説明

光学素子の製造方法及び成形金型

【課題】個別に比較的簡易に非点収差量の調整が可能な光学素子の製造方法及び成形金型を提供すること。
【解決手段】可動金型42の外周部材32に溝32aを設けることにより、固定金型41と可動金型42との型締めの際に、外周部材32に対向する外周部22において、光学面形成面56aを所望の方向に変形させることができる。これにより、光学面形成面56aに非点収差を発生させることができる。また、溝32aを設けた外周部材32を回転させることに伴う溝32aの方向変化によって光学面形成面56aに加わる力の方向を変えることができる。これにより、光学面形成面56aの輪郭の変形方向を簡易に調整することができる。以上のことから、多数個取りのレンズOLを製造する場合でも、個別に非点収差を調整してレンズOLを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ装置等に組み込まれる対物レンズその他の光学素子の製造方法、及びかかる光学素子用の成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の成形金型として、円筒状のピンを楕円断面の凹部に陥入させる動作によって、金型転写面に直接歪みを与え、このような歪みに基づいて形成される光学素子に非点収差を与えるものが存在する(特許文献1参照)。
【0003】
また、光学面形成面を有するインサートやこのインサートに連接して配置されるスペーサを回転させたり、傾斜や軸非対称面を形成したスペーサを用いたりしてレンズの光学特性を制御するものも存在する(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−314325号公報
【特許文献2】特開2004−284116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、光学素子、例えばレンズの成形において、多数個取りによる量産を行う場合、成形条件(温度、圧力等)や金型加工精度等の違いにより、成形されたレンズ間で非点収差量に差が生じうる。よって、レンズの生産性向上のために、各レンズの非点収差量を個別に調整してレンズ間の個体差を相殺する必要がある。また、レンズを装着するピックアップ装置において、情報の記録/再生に用いられる光源(主に半導体レーザ)には出射光束に非点収差をもつものがあり、その非点収差量には光源の個体差がある。よって、この場合、装着するレンズの非点収差量を調整することで光源の個体差を相殺する必要がある。
【0006】
上記特許文献1の技術は、非点収差を有する成形金型を製造する方法を開示するものであることから、一度形成した非点収差を補正又は修正することが困難であり、その対処法も明示されていない。例えば、特許文献1の方法で得た非点収差量が適正でない場合、再度条件に適合する金型を製造するまでに時間と労力とを要するものと考えられる。
【0007】
上記特許文献2の技術は、インサートの回転によって光学面を回転させることが前提となっており、インサートの光学素子面の曲率等を変化させることができない。つまり、片側のインサートを回転することにより、非点収差の方向を調整できても、非点収差量を調整することはできない。
【0008】
そこで、本発明は、個別に比較的簡易に非点収差量の調整が可能な光学素子の製造方法及び成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る光学素子の製造方法は、光学素子の第1光学面を形成する第1金型と、光学素子の第2光学面を形成する第2金型とを型合わせした成形金型を用いた光学素子の製造方法であって、第1金型は、光学素子の第1光学面を形成する第1光学面形成面を先端に有するコア部材と、コア部材の周囲に配置される外周部材とを有し、第2金型は、光学素子の第2光学面を形成する第2光学面形成面を先端に有し、外周部材は、コア部材に対し回転可能であり、第2金型に対向する面に第2金型との当接を回避する溝を有し、第2金型は、第2光学面形成面に連通するゲートを先端に有し、成形に際して、溝によって外周部材の端面に形成される複数の当接領域を利用して、外周部材に対向する第2金型の第2光学面形成面を変形させることを特徴とする。
【0010】
