説明

充放電試験装置

【課題】被試験体の電圧がゼロ近傍においても高精度定電流で放電でき,必要に応じて逆極充電できる。
【解決手段】直流電源の正,負端子間に小電流用と,大電流用のスイッチングアームを並列に設け,該アームを構成するスイッチング素子の直列接続点にリアクトルを介して被試験体の一端を接続し,他端を電圧蓄積回路の一端に接続する。該電圧蓄積回路の他端を直流電源の負の端子に接続する。バイアス安定化スイッチング素子のオン,オフによって該電圧蓄積回路の端子間電圧を一定に保持してゼロ電圧被試験体を通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,一次電池,二次電池,電気二重層コンデンサ等の被試験体に電流を流して,充電特性や放電特性を試験するための充放電試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来このような装置としては,例えば特許文献1に示すようなものがあった。
【0003】
この特許文献1に示されている技術では,図5に示すように電子負荷装置32は,被試験装置34の両端に接続された端子32a,32bを有している。この端子間にバイアス電源36,トランジスタ38,抵抗器310が直列に接続されている。この抵抗器310の両端間の電圧が抵抗器312を介して演算増幅器314に供給されている。演算増幅器314には,被試験装置34から流そうとする電流を表す設定値が制御回路316から供給されている。演算増幅器314は抵抗器310の両端間電圧が,設定値に対応した値になるようにトランジスタ38の導通度を制御している。バイアス電源36は被試験装置34の電圧が低下したときにも,トランジスタ38を導通可能として被試験装置34の試験を可能とするためのものである。
【特許文献1】特開2001−134326号(段落番号0001乃至0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記の電子負荷装置32を,例えば大容量の電池である被試験装置34に対して使用とする場合,主回路に挿入されている抵抗器310における消費電力が大きくなり,電子負荷装置32が大型になる上に,熱による損失が大きくなっていた。そのため上記の電子負荷装置は,大容量の電池などの試験には不適切であった。また高周波成分が電源側に戻らない装置とする必要があった。
【0005】
また,二次電池は使用状態が,浅い放電から継続し充電を繰り返して用いるようなサイクル使用の時,及び浮動充電状態の時も,電池の心臓部である活物質の一部が可逆反応し難い不活性状態となって蓄電可能な容量が萎んでくる。このような劣化したように見える電池の容量回復手法として0ボルト迄,完全放電した直後に電池の極性を逆に接続した状態で強制的に通電する逆充電と,通常充電を交互に実施する方法が効果を発揮することが既に知られている。この逆充電を指令して自動的に繰り返し充放電する機能を付加した装置を,大容量の電池などの試験体に使用する場合にも,小型で熱損失が少ない充放電試験装置として,大電流から小電流まで精度の高い電流値で制御出来るようにし,高周波成分が電源側に戻らない特性で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の充放電試験装置は次に示す構成を有する。出力端に平滑コンデンサが接続された直流電源と、該直流電源に対してそれぞれ並列接続された、各ダイオードが逆並列接続された第1、第2の半導体スイッチング素子の直列接続体である第1スイッチングアーム、各ダイオードが逆並列接続された第3、第4の半導体スイッチング素子の直列接続体である第2スイッチングアーム、および、各ダイオードが逆並列接続された第5、第6の半導体スイッチング素子の直列接続体である第3スイッチングアームと、を備える。第1、第2の半導体スイッチング素子の制御電極に接続し、第1、第2の半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行う第1制御回路と、第3、第4の半導体スイッチング素子の制御電極に接続し、バイアス電圧検出手段でのバイアス電圧検出結果に応じて第3、第4の半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行う第2制御回路と、第5、第6の半導体スイッチング素子の制御電極に接続し、第5、第6の半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行う第3制御回路と、を備える。