説明

乗用型田植機

【課題】保護カバー取付け等のコスト増を招くことなく、簡易な構成によってマフラーによる騒音拡散および火傷の問題を解消することができる田植機等のミッドシップエンジンマウント型水田作業車を提供する。
【解決手段】ミッドシップエンジンマウント型水田作業車は、水田走行可能なミッドシップエンジンマウント型機体に後輪フェンダー6bを備えるデッキ6を設け、このデッキ6に備えて後部開口6cを形成したエンジンカバー6aでエンジン9の上方を覆い、機体後部に圃場作業装置7を設けて構成され、上記エンジンカバー6aの内部にはエンジン9のシリンダヘッドを傾斜姿勢で配置するとともにその上側に排気マフラー52を後部開口6cに臨んで取付けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッドシップエンジンマウント型機体にデッキを高位置に設け、機体後部に圃場作業装置を備えるミッドシップエンジンマウント型水田作業車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミッドシップエンジンマウント型水田作業車の一例である特許文献1に示す田植機は、ミッドシップエンジンマウント型機体に後輪フェンダまで一体的にデッキを高位置に設け、機体後部に多条用の苗載台、苗移植装置等からなる圃場作業装置を備えて構成したものである。その原動機としてのエンジンは、機体の略中央に、シリンダ軸を傾斜してデッキと一体的にカバーで覆い、その上に操縦席を配置することにより、前方視界を確保しつつ、機体重心を低くして圃場における安定した苗植付け走行を可能としたものである。
【特許文献1】特開平9−300983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記田植機は、機体フレームおよびデッキが高い位置にあり、また、エンジンは、田植機の機体重心を下げるためにシリンダ部を後方に傾斜してその上側に燃料タンク、下側に排気マフラーを配置していることから、このマフラーがデッキの下側に露出することとなり、水田作業の際は排気騒音が圃場水面に反射して騒音拡散が避けられず、また、メンテナンスの際にマフラーに触れて火傷するおそれがあり、その対策としてカバーを取付けるにはコスト増を招くという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、保護カバー取付け等のコスト増を招くことなく、簡易な構成によってマフラーによる騒音拡散および火傷の問題を解消することができる田植機等のミッドシップエンジンマウント型水田作業車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、水田走行可能なミッドシップエンジンマウント型機体に後輪フェンダーを備えるデッキを設け、このデッキに備えて後部開口を形成したエンジンカバーでエンジンの上方を覆い、機体後部に圃場作業装置を設けたミッドシップエンジンマウント型水田作業車において、上記エンジンカバーの内部にはエンジンのシリンダヘッドを傾斜姿勢で配置するとともにその上側に排気マフラーを後部開口に臨んで取付けたことを特徴とする。
【0006】
請求項1の構成により、上記水田作業車は、デッキと後部を開口したエンジンカバーを有する通常のミッドシップエンジンマウント型機体によって水田作業に必要な車高と安定性および前方の見通しを損なうことなく構成され、そのエンジンカバーの内部で傾斜姿勢のエンジンの上側に排気マフラーを配置することによってエンジンおよび排気マフラーの冷却が確保されるとともに、排気マフラーからその下方への排気音拡散がエンジンによって遮られる。
【発明の効果】
【0007】
上記水田作業車は、水田作業に必要な車高と安定性および前方の見通しを損なうことなく通常の機体によって構成され、また、通常のエンジンカバーによってエンジン等の冷却を確保しつつ、特定配置の排気マフラーにより、特段のカバー部材を要することなく、排気音の下方拡散が抑えられるとともに、メンテナンスの際の排気マフラーとの接触を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の一実施例である4条植え乗用型田植機について説明する。
乗用田植機の側面図を図1に示し、平面図を図2に示す。
水田走行可能なミッドシップエンジンマウント型の機体1の前後には走行車輪としての左右一対の前輪2、2及び後輪3、3が架設されている。車体上前部に操作ボックス4及びステアリングハンドル5等を有する操縦装置がデッキ6上に設けられ、車体後方部には昇降可能に植付部7が装着されている。
【0009】
操作ボックス4の後側に運転席8が設けられ、運転席8の下側に田植機の各部に動力を供給するエンジン9が搭載されてその上をデッキ6に一体的に備えらたエンジンカバー6aで覆い、運転席8の脇にリコイルノブ9rが配置されている。また、デッキ6の後方部分は後輪3のフェンダーカバー6bを兼ねている。なお、本明細書では乗用田植機の前進側に向かって左方向、右方向をそれぞれ左側、右側という。
【0010】
植付部7は、左右に往復動する苗載タンク10、一株分の苗を切取って土中に植込む植付装置11、苗植付面を整地するフロート12等からなる。エンジン9の駆動により、エンジン出カプーリ13、伝動ベルト14b及びミッション入力プーリ15を介して入力軸(図示せず)へ伝動し、該入力軸によりミッションケース17内へ動力を伝達する構成である。
