説明

光通信システム

【課題】 コストを抑えつつ、局側装置に収容され展開された複数ある宅側装置ONU毎に、良好な通信サービスを行うことができ、かつ、保守点検を容易にする光通信システムを提供すること。
【解決手段】 光通信システム1は、局側装置10と、局側装置10と幹線光ファイバ70,光スプリッタ80および支線光ファイバ71を介して接続された複数の宅側装置90とを含んでいる。局側装置10が有する設定手段は、宅側装置90毎に、検出された通信状態に基づいて、伝送信号の誤り訂正符号化率、誤り訂正符号化方式の変更または伝送速度の変更を行うことによって、好適な伝送の仕方を設定することができる(S1〜S4)。また、局側装置10は、通信状態の監視を一定時間毎に繰り返すことができる(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宅側装置毎に、検出された通信状態に基づいて、好適な伝送の仕方を設定できる設定手段を有する光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
局側装置OLT(Optical Line Terminal:光加入者線端局装置)と、複数の宅側装置ONU(Optical Network Unit:光加入者線終端装置)との間を、光データ通信ネットワークを使って双方向通信するシステムがある。そして、局側装置OLTと各宅側装置ONUとの間を、それぞれ1本の光ファイバで放射状に結ぶ(Single Star)ネットワーク構成が実用化されている。このネットワーク構成では、システムおよび機器構成は簡単になるが、1台の宅側装置ONUが一本の光ファイバを占有し、宅側装置ONU数がM台あれば、局側装置OLTから直接接続される光ファイバがM本必要となり、システムの低価格化を図るのが困難である。
【0003】
そこで、局側装置OLTから引かれる1本の光ファイバを、複数の宅側装置ONUで共有するPON(Passive Optical Network)システム(PDS(Passive Double Star)ともいう。)が実用化されている。このPONシステムは、FTTH(Fiber To The Home)やFTTB(Fiber To The Building)などのFTTxに適用されてきた低価格の光加入者用アクセス方式の1つである。
【0004】
PONシステムは、局側装置OLTと、特に外部からの電源供給を必要とせず入力された信号から受動的(Passive)に信号を分岐・多重する受動型光分岐器(以下、単に光スプリッタという。)とが、伝搬モードが単一であるシングルモードファイバ(Single Mode Fiber:以下、単に光ファイバという。)で接続されている。宅側装置ONUは複数あり、宅側装置ONUの数に応じた光ファイバで接続されている。局側装置OLTとN台の宅側装置ONUとは、光ファイバおよび光スプリッタを介して接続された1対Nの伝送を基本としている。これにより、1つの局側装置OLTに対して、最大32台の宅側装置ONUを収容することができ、全体的な設備コストを抑えることができる。
【0005】
なお、光スプリッタと複数の宅側装置との間に、さらに他の光スプリッタを挿入する構成を用いてもよい。
さらに、PONシステムにおいて、イーサネット(Ethernet)(登録商標)技術を取り込み、数多くの機器との接続親和性を向上させ、光ファイバのアクセス区間通信を実現する技術であるGE−PON(Gigabit Ethernet-Passive Optical Network)システムが実用化されている。
【0006】
このGE−PONシステムでは、伝送速度は上り下りとも、1.25Gbpsで一定であり、最小受信レベルは、送受信機のタイプ毎に一律に決められている。最小受信レベルは、たとえば、1000BASE−PX10規格であれば、局側装置OLT、宅側装置ONUともに、−24dBmと規定されている。また、1000BASE−PX20規格であれば、局側装置OLTが−27dBm、宅側装置ONUが−24dBm、と規定されている。そして、誤り訂正符号化方式として、Reed−Solomon(255,239,8)が指定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このGE−PONシステムでは、それぞれの宅側装置ONU毎に、局側装置OLTからの距離や、宅側装置ONUの受信器の感度が違っているなど、伝送条件が違っている。そして、宅側装置ONU毎の伝送条件が違うので、1台の局側装置OLTに収容された全ての宅側装置ONUを、伝送速度が高くするなどの質の高い条件で統一することができなかった。よって、PONシステムでは、限られた条件内の宅側装置ONUに速度を統一させ通信を行うしか方法がなかった。