上記光学素子の製造方法では、第1金型の外周部材に溝を設けることにより、第1金型と第2金型との型締めの際に、外周部材に対向する第2金型において、第2光学面形成面を所望の方向に変形させることができる。すなわち、外周部材とこれに対向する第2金型との当接領域の中心とは溝を挟んで特定方向に離間しており、この特定方向に分離されて偏った力を与えることで、第2光学面形成面の輪郭を特定方向に関して外側にわずかに変形させることができる。これにより、第2光学面形成面に非点収差を発生させることができる。また、溝を設けた外周部材を回転させることに伴う溝の方向変化によって第2光学面形成面に加わる力の方向を変えることができる。これにより、第2光学面形成面の輪郭の変形方向を簡易に調整することができる。ここで、ゲートが設けられていない第1金型に溝を設けることにより、ゲートの位置を固定しつつ、溝の位置を変化させることができる。以上のことから、多数個取りの光学素子を製造する場合でも、個別に非点収差を調整して光学素子を製造することができる。
【0011】
本発明の具体的な態様又は観点では、上記光学素子の製造方法において、第1金型は、可動金型である。この場合、可動金型に突き出し機構を設ける際に、コア部材と外周部材とを別体としやすいため、外周部材に設けられた溝を簡易に回転させる構成とすることができる。また、ゲートが固定金型に設けられることとなり、第1金型の外周部材の回転にかかわらず、ゲートを固定させた状態とすることができる。
【0012】
本発明の別の態様では、第2金型は、第2光学面形成面を有するコア部と、コア部の周囲に配置される外周部とを有し、コア部と外周部とは、一体に形成された部材である。この場合、コア部と外周部とを一体に形成することにより、溝から受ける力をコア部に確実に伝えることができる。
【0013】
本発明のさらに別の態様では、第1金型において、溝は、コア部材に連通し、コア部材を挟んで外周部材の径方向に直線状に延びる。この場合、溝をコア部材に連通するように直線的に配置することにより、第2光学面形成面の輪郭において、溝に直交する径方向に効率よく力を加えることができる。
【0014】
本発明のさらに別の態様では、第1金型において、溝は、コア部材に連通し、コア部材を挟んで外周部材の径方向に延びるとともに外周部材の中心側の幅よりも径の外側の幅の方が広くなるように扇状に設けられる。この場合、溝をコア部材に連通させることにより、第2光学面形成面の輪郭において、溝に直交する径方向に効率よく力を加えることができる。また、溝が外周部材の径方向に延び、扇状に設けられることにより、第2光学面形成面に伝わる力の偏りを大きくすることができる。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、第2金型は、第2光学面形成面を有する部材を背面から支持する保持部材を有する。この場合、保持部材の長さを調整することによって、第1金型と第2金型との型当たり強さを調整することができる。これにより、溝を挟んで偏って付与される力の強さを増減調整することができ、第2光学面形成面の非点収差の量を簡易に微調整することができる。なお、例えば可動金型に突き出し機構が設けられるような複雑な構成となっている場合、保持部材は、構成部材が固定された固定金型側に設けることが望ましい。
【0016】
本発明に係る成形金型は、光学素子の第1光学面を形成する第1金型と、光学素子の第2光学面を形成する第2金型とを備える成形金型であって、第1金型は、光学素子の第1光学面を形成する第1光学面形成面を先端に有するコア部材と、コア部材の周囲に配置される外周部材とを有し、第2金型は、光学素子の第2光学面を形成する第2光学面形成面を先端に有し、外周部材は、コア部材に対し回転可能であり、第2金型に対向する面に第2金型との当接を回避する溝を有し、第2金型は、第2光学面形成面に連通するゲートを先端に有することを特徴とする。
【0017】
上記成形金型では、第1金型の外周部材に溝を設けることにより、第1金型と第2金型との型締めの際に、第2光学面形成面の輪郭が第1金型と第2金型との当接領域が互いに離間する特定方向の外側にわずかに変形し、第2光学面形成面に非点収差を発生させることができる。また、溝を設けた外周部材を回転させて溝の方向を変化させることにより、第2光学面形成面の輪郭の変形方向を簡易に調整することができる。また、ゲートが設けられていない第1金型に溝を設けることにより、ゲートの位置を固定しつつ、溝の位置を変化させることができる。以上のことから、多数個取りの光学素子用の成形金型の場合でも、個別に非点収差を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は、第1実施形態の成形金型の構造を説明する部分側断面図であり、(B)は、(A)の部分拡大図である。
【図2】図1の成形金型によって射出成形されるレンズの拡大側面図である。
