説明

位相差フィルム

【課題】溶融押出しプロセスによる製造が可能であり、高い位相差発現性と高温高湿条件下における高い位相差安定性を両立した位相差フィルムを提供する。
【解決手段】特定のイミド化アクリル樹脂とレターデーション上昇剤を含有する位相差フィルムによる。イミド化アクリル樹脂(A)80〜99.99重量%及び、レターデーション上昇剤(B)を0.01〜20重量部を含有することを特徴とする位相差フィルムにて達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などに好適に用いることができる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、ワードプロセッサ、携帯電話、携帯情報端末等に代表されるように、近年、電子機器はますます小型化している。上記例示した電子機器のように表示装置を備える電子機器では、軽量かつコンパクトという特徴を生かした液晶表示装置が多く用いられている。
【0003】
これら液晶表示装置には、その表示品位を保つために偏光フィルム、1/2λ板、1/4λ板などの位相差フィルム、導光板等の各種プラスチックフィルムが用いられている。特に、位相差フィルムは液晶性分子の光学異方性を補償し、画像の色相やコントラストを向上させる重要な部材となっている。
【0004】
一般に位相差フィルムに必要とされる高い位相差値は、通常ポリカーボネートやポリスルホン、ポリアリレートなどの各種ポリマーフィルムを延伸処理することによって付与されている。例えば、特許文献1にはポリカーボネートを用いた例が記載されている。ポリカーボネートを延伸処理することにより、十分なレターデーションの付与は可能である。しかし、ポリカーボネートやポリスルホンのような芳香環構造を多く含有する樹脂からなるフィルムは、外部応力等による位相差の変化が大きいといった点でまだ改善の余地がある。
【0005】
特許文献2にはセルロースエステルからなる樹脂を使用した位相差フィルムが開示されている。さらに、ここではセルロースエステルフィルムの位相差を上昇させる方法として芳香族を2つ以上有する化合物を添加して位相差を上昇させる方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には無水グルタル酸単位を主成分とするアクリル系樹脂にスチルベンやビフェノールなどの芳香環を有する化合物を配合し、ペレット状の熱可塑性樹脂を得て、それらを流延法にてフィルム化し、延伸することによって得られる位相差フィルムが記載されている。流延法にて作製するフィルムは一般に製造コストが高く、ここで開示されている芳香環を有する化合物はコストの安価な溶融押出しプロセスに耐えうるだけの熱安定性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−304619号公報
【特許文献2】特開2000−111914号公報
【特許文献3】特開2006−241197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような理由から、溶融押出しプロセスによる製造が可能であり、かつ高い位相差発現性と位相差安定性を両立可能な位相差フィルムの開発が強く求められている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、溶融押出しプロセスによる製造が可能であり、高い位相差発現性と高温高湿条件下における高い位相差安定性を両立した位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ガラス転移温度が120℃以上のイミド化アクリル樹脂とレターデーション上昇剤を含有する位相差フィルムが、高い位相差発現性と位相差安定性を兼ね備え、かつ、溶融押出しプロセスによる製造が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に関する。
【0011】
(i)下記一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される繰り返し単位を含有するイミド化アクリル樹脂(A)80〜99.99重量%及び、レターデーション上昇剤(B)0.01〜20重量部を含有することを特徴とする位相差フィルム。
【0016】
(ii)レターデーション上昇剤(B)が、トリアジン構造、ベンゾトリアゾール構造およびベンゾフェノン構造から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(i)に記載の位相差フィルム。
【0017】
(iii)イミド化アクリル樹脂100重量%中、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を3〜95重量%含有することを特徴とする(i)または(ii)に記載の位相差フィルム。
【0018】
(iv)上記イミド化アクリル樹脂は、下記一般式(3)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位をさらに含むことを特徴とする(i)〜(iii)のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【0021】
(v)一般式(3)で表される繰り返し単位を5重量%以下含有することを特徴とする(iv)に記載の位相差フィルム。
【0022】
(vi)厚み40μmあたりの面内位相差が10nm以上100nm以下であり、かつ厚み方向位相差が80nm以上400nm以下であることを特徴とする(i)〜(v)のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【0023】
(vii)溶融押出しフィルムであることを特徴とする(i)〜(vi)のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【0024】
(viii)偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が(i)〜(vii)のいずれか1項に記載の位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
【0025】
(ix)液晶セル側の保護フィルムが(i)〜(vii)のいずれか1項に記載の位相差フィルムであることを特徴とする(viii)に記載の偏光板。
【発明の効果】
【0026】
