説明

乾燥混合配合物のためのスチレンブタジエンベースのラテックスから製造された再分散可能なポリマー粉体組成物

【課題】優れた全体的な結合強度を達成しつつ、不適切な耐摩耗性、表面外観、セメント硬化の制御および発色不良を改良する乾燥混合配合物から製造されたセメント組成物を提供する。
【解決手段】再分散可能なポリマー粉体(RDP)との混合物中にポリグリコールを含む再分散可能なポリマー粉体組成物であって、この粉体は水不溶性膜形成性カルボキシル化スチレンブタジエンポリマーとコロイド安定化剤との共乾燥混合物を含み水浸漬後に、予想外に優れた全体結合強度および接着性をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物における使用のための乾燥混合配合物のための、カルボキシル化スチレンブタジエンコポリマーラテックスおよびポリグリコールから製造される再分散可能なポリマー粉体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用途においては、モルタルはセメント、砂、および有機ポリマーを用いて製造されうる。輸送コストを低減させるために、ポリマーは再分散可能なポリマー粉体として乾燥形態で輸送され添加されることができる。再分散可能なポリマー粉体はセメントベースのタイル接着剤の接着性および適用性を向上させる。粉体形態のこのポリマーは一般的に、液体ポリマー組成物を噴霧乾燥し、自由流動性粉体を得ることにより製造される。その粉体が添加されるセメント質システムのような適用配合物においてその機能を発揮させるために、適用配合物中でポリマー粉体は容易に再分散可能であることが望まれる。また、ラテックスもしくはポリマー分散物から噴霧乾燥によって再分散可能なポリマー粉体(RDP)を製造する場合に、再分散性を喪失させることなく、さらに容易な噴霧乾燥のためのさらに高い固形分量の組成物、並びにRDPのさらに効率的な生産のためのさらに低い圧力装置の使用を可能にするために、低粘度のポリマー分散物が望まれる。
【0003】
水硬性組成物の接着性、耐摩耗性、耐スクラッチ性および剛軟度の特性は分散物粉体を添加することにより一般的に向上される。流動性組成物における添加剤としてのポリ酢酸ビニル分散物粉体は、その粉体が建築場所に送達されるときから一般的に乾燥モルタル中にあり、建築場所においてはその粉体は単に水と混合されて床上に広げられる。この材料は流れ出て、摩耗層として直接機能するかまたはさらなる塗膜のための基体として機能する滑らかならかな表面を生じさせる。しかし、この使用法は、特に比較的厚い層が適用される場合に、表面上に形成されるクレーターもしくはピンホールのような不均一領域の形成のような問題を示す。この表面は購入者が望むような滑らかさにはならず、さらなる仕上げを必要とする。この種の不均一領域を回避するために、添加剤、例えば、1−アルキルビニルエステルから、およびビニルエステルから製造された完全に加水分解されたコポリマーが使用され、これら問題を除去する。
【0004】
ウェイツェル(Weitzel)らへの米国特許第6,632,861号は、保護コロイド安定化ビニル芳香族−1,3−ジエンポリマーベースの粉体の使用が、高価で製造するのが困難な、1−アルキルビニルエステルから、およびビニルエステルから製造された完全に加水分解されたコポリマーが分配されるのを可能にし、このとき同等の表面品質を保持し、同時に良好な耐摩耗性、耐スクラッチ性および接着性を得ることを開示する。ウェイツェルらのセルフレベリング(self−leveling)スクリードもしくはコテ塗り床用組成物に使用するための、水に再分散可能な保護コロイド安定化分散物粉体組成物は、a)ビニル芳香族−1,3−ジエンポリマーからなる群から選択されるベースポリマー、b)ベースポリマーを基準にして2〜25重量%の1種以上の保護コロイド、c)ポリマー組成物の全重量を基準にして3〜30重量%の微細抗ブロッキング剤、およびd)ベースポリマーを基準にして0.1〜10重量%の他の添加剤を含む。
【0005】
セルフレベリング床用配合物もしくは組成物における再分散可能なカルボキシル化スチレン−ブタジエン粉体の添加剤としての使用は、概して酢酸ビニル/エチレンコポリマーの様な他の化学物質においてベースとされる粉体で改質されるシステムと比較して、耐摩耗性、表面外観および色を向上させることが見いだされた。しかし、セメントベースの配合物、例えば、セルフレベリング床用組成物、およびセメントベースのタイル接着剤配合物においてレオロジーに悪影響を及ぼすことなく、および再分散可能なカルボキシル化スチレンブタジエンポリマー粉体の再分散性に悪影響を及ぼすことなく、全体の結合強度を改良することは非常に望ましいであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,632,861号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の再分散可能なカルボキシル化スチレンブタジエンポリマー粉体と共に配合されるモルタルは、水浸漬後に、セメント質モルタルのレオロジーまたはポリマー粉体の再分散性に悪影響を及ぼすことなく、作業性に有利であるかまたは適用中のコテ塗りが容易な酢酸ビニル/エチレンコポリマーRDPおよび他のSBRDPと比べて、結合強度の予想外に優れた増加を示す。よって、本発明は、乾燥混合配合物から製造されたセメント組成物について、予想外に優れた全体的な結合強度を達成しつつ、不適切な耐摩耗性、表面外観、セメント硬化の制御および発色不良の課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は再分散可能なポリマー粉体(RDP)とポリグリコールとの混合物を含んでなる、乾燥混合配合物のための再分散可能なポリマー粉体(RDP)組成物を提供する。噴霧乾燥によるRDPの形成の前に水性混合物に添加するのではなくRDPへのポリグリコールの添加はRDPの再分散性についての問題を回避する。RDPは、少なくとも1種の水不溶性カルボキシル化スチレンブタジエン(SB)コポリマーラテックスおよびコロイド安定化剤、例えば、ポリビニルアルコール(PVOH)から製造される少なくとも1種の水不溶性ポリマーを含む。本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物はセメントベースの組成物に、作業性もしくは適用中のコテ塗りの容易さに悪影響を及ぼすことなく、水浸漬後の接着性および全体的な結合強度の予想外に優れた増大をもたらす。さらに、RDP組成物は、優れた耐摩耗性、表面外観、および色を伴うセメントベースの組成物を提供し、かつセルフレベリング床用配合物もしくは組成物、およびセメントベースのタイル接着剤の様なセメント組成物のための乾燥混合配合物に使用される凝結遅延剤の量を少なくとも30%低減し、例えば、50%以上低減するのを可能にする。
【0009】
