説明

二相共晶シリコン合金焼結体の製造方法

【課題】二相構造を有する共晶シリコン合金の焼結体の製造方法を提供すること。
【解決手段】重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有するシリコン合金であって、β’サイアロン相とο’サイアロン相からなる共晶組織を有する二相共晶シリコン合金の粉末からなる成形体を、その熱容量の10倍以上の熱量を投入できる焼結炉内に保持し、常圧又は常圧以上で、且つシリコン気体のモル分率が10%以上である窒素雰囲気において、1400℃以上1750℃以下の温度範囲内の異なる温度において2段階で焼結を行う。各相に適した異なる温度で2段階で焼結することにより、高密度焼結体を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二相共晶シリコン合金焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二相構造を有する合金は、高強度で強靭値が大きいため、特殊鋼(鉄合金)の分野においては、種々のものが活用されている。JIS SUS329J1として規格化されている二相ステンレスはその代表的存在で、種々の二相構造を有する特殊鋼が多数実用化されてきている。
【0003】
他方、セラミックスの分野では、単一相で形成されるセラミックスの研究開発が重ねられ、実用化が進められている段階にある。発明者らは、圧力と温度を制御しながら行う燃焼合成方法により、地殻に大量に存在する低価格シリコンを原料とした「シリコン合金」の開発に成功し、特殊鋼に代替する構造材料として、その実用化を推進している。
ファインセラミックスと鉄鋼材料との大きな材質的差異は、塑性変形が可能か否かという点に存する。「セラミックスは脆く、鉄鋼材料は粘い」というのが、一般的見解である。すなわち、セラミックスは、その破壊形態が脆性破壊であるため、鉄鋼材料に完全に代替することは困難とされてきた。
【0004】
シリコン合金は固溶体であるから、燃焼合成後の共晶反応を利用することにより、二相組織で構成される可能性が高い。そして、二相で形成される組織構造を有するセラミックスは、二相ステンレス鋼のように、各相の長所を併せ持ち、延性を示す可能性が高いため、従来の単一相で形成されるセラミックスに比し、遥かに大きな強靭性が期待できる。
しかし、これまでのシリコン合金の燃焼合成方法においては、小型の燃焼合成装置を用い、且つ冷却能力が高い冷却装置を用いていたことから、冷却速度が速く、単相のシリコン合金しか得られなかったものと考えられる。これは、鉄鋼等の金属についても同じで、共晶を得るには徐冷する必要がある。従って、発明者らは、燃焼合成後の冷却速度を制御することにより、二相共晶組織を有するシリコン合金が得られる可能性が高いと考えた。そして、研究の結果、燃焼合成時の冷却速度を毎分50℃以下に制御して徐冷することにより、β’サイアロン相とο’サイアロン相からなる共晶組織である二相共晶シリコン合金を得ることに成功した。この発明については、既に特願2009−251847として出願している。
そして、このようにして得られた二相共晶シリコン合金に、既に出願済みで実用化もされているシリコン合金に関する製造プロセス(特願2009−158407、特願2009−202440)を応用すれば、製品化も容易に行うことができる。
このように、二相共晶シリコン合金の開発により、セラミックスが汎用工業材料である特殊鋼に代替可能な場面がさらに増し、シリコン合金(金属セラミックス)の活用分野の拡大が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−91272号公報
【特許文献2】特開2008−162851号公報
【特許文献3】特許第4339352号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS G4304−1999