本発明の研究により、ある一定の構造を有するレターデーション上昇剤がイミド化アクリル樹脂の位相差発現性を上昇させる機能を有することが判明した。さらに本研究のイミド化アクリル樹脂とトリアジン構造を有する低分子化合物からなる位相差フィルムは、高温高湿条件下における位相差の安定性に優れることが明らかとなった。このように高い位相差発現性と位相差の安定性を兼ね備えた位相差フィルムは、VA(Vertical Aligned)型の液晶表示装置に、特に有利に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明における実施の形態を示すが、いずれの方法に関しても、以下に示すものに限定されるものではない。
(イミド化アクリル樹脂(A))
本発明に用いられるガラス転移温度が120℃以上のイミド化アクリル樹脂(A)は、下記一般式(1)
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、下記一般式(2)
【0030】
【化5】

【0031】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含む樹脂であり、そのガラス転移温度が120℃以上あることが必要である。
【0032】
また、上記イミド化アクリル樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)(式中、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0033】
【化6】

【0034】
上記一般式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、R3は水素、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、R1はメチル基であり、R2は水素であり、R3はメチル基であることがより好ましい。
【0035】
上記イミド化アクリル樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみ含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR1、R2、およびR3が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0036】
なお、グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより形成することができる。
【0037】
また、無水マレイン酸等の酸無水物、またはこのような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
【0038】
上記一般式(2)において、R4およびR5はそれぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R6は水素またはメチル基であることが好ましく、R4は水素であり、R5はメチル基であり、R6はメチル基であることがより好ましい。
【0039】
上記イミド化アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR4、R5およびR6が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0040】
上記イミド化アクリル樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
【0041】
また、上記イミド化アクリル樹脂は、芳香族ビニル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R7およびR8が異なる複数の樹脂を含んでいてもよい。
【0042】
上記イミド化アクリル樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、R3の構造等に依存して変化させることが好ましい。
【0043】
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、イミド化アクリル樹脂の100重量%中、20重量%以上とすることが好ましく、20重量%〜95重量%とすることがより好ましく、40重量%〜90重量%とすることがさらに好ましく、50重量%〜80重量%とすることが特に好ましい。
【0044】
グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるイミド化アクリル樹脂の耐熱性および透明性が低下したり、成形加工性、およびフィルムに加工したときの機械的強度が極端に低下したりすることがない。
【0045】
一方、グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるイミド化アクリル樹脂から得られるフィルムが十分な位相差を有していない場合がある。また、上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に低くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0046】
上記イミド化アクリル樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではないが、イミド化アクリル樹脂の0〜30重量%とすることが好ましく、0〜10重量%とすることがさらに好ましく、0〜5重量%とすることが特に好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、得られるイミド化アクリル樹脂の耐熱性が不足する傾向がある。
【0047】
上記イミド化アクリル樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに共重合されていてもよい。
【0048】
その他の単位としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸単位、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系単位、グルタル無水物単位、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単位の重合体の構成単位を挙げることができる。
【0049】
これらのその他の単位は、上記イミド化アクリル樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
【0050】
また、これらのその他の単位は、その単位を構成する単量体を、イミド化アクリル樹脂及び/又はイミド化アクリル樹脂を得る原料となる樹脂に対し、共重合成分として用いても良いし、前記のイミド化反応を行う際に、上記その他の単位が副生して存在してもよく、また、イミド化アクリル樹脂に対し、その他の単位を含む単量体等を共重合させるなどして導入してもよい。