RDPは水不溶性膜形成性ポリマーと、1種以上のコロイド安定化剤、好ましくはポリビニルアルコール(PVOH)との共乾燥(co−dried)混合物を含み、膜形成性ポリマーはスチレンブタジエンコポリマーまたはスチレンおよびブタジエンと1種以上の他のモノマーとの共重合生成物を含む。膜形成性ポリマーは全コモノマー重量またはイタコン酸を伴うスチレンブタジエンコポリマーのような水不溶性膜形成性ポリマーの重量を基準にして0.1重量%〜15重量%、好ましくは0.5重量%〜10重量%、より好ましくは1重量%〜5重量%の少なくとも1種のエチレン性不飽和モノカルボン酸および/もしくはジカルボン酸、その塩、またはその混合物、好ましくはイタコン酸および/もしくはマレイン酸、および/もしくはフマル酸のカルボキシル化量を有しうる。RDP組成物を形成するためにRDPと混合されるポリグリコールの量は、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量、または再分散可能なポリマー粉体組成物の重量を基準にして、0.001重量%〜10重量%、好ましくは0.01重量%〜5重量%、より好ましくは0.1重量%〜3重量%でありうる。ポリプロピレングリコールのようなポリグリコールは250〜10,000、好ましくは1500〜6,000の数平均分子量を有することができ、かつ流動剤、担体もしくは吸着剤、例えば、非晶質シリカ粉体を伴う粉体もしくは乾燥プレブレンドの形態であることができる。
【0010】
本発明の形態においては、再分散可能なポリマー粉体組成物は水不溶性膜形成性ポリマーとコロイド安定化剤との水性混合物を乾燥させ、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)を得ることにより製造されうる。水不溶性膜形成性ポリマーの水性分散物は重合により製造されることができ、そしてコロイド安定化剤は重合後のこの水性分散物と混合されることができ、次いで水性分散物は噴霧乾燥されて水に再分散可能なポリマー粉体を得ることができる。次いで、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)はポリグリコールと混合されることができ、本発明の再分散可能なポリマー粉体組成物を得ることができる。本発明の実施形態においては、ポリグリコールは流動剤、担体もしくは吸着剤、例えば、非晶質シリカ粉体とプレブレンドされてドライブレンドを得ることができ、次いでこのドライブレンドは再分散可能なポリマー粉体(RDP)と混合されて、本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物を得ることができる。RDPと共にポリグリコールを使用することは、作業性もしくは適用中のコテ塗りの容易さに悪影響を及ぼすことなく、セメントベースの組成物での全体的な結合強度および接着性における予想外に優れた増大を提供し、優れた耐摩耗性、表面外観および色を提供し、かつセメント組成物のための乾燥混合配合物に使用される凝結遅延剤の量の低減を可能にする。
本発明の別の形態においては、SBコポリマーRDPおよびポリグリコールから製造される水に再分散可能なポリマー粉体組成物とセメント成分とを混合してセメント組成物、例えば、モルタルを得ることによって、セメントベースのタイル接着剤のようなセメント組成物、またはセルフレベリング床用配合物もしくは組成物が製造されうる。セメント組成物は予想外に優れた全体的な結合強度および接着性、並びに作業性もしくは適用中のコテ塗りの容易さを示し、同時に、最終生成物における優れた耐摩耗性、表面外観および色を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はブルックフィールドローテーティングT−スピンデル−ヘリパスを用いて測定された、再分散可能なスチレンブタジエンポリマー粉体(RDP)および再分散可能な酢酸ビニル/エチレン(VAE)ポリマー粉体(RDP)と配合されたセメントのコンシステンシーに対するポリグリコールの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は添付の図面によってさらに例示される。
他に示されなければ、全ての温度および圧力単位は室温および標準圧力(STP)である。示される全ての範囲は包括的であり、かつ組み合わせ可能である。
【0013】
挿入語句を含む全ての語句は挿入事項を含むものおよび挿入事項が存在しないもののいずれかもしくは双方を示す。例えば、語句「(メタ)アクリラート」は、選択的にアクリラートおよびメタクリラートを含む。
【0014】
本明細書において使用される場合、用語「(メタ)アクリラート」はアクリラート、メタクリラートおよびこれらの混合物を意味し、本明細書において使用される用語「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリル、およびこれらの混合物を意味する。
【0015】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、語句「分子量」とは、従来の方法で測定される数平均分子量をいう。
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「ポリマー」とは、選択的に、1種以上の異なるモノマーから製造されるポリマー、例えば、コポリマー、ターポリマー、テトラポリマー、ペンタポリマーなどをいい、ランダム、ブロック、グラフト、シークエンシャルまたはグラジエントポリマーのいずれであってもよい。
【0017】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、測定ガラス転移温度(T)が使用される。本明細書において使用される場合、用語「計算T」とは、フォックス式(T.G.Fox、Bull.Am.Physics Soc.第1巻、第3号、123ページ(1956))を用いて計算されたポリマーのTをいう。本明細書において使用される場合、用語「測定T」とは、示差走査熱力測定すなわちDSCを用いて測定される(10℃/分の加熱割合、変曲の中点で採用されるT)Tを意味する。
【0018】
本発明者は、再分散可能なポリマー粉体との混合物中にポリグリコール、例えば、ポリプロピレングリコールなどを含む再分散可能なポリマー粉体(RDP)であって、再分散可能なポリマー粉体中にカルボキシル化を提供する、例えば、少なくとも1種のエチレン性不飽和ジカルボン酸モノマーを有する、カルボキシル化水不溶性膜形成性スチレンブタジエンポリマーと、コロイド安定化剤、例えば、PVOHなどとを含む再分散可能なポリマー粉体が、レオロジーに悪影響を及ぼさず、セメントベースの組成物に対して水浸漬後に予想外に優れた全体的な結合強度および接着性を有するセメント組成物を生じさせることを見いだした。これは良好な作業性もしくは適用中のコテ塗りの容易性をもたらす。さらに、RDPとポリグリコールとを含むRDP組成物は、優れた耐摩耗性、表面外観および色を伴うセメントベースの組成物を提供する。RDP組成物は、セメント組成物、例えば、セルフレベリング床用配合物もしくは組成物、およびセメントベースのタイル接着剤のための乾燥混合配合物中に使用される凝結遅延剤もしくは遅延剤の量の少なくとも30%の低減、例えば、50%以上の低減を可能にすることも見いだされた。例えば、水浸漬後の結合強度もしくは接着性による特性は本発明の再分散可能なポリマー粉体組成物を用いて配合されるモルタルは、ポリグリコールの添加なしで、再分散可能な酢酸ビニル/エチレンコポリマー(VAE)もしくはスチレンブタジエンポリマー粉体と共に配合されたモルタルよりも、水浸漬後の予想外にも優れた全体的な結合および接着性を示す。同様に、モルタルの相分離、着色およびピンホールの最終的な表面試験特性は向上を示し、これに加えてポリグリコールを添加していないVAE RDPと比べて、SB RDPへのポリグリコール添加について耐摩耗性の有意な向上が達成される。凝結遅延剤、例えば、クエン酸三ナトリウム(TrNaCitrate)が低減される場合に、圧縮強度および曲げ強度も非常に向上される。よって、カルボキシル化スチレンブタジエンRDPとポリグリコールとの組み合わせが良好な再分散性、生産の容易さ、より高い生産性および改良された最終用途性能を可能にする。
