説明

作業機

【課題】苗移植機の後退時に苗植付部が畦などに接触することなく、同時に苗移植機の後退速度が速くなり過ぎないようにした苗移植機を提供すること。
【解決手段】HST23と、該HST23の後段に設けた有段の変速段に変速する機械式変速手段からなる変速装置が前進側の中立位置にあるときのエンジン回転数より変速装置が後進側の中立位置にあるときのエンジン回転数を大きく設定し、変速装置が後進方向の最初の変速段にあるときのエンジン回転数を変速装置が後進側の中立位置にあるときのエンジン回転数より小さく設定する制御装置163を設けた作業機であり、苗植付部4を上昇させながら苗移植機を後進させる場合に、後進が始まる前にエンジン回転数を上げて素早く苗植付部を上昇させ、、後進が実際に始まるとエンジン回転数を下げると予想以上に高速で後進することもないので操縦者の安全性を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗移植機などの整地装置を有する作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
フロート付きの苗植付部を備えた作業機(苗移植機ということがある)において、作業機が後退する場合には作業機の機体後部に連結している苗植付部を上昇させおく必要がある。このとき苗植付部を自動的に上昇させる構成を備えた作業機は良く知られているが、後退時には作業機を低速走行させるためにエンジンは低速回転となる。
しかしエンジンの低速回転により油圧ポンプの回転数も低速回転域にあるため、該油圧ポンプの吐出油量が少ないことにより、苗植付部を作動させる油圧シリンダの作動速度が比較的遅いために、例えば畦際などでは苗植付部が畦に接触することがあった。そこで作業機(苗移植機)の後退時にはエンジンを高速回転させて畦に苗植付部が接触しないようにした作業機が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−123817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された苗移植機では、苗移植機の後退時にはエンジンを高速回転させるとオペレータの予想以上に苗移植機の後退速度が速くなることがあった。
【0005】
そこで本発明の課題は、苗移植機の後退時に苗植付部が畦などに接触することなく、同時に苗移植機の後退速度が速くなり過ぎないようにした苗移植機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、次の解決手段で解決される。
請求項1記載の発明は、機体にエンジン(20)と、走行輪(11)と、操舵用ハンドル(34)と、エンジン(20)の燃料噴出量を調整するアクセルペダル(39)と、エンジン(20)からの動力を入力して該エンジン(20)からの回転速度を連続的に変速して走行輪(11)に伝動する油圧式無段変速手段(23)と、該油圧式無段変速手段(23)の後段に設けた有段の変速段に変速する機械式変速手段からなる変速装置と、油圧式無段変速手段(23)の変速位置を変更するための手動用主変速レバー(16)と、機械式変速手段の変速位置を変更するための手動用副変速レバー(17)を備え、さらに機体後部に圃場面に底面が接するフロート(55,56)を有する苗植付部(4)を備えた作業機において、変速装置が前進側の中立位置にあるときのエンジン回転数より変速装置が後進側の中立位置にあるときのエンジン回転数を大きく設定し、変速装置が後進方向の最初の変速段にあるときのエンジン回転数を変速装置が後進側の中立位置にあるときのエンジン回転数より小さく設定する制御装置(163)を設けたことを特徴とする作業機である。
【0007】
請求項2記載の発明は、制御装置(163)が機械式変速装置により設定される路上走行時の走行速度(移動速)におけるエンジン回転数と苗の植付時の走行速度(植付速)におけるエンジン回転数を各変速段毎に変更する制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機である。
【0008】
請求項3記載の発明は、制御装置(163)が機械式変速装置により設定される路上走行時の走行速度(移動速)におけるエンジン回転数が小型特殊自動車用の速度基準を超えないようにする制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機である。
【0009】
請求項4記載の発明は、制御装置(163)は、機械式変速装置により設定される苗の植付時の走行速度(植付速)における最高エンジン回転数を動力優先とするパワーモードでは大きくし、燃費優先とするエコモードでは小さくする制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機である。
【0010】
請求項5記載の発明は、ハンドル(34)の旋回角度を検出するハンドル旋回角度センサ(33)を設け、制御装置(163)は、機械式変速装置により設定される苗の植付時の走行速度(植付速)における最高エンジン回転数を動力優先とするパワーモードを設定しているときに、前記ハンドル旋回角度センサ(33)で検知した旋回開始時に苗植付部(4)の上昇を開始させ、苗植付部(4)の上昇に連動してエンジン回転数をパワーモードから燃費優先とするエコモードに変更する制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機である。
【0011】
請求項6記載の発明は、センタフロート(55)が接地したことを検知するセンタフロートセンサ(169)を設け、制御装置(163)は、エンジン回転数を動力優先とするパワーモードから燃費優先とするエコモードに変更した後、前記センタフロートセンサ(169)がセンタフロート(55)が接地したことを検知するとエンジン回転数をエコモードからパワーモードに変更する制御構成を有することを特徴とする請求項5記載の作業機である。
