光学素子の製造方法
【課題】 光走査装置に用いられるプラスチックより成る光学素子を成形用金型を用いて射出成形して製造するとき、像面湾曲が低減でき、更にfθ特性を十分に満足した光学性能を有する光学素子を容易に製造することができる光学素子の製造方法を得ること。
【解決手段】 光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造するとき、成形条件を設定するイニシャル成形工程と、光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、鏡面駒の形状を補正加工する第1の補正工程と、焦点ずれ量測定工程と、焦点ずれ量の敏感度を算出する敏感度算出工程と、非球面係数を再設計する再設計工程と、鏡面駒の形状を補正加工する第2の補正工程と、第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う本成形工程とを有すること。
【解決手段】 光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造するとき、成形条件を設定するイニシャル成形工程と、光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、鏡面駒の形状を補正加工する第1の補正工程と、焦点ずれ量測定工程と、焦点ずれ量の敏感度を算出する敏感度算出工程と、非球面係数を再設計する再設計工程と、鏡面駒の形状を補正加工する第2の補正工程と、第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う本成形工程とを有すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子の製造方法に関し、特に光走査装置で用いるプラスチック材より成る光学素子を成形用金型を用いて射出成形して製造する際に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材より成る光学素子は、軽量で非球面係数が容易に得られるため各種の光学系に用いられている。多くのプラスチック材より成る光学素子は射出成形によって製造されている。
【0003】
光学素子をプラスチック射出成形すると成形後のプラスチック材には不均一な収縮が生じる。この結果、成形後の光学素子は形状が設計値から変化し、形状誤差が発生してくる。又プラスチック材の内部の屈折率分布が不均一となり、成形後の光学素子の光学性能が設計値からずれてしまう(偏差が生じる)ことがある。
【0004】
従来より光走査装置に用いられるプラスチック材より成る光学素子の製造方法として、射出成形後の光学素子の局所的な収縮及び形状誤差を軽減して製造する方法が種々と提案されている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開平07−60857号公報
【特許文献2】特開2002−248666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光走査装置において、走査光学系を構成する光学素子には製造が容易なプラスチックレンズが多く用いられている。プラスチックレンズは射出成形による大量生産に向いている。
【0006】
一方で、感光体ドラム面上に形成される画像の像面湾曲を良好にし、かつ感光体ドラム面上における走査線湾曲を低減するためにfθ特性を良好にする必要がある。このためプラスチックレンズの光学機能面は非球面形状で設計されることが多い。このとき、射出成形により所望の非球面形状の面を有するプラスチックレンズを製造している。
【0007】
射出成形によりプラスチックからなるレンズ(光学素子)を成形する場合、プラスチックの成形収縮により完成したレンズの表面形状が劣化(変化)する。例えば、プラスチックを素材としてレンズを成形する場合、プラスチックの収縮により完成したレンズは鏡面駒で形成されるキャビティの寸法よりも小さくなっている。また光学機能面の形状も同様に鏡面駒の表面形状に対し、成形収縮により変形する。このような誤差が設計許容範囲内にない場合、この成形品は製品として用いることができない。
【0008】
しかしながら、成形時に生じる鏡面駒の型からの変位(誤差)が安定し、成形日時や環境によって大きく変動しなければ、この誤差をあらかじめ型形状で補正すれば良い。これにより、成形品の形状を設計許容範囲内にいれることができて、製品として使用することができる。
【0009】
特許文献1では、レンズの成形時の収縮や変形分等を盛り込んで鏡面駒を作成する方法を開示している。特許文献1では、一度成形してレンズの光学機能面の形状誤差を測定し、プラスチック(樹脂)の不均一な(局所的な)収縮の影響による形状誤差を低減するように金型の鏡面駒を修正する方法を開示している。
【0010】
また、特許文献2では、走査光学系に用いる光学素子として、光学特性の測定結果から像面湾曲を低減するように光学素子の一部の光学機能面の形状を補正する方法を開示している。
【0011】
一般に射出成形後の冷却過程で発生するレンズ内部の収縮の不均一性によってレンズ内部に屈折率分布が発生する。このため、レンズの光学機能面(レンズ面)の形状を所望の設計値の形状に合わせただけでは、所望の光学性能が得られない場合が多い。
【0012】
また、光学ピント測定で得られた像面湾曲を補正するように特定の光学機能面における部分曲率を再設計することで像面湾曲は補正できる。
【0013】
しかしながら光学機能面の局所的な傾き誤差は補正することができない。そのために、fθ特性や部分倍率が設計値と異なってしまう恐れがある。
【0014】
本発明は、光走査装置に用いられるプラスチックより成る光学素子を成形用金型を用いて射出成形して製造するとき、像面湾曲が低減でき、更にfθ特性が良い光学素子を容易に製造することができる光学素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の光学素子の製造方法は、
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
前記形状近似工程で求められた曲面モデルの光学機能面の形状と設計値の光学機能面の形状との差異を低減するように、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第1の補正工程と、
前記第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を使用時と同じ配置の評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記焦点ずれ量測定工程で測定された焦点ずれ量に一致するように1以上の光学機能面の非球面係数を再設計する再設計工程と、
前記再設計工程を行なった光学機能面において、前記再設計工程で求められた非球面係数と設計値の非球面係数との差異を反映させて、光学機能面の成形用金型に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第2の補正工程と、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う本成形工程とを有することを特徴としている。
【0016】
この他、本発明の光学素子の製造方法は、
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
射出成形された光学素子を使用時と同じ配置である評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記形状近似化工程で得られた曲面モデルより非球面係数を用いた光学シミュレーションで光学系の性能を評価する評価工程と、
前記評価工程で得られた焦点ずれ量と前記焦点ずれ量測定工程で得られた焦点ずれ量との差分が規格より外れている場合は、前記差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を新たに再設計する再設計工程と、
前記形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する補正工程と、
前記補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記補正工程で得られた鏡面駒で成形を行う本成形工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光走査装置に用いられるプラスチックより成る光学素子を成形用金型を用いて射出成形して製造するとき、像面湾曲が低減でき、更にfθ特性を十分に満足した光学性能を有する光学素子を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の光学素子の製造方法において製造されるプラスチックより成る光学素子は、
光走査装置で使用される。光学素子は成形用金型を用いて射出成形にて製造される。本発明は大別して第1、第2発明を有する。第1、第2発明の製造方法は次の各工程を有する。
【0019】
(第1発明)
(A−1)イニシャル成形工程
光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定する。
【0020】
(A−2)形状近似工程
光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する。
【0021】
(A−3)第1の補正工程
形状近似工程で求められた曲面モデルの光学機能面の形状と設計値の光学機能面の形状との差異を低減するように、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する。
【0022】
(A−4)焦点ずれ量測定工程
第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を使用時と同じ配置の評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する。
【0023】
(A−5)敏感度算出工程
光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出する。
【0024】
(A−6)再設計工程
算出された敏感度を用いて、焦点ずれ量測定工程で測定された焦点ずれ量に一致するように1以上の光学機能面の非球面係数を再設計する。
【0025】
(A−7)第2の補正工程
前記再設計を行なった光学機能面において、再設計工程で求められた非球面係数と設計値の非球面係数との差異を反映させて、光学機能面の成形用金型に対応する鏡面駒の形状を補正加工する。
【0026】
(A−8)本成形工程
第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う。
【0027】
(第2発明)
(B−1)イニシャル成形工程
光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定する。
【0028】
(B−2)形状近似工程
光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する。
【0029】
(B−3)焦点ずれ量測定工程
射出成形された光学素子を使用時と同じ配置である評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する。
【0030】
(B−4)評価工程
形状近似化工程で得られた曲面モデルより非球面係数を用いた光学シミュレーションで光学系の性能を評価する。
【0031】
(B−5)敏感度算出工程
光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出する。
【0032】
(B−6)再設計工程
評価工程で得られた焦点ずれ量と焦点ずれ量測定工程で得られた焦点ずれ量を計算した結果との差分が規格より外れている場合は、差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を敏感度により新たに再設計する。
【0033】
(B−7)補正工程
形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する。
【0034】
(B−8)本成形工程
補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、補正工程で得られた鏡面駒で成形を行う。
【0035】
[実施例1]
図2は本発明の光学素子の製造方法で製造した光学素子を有する光走査装置の実施例1の主走査断面図である。
【0036】
本実施例の光走査装置は、例えば電子写真プロセスを有するレーザービームプリンターやデジタル複写機等の装置に好適なものである。
【0037】
尚、以下の説明において、副走査方向(Z方向)とは、偏向手段の回転軸と平行な方向である。主走査断面とは、副走査方向(偏向手段の回転軸と平行な方向)を法線とする断面である。主走査方向(Y方向)とは、偏向手段で偏向走査される光束を主走査断面に投射した方向である。副走査断面とは、主走査方向を法線とする断面である。
【0038】