【0008】
一方、GE−PONシステムの全ての宅側装置ONUに対して、伝送速度を高め、一定の伝送誤り率以下の通信を実現するために、送信側では光送信パワーを増加させ、受信側では最小受信レベルを低下させることが考えられる。このとき、たとえば、より効率の良いレーザダイオードやアバランシェフォトダイオードなどの高価な部材を採用することで、伝送速度を高めることが可能である。しかし、PONシステム全体のコストの増加を招いてしまい、伝送速度を高めるためのコストの増加は、必ずしも全ての加入者の要求とは合致しない。
【0009】
また、局側装置OLTと特定の宅側装置ONUとの間の伝送条件が良好で、光伝送部の性能に余裕がある場合でも、局側装置OLTとこの宅側装置ONUとの間の伝送条件は、PONシステム上の全ての宅側装置ONUに対して一定の誤り訂正符号化率および伝送速度に制限されていた。このように、従来のシステムでは、接続される端末に同一の性能を必要としたため、宅側装置ONU毎に応じたパフォーマンスの柔軟な組み合わせを実現することが困難であった。
【0010】
さらに、経過劣化にともなう機器や伝送路の機能低下に対して、事前に対処する術がなく、保守点検が容易ではなかった。
本発明は、このような背景のもとになされたもので、コストを抑えつつ、局側装置に収容され展開された複数ある宅側装置ONU毎に、良好な通信サービスを行うことができる光通信システムを提供することを主たる目的とする。
【0011】
本発明は、また、保守点検を容易にする光通信システムを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の光通信システムは、局側装置と、前記局側装置と光ファイバ網とを介して接続された複数の宅側装置とを含み、前記局側装置は、宅側装置毎に、検出された通信状態に基づいて、好適な伝送の仕方を設定する設定手段を有する(請求項1)。
この構成によれば、局側装置は、収容した宅側装置毎に、好適な伝送の仕方を探索することができ、かつ、個別に好適な伝送の仕方を採用することができる。これにより、宅側装置毎の伝送路の特性を最大限に活かした伝送速度を探索することができる。また、他の宅側装置の伝送路による制限を受けることなく、局側装置に収容された個々の宅側装置に見合う伝送速度での通信ができる。
【0013】
また、前記局側装置の設定手段は、宅側装置に対する上記好適な伝送の仕方を、伝送信号の誤り訂正符号化率または誤り訂正符号化方式の変更によって、伝送誤り率が所定の値以下になるように設定するものでもよい(請求項2)。これにより、局側装置の設定により、伝送信号の誤り訂正符号化率を一律にすることがなくなり、個々の宅側装置に見合う、好適な誤り訂正符号化率を探索することができる。よって、宅側装置は、伝送路に見合う良好な伝送速度で、通信することができる。
【0014】
また、前記局側装置の設定手段は、宅側装置に対する上記好適な伝送の仕方を、伝送速度の変更によって、伝送誤り率が所定の値以下になるように設定するものでもよい(請求項3)。これにより、局側装置の設定により、伝送信号の速度を一律にすることがなくなり、個々の宅側装置に見合う、好適な伝送速度を探索することができる。よって、宅側装置は、伝送路に見合う良好な伝送速度で通信することができる。
【0015】
また、前記局側装置の設定手段は、通信状態の監視が繰り返しなされ、監視された通信状態に基づいて、上記好適な伝送の仕方を設定することが好ましい(請求項4)。