【0051】
上記イミド化アクリル樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×104〜5×105であることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。
【0052】
一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0053】
また、上記イミド化アクリル樹脂のガラス転移温度は120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲よりも低いと、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
【0054】
上記イミド化アクリル樹脂において、一般式(1)〜(3)で表される単位の含有量(換言すれば、割合)は、特に限定されるものではなく、イミド化アクリル樹脂に要求される物性や、本発明にかかるイミド化アクリル樹脂を成形してなるフィルムに要求される特性等に応じて決定すればよい。
【0055】
例えば、本発明にかかるイミド化アクリル樹脂を成形してなるフィルムを光学用途に用いる場合、得られるフィルムに要求される光学特性などに応じて決定すればよい。
【0056】
ここで、上記イミド化アクリル樹脂の製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合させることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。なお、上記イミド化アクリル樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を製造する。
【0058】
この工程において、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを用いることが好ましく、メタクリル酸メチルを用いることがより好ましい。
【0059】
これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単一種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種の(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、最終的に得られるイミド化アクリル樹脂に複数種類の(メタ)アクリル酸エステル単位を与えることができる。
【0060】
また、上記イミド化アクリル樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとの重合割合を調整することにより、芳香族ビニル単位の割合を調整することができる。
【0061】
上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、および(メタ)アクリル酸エステル重合体の構造は、特に限定されるものではなく、イミド化反応が可能なものであればよい。具体的には、リニアー(線状)ポリマー、ブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、および架橋ポリマー等のいずれであってもよい。
【0062】
ブロックポリマーの場合、A−B型、A−B−C型、A−B−A型、およびこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。コアシェルポリマーの場合、ただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであってもよいし、それぞれが多層からなるものであってもよい。
【0063】
次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体に、一級アミン(すなわち、イミド化剤)を添加し、イミド化を行う。これにより、上記イミド化アクリル樹脂を製造することができる。
【0064】
上記一級アミン、すなわち、イミド化剤は、特に限定されるものではなく、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであればよい。具体的には、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンを挙げることができる。
【0065】
また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素のように、加熱により、上記例示したアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。
【0066】
上記例示したイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0067】
なお、このイミド化の工程においては、上記一級アミンに加えて、必要に応じて、閉環促進剤を添加してもよい。
【0068】
このイミド化の工程において、上記一級アミンの添加割合を調整することにより、得られるイミド化アクリル樹脂におけるグルタルイミド単位および(メタ)アクリル酸エステル単位の割合を調整することができる。
【0069】
また、イミド化の程度を調整することにより、得られるイミド化アクリル樹脂の物性や、本発明にかかるイミド化アクリル樹脂を成形してなる位相差フィルムの光学特性等を調整することができる。
【0070】
上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体をイミド化する方法は、特に限定されなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、押出機や、バッチ式反応槽(圧力容器)等を用いる方法により、上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体をイミド化することができる。
【0071】
上記イミド化アクリル樹脂を押出機を用いて製造する場合、用いる押出機は特に限定されるものではなく、各種押出機を用いることができる。具体的には、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。
【0072】
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマー(すなわち、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体)に対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を促進することができる。
【0073】