【0019】
本発明において使用されうるポリマーは、カルボキシル化されている水不溶性膜形成性ポリマーである。好ましい水不溶性膜形成性ポリマーはスチレンブタジエンコポリマーもしくは低い程度のカルボキシル化で他のモノマーと共重合されたスチレンおよびブタジエンである。
【0020】
水不溶性膜形成性コポリマーは水性乳化もしくは懸濁重合、好ましくは乳化重合によって、従来の重合温度、例えば、40℃〜120℃、好ましくは70℃以上、もしくは好ましくは105℃以下、および圧力、例えば、150psi以下、好ましくは100psi以下のジエンコモノマー圧力を使用する従来の方法で製造されることができる。重合は従来の量の1種以上の従来の水溶性開始剤、例えば、過硫酸ナトリウム、もしくは油(モノマー)溶性開始剤、例えば、t−ブチルペルオキシドおよびクメンヒドロペルオキシド、または還元剤、例えば、亜硫酸塩および亜硫酸水素塩を使用するレドックス開始剤組み合わせを使用して開始されうる。
【0021】
分子量を制御するために、重合中に、従来の方法で、重合されるモノマーを基準にして0.01〜5.0重量%、または好ましくは3重量%以下の従来の量で、従来の調節剤物質もしくは連鎖移動剤、例えば、メルカプタン、アルカノールおよびダイマーアルファメチルスチレンが使用されうる。重合プロセスは好ましくは、従来の量の1種以上の従来の乳化剤および/または保護コロイド、例えば、2000以上の数平均分子量を有する水可溶性コポリマーなどの存在下で、既知の方法で起こる。好適な乳化剤には、アニオン性、カチオン性および非イオン性乳化剤、例えば、アニオン性界面活性剤例えば、8〜18炭素アルキルもしくはアルキルアリールエーテルスルファート、およびその塩、並びに非イオン性界面活性剤、例えば、アルキルもしくはアルキルアリールポリグリコールエーテルなどが挙げられる。1種以上の界面活性剤の代わりのもしくはこれに加えた、好適な保護コロイドには、例えば、ポリビニルアルコール;水溶性形態のポリサッカライド、例えば、デンプンおよびセルロース系物質;タンパク質、例えば、カゼイン、もしくはダイズタンパク質など;リグニンスルホナート;および、合成コポリマー、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、および(メタ)アクリラートとカルボキシル官能性コモノマー単位とのコポリマーなどが挙げられうる。
【0022】
1種以上の塩基性化合物が、重合前、重合中もしくは重合後にコポリマー中のカルボキシル基の0.4モル以上、好ましくは0.5〜2モル、より好ましくは0.6〜1.8モルの量で添加されうる。あるいは、塩基性化合物は水性コポリマー生成物のpHを8.0以上、もしくは9.5以上、もしくは好ましくは少なくとも10.5、および好ましくは12.5以下に調節するような量で添加されうる。塩基性化合物は無機塩基性化合物、好ましくは無機強塩基性化合物、例えば、水酸化アルカリ金属もしくは水酸化アルカリ土類金属、例えば、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムであることができる。
【0023】
コポリマーは、コポリマーを製造するのに使用されるモノマーの全重量を基準にして、20〜79.9重量%、好ましくは30重量%以上、例えば、50重量%〜70重量%の1種以上のビニル芳香族コモノマーa)、79.9重量%以下、好ましくは60重量%以下、例えば、25重量%〜49重量%の1種以上の1,3−ジエンコモノマーb)、0.01〜15重量%、好ましくは0.5重量%〜10重量%、もしくはより好ましくは1重量%〜5重量%のコモノマーc)、および0〜40重量%、好ましくは0〜20重量%、もしくはより好ましくは10重量%以下のコモノマーd)の共重合生成物を含む。
【0024】
コモノマーおよびその重量比率は−60℃以上、好ましくは−20℃以上、もしくはより好ましくは−10℃以上、または80℃以下もしくは未満、好ましくは35℃以下もしくは未満、もしくはより好ましくは25℃以下もしくは未満のガラス転移温度(Tg)を有するコポリマーを製造する様に選択される。セメント組成物に使用するのにこのTgが高すぎる場合には、可とう性、特に低温での可とう性およびクラック架橋のような最終用途特性に悩まされる。コポリマーのTgは示差走査熱量測定(DSC)によって既知の方法で決定されうる。セラミック加工における犠牲的バインダーとしての使用においては、SB RDPの有用なTgは110℃、好ましくは60℃の高さであってもよい。
【0025】
好適なコモノマーa)には、例えば、スチレン、アルファ−メチルスチレン、C−Cアルキル−スチレン、例えば、o−ビニルトルエンおよびtert−ブチルスチレンが挙げられる。スチレンが好ましい。好適なコモノマーb)には、例えば、1,3−ブタジエン、およびイソプレンが挙げられ、1,3−ブタジエンが好ましい。好適なコモノマーc)には、例えば、エチレン性不飽和モノ−カルボン酸および/またはジカルボン酸、その無水物およびその塩、その混合物、特にイタコン酸および/またはマレイン酸および/またはフマル酸が挙げられ、再分散可能なコポリマー粉体の再分散性を向上させる。
【0026】
好適な任意のコモノマーd)には、例えば、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、例えば、メタクリル酸メチル、エチレン性不飽和カルボキサミドおよびカルボニトリル、例えば、(メタ)アクリロニトリル;フマル酸もしくはマレイン酸のジエステル;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラート;硫黄含有酸モノマー;リン含有酸モノマー;架橋性コモノマー、例えば、ジビニルベンゼンもしくはジビニルアジペートなど;ポスト架橋性コモノマー、例えば、アクリルアミドグリコール酸(AGA)もしくはメタクリル酸アリル;エポキシ官能性コモノマー、例えば、グリシジル(メタ)アクリラート;並びに、ケイ素官能性コモノマー、例えば、アルコキシシラン含有(メタ)アクリラートもしくはビニルモノマーなどが挙げられる。
【0027】
乾燥により得られる粉体の水への再分散性を増大させるために、水性コポリマー分散物を実質的に乾燥させる前に、上述の様な塩基性化合物が添加されうる。
【0028】
好ましい実施形態においては、水への良好な再分散性および良好な臭気制御を達成するために、コポリマー中のカルボキシル基の総数の75%以上、好ましくは85%以上、またはより好ましくは95%以上がこの粉体粒子中のコポリマーラテックス粒子の表面に位置する。このようなコポリマーにおいては、粉体中のコポリマーラテックス粒子において、75%以上、好ましくは85%以上、またはより好ましくは90%以上、または最も好ましくは95%以上の表面カルボキシル基がその塩形体で存在する。