この構成によれば、好適な伝送の仕方の設定は、一定時間毎に繰り返し実行されることができる。設定された伝送の仕方が、常に好適であるとは限らない。これは、通信の途中で、接続端末の増加により、また、なんらかの不具合により、所定の伝送信号のビット誤り率を超えることも十分予想されるからである。そこで、局側装置により探索された伝送の仕方による伝送信号のビット誤り率を、一定時間毎に繰り返し監視することで、時々刻々と変化する伝送路の状態に合わせて、宅側装置に好適な伝送の仕方の再設定をすることができる。また、通信サービスを開始してからも、伝送信号のビット誤り率を監視することができるので、光部品などの経過劣化が生じた場合にも、個々の宅側装置への伝送路に対して好適な伝送の仕方を探索することができる。さらに、伝送路に致命的な不具合が発生することにより伝送信号のビット誤り率が所定値を超える場合など、局側装置は検知することができる。これにより、たとえば、光通信システムを監視する人は、保守点検を速やかに実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、局側装置と複数の宅側装置との間に光スプリッタを介して光ファイバで接続した光通信システムの構成例を示す概略図である。
光通信システムとしてのPONシステム1は、局舎が備える局側装置OLT10と複数の加入者宅が備える宅側装置ONU90とが、幹線光ファイバ70、光スプリッタ80および支線光ファイバ71を介して接続されている。
【0017】
各宅側装置ONU90は、加入者宅内に設置されるパーソナルコンピュータなど、光ネットワークサービスを享受する端末を接続するためのネットワークインタフェースを備えている。
光スプリッタ80は、特に外部からの電源供給を必要とせず、入力された信号から受動的に信号を分岐・多重するスターカプラで構成されている。
【0018】
局側装置OLT10と光スプリッタ80とを接続している幹線光ファイバ70と、光スプリッタ80と宅側装置ONU90とを接続している支線光ファイバ71とは、1本の光ファイバからなるシングルモードファイバを用いられている。そして、1台の局側装置OLT10は、複数の光スプリッタ80により分岐され、N本(Nは、最大32の数値をとる)の支線光ファイバ71を介して宅側装置ONU90に接続されている。よって、1局の局側装置OLT10が送受する信号は、複数の光スプリッタ80によって、N台の宅側装置ONU90に分配されている。
【0019】
本発明の光通信システムは、上記PON(Passive Optical Network)技術に、ギガビットイーサネット(Gigabit Ethernet)(イーサネット(Ethernet)は、登録商標である。)技術を取り込み、1.25Gbpsのベースバンド速度で光ファイバのアクセス区間通信を実現するGE−PON(Gigabit Ethernet-Passive Optical Network)システムを採用している。
【0020】
GE−PONシステムに従えば、局側装置OLT10および宅側装置ONU90の相互の通信は、可変長なフレームを単位として行われる。フレームの構成は、論理リンク識別子を含むGE−PONヘッダと、64バイト以上のデータからなっている。データの最大サイズは一般に1530バイト程度である。
まず、上位のネットワークから局側装置OLT10に入ってくる下りフレーム信号は、局側装置OLT10において所定のブリッジ処理が行われ、中継されるべき論理リンクが特定される。そして、局側装置OLT10を通して、光信号として幹線光ファイバ70に送信される。このとき、局側装置OLT10は論理リンク識別子を含むGE−PONヘッダをフレーム信号に付加している。幹線光ファイバ70に送信された光信号は、複数の光スプリッタ80で分岐され、光スプリッタ80につながる宅側装置ONU90に送信されるが、当該論理リンクを構成する宅側装置ONU90のみが所定の光信号を取り込み、フレーム信号を宅内ネットワークインタフェースに中継する。
【0021】
一方、上り光信号には、それぞれの宅側装置ONU90からの上りフレーム信号が含まれている。上り光信号は、それぞれの宅側装置ONU90からの光信号どうしが互いに時間的に競合しないように送信される必要がある。そのために、局側装置OLT10は、各宅側装置ONU90に対して上り光信号を送信してもよい期間ウインドウ(以下、単にウインドウという)を割り当て、制御フレームとして通知する。ウインドウを割り当てられた宅側装置ONU90は、その割り当てられたウインドウに上り光信号を送信する。したがって、各宅側装置ONU90間の上り光信号の競合は回避される。各宅側装置ONU90は、あるウインドウが与えられたとき、そのウインドウに収まる限りフレーム信号を連続して送信してよい。