説明

充電率推定装置およびその方法

【課題】 バッテリの充電率(SOC)の推定誤差を少なく抑えることができる充電率推定装置を提供する。
【解決手段】 バッテリの充電率推定装置は、充放電電流を積算して電流積算法充電率を算出する電流積算法充電率算出手段3と、充放電電流および端子電圧とから推定したバッテリの開放電圧から開放電圧推定法充電率を算出する開放電圧推定法充電率算出手段4と、電流積算法充電率の変化量と開放電圧推定法充電率の変化量との差に応じて重みを計算する重み付け計算手段5と、開放電圧推定法充電率と重みとを用いて加重平均処理をして開放電圧推定法加重平均充電率を得る加重平均処理手段7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等に用いるバッテリの充電率を推定するバッテリの充電率推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、電気自動車やハイブリッド電気自動車などでは、これらの車両を駆動する電気モータへ電力を供給したり、制動時のエネルギを発電機として機能させる電気モータから、あるいは地上に設置した電源から、充電して電気エネルギを蓄積したりするため、リチャージャブル・バッテリ(二次電池)が用いられる。
【0003】
この場合、長期にわたってバッテリを最適な状態に保つためには、バッテリの状態、とりわけ充電率(SOC: State of Charge)を常にモニタして、バッテリ・マネージメントを行う必要がある。
従来の充電率検出方法としては、バッテリの電圧や電流などの出入りを時系列データですべて記録し、これらのデータを用いて電流を時間積分して現時点での電荷量を求め、バッテリに充電された電荷の初期値と満充電容量を用いて充電率を求める電流積算法(クーロン・カウント法あるいは逐次状態記録法ともいう)や、バッテリの入力電流値と端子電圧値を入力し、バッテリ等価回路モデルを用いてモデルの状態量である開放電圧値を逐次推定し、この開放電圧値から充電率を推定する開放電圧推定法が知られている。
【0004】
上記各方法には一長一短があり、前者の電流積算法は、短時間での充電率の推定にあっては、開放電圧値を用いて充電率を推測する後者の開放電圧推定法より精度が高いものの、常時観測が必要である上、時間が経つにつれ誤差が集積されて精度が悪くなっていく。これに対し、後者の開放電圧推定法では、常時観測は必要ないものの、充電率の変化に対する開放電圧の変動が小さいため、短時間における充電量の変動量を推定するには、前者の電流積算法に劣っている。
そこで、これらの方法で得られた充電率の推定誤差を小さくするように上記電流積算法で得られた充電率(SOCi)と上記開放電圧推定法で得られた充電率(SOCV)との両方の充電率を用いて、充電率の推定精度を向上させようとする装置・方法が従来から知られている。
【0005】
このような従来のバッテリの充電率推定装置の一つとしては、バッテリの電流、電圧および温度を測定して電流データ、電圧データおよび温度データを得るバッテリ情報獲得部と、電流データを積算して充電率(SOCi)を算出する電流積算部と、電流データ、電圧データおよびバッテリを、電気回路を通じて簡単に表現した等価回路モデルを用いて起電力(OCV)を算出する起電力算出部と、算出した起電力(OCV)と温度データを用いて充電率(SOCV)を推定するSOCV推定部と、一定時間区間でバッテリ電流状態を判断し、SOCiおよびSOCVの少なくとも一つを用いてバッテリの充電率(SOC)を設定するSOC設定部と、を備えたバッテリ管理システムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
ここで、上記SOC設定部では、一定時間区間を20秒から60秒とし、上記時間区間でバッテリ電流状態が低電流状態であると、充電率(SOC)をバッテリの充電率(SOC)に設定し、その他の場合には充電率(SOCi)をバッテリの充電率(SOC)に設定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011−515651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のバッテリ管理システムでは、起電力(OCV:開放電圧)推定において、低電流状態の場合であっても、推定開始直後や入力信号の状態(周波数成分やノイズなど)に起因して推定充電率が異常な過渡応答したり推定結果がハンチングしたりして真の充電率から大きくずれてしまうことがあるといった問題が生じる。
また、バッテリ電流状態が低電流状態にならない状態が長時間続くと、電流積算法による充電率(SOCi)が長時間継続され、この結果、積算誤差が累積されていき、推定値と正しい値との誤差が大きくなってしまうといった問題も生じる。