二軸押出機としては、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等を挙げることができる。中でも、噛合い型同方向回転式を用いることが好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーに対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を、より一層促進することができる。
【0074】
上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列につないで用いてもよい。
【0075】
また、押出機には、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。このような構成によれば、未反応のイミド化剤、もしくはメタノール等の副生物やモノマー類を除去することができる。
【0076】
また、上記イミド化アクリル樹脂の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。
【0077】
上記イミド化アクリル樹脂を、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されるものでない。
【0078】
具体的には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、攪拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、攪拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。
【0079】
このようなバッチ式反応槽(圧力容器)によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽(圧力容器)としては、例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンド等を挙げることができる。
【0080】
上説したような方法によれば、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位の比率が所望に制御されたイミド化アクリル樹脂を容易に製造することができる。
【0081】
また、イミド化アクリル樹脂(A)に、ラクトン構造、ラクタム構造を有するものを共重合して用いてもよい。
【0082】
本発明において、上記のイミド化アクリル樹脂(A)に、レターデーション上昇剤(B)を含有させることにより、イミド化アクリル樹脂(A)の優れた特性を大きく損なうことなく、優れた位相差発現機能を付与することができる。また、レターデーション上昇剤(B)としてトリアジン構造を有する低分子化合物を用いた場合、位相差発現効果に加えて高い位相差安定性も付与することができる。
【0083】
本発明のレターデーション上昇剤としては、分子の分極率異方性の大きい低分子化合物があげられ、具体的には、トリアジン構造、ベンゾトリアゾール構造、またはベンゾフェノン構造を有する低分子化合物があげられる。
【0084】
本発明で使用するトリアジン構造を有する低分子化合物として、特に制限されないが、WO2005/109052記載の化合物や、特表2008−545865記載の化合物などがあげられる。
【0085】
トリアジン構造を有する低分子化合物として特に好ましいものとして、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン(商品名 チヌビン460)、または、下記一般式(4)で表される化合物
【0086】
【化7】

【0087】
(商品名 チヌビン479)(以上、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)があり、これらはイミド樹脂(A)に対して良好な相溶性を示すため、好ましい。また、これらを用いて作製したフィルムには高い位相差発現性を付与することができる。さらに、これらを用いたフィルムには高い位相差発現性に加えて高い位相差安定性も付与することができる。なかでも、チヌビン460が特に高い位相差安定性効果を付与することができる。
【0088】
本発明で使用するベンゾトリアゾール構造を有する低分子化合物として、特に制限されないが、ベンゾトリアゾール構造を有する低分子化合物として特に好ましいものとして、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(商品名 スミソルブ300 住友化学株式会社製)があり、この化合物はイミド樹脂(A)に対して良好な相溶性を示す。また、この化合物を用いて作製したフィルムには高い位相差発現性を付与することができる。
【0089】
本発明で使用するベンゾフェノン構造を有する低分子化合物として、特に制限されないが、ベンゾフェノン構造を有する低分子化合物として特に好ましいものとして、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン(和光純薬製)があり、この化合物はイミド樹脂(A)に対して良好な相溶性を示す。また、この化合物を用いて作製したフィルムには高い位相差発現性を付与することができる。
【0090】
なお本発明におけるレターデーション上昇剤(B)は単一でもよく、また複数を混合して用いてもよい。
【0091】
本発明におけるレターデーション上昇剤(B)は分子量が、200〜800であることが好ましい。
【0092】
また本発明におけるレターデーション上昇剤(B)は熱安定性が高いため、溶融押出によるフィルム作製が可能である。
【0093】
レターデーション上昇剤(B)の熱安定性が低いと、流延法にてフィルムを作製する必要があり、製造コストが高くなるため好ましくない。
【0094】
本発明の位相差フィルムは、イミド化アクリル樹脂(A)とレタデーション上昇剤(B)の合計を100重量%とすると、ガラス転移温度が120℃以上のイミド化アクリル樹脂(A)80〜99.99重量%及び、レターデーション上昇剤(B)を0.01〜20重量部を含有することを特徴とする。(A)成分と(B)成分の割合は、さらに好ましくは(A)成分が90〜99.99重量%で、(B)成分が0.01〜10重量%である。
【0095】
(A)成分の割合が99.99重量%を上回ると、(B)成分の添加による位相差発現性向上効果と位相差安定化効果が十分ではなく、80重量%を下回ると、耐熱性が低下したり、機械強度が低下したりすることがあるので好ましくない。
【0096】
なお、本発明の(A)成分と(B)成分が含まれた樹脂組成物(以下、樹脂組成物ともいう)に対し、必要に応じて滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤、安定剤やフィラー等の公知の添加剤やその他の樹脂を含有しても良い。