【0012】
請求項7記載の発明は、苗植付部(4)に苗植付クラッチを設け、制御装置(163)は、ハンドル旋回角度センサ(33)で検知した旋回開始時に苗植付部(4)の上昇を開始させ、苗植付部(4)の上昇に連動してエンジン回転数をパワーモードからエコモードに変更した後、前記苗植付クラッチが入りになると再びエンジン回転数をパワーモードに変更する制御構成を有することを特徴とする請求項5記載の作業機である。
【0013】
請求項8記載の発明は、制御装置(163)が主変速レバー(16)による油圧式無段変速手段(23)の変速位置毎にエンジン(20)の燃料噴出量を調整するアクセルペダル(39)の最大踏込み時のエンジン回転数の上限値を設ける制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機である。
【0014】
請求項9記載の発明は、制御装置(163)が主変速レバー(16)による油圧式無段変速手段(23)の変速位置が所定時間内(例えば、2秒以内)に変速全ストロークの2分の1以上減速側に移動した場合にはエンジン(20)への燃料供給を一部停止する制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、苗植付部4を上昇させながら苗移植機を後進させる場合に、後進が始まる前にエンジン回転数を上げて素早く苗植付部を上昇させ、後進が実際に始まるとエンジン回転数を下げると、予想以上に高速で後進することがないので操縦者の安全性を図ることができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、路上走行時の走行速度(移動速)におけるエンジン回転数と苗の植付時の走行速度(植付速)におけるエンジン回転数を各変速段毎に変更することで、同じ速度段でも「植付速」と「移動速」とで走行フィーリングを変えることができ、作業機の操縦性能を従来に比して向上させることができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、路上走行時の走行速度(移動速)におけるエンジン回転数が小型特殊自動車用の速度基準を超えないように設定することで作業機の機体毎のばらつきにより、走行速度が速すぎることがないようにできる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、苗植付時の走行速度(植付速)における最高エンジン回転数を動力優先とするパワーモードより燃費優先とするエコモードで小さくすることで、例えば湿田ではパワーモードで操作をし、浅田ではエコモードで操縦すること燃費を従来より向上させることが出来る。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、、請求項1記載の発明の効果に加えて、動力優先のパワーモードでエンジンが回転しているときに旋回が始まると動力優先のパワーモードのままで苗植付部4を上昇させ、苗植付部4の上昇に連動させて(例えば、上昇が完了すると)パワーモードから燃費優先のエコモードに切り替えてエンジン回転数を低下させる。エンジン回転数が低下すると車速が遅くなるので作業機はスムーズに旋回をすることができる。
【0020】
請求項6記載の発明によれば、、請求項5記載の発明の効果に加えて、旋回が終わるころに苗植付部4が下降してフロート55が接地したことを検知するとエンジン回転数をエコモードからパワーモードに変更するので湿田でも苗の植え付け走行が支障なく行える。
【0021】
請求項7記載の発明によれば、、請求項5記載の発明の効果に加えて、旋回が終わるころに苗植付部4に設けた苗植付クラッチが入りなると再びエンジン回転数をパワーモードに変更すると、湿田でも苗の植え付け走行が支障なく行える。
【0022】
請求項8記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、変速レバー16による油圧式無段変速手段23の変速位置毎にエンジン20の燃料噴出量を調整するアクセルペダル39の最大踏込み時のエンジン回転数の上限値を設けることで、必要以上にエンジンの噴射量が増えず、燃費改善効果があり、またアクセルペダル39を一杯に踏み込んでも必要以上にエンジンの回転数があがらないので、アクセルペダル39を微調整することなく、一杯に踏み込みながら操縦できるので操縦性に優れた作業機となる。
請求項9記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、エンジン回転数が高いとき(ガバナーが大きく開いているとき)、急激な減速を行っても、エンジン20への燃料供給を一部カットすることで、急激な減速を行っても支障なくエンジン回転数を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例の乗用型田植機の側面図である。
【図2】図1の乗用型田植機の平面図である。
【図3】図1の乗用型田植機の苗植付部の要部側面図である。
【図4】図1の乗用型田植機の苗載台の支持構造の要部背面図である。
【図5】図1の乗用型田植機の苗植付部の要部平面図である。
【図6】図5のロータへの動力伝達系を中心とする拡大図である。
【図7】図1の乗用型田植機の制御装置の一部構成図である。
【図8】図1の乗用型田植機の制御装置の一部構成図である。
【図9】図1の乗用型田植機の前進9段、後進6段に対するエンジン回転数の変化を示す図である。
【図10】図1の乗用型田植機の前進9段、後進6段に対する速度の変化を示す図である。
【図11】図1の乗用型田植機の旋回連動制御の考え方を示す図である。
【図12】図11の旋回連動制御のフローチャートである。
