説明

光バーストセル信号受信回路

【課題】高感度化および広ダイナミックレンジ化を達成するとともに、特別の回路を使用することなく「すそひき」の影響を除去する。
【解決手段】APD1から出力する電気バーストセル信号のレベルをレベル検出回路4で検出して受信光強度を判定し、受信光強度が低いときはAPD駆動回路2によりAPD1に印加するバイアス電圧を高電圧に瞬時に切り替え、高いときは低電圧に瞬時に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PON(Passive Optical Network:受動光ネットワーク)システムの上り信号受信器におけるAPD(アバランシェフォトダイオード)を用いた光バーストセル信号受信回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PONシステムは、光ファイバ伝送路及び局装置を複数のユーザで共有する費用効率の高いシステムである。PONサービス加入者が急激に増加しており、伝送効率の向上や高速化に関する研究が盛んに行われている(例えば、非特許文献1参照)。今後、都市部だけでなく郊外エリアにもPONシステムのサービスエリアが拡大し、ユーザ数の増加や新たなサービスの登場による伝送速度の高速化が必要になると考えられる。従って伝送距離の延長や分岐数の増加によるPON区間の光損失の増加や高速化による受信感度劣化が問題となる。
【0003】
図4(a)はこのPONシステムの構成を示す図で、31は局側のOLT(Optical Line Terminal)、32はユーザ側のONU(Optical Ntework Unit)、33は光スプリッタ、34は光ファイバ伝送路である。ONU32は光スプリッタ33を介して複数がOLT31に対して接続される。このPONシステムでは、OLT31からONU32への送信(下り)信号は連続光であるが、OLT31とONU32との間の距離がユーザによって異なるため、ONU32からOLT31への送信(上り)信号は、図4(b)に示すように、ユーザによって光強度の異なる光バーストセル信号となる。従って、OLT31側の受信器には高感度化と異強度光バーストセル信号を受信できる広ダイナミックレンジ化が求められる。
【0004】
受信感度改善の有効な手段として増倍作用を持っAPDを用いる方法がある。しかし、この場合、APD駆動回路の瞬時応答性に起因する後記する「すそひき」が発生し、特に強い光バーストセル受信時に、次に続く弱いバーストセル信号の受信を妨げるという問題があった。
【0005】
そこで、この問題に対して、光バーストセル信号の強度にあわせてAPD増倍率を設定することで、高感度化と広ダイナミックレンジ化を実現する光バーストセル信号受信回路が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図5はこの光バーストセル信号受信回路を示す図であり、APD1、APD駆動回路9、プリアンプ3、レベル検出回路4、AGC(Automatic Gain Control)回路5、識別タイミング抽出回路6、バイパス回路7、スイッチSW1,SW2からなる切替器8で構成されている。
【0007】
この光バーストセル信号受信回路では、入力された光強度の異なる光バーストセル信号はAPD1で電気バーストセル信号に光電変換されプリアンプ3に出力される。プリンアンプ3の出力はレベル検出回路4に入力され、受信光電力レベルが閾値判定された後、APD駆動回路9に出力される。APD駆動回路9ではレベル検出回路4の出力に基づき、APDバイアス電圧を変更しAPD1の増倍率を制御する。切替器8は「すそひき」の影響を除去するための回路である。「すそひき」は強バーストセル信号の直後に弱バーストセル信号を受信する時、その影響が弱バーストセル信号に干渉し、受信感度を劣化させる現象である。
【0008】
切替器8はこの「すそひき」が識別タイミング抽出回路6に入力されないように、「すそひき」が発生している間、切替器8のスイッチSW2をオフし、スイッチSW1をバイパス回路7に接続する。そして、「すそひき」の影響が現れない時間では再度スイッチSW1をオフし、スイッチSW2をオンして、APD1で変換した電気バーストセル信号を識別タイミング抽出回路6に入力する。以上により、「すそひき」の影響を排除し、高感度かつ広ダイナミックレンジ化を実現している。
【非特許文献1】Xing-Zhi Qiu,Peter Ossieur,Johan Bauwelinck,Yanchun Yi,Dieter Verhulst,Jan Vandewege,Benoit De Vos,and Paolo Solina,"Development of GPON Upstream Physical-Media-Dependent Prototypes",JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,VOL.22,NO.11,NOVEMBER 2004,p2498-2508.