【図3】(A)は、可動金型のコアユニットの平面図であり、(B)は、固定金型のコアユニットの平面図であり、(C)は、溝の拡大断面図である。
【図4】(A)〜(F)は、可動金型の溝の機能を説明する図である。
【図5】第2実施形態の成形金型の構造を説明する平面図である。
【図6】第3実施形態の成形金型の構造を説明する平面図である。
【図7】第4実施形態の成形金型の構造を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る成形金型とこれを用いた光学素子の製造方法とについて、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1(A)に示すように、成形金型40は、第2金型である固定金型41と第1金型である可動金型42とで構成され、両金型41,42は、パーティングラインPLを境として開閉可能になっている。固定金型41と可動金型42とに挟まれた空間である型空間CVは、成形品である光学素子としてのレンズOL(図2参照)の形状に対応するものとなっている。レンズOLは、プラスチック製で、光学的機能を有する光学的機能部としての中心部OLaと、中心部OLaから外径方向に延在する環状のフランジ部OLbとを備える。このレンズOLは、光ピックアップ装置用の対物レンズであり、例えばBD(Blu-ray disc)、DVD(digital versatile disc)等用の波長を有する光束に対して、NA0.85、NA0.7等を満たすレンズである。
【0021】
固定金型41は、コアユニット51と、型板53と、取付板54とを備える。ここで、コアユニット51は、型空間CVを形成するため、後述する可動金型42のコア部材31及び外周部材32に対向して配置される。型板53は、コアユニット51を周囲から保持する型部材であり、取付板54は、コアユニット51や型板53を背後から支持する型部材である。なお、固定金型41は、各部材51,53,54が相互に固定された状態となっている。
【0022】
コアユニット51は、当接部材23と、保持部材24とを有する。コアユニット51は、当接部材23と保持部材24とを軸AX方向に連結した構造となっており、略円柱状の外形を有している。当接部材23は、中心側に配置されるコア部21と、周辺側に配置される外周部22とを有する。コア部21と外周部22とは、後述する可動金型42のコア部材31と外周部材32とにそれぞれ対向する部材である。なお、外周部22は、コア部21と一体に、すなわち1つの部材として形成されており、コア部21の周囲に配置される。
【0023】
図1(A)、1(B)、及び3(B)に示すように、コアユニット51を構成するコア部21の先端面には、型空間CVを形成するための光学面形成面56aとフランジ形成面56bとが設けられている。光学面形成面56aは、比較的浅い凹面であり、レンズOLを構成する中心部OLaの一方(例えば光ディスク側)の光学面Saを成形する転写面である。フランジ形成面56bは、環状の平面であり、レンズOLを構成するフランジ部OLbの一方のフランジ面F1を成形する転写面である。詳細は後述するが、光学面形成面56aは、型締め時に固定金型41と可動金型42との間に非一様な力が加わることにより微小変形可能であり、所望の非点収差を発生させることができる。コア部21の後端面は、外周部22の後端面よりも突出している凸部21aを有する。凸部21aは、後述する保持部材24の凹部24aに嵌合し例えばねじ止め等によって固定される。
【0024】
図1(B)及び3(B)に示すように、コアユニット51を構成する外周部22の先端面には、光学面形成面56a(型締め時には型空間CV)に連通するゲートGPやランナRPが形成される。不図示のスプルからゲートGP及びランナRPを介して型空間CV内部に溶融樹脂が供給され、充填される。
【0025】
保持部材24は、コア部21と外周部22と含む当接部材23を背面から支持し、コアユニット51の全長を調整する型部材である。保持部材24の外径は、外周部22の外径と略同径となっている。保持部材24の先端面は、図示の例では、コア部21の凸部21aに対向する位置に凹部24aを有する。保持部材24は、凹部24aと当接部材23の凸部21aとを嵌合させ不図示のねじ等で固定することにより、当接部材23に設けられたゲートGPを所定方向に向けた状態に保持する。保持部材24は、交換可能であり、予め様々な長さのものを多数用意することにより、コアユニット51の全長を微調整することができる。これにより、固定金型41と可動金型42との型当たりの力を微調整することができる。