被試験体の+極と第1、第2の半導体スイッチング素子の中点との接続回路に挿入された第1リアクトル、+極と前記第5、第6の半導体スイッチング素子の中点との接続回路に挿入された第3リアクトル、および被試験体の−極と前記第3、第4の半導体スイッチング素子の中点との接続回路に挿入された第2リアクトルと、を備える。被試験体の+極側の電流または電圧を検出する電流検出手段または電圧検出手段と、被試験体の前記−極側に接続されたコンデンサと抵抗器との直列接続体であるバイアス電圧蓄積回路と、該バイアス電圧蓄積回路のバイアス電圧を検出するバイアス電圧検出手段と、電流検出手段または電圧検出手段の検出結果に応じて、第1制御回路と前記第3制御回路とを高速で切り替える切替指示手段と、被試験体の逆充電電流を制御するように、第2制御回路と、第1制御回路または第3制御回路とに、パルス幅制御または導電度制御のための制御信号を与える逆充電制御手段と、を備える。
【0007】
また、本発明の充放電試験装置は、第1、第2の半導体スイッチング素子と第3、第4の半導体スイッチング素子とのオン・オフの組み合わせと、第5、第6の半導体スイッチング素子と第3、第4の半導体スイッチング素子とのオン・オフの組み合わせと、により電流容量の異なる放電と充電とを高速で切り替える。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば,安定した電圧を被試験体に直列に印加した状態で0ボルト近傍の放電が高精度の定電流で実施でき,逆極性で充電できて試験体の回復充電も可能となって,しかも放電電力の回生などで無駄な消費を無くした安価な装置の提供を可能にし,省エネルギー,省資源に寄与し工業的価値が大きい。また、小電流充電から大電流放電へのような切り替えを高速で実現できるとともに、この切り替え時に精度の高い電流制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明による実施の形態を図1のブロック図および,図2の電流波形図に示して説明する。直流電源の一対の出力端1,2に接続された平滑コンデンサC3に並列に第1スイッチングアームA1,第2スイッチングアームA2が接続されている。第1と第2の半導体スイッチング素子Q1とQ2が直列に中点P1で接続されて第1スイッチングアームA1を形成している。第3と第4の半導体スイッチング素子Q3とQ4が直列に中点P2で接続されて第2スイッチングアームA2を形成している。上記各半導体スイッチング素子にはダイオードD1乃至D4が逆並列接続されている。中点P1と中点P2との間に電池などの被試験体20がリアクトルL1,L2とを介して接続される。被試験体としては一次電池,二次電池の他に,電気二重層コンデンサ,燃料電池などエネルギー蓄積手段やエネルギー発生手段が接続される。被試験体の中には充電を禁止されているものもあるが,全て放電して性能を試験する為のものである。
【0010】
半導体スイッチング素子Q1乃至Q4には,その制御電極に供給される信号の有無によって導通路(エミッタ・コレクタ間など)がオン,オフとなるものの他に導伝度が変化するものも含まれる。半導体スイッチング素子Q1,Q2の制御電極に対して第1制御回路11が接続され,半導体スイッチング素子Q3,Q4の制御電極に対して第2制御回路12が接続されていて,半導体スイッチング素子Q1とQ2が同時にオンとならないように制御信号が交互に供給される。半導体スイッチング素子Q3とQ4についても同様,休止期間を挟んで交互にオンとなる信号が供給される。
【0011】
第1制御回路11と半導体スイッチング素子Q1,Q2およびリアクトルL1とによって充放電制御手段が形成される。被試験体20に直列接続されているコンデンサC2と抵抗器R2の接続体で形成された電圧蓄積回路22と,第2制御回路12,半導体スイッチング素子Q3,Q4およびリアクトルL2とバイアス電圧検出手段14によってバイアス電圧安定化手段が形成される。
【0012】
バイアス電圧安定化手段の動作原理は,コンデンサC2に対して抵抗器R2を介して充電電流パルスと放電電流パルスが交互に繰返し通電されたときコンデンサC2の端子間に微視的に見て鋸歯波の電圧が現れる。コンデンサ容量が大きくなれば鋸歯波が高さの低い,言い換えればリップル電圧の小さい直流となる。抵抗器R2はリップル電流を抑える働きをする。半導体スイッチング素子Q3,Q4のオン,オフのパルス幅は,バイアス電圧検出手段14によって得た検出電圧と基準電圧との誤差電圧をゼロにするように第2制御回路12が制御信号を半導体スイッチング素子Q3,Q4に供給する。このように第2スイッチングアームが直流電源の出力端1,2に接続された平滑コンデンサC3の直流電圧をパルスに変換して所望の安定した電圧としてコンデンサC2の端子間蓄積するので図5の,従来のようなバイアス用の別の電源を必要としない利点がある。リアクトルL2の作用は,半導体スイッチング素子Q4がオンからオフになった瞬間,この蓄積エネルギーがダイオードD3を経て平滑コンデンサC3を充電する。このようにして平滑コンデンサC2の放電エネルギーが電源側に回生され無駄な消費がない。