図中、1は光源手段(例えば、半導体レーザー)である。また、半導体レーザーは1以上の発光部1aを有している。半導体レーザーの発光部1aから出射した発散光束はコリメータレンズ3(3a,3b)により平行光束に変換される。変換された平行光束は副走査方向のみにパワーを有するシリンドリカルレンズ4により、ポリゴンミラー(偏向手段)5の偏向面5a又はその近傍に主走査方向に長手の線像として結像される。また、シリンドリカルレンズ4を通過した光束は、開口絞り2によって光束幅が制限される。
【0039】
偏向手段としての光偏向器5は、例えば回転多面鏡(ポリゴンミラー)より成り、モータ等の駆動手段(不図示)により図中矢印A方向に一定速度で回転している。
【0040】
6はfθ特性を有する結像光学系としての走査光学系(fθレンズ系)であり、光偏向器5により偏向された光束を防塵ガラス7を介して感光ドラム面(被走査面)8上にスポット状に結像させている。
【0041】
該ポリゴンミラー5を矢印A方向に回転させることによって、該感光ドラム面8上を矢印B方向に光走査し走査線(不図示)を形成し画像記録を行っている。結像光学系6は副走査断面内において、光偏向器5の偏向面5a又はその近傍と感光ドラム面8又はその近傍との間を共役関係にすることにより、倒れ補正機能を有している。
【0042】
本実施例において、結像光学系6を構成する2つの光学素子(走査レンズ)6a,6bは成形用金型を用いて射出成形によって製造されている。
【0043】
図1は本発明の光学素子の製造方法の実施例1のフローチャートである。次に図1の各製造工程について説明する。
【0044】
光学設計ソフト等で作成した設計値に基づいて、光学素子の光学機能面(レンズ面又は面ともいう)形状を作成する成形用金型の鏡面駒の形状をまず決定する。鏡面駒はステンレス工具鋼で概略の形状を形成し、光学機能面をNi等の切削加工性のよい金属でメッキすることで後述する補正加工をしやすくしている。
【0045】
上記作成したメッキ部分を任意の形状に削ることで初期に成形するための鏡面駒を作成する。任意の形状については設計値形状、もしくは使用するプラスチックが成形によって収縮する比率が分かっていれば、設計値に対して収縮比率分をかけるのが良い。これによれば、射出成形後の成形収縮によって発生する設計値からの誤差が少なくなる。結果として、鏡面駒の修正するためにメッキの削る量が少なくなるため望ましい。
【0046】
次に作成した鏡面駒を用いて成形を行う(イニシャル成形工程)。成形機の加圧容量や光学素子の大きさ、一回の成形サイクル等で得られる光学素子個数(取り個数)などで型の構造が異なっている。
【0047】
したがって全ての光学素子が同じ成形条件で「安定した成形」が得られるとは限らない。ここでいう「安定した成形」とは、
1.光学機能面に局所的な歪み(ヒケ)が発生しない、
2.複屈折によるスポット肥大が発生しない、
3.取り個数すべてのキャビティで光学機能面の形状がほぼ同一、
4.異なる日時に成形しても光学機能面の形状がほとんど変わらない、
等ということを意味している。
【0048】
上記の「安定した成形」を得るために、成形時に光学素子にかける圧力(保圧)、成形の1サイクルの時間(成形タクトタイム)、成形型の内部温度(型温度)といった成形条件を全ての光学素子において調整を行っている。
【0049】
上記述べたような成形条件の調整により、1回目の成形品(イニシャル成形品)が得られる。このイニシャル成形品について、中心部(レンズ中心部)の肉厚、基準面から光学機能面の面頂点までの距離、および光学機能面の形状を測定することで、初期の性能を評価してゆく(形状近似工程)。
【0050】
光学機能面の測定についてはフォーム・タリサーフ(テイラー・ホブソン社製)などの測定器を用いて細ピッチでの形状評価を行っている。
【0051】
図3(A)、(B)、図4は評価結果の一例の説明図である。図3(A)は、光学素子の主走査方向(母線方向)に関して設計形状に対する光学機能面の形状の誤差を示している。図3(A)において、0から遠ざかるほど形状誤差が大きいことを示している(主走査形状誤差)。
【0052】
また図3(B)は測定した主走査方向における光学機能面の形状に対して特定の範囲(例えば10mm幅)で2次関数フィッティングを行い、得られた関数の2階微分値および1階微分値から部分曲率を求めたものである。そして設計値の部分曲率に対する実際の部分曲率との差、即ちニュートン本数誤差を算出したものである(主走査ニュートン誤差)。
【0053】
また図4は光学機能面を主走査方向に対して所定の分割数で区切り、各分割位置において光学機能面の母線(光学機能面頂点を通る線)の法線方向における断面形状を測定し、設計値からのニュートン本数誤差を表したものである(副走査ニュートン誤差)。
【0054】
上記で得られた主走査形状誤差、主走査ニュートン誤差および副走査ニュートン誤差を修正するような鏡面駒の形状を算出するために、誤差量を関数でフィッティングする必要がある。
【0055】
本実施例における、光学素子の光学機能面の形状は以下の表現式により表されている。各レンズ面と光軸との交点を原点とする。光軸方向をx軸、主走査断面内において光軸と直交する軸をy軸、副走査断面内において光軸と直交する軸をz軸とする。このとき、主走査方向と対応する母線方向が、
【0056】
【数1】
(但し、Rは曲率半径、k、A4、A6、A8、A10は非球面係数)
副走査方向(光軸を含み主走査方向に対して直交する方向)と対応する子線方向が、
【0057】
【数2】
ここで c=c0+B2Y2+B4Y4+B6Y6+B8Y8
(但し、c0は光軸上の子線曲率、B2、B4、B6、B8は係数)
で表される形状である。
【0058】
尚、光軸外の子線曲率cは各々の位置における母線の法線を含み主走査面と垂直な面内に定義されている。
【0059】
このような設計値に対して、主走査方向における形状誤差をフィッティングするために以下に示す関数を用いる。但し、E2、E4、E6、E8、E10、E12は非球面係数である。
【0060】
Δx=E2Y2+E4Y4+E6Y6+E8Y8+E10Y10+E12Y12+E14Y14+E16Y16・・・(式3)
次に副走査方向断面におけるニュートン本数誤差をフィッティングするために以下に示す関数を用いる。但し、cΔは光軸上の子線曲率誤差、F2、F4、F6、F8は係数である。
【0061】
【数3】
ここで、c’=cΔ+F2Y2+F4Y4+F6Y6+F8Y8+F10Y10
【0062】
上記のように、イニシャル成形品の光学機能面の形状誤差データを(式3)および(式4)を使って最小自乗近似することで全ての光学機能面について関数近似している。この関数の符号を反転させたものを、もとの鏡面駒の形状関数に付加してやれば(補正加工すれば)、次に成形した光学素子の全ての光学機能面の形状は設計値形状に近づくことになる(第1の補正工程)。
【0063】
このとき、鏡面駒の主走査方向の長さに対する、成形したレンズにおける光学機能面の主走査方向の長さの比率がわかっていれば、(式3)および(式4)のYの係数に関する部分にこの比率をYの次数に応じてかけてやる。これによれば成形した光学素子の光学機能面の形状より設計値に近づけることができるので望ましい。
【0064】
そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工する。このとき、光学機能面の修正をすると共に、光学素子中心部の肉厚や基準面に対する光学機能面の頂点位置を修正するために、成形型に対する鏡面駒の相対位置を調整している。
【0065】
次に、再加工された鏡面駒で成形した光学素子について、光学機能面の形状測定および光学素子中心部の肉厚や基準面に対する光学機能面の頂点位置を測定し、設計値に対する形状誤差が許容範囲に入っているかどうかを確認する。
【0066】
形状測定と並行して、この光学素子を用いて光学性能を評価する(焦点ずれ量測定工程)。光学性能の評価のために、図5に示すような評価工具を製作する。
【0067】
この評価工具は、光走査装置と同じ光学配置になるように、平板上に半導体レーザー1、コリメータ3、シリンドリカルレンズ4、ポリゴンミラー5、および光学素子(走査レンズ)6a,6bを配置している。
【0068】
そして、光学素子6a,6bを交換できるようにすることで全ての光学素子の光学性能を評価することができる。観測系については、半導体レーザーの発光点から感光体ドラム面までの距離と同じになる位置にCCDカメラ10を配置する。
【0069】
このCCDカメラ10は図5に示すX方向(レール12の矢印方向)、Y方向(レール11の矢印方向)、およびZ方向(不図示)に動き、各位置での主走査方向および副走査方向のスポット径(PSF、LSF)やピーク光量(焦点ずれ量)を計測できる。
【0070】
具体的には、CCDカメラ10を測定したい像高に移動させ、次にポリゴンミラー5の角度を結像光学系6のfθ係数から算出した角度にあわせ、半導体レーザー1を発光させてスポットがCCDカメラ10の観測域に入るようにする。
【0071】
次に、CCDカメラ10をX方向に等ピッチに移動させるとともに、スポットの重心位置が常にCCDの中心にくるようにCCDカメラ10をY方向およびZ方向に移動させる。このときのCCDカメラ10の位置とスポット径をパソコン上に出力させることで、図6に示すような特定像高(複数像高)におけるスポット径のデフォーカス特性(焦点ずれ量)を観測することができる。
【0072】
そして、このデフォーカス特性から主走査方向(もしくは副走査方向)のスポット径の上限規格を横切るX座標値A点およびB点を算出する。そしてA点とB点の平均を深度中心(ピント位置)として、図7に示すように数点(複数点)の評価像高におけるピント位置を求める。図7の実線は実際に走査レンズを測定したときのピント位置であり、点線は設計値によるピント位置を示す。
【0073】
この実測と設計値との差が走査レンズの内部起因と予測される量(誤差量)である。また、設計の像面位置における主走査方向および副走査方向の照射位置をCCDカメラ10の位置情報から出力することで、fθ特性や走査線湾曲量を評価することができる。
【0074】
次に、評価工具よるピント測定結果になるような光学素子の光学機能面の形状を再設計することで予測する。
【0075】
ここで、先に述べた(式1)および(式2)の係数について、以下のようなXを変数ベクトルとして定義する。また、Xにおける測定像高における主走査方向および副走査方向のピントをfm(X)、測定像高において実際に測定して得られた主走査方向および副走査方向のピントをfm,tar(X)としたとき、評価関数ベクトルとして以下のようなF(X)を定義する。
【0076】
【数4】
【0077】
レンズ自動設計において、以下の数式で定義されるメリット関数φ(X)を最小化することで所望の性能を得るための光学素子の光学機能面の形状が得られるという減衰最小自乗法がある。この減衰最小自乗法(DLS法:Damped Least Squares法)が、Wynneらによって提案されている。
【0078】
φ(X)=FT(X)F(X)+ρΔXTΔX・・・(式6)
(式6)において、FT(X)はF(X)の転置行列であり、ΔXTは各変数の変動量ΔXの転置行列である。またρは非線形補正量を制御するパラメータでありダンピングファクタと呼ばれている。評価関数F(X)をX=X0近傍で1次までのTaylor展開を行うと、以下のようになる。
【0079】
【数5】
Aは偏微分行列(Jacobian)であり、(式7)を各ベクトル要素に直すと以下のようになる。
【0080】
【数6】
【0081】
メリット関数φ(X)の極値条件は、▽φT(X)=0である。これを(式6)および(式7)を用いて書き換えると以下のようになる。
【0082】
{ATA+ρI}ΔX=−ATF(X0)・・・(式9)
ただし、Iは単位行列である。そして、(式9)をΔXについて解くと、以下のようになる。
【0083】
ΔX=−{ATA+ρI}−1ATF(X0)・・・(式10)
今まで述べてきたことを踏まえて、具体的な再設計について図8のフローを用いて説明する。まず、走査レンズの光学機能面における特定の1面について、先に述べた(式1)および(式2)の係数を単独に微小量(設計値における係数の1/1000程度)だけに変化させたレンズ形状を作成する。
【0084】
そして、光学ソフト等を用いて光線追跡を行い、測定を行った像高と同じ位置における主走査方向および副走査方向のピント位置変動量を算出し、これを図9のような敏感度マトリックスAに整理する(敏感度算出工程)。
【0085】
この敏感度マトリックスAを用いて(式10)から変数ベクトルΔXを求める。そして、特定面における(式1)および(式2)の各係数をΔX分変動させて評価ベクトルF(X)を計算する。
【0086】
そして、(式6)のメリット関数φ(X)が収束するまで、図8のフローに従い(光線追跡による敏感度マトリックスAの算出)→(変数ベクトルΔXの算出)→(評価ベクトルF(X)の計算)を繰り返す。このフローによって、評価工具での測定値になるような光学機能面の形状関数が得られる(再設計工程)。
【0087】
先に係数を変化させる面を特定面としたが、レンズ設計において主走査方向のピントに敏感な面や副走査方向のピントに敏感な面が存在する。
【0088】
逆にピントに鈍感な面を用いて実際のピント位置になるような光学機能面の形状を再現しようとすると、設計値に対して形状が大幅に変わる恐れがあり、鏡面駒の補正後にピントは設計値に近づく。しかしながらfθ特性や走査線湾曲が設計値から大きくずれてしまう恐れがある。