【特許文献1】特開平11−355218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように特許文献1では、「すそひき」が発生している期間だけAPD1を切替器8を用いてバイパス回路7に接続することで、APD1の「すそひき」の影響を排除していたが、この方法は切替器8やバイパス回路7が必要であり、その構成や切替制御が複雑になるという問題があった。また、切替器8が持つ大きな寄生容量成分の影響により、プリアンプに入力される雑音電流密度が大きくなる問題もあった。
【0010】
本発明はこのような背景の下になされたものであり、瞬時にバイアス電圧を変更可能とする回路を用いてAPD増倍率を制御し、高感度化および広ダイナミックレンジ化を達成するとともに、「すそひき」の影響を除去するための特別な回路を必要としない、光バーストセル信号受信回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1にかかる発明の光バーストセル信号受信回路は、入力する光バーストセル信号を電気バーストセル信号に変換するAPDと、該電気バーストセル信号のレベルを検出して受信光強度を判定するレベル検出回路と、該レベル検出回路で判定された受信光強度に応じて前記APDに印加するバイアス電圧を切り替えるAPD駆動回路とを具備し、前記APD駆動回路は、前記レベル検出回路で判定された受信光強度が高いときはオンし、低いときはオフするスイッチ手段と、該スイッチ手段がオンするときは低いバイアス電圧を出力し、オフするときは高いバイアス電圧を出力する分圧回路とを具備することを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の光バーストセル信号受信回路において、前記APD駆動回路を、初期状態で前記APDに印加するバイアス電圧を高電圧に切り替え、前記レベル検出回路で判定された受信光強度が高いとき低電圧に切り替え、低くなくなったとき高電圧に切り替えるAPD駆動回路に置き換えたことを特徴とする。
請求項3にかかる発明は、請求項2に記載の光バーストセル信号受信回路において、前記APD駆動回路は、前記レベル検出回路で判定された受信光強度を示す信号を微分して前記バーストセル信号の開始時点と終了時点で微分パルスを発生するハイパスフィルタと、初期状態でリセットされ、前記ハイパスフィルタの前記開始時点を示す微分パルスが第1の基準値を超えるときセットされ、前記終了時点を示す微分パルスが第2の基準値を下回るときリセットされるラッチ回路と、該ラッチ回路がリセットされると前記APDに印加するバイアス電圧を高電圧に切り替え、前記ラッチ回路がセットされると低電圧に切り替えるスイッチ手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、APDの増倍率を決定するバイアス電圧の変更を瞬時に行うことが可能となるため、「すそひき」の影響をバイパスする切替器が不要となる。また、切替器が持つ大きな寄生容量成分の除去により、プリアンプに入力される雑音電流密度が低減し、受信系全体の受信感度向上効果も同時に得られる。従って高受信感度化および広ダイナミックレンジ化を同時に実現し、PONフレームオーバヘッドの増加が不要な高効率伝送が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施例]
図1は本発明の第1実施例の光バーストセル信号受信回路の構成を示すブロック図であり、1は光バーストセル信号を電気バーストセル信号に変換するAPD、2はAPD1にバイアス電圧を与えるAPD駆動回路、3はプリアンプ、4は電気バーストセル信号を入力して閾値と比較し光強度の高低を判定するレベル検出回路、5は電気バーストセル信号を一定のレベルに増幅するAGC(Automatic Gain Control)回路、6は電気バーストセル信号を入力してクロック抽出とデータ識別を行う識別タイミング抽出回路である。
【0014】
図2は図1におけるAPD駆動回路2の具体的な構成部分を含むブロック図である。APD駆動回路2は、レベル検出回路4からのパルス信号を一定レベルに増幅する増幅器21と、その増幅器21の出力をうけてオン/オフ動作を行うNMOSトランジスタM1(スイッチ手段)と、高増倍率時のバイアス電圧VHを与えるVH出力回路22と、トランジスタM1のオン時にその電圧VHを分圧する抵抗R1,R2と、バイアス電圧VH安定化のための容量C1から構成されている。抵抗R1,R2の共通接続点がバイアス電圧出力点としてAPD1のカソードに接続されている。