【0029】
乾燥により得られるコポリマー粒子の表面に位置するカルボキシル基の高いパーセンテージは、コモノマーc)としてのエチレン性不飽和ジカルボン酸の使用だけによって、重合が進行した段階でのコモノマーc)の添加の様な段階的モノマー供給によって、または3〜9、好ましくは4〜8、または好ましくは6以上のpHで重合を行うことによって得られうる。
【0030】
乾燥により得られる粉体中のポリマー粒子の表面に位置するカルボキシル基のパーセンテージは、コポリマー粒子の表面に位置するカルボキシル基、低分子量酸水溶液コポリマーにおいて液相に存在するもの、または遊離のカルボン酸もしくはその塩、例えば、クエン酸として存在するものの全てを包含する。水性コポリマー分散物の乾燥の際に、液相溶液コポリマーに存在するカルボキシル基がコポリマー粒子の表面上に堆積する。
【0031】
コポリマー粒子の表面に存在するカルボキシル基のモル量と、水性分散物の液相中のカルボキシル基のモル量との合計は従来の方法で別々に測定可能である。
【0032】
本発明の実施形態においては、水不溶性膜形成性ポリマーはコモノマーc)について上述した様なカルボキシル化量、例えば、水不溶性膜形成性ポリマーの重量もしくは全コモノマー重量を基準にして、0.1重量%〜15重量%、好ましくは0.5重量%〜10重量%、より好ましくは1重量%〜5重量%のイタコン酸を有する。
【0033】
本発明に従って、噴霧乾燥される水性分散物もしくはラテックス中での水不溶性膜形成性ポリマーは100nm〜500nm、例えば、130nm〜350nmの平均粒子サイズを有することができる。
【0034】
本発明の実施形態においては、本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物は、水不溶性膜形成性ポリマーと、ポリマー粉体のサブミクロン粒子サイズへのコロイド安定化および再分散性のためのコロイド安定化剤と、ポリグリコールとの共乾燥混合物を含む。従来のコロイド安定化剤、例えば、ポリビニルアルコール(PVOH)は従来の量でコロイド安定化剤として使用されうる。ここで使用するのに好ましいポリビニルアルコールは、部分的に加水分解されたポリビニルアルコールである。本発明の実施形態においては、コロイド安定化を達成するのに使用されるPVOHもしくは他の既知のコロイド安定化剤の量は水不溶性膜形成性ポリマーの重量を基準にして少なくとも1重量%、例えば、2重量%〜30重量%、好ましくは5重量%〜20重量%であることができる。本発明の好ましい実施形態においては、ポリグリコールは噴霧乾燥後に添加されうる。乾燥混合物、プレブレンドもしくは粉体組成物を得るように成分を混合するための従来の混合もしくはブレンド装置および方法を用いて、ポリグリコールは再分散可能なポリマー粉体(RDP)と一緒にされて、本発明の再分散可能なポリマー粉体組成物を得ることができる。本発明の形態においては、再分散可能なポリマー粉体組成物は水不溶性膜形成性ポリマーとコロイド安定化剤との水性混合物をポリグリコールと共に乾燥させて、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)を得ることにより、またはポリグリコールの噴霧乾燥後添加によって製造されうる。例えば、水不溶性膜形成性ポリマーの水性分散物は重合により製造されることができ、重合後にコロイド安定化剤は水性分散物と混合されることができ、次いで水性分散物は噴霧乾燥されて水に再分散可能なポリマー粉体を得ることができる。水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)は、次いで、ポリグリコールと混合されることができ、本発明の再分散可能なポリマー粉体組成物を得ることができる。本発明の実施形態においては、ポリグリコールは流動剤、担体もしくは吸着剤、例えば、非晶質シリカ粉体とプレブレンドされて、ドライブレンドを得ることができ、このドライブレンドは、次いで、再分散可能なポリマー粉体(RDP)と混合されて、本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物を得ることができる。再分散可能なポリマー粉体組成物は、乾燥混合配合物の重量を基準にして少なくとも0.1重量%、例えば、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%の量でセメントベースの組成物のための乾燥混合配合物中で使用されることができる。
【0035】
本発明の再分散可能なポリマー粉体組成物を製造する方法に従って、水に再分散可能なポリマー粉体は、水不溶性膜形成性ポリマーとコロイド安定化剤との水性混合物を、ポリグリコールと共にもしくはポリグリコールなしで乾燥させ、水に再分散可能なポリマー粉体を得ることにより製造されうる。実施形態においては、重合により得られた水不溶性膜形成性ポリマーの水性分散物がコロイド安定化剤と、ポリグリコールと共にもしくはポリグリコールなしで混合されて、実質的に均一な水性分散物を得て、これは次いで噴霧乾燥されて水に再分散可能なポリマー粉体を得る。一例においては、噴霧乾燥される供給物の粘度は1000mPas未満(20回転および23℃でのブルックフィールド粘度)、好ましくは250mPas未満の値が得られる様に、固形分含量が調節される。噴霧乾燥される分散物の固形分含量は分散物の全重量を基準にして概して25重量%〜75重量%、例えば、35重量%〜65重量%、好ましくは40重量%〜60重量%でありうる。水に再分散可能なポリマー粉体を製造するために、水性分散物は、好ましくは噴霧乾燥によって乾燥させられる。噴霧乾燥は通常の噴霧乾燥プラントにおいて行われることができ、霧化は単一流体、2流体もしくは多流体ノズルまたはロータリーディスクアトマイザーの手段によって行われる。一般的に、乾燥用ガスとして空気、窒素もしくは窒素富化空気が使用されることができ、この乾燥用ガスの入口温度は一般的に200℃を超えず、好ましくは110℃〜180℃、より好ましくは130℃〜170℃である。出口温度は、プラント、ポリマー組成物のTおよび望まれる乾燥の程度に応じて、一般的に45℃〜120℃、好ましくは60℃〜90℃であることができる。
【0036】
水性分散物の乾燥の前に、コロイド安定化剤およびポリグリコールに加えて、従来の量の従来の任意の添加剤、例えば、ポリマー粒子の重量を基準にして1.5重量%以下の消泡剤の量での消泡剤が添加されうる。従来の量で使用されうる他の添加剤には、1種以上の塩、例えば、CaClおよびMgCl、乳化剤もしくは界面活性剤、単糖、二糖および抗クラッキング剤(抗ブロッキング剤)、例えば、カオリン、炭酸カルシウム、もしくはシリケートが挙げられる。抗クラッキング剤もしくは他の無機充填剤の量は、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量を基準にして40重量%以下でありうる。本発明の実施形態においては、従来の超可塑剤が、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量を基準にして少なくとも0.01重量%、好ましくは5重量%〜25重量%の量で使用されうる。