【0026】
その他、型板53には、コアユニット51と保持部材24とを挿入支持する円柱状の貫通孔57aが形成されている。また、型板53は、パーティングラインPLを形成する端面53aを有する。
【0027】
可動金型42は、コアユニット61と、型板63と、取付板64とを備える。可動金型42は、軸AXに沿って移動可能になっており、固定金型41に対して開閉動作する。可動金型42において、コアユニット61は、型空間CVを形成するため、固定金型41のコアユニット51に対向して配置される。型板63は、外周部材32を周囲から支持する型部材であり、取付板64は、外周部材32や型板63を背後から支持する型部材である。
【0028】
コアユニット61は、コア部材31と、外周部材32とを有する。コアユニット61は、軸状のコア部材31の周囲にシース状の外周部材32を配置した構造となっており、略円柱状の外形を有している。以上のように、コア部材31と外周部材32とが別部材で形成されていることから、コア部材31は、外周部材32に対して回転可能になっている。既に説明したように、コア部材31と外周部材32とは、固定金型41に設けたコアユニット51のコア部21と外周部22とにそれぞれ対向する。
【0029】
図1(A)、1(B)、及び3(A)に示すように、コア部材31の先端面には、型空間CVを形成するため、光学面形成面66aとフランジ形成面66bとが設けられている。光学面形成面66aは、比較的深い凹面であり、レンズOLの中心部OLaの一方(例えば光源側)の光学面Sbを成形する転写面である。フランジ形成面66bは、環状の平面であり、レンズOLのフランジ部OLbの他方のフランジ面F2を成形する転写面である。
【0030】
コア部材31は、円柱状のロッド部31aと、円板状の基部31bとを備える。ロッド部31aの先端31cは、外周部材32に形成された小径孔32iとの間に樹脂が流入しない程度の僅かな隙間を有する状態で軸AXに垂直な方向に微小変位可能に、かつ、軸AX方向に移動可能に挿通されている。基部31bは、外周部材32に形成された大径孔32jとの間に僅かな隙間を有する状態で、軸AX方向に移動可能に挿通されている。つまり、コア部材31は、本実施形態の場合、突き出し部として機能し、軸AX方向に往復動可能になっている。ロッド部31aの周囲に装着された戻しバネ68は、コア部材31を根元の基部31b側に付勢しており、外周部材32内におけるコア部材31の保持を確実なものとしている。可動金型42を固定金型41から離間させる型開き後において、不図示のエジェクタによりコア部材31を外周部材32に対して固定金型41側に移動させることにより、可動金型42に残るレンズOLを簡単に離型させることができる。
【0031】
外周部材32は、コア部材31を周囲から保持する型部材である。外周部材32は、シース状であり、コア部材31を外周部材32内に保持するための挿通孔32hを有する。この挿通孔32hは、既に説明したように、先端側に開口としての小径孔32iを有し、根元側に大径孔32jを有する2段構造となっている。
【0032】
図3(A)に示すように、外周部材32の先端面には、一対の直線状の溝32aが設けられている。これらの溝32aは、固定金型41との当接を回避し、結果的に可動金型42に対向する固定金型41の光学面形成面56aを変形させるためのものである。両溝32aは、コア部材31の光学面形成面66aから外周部材32の外縁まで延び、光学面形成面66aを挟むように形成されている。具体的には、両溝32aは、外周部材32の径方向であって軸AXと直交する横断線に沿って直線状に延びており、軸AXを挟んで対称に配置されている。図3(A)及び3(C)に示すように、溝32aは、平面視において略矩形であり、側面視又は断面視において浅い凹形状となっている。図3(C)に示すように、溝32aの側面32b,32bは、互いに平行であり、外周部材32の先端面66cに対して垂直となっている。溝32aの底面32cは、外周部材32の先端面66cに対して略平行となっている。図3(A)に示すように、溝32aの溝幅Dは、固定金型41のコアユニット51が変形可能な大きさとなっており、光学面形成面66aの外径よりも小さいことが望ましい。つまり、溝32aの溝幅Dは、コアユニット51が変形可能なある程度の大きさを有しつつも、コアユニット51の先端面56cとコアユニット61の先端面66cとの当接する面積がある程度確保されるようなものとなっている。これにより、型締め時に固定金型41のコアユニット51が可動金型42から受ける力を溝32aに直交な方向に限定し、光学面形成面56aに特定方向の力を有効に伝えることができる。