【非特許文献2】渡邊敏幸他、FC Report 26、68頁(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、二相共晶シリコン合金は、各相の焼結温度が異なるため、特定温度による1回の通常の焼結では、いずれかの相の一部に分解又は未焼結領域が発生してしまう。そこで、各相の焼結に適した異なる温度において2段階で焼結することによって、高密度な焼結体を得られる可能性がある。
よって、本発明は、二相構造を有する共晶シリコン合金の高密度焼結体を得るための焼結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有するシリコン合金であって、面積率で少なくとも60%以上が、β’サイアロン相とο’サイアロン相からなる共晶組織を有する二相共晶シリコン合金の粉末からなる成形体を、
前記成形体の有する熱容量の10倍以上の熱量を投入できる焼結炉内に保持し、常圧又は常圧以上で、且つシリコン気体のモル分率が10%以上である窒素雰囲気において、1400℃以上1750℃以下の温度範囲内の異なる温度において2段階で焼結することを特徴とする二相共晶シリコン合金焼結体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、破壊形態が脆性破壊ではなく延性破壊である二相共晶シリコン合金の高密度焼結体が得られた。すなわち、発明者らは、塑性変形可能で、従来の単一相で形成されるセラミックスに比し、遥かに強靭なセラミックスの開発に成功した。これにより、セラミックスによる鉄鋼材料へのさらなる代替が可能となり、セラミックスが汎用工業材料として広く工業界に活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いる二相共晶シリコン合金の生成領域を示す、燃焼合成で構成した50Si−Al−N−Οの三元系状態図。
【図2】図1の(2)−(2)線(Si:50wt%、Al:10wt%)で切断した場合の想定状態図。
【図3】二相共晶シリコン合金の一例を示す組成図。
【図4】二相共晶シリコン合金の粉末のX線回折像。
【図5】二相共晶シリコン合金の粉末を焼結して得た焼結体の研磨面のSEM写真。
【図6】二相共晶シリコン合金からなる焼結体の破面観察の結果を示すSEM写真。
【図7】二相共晶シリコン合金の破面における延性破面率と二相共晶組織の面積率との関係、及びこれに対するホウ素の影響を示す図。
【図8】焼結温度1500℃で1段階焼結を実施した場合の二相共晶シリコン合金焼結体のSEM写真。
【図9】焼結温度1750℃で1段階焼結を実施した場合の二相共晶シリコン合金焼結体のSEM写真。
【図10】1段階焼結と2段階焼結における、理論密度に対する相対密度の1段目焼結温度依存性を示すグラフ。
【図11】焼結温度1600℃及び1750℃で2段階焼結を実施した場合の二相共晶シリコン合金焼結体のSEM写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、二相共晶シリコン合金及び本発明の2段階焼結方法について詳述する。
図1は、シリコンを50wt%の一定量に固定し、窒素+アルミニウム+酸素=50wt%の範囲内で、これら3要素の含有率を変化させて燃焼合成することによって得た、種々の組成を有するシリコン合金の三元系状態図である。β´はβ´サイアロン単相、ο´はο´サイアロン単相の生成領域を示す。
そして、この2領域の両端部a、b、c、d点を結ぶ線によって囲まれ、β´、ο´サイアロン単相の生成領域を除いたほぼ台形状の領域(図1の灰色部分)が、二相構造を有する共晶シリコン合金の生成領域となる。この領域においては、高温では気相の均一相であるが、室温での安定相は、β´サイアロン相とο´サイアロン相の固相となる。そのため、急冷すると均一な単相となるが、徐冷すると二相組織が現れる。
【0012】
なお、燃焼合成時の冷却は、その速度を毎分50℃以下に制御して行う。このような徐冷を行うことにより、β’サイアロン相とο’サイアロン相からなる二相共晶シリコン合金を得ることができる。