【0008】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、バッテリの充電率(SOC)の推定誤差を少なく抑えることができるようにした充電率推定装置およびその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、請求項1に記載の第1発明によるバッテリの充電率推定装置は、
バッテリの充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、
前記バッテリの端子電圧を検出する端子電圧検出手段と、
前記充放電電流検出手段で検出した充放電電流を積算して電流積算法充電率を算出する電流積算法充電率算出手段と、
前記充放電電流検出手段で検出した充放電電流および前記端子電圧検出手段で検出した端子電圧とから前記バッテリの開放電圧を推定し、該開放電圧から開放電圧推定法充電率を算出する開放電圧推定法充電率算出手段と、
前記電流積算法充電率算出手段で求めた電流積算法充電率から電流積算法充電率変化量を求めるとともに前記開放電圧推定法充電率算出手段で求めた開放電圧推定法充電率から開放電圧推定法充電率変化量を求め、前記電流積算法充電率変化量と前記開放電圧推定法充電率変化量の差に応じて重みを計算する重み付け計算手段と、
前記開放電圧推定法充電率算出手段で求めた開放電圧推定法充電率と前記重み付け計算手段で得た重みとを用いて前記開放電圧推定法充電率の前後時間での値につき加重平均処理を行って開放電圧推定法加重平均充電率を求める加重平均処理手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載のバッテリの充電率推定装置は、
請求項1に記載の発明において、
前記重み付け計算手段で得られた重みを、所定範囲内に収めるように前記重みを制限する上下重み制限手段を備え、
前記加重平均処理手段は、前記上下重み制限手段で制限された重みを用いて前記加重平均処理を行う、
ことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載のバッテリの充電率推定装置は、
請求項1または請求項2に記載の発明において、
電流積算法充電率および開放電圧推定法充電率からこれら間の誤差を推定し、電流積算法充電率および開放電圧推定法充電率の一方から誤差を減算した値を補正充電率として重み付け計算手段および加重平均処理手段へ入力する誤差補正手段を有し、
加重平均処理手段は、この加重平均処理手段で用いる開放電圧推定法充電率として補正充電率を用いてバッテリの充電率を算出する、
ことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載のバッテリの充電率推定方法は、
充放電電流検出手段で検出したバッテリの充放電電流を積算して電流積算法充電率を算出し、
前記充放電電流および端子電圧検出手段で検出した端子電圧とから前記バッテリの開放電圧を推定して、該開放電圧から開放電圧推定法充電率を算出し、
前記電流積算法充電率から電流積算法充電率変化量を求めるとともに前記開放電圧推定法充電率から開放電圧推定法充電率変化量を求め、前記電流積算法充電率変化量と前記開放電圧推定法充電率変化量の差に応じて重みを計算し、
前記開放電圧推定法充電率と前記重みとを用いて前記開放電圧推定法充電率の前後時間での値につき加重平均処理を行って開放電圧推定法加重平均充電率を求める、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の第1発明によるバッテリの充電率推定装置にあっては、低電流状態の場合であっても、推定開始直後や入力信号の状態(周波数成分やノイズなど)により、推定充電率が異常な過渡応答したり推定結果がハンチングしたりして真の充電率から大きくずれるのを抑える。これにより、バッテリの充電率の推定誤差を少なく抑えることができる。
【0014】
請求項2に記載のバッテリの充電率推定装置にあっては、加重平均処理で用いる重みを所定範囲内に収めるように制限したので、過度な重みを付与する心配がなく、また最低限の重み付けを確保できるので、バッテリの安定した充電率の推定が可能となる。
【0015】
請求項3に記載のバッテリの充電率推定装置にあっては、加重平均処理手段で用いる開放電圧推定法充電率に誤差補正手段で補正した補正充電率を用いるようにしたので、バッテリの充電率をより精度よく推定することができるようになる。
【0016】