また、図3(C)に示すように、溝32aの深さHは、コアユニット51が変形しても、溝32aの底面32cが型締め時に固定金型41の外周部22に接触せず、かつ、溶融樹脂が流入しない程度の深さとなっている。具体的には、溝32aの深さHは、0.1(mm)以下となっている。コアユニット61において、端面のうち溝32a以外の部分は、固定金型41との当接領域ARとなる。本実施形態の場合、当接領域ARは、図3(A)に示すように、外周部材32の先端面66cのうち溝32a以外の先端面66cに半円の扇状に形成される。固定金型41と可動金型42とを型締めすると、固定金型41は、当接領域ARのみから力を受ける。
【0033】
溝32aは、例えば切削によって形成される。なお、溝32a以外の部分に選択的な成膜を行って、溝32aを形成してもよい。成膜材料として、例えば金属、金属化合物、炭素薄膜等を用いることができる。
【0034】
外周部材32は、コア部材31に対して回転可能となっており、外周部材32を回転させることにより、溝32aの方向を変化させることができる。
【0035】
その他、型板63には、外周部材32を挿入支持する円柱状の貫通孔67aが形成されている。また、型板63は、パーティングラインPLを形成する端面63aを有する。
【0036】
なお、1つのレンズOLを成形する一対のコアユニット51,61について説明したが、同様のコアユニット51,61を多数組み込んだ多数個取りタイプの成形金型を構成し、複数のレンズOLの成形に用いることができる。この場合、各コアユニット51に形成されるゲートGPは、1つのスプルに連通している。各コアユニット61の溝32aの角度を個別に調整することができるため、各コアユニット51の光学面形成面56aの非点収差を個別に調整することができる。
【0037】
図4(A)〜4(F)を参照して、溝32aの機能について説明する。図4(A)及び4(D)は、可動金型42のコアユニット61の正面図であり、図4(B)及び4(E)は、固定金型41の光学面形成面56aの拡大図であり、図4(C)は、図4(B)のA−A矢視断面図であり、図4(F)は、図4(E)のB−B矢視断面図である。なお、図4(B)、4(C)、4(E)、及び4(F)において、点線は型開き時の光学面形成面56a、フランジ形成面56bの輪郭であり、実線は、型締め時の光学面形成面56a、フランジ形成面56bの輪郭である。固定金型41と可動金型42とを型締めすると、コアユニット51の先端面のうち溝32a以外の外周部材32の先端面と接触した面、すなわち当接領域ARのみに型締め力が加わる。この型締め力は、当接部材23の外周部22に偏った力(径方向に相反する回転モーメント)を生じさせる。これにより、固定金型41の光学面形成面56aのうち外周部22と外周部材32との当接領域ARに隣接する光学面形成面56aが径方向の外側に広がるように変形する。具体的に説明すると、例えば、図4(A)に示すように、溝32aを固定金型41のゲートGPに対して90°の位置に回転させた場合、図4(B)及び4(C)に示すように、固定金型41の光学面形成面56a及びフランジ形成面56bの輪郭は、当接領域ARの中心方向である溝32aに対して90°(ゲートGPに対して0°、180°)の径方向の外側に広がるように変形する。また、図4(D)に示すように、溝32aを固定金型41のゲートGPに平行な位置(すなわち0°)に回転させた場合、図4(E)及び4(F)に示すように、固定金型41の光学面形成面56a及びフランジ形成面56bの輪郭は、当接領域ARの中心方向である溝32aに対して90°(ゲートGPに対して90°)の径方向の外側に広がるように変形する。以上のように、外周部材32をコア部材31に対して所望の角度に回転させると、固定金型41の光学面形成面56a及びフランジ形成面56bの輪郭が所望の方向に変形し、光学面形成面56aに非点収差が発生する。よって、外周部材32の溝32aの方向を適宜変化させることにより、固定金型41の光学面形成面56aの非点収差の発生方向を調整することができる。また、固定金型41において、コア部21及び外周部22を支持する保持部材24の長さを増減し、型締め力を変化させることにより、光学面形成面56aの非点収差の量を調整する。
【0038】
具体的な実施例として、例えば、保持部材24の長さを0.011(mm)長くして型締めした場合、光学面形成面56aの非点収差の変化量は0.0041λであった。なお、この変化量の値は、レンズ形状、仕様等によって変わるものである。
【0039】
