説明

作業車両

【課題】走行機体に搭載されたエンジンから動力が伝達されるミッションケースに、前記動力にて回転するPTO軸21と、PTO軸21への動力伝達を継断するPTOクラッチ62bと、PTOクラッチ62bを継断操作するPTOレバーとを備えている作業車両において、PTOクラッチ62bが遮断状態であるにも拘らず、ミッションケース内に充填された作動油の粘性の高さに起因して、PTO軸21が連れ回りするおそれを回避する。
【解決手段】PTOレバー43の動力遮断操作に伴うPTOクラッチ62bの遮断動作によって、PTOブレーキ115を制動作動させてPTO軸21の回転を阻止し、PTOレバー43の動力接続操作に伴うPTOクラッチ62bの接続動作によって、PTOブレーキ115を制動解除作動させてPTO軸21の回転を許容するように、PTOクラッチ62bとPTOブレーキ115とを関連させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、農作業用のトラクタ又は土木作業用のホイルローダ等のような作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業車両の一例としてのトラクタにおいては、エンジンから動力が伝達されるミッションケースに、走行機体に連結された作業部に前記動力を伝達するPTO軸と、PTO軸への動力伝達を継断するPTOクラッチとを備えている。ミッションケース内に入力された動力はPTOクラッチを介してPTO軸に出力される。そして、PTO軸からの出力が作業部(例えばロータリ耕耘機やモア装置等)を駆動させる。
【0003】
ところで、非農作業時であってもエンジンの駆動中であれば、PTOクラッチより上流側にある上流側伝動軸は回転し続けている。このため、PTOクラッチが遮断状態であるにも拘らず、ミッションケース内に充填された作動油の粘性の高さに起因して、PTOクラッチより下流側にあるギヤ等を介してPTO軸が連れ回りする場合がある(特に作動油が低温のときに起こり易い)。しかし、非農作業時にPTO軸が駆動することは安全上好ましくない。
【0004】
この点を解消する方策として、特許文献1のトラクタでは、PTOクラッチより下流側にある下流側伝動軸にブレーキ手段が設けられている。当該ブレーキ手段は、下流側伝動軸の外周面に一端を固着された板バネと、当該板バネの他端に設けられた摩擦部材と、下流側伝動軸に対する軸受け部に設けられた受け部材とを備えている。
【0005】
この場合、PTOクラッチが遮断状態であれば、板バネの摩擦部材と軸受け部の受け部材とが接触し、摩擦による制動力にて下流側伝動軸及びPTO軸の回転が阻止される。PTOクラッチが接続状態になると、下流側伝動軸の回転速度の増加に伴い、摩擦部材に作用する遠心力が板バネの弾性復元力に打ち勝って、摩擦部材が受け部材から離れる。その結果、下流側伝動軸が摩擦による制動力を受けずに回転し、ひいてはPTO軸が回転することになる。
【特許文献1】特開2004−245287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1の構成では、PTOクラッチが接続状態に切り換わる際に、板バネの摩擦部材と軸受け部の受け部材とが接触しているため、下流側伝動軸は、PTO軸の回転初期段階において摩擦部材と受け部材との摩擦力に抗して回転することになる。このため、PTO軸の回転初期時には動力伝達ロスが生じて、動力伝達効率が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本願発明は、上記の問題を解消した作業車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を達成するため、請求項1の発明は、走行機体に搭載されたエンジンから動力が伝達されるミッションケースに、前記動力にて回転する回転軸と、前記回転軸への動力伝達を継断するクラッチ手段と、前記クラッチ手段を継断操作するクラッチ操作手段と、前記回転軸を制動させるブレーキ手段とを備えている作業車両であって、前記クラッチ手段と前記ブレーキ手段とは、前記クラッチ操作手段の動力遮断操作に伴う前記クラッチ手段の遮断動作によって、前記ブレーキ手段を制動作動させて前記回転軸の回転を阻止し、前記クラッチ操作手段の動力接続操作に伴う前記クラッチ手段の接続動作によって、前記ブレーキ手段を制動解除作動させて前記回転軸の回転を許容するように関連付けられているというものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記ブレーキ手段は、前記回転軸の外周を外側