【0089】
したがって、実際に係数を変化させる面を選択する際には、再現したいピント変動に敏感な面を選択するほうが良い。またピント変動に敏感な面であっても設計値に対する形状変化量が多い場合には、1面だけでなく2面の係数を変化させることでfθ特性や走査線湾曲への影響を小さくするのが望ましい。
【0090】
また、敏感度マトリックAの評価情報は測定像高におけるピント変動量としたが、測定像高への照射位置変動量を追加することで、fθ特性や走査線湾曲も同時に評価できるので望ましい。
【0091】
ここで、fθ特性とは全体倍率、片倍率、部分倍率を示す。
【0092】
全体倍率とはレーザー側最軸外像高の照射位置〜反レーザー側最軸外像高の照射位置の主走査方向距離である。
【0093】
片倍率とは、レーザー側最軸外像高の照射位置〜中央像高照射位置の主走査方向距離と反レーザー側最軸外像高〜中央像高照射位置の主走査方向距離の差分である。
【0094】
部分倍率とは、ポリゴンミラーを等回転角度ピッチで回転させたときの各像高の照射位置の主走査方向ピッチの一様性である。
【0095】
また、走査線湾曲とは中央像高における副走査方向照射位置、走査線曲がり、走査線傾きを示す。
【0096】
ここで、走査線曲がりとは、レーザー側最軸外像高の副走査方向照射位置、反レーザー側最軸外像高の副走査方向照射位置、中央像高の副走査方向照射位置を2次関数でフィッティングしたときの2次の係数である。
【0097】
走査線傾きとは、レーザー側最軸外の照射位置と反レーザー側最軸外の照射位置の副走査方向距離である。
【0098】
上記のように新たに再設計を行った光学機能面の形状関数と設計値の形状関数の差分となる関数を(式3)および(式4)を用いて算出し、この関数の符号を反転させたものを鏡面駒に付加する。これにより補正後成形した光学素子による光学特性が設計値に近づくことになる(第2の補正工程)。
【0099】
このとき、鏡面駒の主走査方向の長さに対する、成形したレンズにおける光学機能面の主走査方向長さの比率がわかっていれば、(式3)および(式4)のYの係数に関する部分にこの比率をYの次数に応じてかけてやれば良い。これによれば、成形した走査レンズの光学性能を、より設計値に近づけることができるので望ましい。
【0100】
そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工する。そして再度成形した光学素子の光学性能を図5の評価工具を用いて計測し、設計値とのピント誤差が許容範囲内かどうか判定する(焦点ずれ量測定工程)。
【0101】
判定の結果、許容範囲内であれば補正を終了させて本成形工程に進む。逆に許容範囲外であった場合は、再度ピント測定結果から再度特定面の光学機能面の形状を再設計し鏡面駒の補正形状を見直す工程をピント誤差が許容範囲内になるまで繰り返す必要がある。
【0102】
即ち、第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を、焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、前記焦点ずれ測定工程、敏感度算出工程、再設計工程、第2の補正工程、本成形工程を繰り返す。
【0103】
表1に実施例1の走査光学系における各光学素子6a,6bの光学配置、形状および使用した硝材(材料)の特性を示している。また、表2にアナモフィックレンズ1(光学素子6a)およびアナモフィックレンズ2(光学素子6b)の光学機能面の形状を示す。
【0104】
表2における記号については、先に述べた(式1)および(式2)の通りである。図10に実施例1の光学系での被走査面上の像面湾曲を示す。
【0105】
図11に実施例1の結像光学系でのfθ特性、および図12に実施例1の光学系での被走査面上のスポット形状(ピーク光量に対して、5%,10%,13.5%,36.8%,50%の等高線)を示す。
【0106】
図13に像面位置をデフォーカスさせたときの主走査方向および副走査方向のスポット径を示す。
【0107】
はじめに、イニシャル成形をするための鏡面駒の形状を決定するために、表2に示すアナモフィックレンズ1と同じような大きさの光学素子が成形よって収縮する量を検討した。
【0108】
図14は、設計値の光学機能面の形状をY方向にのみ異方性を持たせて収縮させたときの形状に対して、成形品の第1面および第2面の光学機能面の形状がどれくらいずれているかを示したものである。
【0109】
図中のいくつかの線は異方性収縮率をいくつか変えたものである。図14により成形品の光学機能面の形状との差分が一番小さい異方性収縮率は、第1面については0.6〜0.7%、また第2面については0.2%であることから両面の平均をとってアナモフィックレンズ1の異方性収縮率を0.5%とした。アナモフィックレンズ2についても同様に異方性収縮率の検討を行い、詳細については省略するが異方性収縮率を同じく0.5%とした。
【0110】
上記の検討をふまえてイニシャル成形品を成形するための鏡面駒の形状を表3のようにした。具体的には、異方性収縮率をa%としたとき、表2における各係数について、以下の数式による変換を行った。
【0111】
【数7】
ここでc’=c0+B’2Y2+B’4Y4+B’6Y6+B’8Y8
【0112】
表3の鏡面駒の形状を用いてイニシャル成形を行い、安定した成形条件下で得られたアナモフィックレンズ1の光学機能面の形状と設計値との形状誤差およびニュートン本数誤差を図3(A)および(B)に示す。
【0113】
図に示すように、設計値に対して最外部で約18μm、ニュートン本数誤差で約25本ずれているのが分かる。
【0114】
この形状誤差を補正するために、形状誤差を(式3)および(式4)に示す関数でフィッティングを行った。光学機能面として全ての光学素子の4面について同様に関数フィッティングを行った結果を表4に示す。ただし、yの値が正(レーザー側)の時には添字uがついた係数を、またyの値が負(反レーザー側)のときは添字lがついた係数を用いている。
【0115】
次に、表4のフィッティング結果を鏡面駒の形状に反映させるために、鏡面駒の主走査方向長さに対して、アナモフィックレンズ1およびアナモフィックレンズ2における光学機能面の主走査方向長さが実際にどれだけ収縮したかを測定した。
【0116】
その結果、4面各面における異方性収縮率aは0.4%、0.4%、0.5%、0.5%でとなった。下記の式のように、表4の各係数に異方性収縮量aを考慮した補正量を元の鏡面駒の形状関数の各変数から引くような換算を行い鏡面駒の形状を決定した。表6に示す形状関数で鏡面駒の補正加工を行った。
【0117】
【数8】
ここで c’’=c’’0+B’’2Y2+B’’4Y4+B’’6Y6+B’’8Y8
c’’0=c0−cΔ、
【0118】
1回目の補正加工(第1の補正工程)の後、再度成形して得られたアナモフィックレンズ1の主走査方向の光学機能面の形状誤差を図15に示す。また、アナモフィックレンズ2の副走査方向の光学機能面の形状誤差を図16に示す。図15および図16に示すように、設計値形状に対する形状誤差は約5μm以下にニュートン本数誤差は有効領域内で2本以内に低減されていることが分かる。
【0119】
次にアナモフィックレンズ1およびアナモフィックレンズ2を評価工具に搭載し、主走査方向および副走査方向のピントを評価した結果を図17に示す。
【0120】
同図(A)のように、140mm〜150mm付近で主走査方向のピント(実線で表示)が設計値(点線で表示)に対して、マイナス側に移動しているのがわかる。また、副走査方向については同図(B)のようにピントが設計値に対して傾いているのがわかる。
【0121】
このピントずれを補正するために、評価工具で得られたピントになるような光学機能面の形状を再設計した。変動させた係数については、主走査方向のピントに敏感なアナモフィックレンズ1の第2面を、また副走査方向のピントに敏感であるアナモフィックレンズ2の第2面の子線形状係数とした。設計値の形状関数に対して、図9のフローによる再設計を行って算出した形状関数との差分を表6に示す。
【0122】
1回目の補正に用いた鏡面駒の形状関数(表5)の各係数から(式13)および(式14)を用いて表6の誤差量を引いて鏡面駒の形状を決定した。このとき、異方性収縮率aは補正1回目と同じく、アナモフィックレンズ1は0.4%、アナモフィックレンズ2は0.5%とした。表7に鏡面駒の形状を示す。
【0123】
2回目の鏡面駒の補正加工(第2の補正工程)後、3回目の成形で得られたアナモフィックレンズ1およびアナモフィックレンズ2を用いて、評価工具でピントを測定した結果を図18に示す。図18のように、ほぼ設計値のピントと一致しており、2回の補正によって補正加工を完了することができた(本成形工程)。
【0124】
本実施例では光学素子の収縮を異方的に考えたが、形状によっては等方的に考えたほうが良い場合もある。また、使用する樹脂の収縮率が小さければ、鏡面駒の形状を決定する際に収縮の影響を考える必要はない。
【0125】
以上のように本実施例によれば、成形用金型を用いて射出成形したプラスチックより成る光学素子の光学機能面の形状が所望の設計形状に近づくように鏡面駒の形状を補正する。それと共に、光学素子内部の不均一性による影響を低減するように一部の光学機能面の鏡面駒の形状を追加補正する。
【0126】
そして、本実施例では、光学素子内部の不均一性による影響を相殺するように一部の光学機能面の鏡面駒の形状を追加補正できた。
【0127】
この製造方法によって製造した光学素子を光走査装置に用いれば被走査面上における像面湾曲を低減し、更にfθ特性を良好に維持することができる。
【0128】
この他、結像光学系の光学素子の配置誤差に伴う被走査面上での走査線曲がりの敏感度を低減して、常に良好なる画像を得ることができる。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
【表7】
【0136】
[実施例2]
図19は本発明の光学素子の製造方法の実施例2のフローチャートである。実施例1ではイニシャル成形品について形状測定のみ行い設計値に対する形状誤差を修正するように鏡面駒を修正していた。
【0137】
一方、実施例2においてはイニシャル成形工程で成形したイニシャル成形品について形状測定およびピント位置評価と同時に行っている。光学素子の形状が過去に成形した光学素子と類似している場合、成形による鏡面駒に対する離型量は類似している。従って、鏡面駒のイニシャル形状を過去の実績をもとに加工することで、イニシャル成形品の光学機能面の形状は比較的設計値形状に近いものができあがる。
【0138】
この場合、光学機能面の形状を設計値形状に戻すために必要な補正量は少なく、鏡面駒の形状が変わることで光学素子内部に及ぼす影響は補正前後であまり変わらないと考えられる。したがって、1回目の補正で光学機能面の若干の形状補正とピント位置補正を同時に行うことができる。
【0139】
形状近似工程、焦点ずれ測定工程については実施例1にて述べたのと同様なので詳細については省略する。
【0140】
焦点ずれ測定工程の評価工具で得られた主走査方向および副走査方向の設計値からのピントずれは、次の原因、
1.光学機能面の形状が設計値からずれていることの影響、
2.レンズ内部による影響
の2つの原因をもっている。
【0141】
原因2については光学機能面の形状を設計値に戻せば影響は無くなるので、実施例1と同様の形状補正を行えばよい。
【0142】
しかし、原因2の影響を算出するためには、現状のピントずれから原因1の影響を切り分ける必要がある。
【0143】
このために、結像光学系6を構成する全ての光学機能面の形状を形状近似工程で算出した関数に基づいて新たに定義し、この光学機能面の形状を元に光学モデルを作成し光線追跡によりピント位置を算出することで原因1が判る(評価工程)。
【0144】
そして、評価工具で得られたピント位置と先に求めた原因1との差分が原因2の影響であると考えられる。原因2の量が想定している規格(例えば、設計値におけるスポット径の許容深度幅の1/5)以下であれば、再設計は行わずに形状を元に戻すような補正を行ってやればよい(補正工程)。
【0145】
反対に、原因2の量が想定規格より大きい場合には、敏感度算出工程で先に作成した光学モデルを用いて、原因2に相当する形状変化量を見積もるために特定面のみ新たに再設計を行い所望の係数を見つけてやればよい(再設計工程)。
【0146】
そして再設計により、特定面の光学機能面の形状の係数値が見つかった後、再設計を行った面の係数値と設計値との差分を求め、さらに異方性収縮量を考慮して補正量を決定する(補正工程)。
【0147】
そして、補正量をイニシャルの鏡面駒の形状の係数値に足すことで形状誤差および内部ずれを考慮した鏡面駒の形状が決まる。
【0148】
また、再設計を行っていない残り全ての光学機能面については、実施例1で述べたように、形状誤差を近似した関数の係数値に異方性収縮量を考慮した分をイニシャルの鏡面駒の形状に足せばよい。
【0149】
そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工する(補正工程)。そして再度成形した光学素子の光学性能を焦点ずれ量測定工程で評価工具を用いて計測し、設計値とのピント誤差が許容範囲内かどうか判定する(焦点ずれ量測定工程)。
【0150】
判定の結果、許容範囲内であれば補正を終了させる(本成形工程)。