請求項4に記載のバッテリの充電率推定方法にあっては、低電流状態の場合であっても、推定開始直後や入力信号の状態(周波数成分やノイズなど)により、推定充電率が異常な過渡応答したり推定結果がハンチングしたりして真の充電率から大きくずれるのを抑える。これにより、バッテリの充電率の推定誤差を少なく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る充電率推定装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した実施例1の充電率推定装置の開放推定部で用いるバッテリ・モデル回路を示す図である。
【図3】実施例1の充電率推定装置において、充電率推定のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例2に係る充電率推定装置の全体構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例2に係る充電率推定装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
まず、本発明の実施例1に係る充電率推定装置の全体構成を説明する。
この実施例1の充電率推定装置は、電気自動車に積載され、この電気モータ等へ電力を供給するバッテリの充電率(SOC: State of Charge)を推定するものである。
図1に示すように、バッテリBTに接続された充電率推定装置は、充放電電流検出部1と、端子電圧検出部2と、電流積算法充電率推定部3と、開放電圧推定法充電率推定部4と、重み付け計算部5と、上下重み制限部6と、加重平均処理部7と、を有する。
【0020】
バッテリBTは、リチャージャブル・バッテリであり、本実施例にあっては、たとえばリチウム・イオン・バッテリを用いるが、これに限られることはなく、ニッケル・水素バッテリ等、他の種類のバッテリを用いてもよいことは言うまでもない。
【0021】
充放電電流検出部1は、バッテリBTから図示しない電気モータ等へ電力を供給する場合の放電電流の大きさ、および制動時に電気モータを発電機として機能させて制動エネルギの一部を回収したり、あるいは地上の電源設備から充電したりする場合の充電電流の大きさを検出するもので、たとえば、シャント抵抗等を使ってバッテリBTに流れる充放電電流値iを検出する。検出した充放電電流値iは、入力信号として電流積算法充電率推定部3と開放電圧推定法充電率推定部4との双方へ入力される。
なお、電流検出部1は、上記構成に限られず種々の構造・形式を有するものを適宜採用でき、本発明の充放電電流検出手段に相当する。
【0022】
端子電圧検出部2は、バッテリBTの端子間の電圧を検出するものであり、ここで検出した端子電圧値vは開放電圧推定法充電率推定部4へ入力される。
なお、端子電圧検出部2は、種々の構造・形式を有するものを適宜採用でき、本発明の端子電圧検出手段に相当する。
【0023】
電流積算法充電率推定部3は、積分器31と、開放電圧−充電率算出部32と、満充電容量算出部33と、容量比演算部34と、を有している。なお、電流積算法充電率算出部3は、本発明の電流積算法充電率算出手段に相当する。
【0024】
積分器31には、充放電電流検出部1で検出された充放電電流値iが入力されて、この充放電電流値iを時間積算して電流積算値(充放電された電荷容量に等しい)を算出することにより、バッテリBTに充放電された電荷量を求める。なお、この積分にあたって、積分器31が、初期容量値として、後述の開放電圧値−充電率関係データ算出部32で求めた値(初期充電率SOCO)にバッテリBTの満充電電荷量FCCを掛けることで初期充電容量uを算出する。次いで、積分器31が、この初期充電容量uに電流積算値を加算していくことで、バッテリBTに蓄えられた電荷量(残存容量)uを算出し、この残存容量uを容量比演算部34へ出力する。
【0025】
開放電圧値−充電率算出部32は、あらかじめ実験で得た開放電圧値OCVと充電率SOCとの関係データをルックアップ・テーブルとして記憶しており、端子電圧検出部2で充放電開始直前に検出された電圧値vに略等しい開放電圧値OCVが入力され、この開放電圧値OCVに相当する充電率SOCをルックアップ・テーブルから算出し、これを初期充電率SOCOとして積分器31へ入力する。
【0026】
一方、満充電容量算出部33は、満充電容量FCCの初期値である設計容量DCが記憶されており、バッテリBTの健全度SOH(State of Health)が入力されて設計容量DCと掛け合わされてそのときのバッテリBTの満充電容量uが得られる。この満充電容量uは、容量比演算器34へ出力される。なお、健全度SOHの時間的変化は穏やかであるので、車両電源の前回OFF時に記憶した値、あるいは今回車両電源をONした際、算出した値のいずれを用いてもよい。
【0027】
容量比演算器34は、積分器34から入力された電流積算値(=残存容量)uを、満充電容量算出部33から入力されたuで除算することで電流積算法充電率SOCCを得、この電流積算法充電率SOCCを重み付け計算部5へ出力する。
