説明

二硼化チタン系焼結体及びその製造方法

【課題】構造部材等の用途において必要な高密度、高硬度の二硼化チタン焼結体を製造するに際し、焼結温度をより低くして製造コストをより低くする。
【解決手段】Al3Tiまたは、MをNi,Cr,Fe,Mo,Cuの1種類または2種類以上の組み合わせとして、(Al,M)3Tiを主成分とした焼結助剤を用い、焼結助剤の重量割合を10%以上50%以下とし、TiB2を主成分とした金属硼化物基本成分との混合粉末とした焼結材料を1000℃で焼結しビッカース硬度500以上、曲げ強度200MPa以上の高緻密性、高硬度の二硼化チタン系焼結体を製造することができる。(Al,M)3Tiを主成分とした焼結助剤の重量割合を20%以上40%以下とすることにより、1000℃の温度の焼結温度でビッカース硬度800以上、曲げ強度300MPa以上の高緻密性、高硬度、高強度の二硼化チタン系焼結体とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二硼化チタン系焼結体及びその製造方法に関し、特に高温耐熱部材、耐摩耗性部材、あるいはそれらの物性とともに導電性を要求される部材等の各種材料、構造部材として有用な二硼化チタン系焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二硼化チタン(TiB2)は耐熱性、耐酸化性、高温強度にすぐれ、また導電性を有するセラミックスであり、資源的にも豊富な材料であることから、高温耐熱性部材、耐摩耗性部材、導電性を必要とする金型材料等多方面にわたる製造技術分野においての利用が期待されている。
【0003】
ただし、二硼化チタンは難焼結材料であり、緻密な焼結体を比較的低温で焼結することが困難である。そのため、高密度、高硬度、高耐摩耗性を備えた焼結体を得る方法として、現状では1500℃以上の高温下でのホットプレス、熱間静水圧加圧焼結法等の加圧焼結法が用いられている。このように、1500℃以上の高温下で二硼化チタンの焼結を行う場合、焼結体の製造コストが高くなる。このコスト高を抑え、製造を容易にするために、低温で焼結する方法を用い、そのための焼結助剤の探索がなされている。
【0004】
二硼化チタンの焼結助剤としては、例えばCo, Ni, Fe等の鉄族金属の硼化物(特許文献1)、Ni, Fe等の鉄族金属とTi, Hf, W, Zr等の炭化物からなる混合物(特許文献2)あるいはNi-Zr合金粉末とWC粉末との混合物(特許文献3)や、NiO, MnO及びWCの混合物(特許文献4)、Ni, WC及びCr3C2の混合物(特許文献5)等の各種成分組成を有するものが用いられている。しかしながら、これらの焼結助剤を用いても、高硬度、高緻密性の焼結体を得るためには1500℃以上の高温下で焼結を行うことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭56−41690号公報
【特許文献2】特公平7−822号公報
【特許文献3】特開平9−3586号公報
【特許文献4】特開2000−290744号公報
【特許文献5】特開2001−146474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
難焼結材料である二硼化チタンを焼結して高密度、高硬度、高耐摩耗性を備えた焼結体とするために従来焼結助剤を添加し焼結することが行われている。この焼結助剤としては、鉄族金属の硼化物、鉄族金属の炭化物を含む混合物、種々の合金粉末等が用いられているが、いずれの場合にも焼結温度は1500℃以上とならざるを得ず、焼結温度が高温となるために、製造コストが高くなるものであった。
【0007】