以下、図1の成形金型40を用いた樹脂製品の製造方法について説明する。なお、図示を省略しているが、成形金型40は、射出成形機に組み込まれて使用されるものであり、固定金型41は、射出成形機の固定盤に固定され、可動金型42は、射出成形機の可動盤に固定される。
【0040】
金型温度調節機(不図示)により、両金型41,42は成形に適する温度まで加熱されており、可動金型42を支持する可動盤を固定金型41を支持する固定盤に近接させて、固定金型41と可動金型42とが接触する型当たり位置まで移動させて型閉じを行うとともに、固定金型41と可動金型42とを必要な圧力で締め付ける型締めを行う。この際、可動金型42の溝32aによって形成された当接領域ARを利用して、固定金型41の光学面形成面56a及びフランジ形成面56bの輪郭が溝32aに直交する方向に微小変形する。次に、射出装置(不図示)を動作させて、型締めされた固定金型41と可動金型42との間に形成される型空間である型空間CV中に、必要な圧力で溶融樹脂を注入する射出が行われ、保圧工程を経て溶融樹脂が緩やかに冷却される。溶融樹脂が冷却されて十分硬化した段階で、可動金型42を後退させる型開きを行うことにより、固定金型41と可動金型42とが離間する。この結果、両型41,42間から樹脂成形品としてのレンズOLを取り出すことができる。成形されたレンズOLは、光学面形成面56aの微小変形により曲率の小さい光学面Saに非点収差が生じている。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の光学素子の製造方法及び成形金型によれば、可動金型42の外周部材32に溝32aを設けることにより、固定金型41と可動金型42との型締めの際に、外周部材32に対向する外周部22において、光学面形成面56aを所望の方向に変形させることができる。すなわち、外周部材32とこれに対向する固定金型41との当接領域ARの中心は溝32aを挟んで特定方向に離間しており、この特定方向に分離されて偏った力を与えて、光学面形成面56aの輪郭を特定方向に関して外側にわずかに変形させることができる。これにより、光学面形成面56aに非点収差を発生させることができる。また、溝32aを設けた外周部材32を回転させることに伴う溝32aの方向変化によって光学面形成面56aに加わる力の方向を変えることができる。これにより、光学面形成面56aの輪郭の変形方向を簡易に調整することができる。また、ゲートGPが設けられていない可動金型42に溝32aを設けることにより、ゲートGPの位置を固定しつつ、溝32aの位置を変化させることができる。以上のことから、多数個取りのレンズOLを製造する場合でも、個別に非点収差を調整してレンズOLを製造することができる。
【0042】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態に係る光学素子の製造方法とこれに用いる成形金型について、図面を参照しつつ説明する。なお、第2実施形態に係る製造方法や成形金型は、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0043】
図5に示すように、第2実施形態の場合、コアユニット61の外周部材32の先端面には、扇状の溝32aが設けられている。溝32aは、コア部材31の光学面形成面66aから外周部材32の外縁まで延び、光学面形成面66aを挟んで径方向に2つ形成されている。具体的には、一対の溝32aは、外周部材32の径方向に扇状に延びており、軸AXを挟んで対称となっている。すなわち、各溝32aは、外周部材32の中心側の幅よりも径の外側の幅の方が広くなっている。具体的には、溝32aの中心側の溝幅Dは、光学面形成面66aの外径よりも小さくなっている。溝32aが外周部材32の径方向に延び、扇状であることにより、固定金型41の光学面形成面56aに伝わる力の偏りを大きくすることができる。コアユニット61において、端面のうち溝32a以外の部分は、固定金型41との当接領域ARとなる。本実施形態の場合、当接領域ARは、図5に示すように、外周部材32の先端面66cのうち溝32a以外の先端面66cに扇状に形成される。固定金型41と可動金型42とを型締めすると、固定金型41は、当接領域ARのみから力を受ける。
【0044】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態に係る光学素子の製造方法とこれに用いる成形金型について、図面を参照しつつ説明する。なお、第3実施形態に係る製造方法や成形金型は、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0045】