【0028】
一方、開放電圧推定法充電率推定部4は、減算器41と、過電圧算出部42と、開放推定部43と、開放電圧値−充電率算出部44とを有する。なお、開放電圧推定法充電率推定部4は、本発明の開放電圧推定法充電率算出手段に相当する。
【0029】
減算器41には、端子電圧部2で検出した端子電圧vと過電圧算出部42で算出した過電圧v1とが入力され、端子電圧vから過電圧v1を減算して得た開放電圧OCV(OCV=v−v1)を開放電圧値−充電率算出部44に出力する。
【0030】
過電圧算出部42には、充放電検出部1で検出した充放電電流iと後述の開放推定部43で推定した抵抗値Rが入力され、充放電電流iと抵抗値Rとが掛け合わされて過電圧v(=i×R)が得られる。この過電圧vは、減算器41へ出力される。
【0031】
開放推定部43では、図2に示すバッテリ等価回路モデルに基づき、バッテリBTの抵抗Rを、たとえばカルマン・フィルタなどの適応フィルタを用いて推定する。
【0032】
すなわち、バッテリ等価回路モデルは、本実施例では同図に示すように、フォスタ型RC梯子回路(ただし1次の並列回路のみ)を用いる。すなわち、この回路は、バッテリBTの電解液抵抗と結線によるオーム抵抗等の直流成分を設定するバルク抵抗(R)に、抵抗(R:ファラデー・インピーダンスでありバッテリBT中の電荷移動過程における動的振る舞いを表す反応抵抗として設定)とコンデンサ(C:非ファラデー・インピーダンスであり電気二重層を表わすものとして設定)の並列回路を接続したものである。また、同図中には、開放電圧を表わすコンデンサCOCVの開放電圧値をOCV、端子電圧値をvで、また上記並列回路で発生する過電圧値をvでそれぞれ表示してある。端子電圧vは、上述したように、開放電圧値OCVと過電圧値vとの合計に等しくなる。抵抗Rは、バルク抵抗Rとファラデー・インピーダンスRとを合算した値となる。
【0033】
開放電圧値−充電率算出部44は、電流積算法充電率推定部3の開放電圧値−充電率算出部32と同様に、あらかじめ実験で得た開放電圧値OCVと充電率SOCとの関係データをルックアップ・テーブルとして記憶しており、減算器41で得られた開放電圧値OCVが入力されて、この開放電圧値OCVに相当する充電率SOCを上記ルックアップ・テーブルから算出し、重み付け計算部5と加重平均処理部6に出力する。
【0034】
重み付け計算部5は、第1微分器51と、第2微分器52と、減算器53と、乗算器54と、を有する。なお、重み付け計算部5は、本発明の重み付け計算手段に相応する。
【0035】
第1微分器51は、電流積算法充電率算出部3の容量比演算部34で得られた電流積算法充電率SOCCが入力され、これをz変換により離散化して微分(差分)することで、電流積算法充電率微分値ΔSOCCを得る。すなわち、この電流積算法充電率微分値ΔSOCCは、電流積算法充電率SOCCの変化量(レート)を表すもので、この値は減算器53に出力される。
【0036】
第2微分器52は、開放電圧推定法充電率算出部4の開放電圧−充電率算出部44で得られた開放電圧推定法充電率SOCVが入力され、これをz変換により離散化して微分(差分)することで、開放電圧推定法充電率微分値ΔSOCVを得る。この値は、減算器53に出力される。
【0037】
減算器53は、電流積算法充電率微分値ΔSOCCから開放電圧推定法充電率微分値ΔSOCVを減算して、この値を乗算器54へ出力する。
【0038】
乗算器54は、減算器53から入力された減算値にゲインAWを掛けて重みWを上下重み制限部6に出力する。ゲインAWは、本実施例にあっては、たとえば3000000に設定する。
【0039】
上下重み制限部6は、重みの大きさの上限値および下限値が所定値を超えないようにするものである。なお、上下重み制限部6は、本発明の上下重み制限手段に相当する。
【0040】
上下重み制限部6では、重みWの上限値は過度な重みを付与しないようにするため、また下限値は最低限の重みを確保するための大きさであって、本実施例では、たとえば上限値を3000、下限値を100とし、Wが100<W<3000の範囲内の値をとるようにする。すなわち、重みWが上限値以上の場合には上限値と等しくし、下限値以下の場合には下限値と等しくし、上限値と下限値の間にある場合には、そのままの値となるようにする。このようにして制限された重みW*は、加重平均処理部7に出力される。
【0041】
加重平均処理部7は、開放電圧推定法充電率算出部4の開放電圧−充電率算出部44から入力された開放電圧推定法充電率SOCVと、上下重み制限部6から入力された制限重みW*とに基づき、開放電圧推定法充電率SOCVの現在値とその1つ前の値との加重平均を計算する。
すなわち、この加重平均は次式に基づき計算する。