このような徐冷は、具体的には、燃焼合成装置に用いる冷却水の温度を比較的高く設定したり、燃焼部の断熱性を高めるため、投入原料の体積を大きくしたり、或いは、原料周辺に充填する断熱材の量を増加させること等によって実施することができる。
【0013】
図2は、図1において、(2)−(2)線で切断した場合に想定される状態図である。Aは燃焼合成の際に生成するシリコン合金組成を有する気体相、Eは共晶(Eutectic)点である。
この図から、シリコン合金組成を有する気体相は、E点に相当する酸素濃度においては、徐冷により共晶温度に到達すると、β´サイアロン相とο´サイアロン相とからなる二相共晶組織を構成することが想定される。また、E点よりも酸素濃度が低い領域では、徐冷によりまずβ´サイアロン相が初晶として析出し、その後共晶温度に到達すると、β´、ο´サイアロン相からなる二相共晶が析出することが想定される。逆に、E点よりも酸素濃度が高い領域では、徐冷によりまずο´サイアロン相が初晶として析出し、その後共晶温度に到達すると、β´、ο´サイアロン相からなる二相共晶が析出することが想定される。
【0014】
図3のE点は、この様な想定に基づき試作に成功した、二相構造を有する共晶シリコン合金の組成の1例を示している。シリコン50wt%、アルミニウム10wt%、窒素27wt%、及び酸素13wt%で構成されている。
【0015】
燃焼合成によって得た二相共晶シリコン合金の粉末体のX線回折像を、図4に示した。二相共晶シリコン合金は、β´サイアロン相とο´サイアロン相からなる二相構造を有していることが分かる。
【0016】
図5は、この粉末を焼結して得た焼結体の研磨面のSEM写真である。島状の部位が初晶のο’サイアロン相で、その他は二相構造を有する共晶シリコン合金となっている。また、図6は、焼結体の破面観察の結果を示すSEM写真である。従来のセラミックスに見られる脆性破面ではなく、明らかな延性破面を呈していることが分かる。
このような二相共晶シリコン合金が、その機能的特徴を発揮する種々の条件について、詳細な検討を行った。
【0017】
1.化学成分値と共晶組織率との関係
図1の三元系状態図の破線上、すなわち、シリコンを50wt%、アルミニウムを10wt%に固定し、酸素量及び窒素量の比率を変化させて、二相共晶組織生成面積率(%)の変化との関係を調査するため、表1に示すような、種々の目標配合値からなる供試材を作製した。
なお、燃焼合成法において、配合値は、合成後の分析値とほぼ同一となる。
【表1】

【0018】
供試材1は、β’サイアロン単一相で構成される(図1参照)。
供試材2においては、燃焼合成後の冷却により、シリコン合金気相から初晶のβ’サイアロン相が晶出し、共晶組成となった合金気相から、β’サイアロン相とο’サイアロン相の共晶反応により、β’サイアロン相とο’サイアロン相の二相共晶組織が形成される。
供試材の組成が共晶組成(図3のE点:シリコン50wt%、アルミニウム10wt%、窒素27wt%、及び酸素13wt%)に近付くにつれて(供試材1〜6)、初晶のβ’サイアロン相の量比は低下し、二相構造組織の量比が大きくなる。そして、酸素の数値が共晶組成のそれを超えると(供試材7〜10)、ο’サイアロン相が初晶相として晶出する。
上述のとおり、二相共晶シリコン合金の粉末を焼結して得た焼結体の研磨面のSEM写真である図5においては、島状の部位が初晶のο’サイアロン相で、その他は二相構造を有する共晶シリコン合金となっている。
【0019】
2.二相共晶組織率と延性破面率との関係
図6のSEM写真に見られる延性破面の占める面積率と二相共晶組織の占める面積率との関係を、図7に示した。二相共晶組織の構成率の上昇と共に、延性破面の面積率が向上することが分かる。これは、共晶反応により生成した二相の境界に、整合性の高い粒界が形成されるためと考えられる。
また、同図から明らかなように、100%の延性破面率を確保するには、二相共晶組織の構成面積率が60%以上であることが必要である。
【0020】
3.延性破面率に対するホウ素の効果