このことから、二硼化チタン系焼結体を製造する上で、二硼化チタンの焼結反応性を高め、構造部材等の用途において必要な高密度、高硬度に加えて、高強度の二硼化チタン焼結体を、なるべく低い焼結温度で合成することによって、製造コストをより低くすることが求められていた。また、このように比較的低い焼結温度で作製された二硼化チタン焼結体が高硬度であるとともに曲げ強度においても高くなるようにすることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述した課題を解決すべくなしたものであり、本発明による二硼化チタン系焼結体は、TiB2を主成分とした金属硼化物基本成分と焼結助剤としての焼結助剤とからなる二硼化チタン系焼結体であって、Al3Ti または(Al,M)3Ti(MはNi,Cr,Fe,Mo,Cuの群から1種類ないし2種類以上選択された元素を示す)を主成分とする焼結助剤が全重量の10%以上50%以下の含量であり、他の部分がTiB2を主成分とする六方晶系金属硼化物からなるものである。また、(Al,M)3Ti を主成分とする焼結助剤が全重量の20%以上40%以下の含量であるようにするのがより望ましい。
【0009】
また、本発明による二硼化チタン系焼結体を製造する方法は、TiB2を主成分とした金属硼化物基本成分と焼結助剤としての焼結助剤との混合物の焼結により二硼化チタン系焼結体を製造する方法であって、Al3Ti または、MをNi,Cr,Fe,Mo,Cuの1種類ないし2種類以上の組み合わせとして、(Al,M)3Ti を主成分とし全重量の10%以上50%以下の含量となる焼結助剤粉末体と、他の部分となるTiB2を主成分とする六方晶系金属硼化物粉末体とをそれぞれ作製することと、それぞれ作製された六方晶系金属硼化物粉末体と焼結助剤粉末とを混合した混合物を得ることと、六方晶系金属硼化物粉末体と焼結助剤粉末との混合物を焼結体作製装置中で800℃以上1300℃以下の温度に加熱し焼結体を作製することとからなるものである。また、前記焼結助剤が(Al,M)3Tiを主成分とし全重量の20%以上40%以下の含量となる焼結助剤粉末体であって、六方晶系金属硼化物粉末体と焼結助剤粉末との混合物を焼結体作製装置中で900℃以上1100℃以下の温度に加熱し焼結体を作製するのがより望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、Al3Tiまたは(Al、M)3Tiを主成分とする焼結助剤を用い、その重量割合を10%以上50%以下とすることにより、従来よりも格段に低い焼結温度で焼結体を製造することができる。ただしMはNi,Cr,Fe,Mo,Cuの群から1種類ないし2種類以上を選択される元素を示し、MとAlのモル比は5/70から20/55の間であり、より望ましくは、5/70から15/60の間である。また、(Al,M)3Tiを主成分とした焼結助剤の重合割合を10%以上50%以下とすることにより、800℃以上1300℃以下の焼結温度で焼結体を製造することができる。このように従来の焼結体の製造に比し、格段に焼結温度を低くすることができるとともに、得られた焼結体は(Al、M)3Ti を主成分とした焼結助剤の重量割合が10%以上50%以下の場合に曲げ強度が300MPa以上、(Al、M)3Ti を主成分とした焼結助剤の重量割合が20%以上40%以下の場合に曲げ強度が500MPa以上であり、高緻密性、高強度の焼結体となる。それにより、大幅な製造コストの削減が可能であり、用途を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、焼結材料の混合粉体を焼結するための放電プラズマ焼結体作製装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は、Al3Tiの重量割合を変えたTiB2−Al3Ti混合粉体の焼結材料を放電プラズマ焼結法により温度1000℃で焼結し得られた試料についてのビッカース硬度を示すグラフである。
【図3】図3は、(Al,M)3Ti の重量割合を変えたTiB2−(Al,M)3Ti 混合粉体の焼結材料を放電プラズマ焼結法により温度1000℃で焼結して得られた試料についてのビッカース硬度を示すグラフであり、図3(a)はMがNi、図3(b)はMがCrの場合であり、(Al+M)のモル数を75モルにしたときのMのモル数が0,5,10,15,20の5種類の試料について測定したものである。