(SOCV[k]+(|W*|−1)・SOCV[k−1])/|W*|
ここで、||は絶対値、kは開放電圧推定法充電率SOCVrのデータのうちk番目を、またk−1はその一つ前を意味する。
このように加重平均処理を行った開放電圧推定法充電率SOCVは、開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveとして加重平均処理部7から出力される。
なお、加重平均処理部7は、本発明の加重平均処理手段に相当する。
【0042】
次に、以上のように構成した実施例1のバッテリBTの充電率推定装置の作用につき説明する。
【0043】
まず、車両のイグニッション・キーを回してバッテリBTからの放電を可能にすると、充放電電流検出部1がバッテリBTの充放電電流iを検出して電流積算法充電率算出部3の積分器31および開放電圧推定法充電率算出部4の過電圧算出部42へとそれぞれ出力する。
また、これと同時に、端子電圧検出部2がバッテリBTの端子電圧vを検出し、電流積算法充電率算出部3の開放電圧−充電率算出部32および開放電圧推定法充電率算出部4の減算器41へとそれぞれ出力される。
【0044】
電流積算法充電率算出部3では、放電開始当初に端子電圧検出部2で検出した端子電圧vがほぼ開放電圧OCVに近いことから、その検出値に基づいて開放電圧−充電率算出部32で初期充電率SOCOを得、この初期充電率SOCOに記憶してあった満充電容量FCCを掛けて初期充電容量SOC0を算出し、これを積分器31へ出力し、ここで実行する積分の初期値とする。積分器31では、充放電電流検出部1から入力されてくる充放電電流iを時間積分して上記初期値に加算していくことで、バッテリBTのそのときどきの残存容量uを算出する。
【0045】
一方、満充電容量算出部33では、健全度SOHとあらかじめ記憶しておいた設計容量DCとを掛け合わせて、そのときの満充電容量u2を算出する。
容量比演算部34では、積分器31で得られた残存容量uを満充電容量算出部33で得られた満充電容量uで除算することで、電流積算法充電率SOCを算出し、この値を重み計算部5の大1微分器51へと出力する。
【0046】
重み付け計算部5では、第1微分器51が電流積算法充電率算定部3の容量比演算部34で得られた電流積算法充電率SOCをz変換して離散化し、微分によりその変化量を求める一方、第2微分器52が開放電圧推定法充電率算出部4の開放電圧−充電率算出部44で得られた開放電圧推定法充電率SOCVをz変換して離散化し、微分によりその変化量を求める。これらの変化量は減算器53に入力されて、ここで前者から後者が減算され、この減算値は乗算器54にてゲインAWが掛けられて重みWが得られる。
この重みWは、上下重み制限部6へ入力されて、ここで上限値と下限値との範囲内の値となるように制限されて制限された重みW*として、加重平均処理部7に出力される。
【0047】
加重平均処理部7では、開放電圧推定法充電率算出部4の開放電圧−充電率算出部44で得られた開放電圧推定法充電率SOCVと、上下重み制限部6で得られた制限された重みW*とを用いて、式(SOCV[k]+(|W*|−1)・SOCV[k−1])/|W*|を用いて開放電圧推定法充電率SOCVの現在値とその一つ前の値との加重平均値を算出し、開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveを出力する。この開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveは、バッテリBTの充電率SOCと見なされる。
【0048】
なお、上記式から分かるように、この加重平均処理にあっては、電流積算法充電率SOCCの変化量である電流積算法充電率微分値ΔSOCCと開放電圧推定法充電率SOCVの変化量である開放電圧推定法充電率微分値ΔSOCVとの差(充電率変化量の乖離)が大きくなると前回(k−1番目)の値の重み付けを大きくし、その差が小さいと前回の値の重み付けを小さくするようにしている。
【0049】
充電率推定装置は、電流積算法充電率算出部3で得られた電流積算法充電率SOCCと、加重平均処理部7で得られた開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveとを、公知の方法にて、状況に応じて使い分け、あるいは組み合わせて(いわゆるセンサフュージョン技術)、バッテリBTの充電率SOCを推定する。
【0050】
図3に、実施例1のバッテリの充電率推定装置を用いて充電率を推定したシミュレーション結果を示す。
【0051】
