電圧に基づいて、三相交流電圧をPWM変換して直流電圧を出力するための制御信号を生成することを特徴とする、不平衡電圧補償プログラム。
【請求項18】
前記対称分算出工程は、
前記重心ベクトル演算工程で求めた各Y相電圧をdq軸変換してd軸の電圧信号とq軸の電圧信号を算出し、
算出したd軸およびq軸の電圧信号を周波数分離し、直流分から正相電圧を求め、交流分から逆相電圧を算出することを特徴とする、請求項17に記載の不平衡電圧補償プログラム。
【請求項19】
前記対称分算出工程は、
逆相分電圧から算出した算出振幅と、正相分電圧および逆相分電圧から算出した位相とによって、零相分電圧を算出することを特徴とする、請求項17または18に記載の不平衡電圧補償プログラム。
【請求項20】
前記線間電圧の実測値と制御制御信号とは一対一に対応し、線間電圧の一測定時点の実測値に基づいて一つの制御信号を生成することを特徴とする、請求項17から18のいずれか一つに記載の不平衡電圧補償プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−120427(P2011−120427A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277824(P2009−277824)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】