【0037】
再分散可能な粉体の粒子サイズ分布のX50サイズは、乾燥条件および乾燥装置によって決まる。X50はマイクロメートル単位でのメジアン直径を表し、これは粒子の50重量%がこの直径よりも小さいことを意味する。好ましくは水に再分散可能な生じたポリマー粉体は、5〜100マイクロメートル、好ましくは20〜100マイクロメートル、最も好ましくは50〜80マイクロメートルのX50粒子サイズ直径を有する。粉体の粒子サイズ分布は1.8〜350μmの測定範囲で粒子サイズ分析装置「シンパテックヘロズ(Sympatec Helos)」を用いるレーザー回折によって、そして圧縮空気によって粉体を分散させることによって測定されうる。
【0038】
粉体中のポリマー粒子の重量は、水に再分散可能なポリマー粉体の全重量の、好ましくは40重量%〜95重量%、より好ましくは65重量%〜85重量%でありうる。
【0039】
本発明において使用されるポリグリコールは任意の従来のポリグリコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、または他のポリエーテルジオールもしくはトリオールであることができる。好ましい実施形態においては、ポリプロピレングリコールもしくはポリプロピレンオキシドは、ポリプロピレングリコール、ジオール(PPG)におけるように、概してヒドロキシル基である末端基を有して使用されうる。RDPと混合されてRDP組成物を形成するポリグリコールの量は、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量、もしくは再分散可能なポリマー粉体組成物の重量を基準にして0.001重量%〜10重量%、好ましくは0.1重量%〜5重量%、より好ましくは0.5重量%〜3重量%であることができる。ポリプロピレングリコールのようなポリグリコールは250〜10,000、好ましくは1,500〜6,000の数平均分子量を有することができる。ポリグリコールは液体もしくは固体の形態で、好ましくは従来の流動剤、担体もしくは吸着剤、例えば、非晶質シリカ粉体との乾燥プレブレンドもしくは粉体の形態で使用されうる。液体形態のポリグリコールは流動剤、担体もしくは吸着剤、例えば、非晶質シリカ粉体上にもしくはそれらによって吸収されて乾燥プレブレンドもしくは粉体を形成するまでに、これと混合、もしくはプレブレンドされることができ、この乾燥プレブレンドもしくは粉体は次いで、RDPと乾燥ブレンドされもしくはRDPと混合されて粉体もしくは乾燥混合物を形成することができる。本発明の典型的な例においては、得られるポリグリコール粉体もしくは乾燥混合物は流動剤、担体もしくは吸着剤を、ポリグリコールと流動剤、担体もしくは吸着剤、例えば、非晶質シリカ粉体との合計重量を基準にして25重量%〜60重量%、例えば、30重量%〜50重量%の量で含むことができる。
【0040】
本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物は様々な用途を有する。本発明の実施形態においては、本発明の再分散可能なカルボキシル化スチレン−ブタジエンポリマー粉体組成物は再分散可能なアクリル系ポリマー粉体(RDP)、VAE RDP、VAE/VeoVA RDP、エポキシベースのRDP、ポリウレタンRDP、ポリオレフィン分散物ベースのRDP、およびこれらの混合物の1種以上とのブレンドにおいて使用されうる。本発明の粉体は、建築材料、パーソナルケア組成物、医薬組成物および農業用組成物のような様々な組成物、高塩濃度用途もしくは環境、例えば、オフショア油井セメンチング、油およびガス掘削およびセメンチング、並びに硬水における機能性添加剤として使用されうる。粉体のさらなる用途は廃棄物取り扱い用途、例えば、廃棄物、石炭スラッジ封じ込め、土壌、土壌浸蝕制御をはじめとするバルク材料の山のための合成覆いのための組成物であり、これらは水の浸透、不快な放出ダスト、臭気および鳥に対する親和性を最小限にする。粉体は噴霧可能な他の埋立地の覆いに使用されることができ、安価で広範囲に利用可能で環境に優しい再利用される材料の使用はプラスチックおよびガラス廃棄物への良好な接着性を有し、そして短時間で接着性が増大した混合物を形成し/固めることができる。粉体はポリウレタンフォームのような発泡体の製造にも使用されうる。
【0041】
好ましい実施形態においては、水に再分散可能なポリマー粉体は、無機水硬性バインダーをさらに含むことができる硬化性組成物における添加剤として使用されうる。無機バインダーの例としては、セメント、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、ポゾランセメント、スラグセメント、マグネシアセメント、およびホスファートセメント;半水石膏および水ガラスが挙げられる。本発明に従うポリマー組成物の例示的な用途は、タイル接着剤、建築用接着剤、レンダー(render)、ジョイントモルタル、プラスター、コテ塗り用組成物、充填用組成物、例えば、床充填用組成物(例えば、セルフレベリング床用組成物)、コンクリート補修ジョイント、ジョイントモルタル、テープジョイントコンパウンド、コンクリート、耐水膜用途、クラック隔離(crack isolation)膜用途、およびセラミック加工用添加剤がある。特に、例えば、セメントベースのタイル接着剤におけるまたは外断熱複合材料システムにおけるような硬化性組成物における本明細書に記載される水に再分散可能なポリマー粉体の使用は、高い当初接着強度、水に浸漬した後の高い接着強度(耐水性)および水和した硬化性組成物の最終適用前で特定の「オープンタイム(open time)」を可能にした後の高い接着強度を有する組成物を生じさせる。本発明の実施形態においては、水に再分散可能なポリマー粉体は、例えば、シリカ、アルミナ、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物のような原料の鋳込成形(slip casting)のためのバインダーとして使用されうる。
【0042】
水に再分散可能なポリマー粉体の好ましい用途はセメント質もしくは水硬性組成物、または高pH、例えば、少なくとも11、例えば、11.5〜13.5のpHを示す他の組成物においてである。本発明の再分散可能なポリマー粉体はタイル接着剤、例えば、セメントベースのタイル接着剤に使用されうる。セメントベースのタイル接着剤は概して水硬性バインダーとして5〜50重量部のセメント、好ましくはポルトランドセメント;主充填剤として40〜70重量部のケイ砂、好ましくは0.1mm〜0.5mmの粒子サイズを有するケイ砂;並びに、(タイル接着剤の乾燥重量を基準にして)0.1重量%〜10重量%、好ましくは1重量%〜6重量%の本発明に従った再分散可能なポリマー粉体組成物を含むことができる。さらなる任意成分には、レオロジー、水保持、耐スリップ性および向上した作業性を制御するための1種以上のセルロースエーテル(タイル接着剤の乾燥重量を基準にして好ましくは0.05重量%〜1重量%、より好ましくは0.2重量%〜0.5重量%の合計量);コンシステンシーおよび作業性を向上させるための微細共充填剤(co−filler)としての30μm〜60μmの粒子サイズを有する石英もしくは石灰石粉体;並びに耐スリップ性を向上させるためのセルロースまたは鉱物繊維が挙げられる。