同図において、最上段には、充放電の電流値iの感度(ゲイン=0.9)に誤差を与えた場合の電流値iを示し、中段には、上記電流値iを与えた際の各充電率、すなわち充電率SOCの真値を実線で、電流積算法充電率SOCCを2点鎖線で、開放電圧推定法充電率SOCVを1点鎖線で、また開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveを点線で示し、最下段には、これら各充電率と真値との推定誤差(絶対値)を示す。なお、開始から200秒は、電流積算法にて充電率を算出している。
【0052】
同図のシミュレーション結果から、推定開始から1.2×10秒付近までの時間は開放電圧推定法充電率SOCVの推定誤差が、大きくかつ安定しないが、開放電圧推定法制限充電率SOCvr、すなわちバッテリBTの充電率SOCの推定誤差は、小さく安定しており、推定誤差のずれが抑えられていることが分かる。
【0053】
以上の説明から分かるように、実施例1のバッテリの充電率推定装置は、以下の効果を有する。
【0054】
すなわち、実施例1のバッテリの充電率推定装置にあっては、電流積算法充電率算出部3で算出した電流積算法充電率SOCCの変化量(電流積算法充電率微分値ΔSOCC)と開放電圧推定法充電率算出部4で算出した開放電圧推定法充電率SOCVの変化量(開放電圧推定法充電率微分値ΔSOCV)との差に応じた重みWを決定し、この重みWを用いて開放電圧推定法充電率SOCVの今回の値とこの前回の値との加重平均を取り、開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveを算出するようにした。
【0055】
これにより、推定開始直後や入力信号の状態(周波数成分やノイズなど)に起因して開放電圧推定法充電率SOCVの推定が大きくずれるような場合にあっても、短時間の充電率SOC変動量の推定では電流積算法の方が開放電圧推定法より原理的に優れていることから、重み付け計算部5で電流積算法充電率SOCCの変化量と開放電圧推定法充電率SOCVの変化量との差の大小に応じて重みWを決め、加重平均処理部7で誤差集積が少なく常時観測データが不要な開放電圧推定法による開放電圧推定法充電率SOCVを加重平均処理して、上記差が大きく、このため充電率の推定が大きくずれるような場合には重みWを大きくして前回の開放電圧推定法充電率SOCVの重み付けが大きくなるようにした。
【0056】
この結果、加重平均処理をした開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveの値は、大きくずれることが抑制される。したがって、上記のような場合にあっても、推定充電率が異常な過渡応答したり推定結果がハンチングしたりして真の充電率から大きくずれてしまうのを防いで、充電率の推定誤差を小さく抑えることができる。
【0057】
また、重み付け計算部5で計算した重みWを上下重み制限部6にて、その上限値および下限値を制限して得た重みW*が所定範囲内に収まる(重みWが上限値を越す場合には上限値に、下限値を下回る場合には下限値に、上限値と下限値との間にある場合にはそのままの値となる)ように処理して加重平均処理部7での加重平均処理に使用するようにした。
【0058】
したがって、加重平均処理部7での加重平均処理にあたって、過度な重みを付与することがなく、かつ最低限の重みを確保することができるようになり、安定した充電率の推定が可能となる。
【実施例2】
【0059】
次に、本発明の実施例2に係るバッテリの充電率推定装置を添付の図面に基づき説明する。
なお、本実施例の説明にあたっては、実施例2の構成のうち、実施例1と実質的の同じものについては実施例1と同じ番号を付してそれらの説明は省略し、相違点につき説明する。
【0060】
実施例2の充電率推定装置を、図4に示す。本実施例にあっては、実施例1と以下の点が異なる。
すなわち、電流積算法充電率算出部3が電流積算法分散算出部35を有し、開放電圧推定法充電率推定部4が開放電圧推定法分散算出部45を有し、さらに誤差補正部8が新たに追加されている点である。
【0061】
電流積算法分散算出部35は、あらかじめ得られている充放電電流検出部1の検出精度に関する情報に基づき、再帰的行列演算を行い、電流積算法分散Qを求め、誤差補正部8へ出力する。
同様に、あらかじめ得ている充放電電流検出部1と端子電圧検出部2の検出精度に関する情報に基づき、開放電圧の分散POCVを算出し、この値の基づき開放電圧推定法充電率SOCの分散(開放電圧推定法分散:PSOCV=Q)を算出し、これを誤差推定部8へ出力する。
【0062】
誤差補正部8は、第1減算器81と、誤差推定部82と、第2減算器83と、を備えており、電流積算法充電率SOCの誤差nを算出して、電流積算法充電率算出部3で算出した電流積算法充電率SOCから推定誤差nを除去した補正充電率SOCCVを得るものである。なお、誤差補正部8は、本発明の充電率補正手段に相当する。
【0063】