【0011】
ミッションケース17から左右方向に突設する前輪アクスルケース(不図示)を介して左右前輪駆動ケース19内へ伝動し、前輪車軸20を回転駆動して左右の前輪2、2を駆動するようになっている。また、該ミッションケース17の後部から後方に動力を伝達する左右の後輪伝動軸21を設け、該左右の後輪伝動軸21の駆動により左右それぞれの後輪伝動ケース22内に伝動し、後輪車軸23を回転駆動して左右の後輪3、3を駆動するようになっている。
【0012】
なお、植付部7は、油圧昇降シリンダ24の伸縮による昇降リンク機構25の上下回動により、上下方向に昇降するよう設けられている。また、植付部7は、前記ミッションケース17からの動力により、該ケース17から後方へ延びる植付伝動軸26により伝動されて作動する構成となっている。
【0013】
ステアリングハンドル5は、これの回動操作によりステアリング軸27及び図示しないピットマンアームとタイロッド等を介して左右の前輪2、2を操向させ操舵するようになっている。ステアリングハンドル5の左側には主変速レバー29を、右側にはスロットルレバー30を設けている。また、操作ボックス4の左側部には機体の走行及び植付部7の駆動の停止操作を行う停止レバー31を、右側部には植付部7の昇降及び駆動の入切が行える植付・昇降レバー32(図2)を設けている。
【0014】
車体1前部の左側寄り位置には主クラッチペダル33(図2)を設けている。この主クラッチペダル33の踏み込み操作により機体の走行及び植付部7の駆動を停止するように構成している。また、車体1前部の右側寄り位置にはブレーキ操作具(以下ブレーキペダルという)34(図2)を設けている。このブレーキペダル34は、該ペダル34の踏み込み操作で図示しない連結機構を介してミッションケース17内の4輪ブレーキ装置(図示せず)を作動させて左右の前後輪2、3を制動するように構成している。なお、主クラッチペダル33を省略して、ブレーキペダル34の踏み込み操作にて主クラッチが同時に切れる構成にしても良い。
【0015】
運転席8の後方には、粉粒体施用装置40を設ける。この粉粒体施用装置40は、粉粒体タンク41から所定量の粉粒体を移送ホース43側に繰出す粉粒体繰出部42…を車幅方向に植付け条と対応して配列し、これら各粉粒体繰出部42…にブロア47から受けた加圧空気を案内するエアチャンバ48を備え、粉粒体を植付条数分の移送ホース43…によりエア搬送する。この移送ホース43…により、薬肥は、フロート12の左右両側に取り付けた対応する施用ガイド44…まで導かれ、施用ガイド44…の前側に設けた作溝体45、…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。
【0016】
F3/マウント部
上記エンジン9のマウント部については、要部拡大側面図を図3に示すように、ミッドシップエンジンマウント型の機体のブラケット1a,1bにエンジン9のクランクケース部9bを防振支持し、エンジン9を囲むように設けた後輪フェンダー6bを備えるデッキ6が配置され、このデッキ6に備えて後部に開口6cを形成したエンジンカバー6aでエンジン9の上方を覆う。このエンジンカバー6aの内部には傾斜姿勢のエンジン9のシリンダ部9tに排気マフラー52を配置し、この排気マフラー52は、同エンジンカバー6aの後部開口6cに臨んで取付ける。
【0017】
その他のエンジン回りの機器は、機器配置図、要部側面図を図4,図5にそれぞれ示すように、排気マフラー52と並んでエアクリーナ53を取付け、エンジン9のクランクケース部9bに燃料タンク54、同クランクケース部9bの外周の冷却風の流線W上にオルタネータ55,レギュレータ56等の電装品を配置する。
【0018】
上記構成の水田作業車は、デッキ6と後部開口6c付きのエンジンカバー6aを有する通常のミッドシップエンジンマウント型機体によって水田作業に必要な車高と安定性および前方の見通しを損なうことなく構成され、そのエンジンカバー6aの内部で傾斜姿勢のエンジン9との間に排気マフラー52が配置されることによってエンジン9および排気マフラー52の冷却が確保されるとともに、排気マフラー52からその下方への排気音拡散がエンジン9によって遮られる。
【0019】
したがって、上記水田作業車は、水田作業に必要な車高と安定性および前方の見通しを損なうことなく通常の機体によって構成され、また、通常のエンジンカバー6aによってエンジン9等の冷却を確保しつつ、特定配置の排気マフラー52により、特段のカバー部材を要することなく、排気音の下方拡散が抑えられるとともに、メンテナンスの際にオペレータがタイヤの間等から手を入れた場合にも、排気マフラー52に直接手が触れないので安全性を確保することができる。
【0020】
また、排気マフラー52は、デッキプレート6より上位に配置されることから、マフラー52内への水や泥の侵入を抑えることができる。燃料タンク54は、エンジン上部の取付けボスで直付け固定することにより、機体側の支持フレームおよび取付けブラケットが不要となるので、構成の簡易化と軽量化が可能となる。
【0021】
エンジン始動