【0015】
さて、APD1で受信され電気信号に変換されたバーストセル信号は、プリアンプ3で増幅されレベル検出回路4に入力される。レベル検出回路4では閾値判定が行われ、受信光強度が強いと判断されれば光バーストセル信号の時間に相当するパルス幅のパルス信号が出力され、適正値と判断すればパルス信号は出力されない。このレベル検出回路4の出力信号がAPD駆動回路2内の増幅器21に入力されると、レベル検出回路4のパルス出力がないとき、つまり受信光強度が適正値の場合は、増幅器21の出力は低レベルとなり、トランジスタM1はオフとなる。このときは、VH出力回路22から出力する電圧VHが抵抗R1を経由してAPD1にバイアス電圧として印加する。このとき、APD1は高増倍率に設定される。
【0016】
一方、レベル検出回路4からパルス信号が出力するとき、すなわち受信光強度が強い場合は、増幅器21の出力は高レベルとなり、トランジスタM1はオンとなる。このときのバイアス電圧は、電圧VHを抵抗R1とR2で分圧した低い電圧となるため、APD1は低増倍率に設定される。
【0017】
以上により、APD1に印加するバイアス電圧は、受信した光バーストセル信号の強度が低ければ高電圧、高ければ低電圧に瞬時に切り替えられ、高感度化および広ダイナミックレンジ化を実現でき、且つ「すそひき」の影響を防止することができる。
【0018】
[第2実施例]
図3は第2実施例のAPD駆動回路2の具体的な構成部分を含むブロック図である。APD駆動回路2は、容量C2と抵抗R3,R4からなりレベル検出回路4から出力するパルス信号を微分するハイパスフィルタ23と、基準電圧Vaと比較器CP1からなりハイパスフィルタ23の出力パルス信号が電圧Vaより高いとき低増倍率設定指令を出す低増倍率設定回路24と、基準電圧Vbと比較器CP2からなりハイパスフィルタ23の出力パルス信号が電圧Vbを下回るとき高増倍率設定指令を出す高増倍率設定回路25と、それら設定回路24,25の出力信号(高レベルへの立上り)によりセット/リセットを行うラッチ回路26と、高増倍率用のバイアス電圧VHを与えるVH出力回路27と、低増倍率用のバイアス電圧VLを与えるVL出力回路28と、CMOS接続されラッチ回路26の出力を受けるPMOSトランジスタM2およびNMOSトランジスタM3(スイッチ手段)とから構成されている。
【0019】
さて、図2の実施例と同様の動作により、レベル検出回路4に入力された信号はそこで閾値判定され、受信光バーストセル信号の強度が高い場合はパルス信号が出力してAPD駆動回路2に入力する。APD駆動回路2では、このパルス信号がハイパスフィルタ23において微分され、そのパルス信号開始時と終了時に大きな振幅をもつ波形の微分パルス信号が生成され、低増倍率設定回路24と高増倍率設定回路25に入力される。低増倍率設定回路24では電圧Vaを上回るレベルのパルス信号が入力されると高レベル信号が立上り、高増倍得率設定回路25では電圧Vbを下回るレベルの信号が入力されると高レベル信号が立ち上がるので、ハイパスフィルタ23の出力電圧VoがVb<Vo<Vaであれば、低増倍率設定回路24と高増倍率設定回路25の出力は高レベルにならず、ラッチ回路26はセット端子S、リセット端子Rのいずれにも高レベルの立上り信号は入力せず、現在の状態を維持する。
【0020】
このラッチ回路26の出力Qが高レベルのときは、トランジスタM2がオフ、M3がオンとなって低増倍率をあたえるバイアス電圧VLが出力し、低レベルのときはトランジスタM2がオン、M3がオフとなって高増倍率を与えるバイアス電圧VHが出力する。初期状態は高増倍率を与えるバイアス電圧VHが出力されるよう、ラッチ回路26がリセット状態に設定されている。このラッチ回路26は新たな入力があるまで以前の状態を記憶する。
【0021】
APD1に高強度の光バーストセル信号が入力されると、その初頭部分でハイパスフィルタ23の出力微分パルスのレベルが電圧Vaを上回るため、低増倍率設定回路24の出力が高レベルとなり、ラッチ回路26の出力Qが高レベルとなり、トランジスタM3がオンとなって、APD1にはバイアス電圧VLが印加され、低増倍率に設定される。このときは、この後にハイパスフィルタ23の出力微分パルスのレベルがVbを下回るので、高増倍率設定回路25の出力が高レベルとなりラッチ回路26がリセットされ、その出力Qが低レベルとなって、トランジスタM3がオフ、トランジスタM2がオンとなり、高倍率を与えるバイアス電圧VHが出力する。つまり、初期状態にリセットされる。