第1減算器81は、開放電圧推定法充電率推定部4から入力された開放電圧推定法充電率SOCから電流積算法充電率算出部31から入力された電流積算法充電率SOCを減算し、この減算値yを誤差推定部82へ出力する。
【0064】
誤差推定部82は、電流積算法充電率算出部3の電流積算法分散算出部35から入力された電流積算法分散Qと、開放電圧推定法推定部4から入力された開放電圧推定法分散Qと、第1減算器81から入力された減算値yと、に基づき、カルマン・フィルタを用いて電流積算法充電率SOCの推定誤差nを推定し、第2減算器83へ出力する。
【0065】
誤差補正部8でのカルマン・フィルタは、誤差モデルで推定した誤差を、第1減算器81で算出した減算値yと比較し、両者に差があればこの差にカルマン・ゲインを掛けてフィードバックし、誤差が最小となるように誤差モデルを修正していく。これを逐次繰り返して、真の充電率推定誤差を推定する。
なお、この詳細については、上記同様、本出願人による特願2011−007874号に説明してある。
【0066】
第2減算器83では、電流積算法充電率算出部3から得た電流積算法充電率SOCから誤差推定部82で得た誤差nを減算して補正電流積算法充電率SOCCVを得、重み付け計算部5と加重平均処理部7へ出力する。なお、補正電流積算法充電率SOCCVは、本発明の補正充電率に相当する。
【0067】
加重平均処理部7では、誤差補正部8から入力されたSOCCVと上下重み制限部6から入力された制限された重みw*とに基づき、次式から開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveを求める。この開放電圧推定法加重平均充電率SOCaveは、バッテリBTの充電率SOCと見なされる。
(SOCCV[k]+(|W*|−1)・SOCCV[k−1])/|W*|
その他の構成は、実施例1と同様である。
【0068】
上記のように構成された実施例2のバッテリBTの充電率推定装置にあっては、実施例1の効果に加え、下記の効果を有する。
すなわち、実施例2のバッテリBTの充電率推定装置では、誤差補正部8にて、開放電圧推定法充電率SOCおよび電流積算法充電率SOCを用いて補正電流積算法充電率SOCCVを求め、変化量制限処理部6に入力するようにしたので、その分、バッテリBTの充電率SOCの推定精度を上げることが可能となる。
【0069】
以上、本発明を上記実施例に基づき説明してきたが、本発明はこの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0070】
たとえば、電流積算法充電率算出部3での初期値の求め方や、開放電圧推定法充電率算出部4での開放電圧の求め方は、上記実施例と異なるようにしてもよい。
【0071】
また、重み付け計算部5の乗算器54で用いるゲインAWの大きさや、上下重み制限部6で用いる上限値および下限値は、充電率推定装置の特性や設計目標等に応じて適宜設定することができる。
【0072】
また、実施例2では、誤差補正部8で電流積算法充電率SOCおよび開放電圧推定法充電率を用いて誤差を推定して補正電流積算法充電率SOCCVを求め、重み付け計算部5および加重平均処理部6で利用するようにしたが、誤差補正部8の代わりに図5に示す誤差補正部9を用い補正開放電圧推定法充電率SOCvvを求め、この値を、重み付け計算部5および加重平均処理部6に入力するようにしてもよい。
【0073】
すなわち、誤差補正部9は、第1減算器91と、誤差推定部92と、第2減算器93と、を備えており、開放電圧推定法充電率SOCの誤差nを算出して、開放電圧推定法充電率算出部4で算出した開放電圧推定法充電率SOCから推定誤差nを除去した補正充電率SOCvvを得るものである。なお、誤差補正部9は、本発明の充電率補正手段に相当する。
【0074】
第1減算器91は、電流積算法充電率算出部31から入力された電流積算法充電率SOCから開放電圧推定法充電率推定部4から入力された開放電圧推定法充電率SOCを減算し、この減算値yを誤差推定部92へ出力する。
【0075】
誤差推定部92は、電流積算法充電率算出部3の電流積算法分散算出部35から入力された電流積算法分散Qと、開放電圧推定法推定部4から入力された開放電圧推定法分散Qと、第1減算器91から入力された減算値yと、に基づき、カルマン・フィルタを用いて開放電圧推定法充電率SOCの推定誤差nを推定し、第2減算器93へ出力する。
【0076】
第2減算器93では、海保電圧推定法充電率算出部4から得た開放電圧推定法充電率SOCから誤差推定部92で得た誤差nを減算して補正開放電圧推定法充電率SOCvvを得、重み付け計算部5および加重平均処理部6へ出力する。加重平均処理部6では、補正開放電圧推定法充電率SOCvvを用いて開放電圧法制限充電率SOCvrを算出し、この値をバッテリBTの充電率SOCとする。なお、補正開放電圧推定法充電率SOCvvは、本発明の補正充電率に相当する。