図6に示すように、第3実施形態の場合、コアユニット61の外周部材32の先端面には、長方形状又は短い直線状の溝32aが設けられている。溝32aは、コア部材31の光学面形成面66aから径方向の途中まで形成されており、外周部材32の外縁まで延びていない。溝32aは光学面形成面66aを挟んで径方向に2つ形成されている。具体的には、溝32aは、外周部材32の径方向に直線状に延びており、軸AXを挟んで対称となっている。これにより、コアユニット61において、端面のうち略半円の扇状の部分が固定金型41との当接領域ARとなる。なお、溝32aの径方向の長さLは、固定金型41の当接部材23を変形させることが可能な程度の長さとなっている。
【0046】
〔第4実施形態〕
以下、本発明の第4実施形態に係る光学素子の製造方法とこれに用いる成形金型について、図面を参照しつつ説明する。なお、第4実施形態に係る製造方法や成形金型は、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0047】
図7に示すように、第4実施形態の場合、コアユニット61の外周部材32の先端面には、直線状の溝32aが交差するように設けられている。溝32aは、コア部材31の光学面形成面66aから外周部材32の外縁まで延び、光学面形成面66aを挟んで径方向に4つ形成されている。具体的には、溝32aは、コア部材31の外縁から等間隔に放射状に延びており、軸AXを挟んで対となる溝32aが対称となっている。これにより、コアユニット61において、端面のうち円を4等分した形の扇状の部分が固定金型41との各当接領域ARとなる。図示は省略するが、溝32aは、直交方向で溝幅や長さ等の形状に差を設けることが望ましい。
【0048】
なお、第4実施形態の溝32aでは、非点収差だけでなく球面収差も発生させることができる。
【0049】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態において、溝32aの深さHは、溶融樹脂が流入しない程度の深さとしたが、溶融樹脂が流入してバリが発生しても2次加工によりバリを除去すればよい。
【0050】
また、上記実施形態において、溝32aの形状は例示であり、固定金型41の光学面形成面56aの輪郭を特定方向に変形可能なものであればよい。
【0051】
また、上記実施形態において、溝32aがコア部材31に連通しているとしたが、固定金型41の光学面形成面56aが変形可能であれば、コア部材31に連通していなくてもよい。
【0052】
また、上記実施形態において、保持部材24を固定金型41に設けたが、可動金型42において、突き出し機構等の型構成が複雑でない場合、可動金型42に設けてもよい。
【0053】
また、上記実施形態において、ゲートGPを可動金型42に設ければ、固定金型41に溝32aを設けてもよい。この場合、固定金型41を上記実施形態の可動金型42のコアユニット61のようにコア部材31に対して外周部材32が回転可能な機構にする。
【0054】
また、上記実施形態において、固定金型41のコアユニット51がコア部21と外周部22とで一体に形成されているとしたが、別部材で形成されてもよい。この場合、コア部21と外周部22とが回転しないように固定されており、かつ外周部22にかかる力がコア部21に有効に伝わるようにしている必要がある。
【0055】
また、上記実施形態において、固定金型41及び可動金型42で構成される成形金型40に設ける型空間CVの形状は、図示のものに限らず、様々な形状とすることができる。すなわち、型空間CVの形状は、単なる例示であり、レンズOLの用途等に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0056】
21…コア部 、22…外周部 、23…当接部材 、24…保持部材 、31…コア部材 、32…外周部材 、32a…溝 、40…成形金型 、41…固定金型 、42…可動金型 、51…コアユニット 、53…型板 、54…取付板 、56a…光学面形成面 、56b…フランジ形成面 、61…コアユニット 、63…型板 、64…取付板 、66a…光学面形成面 、66b…フランジ形成面 、AR…当接領域 、AX…軸 、CV…型空間 、F1,F2…フランジ面 、GP…ゲート 、OL…レンズ 、OLa…中心部 、OLb…フランジ部 、PL…パーティングライン 、RP…ランナ 、Sa,Sb…光学面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子の第1光学面を形成する第1金型と、前記光学素子の第2光学面を形成する第2金型とを型合わせした成形金型を用いた光学素子の製造方法であって、