から弾性的に挟持する二股状の挟持部材を備えている一方、前記クラッチ手段には、その継断動作に連動して前記挟持部材のうち相対向する一対の先端部間に挿抜される調整ピンが取り付けられており、前記調整ピンが前記挟持部材の前記先端部間から離れることによって、前記挟持部材が前記先端部間の対峙間隔を狭めて前記回転軸を弾性的に挟持し、前記調整ピンが前記挟持部材の前記先端部間に差し込まれることによって、前記挟持部材が前記先端部間の対峙間隔を広げて前記回転軸の挟持を解除するように構成されているというものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載した作業車両において、前記回転軸のうち少なくとも前記挟持部材の内周面と接触する箇所には、摩擦係数の大きい素材からなる摩擦部材が取り付けられているというものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載した作業車両において、前記挟持部材における前記一対の先端部のうち、前記調整ピンの挿抜箇所を挟んで前記回転軸と反対側の箇所は、ボルト及びナットにて連結されており、前記ボルトの軸部には、前記一方の先端部を前記他方の先端部に近接させる方向に付勢する付勢部材が設けられているというものである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によると、回転軸への動力伝達を継断するクラッチ手段と、前記回転軸を制動させるブレーキ手段とは、クラッチ操作手段の動力遮断操作に伴う前記クラッチ手段の遮断動作によって、前記ブレーキ手段を制動作動させて前記回転軸の回転を阻止し、前記クラッチ操作手段の動力接続操作に伴う前記クラッチ手段の接続動作によって、前記ブレーキ手段を制動解除作動させて前記回転軸の回転を許容するように関連付けられているから、前記クラッチ操作手段を動力継断操作するという通常の操作だけで、前記クラッチ手段の継断作動に併せて前記ブレーキ手段の制動及び制動解除を実行することになる。
【0013】
このため、前記クラッチ手段が遮断状態のときに前記回転軸が不用意に連れ回りするのを防止できると共に、オペレータの操作負担をも軽減できるという効果を奏する。しかも、前記回転軸の回転初期時(前記クラッチ手段が接続状態に切り換わったとき)には既に、前記ブレーキ手段が制動解除されているから、前記特許文献1のようなブレーキ構造に起因する動力伝達ロスが生ずることはなく、前記回転軸への動力伝達効率の低下を抑制できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面(図1〜図6)を参照しながら、本願発明を作業車両としての農作業用トラクタに適用した実施形態について説明する。
【0015】
(1).トラクタの概要
まず始めに、図1及び図2を参照しながら、トラクタ1の概要について説明する。図1及び図2に示すように、実施形態におけるトラクタ1の走行機体2は、走行部としての左右一対の前車輪3と同じく左右一対の後車輪4とで支持されている。走行機体2の前部に搭載したエンジン5にて後車輪4及び前車輪3を駆動することにより、トラクタ1は前後進走行するように構成されている。
【0016】
走行機体2は、前バンパ6及び前車軸ケース7を有するエンジンフレーム8と、エンジン5からの動力を継断するメインクラッチ(図示省略)が内蔵されたクラッチハウジング10と、エンジン5の回転を適宜変速して両後車輪4及び両前車輪3に伝達するミッションケース11と、クラッチハウジング10にミッションケース11を連結するミッション前面ケース12と、クラッチハウジング10の外側面から外向きに突出するように着脱可能に装着される左右一対のステップフレーム13とを備えている。
【0017】
なお、エンジン5の前方に水冷用のラジエータ9が配置されている。エンジンフレーム8の後端側はエンジン5の左右外側面に連結されている。エンジン5の後面側にはクラッチハウジング10の前面側が連結されている。クラッチハウジング10の後面側には、ミッション前面ケース12を介してミッションケース11の前面側が連結されている。
【0018】
エンジン5はボンネット14にて覆われている。クラッチハウジング10の上面には、操縦コラム15が立設されている。操縦コラム15の上面側には、両前車輪3を左右に動かしてかじ取りする操縦ハンドル16が配置されている。ミッションケース11の上面には操縦座席17が配置されている。左右一対のステップフレーム13の上面には平坦な床板18がそれぞれ設けられている。左右の前車輪3は前車軸ケース7の左右端部に連結されている。また、左右の後車輪4は、ミッションケース11の外側面から外向きに突出する後車軸ケース11aの左右端部に連結されている。なお、左右の後車輪4の上面側は左右のリヤフェンダ4aにて覆われている。