【0013】
第1制御回路11と電流検出手段13及び第1スイッチングアームA1で構成される充放電制御手段について述べる。図1で,Vo1>Vo2の時に被試験体20を充電する。Vo1<Vo2の時に被試験体20が放電する。
図2に示すような充電電流波形Icと放電電流波形Idが被試験体に通電されるように充放電手段が形成されたが,半導体スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング電流波形は,図4に示すようにスイッチング直後に高周波成分hfが含まれていて,充電電流Ic,放電電流Id共に,立ち上がりのhfの部分に振動波形が現れている。Tc1,Tc2は充電電流の通電時間,Td1,Td2は放電電流の通電時間を示す,それぞれの通電開始時に振動波形が現れているので,試験条件均一化の観点から被試験体の多くは振動波形の無い電流が要求されるので後述のフィルターによって吸収した。充電時間Tc1,Tc2は10秒間,1時間など設定されたように指令装置(図示していない)からの信号によって操作される。次に充電制御について述べる。図1の第1スイッチングアームA1はスイッチング素子Q1がオン,Q2がオフの時リアクトルL1を介して被試験体20を充電する。同時にC2も充電しようとしてC2端子電圧が上がるとスイッチング素子Q4がオンして電圧を下げる方向に作用するのでバイアス電圧Vbは一定に保たれる。スイッチング素子Q1の制御は,電流検出手段13で検出した電流値と基準値との誤差をゼロにする方向に第1制御回路11がスイッチング素子Q1に信号を与えて一定電流で充電するように制御する。ここでは電流制御の検出手段で図示されているが電圧検出手段を20の端子間に接続して同様の回路で定電圧充電制御に指令によって切り替えられることも出来る。次に放電制御について述べる。Q1がオフ,Q2がオンで被試験体20から放電電流がL1を経てQ2,C2,R2,の回路に流れるが,C2の端子間電圧が低下するのでQ3からC2を充電する。制御信号が第1制御回路からスイッチング素子Q2に与えられて一定電流で放電するように制御する。C2から放電しようとしてC2端子電圧が低下するのでQ3からC2を充電する電流が流れてバイアス電圧Vbを一定にする。リアクトルL1に蓄えられたエネルギーはQ2がオンからオフになる瞬間に放出されてダイオードD1を通じてコンデンサC3を充電し回生されるので無駄な消費がない。抵抗器R1とコンデンサC1の直列接続体は高周波成分を通過させるフィルターであってスイッチング開始時に発生する高周波成分が試験体20に流れるのを防ぐ役割を担っている。
【0014】
図3に,他の実施の形態についてブロック図を示し,この図によって説明する。ダイオードD5,D6が逆並列接続された第5,第6の半導体スイッチング素子Q5,Q6の直列接続点を第3中点として接続された第3スイッチングアームA3を第1スイッチングアームA1に並列に接続し,第3中点と,第2中点との間に各リアクトルL3,L1を介して被試験体20を接続し,第3制御回路15が接続された第3スイッチングアームA3と,第1制御回路11が接続された第1スイッチングアームA1に対し通電する電流範囲を分担させるように,第1,第3スイッチングアームA1,A3の分担切替えを第1制御回路11と第3制御回路15に対して指令するように切替指令回路17を接続した。総合指令手段(図示していない)などの自動化手段によって,種々の作用を自動化できる。例えば,充電を禁止したい燃料電池等の被試験体に対応して,第1乃至第回路に対して,総合指令手段からの指令信号を接続するだけの容易さで,Q1,Q3,Q5をオフ状態にするだけで充電による試験体破壊が未然に防ぐことが可能になるなど利益が大きい。
【0015】