【0151】
逆に許容範囲外であった場合は、再度、ピント測定結果から再度特定面の光学機能面の形状を再設計し鏡面駒の補正形状を見直す工程をピント誤差が許容範囲内になるまで繰り返す必要がある。
【0152】
即ち、補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、焦点ずれ測定工程、感度算出工程、再設計工程、補正工程、本成形工程を繰り返す。
【0153】
実施例2では、以上の各工程を用いることによって実施例1と同様の効果を得ている。
【0154】
実施例1では、第1の補正工程で再加工された鏡面駒で成形したレンズについて、光学機能面の設計値に対する形状誤差が許容範囲に入っている場合について述べた。逆の場合として、形状誤差が許容範囲に入っていない場合は、本実施例にて述べた方法と同様に許容範囲に入っていない光学機能面の形状補正とピント位置補正を同時に行なえばよい。
【0155】
[画像形成装置]
図20は、本発明の画像形成装置の実施形態を示す副走査方向の要部断面図である。同図において、符号104は画像形成装置を示す。
【0156】
この画像形成装置104には、パーソナルコンピュータ等の外部機器117からコードデータDcが入力する。このコードデータDcは、装置内のプリンタコントローラ111によって、画像データ(ドットデータ)Diに変換される。この画像データDiは、図2に示した構成を有する光走査ユニット(光走査装置)100に入力される。
【0157】
そして、この光走査ユニット100からは、画像データDiに応じて変調された光ビーム103が出射され、この光ビーム103によって感光ドラム101の感光面が主走査方向に走査される。
【0158】
静電潜像担持体(感光体)たる感光ドラム101は、モータ115によって時計廻りに回転させられる。そして、この回転に伴って、感光ドラム101の感光面が光ビーム103に対して、主走査方向と直交する副走査方向に移動する。
【0159】
感光ドラム101の上方には、感光ドラム101の表面を一様に帯電せしめる帯電ローラ102が表面に当接するように設けられている。そして、帯電ローラ102によって帯電された感光ドラム101の表面に、前記光走査ユニット100によって走査される光ビーム103が照射されるようになっている。
【0160】
先に説明したように、光ビーム103は、画像データDiに基づいて変調されており、この光ビーム103を照射することによって感光ドラム101の表面に静電潜像を形成せしめる。この静電潜像は、上記光ビーム103の照射位置よりもさらに感光ドラム101の回転方向の下流側で感光ドラム101に当接するように配設された現像器107によってトナー像として現像される。
【0161】
現像器107によって現像されたトナー像は、感光ドラム101の下方で、感光ドラム101に対向するように配設された転写ローラ(転写器)108によって被転写材たる用紙112上に転写される。用紙112は感光ドラム101の前方(図20において右側)の用紙カセット109内に収納されているが、手差しでも給紙が可能である。用紙カセット109端部には、給紙ローラ110が配設されており、用紙カセット109内の用紙112を搬送路へ送り込む。
【0162】
以上のようにして、未定着トナー像を転写された用紙112はさらに感光ドラム101後方(図20において左側)の定着器へと搬送される。定着器は内部に定着ヒータ(図示せず)を有する定着ローラ113とこの定着ローラ113に圧接するように配設された加圧ローラ114とで構成されている。転写部から搬送されてきた用紙112を定着ローラ113と加圧ローラ114の圧接部にて加圧しながら加熱することにより用紙112上の未定着トナー像を定着せしめる。更に定着ローラ113の後方には排紙ローラ116が配設されており、定着された用紙112を画像形成装置の外に排出せしめる。
【0163】
図20においては図示していないが、プリントコントローラ111は、先に説明したデータの変換だけでなく、モータ115を始め画像形成装置内の各部や、後述する光走査ユニット内のポリゴンモータなどの制御を行う。
【0164】
[カラー画像形成装置]
図21は本発明の実施態様のカラー画像形成装置の要部概略図である。本実施形態は、光走査装置を4個並べ各々並行して像担持体である感光ドラム面上に画像情報を記録するタンデムタイプのカラー画像形成装置である。図21において、360はカラー画像形成装置である。311,312,313,314は各々実施形態に示したいずれかの構成を有する光走査装置、341,342,343,344は各々像担持体としての感光ドラム、321,322,323,324は各々現像器、351は搬送ベルトである。
【0165】
図21において、カラー画像形成装置360には、パーソナルコンピュータ等の外部機器352からR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色信号が入力する。これらの色信号は、装置内のプリンタコントローラ353によって、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各画像データ(ドットデータ)に変換される。
【0166】
これらの画像データは、それぞれ光走査装置311,312,313,314に入力される。そして、これらの光走査装置からは、各画像データに応じて変調された光ビーム331,332,333,334が出射され、これらの光ビームによって感光ドラム341,342,343,344の感光面が主走査方向に走査される。
【0167】
本実施態様におけるカラー画像形成装置は光走査装置(311,312),(313,314)を2個並べている。そして各々がC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各色に対応し、各々平行して感光ドラム341,342,343,344面上に画像信号(画像情報)を記録し、カラー画像を高速に印字するものである。
【0168】
本実施態様におけるカラー画像形成装置は上述の如く4つの光走査装置311,312,313,314により各々の画像データに基づいた光ビームを用いて各色の潜像を各々対応する感光ドラム341,342,343,344面上に形成している。その後、記録材に多重転写して1枚のフルカラー画像を形成している。
【0169】
前記外部機器352としては、例えばCCDセンサを備えたカラー画像読取装置が用いられても良い。この場合には、このカラー画像読取装置と、カラー画像形成装置360とで、カラーデジタル複写機が構成される。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明の実施例1の光学素子の製造方法のフローチャート図
【図2】本発明の実施例1の光学素子の製造方法で製造した光学素子を有する光走査装置の主走査断面図
【図3】光学機能面の主走査方向における形状誤差を示す図
【図4】光学機能面の副走査方向における形状誤差を示す図
【図5】光学素子を評価する焦点ずれ測定工具の概略を示す図
【図6】CCDカメラをX方向に移動させたときのスポット径を示す図
【図7】焦点ずれ測定工具で評価した光学素子の深度中心位置と設計値を比較する図
【図8】本発明に係る再成形のフローチャート図
【図9】本発明に係る再設計における敏感度表を説明する図
【図10】本発明の実施例1に係る結像光学系における像面湾曲量を示す図
【図11】本発明の実施例1に係る結像光学系におけるfθ特性を示す図
【図12】本発明の実施例1に係る結像光学系におけるスポットを示す図
【図13】本発明の実施例1に係る結像光学系におけるスポット径のデフォーカス特性を示す図
【図14】光学素子の収縮量を説明する図
【図15】本発明の実施例1における第1の補正後の光学機能面の主走査方向における形状誤差を示す図
【図16】本発明の実施例1における第1の補正後の光学機能面の副走査方向における形状誤差を示す図
【図17】本発明の実施例1における焦点ずれ測定工具で評価した第1の補正後の光学素子の深度中心位置と設計値を比較する図
【図18】本発明の実施例1における焦点ずれ測定工具で評価した第2の補正後の光学素子の深度中心位置と設計値を比較する図
【図19】本発明の実施例2の光学素子の製造方法のフローチャート図
【図20】本発明の実施態様の画像形成装置の要部概略図
【図21】本発明の実施態様のカラー画像形成装置の要部概略図
【符号の説明】
【0171】
1.光源手段(半導体レーザー・半導体レーザーアレイ)
2.開口絞り
3.集光レンズ(コリメーターレンズ)
4.シリンドリカルレンズ
5.偏向手段(ポリゴンミラー)
6.走査光学系(fθレンズ)
7.防塵ガラス
8.被走査面(感光体ドラム)
10.CCDカメラ
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子の製造方法に関し、特に光走査装置で用いるプラスチック材より成る光学素子を成形用金型を用いて射出成形して製造する際に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材より成る光学素子は、軽量で非球面係数が容易に得られるため各種の光学系に用いられている。多くのプラスチック材より成る光学素子は射出成形によって製造されている。
【0003】
光学素子をプラスチック射出成形すると成形後のプラスチック材には不均一な収縮が生じる。この結果、成形後の光学素子は形状が設計値から変化し、形状誤差が発生してくる。又プラスチック材の内部の屈折率分布が不均一となり、成形後の光学素子の光学性能が設計値からずれてしまう(偏差が生じる)ことがある。
【0004】
従来より光走査装置に用いられるプラスチック材より成る光学素子の製造方法として、射出成形後の光学素子の局所的な収縮及び形状誤差を軽減して製造する方法が種々と提案されている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開平07−60857号公報
【特許文献2】特開2002−248666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光走査装置において、走査光学系を構成する光学素子には製造が容易なプラスチックレンズが多く用いられている。プラスチックレンズは射出成形による大量生産に向いている。
【0006】
一方で、感光体ドラム面上に形成される画像の像面湾曲を良好にし、かつ感光体ドラム面上における走査線湾曲を低減するためにfθ特性を良好にする必要がある。このためプラスチックレンズの光学機能面は非球面形状で設計されることが多い。このとき、射出成形により所望の非球面形状の面を有するプラスチックレンズを製造している。
【0007】
射出成形によりプラスチックからなるレンズ(光学素子)を成形する場合、プラスチックの成形収縮により完成したレンズの表面形状が劣化(変化)する。例えば、プラスチックを素材としてレンズを成形する場合、プラスチックの収縮により完成したレンズは鏡面駒で形成されるキャビティの寸法よりも小さくなっている。また光学機能面の形状も同様に鏡面駒の表面形状に対し、成形収縮により変形する。このような誤差が設計許容範囲内にない場合、この成形品は製品として用いることができない。
【0008】
しかしながら、成形時に生じる鏡面駒の型からの変位(誤差)が安定し、成形日時や環境によって大きく変動しなければ、この誤差をあらかじめ型形状で補正すれば良い。これにより、成形品の形状を設計許容範囲内にいれることができて、製品として使用することができる。
【0009】
特許文献1では、レンズの成形時の収縮や変形分等を盛り込んで鏡面駒を作成する方法を開示している。特許文献1では、一度成形してレンズの光学機能面の形状誤差を測定し、プラスチック(樹脂)の不均一な(局所的な)収縮の影響による形状誤差を低減するように金型の鏡面駒を修正する方法を開示している。
【0010】
また、特許文献2では、走査光学系に用いる光学素子として、光学特性の測定結果から像面湾曲を低減するように光学素子の一部の光学機能面の形状を補正する方法を開示している。
【0011】
一般に射出成形後の冷却過程で発生するレンズ内部の収縮の不均一性によってレンズ内部に屈折率分布が発生する。このため、レンズの光学機能面(レンズ面)の形状を所望の設計値の形状に合わせただけでは、所望の光学性能が得られない場合が多い。
【0012】
また、光学ピント測定で得られた像面湾曲を補正するように特定の光学機能面における部分曲率を再設計することで像面湾曲は補正できる。
【0013】
しかしながら光学機能面の局所的な傾き誤差は補正することができない。そのために、fθ特性や部分倍率が設計値と異なってしまう恐れがある。
【0014】
本発明は、光走査装置に用いられるプラスチックより成る光学素子を成形用金型を用いて射出成形して製造するとき、像面湾曲が低減でき、更にfθ特性が良い光学素子を容易に製造することができる光学素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の光学素子の製造方法は、
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
前記形状近似工程で求められた曲面モデルの光学機能面の形状と設計値の光学機能面の形状との差異を低減するように、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第1の補正工程と、