【図4】図4は、TiB2−Al3Ti混合粉体の焼結材においてAl3Tiの重量割合を30%とし放電プラズマ焼結法により焼結した時の焼結温度と得られた試料のビッカース温度との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、(Al,M)3Ti の重量割合を変えたTiB2−(Al,M)3Ti 混合粉体の焼結材料を放電プラズマ焼結法により温度1000℃で焼結し得られた試料についての曲げ強度を示すグラフであり、図5(a)はMがNi、図5(b)はMがCrの場合であり、(Al+M)のモル数を75モルにしたときのMのモル数が0,5,10,15,20の5種類の試料について測定したものである。
【図6(a)】図6(a)は、焼結材料の混合粉体を放電プラズマ焼結法により1000℃で焼結して作製した試料の表面のSEM像であり、焼結材料が、Al3Tiを加えずにTiB2のみの場合である。
【図6(b)】図6(b)は、焼結材料の混合粉体を放電プラズマ焼結法により1000℃で焼結して作製した試料の表面のSEM像であり、焼結材料が、TiB2にAl3Tiを重量割合で5%加えた場合である。
【図6(c)】図6(c)は、焼結材料の混合粉体を放電プラズマ焼結法により1000℃で焼結して作製した試料の表面のSEM像であり、焼結材料が、TiB2にAl3Tiを重量割合で20%加えた場合である。
【図6(d)】図6(d)は、焼結材料の混合粉体を放電プラズマ焼結法により1000℃で焼結して作製した試料の表面のSEM像であり、焼結材料が、TiB2にAl3Tiを重量割合で30%加えた場合である。
【図6(e)】図6(e)は、焼結材料の混合粉体を放電プラズマ焼結法により1000℃で焼結して作製した試料の表面のSEM像であり、焼結材料が、TiB2に(Al,Ni)3Tiを30%加えた場合(AlとNiのモル比は65:10)である。
【図6(f)】図6(f)は、焼結材料の混合粉体を放電プラズマ焼結法により1000℃で焼結して作製した試料の表面のSEM像であり、焼結材料が、TiB2に(Al,Cr)3Tiを30%加えた場合(AlとCrのモル比は65:10)である。
【図7】図7は、TiB2−Al3Ti混合粉体の焼結材においてAl3Tiの重量割合を5%から60%の範囲で変え、放電プラズマ焼結法により焼結温度1000℃で焼結して得られた試料の表面のX線回折スペクトルである。
【図8】図8は、TiB2−Al3Ti混合粉体の焼結材においてAl3Tiの重量割合を5%から60%の範囲で変え、放電プラズマ焼結法により焼結温度1000℃で焼結して得られた試料の断面のX線回折スペクトルである。
【図9】図9は、70%TiB2−30%(Al,M)3Ti混合粉体を放電プラズマ焼結法により焼結温度1000℃で焼結して得られた試料のX線回折スペクトルであり、(a)はMがNi,(b)はMがCrの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による二硼化チタン系焼結体は、TiB2粉末に焼結助剤としてのAl3Ti粉末または(Al,M)3Tiを混合して焼結材料を調製し、調製された混合粉末を焼結材料焼結体作製装置内で焼結することにより作製される。MはNi,Cr,Fe,MoまたはCuの群から1種類ないし2種類以上を選択される元素であり、より望ましくはNiまたはCr元素である。TiB2粉末は市販品として入手される粉末(平均粒径4〜12μm)を用い、Al3Ti粉末はAl粉末とTi粉末を混合し電気炉で加熱反応させて作製し、また、(Al,M)3Ti粉末はAl粉末とTi粉末とM粉末を混合し電気炉で加熱反応させて作製する。Ti粉末は粒径が10μm以下の粉末が入手困難であるため、粒径が100μm程度のTi粉末をいったん水素化し、その後にボールミル等で粉砕することによって10μm以下の粒径の水素化チタン粉末とし、これと市販の粒径10μm前後のAl粉末またはAl粉末及びM粉末とを混合し、加熱反応させてAl3Ti粉末または(Al,M)3Tiを得ることができる。