図7のH点は、表1の供試材2と同一の組成を有する供試材に、合金添加剤として用いられるホウ素を0.1wt%添加した際の延性破面率の測定結果を示す。二相共晶組織の構成面積率が40%であるにも拘らず、延性破面率が100%に向上していることが認められた。
従って、ホウ素を添加することによってより強靭な二相共晶シリコン合金が得られるが、1wt%を超えると、逆に延性破面率を低下させてしまうため、1wt%以下の添加が好ましい。
【0021】
このような二相共晶シリコン合金を粉末化して、成形体を作製し、これを焼結することにより、鉄鋼部材に代替する種々の工業製品を得ることができる。そこで、次に焼結体を得る工程について説明する。
【0022】
まず、粉砕装置により、本発明の二相共晶シリコン合金を粒径1ミクロン以下に粉砕する。平均粒径が小さくなる程、焼結助剤の必要添加量は少量となり、平均粒径500nm以下では、焼結助剤の添加なしで、高密度の焼結体が確保できる。従って、焼結後の相対密度を向上させるためには、平均粒径で500nm以下に粉砕するのが好ましい。
【0023】
次に、この粉末を原料として、成形体を形成しこれを焼結するまでの工程においては、既に出願済みの脱水方法を用いることが好ましい。
すなわち、重量%で水10〜40を添加して混練し、これにより得られたシリコン合金製坏土を、三次元形状に成形する工程を経て成形体を形成し、同成形体を、成形後5分以内に冷却媒体に投入し、少なくとも5分以上冷却媒体中に保持して、成形体内の水分を微細分散状態で急速凍結させ、水の三重点未満の圧力とした容器内に保持した後に焼結する。
この方法を用いることにより、成形体内の水分を、凝集前の微細分散の状態で除去することができ、焼結後の割れを防ぐことができる。また、有害な有機溶剤を一切使用せず、水を主たるバインダとして、本発明の二相共晶シリコン合金を成形加工し、高品質なセラミックス製品を安定的に得ることが可能となる。
なお、水とともに、二酸化シリコン、アルミナを主成分とする1種又は2種以上の無機バインダ0.5〜10、及び/又は5以下の焼結助剤を添加してもよい。また、上記のとおり、1wt%以下のホウ素を添加すれば、より強靭な二相共晶シリコン合金が得られる。
【0024】
また、上記成形体を、成形後5分以内に1気圧未満の減圧環境とした容器に投入し、同成形体に2.450GHzマイクロ波を少なくとも5分以上継続照射した後に焼結する方法、又はこれらの2つの方法を組合せ、上記成形体を、成形後5分以内に冷却媒体に投入し、少なくとも5分以上冷却媒体中に保持して、成形体内の水分を微細分散状態で急速凍結させた後、1気圧未満の減圧環境とした容器に投入し、2.450GHzマイクロ波を少なくとも5分以上継続照射した後に焼結する方法を用いてもよい。
これらの方法によっても、成形体内の水分を、凝集前の微細分散の状態で除去することができ、焼結後の割れを防ぐことができるから、高品質なセラミックス製品を安定的に得ることが可能となる。
なお、無機バインダ及び/又は焼結助剤、ホウ素の添加の点は、上記と同様である。
【0025】
さらに、他のセラミックス同様、スプレードライヤーで製造した流動性の高い顆粒を、プレス又はゴム型CIPで成型した後に焼結してもよい。この方法は、風力発電用大型ベアリングボール等、比較的脱水させ難い大型製品に適している。
なお、無機バインダ及び/又は焼結助剤、ホウ素の添加の点は、上記の方法と同様である。
【0026】
そして、焼結は、成形体(被焼結体)の有する熱容量の10倍以上の熱量を投入できる焼結炉内に保持し、常圧又は常圧以上で、且つシリコン気体のモル分率が10%以上である窒素雰囲気において、1400℃以上1750℃以下の温度範囲内の異なる温度において2段階で行う。
焼結炉の熱量が小さいと、温度測定箇所では所定の温度になっていても、被焼結体の中心部まで十分な熱が届かず、焼結が不十分になることがある。これは、特に、大きな成形体、例えば風車用大口径ベアリングボール等を製造する際には大きな問題となる。また、シリコン気体分圧が低いと、被焼結体の表面からシリコンが蒸発してしまい、内部欠陥発生の原因となってしまう。