【0043】
水に再分散可能なポリマー粉体の別の用途はセルフレベリング床用コンパウンドSLFCにおいてである。粉体は基体への接着性、可とう性、耐摩耗性および老化特性を向上させるために添加されうる。SLFCは概してCBTAに使用されるのと同じ量の同じ成分を含むことができる。凝結遅延剤もしくは遅延剤、例えば、クエン酸三ナトリウム(TriNaCitrate)、例えば、スイス、パフィコンのニューケム(Newchem)AGから入手可能なCenspersePC13は、一般的にSLFCに使用される従来の量と比べて低減された量、例えば、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%以上で使用されうる。本発明の実施形態においては、凝結遅延剤はSLFCの重量を基準にして0.1重量%以下、例えば、0.03重量%〜0.07重量%の量で使用されうる。SLFCは硫酸カルシウム(石膏)、促進剤、例えば、炭酸リチウム、および液化剤(liquefier)、分散剤、もしくは超可塑剤、例えば、水可溶性共ポリマー分散剤、例えば、MELFLUX2651F、修飾ポリカルボキシラート(BASFコンストラクションポリマーズ、ケネソー、GA)を従来の量で含むことも可能である。別の実施形態においては、水に再分散可能なポリマー粉体は外断熱システムETICSにおいて、特に水吸収を低減させ外断熱システムの耐衝撃性を向上させるための断熱板層上の接着剤として使用されうる。
【0044】
さらに、本発明に従う水に再分散可能なポリマー粉体は紙製品、板紙製品、カーペット裏あて、塗料もしくはコーティングにおいて、または木材、紙もしくは織物コーティングもしくは含浸組成物のためのバインダーにおいて、好ましくは実質的な量の無機水硬性バインダー剤が存在せずに、より好ましくはいかなる量の無機水硬性バインダー剤も存在せずに使用されうる。例えば、水に再分散可能なポリマー粉体はコーティング組成物および接着剤における唯一のバインダーとして使用されうる。
【0045】
以下の実施例は例示目的のためだけに提供され、特許請求の範囲を限定することを意図していない。他に示されない限りは、全ての部およびパーセンテージは重量基準であり、全ての温度は℃単位であり、全ての圧力はbar単位であるか、またはそれとは異なり他に示されない限りは大気圧である。
【実施例】
【0046】
実施例1
再分散可能なポリマー粉体はa)62部のスチレン、35部のブタジエン、および3部のイタコン酸(全コモノマー重量を基準にして3重量%のイタコン酸のカルボキシル化)のコモノマー含量を有し、148nmの粒子サイズおよび8℃のTを有する水不溶性膜形成性カルボキシル化スチレンブタジエン(SB)ラテックス、並びにb)ラテックスポリマーの重量を基準にして12重量%のMOWIOL4−88:を混合することにより製造された。このMOWIOL4−88は、顆粒形態の部分的に加水分解されたPVOH(ポリビニルアルコール)であり、クラレヨーロッパGmbH、ディビジョンPVA/PVB D−65926フランクフルト アム マイン、ドイツ国から入手可能である。このMOWIOL4−88は4±0.5mPa・s(20℃で4%水溶液)の粘度DIN53015、87.7±1.0mol%の加水分解(ケン化)度、140±10mgKOH/gのエステル価DIN53401、10.8±0.8w/w%の残留アセチル含量、および0.5%の最大灰含量(NaOとして算出)を有する。この混合物は混合物の全重量を基準にして38重量%の全固形分含量を有する。
【0047】
この混合物は、モバイルマイナー噴霧乾燥機上に取り付けられた2流体ノズルアトマイザーにポンプ移送されうる。50%フローでノズルへの空気圧力は3barで固定されることができ、これは6kg/時の空気フローに等しい。噴霧乾燥はN環境で、140℃に固定された入口温度で行われることができ、この混合物の供給速度を調節することにより出口温度は50℃±1℃を目標にされうる。同時に、抗ケーキング剤(anti−caking agent)としてカオリン粉体(KaMin HG90)が噴霧乾燥のためのチャンバーに添加されることができ、その量は乾燥粉体の12重量%に制御される。
【0048】
噴霧乾燥により得られる再分散可能なスチレンブタジエンポリマー粉体(SB RDP)は58.4μmの平均粒子サイズ(X50)を有することができる。噴霧乾燥された粉体は1重量%の固形分量で脱イオン(DI)水中に、もとのSBラテックス粒子サイズ分布に容易に分散される。
【0049】
本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物は、再分散可能なポリマー粉体SB RDPをポリグリコールと混合することにより製造されることができる。使用されるポリグリコールはVORANOL2000Lであることができ、これはポリプロピレングリコールであって、2000の平均分子量(M、g/mol、従来の方法で測定されたOHから推定した場合)、53〜58(mg(KOH)/g無水フタル酸−ピリジン溶液)のOH価範囲、25℃で320mPa・sの粘度、6.0〜7.5のpH(水/イソプロパノール6:10混合物)および最大5ppmのK+Na(フレームフォトメトリーによる)を有するジオールである。VORANOL2000Lポリグリコールはまず流動剤、担体、吸着剤もしくは抗ケーキング剤、J.M.Huber Finland OYによって製造されるZEOFREE5161(これは20.0〜35.0マイクロメートルの平均粒子サイズ、および160m/gの表面積、BETを有する沈降シリカ(二酸化ケイ素;沈降非晶質シリカ)の噴霧乾燥粉体形態である)と混合されることができ、粉体もしくはドライブレンド(DB A)を得る。このポリプロピレンドライブレンド(DB A)は60重量%のポリプロピレングリコールと40重量%の沈降シリカとを含むことができる。ポリプロピレンドライブレンドは従来のミキサーを使用してSB RDPと混合されることができ、SB RDPの重量を基準にして2重量%のポリプロピレングリコール(活性物質)を有する、本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物を得ることができる。
【0050】
実施例2〜5
実施例2、3、4および5においては、ポリプロピレンドライブレンド(DB A)がSB RDPと混合されて、それぞれSB RDPの重量を基準にして1重量%、3重量%、5重量%、および6重量%のポリプロピレングリコール(活性物質)を有する本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物を得ることができることを除いて、実施例1におけるように再分散可能なポリマー粉体組成物が製造された。
【0051】
比較例A
実施例1において得られるような再分散可能なポリマー粉体(SB RDP)は、それに混合されるポリグリコール(DB A)を含まないRDPの比較例として使用された。
【0052】
比較例B
17℃のT、10重量%の灰含量およびPVOHでコロイド安定化される酢酸ビニル−エチレンコポリマー(VAE RDP)である、市販の再分散可能なポリマー粉体DLP2000(ミシガン州、ミッドランドのザダウケミカルカンパニーによって製造される)が比較例のRDPとして使用され、これはカルボキシル化されたSB RDPではなく、かつこれと混合されるポリグリコール(DB A)を含まない。