【0013】
TiB2とAl3Tiまたは(Al,M)3Tiの混合粉末の焼結には、短時間で容易に焼結材料を1000℃程度まで加熱できる放電プラズマ焼結法あるいは室温で加圧成形し電気炉で加熱し焼結する方法を用いるのがよいが、他の焼結法を用いてもよい。
【0014】
焼結助剤Al3Tiまたは(Al,M)3Tiの含量は10〜50%の範囲とすべきであり、Al3Tiまたは(Al,M)3Tiの含量が10%未満ではTiB2の焼結が十分に進まず、硬度の低い焼結体となるためである。また、Al3Ti、(Al,M)3Tiはもともとビッカース硬度が300〜600程度であってTiB2より硬度が低く、Al3Tiまたは(Al,M)3Tiの含量が多くなりすぎると焼結体の硬度が低下することから、Al3Tiまたは(Al,M)3Tiの含量は50%以下とすべきである。
【0015】
本発明による二硼化チタン系焼結体の作製において、主成分としてはTiB2が典型的なものであるが、TiB2を主としつつ他の六方晶系金属硼化物を含むものとしてもよい。また、焼結助剤としてはAl3Tiまたは(Al,M)3Tiが典型的なものであるが、Al3Tiまたは(Al,M)3Tiを主としつつ他の合金成分を含むものとしてもよい。それらを含む焼結助剤の含量は10〜50%になるようにする。さらに、 焼結法としては放電プラズマ焼結法、室温で加圧成形し電気炉で加熱し焼結する方法が典型的なものであるが、本発明においては、ホットプレス焼結法、反応焼結法等他の焼結法を用いても、焼結温度を低くすることができるものである。
【実施例】
【0016】
実施例について説明する。(Al,M)3Ti を用いた場合について説明するが、Al3Tiを用いた場合はMを含まないこと以外は同様になる。(Al,M)3Tiを合成するために、まず粒径100μm、純度99.9%のチタン粉末を水素化し、水素化後にボールミリングにより粉砕した。水素化はTi粉末をAr:20%水素混合ガス中で600℃に加熱して行った。水素化後に粉末10gを容量1リットルのアルミナ製容器に入れ、直径5mmのアルミナ製のボール500gを加えて、毎分20回転の回転速度で30時間ミリングを行って粉砕した。このプロセスによって、粒径が数μmの水素化チタン粉末が得られた。
【0017】
次に、水素化チタン粉末を純度99.9%、粒径5μmのAl粉末と、純度99.9%、粒径10μmのM金属(MはNiまたはCr)と混合し、Arガス中において600℃で1時間反応させることにより(Al,M)3Ti粉末を合成した。さらに、(Al,M)3Tiと粒径5μm、純度99.9%のTiB2粉末を所定の割合に混合し、ボールミリングを行った。このようにして作製した(Al,M)3Ti:TiB2混合粉末を放電プラズマ焼結法により焼結した。
【0018】
図1はAl3Ti:TiB2混合粉末、または、(Al,M)3Ti:TiB2混合粉末の焼結を行うための放電プラズマ式焼結体作製装置(SPS1050:住友石炭鉱業株式会社製)の構成を示す図であり、断面で示している。1は水冷真空チャンバ、2は水冷真空チャンバ1に連結され内部の真空度を与えるためのロータリーポンプ及びメカニカルブースターポンプによるポンプ装置である。3は上部パンチ電極であり先端側(チャンバ内)に上部パンチ4を備えている。5は下部電極パンチであり先端側(チャンバ内)に下部パンチ6を備えている。
【0019】
上部パンチ4と下部パンチ6とは間隔をおいて対向する位置関係にあり、このパンチ間の空間を包囲して覆う形で筒状の焼結ダイ7が配設され、上部パンチ4、下部パンチ6、焼結ダイ7で囲まれた空間は焼結材料の混合粉末10が充填されることになる。用いた装置の焼結ダイ7の内径は20mm、高さ40mmである。焼結ダイ7に焼結材料の混合粉末を充填し、上部パンチ4と下部パンチ6とで焼結材料を挟んでチャンバ内に設置した後にチャンバが閉鎖され、ポンプ2によりチャンバ内の排気を行い、上部パンチ電極3下部とパンチ電極5により応力負荷を与えるとともに上部パンチ4、下部パンチ6を通じて焼結材料の混合粉末10にパルス電圧・電流を印加する。