【0097】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0098】
例えば、上記の各成分及び所望により用いられる添加剤成分を加熱混練機、例えば、一軸延伸機、二軸延伸機、ロール、バンバリーミキサー、プラベンダー、ニーダー、高せん断型ミキサーなどを用いて溶融混練することによって、容易に製造することができる。また、上記の各成分及び添加剤成分を溶剤に溶解させて、混合することも可能である。
【0099】
また、本発明の樹脂組成物を使用して、位相差フィルムとして利用可能なフィルムを製造することができる。本発明における位相差フィルムは、上説した樹脂組成物を成形してなるものであればよいが、延伸されたフィルム、すなわち、延伸フィルムであることが好ましい。なお、延伸フィルムの場合、一軸延伸した一軸延伸フィルムであってもよいし、さらに延伸工程を組み合わせて行って得られる二軸延伸フィルムであってもよい。
【0100】
本発明の樹脂組成物からなる成形体を成形する方法としては、従来公知の任意の方法が可能である、例えば射出成形、溶融押出フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、紡糸成形等が挙げられる。また、本発明の樹脂組成物を溶融可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法やスピンコート法も可能である。その何れをも採用することができるが、溶剤を使用しない溶融押出フィルム成形法が、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境等の影響の観点から好ましい。
【0101】
本発明にかかる位相差フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、10μm〜200μmであることが好ましく、15μm〜150μmであることがより好ましく、20μm〜100μmであることがさらに好ましい。
【0102】
フィルムの厚みが上記範囲内であれば、光学特性が均一で、ヘーズが良好な位相差フィルムとすることができる。
【0103】
一方、フィルムの厚みが上記範囲を越えると、フィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、フィルムの取扱が困難になることがある。
【0104】
本発明にかかる位相差フィルムは、ヘーズが3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0105】
本発明にかかる位相差フィルムのヘーズが上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる位相差フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0106】
本発明にかかる位相差フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。
【0107】
全光線透過率が、上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる位相差フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0108】
(位相差フィルム)
本発明において偏光子保護フィルムとして用いられる位相差フィルムについて詳細に説明する。位相差フィルムの面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)の値は、それぞれ、下記数式(I)および(II)で定義される。測定波長は、590nmである。
【0109】
(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth=[{(nx+ny)/2}−nz]×d
なお、上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さ(単位nm)である。
【0110】
本発明では、位相差フィルムの厚み40μmあたりの面内位相差が10〜150nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましく、30〜90nmであることがさらに好ましい。そして、厚み方向位相差は20〜500nmであることが好ましく、30〜400nmであることがより好ましく、80〜400nmであることがさらに好ましい。また、本発明ではRe/Rth比が0.2〜10であることが好ましく、0.5〜8であることがより好ましく、1〜7であることがさらに好ましい。これらの調整は、前述の、レターデーション上昇剤の種類、添加量および延伸倍率により行うことが出来る。本発明の位相差フィルムを上記の範囲とすることで、広視野角で 視角変化による、コントラスト低下および色相変化がない表示性能を与えることができる。なお、位相差フイルムの面内複屈折(nx−ny)は、0.00025〜0.00088であることが好ましい。また、位相差フイルムの厚み方向複屈折{(nx+ny)/2−nz}は、0.00088〜0.005であることが好ましい。
【0111】
本発明にかかる位相差フィルムは、光弾性係数の絶対値が、20×10-122/N以下であることが好ましく、10×10-122/N以下であることがより好ましく、5×10-122/N以下であることがさらに好ましい。
【0112】
光弾性係数が上記範囲内であれば、本発明にかかる位相差フィルムを液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。
【0113】
一方、光弾性係数の絶対値が20×10-122/Nより大きいと、液晶表示装置に用いた場合、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生しやすくなったりする傾向がある。この傾向は、高温多湿環境下において、特に顕著となる。
【0114】
なお、等方性の固体に外力を加えて応力(△F)を発生させると、一時的に光学異方性を呈し、複屈折(△n)を示すようになるが、本明細書において、「光弾性係数」とは、その応力と複屈折との比が意図される。すなわち、光弾性係数(c)は、以下の式により算出される。
【0115】
c=△n/△F
ただし、本発明において、光弾性係数はセナルモン法により、波長515nmにて、23℃、50%RHにおいて測定した値である。
【0116】