【0022】
このように、本実施例でも、APD1に印加するバイアス電圧は、受信した光バーストセル信号の強度が低ければ高電圧、高ければ低電圧に瞬時に切り替えられ、高感度化および広ダイナミックレンジ化を実現でき、且つ「すそひき」の影響を防止することができる。さらに本実施例では、初期では高いバイアス電圧VHに設定されているが、高強度の光バーストセル信号が入力したときは低いバイアス電圧VLが設定され、その光バーストセル信号が終了するとき、高いバイアス電圧VHに再設定されて次の光バーストセル信号の受信に備える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施例の光バーストセル信号受信回路の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施例のAPD駆動回路部分を含む光バーストセル信号受信回路の要部のブロック図である。
【図3】第2実施例のAPD駆動回路部分を含む光バーストセル信号受信回路の要部のブロック図である。
【図4】(a)はPONシステムの概略説明図、(b)はPON上りバーストセル信号を示す波形図である。
【図5】従来の光バーストセル信号受信回路の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0024】
1:APD(アバランシェフォトダイオード)
2:APD駆動回路、21:増幅器、22:VH出力回路、23:ハイパスフィルタ、24:低増倍率設定回路、25:高増倍率設定回路、26:ラッチ回路、27:VH出力回路、28:VL出力回路
3:プリアンプ
4:レベル検出回路
5:AGC回路
6:識別タイミング抽出回路
7:バイパス回路
8:切替器
9:APD駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力する光バーストセル信号を電気バーストセル信号に変換するAPDと、該電気バーストセル信号のレベルを検出して受信光強度を判定するレベル検出回路と、該レベル検出回路で判定された受信光強度に応じて前記APDに印加するバイアス電圧を切り替えるAPD駆動回路とを具備し、
前記APD駆動回路は、前記レベル検出回路で判定された受信光強度が高いときはオンし、低いときはオフするスイッチ手段と、該スイッチ手段がオンするときは低いバイアス電圧を出力し、オフするときは高いバイアス電圧を出力する分圧回路とを具備することを特徴とする光バーストセル信号受信回路。
【請求項2】
請求項1に記載の光バーストセル信号受信回路において、
前記APD駆動回路を、初期状態で前記APDに印加するバイアス電圧を高電圧に切り替え、前記レベル検出回路で判定された受信光強度が高いとき低電圧に切り替え、低くなくなったとき高電圧に切り替えるAPD駆動回路に置き換えたことを特徴とする光バーストセル信号受信回路。
【請求項3】
請求項2に記載の光バーストセル信号受信回路において、
前記APD駆動回路は、前記レベル検出回路で判定された受信光強度を示す信号を微分して前記バーストセル信号の開始時点と終了時点で微分パルスを発生するハイパスフィルタと、初期状態でリセットされ、前記ハイパスフィルタの前記開始時点を示す微分パルスが第1の基準値を超えるときセットされ、前記終了時点を示す微分パルスが第2の基準値を下回るときリセットされるラッチ回路と、該ラッチ回路がリセットされると前記APDに印加するバイアス電圧を高電圧に切り替え、前記ラッチ回路がセットされると低電圧に切り替えるスイッチ手段とを備えることを特徴とする光バーストセル信号受信回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−129639(P2007−129639A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322348(P2005−322348)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591230295)NTTエレクトロニクス株式会社 (565)
【Fターム(参考)】