【図13】図1の乗用型田植機の急激な減速を行う場合にエンジンへの燃料供給を一部カットするフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1及び図2は本発明の苗移植機の典型例である粉粒体繰出し装置として施肥装置を装着した乗用型田植機の側面図と平面図である。この施肥装置付き乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
なお、本明細書において、搭乗オペレータが苗移植機の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向と後進方向をそれぞれ前、後という。
【0025】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11,11が取り付けられている。
【0026】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及び油圧式無段変速装置(HST)23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内の図示しない副変速装置を含む歯車式変速装置からなるトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5へ伝動される。
【0027】
なお、主変速レバー16を操作することでHST23が図10に示す前進9段から中立位置を経て後進6段まで連続的(無段階的)に変速できるが、本実施例の制御装置163は操縦者が変速操作時における速度変化を段階的に感じとれるように有段的にエンジン回転数を変化させている。
また、副変速レバー17を操作することで図示しない歯車式変速装置内の周知の副変速装置の複数のギアの噛合せの変更により有段的に変速段を変更することができる構成である。
【0028】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35は一部格子状になっており(図2参照)、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
【0029】
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台38,38が機体よりも側方に張り出す位置と内側に収納した位置とに回動可能に設けられており、一方の側の予備苗載台38はそれぞれ傾斜支持部材で三段に構成されている。
【0030】
昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に電磁油圧バルブ161(図8)により作動される昇降油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0031】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ各条の苗取出口51a、…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a、…に供給すると苗送りベルト51b、…により苗を下方に移送する苗載台51、苗取出口51a、…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52、…、次行程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ24(図2のみに図示)等を備えている。
【0032】
苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。これらフロート55,56,56を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55,56,56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52、…により苗が植付けられる。各フロート55,56,56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が迎角制御センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ前記昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブ161を切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0033】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61、…によって一定量づつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62、…でフロート55,56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず)、…まで導き、施肥ガイド、…の前側に設けた作溝体160、…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥構内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62、…に吹き込まれ、施肥ホース62、…内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0034】
苗植付部4には整地装置の一例であるロータ27(側部整地ロータである第1ロータ27aと中央整地ロータである第2ロータ27bを総称してロータ27という)が取り付けられている。また、苗載台51は苗植付部4の全体を支持する左右方向と上下方向に幅一杯の矩形の支持枠体65の支持ローラ65aをレールとして左右方向にスライドする構成である。
【0035】
図3の側面図と図4の背面図にロータ支持構造の要部を示し、図5にロータ27とフロート55,56と苗植付装置52部分の要部平面図を示し、図6には図5のロータ27への動力伝達系を中心とする拡大図を示す。
【0036】