【0053】
比較例C、D、EおよびF
比較の再分散可能なポリマー粉体組成物C、D、EおよびFはa)比較例Bの酢酸ビニル−エチレンコポリマーRDP(VAE RDP)と、b)実施例1のポリプロピレンドライブレンド(DB A)とを混合して、VAE RDPの重量を基準にしてそれぞれ1重量%、3重量%、5重量%および6重量%のポリプロピレングリコール(活性物質)を有する水に再分散可能なポリマー粉体組成物、比較C、D、EおよびFを得ることにより製造された。比較例C〜Fは比較例のRDPとして使用され、これはカルボキシル化SB RDPではなく、かつそれに混合されるポリグリコール(DB A)を含まない。
【0054】
実施例6
実施例1および2、並びに比較例AおよびBの再分散可能な粉体組成物を用いて、セメントベースのモルタル組成物を製造するのに使用されうる成分およびその相対量(重量%もしくは重量部、pbw)は以下の表1に示される。表1Aに示された固体成分をドライブレンドし、次いで水を添加することにより、様々なセメントベースのモルタル組成物が製造されることができる。セメントベースのモルタル組成物の様々な特性およびその性能が試験されることができ、結果が表1Bに示される。
【0055】
試験方法:
乾燥混合物製造:セメント、砂、ポリマーおよび増粘剤が秤量され、プラスチック袋に入れられ、これは次いで2分間手で混合され、24時間コンディショニングされた。
【0056】
CE5.12(湿潤モルタルブルックフィールド粘度、湿潤性および密度)
粘度は、ブルックフィールドヘリパス(Brookfield Helipath)スタンドと組み合わせたブルックフィールドシンクロ−レクトリック(Synchro−lectric)粘度計(モデルRVT)を用いて25℃で測定される。モルタルが密度カップに満たされ、スピンドルがモルタルの表面にちょうど触れるようにスピンドル(T−F)が位置決めされる。
【0057】
密度:モルタルが既知の体積の容器に入れられ、軽くたたいて詰められ、次いで秤量される。
【0058】
湿潤性:タイルの裏へのモルタル移送の量。
【0059】
オープンタイム:EN1346、20分、7日後および28日後。
【0060】
接着性:EN1348、室温および70℃での、および水浸漬での28日後。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1Bに示される様に、スチレン−ブタジエンカルボキシル化ポリマー粉体が0.03重量%のポリグリコール(実施例2、RDPの重量を基準にして1重量%のポリグリコール)および0.06重量%のポリグリコール(実施例1、RDPの重量を基準にして2重量%のポリグリコール)で改質され、改質されていない同じ粉体(比較例A)もしくは改質されていないVAE RDP(比較例B)の代わりに再分散可能なポリマー粉体組成物として使用される場合に、接着における予想外に優れた改善の評価が得られる。
【0064】
さらに、以下のレシピに従って、127.2gのセメント、50.4gの水および7.2gのRDP組成物(実施例2、3および4、並びに比較例A、B、C、DおよびE)を混合することにより、コンシステンシー測定のための8つのモルタル配合物が得られた。
レシピ:127.2gのセメント+7.2gの(粉体+DB Aの活性物質)+50.4gの水、
DB A=4部のゼオフリー(Zeofree)5161A+6部のボラノール(Voranol)(ポリグリコール);ボラノール2000L=活性物質。例えば、
7.2gの粉体(100%) (0%の活性物質)
7.13gの粉体(99%)+0.12gのDB A(1%の活性物質)
6.99gの粉体(97%)+0.35gのDB A(3%の活性物質)
6.86gの粉体(95%)+0.57gのDB A(5%の活性物質)
【0065】
セメント/VAEおよびSB粉体とDB A/水混合物のコンシステンシーは添加されるポリグリコール、DB A[活性物質%]の量の関数として図1に示される。このコンシステンシーは回転するT−スピンデルを用いて測定される。図1に示される様に、実施例2、3および4におけるようなカルボキシル化スチレンブタジエンRDPとポリグリコールとを用いたモルタル配合物は、それぞれ比較例AおよびBにおけるようにポリグリコールを含まないSB RDPおよびVAE RDPのコンシステンシー、並びに比較例C、DよびEにおける様なポリグリコールを含むVAE RDPのコンシステンシーと比べてコンシステンシーの予想外に高い増加を示す。図1は、再分散可能なVAE−およびSBポリマー粉体/セメント混合物におけるポリグリコールの異なる挙動を示す。SB粉体を用いるコンシステンシーの増大は適用特性に悪影響を有しない。SB粉体の場合におけるさらに高いコンシステンシーは、SBとセメントとの間に驚くべき相互作用が存在することを示す。
【0066】
実施例7
実施例5、並びに比較例Fの再分散可能な粉体組成物を用いて、セメントベースのモルタル組成物を製造するのに使用されうる成分およびその相対量(重量%もしくは重量部、pbw)は以下の表2に示される。表2に示された固体成分をドライブレンドし、次いで水を添加することにより、様々なセメントベースのモルタル組成物が製造されることができる。セメントベースのモルタル組成物の様々な特性およびその性能が試験されることができ、結果が表2に示される。
【0067】
試験方法:
フローおよびスプレッディング(spreading):互いに直交する2つの方向に広げられる材料の直径を測定することによりフローが決定される。必要とされる直径は使用される管のサイズに応じて決定される。ENのドラフトバージョンに記載される管は30mmの直径および50mmの高さを有する。この管について、SLFCのために必要とされる直径は150mm超であるべきである。
【0068】
混合特性:
混合特性は多くの異なる方法で決定される。特定の要件はない。
【0069】
粘度:
粘度についての特定の要件はない。改変されたDIN 53211(6.5mmノズル)で決定される最適粘度は25〜60DIN秒の範囲の注ぎ時間を有する。60DIN秒を超える場合、もはや逃すことができない多すぎる空気を捕捉する危険がある。25DIN秒未満の場合には、この混合物はしぶきを飛び散らせる傾向があり、かつ最初に形成される塊は喪失した剪断力のせいでそれ以上再溶解されないであろう。
【0070】
分離:
相分離は主観的にのみ決定されうる。この混合物はオープンタイム中に分離するべきではない。よって、SLFC層の様々な高さでの結合力は等しくあるべきである。
【0071】
表面外観:
表面外観の決定は見た目で行われる。ステイニング(staining)、ブリーディング(bleeding)およびピンホールは存在すべきでない。それは主観的に評価され、1(非常に劣る)から5(非常に良好)の尺度で評定される。
【0072】
硬化特性(グリーン強度):その上を歩くことを可能にするSLFCの強度がグリーン強度の基準である。速硬化性SLFCは3〜4時間後にこの特性に到達しなければならない。EN196に従う曲げ強度および圧縮強度の決定によって、この硬化は決定される。3〜4MPaの圧縮強度が充分であるとみなされる。