前記第1金型は、前記光学素子の第1光学面を形成する第1光学面形成面を先端に有するコア部材と、前記コア部材の周囲に配置される外周部材とを有し、
前記第2金型は、前記光学素子の第2光学面を形成する第2光学面形成面を先端に有し、
前記外周部材は、前記コア部材に対し回転可能であり、前記第2金型に対向する面に前記第2金型との当接を回避する溝を有し、
前記第2金型は、前記第2光学面形成面に連通するゲートを先端に有し、
成形に際して、前記溝によって前記外周部材の端面に形成される複数の当接領域を利用して、前記外周部材に対向する前記第2金型の前記第2光学面形成面を変形させることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1金型は、可動型であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2金型は、前記第2光学面形成面を有するコア部と、前記コア部の周囲に配置される外周部とを有し、
前記コア部と前記外周部とは、一体に形成された部材であることを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1金型において、前記溝は、前記コア部材に連通し、前記コア部材を挟んで前記外周部材の径方向に直線状に延びることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1金型において、前記溝は、前記コア部材に連通し、前記コア部材を挟んで前記外周部材の径方向に延びるとともに前記外周部材の中心側の幅よりも径の外側の幅の方が広くなるように扇状に設けられることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2金型は、前記第2光学面形成面を有する部材を背面から支持する保持部材を有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
光学素子の第1光学面を形成する第1金型と、前記光学素子の第2光学面を形成する第2金型とを備える成形金型であって、
前記第1金型は、前記光学素子の第1光学面を形成する第1光学面形成面を先端に有するコア部材と、前記コア部材の周囲に配置される外周部材とを有し、
前記第2金型は、前記光学素子の第2光学面を形成する第2光学面形成面を先端に有し、
前記外周部材は、前記コア部材に対し回転可能であり、前記第2金型に対向する面に前記第2金型との当接を回避する溝を有し、
前記第2金型は、前記第2光学面形成面に連通するゲートを先端に有することを特徴とする成形金型。
【請求項8】
前記第1金型は、可動型であることを特徴とする請求項7に記載の成形金型。
【請求項9】
前記第2金型は、前記第2光学面形成面を有するコア部と、前記コア部の周囲に配置される外周部とを有し、
前記コア部と前記外周部とは、一体に形成されることを特徴とする請求項7及び請求項8のいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項10】
前記第1金型において、前記溝は、前記コア部材に連通し、前記コア部材を挟んで前記外周部材の径方向に直線状に延びることを特徴とする請求項7から請求項9までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項11】
前記溝は、前記コア部材に連通し、前記コア部材を挟んで前記外周部材の径方向に延びるとともに前記外周部材の中心側の幅よりも径の外側の幅の方が広くなるように扇状に設けられることを特徴とする請求項7から請求項9までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項12】
前記第2金型は、前記第2光学面形成面を有する部材を背面から支持する保持部材を有することを特徴とする請求項7から請求項11までのいずれか一項に記載の成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−71546(P2012−71546A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219817(P2010−219817)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】