本発明にかかる位相差フィルムは、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。具体的には、例えば、本発明にかかる位相差フィルムを、表面にコーティング加工等の表面加工を施したり、表面に別のフィルムをラミネートしたりして用いる場合、本発明にかかる位相差フィルムに表面処理を施すことが好ましい。
【0117】
このような表面処理を施すことにより、本発明にかかる位相差フィルムと、コーティングまたはラミネートされる別のフィルムとの間の相互の密着性を向上させることができる。なお、本発明にかかる位相差フィルムに対する表面処理の目的は、作用効果を目的とするものに限定されるものではない。つまり、本発明にかかる位相差フィルムは、その用途に関係なく、表面処理が施されていてもよい。
【0118】
上記表面処理は、特に限定されるものではないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射およびアルカリ処理等を挙げることができる。中でも、コロナ処理であることが好ましい。
【0119】
また、本発明にかかるイミド化アクリル樹脂によれば、上記一般式(1)〜(3)で表される構造単位の組成比を変更することにより、位相差の小さなフィルムを製造することができる。つまり、本発明にかかるイミド化アクリル樹脂は、位相差フィルム等の光学補償フィルムの製造に好適に用いることができる。
【0120】
本発明にかかる位相差フィルムは、上説したような特性を有するため、そのまま最終製品として各種用途に用いることができる。また、上説したような各種加工を施すことにより、用途の幅を広げることができる。
【0121】
本発明にかかる位相差フィルムは、上説したように、光学的均質性、透明性等の光学特性に優れている。そのため、これらの光学特性を利用して、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺等の公知の光学的用途に特に好適に用いることができる。
【0122】
また、本発明の位相差フィルムは、偏光子に貼り合わせて、偏光板として用いることができる。すなわち、本発明にかかる位相差フィルムは、偏光板の偏光子保護フィルムとして用いることができる。上記偏光子は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。具体的には、例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。
【0123】
本発明の偏光板は、偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であり、保護フィルムの少なくとも1枚が本発明の位相差フィルムからなる偏光板である。上記偏光子は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。具体的には、例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させてなる偏光子等を挙げることができる。また、本発明の偏光板は偏光子や保護フィルム以外にも粘着剤層、セパレートフィルム、保護フィルム等を構成要素として有していても構わない。また、本発明の位相差フィルムは、液晶セルにより偏光された光の成分を補償するために用いられる複屈折性フィルムである。よって液晶セル側に用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、各成分の合成例の記載における部は重量部を示す。
【0125】
<イミド化率>
イミド化率の算出は、IRを用いて下記の通り行った。すなわち、生成物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液をSensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたIRスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)との比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。なお、ここで、「イミド化率」とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0126】
<ガラス転移温度>
各組成物のガラス転移温度は、(株)島津製作所 示差走査熱量計DSC−50型を用い、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0127】
<面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth測定>
フィルムから、40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片を、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で面内位相差Reを測定した。
【0128】
デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みd、および、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製 3T)で測定した屈折率n、自動複屈折計で測定した波長590nm、面内位相差Reおよび40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nz、を求め、厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)を計算した。
【0129】
<厚み測定>
試験片の厚みdはデジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0130】
(製造例1)イミド化アクリル樹脂の合成
原料の樹脂としてメタクリル酸メチル単独重合体、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、イミド化樹脂を製造した。
【0131】
使用した押出機は口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230〜280℃、スクリュー回転数は150rpmとした。メタクリル酸メチル単独重合体(分子量 105,000)を2kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して18重量部のモノメチルアミン(三菱ガス化学株式会社製)を注入した。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することにより、イミド化アクリル樹脂(1)を得た。
【0132】