次に、エンジン始動および伝動機器について説明する。
エンジン始動用のリコイルノブ9rは略T字状に形成され、その保持状況を示す要部側面図を図6(a)に示すように、エンジンカバー6aにリコイルノブ9rが通過可能な長穴6dを形成し、この長穴6dを横断してその短径方向にリコイルノブ9rを掛止保持する。メンテナンスの際は、リコイルノブ9rが長穴6d内を通り抜けるようにその姿勢を変えることにより、図6(b)に示すように、エンジンカバー6aおよびデッキプレート6をそのまま外すことができる。したがって、リコイルノブ9rを受けるための特段の受け部を要することなく、簡易な構成によりリコイルノブ9rを保持するとともに、デッキプレート6の着脱性を確保することができる。
【0022】
また、エンジン始動方法については、上記リコイルノブ9rを備えるととともに、スイッチ操作によってエンジンを始動するセルスタータを設け、スイッチによるエンジン始動操作時にブレーキペダル34の踏込み操作を付加条件とし、同様に、リコイルノブ9rによるエンジン始動操作時についても、ブレーキペダル34の操作を付加条件としてエンジン始動部を構成する。
【0023】
このように、ブレーキペダル34の踏込み操作をエンジン始動時の共通の付加条件とすることにより、それぞれに個別の構成を要することなくブレーキペダル34の操作検出部の構成の共用化によってエンジン始動時の安全性を確保することができる。
【0024】
変速伝動部については、ミッションケースの要部拡大平面図を図7に示すように、ミッションケース17に無段変速部(HST)61を直付けする場合に、このHST61をミッションケース17から浮かすように、ミッションケース17に取付ボス62a,62bを形成して取付ける。この両者間の隙間Gは、ハーネス等を通すことができるとともに、HSTの冷却性を向上することができる。
【0025】
また、ミッションケース17の前輪車軸20より前方左側にHST61、右側にポンプ62、バルブ63を配置する。このように構成することにより、油圧関係機器を前方に集中して前後バランスを改善しつつ、配管の短略化による重量減およびコストダウンが可能となることから、従来の如くのミッドエンジンの出力軸上のポンプ配置および前輪車軸23より後方のミッション17右側のバルブ配置の場合の前後バランスが不利な点および長い配管と重量、コストの問題点を解消することができる。
【0026】
施肥機
次に、施肥機については、要部拡大側面図を図8に示すように、排出部71の残量排出口に至る案内ブーツ72bの上方に掃除用の穴を形成し、作業時は着脱可能なキャップ73cを取付ける。このように構成することにより、案内ブーツ72b内の肥料の詰まりに対して、従来の如くの案内ブーツ72bの取外しとその清掃後の再取付けによる煩雑な取扱いを要することなく、キャップ73cを取って簡単に掃除が可能となり、また、取付け時にも、キャップ穴部より指が入ることから取付け性も確保される。
【0027】
上記案内ブーツ72bは、弾性体によって構成するとともに、その上部のキャップ73cの取付け部を傾斜して構成する。このように構成することにより、案内ブーツ72bが弾性体なので、肥料詰まり時にキャップ部より棒を用い、また、外側から揉むように外力を加えることにより、肥料詰まりを解消することができるとともに、上部の傾斜により水溜まりが回避できるので水の侵入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施例の乗用型田植機の側面図である。
【図2】図1の乗用型田植機の平面図である。
【図3】エンジンマウント部の要部拡大側面図である。
【図4】エンジン回りの機器配置図である。
【図5】エンジン回りの要部側面図である。
【図6】リコイルノブ保持状況(a)およびデッキプレート(b)の側面図である。
【図7】ミッションケースの要部拡大平面図である。
【図8】施肥機の要部拡大側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 車体
2 前輪
3 後輪
5 ステアリングハンドル
6 デッキ(デッキプレート)
6a エンジンカバー
6b フェンダーカバー(後輪フェンダー)
6c 後部開口
7 圃場作業装置(植付部)
8 運転席
9 エンジン
17 ミッションケース
40 粉粒体施用装置
52 排気マフラー
53 エアクリーナ
54 燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田走行可能なミッドシップエンジンマウント型機体に後輪フェンダー(6b)を備えるデッキ(6)を設け、このデッキ(6)に備えて後部開口(6c)を形成したエンジンカバー(6a)でエンジン(9)の上方を覆い、機体後部に圃場作業装置(7)を設けたミッドシップエンジンマウント型水田作業車において、
上記エンジンカバー(6a)の内部にはエンジン(9)のシリンダヘッドを傾斜姿勢で配置するとともにその上側に排気マフラー(52)を後部開口(6c)に臨んで取付けたことを特徴とするミッドシップエンジンマウント型水田作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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