前記第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を使用時と同じ配置の評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記焦点ずれ量測定工程で測定された焦点ずれ量に一致するように1以上の光学機能面の非球面係数を再設計する再設計工程と、
前記再設計工程を行なった光学機能面において、前記再設計工程で求められた非球面係数と設計値の非球面係数との差異を反映させて、光学機能面の成形用金型に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第2の補正工程と、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う本成形工程とを有することを特徴としている。
【0016】
この他、本発明の光学素子の製造方法は、
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
射出成形された光学素子を使用時と同じ配置である評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記形状近似化工程で得られた曲面モデルより非球面係数を用いた光学シミュレーションで光学系の性能を評価する評価工程と、
前記評価工程で得られた焦点ずれ量と前記焦点ずれ量測定工程で得られた焦点ずれ量との差分が規格より外れている場合は、前記差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を新たに再設計する再設計工程と、
前記形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する補正工程と、
前記補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記補正工程で得られた鏡面駒で成形を行う本成形工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光走査装置に用いられるプラスチックより成る光学素子を成形用金型を用いて射出成形して製造するとき、像面湾曲が低減でき、更にfθ特性を十分に満足した光学性能を有する光学素子を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の光学素子の製造方法において製造されるプラスチックより成る光学素子は、
光走査装置で使用される。光学素子は成形用金型を用いて射出成形にて製造される。本発明は大別して第1、第2発明を有する。第1、第2発明の製造方法は次の各工程を有する。
【0019】
(第1発明)
(A−1)イニシャル成形工程
光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定する。
【0020】
(A−2)形状近似工程
光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する。
【0021】
(A−3)第1の補正工程
形状近似工程で求められた曲面モデルの光学機能面の形状と設計値の光学機能面の形状との差異を低減するように、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する。
【0022】
(A−4)焦点ずれ量測定工程
第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を使用時と同じ配置の評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する。
【0023】
(A−5)敏感度算出工程
光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出する。
【0024】
(A−6)再設計工程
算出された敏感度を用いて、焦点ずれ量測定工程で測定された焦点ずれ量に一致するように1以上の光学機能面の非球面係数を再設計する。
【0025】
(A−7)第2の補正工程
前記再設計を行なった光学機能面において、再設計工程で求められた非球面係数と設計値の非球面係数との差異を反映させて、光学機能面の成形用金型に対応する鏡面駒の形状を補正加工する。
【0026】
(A−8)本成形工程
第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う。
【0027】
(第2発明)
(B−1)イニシャル成形工程
光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定する。
【0028】
(B−2)形状近似工程
光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する。
【0029】
(B−3)焦点ずれ量測定工程
射出成形された光学素子を使用時と同じ配置である評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する。
【0030】
(B−4)評価工程
形状近似化工程で得られた曲面モデルより非球面係数を用いた光学シミュレーションで光学系の性能を評価する。
【0031】
(B−5)敏感度算出工程
光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出する。
【0032】
(B−6)再設計工程
評価工程で得られた焦点ずれ量と焦点ずれ量測定工程で得られた焦点ずれ量を計算した結果との差分が規格より外れている場合は、差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を敏感度により新たに再設計する。
【0033】
(B−7)補正工程
形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する。
【0034】
(B−8)本成形工程
補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、補正工程で得られた鏡面駒で成形を行う。
【0035】
[実施例1]
図2は本発明の光学素子の製造方法で製造した光学素子を有する光走査装置の実施例1の主走査断面図である。
【0036】
本実施例の光走査装置は、例えば電子写真プロセスを有するレーザービームプリンターやデジタル複写機等の装置に好適なものである。
【0037】
尚、以下の説明において、副走査方向(Z方向)とは、偏向手段の回転軸と平行な方向である。主走査断面とは、副走査方向(偏向手段の回転軸と平行な方向)を法線とする断面である。主走査方向(Y方向)とは、偏向手段で偏向走査される光束を主走査断面に投射した方向である。副走査断面とは、主走査方向を法線とする断面である。
【0038】
図中、1は光源手段(例えば、半導体レーザー)である。また、半導体レーザーは1以上の発光部1aを有している。半導体レーザーの発光部1aから出射した発散光束はコリメータレンズ3(3a,3b)により平行光束に変換される。変換された平行光束は副走査方向のみにパワーを有するシリンドリカルレンズ4により、ポリゴンミラー(偏向手段)5の偏向面5a又はその近傍に主走査方向に長手の線像として結像される。また、シリンドリカルレンズ4を通過した光束は、開口絞り2によって光束幅が制限される。
【0039】
偏向手段としての光偏向器5は、例えば回転多面鏡(ポリゴンミラー)より成り、モータ等の駆動手段(不図示)により図中矢印A方向に一定速度で回転している。
【0040】
6はfθ特性を有する結像光学系としての走査光学系(fθレンズ系)であり、光偏向器5により偏向された光束を防塵ガラス7を介して感光ドラム面(被走査面)8上にスポット状に結像させている。
【0041】
該ポリゴンミラー5を矢印A方向に回転させることによって、該感光ドラム面8上を矢印B方向に光走査し走査線(不図示)を形成し画像記録を行っている。結像光学系6は副走査断面内において、光偏向器5の偏向面5a又はその近傍と感光ドラム面8又はその近傍との間を共役関係にすることにより、倒れ補正機能を有している。
【0042】
本実施例において、結像光学系6を構成する2つの光学素子(走査レンズ)6a,6bは成形用金型を用いて射出成形によって製造されている。
【0043】
図1は本発明の光学素子の製造方法の実施例1のフローチャートである。次に図1の各製造工程について説明する。
【0044】
光学設計ソフト等で作成した設計値に基づいて、光学素子の光学機能面(レンズ面又は面ともいう)形状を作成する成形用金型の鏡面駒の形状をまず決定する。鏡面駒はステンレス工具鋼で概略の形状を形成し、光学機能面をNi等の切削加工性のよい金属でメッキすることで後述する補正加工をしやすくしている。
【0045】
上記作成したメッキ部分を任意の形状に削ることで初期に成形するための鏡面駒を作成する。任意の形状については設計値形状、もしくは使用するプラスチックが成形によって収縮する比率が分かっていれば、設計値に対して収縮比率分をかけるのが良い。これによれば、射出成形後の成形収縮によって発生する設計値からの誤差が少なくなる。結果として、鏡面駒の修正するためにメッキの削る量が少なくなるため望ましい。
【0046】
次に作成した鏡面駒を用いて成形を行う(イニシャル成形工程)。成形機の加圧容量や光学素子の大きさ、一回の成形サイクル等で得られる光学素子個数(取り個数)などで型の構造が異なっている。
【0047】
したがって全ての光学素子が同じ成形条件で「安定した成形」が得られるとは限らない。ここでいう「安定した成形」とは、
1.光学機能面に局所的な歪み(ヒケ)が発生しない、
2.複屈折によるスポット肥大が発生しない、
3.取り個数すべてのキャビティで光学機能面の形状がほぼ同一、
4.異なる日時に成形しても光学機能面の形状がほとんど変わらない、
等ということを意味している。
【0048】
上記の「安定した成形」を得るために、成形時に光学素子にかける圧力(保圧)、成形の1サイクルの時間(成形タクトタイム)、成形型の内部温度(型温度)といった成形条件を全ての光学素子において調整を行っている。
【0049】
上記述べたような成形条件の調整により、1回目の成形品(イニシャル成形品)が得られる。このイニシャル成形品について、中心部(レンズ中心部)の肉厚、基準面から光学機能面の面頂点までの距離、および光学機能面の形状を測定することで、初期の性能を評価してゆく(形状近似工程)。
【0050】
光学機能面の測定についてはフォーム・タリサーフ(テイラー・ホブソン社製)などの測定器を用いて細ピッチでの形状評価を行っている。
【0051】
図3(A)、(B)、図4は評価結果の一例の説明図である。図3(A)は、光学素子の主走査方向(母線方向)に関して設計形状に対する光学機能面の形状の誤差を示している。図3(A)において、0から遠ざかるほど形状誤差が大きいことを示している(主走査形状誤差)。
【0052】
また図3(B)は測定した主走査方向における光学機能面の形状に対して特定の範囲(例えば10mm幅)で2次関数フィッティングを行い、得られた関数の2階微分値および1階微分値から部分曲率を求めたものである。そして設計値の部分曲率に対する実際の部分曲率との差、即ちニュートン本数誤差を算出したものである(主走査ニュートン誤差)。
【0053】
また図4は光学機能面を主走査方向に対して所定の分割数で区切り、各分割位置において光学機能面の母線(光学機能面頂点を通る線)の法線方向における断面形状を測定し、設計値からのニュートン本数誤差を表したものである(副走査ニュートン誤差)。
【0054】
上記で得られた主走査形状誤差、主走査ニュートン誤差および副走査ニュートン誤差を修正するような鏡面駒の形状を算出するために、誤差量を関数でフィッティングする必要がある。
【0055】
本実施例における、光学素子の光学機能面の形状は以下の表現式により表されている。各レンズ面と光軸との交点を原点とする。光軸方向をx軸、主走査断面内において光軸と直交する軸をy軸、副走査断面内において光軸と直交する軸をz軸とする。このとき、主走査方向と対応する母線方向が、
【0056】
【数1】
(但し、Rは曲率半径、k、A4、A6、A8、A10は非球面係数)
副走査方向(光軸を含み主走査方向に対して直交する方向)と対応する子線方向が、
【0057】
【数2】
ここで c=c0+B2Y2+B4Y4+B6Y6+B8Y8
(但し、c0は光軸上の子線曲率、B2、B4、B6、B8は係数)
で表される形状である。
【0058】
尚、光軸外の子線曲率cは各々の位置における母線の法線を含み主走査面と垂直な面内に定義されている。
【0059】
このような設計値に対して、主走査方向における形状誤差をフィッティングするために以下に示す関数を用いる。但し、E2、E4、E6、E8、E10、E12は非球面係数である。
【0060】
Δx=E2Y2+E4Y4+E6Y6+E8Y8+E10Y10+E12Y12+E14Y14+E16Y16・・・(式3)
次に副走査方向断面におけるニュートン本数誤差をフィッティングするために以下に示す関数を用いる。但し、cΔは光軸上の子線曲率誤差、F2、F4、F6、F8は係数である。
【0061】
【数3】
ここで、c’=cΔ+F2Y2+F4Y4+F6Y6+F8Y8+F10Y10
【0062】