よって、上記のような熱量とシリコン気体分圧の条件による焼結方法を用いることによって、大きな成形体を、内部欠陥を生じさせることなく、焼結することができる。
【0027】
さらに、二相共晶シリコン合金の場合、各相に適した焼結温度が異なるため、通常の1段階焼結では、その一部に分解(温度が低過ぎる場合)又は未焼結領域(温度が高すぎる場合)が発生してしまう可能性がある。
図8、図9は、二相共晶シリコン合金を通常の1段焼結で焼結した際のSEM写真である。焼結温度は、それぞれ1500℃と1750℃である。各写真の濃い灰色部分がο’サイアロン相で、薄い灰色部分がβ’サイアロン相である。焼結温度を1500℃とした場合(図8)には、2つの相ともにほぼ同じサイズであるのに対し、1750℃とした場合(図9)は、ο’サイアロン相のみが粒成長している。このことから、焼結温度は相によって異なり、ο’サイアロン相の方が低いことが分かる。よって、或る特定の温度による1回の焼結では、一方の相が不完全な焼結になってしまう可能性がある。
そこで、各相に応じた温度において2段階で焼結することによって、高密度な焼結体が得られると推測された。
【0028】
図10のグラフは、二相共晶シリコン合金を2段階で焼結した際の相対密度の1段階目焼結温度依存性を示している。なお、2段階目の焼結温度は1750℃であり、同図には1段階焼結のデータもともに示している。
1段階焼結では、焼結温度に拘らず、相対密度は98〜98.5%である。これは、焼結温度が低い場合にはβ’サイアロン相が完全には焼結されず、逆に高い焼結温度ではο’サイアロン相が分解し空孔が発生するため、焼結温度によらずほぼ一定の相対密度となるからである。
これに対し、2段階焼結の場合、1500℃を超えた辺りから、1段階焼結の場合に比し相対密度が急激に高まり、特に1600〜1650℃の温度領域において、相対密度99.5%の高密度焼結が実現している。これは、この温度領域における1段階目焼結では、主にο’サイアロン相が緻密に焼結され安定化された後、2段階目の1750℃焼結で、残りのβ’サイアロン相が緻密に焼結されたためである。
このように、ο’サイアロン相の最適焼結温度は1600〜1650℃であり、他方、β’サイアロン相の最適焼結温度は1700〜1750℃である。
【0029】
図11は、このような2段階焼結(1段階目:1600℃、2段階目:1750℃)を行った二相共晶シリコン合金のSEM写真である。1750℃焼結の図9と比較すると、ο’サイアロン相のみが粒成長することなく、二相が均一に焼結された焼結体となっていることが分かる。また、1500℃焼結の図8と比較すると、ο’サイアロン相、β’サイアロン相ともに充分な焼結が行われ、全体として緻密化・安定化が達成されていることが分かる。
【0030】
このように、1400℃以上1750℃以下の温度領域における2段階焼結を行うに当たっては、1段階目にο’サイアロン相の焼結に適した比較的低温で、2段階目にβ’サイアロン相の焼結に適した比較的高温で、焼結を行うとよい。これを逆に行うと、ο’サイアロン相に空孔が生じ、緻密化が阻害される。
そして、各相の最適焼結温度は上記のとおりであるから、1400℃以上1750℃以下の温度領域のうち、1段階目焼結は1600〜1650℃で、2段階目焼結は1700〜1750℃で行うことが好ましい。1400℃を下回ると、ο’サイアロン相が充分に焼結されず、また1750℃を超えると、β’サイアロン相も分解し空孔が発生してしまう。
このように、二相共晶シリコン合金を、各相に適した異なる温度で2段階で焼結することにより、非常に緻密な焼結体を得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の二相共晶シリコン合金は、従来の単一相で形成されるセラミックスに比し、遥かに強靭であり、これを用いたセラミックス製品は、軽量、高強度、高疲労強度特性、非磁性特性、耐熱性、耐薬品性等の優れた特性を有するため、様々な用途に適用することが出来る。以下はその例示である。