【0019】
ミッションケース11の上面には、走行機体2の後部に連結されるロータリ耕耘機等の作業機(図示省略)を昇降動するための油圧式の作業機用昇降機構20が着脱可能に取付けられている。さらに、ミッションケース11の後側面には、作業機に駆動力を伝える回転軸の一例としてのPTO軸21が後ろ向きに突出するように設けられている。なお、作業機は、ミッションケース11の後部に、左右一対のロワーリンク22及び1本のトップリンク23からなる3点リンク機構24を介して連結される。作業機用昇降機構20における左右のリフトアーム20aがリフトロッド20bを介して左右のロワーリンク22に連結されており、作業機用昇降機構20のリフトアーム20aを上下回動させることによって、3点リンク機構24を介して作業機が昇降動することになる。
【0020】
図1及び図3に示すように、ミッション前面ケース12の前側面には静油圧式無段変速機25(HST)が配置されている。実施形態の静油圧式無段変速機25は、クラッチハウジング10の後部に内蔵されている。エンジン5の回転動力は、メインクラッチから後ろ向きに突出する主動軸26を介して、静油圧式無段変速機25に伝達される。次いで、静油圧式無段変速機25からの出力が副変速ギヤ機構59にて適宜変速され、当該変速出力が後車輪用差動ギヤ機構61を介して後車輪4及び前車輪3に伝達されることになる。一方、主動軸26を経由した回転動力は、PTO伝動軸62aを介してPTO減速機構62に伝達され、PTO減速機構62にて適宜減速されてから、クラッチ手段の一例としてのPTOクラッチ62bを介してPTO軸21に伝達されることになる。
【0021】
図1及び図2に示すように、床板18から上方に突出する操縦コラム15の左方には、クラッチペダル31が配置されている。オペレータがクラッチペダル31を足踏み操作することによって、クラッチハウジング10内のメインクラッチが遮断作動することになる。一方、操縦コラム15より右方には、左右の後車輪4制動用のブレーキ機構(図示省略)をそれぞれ作動させる左右のブレーキペダル32が配置されている。ブレーキペダル32の足踏み操作によってブレーキ機構が作動し、左右の後車輪4が制動されることになる。
【0022】
なお、操縦ハンドル16の下方で操縦コラム15の左方には、前進又は後進に移動方向を切換えるリバーサレバー27が配置されている。操縦ハンドル16の下方で操縦コラム15の右方には、エンジン5の回転数を変更するアクセルレバー28が配置されている。
【0023】
図2に示すように、操縦座席17の右方には、静油圧式無段変速機25を変速操作するための主変速レバー36が配置されている。主変速レバー36の手動操作にて作動する主変速用油圧シリンダ37(図4参照)に、静油圧式無段変速機25の変速制御部(トラニオン軸)が連結されていて、主変速レバー36の手動操作によって静油圧式無段変速機25が変速作動することになる。また、操縦座席17の右方には、作業機昇降レバー40及び耕耘深さ調節レバー41も配置されている。作業機昇降レバー40又は耕耘深さ調節レバー41の手動操作によって、作業機用昇降機構20のリフトアーム20aが上下回動することになる。
【0024】
図2に示すように、操縦座席17の左方には、副変速ギヤ機構59を切り換え操作するための副変速レバー42が配置されている。詳細は後述するが、副変速レバー42の手動操作によって、副変速ギヤ機構59の各変速ギヤ71,72,73は、低速位置、中速位置及び高速位置の3段階に択一的に切り換えられることになる。低速位置と中速位置との間、及び中速位置と高速位置との間には、副変速出力が零になる中立位置がそれぞれ形成されている。また、操縦座席17の左方には、PTO軸21への動力伝達を継断操作するクラッチ操作手段の一例としてのPTOレバー43が配置されている。
【0025】
(2).クラッチハウジング、ミッション前面ケース及びミッションケースの内部構造
次に、図3を参照しながら、クラッチハウジング10、ミッション前面ケース12、ミッションケース11の内部構造を説明する。
【0026】
クラッチハウジング10の内部は、ハウジング内壁50にて前後に仕切られていて、ハウジング内壁50を挟んでハウジング前室51とハウジング後室52とに分かれている。ミッション前面ケース12の内部は、前面壁53にて前後に仕切られていて、前面壁53を挟んで前面ケース前室54と前面ケース後室55とに分かれている。同様に、ミッションケース11の内部は、ミッション内壁56にて前後に仕切られていて、ミッション内壁56を挟んでミッション前室57とミッション後室58とに分かれている。