ロータ支持構造には、苗載台51の前記支持枠体65の両側辺部材65bに上端を回動自在に支持された梁部材66と該梁部材66の両端に固着した支持アーム67と該支持アーム67に回動自在に取り付けられたロータ支持フレーム68が設けられている。該ロータ支持フレーム68の下端にはロータ27(27a,27b)の駆動軸70(70a,70b)が取り付けられている。また該ロータ支持フレーム68の下端部近くは伝動ケース50に回動自在に取り付けられた連結部材71に連結している。
【0037】
図5に示すように、フロート55,56との配置位置の関係でセンタフロート55の前方にある第2ロータ27bはサイドフロート56の前方にある第1ロータ27aより前方に配置されている。そのため後輪11のギアケース18内のギアから自在継手72を介して左側の第1ロータ27aを駆動する第1駆動軸70aへ動力が伝達され、さらに第1駆動軸70aに内側の端部に設けられたベベルギア(図示せず)から、該ベベルギアに噛合するベベルギアを端部に有し、左側の伝動軸ケース73内に配置される図示しない第1伝動軸に動力が伝達され、該第1伝動軸からベベルギヤを介して第2ロータ27bを固着した第2駆動軸70bに動力が伝達される。また第2駆動軸70bの右側端部に設けられたベベルギアを介して、右側の伝動軸ケース73内に配置される図示しない第2伝動軸に動力が伝達され、該第2伝動軸からベベルギヤを介して右側の第1ロータ27aを固着した第1駆動軸70aに動力が伝達される。
【0038】
図5に示すように、左右の第1ロータ27a,27aと中央の第2ロータ27bを互いに前後に偏位させて配置し、第1ロータ27a,27aと中央の第2ロータ27b間の前後方向に延びる第1伝動軸と第2伝動軸からなる一対の伝動軸をそれぞれ内部に有する伝動軸ケース73,73が配置され、該伝動軸ケース73,73は機体平面視で前後傾斜状に配置されている。機体平面視で一対の伝動軸ケース73,73の互いの前側の間隔が後側の間隔より小さくなるように構成されている。
【0039】
なお、後輪駆動用のギアケース18から伝達される動力を2段に変速してロータ27に出力する機構を備えた図示しないロータ変速装置を内蔵したロータ変速装置ケース19(図5)が設けられており、該ロータ変速装置によりロータ27(第1ロータ27aと第2ロータ27bの組み合わせ)の回転速度を低速と高速の2段階に切り換え可能にしている。
【0040】
また、第2ロータ27bは梁部材66に上端部が支持された一対のリンク部材76,77によりスプリング78を介して吊り下げられている。
該一対のリンク部材76,77は梁部材66に一端部が固着支持された第1リンク部材76と該第1リンク76の他端部に一端が回動自在に連結した第2リンク部材77からなり、該第2リンク部材77の他端部と補強部材74に回動自在に支持された取付片74aとの間に前記スプリング78が接続している。
【0041】
またロータ上下位置調節レバー81の下端部には折曲片82が固着されており、該折曲片82は支持枠体65に回動自在に支持されている。そして前記レバー81が車両の左右方向に回動操作されると、支持枠体65の両側辺部材65bに回動自在に支持された梁部材66に固着支持された突出部66aの近くを折曲片82が上下に回動する。折曲片82は前記突出部66aの下方を係止しているので、該突出部66aがレバー81の機体右方向(図4の矢印S方向)の回動で、上向きに梁部材66を中心として回動すると、突出部66aの前記回動により第1リンク部材76の梁部材66との連結部と反対側の端部も梁部材66を中心として上向きに回動する。この第1リンク部材76の上方への回動により第2リンク部材77とスプリング78を介して第2ロータ27bを上方に上げることができる。第2ロータ27bを上方に移動させると、第2駆動軸70bと第1駆動軸70aを介して第1ロータ27aも同時に上方に移動する。
なお、ロータ上下位置調節レバー81は車体2のほぼ中央部に設けているので、第1ロータ27a,27bの上下動を行う場合に左右のバランスを取りやすい。
【0042】
また、梁部材66にはクラッチレバーを兼ねるロータ収納用レバー84が固着しており、該レバー84を矢印T方向(図3)に回動すると梁部材66の回動に連動して支持アーム67が同じく矢印T方向に回動する。該支持アーム67の矢印T方向への回動で該ロータ支持フレーム68が上方に移動するので、第1ロータ27a,27bを収納位置、すなわち苗載台51の裏面側に収納状態となるように移動させることができる。
【0043】
本実施例ではロータ上下位置調節レバー81の低速位置で圃場面より40mmの高さにある第1ロータ27a,第2ロータ27bを図4の矢印S方向への回動で低速位置より最大15mm高くでき、図4の矢印S方向の反対方向への回動で低速位置より最大15mm低くできるように設定している。
なお、梁部材66を回動させることでロータ27を上下させる構成として突出部66a、折曲片82、ロータ上下位置調節レバー81及びロータ収納用レバー84の代わりに梁部材66の一方の端部に設けた電動モータ113(図4)で梁部材66を回動させる構成を採用しても良い。
また、図1,図3に示すようにロータ27の後ろ上方にはロータカバー37(第1ロータカバー37a、第2ロータカバー37b)を設けてフロート55,56上に泥が掛からないようにしている。
【0044】
一対の伝動軸ケース73,73の前部には、該ケース73,73より左右内側に第2ロータ27bが配置され、また一対の伝動軸ケース73,73の後部には、該ケース73,73の外側に第1ロータ27a,27aがそれぞれ配置されている。
従って、ロータ27が田植機1ひいては田植機1の植付位置の左右方向全幅にわたり、まんべんなく配置されることになり、圃場の整地幅が広くなり、整地性の向上が図れる。
【0045】
図7には主変速レバー16と副変速レバー17とアクセルペダル39の操作量に応じた電子燃料噴射装置(EFJ)49の作動を制御する制御装置163の構成を示す。なお図8にはその他の苗植付部4の昇降と苗植付装置52の駆動用のPTOクラッチソレノイド162を制御する制御装置163の構成を示す。