上記のように、イニシャル成形品の光学機能面の形状誤差データを(式3)および(式4)を使って最小自乗近似することで全ての光学機能面について関数近似している。この関数の符号を反転させたものを、もとの鏡面駒の形状関数に付加してやれば(補正加工すれば)、次に成形した光学素子の全ての光学機能面の形状は設計値形状に近づくことになる(第1の補正工程)。
【0063】
このとき、鏡面駒の主走査方向の長さに対する、成形したレンズにおける光学機能面の主走査方向の長さの比率がわかっていれば、(式3)および(式4)のYの係数に関する部分にこの比率をYの次数に応じてかけてやる。これによれば成形した光学素子の光学機能面の形状より設計値に近づけることができるので望ましい。
【0064】
そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工する。このとき、光学機能面の修正をすると共に、光学素子中心部の肉厚や基準面に対する光学機能面の頂点位置を修正するために、成形型に対する鏡面駒の相対位置を調整している。
【0065】
次に、再加工された鏡面駒で成形した光学素子について、光学機能面の形状測定および光学素子中心部の肉厚や基準面に対する光学機能面の頂点位置を測定し、設計値に対する形状誤差が許容範囲に入っているかどうかを確認する。
【0066】
形状測定と並行して、この光学素子を用いて光学性能を評価する(焦点ずれ量測定工程)。光学性能の評価のために、図5に示すような評価工具を製作する。
【0067】
この評価工具は、光走査装置と同じ光学配置になるように、平板上に半導体レーザー1、コリメータ3、シリンドリカルレンズ4、ポリゴンミラー5、および光学素子(走査レンズ)6a,6bを配置している。
【0068】
そして、光学素子6a,6bを交換できるようにすることで全ての光学素子の光学性能を評価することができる。観測系については、半導体レーザーの発光点から感光体ドラム面までの距離と同じになる位置にCCDカメラ10を配置する。
【0069】
このCCDカメラ10は図5に示すX方向(レール12の矢印方向)、Y方向(レール11の矢印方向)、およびZ方向(不図示)に動き、各位置での主走査方向および副走査方向のスポット径(PSF、LSF)やピーク光量(焦点ずれ量)を計測できる。
【0070】
具体的には、CCDカメラ10を測定したい像高に移動させ、次にポリゴンミラー5の角度を結像光学系6のfθ係数から算出した角度にあわせ、半導体レーザー1を発光させてスポットがCCDカメラ10の観測域に入るようにする。
【0071】
次に、CCDカメラ10をX方向に等ピッチに移動させるとともに、スポットの重心位置が常にCCDの中心にくるようにCCDカメラ10をY方向およびZ方向に移動させる。このときのCCDカメラ10の位置とスポット径をパソコン上に出力させることで、図6に示すような特定像高(複数像高)におけるスポット径のデフォーカス特性(焦点ずれ量)を観測することができる。
【0072】
そして、このデフォーカス特性から主走査方向(もしくは副走査方向)のスポット径の上限規格を横切るX座標値A点およびB点を算出する。そしてA点とB点の平均を深度中心(ピント位置)として、図7に示すように数点(複数点)の評価像高におけるピント位置を求める。図7の実線は実際に走査レンズを測定したときのピント位置であり、点線は設計値によるピント位置を示す。
【0073】
この実測と設計値との差が走査レンズの内部起因と予測される量(誤差量)である。また、設計の像面位置における主走査方向および副走査方向の照射位置をCCDカメラ10の位置情報から出力することで、fθ特性や走査線湾曲量を評価することができる。
【0074】
次に、評価工具よるピント測定結果になるような光学素子の光学機能面の形状を再設計することで予測する。
【0075】
ここで、先に述べた(式1)および(式2)の係数について、以下のようなXを変数ベクトルとして定義する。また、Xにおける測定像高における主走査方向および副走査方向のピントをfm(X)、測定像高において実際に測定して得られた主走査方向および副走査方向のピントをfm,tar(X)としたとき、評価関数ベクトルとして以下のようなF(X)を定義する。
【0076】
【数4】
【0077】
レンズ自動設計において、以下の数式で定義されるメリット関数φ(X)を最小化することで所望の性能を得るための光学素子の光学機能面の形状が得られるという減衰最小自乗法がある。この減衰最小自乗法(DLS法:Damped Least Squares法)が、Wynneらによって提案されている。
【0078】
φ(X)=FT(X)F(X)+ρΔXTΔX・・・(式6)
(式6)において、FT(X)はF(X)の転置行列であり、ΔXTは各変数の変動量ΔXの転置行列である。またρは非線形補正量を制御するパラメータでありダンピングファクタと呼ばれている。評価関数F(X)をX=X0近傍で1次までのTaylor展開を行うと、以下のようになる。
【0079】
【数5】
Aは偏微分行列(Jacobian)であり、(式7)を各ベクトル要素に直すと以下のようになる。
【0080】
【数6】
【0081】
メリット関数φ(X)の極値条件は、▽φT(X)=0である。これを(式6)および(式7)を用いて書き換えると以下のようになる。
【0082】
{ATA+ρI}ΔX=−ATF(X0)・・・(式9)
ただし、Iは単位行列である。そして、(式9)をΔXについて解くと、以下のようになる。
【0083】
ΔX=−{ATA+ρI}−1ATF(X0)・・・(式10)
今まで述べてきたことを踏まえて、具体的な再設計について図8のフローを用いて説明する。まず、走査レンズの光学機能面における特定の1面について、先に述べた(式1)および(式2)の係数を単独に微小量(設計値における係数の1/1000程度)だけに変化させたレンズ形状を作成する。
【0084】
そして、光学ソフト等を用いて光線追跡を行い、測定を行った像高と同じ位置における主走査方向および副走査方向のピント位置変動量を算出し、これを図9のような敏感度マトリックスAに整理する(敏感度算出工程)。
【0085】
この敏感度マトリックスAを用いて(式10)から変数ベクトルΔXを求める。そして、特定面における(式1)および(式2)の各係数をΔX分変動させて評価ベクトルF(X)を計算する。
【0086】
そして、(式6)のメリット関数φ(X)が収束するまで、図8のフローに従い(光線追跡による敏感度マトリックスAの算出)→(変数ベクトルΔXの算出)→(評価ベクトルF(X)の計算)を繰り返す。このフローによって、評価工具での測定値になるような光学機能面の形状関数が得られる(再設計工程)。
【0087】
先に係数を変化させる面を特定面としたが、レンズ設計において主走査方向のピントに敏感な面や副走査方向のピントに敏感な面が存在する。
【0088】
逆にピントに鈍感な面を用いて実際のピント位置になるような光学機能面の形状を再現しようとすると、設計値に対して形状が大幅に変わる恐れがあり、鏡面駒の補正後にピントは設計値に近づく。しかしながらfθ特性や走査線湾曲が設計値から大きくずれてしまう恐れがある。
【0089】
したがって、実際に係数を変化させる面を選択する際には、再現したいピント変動に敏感な面を選択するほうが良い。またピント変動に敏感な面であっても設計値に対する形状変化量が多い場合には、1面だけでなく2面の係数を変化させることでfθ特性や走査線湾曲への影響を小さくするのが望ましい。
【0090】
また、敏感度マトリックAの評価情報は測定像高におけるピント変動量としたが、測定像高への照射位置変動量を追加することで、fθ特性や走査線湾曲も同時に評価できるので望ましい。
【0091】
ここで、fθ特性とは全体倍率、片倍率、部分倍率を示す。
【0092】
全体倍率とはレーザー側最軸外像高の照射位置〜反レーザー側最軸外像高の照射位置の主走査方向距離である。
【0093】
片倍率とは、レーザー側最軸外像高の照射位置〜中央像高照射位置の主走査方向距離と反レーザー側最軸外像高〜中央像高照射位置の主走査方向距離の差分である。
【0094】
部分倍率とは、ポリゴンミラーを等回転角度ピッチで回転させたときの各像高の照射位置の主走査方向ピッチの一様性である。
【0095】
また、走査線湾曲とは中央像高における副走査方向照射位置、走査線曲がり、走査線傾きを示す。
【0096】
ここで、走査線曲がりとは、レーザー側最軸外像高の副走査方向照射位置、反レーザー側最軸外像高の副走査方向照射位置、中央像高の副走査方向照射位置を2次関数でフィッティングしたときの2次の係数である。
【0097】
走査線傾きとは、レーザー側最軸外の照射位置と反レーザー側最軸外の照射位置の副走査方向距離である。
【0098】
上記のように新たに再設計を行った光学機能面の形状関数と設計値の形状関数の差分となる関数を(式3)および(式4)を用いて算出し、この関数の符号を反転させたものを鏡面駒に付加する。これにより補正後成形した光学素子による光学特性が設計値に近づくことになる(第2の補正工程)。
【0099】
このとき、鏡面駒の主走査方向の長さに対する、成形したレンズにおける光学機能面の主走査方向長さの比率がわかっていれば、(式3)および(式4)のYの係数に関する部分にこの比率をYの次数に応じてかけてやれば良い。これによれば、成形した走査レンズの光学性能を、より設計値に近づけることができるので望ましい。
【0100】
そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工する。そして再度成形した光学素子の光学性能を図5の評価工具を用いて計測し、設計値とのピント誤差が許容範囲内かどうか判定する(焦点ずれ量測定工程)。
【0101】
判定の結果、許容範囲内であれば補正を終了させて本成形工程に進む。逆に許容範囲外であった場合は、再度ピント測定結果から再度特定面の光学機能面の形状を再設計し鏡面駒の補正形状を見直す工程をピント誤差が許容範囲内になるまで繰り返す必要がある。
【0102】
即ち、第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を、焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、前記焦点ずれ測定工程、敏感度算出工程、再設計工程、第2の補正工程、本成形工程を繰り返す。
【0103】
表1に実施例1の走査光学系における各光学素子6a,6bの光学配置、形状および使用した硝材(材料)の特性を示している。また、表2にアナモフィックレンズ1(光学素子6a)およびアナモフィックレンズ2(光学素子6b)の光学機能面の形状を示す。
【0104】
表2における記号については、先に述べた(式1)および(式2)の通りである。図10に実施例1の光学系での被走査面上の像面湾曲を示す。
【0105】
図11に実施例1の結像光学系でのfθ特性、および図12に実施例1の光学系での被走査面上のスポット形状(ピーク光量に対して、5%,10%,13.5%,36.8%,50%の等高線)を示す。
【0106】
図13に像面位置をデフォーカスさせたときの主走査方向および副走査方向のスポット径を示す。
【0107】
はじめに、イニシャル成形をするための鏡面駒の形状を決定するために、表2に示すアナモフィックレンズ1と同じような大きさの光学素子が成形よって収縮する量を検討した。
【0108】
図14は、設計値の光学機能面の形状をY方向にのみ異方性を持たせて収縮させたときの形状に対して、成形品の第1面および第2面の光学機能面の形状がどれくらいずれているかを示したものである。
【0109】
図中のいくつかの線は異方性収縮率をいくつか変えたものである。図14により成形品の光学機能面の形状との差分が一番小さい異方性収縮率は、第1面については0.6〜0.7%、また第2面については0.2%であることから両面の平均をとってアナモフィックレンズ1の異方性収縮率を0.5%とした。アナモフィックレンズ2についても同様に異方性収縮率の検討を行い、詳細については省略するが異方性収縮率を同じく0.5%とした。
【0110】
上記の検討をふまえてイニシャル成形品を成形するための鏡面駒の形状を表3のようにした。具体的には、異方性収縮率をa%としたとき、表2における各係数について、以下の数式による変換を行った。
【0111】
【数7】
ここでc’=c0+B’2Y2+B’4Y4+B’6Y6+B’8Y8
【0112】
表3の鏡面駒の形状を用いてイニシャル成形を行い、安定した成形条件下で得られたアナモフィックレンズ1の光学機能面の形状と設計値との形状誤差およびニュートン本数誤差を図3(A)および(B)に示す。
【0113】
図に示すように、設計値に対して最外部で約18μm、ニュートン本数誤差で約25本ずれているのが分かる。
【0114】
この形状誤差を補正するために、形状誤差を(式3)および(式4)に示す関数でフィッティングを行った。光学機能面として全ての光学素子の4面について同様に関数フィッティングを行った結果を表4に示す。ただし、yの値が正(レーザー側)の時には添字uがついた係数を、またyの値が負(反レーザー側)のときは添字lがついた係数を用いている。
【0115】
次に、表4のフィッティング結果を鏡面駒の形状に反映させるために、鏡面駒の主走査方向長さに対して、アナモフィックレンズ1およびアナモフィックレンズ2における光学機能面の主走査方向長さが実際にどれだけ収縮したかを測定した。
【0116】