【0027】
実施形態では、ハウジング後室52と前面ケース前室54とで形成された閉鎖空間には、静油圧式無段変速機25が配置されている。前面ケース後室55とミッション前室57とで形成された閉鎖空間には、副変速ギヤ機構59及び前車輪駆動機構60が配置されている。ミッション後室58の内部には、後車輪用差動ギヤ機構61及びPTO減速機構62が配置されている。
【0028】
次に、静油圧式無段変速機25の主変速構造について説明する。静油圧式無段変速機25は、変速用油圧ポンプ63と、当該変速用油圧ポンプ63にて作動する変速用油圧モータ64とを備えている(図4参照)。ハウジング前室51には、静油圧式無段変速機25から前向きに突出する変速入力軸65の前端側がハウジング内壁50を貫通して突き出ている。変速入力軸65の前端側には、カップリング66を介して主動軸26が連結されている。
【0029】
前面ケース後室55の内部には、静油圧式無段変速機25から後ろ向きに突出する主変速出力軸67が前面壁53を貫通して突き出ている。主変速出力軸67には、スプラインを介して主変速出力ギヤ68が被嵌されている。主変速出力ギヤ68は、副変速ギヤ機構59の一構成要素であるカウンタ軸69に被嵌されたカウンタ入力ギヤ70と噛み合っている。従って、静油圧式無段変速機25における主変速出力軸67からの変速出力は、主変速出力ギヤ68及びカウンタ入力ギヤ70を介して、カウンタ軸69に伝達されることになる。
【0030】
次に、副変速ギヤ機構59について説明する。カウンタ軸69には、低速カウンタギヤ71と中速カウンタギヤ72とが一体的に形成されている。また、カウンタ軸69には、高速カウンタギヤ73がスプラインを介して被嵌されている。
【0031】
副変速ギヤ機構59の一構成要素である副変速出力軸77は、低速カウンタギヤ71に噛み合う低速出力ギヤ74と、中速カウンタギヤ72に噛み合う中速出力ギヤ75と、高速カウンタギヤ73に噛み合う高速出力ギヤ76とを備えている。低速出力ギヤ74及び高速出力ギヤ76は副変速出力軸77に回転可能に被嵌されている。副変速出力軸77には、副変速スライダ78が軸線方向にスライド可能で且つ相対回転不能にスプライン嵌合させている。中速出力ギヤ75は副変速スライダ78に一体的に形成されている。
【0032】
従って、副変速スライダ78を副変速シフタ79にてスライド移動させることにより、中速出力ギヤ75が中速カウンタギヤ72に噛み合う。また、副変速スライダ78は、副変速シフタ79によるスライド移動にて、低速用クラッチ爪80を介して低速出力ギヤ74に連結可能で、且つ、高速用クラッチ爪81を介して高速出力ギヤ76に連結可能に構成されている。すなわち、副変速出力軸77の回転動力は、各出力ギヤ74,75,76によって低速・中速・高速の3段階に変速されることになる。
【0033】
一方、副変速出力軸77の後端側は、ミッション内壁56を貫通してミッション後室58に突出していて、当該後端部には、後車輪用差動ギヤ機構61に回転動力を伝達するためのピニオンギヤ82が一体的に形成されている。従って、副変速出力軸77からの動力は、ピニオンギヤ82及び後車輪用差動ギヤ機構61を介して左右の後車輪4に伝達されることになる。
【0034】
次に、前車輪駆動機構60について説明する。副変速出力軸77の前端側には、四駆用小径ギヤ83及び四駆用大径ギヤ84を介して、前車輪駆動機構60の一構成要素である前車輪用駆動取り出し軸85が連結されている。ミッション前面ケース12の前面壁53を貫通する前車輪用駆動取り出し軸85の後端側には、相対回転可能な四駆用大径ギヤ84と、四駆用大径ギヤ84を前車輪用駆動取り出し軸85に係脱するための前車輪用出力クラッチ86とが配置されている。
【0035】
また、前車輪用駆動取り出し軸85の前端側は、前面ケース前室54内に突出していて、自在軸継手87を介して前車輪用伝動軸88の後端側に連結されている。前車輪用伝動軸88は走行機体2の前側に向けて延びており、前車輪用伝動軸88の前端側から前車軸ケース7を介して前車輪3に回転動力を伝達するように構成されている。なお、前車輪用伝動軸88には、合成樹脂パイプ製のシャフト保護カバー89が被嵌されている。
【0036】
(3).トラクタの油圧回路構造