すなわち、図7は油圧式無段変速装置(HST)23による変速出力を設定する主変速レバー16と図示しない歯車式変速装置内の副変速装置の路上走行時の走行速度(移動速)と苗の植付時の走行速度(植付速)と苗植付部4のみを駆動する状態(PTO)の何れかを設定する副変速レバー17とエンジン出力を設定するアクセルペダル39の各操作位置をそれぞれ主変速レバー16の前進側操作位置センサ16a、主変速レバー16の後進側操作位置センサ16b、副変速レバーセンサ17a及びアクセルペダルセンサ39aで検出して制御装置163に送信し、該制御装置163は各センサの出力値に対応した出力となるように電子燃料噴射装置(EFJ)49を作動制御する構成である。
【0046】
なお、主変速レバー16は、図7の制御装置163の主変速レバー16の操作による入力部構成に示した主変速レバー16の操作をガイドして前進方向に変速させる溝と後進方向に変速させる溝及び前記両方の溝の間に中立位置を保持する溝からなる折れ曲がり状のレバー操作ガイド溝45に沿って操作される。該ガイド溝45はフロントカバー32の上面に設けられる。
【0047】
本実施例は、中立位置を保持する溝内で後進方向に変速させる溝へ主変速レバー16を入れた状態のエンジン回転数よりも後進方向の第1段目(最初の変速段)に主変速レバー16を移動させたときのエンジン回転数を減少させたことに特徴がある。
【0048】
レバー操作ガイド溝45における中立位置で前後方向に操作出来る構成を備え、主変速レバー16が前記操作ガイド溝45の中立位置の前進側に該レバー16があることを検出する前進側操作位置センサ16aと操作ガイド溝45の中立位置の後進側に該レバー16があることを検出する後進側操作位置センサ16bとがある。
【0049】
図9には前進9段、後進6段に対するエンジン回転数の変化を移動速と植付速毎に示している。なお、ここでエコモードとはパワーモードより小さい所定のエンジン回転数を設定するという方法で燃費優先のエンジン回転数を設定するモードのことである。また、エコモードに対してパワーモードなる動力優先のエンジン回転数を設定するモードがあり、本実施例の苗移植機はモード切替スイッチ48を操作することで制御装置163により、それぞれソフトウエア上で両方のエンジン回転数モードを設定し得る。
【0050】
ここで各折れ線は、中立時の主変速レバー16が前進側にあるときのエンジン回転数約1900〜2600rpmから中立時の主変速レバー16を後進側にシフトすると、エンジン回転数がアクセルペダル39の踏み込み量に関係なく約3200rpmに急速に上昇し、後進1段に主変速レバー16が操作されると急速にエンジン回転数が約2400rpmに低下することを示している。
こうして、苗植付部4を上昇させながら苗移植機を後進させる場合に、後進が始まる前にエンジン回転数を上げて素早く苗植付部4を上昇させ、、後進が実際に始まるとエンジン回転数を下げると予想以上に高速で後進することもないので操縦者の安全性を図ることができる。
【0051】
また、主変速レバー16の変速操作位置毎にアクセルペダル39の最大踏み込み時(アクセル全開時)におけるエンジン回転数の上限を設けている。これを図9に一点鎖線で示す。
このように主変速レバー16の変速操作位置毎にアクセルペダル39の最大踏み込み時におけるエンジン回転数の上限を設けることで必要以上にエンジンの噴射量が増えず、燃費改善効果があり、またアクセルペダル39を一杯に踏み込んでも必要以上にエンジンの回転数があがらないので、アクセルペダル39を微調整することなく、一杯に踏み込みながら操縦できるので操縦性に優れた苗移植機となる。
【0052】
また、エコモードとパワーモードでそれぞれ最高エンジン回転数を約3,600rpmと4,000rpmと異ならせておくことで、 湿田ではパワーモードで操作をし浅田ではエコモードで操縦することで燃費を従来より向上させることが出来る。
【0053】
図9に示すように主変速レバー16の位置毎(速度段毎)のエンジン回転数を「植付速」と「移動速」で互いにエンジン回転数を変えている。これは、同じ速度段でも「植付速」と「移動速」とで走行フィーリングを変えることにより苗移植機の操縦性能を従来に比して向上させるためである。
【0054】
また、図10に前進9段、後進6段に対する速度の変化を「移動速」と「植付速」毎に示した。ここで「移動速」が小型特殊自動車基準で設定された最高速度(15km/h)を超えないようにする。
こうして苗移植機の機体毎のばらつきにより、走行速度が速すぎることがないようにする。
【0055】
本実施例の作業機(苗移植機)において、制御装置163は旋回内側の後輪11の伝動軸(図示せず)の回転数の検出に基づいて、旋回時の苗植え付けなどの諸作動を自動的に行わせる旋回連動制御ができる。この制御モードを自動植付開始モードということがあるが、特に、旋回内側の後輪11が所定角度以上操舵されているときに、前記旋回連動制御ができる。
【0056】
この制御の考え方を図11と表1に示す。
【表1】

【0057】
すなわち、ステアリングハンドル34を切り、旋回内側の後輪11のサイドクラッチが切れた状態で、左右伝動軸の回転数を検出し、旋回時の内側の後輪11の伝動軸回転数が設定値N1を超えると苗植付部4を下降させる。その後、後輪11の伝動軸回転数が設定値N2と苗植付け具52aの作動が「切り」状態に入って(=苗植付部4が上げ状態に移って)からステアリングハンドル34の切り操作開始までの後輪11の伝動軸の回転数nの合計値以上になると植付「入り」にする機構である。
【0058】