その結果、4面各面における異方性収縮率aは0.4%、0.4%、0.5%、0.5%でとなった。下記の式のように、表4の各係数に異方性収縮量aを考慮した補正量を元の鏡面駒の形状関数の各変数から引くような換算を行い鏡面駒の形状を決定した。表6に示す形状関数で鏡面駒の補正加工を行った。
【0117】
【数8】
ここで c’’=c’’0+B’’2Y2+B’’4Y4+B’’6Y6+B’’8Y8
c’’0=c0−cΔ、
【0118】
1回目の補正加工(第1の補正工程)の後、再度成形して得られたアナモフィックレンズ1の主走査方向の光学機能面の形状誤差を図15に示す。また、アナモフィックレンズ2の副走査方向の光学機能面の形状誤差を図16に示す。図15および図16に示すように、設計値形状に対する形状誤差は約5μm以下にニュートン本数誤差は有効領域内で2本以内に低減されていることが分かる。
【0119】
次にアナモフィックレンズ1およびアナモフィックレンズ2を評価工具に搭載し、主走査方向および副走査方向のピントを評価した結果を図17に示す。
【0120】
同図(A)のように、140mm〜150mm付近で主走査方向のピント(実線で表示)が設計値(点線で表示)に対して、マイナス側に移動しているのがわかる。また、副走査方向については同図(B)のようにピントが設計値に対して傾いているのがわかる。
【0121】
このピントずれを補正するために、評価工具で得られたピントになるような光学機能面の形状を再設計した。変動させた係数については、主走査方向のピントに敏感なアナモフィックレンズ1の第2面を、また副走査方向のピントに敏感であるアナモフィックレンズ2の第2面の子線形状係数とした。設計値の形状関数に対して、図9のフローによる再設計を行って算出した形状関数との差分を表6に示す。
【0122】
1回目の補正に用いた鏡面駒の形状関数(表5)の各係数から(式13)および(式14)を用いて表6の誤差量を引いて鏡面駒の形状を決定した。このとき、異方性収縮率aは補正1回目と同じく、アナモフィックレンズ1は0.4%、アナモフィックレンズ2は0.5%とした。表7に鏡面駒の形状を示す。
【0123】
2回目の鏡面駒の補正加工(第2の補正工程)後、3回目の成形で得られたアナモフィックレンズ1およびアナモフィックレンズ2を用いて、評価工具でピントを測定した結果を図18に示す。図18のように、ほぼ設計値のピントと一致しており、2回の補正によって補正加工を完了することができた(本成形工程)。
【0124】
本実施例では光学素子の収縮を異方的に考えたが、形状によっては等方的に考えたほうが良い場合もある。また、使用する樹脂の収縮率が小さければ、鏡面駒の形状を決定する際に収縮の影響を考える必要はない。
【0125】
以上のように本実施例によれば、成形用金型を用いて射出成形したプラスチックより成る光学素子の光学機能面の形状が所望の設計形状に近づくように鏡面駒の形状を補正する。それと共に、光学素子内部の不均一性による影響を低減するように一部の光学機能面の鏡面駒の形状を追加補正する。
【0126】
そして、本実施例では、光学素子内部の不均一性による影響を相殺するように一部の光学機能面の鏡面駒の形状を追加補正できた。
【0127】
この製造方法によって製造した光学素子を光走査装置に用いれば被走査面上における像面湾曲を低減し、更にfθ特性を良好に維持することができる。
【0128】
この他、結像光学系の光学素子の配置誤差に伴う被走査面上での走査線曲がりの敏感度を低減して、常に良好なる画像を得ることができる。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
【表7】
【0136】
[実施例2]
図19は本発明の光学素子の製造方法の実施例2のフローチャートである。実施例1ではイニシャル成形品について形状測定のみ行い設計値に対する形状誤差を修正するように鏡面駒を修正していた。
【0137】
一方、実施例2においてはイニシャル成形工程で成形したイニシャル成形品について形状測定およびピント位置評価と同時に行っている。光学素子の形状が過去に成形した光学素子と類似している場合、成形による鏡面駒に対する離型量は類似している。従って、鏡面駒のイニシャル形状を過去の実績をもとに加工することで、イニシャル成形品の光学機能面の形状は比較的設計値形状に近いものができあがる。
【0138】
この場合、光学機能面の形状を設計値形状に戻すために必要な補正量は少なく、鏡面駒の形状が変わることで光学素子内部に及ぼす影響は補正前後であまり変わらないと考えられる。したがって、1回目の補正で光学機能面の若干の形状補正とピント位置補正を同時に行うことができる。
【0139】
形状近似工程、焦点ずれ測定工程については実施例1にて述べたのと同様なので詳細については省略する。
【0140】
焦点ずれ測定工程の評価工具で得られた主走査方向および副走査方向の設計値からのピントずれは、次の原因、
1.光学機能面の形状が設計値からずれていることの影響、
2.レンズ内部による影響
の2つの原因をもっている。
【0141】
原因2については光学機能面の形状を設計値に戻せば影響は無くなるので、実施例1と同様の形状補正を行えばよい。
【0142】
しかし、原因2の影響を算出するためには、現状のピントずれから原因1の影響を切り分ける必要がある。
【0143】
このために、結像光学系6を構成する全ての光学機能面の形状を形状近似工程で算出した関数に基づいて新たに定義し、この光学機能面の形状を元に光学モデルを作成し光線追跡によりピント位置を算出することで原因1が判る(評価工程)。
【0144】
そして、評価工具で得られたピント位置と先に求めた原因1との差分が原因2の影響であると考えられる。原因2の量が想定している規格(例えば、設計値におけるスポット径の許容深度幅の1/5)以下であれば、再設計は行わずに形状を元に戻すような補正を行ってやればよい(補正工程)。
【0145】
反対に、原因2の量が想定規格より大きい場合には、敏感度算出工程で先に作成した光学モデルを用いて、原因2に相当する形状変化量を見積もるために特定面のみ新たに再設計を行い所望の係数を見つけてやればよい(再設計工程)。
【0146】
そして再設計により、特定面の光学機能面の形状の係数値が見つかった後、再設計を行った面の係数値と設計値との差分を求め、さらに異方性収縮量を考慮して補正量を決定する(補正工程)。
【0147】
そして、補正量をイニシャルの鏡面駒の形状の係数値に足すことで形状誤差および内部ずれを考慮した鏡面駒の形状が決まる。
【0148】
また、再設計を行っていない残り全ての光学機能面については、実施例1で述べたように、形状誤差を近似した関数の係数値に異方性収縮量を考慮した分をイニシャルの鏡面駒の形状に足せばよい。
【0149】
そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工する(補正工程)。そして再度成形した光学素子の光学性能を焦点ずれ量測定工程で評価工具を用いて計測し、設計値とのピント誤差が許容範囲内かどうか判定する(焦点ずれ量測定工程)。
【0150】
判定の結果、許容範囲内であれば補正を終了させる(本成形工程)。
【0151】
逆に許容範囲外であった場合は、再度、ピント測定結果から再度特定面の光学機能面の形状を再設計し鏡面駒の補正形状を見直す工程をピント誤差が許容範囲内になるまで繰り返す必要がある。
【0152】
即ち、補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、焦点ずれ測定工程、感度算出工程、再設計工程、補正工程、本成形工程を繰り返す。
【0153】
実施例2では、以上の各工程を用いることによって実施例1と同様の効果を得ている。
【0154】
実施例1では、第1の補正工程で再加工された鏡面駒で成形したレンズについて、光学機能面の設計値に対する形状誤差が許容範囲に入っている場合について述べた。逆の場合として、形状誤差が許容範囲に入っていない場合は、本実施例にて述べた方法と同様に許容範囲に入っていない光学機能面の形状補正とピント位置補正を同時に行なえばよい。
【0155】
[画像形成装置]
図20は、本発明の画像形成装置の実施形態を示す副走査方向の要部断面図である。同図において、符号104は画像形成装置を示す。
【0156】
この画像形成装置104には、パーソナルコンピュータ等の外部機器117からコードデータDcが入力する。このコードデータDcは、装置内のプリンタコントローラ111によって、画像データ(ドットデータ)Diに変換される。この画像データDiは、図2に示した構成を有する光走査ユニット(光走査装置)100に入力される。
【0157】
そして、この光走査ユニット100からは、画像データDiに応じて変調された光ビーム103が出射され、この光ビーム103によって感光ドラム101の感光面が主走査方向に走査される。
【0158】
静電潜像担持体(感光体)たる感光ドラム101は、モータ115によって時計廻りに回転させられる。そして、この回転に伴って、感光ドラム101の感光面が光ビーム103に対して、主走査方向と直交する副走査方向に移動する。
【0159】
感光ドラム101の上方には、感光ドラム101の表面を一様に帯電せしめる帯電ローラ102が表面に当接するように設けられている。そして、帯電ローラ102によって帯電された感光ドラム101の表面に、前記光走査ユニット100によって走査される光ビーム103が照射されるようになっている。
【0160】
先に説明したように、光ビーム103は、画像データDiに基づいて変調されており、この光ビーム103を照射することによって感光ドラム101の表面に静電潜像を形成せしめる。この静電潜像は、上記光ビーム103の照射位置よりもさらに感光ドラム101の回転方向の下流側で感光ドラム101に当接するように配設された現像器107によってトナー像として現像される。
【0161】
現像器107によって現像されたトナー像は、感光ドラム101の下方で、感光ドラム101に対向するように配設された転写ローラ(転写器)108によって被転写材たる用紙112上に転写される。用紙112は感光ドラム101の前方(図20において右側)の用紙カセット109内に収納されているが、手差しでも給紙が可能である。用紙カセット109端部には、給紙ローラ110が配設されており、用紙カセット109内の用紙112を搬送路へ送り込む。
【0162】
以上のようにして、未定着トナー像を転写された用紙112はさらに感光ドラム101後方(図20において左側)の定着器へと搬送される。定着器は内部に定着ヒータ(図示せず)を有する定着ローラ113とこの定着ローラ113に圧接するように配設された加圧ローラ114とで構成されている。転写部から搬送されてきた用紙112を定着ローラ113と加圧ローラ114の圧接部にて加圧しながら加熱することにより用紙112上の未定着トナー像を定着せしめる。更に定着ローラ113の後方には排紙ローラ116が配設されており、定着された用紙112を画像形成装置の外に排出せしめる。
【0163】
図20においては図示していないが、プリントコントローラ111は、先に説明したデータの変換だけでなく、モータ115を始め画像形成装置内の各部や、後述する光走査ユニット内のポリゴンモータなどの制御を行う。
【0164】
[カラー画像形成装置]
図21は本発明の実施態様のカラー画像形成装置の要部概略図である。本実施形態は、光走査装置を4個並べ各々並行して像担持体である感光ドラム面上に画像情報を記録するタンデムタイプのカラー画像形成装置である。図21において、360はカラー画像形成装置である。311,312,313,314は各々実施形態に示したいずれかの構成を有する光走査装置、341,342,343,344は各々像担持体としての感光ドラム、321,322,323,324は各々現像器、351は搬送ベルトである。
【0165】
図21において、カラー画像形成装置360には、パーソナルコンピュータ等の外部機器352からR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色信号が入力する。これらの色信号は、装置内のプリンタコントローラ353によって、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各画像データ(ドットデータ)に変換される。
【0166】
これらの画像データは、それぞれ光走査装置311,312,313,314に入力される。そして、これらの光走査装置からは、各画像データに応じて変調された光ビーム331,332,333,334が出射され、これらの光ビームによって感光ドラム341,342,343,344の感光面が主走査方向に走査される。
【0167】
本実施態様におけるカラー画像形成装置は光走査装置(311,312),(313,314)を2個並べている。そして各々がC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各色に対応し、各々平行して感光ドラム341,342,343,344面上に画像信号(画像情報)を記録し、カラー画像を高速に印字するものである。
【0168】
本実施態様におけるカラー画像形成装置は上述の如く4つの光走査装置311,312,313,314により各々の画像データに基づいた光ビームを用いて各色の潜像を各々対応する感光ドラム341,342,343,344面上に形成している。その後、記録材に多重転写して1枚のフルカラー画像を形成している。
【0169】