次に、図4を参照しながらトラクタ1の油圧回路90構造について説明する。トラクタ1の油圧回路90は、エンジン5の回転力にて作動する作業用油圧ポンプ94及びチャージ用油圧ポンプ95を備えている。作業機用油圧ポンプ94は、作業機用昇降機構20の一構成要素である単動式の昇降油圧シリンダ96に作動油を供給するための昇降用油圧切換弁97に接続されている。この場合、作業機昇降レバー40の手動操作にて昇降用油圧切換弁97を切り換えて昇降油圧シリンダ96を作動させることにより、リフトアーム20aが上下回動する。その結果、3点リンク機構24を介して作業機が昇降動することになる。
【0037】
前述の通り、静油圧式無段変速機25は、可変容量形の変速用油圧ポンプ63と、変速用油圧ポンプ63から吐出する高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ64とを備えている。変速用油圧ポンプ63と変速用油圧モータ64とは、閉ループ油路91を介してそれらの吸入側及び吐出側が接続されている。閉ループ油路91には、チャージ用油圧ポンプ95から作動油が補給される。また、チャージ用油圧ポンプ95は、主変速用油圧切換弁98を介して主変速用油圧シリンダ37に接続されている。
【0038】
従って、主変速レバー36の手動操作にて主変速用油圧切換弁98を切り換えて主変速用油圧シリンダ37を作動させることにより、変速入力軸65を介して駆動される変速用油圧ポンプ63の斜板63a角度が調節され、その結果、変速用油圧モータ64を介して駆動する主変速出力軸67の回転数が変わることになる。なお、図4に示すように、油圧回路90は、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルクーラ、オイルフィルタ等も備えている。
【0039】
(4).PTO駆動系の構造
次に、図3及び図5を参照しながら、PTO駆動系の構造について説明する。静油圧式無段変速機25には、主変速出力軸67と平行状に延びるPTO駆動軸101が後ろ向きに突設されている。PTO駆動軸101は、前面壁53を貫通して前面ケース後室55内に突き出ている。PTO駆動軸101の後端側には、カップリング102を介してPTO伝動軸62aが同心状に連結されている。PTO伝動軸62aは、ミッション前面ケース12内の中仕切り壁103とミッション内壁56とに、軸受を介して回転可能に軸支されている。
【0040】
PTO駆動軸101の回転動力は、PTO伝動軸62aを介して、ミッション後室58の内部に配置されたPTO減速機構62に伝達される。PTO減速機構62は、PTO伝動軸62aの回転動力を適宜減速してからPTO軸21に伝達するためのものであり、PTO伝動軸62aにカップリング104を介して同心状に連結されたPTO中継軸105と、PTO軸21の前端側に回転可能に被嵌された減速ギヤ106と、PTO軸21の中途部に被嵌されたPTOクラッチ62bとを備えている。
【0041】
PTO中継軸105は、ミッション後室58内の中仕切り壁107とミッションケース11の後壁面とに、軸受を介して回転可能に軸支されている。PTO中継軸105の中途部には、PTO軸21の減速ギヤ106に常時噛み合うPTO入力ギヤ108が一体的に固着されている。PTO入力ギヤ108と減速ギヤ106との噛み合いによって、PTO中継軸105はPTO軸21に動力伝達可能に連結されている。
【0042】
PTOクラッチ62bは、PTO中継軸105からPTO軸21への動力伝達を継断するためのものであり、PTO軸21の中途部に、相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能に被嵌されている。実施形態では、PTOクラッチ62b(クラッチ手段)として噛み合い式のドグクラッチを採用している。
【0043】
PTOクラッチ62bを後方にスライドさせた接続状態(図5(a)参照)では、PTO軸21と減速ギヤ106とがPTOクラッチ62bを介して一体回転するように連結される。その結果、PTO中継軸105の回転動力が、PTO入力ギヤ108、減速ギヤ106及びPTOクラッチ62bを介してPTO軸21に伝達されることになる。
【0044】
PTOクラッチ62bを前方にスライド移動させた遮断状態(図3及び図5(b)参照)では、PTO軸21と減速ギヤ106との連結が解除される。その結果、減速ギヤ106はPTO軸21に対して自由回転可能な状態となり、PTO中継軸105からPTO軸21への動力伝達が遮断されることになる。
【0045】
PTOクラッチ62bには、PTO中継軸105やPTO軸21と平行状に配置されたシフタ軸111に沿ってスライド移動可能なPTOシフトフォーク110を係合させている。PTOシフトフォーク110は、PTOリンク機構112を介して操縦座席17の左方に配置されたPTOレバー43に連動連結されている。
【0046】