【0077】
このように、誤差補正部では、補正開放電圧推定法充電率SOCvvあるいは補正電流積算法充電率SOCCVのいずれを求めるようにしてもよい。この理由は、誤差補正部8、9では、開放電圧推定法充電率SOCおよび電流積算法充電率SOCの両方を用いて得た推定誤差を除去するようにしているので、補正開放電圧推定法充電率SOCvv、補正電流積算法充電率SOCCVのいずれの値も実質的に同じであるとみなせるからである。
【符号の説明】
【0078】
BT バッテリ
1 充放電検出部(充放電検出手段)
2 端子電圧検出部(端子電圧検出手段)
3 電流積算法充電率算出部(電流積算法充電率算出手段)
31 積分器
32 開放電圧−充電率算出部
33 満充電容量算出部
34 容量比演算部
35 電流積算法分散算出部
4 開放電圧推定法充電率算出部(開放電圧推定法充電率算出手段)
41 減算器
42 過電圧算出部
43 開放推定部
44 開放電圧−充電率算出部
45 開放電圧推定法分散算出部
5 重み付け計算部(重み付け計算手段)
51 第1微分器
52 第2微分器
53 減算器
54 乗算器
6 上下重み制限部(上下重み制限手段)
7 加重平均処理部(加重平均処理手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、
前記バッテリの端子電圧を検出する端子電圧検出手段と、
前記充放電電流検出手段で検出した充放電電流を積算して電流積算法充電率を算出する電流積算法充電率算出手段と、
前記充放電電流検出手段で検出した充放電電流および前記端子電圧検出手段で検出した端子電圧とから前記バッテリの開放電圧を推定し、該開放電圧から開放電圧推定法充電率を算出する開放電圧推定法充電率算出手段と、
前記電流積算法充電率算出手段で求めた電流積算法充電率から電流積算法充電率変化量を求めるとともに前記開放電圧推定法充電率算出手段で求めた開放電圧推定法充電率から開放電圧推定法充電率変化量を求め、前記電流積算法充電率変化量と前記開放電圧推定法充電率変化量の差に応じて重みを計算する重み付け計算手段と、
前記開放電圧推定法充電率算出手段で求めた開放電圧推定法充電率と前記重み付け計算手段で得た重みとを用いて前記開放電圧推定法充電率の前後時間での値につき加重平均処理を行って開放電圧推定法加重平均充電率を求める加重平均処理手段と、
を備えたことを特徴とするバッテリの充電率推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリの充電率推定装置において、
前記重み付け計算手段で得られた重みを、所定範囲内に収めるように前記重みを制限する上下重み制限手段を備え、
前記加重平均処理手段は、前記上下重み制限手段で制限された重みを用いて前記加重平均処理を行う、
ことを特徴とするバッテリの充電率推定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバッテリの充電率推定装置において、
前記電流積算法充電率および前記開放電圧推定法充電率からこれら間の誤差を推定し、前記電流積算法充電率および前記開放電圧推定法充電率の一方から前記誤差を減算した値を補正充電率として前記重み付け計算手段および前記加重平均処理手段へ入力する誤差補正手段を有し、
前記加重平均処理手段は、該加重平均処理手段で用いる開放電圧推定法充電率として前記補正充電率を用いて前記バッテリの充電率を算出する、
ことを特徴とするバッテリの充電率推定装置。
【請求項4】
充放電電流検出手段で検出したバッテリの充放電電流を積算して電流積算法充電率を算出し、
前記充放電電流および端子電圧検出手段で検出した端子電圧とから前記バッテリの開放電圧を推定して、該開放電圧から開放電圧推定法充電率を算出し、
前記電流積算法充電率から電流積算法充電率変化量を求めるとともに前記開放電圧推定法充電率から開放電圧推定法充電率変化量を求め、前記電流積算法充電率変化量と前記開放電圧推定法充電率変化量の差に応じて重みを計算し、
前記開放電圧推定法充電率と前記重みとを用いて前記開放電圧推定法充電率の前後時間での値につき加重平均処理を行って開放電圧推定法加重平均充電率を求める、
ことを特徴とするバッテリの充電率推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−83497(P2013−83497A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222526(P2011−222526)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】