動力優先のパワーモードでエンジンが回転しているときに自動植付開始モードを設定していると、苗植付部4が上昇を開始したら、前記パワーモードから燃費優先のエコモードに切り替えてエンジン回転数を低下させる。エンジン回転数が低下すると車速が遅くなるので苗移植機はスムーズに旋回をすることができる。そして上記自動植付開始モードにより旋回が終わるころに苗植付部4が下降し始めたらエコモードからパワーモードへ戻す構成とすること、または上記自動植付開始モードにより旋回が終わるころに苗植付部4が下降してフロート56が接地したことを検知するとエンジン回転数をエコモードからパワーモードに変更することができる。いずれの場合も湿田でも苗の植え付け走行が支障なく行える。
【0059】
上記旋回連動制御のフローチャートの一例を図12に示す。
まず、左右の後輪11,11の伝動軸の回転数を伝動軸回転数センサ47で検出し、また設定値N1(旋回開始から機体90°旋回までの内側伝動軸(伝動軸)回転信号設定値)、N2(機体90°旋回から植付クラッチ「入り」までの伝動軸回転信号設定値)、θ1((直進操作時のハンドル切り設定角度の)下限値)、θ2((直進操作時のハンドル切り設定角度の)上限値)をそれぞれ設定ダイヤル208a,208b,206a,206bでセットする。
【0060】
次いで、圃場の硬軟や水深、耕盤深さ等の圃場条件の相違に対応するために、前記回転数N1、N2及びハンドル切り角度θ1、θ2の各設定値を調節する設定ダイヤル(図示せず)により、補正値n0を設定する。
【0061】
苗植付部4の苗植付け具52aが苗の植え付け状態にあるか無いかをハンドル34の近傍にあるフィンガーレバー166(苗植付部4の駆動の入り切り操作をしたり、苗植付部4の昇降操作をしたりできるレバー)の操作に伴う制御装置163の状態で検出して、植付「入」から植付「切」になったとき、苗植付け具52aの作動が「入り」状態に入ってから苗植付け具52aの作動が「切り」状態になるまでの後輪11の伝動軸の回転数nを伝動軸回転数センサ47で検出して、その値(n)を記憶しておく。
【0062】
次いで、左右後輪11の伝動軸の回転数nの差を伝動軸回転数センサ47で検出して、回転数nに差があれば、直進時でないと判断されるので、苗植付部4を上昇開始させるので、エコモードで走行していると、苗植付部4が上昇を開始したら(このステップは図示せず)即座にステップS1に示すステップを経由してパワーモードに切り替えるか又は、図示していない手順で苗植付部4が上昇を開始して完了するまでの間にステップS1に示すステップを経由して同じようにパワーモードに変更し、苗植付部4が上昇した後はパワーモードからエコモードでゆっくり機体の旋回を可能とし、苗植付部4が下降し始めたらエコモードからパワーモードへ戻して(ステップS2参照)、通常の苗植付け動作が可能なようにすることができる。
【0063】
また、ステアリングハンドル34の切り角度(操舵角度)θをステアリングハンドル34のシャフトに設けたハンドル旋回角度センサ(ポテンショメータ)33で検出して直進時以外の時には左右のいずれの方向に旋回中であるかを検出する。
左旋回中であると左後輪11の伝動軸の回転数を検出して、回転数n1がn1≧N1+n0になると、旋回開始から機体が90度以上旋回したことになるので苗植付部4を下げる。
ここで、ステップS2に示すようにエコモードからパワーモードにエンジン回転数を上げて植付時の直進走行をスムーズに行えるように準備をする。
【0064】
次いで、苗植付部4の下降で枕地が均平化される。また、機体を90度旋回させた後には、ハンドル34の旋回度合いを緩めながら前進させ、左後輪11の左右伝動軸の回転数n2がn2≧N2+n+n0になると、苗植付け具52aを作動させて苗の植え付けを開始する。
そして、苗植付部4が接地状態になると、植付「入り」として回転信号カウント値をクリアにする。
【0065】
なお、前記「植付部「下げ」」の次のステップS2で始まるエコモードからパワーモードへ切り替えてエンジン回転数を上げるのではなく、この「植付「入り」」のステップの次の「*」印で示すタイミングで上記ステップS2で始まるエコモードからパワーモードへの切り替えを実行し、植付が開始されるときにエコモードからパワーモードへ切り替える構成としても良い。
【0066】
本実施例の田植機では、自動植付開始モードが設定された時にのみ自動的に旋回外側の後輪11の回転数に応じて、旋回内側の後輪11の駆動を断続的にサイドクラッチを伝動することからなるポンピングブレーキ旋回(ポンピングクラッチ旋回ともいう)を行うことができる。このようにポンピングブレーキ旋回を行うことにより、ブレーキングによる衝撃も少なく、エンジン回転や車速の影響を受けずに後輪11の旋回角度に応じたブレーキングの周期を得ることができる。前記旋回内側の後輪11のクラッチをオン/オフするポンピングブレーキ旋回において、車速が遅ければ遅い程ポンピングの周期を短く、速ければ速いほどポンピングの周期を長くすることで、オペレータに旋回時の違和感がないブレーキングを行うことができる。
なお、前記サイドクラッチを制御するのに代えて、後輪11を制動するサイドブレーキを制御する構成としてもよい。
【0067】
例えば、車速0m/sで旋回内側の後輪11の伝動軸のサイドクラッチ(図示せず)の作動周期(オン/オフを含む)が0.5秒、車速0.5m/sで前記サイドクラッチ作動周期(オン/オフを含む)が1.0秒、車速1.0m/sで前記サイドクラッチ作動周期(オン/オフを含む)が1.5秒となるように一次関数的に車速に応じて旋回内側の後輪11の伝動軸のサイドクラッチ作動周期を変更する。
【0068】
高速走行時は特に後輪11の伝動軸のクラッチをオンするときでも、オフするときでも衝撃が大きい。そこで上記のように、ポンピングブレーキによる衝撃を少なくするために、高速走行時ほどポンピングブレーキ(図示しないクラッチ操作アーム又はブレーキ操作アームなどにより行う)のオン/オフの周期を長めにする。
【0069】
本実施例の6条植の田植機のように、大型の走行車両は旋回時には比較的大回りをする必要がある。しかし、旋回中に旋回内側の後輪11の伝動軸のサイドクラッチを切ったままでおくと、小回りになり過ぎる。しかし、本実施例のように そこで旋回内側の後輪11の伝動軸をポンピングブレーキ制御すると、オペレータに旋回時の違和感がないブレーキングを行うことができ、オペレータの希望する適切な旋回半径で6条植の田植機に相応しい比較的大回りの旋回が可能となる。