PTOレバー43の動力接続操作にてPTOシフトフォーク110をシフタ軸111に沿って後方にスライド移動させ、PTOクラッチ62bをPTO軸21に沿って後方にスライド移動させることにより、PTOクラッチ62bは接続状態になり、PTO軸21と減速ギヤ106とがPTOクラッチ62bを介して一体回転するように連結されることになる(図5(a)参照)。
【0047】
逆に、PTOレバー43の動力遮断操作にてPTOシフトフォーク110をシフタ軸111に沿って前方にスライド移動させ、PTOクラッチ62bをPTO軸21に沿って前方にスライド移動させることにより、PTOクラッチ62bは遮断状態になり、PTO軸21と減速ギヤ106との連結が解除されることになる(図3及び図5(b)参照)。
【0048】
(5).ブレーキ手段の詳細構造
次に、図3、図5及び図6を参照しながら、PTO軸21を制動させるブレーキ手段の詳細構造について説明する。PTO軸21のうちPTOクラッチ62bとミッションケース11の後壁面との間の箇所には、ブレーキ手段の一例としてのPTOブレーキ115が配置されている。
【0049】
PTOブレーキ115は、PTOクラッチ62bが遮断状態のときにPTO軸21を回転不能に保持するためのものである。PTOクラッチ62bとPTOブレーキ115とは、PTOレバー43の動力遮断操作に伴うPTOクラッチ62bの遮断動作によって、PTOブレーキ115を制動作動させてPTO軸21の回転を阻止し、PTOレバー43の動力接続操作に伴うPTOクラッチ62bの接続動作によって、PTOブレーキ115を制動解除作動させてPTO軸21の回転を許容するように関連付けられている。
【0050】
実施形態のPTOブレーキ115は、PTO軸21の外周を外側から弾性的に挟持する挟持部材としての挟持ばね116と、PTOクラッチ62bに取り付けられた調整ピン117と、PTO軸21の中途部を囲繞する摩擦部材118とを備えている。実施形態の摩擦部材118は、摩擦係数の大きいゴムや合成樹脂等の素材製のものである。なお、摩擦部材118は必ずしもPTO軸の外周を囲繞していなくてもよく、少なくとも挟持ばね116における両大径挟持部120a(詳細は後述する)の内周面と接触する箇所に設けていればよい。
【0051】
挟持ばね116は、板ばねを長手中途部で二つ折りして二股状に形成されたものである。挟持ばね116における一対の挟持片120は下向きに延びていて、当該両挟持片120がPTO軸21の中途部(摩擦部材118の箇所)を外側から挟み込んでいる。挟持ばね116における基端側の折り曲げ部121は、PTO軸21の上方においてミッションケース11の後壁面に内側からねじ込まれた吊りボルト122に引っ掛けられた状態で、吊りボルト122に螺合された固定ナット123と吊りボルト122の頭部122aとで挟持されている。各挟持片120は、自身の弾性復原力にて、双方の先端側を互いに近接させる方向に常時付勢されている。
【0052】
挟持ばね116の各挟持片120は、PTO軸21における摩擦部材118の箇所に密接可能な大径挟持部120aと、大径挟持部120aより下方に位置する小径湾曲部120bとを備えている。双方の小径湾曲部120bの間に形成された隙間は、PTOクラッチ62bの継断動作に連動して、調整ピン117のテーパ状先端部117aが挿抜されるピン案内空間S(図6参照)になっている。
【0053】
両挟持片120の先端部において小径湾曲部120b(調整ピン117の挿抜箇所)を挟んでPTO軸21と反対側の箇所、すなわち、小径湾曲部120bより下方に位置する双方の箇所は、当該両箇所を厚み方向にずれ可能に貫通するボルト124とこれに螺合されたダブルナット125とによって連結されている。この場合、ボルト124のうち一方の挟持片120から外側に露出した軸部124aに、付勢部材の一例としてのコイルばね127がワッシャー126を介して抜け不能に被嵌されている。コイルばね127は、自身の弾性付勢力にて、一方の挟持片120の先端部を他方の挟持片120の先端部に近接させる方向(両先端部が重なり合うような方向)に常時付勢されている。
【0054】
PTOクラッチ62bに取り付けられた調整ピン117は、PTO軸21の下方においてPTO軸21と平行状に延びており、PTOクラッチ62bと一体的にPTO軸21の軸線方向に沿って移動するように構成されている。
【0055】