【0020】
放電プラズマ式の焼結体作製装置では、応力負荷状態で大電流の印加により焼結温度まで急速に昇温がなされ、混合粉末の焼結を行うことができる。昇温速度は100℃/分であり、10分間所定の焼結温度に保持し焼結を行った後、炉冷により冷却する。焼結時の真空度はロータリーポンプとメカニカルブースターポンプにより50Paまで排気し、焼結時の負荷応力は20Paである。実施した例では、焼結ダイ7に5gの焼結材料の混合粉末を充填している。
【0021】
図2に、Al3Tiの割合(重量比)を0%から70%まで変化させて、放電プラズマ焼結法により、1000℃の焼結温度に10分間保持し焼結して得られた試料について室温でビッカース硬度を測定した結果を示す。Al3Tiを全く加えない時の試料のビッカース硬度は100であり、非常に低い。これは、TiB2が難焼結性材料であり、1000℃ではほとんど焼結しないことを示している。Al3Tiを5%加えると、ビッカース硬度は1000以上の高い値を示し、飛躍的に硬度が改善することがわかる。
【0022】
さらに、Al3Tiの割合が20%と40%の間ではビッカース硬度2000以上の高い値が得られ、Al3Tiが50%以上になるとビッカース硬度は減少し、Al3Tiの割合がさらに増加するとビッカース硬度は漸減する。これはビッカース硬度が600であるAl3Tiの割合が増大することによって硬度が下がるためである。そこで、図2に示すビッカース硬度についての結果から、本発明としては、1000以上のビッカース硬度が得られるAl3Tiの重量割合として5%以上50以下が実際上適切な範囲であり、さらに、ビッカース硬度が2000程度になる20%以上40%以下の範囲がより望ましい範囲と言える。
【0023】
図3に、(Al,M)3Tiの割合(重量比)を0%から50%まで変化させて、放電プラズマ焼結法により、1000℃の焼結温度に10分間保持し焼結して得られた試料について室温でビッカース硬度を測定した結果を示す。(a)はMがNi、(b)はMがCrの場合である。(Al,M)3Tiを全く加えない時の試料のビッカース硬度は100であり、非常に低い。これは、TiB2が難焼結性材料であり、1000℃ではほとんど焼結しないことを示している。(Al,M)3Tiを10%以上加えると、ビッカース硬度は500以上の高い値を示し、飛躍的に硬度が改善することがわかる。
【0024】
さらに、(Al,M)3Tiの割合が20%と40%の間ではビッカース硬度800以上の高い値が得られ、(Al,M)3Tiが40%以上になるとビッカース硬度は減少し、(Al,M)3Tiの割合がさらに増加するとビッカース硬度は漸減する。これはビッカース硬度が200〜300である(Al,M)3Tiの割合が増大することによって硬度が下がるためである。そこで、図2に示すビッカース硬度についての結果から、本発明としては、500以上のビッカース硬度が得られる(Al,M)3Tiの重量割合として10%以上50%以下が実際上適切な範囲であり、さらに、ビッカース硬度が800程度になる20%以上40%以下の範囲がより望ましい範囲と言える。
【0025】
図4に、TiB2に重量割合で30%となるようにAl3Tiを添加した混合粉体を放電プラズマ焼結法により焼結した時の焼結温度と得られた焼結体のビッカース硬度との関係を示す。焼結温度が800℃でビッカース硬度が1000であり、焼結温度が900℃ではビッカース硬度が2000となる高硬度材料が得られている。焼結温度を1000℃より高くしてもビッカース硬度の点からは改善が見られない。このことから、本発明としては、実際上の焼結温度としてはビッカース硬度1000の焼結体が得られかつ従来の焼結温度より低い800℃以上1300℃以下が適切な範囲であり、さらに2000程度のビッカース硬度のものが得られる900℃以上1100℃以下の範囲がより望ましい範囲と言える。