右旋回の場合にも左旋回時と全く同様の制御が行われる。
【0070】
なお、前記旋回制御時には苗植付部4の「下げ」から苗植付部4の「入り」までの間に苗植付部4の油圧シリンダー46の油圧感度を鈍感(上昇側に切り替わらない)状態にすることでセンターフロート55などを前上がり状態にすることが望ましい。これはセンターフロートセンサー169の制御目標をセンターフロート55が前上がり状態になるように設定することで行え、センターフロート55を前上がり状態にすることで旋回跡を均平にすることができ、枕地処理が容易に精度よく行える。
【0071】
このようにサイドクラッチが切れている後輪11の伝動軸(伝動軸)の回転数を検出する方法は、動力の伝わっている後輪11の回転数検出方法に比べてよりスリップなどの影響を受け難い特徴がある。また、後輪11より回転の速い伝動軸の回転数を検出するため、容易にその測定精度を上げることができる。その結果、各植え付け条毎の苗の植え付け始めがほぼ一定(枕地幅(D)が一定)となる効果がある。
【0072】
また、上記図12に示す一連の旋回制御の諸動作を行う旋回制御のスタートボタン(スイッチ)184を上記苗植付のスタート位置の設定を行うボタンとして兼用してもよい。
【0073】
本実施例の田植機には、前述のように旋回後の苗の植始め位置の設定を後輪11の回転数に基づいて自動的に行う制御モード(自動植付開始モード)の設定ができる構成を備えている。この制御モード設定は旋回開始タイミングをハンドル34の旋回角度(切れ角)センサ33で検知し、該旋回角度センサ33で検知した旋回開始時からの走行距離を車輪(旋回内側の後輪11の伝動軸)の回転数センサ47の検出値に基づき測定し、前記走行距離が所定値に達すると苗植付レバー14(図2)の操作をしなくても、自動的に苗の植え付けを開始する自動植付開始モードである。
【0074】
前記自動植付開始モードの設定は植始め調節ダイヤル(図示せず)で行い、また前記旋回開始時からの苗の植付け始めまでの走行距離は、図8に示す植始め調節ダイヤル212を回して設定する。
前記植始め調節ダイヤル212の回転角度に応じて前記走行距離を適宜選択できる構成であるが、該ダイヤル212の前記走行距離の調節範囲より外れたダイヤル旋回角度領域(しかも自動植付開始モードに入る前のダイヤル旋回角度領域)に、車両の旋回開始時に自動的に苗植付部4を上昇させる制御モードを選択できるオ−トリフト機能及び車両の後進時に自動的に苗植付部4を上昇させる制御モードを選択できるバックリフト機能を兼用させている。
【0075】
そして、植始め調節ダイヤル212のダイヤル回転操作でオ−トリフト機能に対応した位置に植始め調節ダイヤル212の指示部が「オートリフト」と指示された位置に至ると、当該オートリフト機能がオンになり、オートリフト制御モードが開始すると同時に前記ポンピングクラッチ制御を開始する制御モードを採用することもできる。
【0076】
これは湿田での旋回走行中では、車輪10,11がスリップし易く、自動植付開始モードで苗の植え付け開始位置が予定した位置になり難いため、前記ポンピングクラッチ旋回を選定するが、このときのみ連動してポンピングクラッチ制御をすることができる。
こうしてスリップし易い条件下での車両の旋回走行を容易に行うことができるようになる。
【0077】
また、自動植付開始モードが設定されていない時、例えば路上走行時には前記ポンピングクラッチ旋回をしないで、通常の旋回内側の車輪(後輪11)の伝動軸のサイドクラッチを切りながら旋回する通常の旋回モードとすることもできる。
また、本実施例の田植機では副変速レバー17(図1)が路上走行を選択しているとき又は左右の車輪の各ブレーキペダル(図示せず)同士を連結して、左右のブレーキペダルを同時に作動させるとき(このブレーキペダルの連結により、左右一方のサイドブレーキのみが作動することによる急激な操向による不具合を回避することができる。)には、旋回内側の車輪(後輪11)の伝動軸のサイドクラッチを切りながら旋回する通常の旋回モードとすることで旋回をスムーズに行うことができる。
【0078】
エンジン回転数が高いとき(ガバナーが大きく開いているとき)、急激な減速を行うと、ガバナーが更に開いてエンジン回転数が上がってから後にエンジン回転数が下がる現象がある。そこで、図13に示すフローに従って、急激な減速を行う場合には燃料をエンジンへの燃料供給を一部カットする。例えば、2気筒エンジンの場合は1気筒のエンジンだけを駆動させるようにすることで、急激な減速を行っても支障なくエンジン回転数を下げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は田植機などのエンジン回転数制御により安全性に優れた作業機とすることができ利用可能性が大きい。
【符号の説明】
【0080】
1 乗用型田植機 2 走行車体
3 昇降リンク装置 4 苗植付部
5 施肥装置 10 前輪
11 後輪 12 ミッションケース
13 前輪ファイナルケース
14 苗植付レバー 15 メインフレーム
16 主変速レバー
16a 前進側操作位置センサ
16b 後進側操作位置センサ
17 副変速レバー
17a 副変速レバーセンサ
18 後輪ギヤケース
19 ロータ変速装置カバー(ケース)
20 エンジン 21 ベルト伝動装置
23 HST 24 線引きマーカ
25 植付クラッチケース
26 植付伝動軸 27 ロータ
27a 第1ロータ 27b 第2ロータ
28 施肥伝動機構 30 エンジンカバー
31 座席 32 フロントカバー
33 ハンドル旋回角度センサ
34 ハンドル 35 フロアステップ
36 リヤステップ
37(37a,37b) ロータカバー
38 予備苗載台 39 アクセルペダル
39a アクセルペダルセンサ
40 上リンク 41 下リンク