PTOクラッチ62bを後方にスライド移動させて接続状態にすると、調整ピン117がPTOクラッチ62bと共に後方に移動し、テーパ状先端部117aがピン案内空間Sに差し込まれる。このとき、テーパ状先端部117aの直径は基端側に行くほど大きいので、テーパ状先端部117aが双方の小径湾曲部120bに密着して、双方の小径湾曲部120bを外側に押し広げる。そうすると、両挟持片120の先端部間の対峙間隔Wが挟持ばね116の弾性に抗して広がるため、双方の大径挟持部120aがPTO軸21における摩擦部材118の箇所から離れて、挟持ばね116によるPTO軸21の挟持が解除される。換言すると、挟持ばね116が制動解除作動する。その結果、PTO軸21が摩擦による制動力を受けずに回転することになる(図5(a)及び図6(a)参照)。
【0056】
PTOクラッチ62bを前方にスライド移動させて遮断状態にすると、調整ピン117がPTOクラッチ62bと共に前方に移動し、テーパ状先端部117aがピン案内空間Sから引き抜かれる。このとき、テーパ状先端部117aの直径は先端側に行くほど小さいので、テーパ状先端部117aが双方の小径湾曲部120bから離れる。そうすると、両挟持片120の先端部間の対峙間隔Wが挟持ばね116の弾性復元力にて狭まるため、双方の大径挟持部120aがPTO軸21における摩擦部材118の箇所に密接して、挟持ばね116がPTO軸21を弾性的に挟持する。換言すると、挟持ばね116が制動作動する。その結果、摩擦による制動力にてPTO軸21の回転が阻止されることになる(図5(b)及び図6(b)参照)。
【0057】
(6).作用効果
以上の構成によると、PTOクラッチ62bとPTOブレーキ115とは、PTOレバー43の動力遮断操作に伴うPTOクラッチ62bの遮断動作によって、PTOブレーキ115を制動作動させてPTO軸21の回転を阻止し、PTOレバー43の動力接続操作に伴うPTOクラッチ62bの接続動作によって、PTOブレーキ115を制動解除作動させてPTO軸21の回転を許容するように関連付けられているから、PTOレバー43を動力遮断操作すればPTOブレーキ115が制動作動し、PTOレバー43を動力接続操作すればPTOブレーキ115が制動解除作動することになる。
【0058】
すなわち、PTOレバー43を動力継断操作するという通常の操作だけで、PTOクラッチ62bの継断作動に併せてPTOブレーキ115の制動及び制動解除を実行するから、PTOクラッチ62bが遮断状態のときにPTO軸21が不用意に連れ回りするのを防止できると共に、オペレータの操作負担をも軽減できる。しかも、PTO軸21の回転初期時(PTOクラッチ62bが接続状態に切り換わったとき)には既に、PTOブレーキ115が制動解除されているから、前記特許文献1のようなPTOブレーキ構造に起因する動力伝達ロスが生ずることはなく、PTO軸21への動力伝達効率の低下を抑制できる。
【0059】
また、実施形態では、PTOブレーキ115がPTO軸21の外周を外側から弾性的に挟持する二股状の挟持ばね116を備えている一方、PTOクラッチ62bには、その継断動作に連動して挟持ばね116における両挟持片120の小径湾曲部120b間に形成されたピン案内空間Sに挿抜される調整ピン117が取り付けられている。
【0060】
そして、調整ピン117のテーパ状先端部117aが挟持ばね116における双方の小径湾曲部120bから離れることにより、挟持ばね116における両先端部間の対峙間隔Wを狭めて、挟持ばね116がPTO軸21を弾性的に挟持し、調整ピン117のテーパ状先端部117aが挟持ばね116における双方の小径湾曲部120b間に差し込まれることにより、挟持ばね116における両先端部間の対峙間隔Wを広げて、挟持ばね116によるPTO軸21の挟持を解除するように構成されている。
【0061】
このように、挟持ばね116とその対峙間隔Wを拡縮する調整ピン117という簡単な構成で、PTO軸21の連れ回りを防止するから、PTOブレーキ115の構成部品点数が少なくて済み、故障しにくい。また、製造コスト低減の一助にもなる。
【0062】
更に、実施形態では、PTO軸21のうち少なくとも挟持ばね116における両大径挟持部120aの内周面と接触する箇所に、摩擦係数の大きい素材からなる摩擦部材118が取り付けられているので、PTOレバー43を動力遮断操作したとき(PTOクラッチ62bを遮断状態にしたとき)は、挟持ばね116と摩擦部材118との摩擦力にて、PTO軸21の回転を確実に阻止できる。
【0063】
その上、挟持ばね116における両先端部のうち、小径湾曲部120bを挟んでPTO軸21と反対側の箇所は、当該両箇所を厚み方向にずれ可能に貫通するボルト124とこれに螺合されたダブルナット125とによって連結されており、ボルト124のうち一方の挟持片120から外側に露出した軸部124aに、コイルばね127が設けられているから、コイルばね127の弾性付勢力にて、PTO軸21に対する挟持ばね116の挟持力を補完でき、挟持ばね116によるPTO軸21の挟持制動効果をより一層向上できるのである。