第1,第5と第4の半導体スイッチング素子Q1,Q5,Q4をオフ状態とし,第3の半導体スイッチング素子Q3をオン,第2又は第6の半導体スイッチング素子Q2又はQをパルス幅制御または導電度制御させる制御信号を生成し,該素子によって逆極性充電電流を制御する第4制御回路16を、各スイッチングアームA1,A2,A3の各素子の制御回路11,12,15に接続して逆充電手段を形成した。例えば第1の制御回路11によって第1スイッチングアームA1に定格電流100%から10%を分担させ,第3スイッチングアームA3に対し10%から0%を分担通電制御するように,分担切替えを指令する切替指令回路17を具備し,例えば0.1ミリ秒以下のような高速度で小電流充電から大電流放電への切替など,第1,第3スイッチングアームA1,A3の分担切替えで可能とし,各スイッチングアームに夫々狭い電流範囲で分担させて精度の高い電流制御が可能な充放電試験装置とした。このように小電流から大電流まで高精度に定電流制御した充電を劣化している被試験体20に施すことによって,容量回復充電を可能し,抵抗など無駄な消費が無いので小型で熱損失が少ない充放電試験装置の提供を可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】本発明による一実施の形態を示す電流波形図である。
【図3】本発明による他の実施の形態を示すブロック図である。
【図4】従来の装置の電流波形図である。
【図5】従来の装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0017】
1,2−直流電源の出力端,11−第1制御回路,12−第2制御回路,13−電流検出手段,14−バイアス電圧検出手段,15−第3制御回路,16−第4制御回路,17−切換指令回路,20−被試験体,22−電圧蓄積回路,A1−第1スイッチングアーム,hf−高周波成分,Ic−充電電流,Id−放電電流,P1−第1中点,Tc1−充電時間,Td1−放電時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力端に平滑コンデンサが接続された直流電源と、
該直流電源に対してそれぞれ並列接続された、各ダイオードが逆並列接続された第1、第2の半導体スイッチング素子の直列接続体である第1スイッチングアーム、各ダイオードが逆並列接続された第3、第4の半導体スイッチング素子の直列接続体である第2スイッチングアーム、および、各ダイオードが逆並列接続された第5、第6の半導体スイッチング素子の直列接続体である第3スイッチングアームと、
前記第1、第2の半導体スイッチング素子の制御電極に接続し、前記第1、第2の半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行う第1制御回路と、
前記第3、第4の半導体スイッチング素子の制御電極に接続し、バイアス電圧検出手段でのバイアス電圧検出結果に応じて前記第3、第4の半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行う第2制御回路と、
前記第5、第6の半導体スイッチング素子の制御電極に接続し、前記第5、第6の半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行う第3制御回路と、
被試験体の+極と前記第1、第2の半導体スイッチング素子の中点との接続回路に挿入された第1リアクトル、前記+極と前記第5、第6の半導体スイッチング素子の中点との接続回路に挿入された第3リアクトル、および前記被試験体の−極と前記第3、第4の半導体スイッチング素子の中点との接続回路に挿入された第2リアクトルと、
前記被試験体の前記+極側の電流または電圧を検出する電流検出手段または電圧検出手段と、
前記被試験体の前記−極側に接続されたコンデンサと抵抗器との直列接続体であるバイアス電圧蓄積回路と、
該バイアス電圧蓄積回路のバイアス電圧を検出するバイアス電圧検出手段と、
前記電流検出手段または前記電圧検出手段の検出結果に応じて、前記第1制御回路と前記第3制御回路とを高速で切り替える切替指示手段と、
前記被試験体の逆充電電流を制御するように、前記第2制御回路と、前記第1制御回路または前記第3制御回路とに、パルス幅制御または導電度制御のための制御信号を与える逆充電制御手段と、
を備えた充放電試験装置。
【請求項2】
前記第1、第2の半導体スイッチング素子と前記第3、第4の半導体スイッチング素子とのオン・オフの組み合わせと、前記第5、第6の半導体スイッチング素子と前記第3、第4の半導体スイッチング素子とのオン・オフの組み合わせと、により電流容量の異なる放電と充電とを高速で切り替える、請求項1に記載の充放電試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−130960(P2009−130960A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300465(P2007−300465)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】