【0073】
曲げ強度および圧縮強度:
曲げ強度および圧縮強度は1日後、7日後、および28日後にEN196に従って決定される。1日後の試験の目的は上述の通りである。7日後および28日後の結果については、基準となる特定の値はない。一般的に28日後の20MPaは充分であるとみなされる。マーケットにおける優れた材料は約7MPa(28日)の曲げ強度および約30MPa(28日)の圧縮強度を有する。
【0074】
耐摩耗性:
キャスターチェア(castor chair)試験CEN303に従って決定される耐摩耗性についての要件は適用領域(例えば、家庭、産業用床)に応じて変化する。
【0075】
【表3】

【0076】
表2に示される様に、ポリグリコールを伴うエチレン酢酸ビニルの代わりに、ポリグリコールを伴うスチレン−ブタジエンカルボキシル化ポリマーが再分散可能なポリマー粉体組成物として使用される場合に、表面外観(着色およびピンホール)は改良され、かつ耐摩耗性値の予想外の改善(10倍)が得られる。また、配合物が、標準的な量と比べて50%未満の凝結遅延剤(TrNaCitrate)を含む場合に、予想外に優れた圧縮強度および曲げ強度値が得られ、このことは重要なコスト低減ももたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)とb)ポリグリコールとの混合物を含む水に再分散可能なポリマー粉体組成物であって;
前記水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)は水不溶性膜形成性ポリマーと、コロイド安定化剤との共乾燥混合物を含み、前記膜形成性ポリマーはカルボキシル化スチレン−ブタジエンコポリマー、またはスチレン、ブタジエン、カルボン酸および1種以上の他のモノマーの共重合生成物を含み;
前記ポリグリコールの量が水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量を基準にして0.001重量%〜10重量%であり、前記ポリグリコールは前記水不溶性膜形成性ポリマーと前記コロイド安定化剤との混合物の共乾燥の前または後で混合されることができる;
水に再分散可能なポリマー粉体組成物。
【請求項2】
ポリグリコールの量が水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量を基準にして0.01重量%〜5重量%である、請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体組成物。
【請求項3】
ポリグリコールがポリプロピレングリコールである、請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体組成物。
【請求項4】
ポリグリコールが250〜10,000の数平均分子量を有し、かつ水不溶性膜形成性ポリマーがスチレン、ブタジエンおよび不飽和ジカルボン酸のモノマーを含んでなるコポリマーである、請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体組成物。
【請求項5】
ポリグリコールが非晶質シリカ粉体との乾燥プレブレンドの形態であり、コロイド安定化剤がポリビニルアルコールを含み、並びに水不溶性膜形成性ポリマーが水不溶性膜形成性ポリマーの重量を基準にして0.1重量%〜15重量%の少なくとも1種のエチレン性不飽和ジカルボン酸、その塩もしくはその混合物のカルボキシル化量を有する、請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体組成物。
【請求項6】
a)水不溶性膜形成性ポリマーとコロイド安定化剤との水性混合物を乾燥させて、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)を得る工程であって、前記膜形成性ポリマーがカルボキシル化スチレン−ブタジエンコポリマー、もしくは別のモノマーと共重合されたスチレンブタジエンを含む工程;並びに
b)水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)とポリグリコールとを混合する工程であって、ポリグリコールの量が水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量を基準にして0.001重量%〜10重量%である工程;または
c)前記水不溶性膜形成性ポリマーと、前記コロイド安定化剤と、前記ポリグリコールとの水性混合物を乾燥させて、水に再分散可能なポリマー粉体組成物を得る工程であって、ポリグリコールの量が水に再分散可能なポリマー粉体組成物の重量を基準にして0.001重量%〜10重量%である工程:
を含む、水に再分散可能なポリマー粉体組成物を製造する方法。
【請求項7】
ポリグリコールが非晶質シリカ粉体とプレブレンドされてドライブレンドを得て、当該ドライブレンドが前記再分散可能なポリマー粉体(RDP)と混合されて、水に再分散可能なポリマー粉体組成物を得て、コロイド安定化剤がポリビニルアルコールを含み、並びに水不溶性膜形成性ポリマーが0.1重量%〜15重量%の少なくとも1種のエチレン性不飽和ジカルボンのカルボキシル化量を有し、並びにポリグリコールがポリプロピレングリコールである、請求項6に記載の水に再分散可能なポリマー粉体組成物を製造する方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水に再分散可能なポリマー粉体組成物とセメント成分とを混合することを含む、セメント組成物を製造する方法。
【請求項9】
乾燥混合配合物の重量を基準にして少なくとも0.1重量%の量の請求項1〜5のいずれか1項に記載の水に再分散可能なポリマー粉体組成物、およびセメント成分を含む乾燥混合配合物。
【請求項10】
セメント成分がセルフレベリング床用組成物を製造するためのものであり、並びに前記乾燥混合配合物が乾燥混合配合物の重量を基準にして0.07重量%未満の量の凝結遅延剤を含む、請求項9に記載の乾燥混合配合物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1428(P2012−1428A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−120923(P2011−120923)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(511131192)ダウ・シュターデ・プロダクションズ・ゲーエムベーハー・ウント・コ・オーハーゲー (2)
【氏名又は名称原語表記】Dow Stade Producktions GmbH & Co. OHG
【出願人】(511131206)ダウ・オレフィンベルブント・ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】Dow Olefinverbund GmbH
【出願人】(511131217)ダウ・ヨーロッパ・ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】Dow Europe GmbH
【Fターム(参考)】