すなわち、代表的な例としては、CTスキャナ、フィルム延伸機等各種の機器、モータ、タービン等の原動機、発電機、工作機械、各種の直線運動装置、ポンプ、車輪、駆動力伝達機構、ステアリングシャフト、スタータ、プーリ、フライホイールダンパ、ターボチャージャ、オルタネータ、ファンクラッチ、電磁クラッチ、クラッチレリーズ等各種の用途に使用される、転がり軸受、旋回軸受、ガイドローラ軸受等各種の軸受の構成部品(ベアリングボール、ベアリング用レース)、及びボールねじ、免震装置、オートテンショナ、工作機械用ボールブッシュ、自在継手用トルク伝達部材等に用いられるボールである。
さらに、自動車のパワートレイン部品・動力伝達用軸部品・ターボチャージャー部品・排気用マニホールド部品・コモンレール等燃料噴射系部品、航空機用のタービン部品・ランディングギアー部品、人工骨格の構成部品、半導体製造装置部品、各種の摺動部材、摺動型等速自在継手やトリポード型等速自在継手等各種の継手の部品等として、また、その部材同士の接触面に層(コーティング膜)として設ける形で用いることもできる。
【0032】
また、シリコン合金は、完全非磁性のため、インバータタイプの発電装置、電動モータの軸受け部材として用いた場合に有利な効果を奏する。交流磁場による電蝕や鉄損防止の目的で鉄系軸受部材に用いられている非磁性材料の皮膜処理が省略できるためである。
具体的には、交流磁場環境で使用する、風力発電装置用ベアリングボール、ロール軸、テーパーロール軸、これらを保持する各種の内外輪、及び交流磁場環境で使用するハイブリット車・電気自動車用電動モータに使用されるベアリングボール、ロール軸、テーパーロール軸、これらを保持する各種の内外輪に用いることができる。
【0033】
さらに、20GHzまでの電磁波を反射することができるため、この特性を活用して、ハイブリットカーや電気自動車の電動モータからの電磁波を防御する各種の部品として、優れた機能を発揮することができる。
【0034】
以上のように、二相共晶シリコン合金は、その破壊形態が脆性破壊ではなく延性破壊である。よって、塑性変形可能で、従来の単一相で形成されるセラミックスに比し、遥かに強靭なセラミックスを提供することができる。これは、「セラミックスは脆く、鉄鋼材料は粘い」、「セラミックスは、その破壊形態が脆性破壊であるため、鉄鋼材料に完全に代替することはできない」という、従来の見解を覆すものである。
そして、本発明の2段階焼結方法を用いることにより、さらに高品質なセラミックス製品を提供することができるから、セラミックスによる鉄鋼材料へのさらなる代替が可能となり、セラミックスが汎用工業材料として広く工業界に活用され得る。
また、発明者らが先に開発した、シリコン合金焼結体の製造工程における脱水方法を用いることにより、有害な有機溶剤を一切使用せず、水を主たるバインダとして、本発明の二相共晶シリコン合金を成形加工し、高品質なセラミックス製品を安定的に得ることが可能となるから、環境問題の観点からも、極めて有利な効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有するシリコン合金であって、面積率で少なくとも60%以上が、β’サイアロン相とο’サイアロン相からなる共晶組織を有する二相共晶シリコン合金の粉末からなる成形体を、
前記成形体の有する熱容量の10倍以上の熱量を投入できる焼結炉内に保持し、常圧又は常圧以上で、且つシリコン気体のモル分率が10%以上である窒素雰囲気において、1400℃以上1750℃以下の温度範囲内の異なる温度において2段階で焼結することを特徴とする、
二相共晶シリコン合金焼結体の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−72030(P2012−72030A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219116(P2010−219116)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(303066208)株式会社イスマンジェイ (15)
【Fターム(参考)】