次いで、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を250℃、スクリュー回転数150rpmとした。ホッパーから得られたイミド化アクリル樹脂(1)を1kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して2.0重量部の炭酸ジメチルと0.5重量部のトリエチルアミンの混合液を注入し樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレッ
ト化し、酸価を低減したイミド化アクリル樹脂(2)を得た。
【0133】
さらに、イミド化アクリル樹脂(2)を、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機に、押出機各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpm、供給量1kg/hrの条件で投入した。ベント口の圧力を−0.095MPaに減圧して再び未反応の副原料などの揮発分を除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた脱揮したイミド樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することにより、イミド化アクリル樹脂A−1を得た。
【0134】
なお、得られたイミド化アクリル樹脂A−1は、上説の実施形態に記載した一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位とが共重合したイミド化アクリル樹脂に相当する。
【0135】
イミド化アクリル樹脂A−1について、上記の方法に従って、イミド化率、ガラス転移温度を測定した。その結果、イミド化率は68モル%、ガラス転移温度は150℃、酸価は0.01mmol/gであった。また、熱安定性試験の結果、粘度低下率は10%、発泡開始時間は50分であった。
【0136】
(製造例2)フィルムの作成
下記に示すレタデーション上昇剤(B)または添加剤(C)を用いて、下記表1に示す組成のイミド化アクリル樹脂A−1溶液を調製した。得られた溶液をPET上に流延し、バーコーター(RKプリントコートインスツルメント社製)を使用して、膜厚約100μmのキャストフィルムを作成した。これらを表1に示すそれぞれのガラス転移温度よりも10℃高い温度で5時間以上乾燥させ、表1の評価用フィルムを得た。
【0137】
レタデーション上昇剤:
(B−1)チヌビン460(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)
(B−2)チヌビン479(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)
(B−3)スミソルブ300(住友化学株式会社製)
添加剤:
(C−1)ジオクチルフタレート(和光純薬製)
(C−2)トリフェニルホスフェート(和光純薬製)
【0138】
【表1】

【0139】
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
製造例2にて得られたフィルムをガラス転移温度よりも5℃高い温度にて1.6×1.87の延伸倍率にて逐次二軸延伸を行った。延伸後のフィルムのレターデーションを測定した。結果を表2に示す。
【0140】
(実施例4及び比較例4)
製造例2にて得られた二軸延伸フィルムを粘着剤(ポラテクノ製高耐久トランスファーシート)を介して50mm×40mm、厚み0.75mmの無アルカリガラスに貼合した。これを23℃、50%RHにて12時間調湿した後、レターデーションRth(0)を測定した。その後60℃、90%RH環境下に暴露し、100時間後のレターデーションRth(100)を測定し、変化量△Rth(Rth(0)−Rth(100))を算出した。結果を表3に示す。
【0141】
【表2】

【0142】
表2より、本発明の組成物からなるフィルムは位相差発現性に優れ、位相差フィルムとしてより有用に使用できることがわかる。
【0143】
【表3】

【0144】
表3より、本発明の組成物からなるフィルムは、レターデーションの耐久性に優れ、かつ表2より位相差発現性も高いために、位相差フィルムとして有用であるこ
とがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される繰り返し単位を含有するイミド化アクリル樹脂(A)80〜99.99重量%及び、レターデーション上昇剤(B)を0.01〜20重量部を含有することを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
レターデーション上昇剤(B)が、トリアジン構造、ベンゾトリアゾール構造およびベンゾフェノン構造から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
イミド化アクリル樹脂100重量%中、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を3〜95重量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
上記イミド化アクリル樹脂は、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
一般式(3)で表される繰り返し単位を5重量%以下含有することを特徴とする請求項4に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
厚み40μmあたりの面内位相差が10nm以上100nm以下であり、かつ厚み方向位相差が80nm以上400nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
溶融押出しフィルムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項8】
偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項9】
液晶セル側の保護フィルムが請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルムであることを特徴とする請求項8に記載の偏光板。

【公開番号】特開2010−286584(P2010−286584A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138971(P2009−138971)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】