42 リンクベースフレーム
43 縦リンク 44 連結軸
45 レバー操作ガイド溝
46 昇降油圧シリンダ 47 後輪伝動軸回転数センサ
48 モード切替スイッチ
49 電子燃料噴射装置(EFJ)
50 伝動ケース 51 苗載台
51a 苗取出口 51b 苗送りベルト
52 苗植付装置 52a 苗植付具
53 ブロア用電動モータ
55 センターフロート 56 サイドフロート
58 ブロア 59 エアチャンバ
60 肥料ホッパ 61 繰出部
62 施肥ホース 65 苗植付部支持枠体
65a 支持ローラ 65b 両側辺部材
66 梁部材 66a 突出部
67 支持アーム 68 ロータ支持フレーム
70a 第1駆動軸 70b 第2駆動軸
71 連結部材 72 自在継手
73 伝動軸ケース 74 補強部材
74a 取付片 76 第1リンク部材
77 第2リンク部材 78 スプリング
81 ロータ上下位置調節レバー
82 折曲片 84 ロータ収納用レバー
113 ロータ昇降用モータ
160 作溝器 161 電磁油圧バルブ
162 PTOクラッチソレノイド
163 制御装置 166 フィンガーレバー
169 センタフロートセンサ
184 スタートボタン
206a θ1設定ダイヤル
206b θ2設定ダイヤル
208a N1設定ダイヤル
208b N2設定ダイヤル
212 植始め調節ダイヤル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体にエンジン(20)と、走行輪(11)と、操舵用ハンドル(34)と、エンジン(20)の燃料噴出量を調整するアクセルペダル(39)と、エンジン(20)からの動力を入力して該エンジン(20)からの回転速度を連続的に変速して走行輪(11)に伝動する油圧式無段変速手段(23)と、該油圧式無段変速手段(23)の後段に設けた有段の変速段に変速する機械式変速手段からなる変速装置と、油圧式無段変速手段(23)の変速位置を変更するための手動用主変速レバー(16)と、機械式変速手段の変速位置を変更するための手動用副変速レバー(17)を備え、さらに機体後部に圃場面に底面が接するフロート(55,56)を有する苗植付部(4)を備えた作業機において、
変速装置が前進側の中立位置にあるときのエンジン回転数より変速装置が後進側の中立位置にあるときのエンジン回転数を大きく設定し、変速装置が後進方向の最初の変速段にあるときのエンジン回転数を変速装置が後進側の中立位置にあるときのエンジン回転数より小さく設定する制御装置(163)を設けたことを特徴とする作業機。
【請求項2】
制御装置(163)は、機械式変速装置により設定される路上走行時の走行速度(移動速)におけるエンジン回転数と苗の植付時の走行速度(植付速)におけるエンジン回転数を各変速段毎に変更する制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機。
【請求項3】
制御装置(163)は、機械式変速装置により設定される路上走行時の走行速度(移動速)におけるエンジン回転数が小型特殊自動車用の速度基準を超えないようにする制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機。
【請求項4】
制御装置(163)は、機械式変速装置により設定される苗の植付時の走行速度(植付速)における最高エンジン回転数を動力優先とするパワーモードでは大きくし、燃費優先とするエコモードでは小さくする制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機。
【請求項5】
ハンドル(34)の旋回角度を検出するハンドル旋回角度センサ(33)を設け、制御装置(163)は、機械式変速装置により設定される苗の植付時の走行速度(植付速)における最高エンジン回転数を動力優先とするパワーモードを設定しているときに、前記ハンドル旋回角度センサ(33)で検知した旋回開始時に苗植付部(4)の上昇を開始させ、苗植付部(4)の上昇に連動してエンジン回転数をパワーモードから燃費優先とするエコモードに変更する制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機。
【請求項6】
センタフロート(55)が接地したことを検知するセンタフロートセンサ(169)を設け、制御装置(163)は、エンジン回転数を動力優先とするパワーモードから燃費優先とするエコモードに変更した後、前記センタフロートセンサ(169)がセンタフロート(55)が接地したことを検知するとエンジン回転数をエコモードからパワーモードに変更する制御構成を有することを特徴とする請求項5記載の作業機。
【請求項7】
苗植付部(4)に苗植付クラッチを設け、制御装置(163)は、ハンドル旋回角度センサ(33)で検知した旋回開始時に苗植付部(4)の上昇を開始させ、苗植付部(4)の上昇に連動してエンジン回転数をパワーモードからエコモードに変更した後、前記苗植付クラッチが入りになると再びエンジン回転数をパワーモードに変更する制御構成を有することを特徴とする請求項5記載の作業機。
【請求項8】
制御装置(163)は、主変速レバー(16)による油圧式無段変速手段(23)の変速位置毎にエンジン(20)の燃料噴出量を調整するアクセルペダル(39)の最大踏込み時のエンジン回転数の上限値を設ける制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機。
【請求項9】
制御装置(163)は、主変速レバー(16)による油圧式無段変速手段(23)の変速位置が所定時間内に変速全ストロークの2分の1以上減速側に移動した場合にはエンジン(20)への燃料供給を一部停止する制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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