前記外部機器352としては、例えばCCDセンサを備えたカラー画像読取装置が用いられても良い。この場合には、このカラー画像読取装置と、カラー画像形成装置360とで、カラーデジタル複写機が構成される。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明の実施例1の光学素子の製造方法のフローチャート図
【図2】本発明の実施例1の光学素子の製造方法で製造した光学素子を有する光走査装置の主走査断面図
【図3】光学機能面の主走査方向における形状誤差を示す図
【図4】光学機能面の副走査方向における形状誤差を示す図
【図5】光学素子を評価する焦点ずれ測定工具の概略を示す図
【図6】CCDカメラをX方向に移動させたときのスポット径を示す図
【図7】焦点ずれ測定工具で評価した光学素子の深度中心位置と設計値を比較する図
【図8】本発明に係る再成形のフローチャート図
【図9】本発明に係る再設計における敏感度表を説明する図
【図10】本発明の実施例1に係る結像光学系における像面湾曲量を示す図
【図11】本発明の実施例1に係る結像光学系におけるfθ特性を示す図
【図12】本発明の実施例1に係る結像光学系におけるスポットを示す図
【図13】本発明の実施例1に係る結像光学系におけるスポット径のデフォーカス特性を示す図
【図14】光学素子の収縮量を説明する図
【図15】本発明の実施例1における第1の補正後の光学機能面の主走査方向における形状誤差を示す図
【図16】本発明の実施例1における第1の補正後の光学機能面の副走査方向における形状誤差を示す図
【図17】本発明の実施例1における焦点ずれ測定工具で評価した第1の補正後の光学素子の深度中心位置と設計値を比較する図
【図18】本発明の実施例1における焦点ずれ測定工具で評価した第2の補正後の光学素子の深度中心位置と設計値を比較する図
【図19】本発明の実施例2の光学素子の製造方法のフローチャート図
【図20】本発明の実施態様の画像形成装置の要部概略図
【図21】本発明の実施態様のカラー画像形成装置の要部概略図
【符号の説明】
【0171】
1.光源手段(半導体レーザー・半導体レーザーアレイ)
2.開口絞り
3.集光レンズ(コリメーターレンズ)
4.シリンドリカルレンズ
5.偏向手段(ポリゴンミラー)
6.走査光学系(fθレンズ)
7.防塵ガラス
8.被走査面(感光体ドラム)
10.CCDカメラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
前記形状近似工程で求められた曲面モデルの光学機能面の形状と設計値の光学機能面の形状との差異を低減するように、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第1の補正工程と、
前記第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を使用時と同じ配置の評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記焦点ずれ量測定工程で測定された焦点ずれ量に一致するように1以上の光学機能面の非球面係数を再設計する再設計工程と、
前記再設計工程を行なった光学機能面において、前記再設計工程で求められた非球面係数と設計値の非球面係数との差異を反映させて、光学機能面の成形用金型に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第2の補正工程と、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う本成形工程とを有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記再設計工程において、前記光学素子の光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、前記複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出し、前記算出された敏感度をもとに前記光学素子の光学機能面の非球面係数を再設計することを特徴とする請求項1に記載の光学素子の設計方法。
【請求項3】
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を、前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、前記焦点ずれ測定工程、前記再設計工程、前記第2の補正工程、前記本成形工程を繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
射出成形された光学素子を使用時と同じ配置である評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記形状近似化工程で得られた曲面モデルより非球面係数を用いた光学シミュレーションで光学系の性能を評価する評価工程と、
前記評価工程で得られた焦点ずれ量と前記焦点ずれ量測定工程で得られた焦点ずれ量との差分が規格より外れている場合は、前記差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を新たに再設計する再設計工程と、
前記形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する補正工程と、
前記補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記補正工程で得られた鏡面駒で成形を行う本成形工程とを有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記再設計工程において、前記光学素子の光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、前記複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出し、前記算出された敏感度をもとに前記光学素子の光学機能面の非球面係数を再設計することを特徴とする請求項4に記載の光学素子の設計方法。
【請求項6】
前記補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、前記焦点ずれ測定工程、前記再設計工程、前記補正工程、前記本成形工程を繰り返すことを特徴とする請求項4又は5の光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の光学素子の製造方法において、前記第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子の光学機能面の形状の測定結果が規格より外れている場合は、前記形状近似工程と評価工程で得られた焦点ずれ量と、焦点ずれ測定工程で得られた焦点ずれ量との差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を新たに再設計する再設計工程と、
前記形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、前記規格より外れている光学機能面および前記再設計を行なった光学機能面の成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工することを特徴とする製造方法。
【請求項1】
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
前記形状近似工程で求められた曲面モデルの光学機能面の形状と設計値の光学機能面の形状との差異を低減するように、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第1の補正工程と、
前記第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を使用時と同じ配置の評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記焦点ずれ量測定工程で測定された焦点ずれ量に一致するように1以上の光学機能面の非球面係数を再設計する再設計工程と、
前記再設計工程を行なった光学機能面において、前記再設計工程で求められた非球面係数と設計値の非球面係数との差異を反映させて、光学機能面の成形用金型に対応する鏡面駒の形状を補正加工する第2の補正工程と、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒で射出成形を行う本成形工程とを有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記再設計工程において、前記光学素子の光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、前記複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出し、前記算出された敏感度をもとに前記光学素子の光学機能面の非球面係数を再設計することを特徴とする請求項1に記載の光学素子の設計方法。
【請求項3】
前記第2の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を、前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、前記焦点ずれ測定工程、前記再設計工程、前記第2の補正工程、前記本成形工程を繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
光走査装置で使用される光学素子を成形用金型を用いて射出成形にて製造する光学素子の製造方法において、
前記光学素子の光学機能面に一定の形状誤差が安定して形成されるように成形条件を設定するイニシャル成形工程と、
前記光学素子における全ての光学機能面の形状を測定し、測定結果に最も近くなる光学機能面の曲面モデルを決定する形状近似工程と、
射出成形された光学素子を使用時と同じ配置である評価装置内に取り付け、像面において複数像高の光軸方向の焦点ずれ量を測定する焦点ずれ量測定工程と、
前記形状近似化工程で得られた曲面モデルより非球面係数を用いた光学シミュレーションで光学系の性能を評価する評価工程と、
前記評価工程で得られた焦点ずれ量と前記焦点ずれ量測定工程で得られた焦点ずれ量との差分が規格より外れている場合は、前記差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を新たに再設計する再設計工程と、
前記形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、全ての光学機能面において成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する補正工程と、
前記補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格に入っている場合は、
前記補正工程で得られた鏡面駒で成形を行う本成形工程とを有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記再設計工程において、前記光学素子の光学機能面の非球面係数を微小変化させた状態で光学モデルによる光線追跡を行い、前記複数像高における光軸方向の焦点ずれ量の変化量を求め、各非球面係数の変化に対する焦点ずれ量の敏感度を算出し、前記算出された敏感度をもとに前記光学素子の光学機能面の非球面係数を再設計することを特徴とする請求項4に記載の光学素子の設計方法。
【請求項6】
前記補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子を前記焦点ずれ量測定工程で評価した結果が規格より外れている場合は、前記焦点ずれ測定工程、前記再設計工程、前記補正工程、前記本成形工程を繰り返すことを特徴とする請求項4又は5の光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の光学素子の製造方法において、前記第1の補正工程で得られた鏡面駒により射出成形された光学素子の光学機能面の形状の測定結果が規格より外れている場合は、前記形状近似工程と評価工程で得られた焦点ずれ量と、焦点ずれ測定工程で得られた焦点ずれ量との差分が小さくなるように1以上の光学機能面の形状を新たに再設計する再設計工程と、
前記形状近似工程および再設計工程で求められた形状と設計値の形状との差異を反映させて、前記規格より外れている光学機能面および前記再設計を行なった光学機能面の成形用金型の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工することを特徴とする製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−137402(P2010−137402A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314347(P2008−314347)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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