【0064】
(6).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明はトラクタに限らず、田植機やコンバイン等の農作業機や、ホイルローダ等の特殊作業用車両にも適用可能である。例えば前述の実施形態では、回転軸としてのPTO軸の連れ回りを防止する構成であったが、これに限らず、ミッションケース11内のクラッチより下流側にある回転軸であれば、本願発明を適用することが可能である。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】トラクタの左側面図である。
【図2】トラクタの平面図である。
【図3】クラッチハウジング、ミッション前面ケース及びミッションケースの側面断面図である。
【図4】トラクタの油圧回路図である。
【図5】(a)はPTOクラッチが接続状態のときのミッションケース後部の側面断面図、(b)はPTOクラッチが遮断状態のときのミッションケース後部の側面断面図である。
【図6】(a)はPTOクラッチが接続状態のときのPTOブレーキの正面断面図、(b)はPTOクラッチが遮断状態のときのPTOブレーキの正面断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 トラクタ
2 走行機体
5 エンジン
10 クラッチハウジング
11 ミッションケース
12 ミッション前面ケース
21 回転軸としてのPTO軸
43 クラッチ操作手段としてのPTOレバー
62 PTO減速ギヤ機構
62a PTO伝動軸
62b クラッチ手段としてのPTOクラッチ
101 PTO駆動軸
105 PTO中継軸
106 減速ギヤ
108 PTO入力ギヤ
110 PTOシフトフォーク
111 シフタ軸
115 ブレーキ手段としてのPTOブレーキ
116 挟持部材としての挟持ばね
117 調整ピン
118 摩擦部材
120 挟持片
124 ボルト
125 ダブルナット
127 コイルばね



【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に搭載されたエンジンから動力が伝達されるミッションケースに、前記動力にて回転する回転軸と、前記回転軸への動力伝達を継断するクラッチ手段と、前記クラッチ手段を継断操作するクラッチ操作手段と、前記回転軸を制動させるブレーキ手段とを備えている作業車両であって、
前記クラッチ手段と前記ブレーキ手段とは、前記クラッチ操作手段の動力遮断操作に伴う前記クラッチ手段の遮断動作によって、前記ブレーキ手段を制動作動させて前記回転軸の回転を阻止し、前記クラッチ操作手段の動力接続操作に伴う前記クラッチ手段の接続動作によって、前記ブレーキ手段を制動解除作動させて前記回転軸の回転を許容するように関連付けられている、
作業車両。
【請求項2】
前記ブレーキ手段は、前記回転軸の外周を外側から弾性的に挟持する二股状の挟持部材を備えている一方、前記クラッチ手段には、その継断動作に連動して前記挟持部材のうち相対向する一対の先端部間に挿抜される調整ピンが取り付けられており、
前記調整ピンが前記挟持部材の前記先端部間から離れることによって、前記挟持部材が前記先端部間の対峙間隔を狭めて前記回転軸を弾性的に挟持し、前記調整ピンが前記挟持部材の前記先端部間に差し込まれることによって、前記挟持部材が前記先端部間の対峙間隔を広げて前記回転軸の挟持を解除するように構成されている、
請求項1に記載した作業車両。
【請求項3】
前記回転軸のうち少なくとも前記挟持部材の内周面と接触する箇所には、摩擦係数の大きい素材からなる摩擦部材が取り付けられている、
請求項2に記載した作業車両。
【請求項4】
前記挟持部材における前記一対の先端部のうち、前記調整ピンの挿抜箇所を挟んで前記回転軸と反対側の箇所は、ボルト及びナットにて連結されており、前記ボルトの軸部には、前記一方の先端部を前記他方の先端部に近接させる方向に付勢する付勢部材が設けられている、
請求項2又は3に記載した作業車両。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−286256(P2009−286256A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140779(P2008−140779)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】