【0026】
図5に、(Al,M)3Ti の割合(重量比)を0%から50%まで変化させて、放電プラズマ焼結法により、1000℃の焼結温度に10分間保持し焼結して得られた試料について室温で曲げ強度を測定した結果を示す。(a)はMがNi、(b)はMがCrの場合である。Mを含まないAl3Tiを添加した試料の曲げ強度が200MPaであるのに対し、Alの一部をMで置換した試料では曲げ強度は改善していることが分かる。
【0027】
そこで、図5に示す曲げ強度についての結果から、Mの添加割合として、MとAlのモル比が5/70から20/55となるように加えることで加えることで、曲げ強度の改善が見られ、特にMとAlのモル比が10/65以上15/60以下の範囲がより望ましい範囲と言える。
【0028】
図6に、焼結材料の混合粉体を放電プラズマ焼結法により1000℃で焼結して作製した試料の表面のSEM像を示す。(a)はAl3Tiを加えずにTiB2のみを焼結した試料材料の場合であり、(b)はTiB2にAl3Tiを重量割合で5%加えた焼結材料の場合、(c)はTiB2にAl3Tiを重量割合で20%加えた焼結材料の場合、(d)TiB2にAl3Tiを重量割合で30%加えた焼結材料の場合に作製された試料のSEM像であり、(e)はTiB2に(Al,Ni)3Tiを30%加えて1000℃で放電プラズマ焼結法によって焼結した試料のSEM像で、AlとNiのモル比は65:10であり、(f)はTiB2に(Al,Cr)3Tiを30%加えて1000℃で放電プラズマ焼結法によって焼結した試料のSEM像で、AlとCrのモル比は65:10である。
【0029】
(a)のAl3Tiを加えずにTiB2のみを焼結した試料では、焼結前の粒径5μmのTiB2の粒子がそのままの形状で観測される。これに対して、(b)5%、(c)20%、(d)30%のようにAl3Tiを加えた試料では、TiB2の粒子の周りにTiB2が融合した領域が見られ、焼結が進んでいることがわかる。また、(e)、(f)の(Al,M)3Ti を加えた試料でも、TiB2の粒子の周りにTiB2が融合した領域が見られ、焼結が進んでいることがわかる。
【0030】
図7に、Al3Tiの割合(重量比)を5%から60%まで変化させ放電プラズマ焼結法により1000℃で10分間保持し焼結して得られた試料について測定した表面のX線回折スペクトルを示す。図で上側に下向きの矢印(↓)を付したピークがTiB2の回折線である。Al3Tiを60%加えた試料でも表面はほとんどTiB2であることがわかる。なお、試料は焼結後表面のグラファイト層を除去するためにSiC研磨紙で研磨している。
【0031】
図8に、Al3Tiの割合(重量比)を5%から60%まで変化させ放電プラズマ焼結法により1000℃で10分間保持し焼結して得られた試料を切断機で切断し、断面のX線回折スペクトルを測定した結果を示す。図でAl3Tiを40%以上加えた試料では試料内部に多量のAl3Ti(▲を付したピーク)が含まれることがわかる。
【0032】
図9に、TiB2に(Al、M)3Tiの割合(重量比)を30%として添加し、MのAlに対するモル比を10/65とし、放電プラズマ焼結法により1000℃で10分間保持し焼結して得られた試料について測定したX線回折スペクトルを示す。(a)ではMがNi、(b)ではMがCrである。上側に下向きの矢印(↓)を付したピークがTiB2の回折線ある。矢印に(Al,M)3Tiと示されたピークが立方晶L12型(Al,M)3Ti構造の回折線である。図7、図8、図9で横軸は回折線測定の際の試料の回転角度(度)、縦軸は回折の強度を表している。
【0033】
本発明によれば、二硼化チタンにAl3Tiまたは、MをNi、Cr、Fe、Mo、Cuの1種類ないし2種類以上の組み合わせとして、(Al,M)3Tiを焼結助剤として添加することで、従来の焼結温度に比べて圧倒的に低い1000℃で焼結しても高硬度、硬緻密性の焼結体が得られる。さらに、焼結助剤が(Al,M)3Tiの場合には、Al3Tiの場合よりも高い曲げ強度とすることができる。
【0034】
Al3Tiは硬度が大きいが、一方で脆い欠点をもつものである。金属材料学では、結晶構造の対称性が高く、単位格子の大きさが小さいほど、塑性変形し易いとされる。Al3Tiは正方晶結晶構造をもつが、Alの一部をNi、Cr、Fe、Mo、Cuなどの遷移金属で置換すると立方晶に結晶構造が変わり、結晶構造の大きさがほぼ1/2になることが知られている。Al3Ti添加TiB2焼結体の曲げ強度が(AL,M)3Ti添加の場合より低くなるのは、Al3Tiが脆いことが原因であると考えられる。MをNi、Cr、 Fe、Mo、Cuの1種類ないし2種類以上の組み合わせとして、(Al,M)3Ti添加TiB2の焼結体はAl3Ti添加の場合と同様に1000℃の低温焼結がなされる上に、高密度、硬硬度の焼結体が得られ、曲げ強度の点で改善される。
【符号の説明】
【0035】
1 水冷真空チャンバ
2 ポンプ装置
3 上部パンチ電極
4 上部パンチ
5 下部パンチ電極
6 下部パンチ
7 焼結ダイ
10 混合粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiB2を主成分とした金属硼化物基本成分と焼結助剤としての焼結助剤とからなる二硼化チタン系焼結体であって、Al3Tiまたは、MをNi,Cr,Fe,Mo,Cuの1種類ないし2種類以上の組み合わせとして、(Al,M)3Tiを主成分とする焼結助剤が全重量の10%以上50%以下の含量であり、他の部分がTiB2を主成分とする六方晶系金属硼化物からなる二硼化チタン系焼結体。
【請求項2】
(Al,M)3Ti を主成分とする焼結助剤が全重量の20%以上40%以下の含量であることを特徴とする請求項1に記載の二硼化チタン系焼結体。
【請求項3】
TiB2を主成分とした金属硼化物基本成分と焼結助剤としての焼結助剤との混合物の焼結により二硼化チタン系焼結体を製造する方法であって、Al3Tiまたは、MをNi,Cr,Fe,Mo,Cuの1種類ないし2種類以上の組み合わせとして、(Al,M)3Ti を主成分とし全重量の10%以上50%以下の含量となる焼結助剤粉末体と、他の部分となるTiB2を主成分とする六方晶系金属硼化物粉末体とをそれぞれ作製することと、それぞれ作製された六方晶系金属硼化物粉末体と焼結助剤粉末とを混合した混合物を得ることと、六方晶系金属硼化物粉末体と焼結助剤粉末との混合物を焼結体作製装置中で800℃以上1300℃以下の温度に加熱し焼結体を作製することとからなる二硼化チタン系焼結体を製造する方法。
【請求項4】
前記焼結助剤が(Al,M)3Tiを主成分とし全重量の20%以上40%以下の含量となる焼結助剤粉末体であって、六方晶系金属硼化物粉末体と焼結助剤粉末との混合物を焼結体作製装置中で900℃以上1100℃以下の温度に加熱し焼結体を作製することを特徴とする請求項3に記載の二硼化チタン系焼結体を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図6(d)】
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【図6(e)】
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【図6(f)】
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【公開番号】特開2012−87042(P2012−87042A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205109(P2011−205109)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】