このとき、局側装置OLT10と宅側装置ONU90との間で時計を共有している必要があるが、この時計の時刻合わせは、制御フレームの通信を行うときに、時刻情報を制御フレームの中に含ませることによって行うことができる。そして、局側装置OLT10は、各宅側装置ONU90からの一連のフレーム信号を含んだバースト光信号を受信することができる。バースト光信号とは、1.25Gbpsのベースパンド信号で発光状態を変化させた、有限時間の光信号列であり、有意なフレーム列の前には発光状態や受光状態を安定させ、さらに受信側においてベースバンド信号を回復するための同期時間を有し(これらを合わせて同期調整期間という)、この期間には固有の信号列を送信する。また、有意なフレーム列の後には、消光するための調整時間を有する。
【0022】
また、局側装置OLT10が受信する光信号波形は、例えば、宅側装置ONU90の発光素子の特性や、光ファイバ70および71の長さなどの、光伝送路の特性によって異なる。そこで、局側装置OLT10は、宅側装置ONU90毎に後述する2つの方式により、好適な伝送の仕方を探索することができる。
図2は、PONシステム1における局側装置OLT10および宅側装置ONU90の基本構成を示す概略図である。
【0023】
局側装置OLT10は、上位のネットワークとの通信や、宅側装置ONU毎に発せられるフレーム信号の制御が行われる伝送制御部11と、伝送制御部11からの電気信号としてのフレーム信号を光信号に変換する光信号発生器12と、宅側装置ONUから光ファイバを介して送られた光信号を分離する波長多重化フィルタ13と、波長多重化フィルタ13を介して送られた宅側装置ONU90からの光信号を電気信号に変換するための受光器14とを備えている。
【0024】
一方、宅側装置ONU90は、局側装置OLT10から多重化されて送られてきた光信号を分離する波長多重化フィルタ91と、波長多重化フィルタ91により分離化された光信号を電気信号に変換する受光器92と、受光器92の電気信号を補償するなどの通信の制御を行い、パケット信号をパーソナルコンピュータ99に送る伝送制御部93と、パーソナルコンピュータ99からのパケット信号を伝送制御部93を介して光信号に変換する光信号発生器94とを備えている。
【0025】
そして、局側装置OLT10の光信号発生器12および宅側装置ONU90の光信号発生器94は、相互に送りたい情報を表す電気信号であるベースバンド信号の1に対応する期間強く発光し、0に対応する期間弱く発光する。これにより、局側装置OLT10および宅側装置ONU90を挟んだ両端において、NRZ(Non Return to Zero:非ゼロ復帰記録方式)の方形信号を伝送することができる。
【0026】
以下では、局側装置OLT10と宅側装置ONU90とにおいて、相互にやりとりされる信号の一連の流れを説明する。
局側装置OLT10の波長多重化フィルタ13は、宅側装置ONU90から発せられ光ファイバ70を介して到達する光信号を分離して、受光器14に導く。受光器14は、光信号から電気信号に変換するためのフォトダイオードなどの部材によって、宅側装置ONU90からの光信号を電気信号に変換し、その電気信号をフレーム信号として伝送制御部11に送る。そして、伝送制御部11は、宅側装置ONU90からの信号をインターネット網に送る。
【0027】
また、伝送制御部11で変換されるコードストリームとしての信号は、ギガビットイーサネット規格のひとつである1000BASE−Xの10bit信号であり、シリアル化された1.25Gbpsの信号は、0と1とが頻繁に交番するベースバンド信号となる。
一方、伝送制御部11は、宅側装置ONU90に送るための上位のネットワークから受信したフレーム信号にGE−PONヘッダを付加する。そして、フレーム信号を光信号発生器12に送る。
【0028】
光信号発生器12は、受け取った電気信号としてのフレーム信号をレーザダイオードの駆動電流にすることで、レーザダイオード(例えば、1490nmの波長を発光するもの)の発光を制御し、電気信号から光信号への変換を行う。
次に、波長多重化フィルタ13は、光信号発生器12で発生した光信号を受け取り、光信号を幹線光ファイバ70に導く。そして、光信号は、幹線光ファイバ70、光スプリッタ80および支線光ファイバ71を介して宅側装置ONU90に送信される。
【0029】
宅側装置ONU90に向けて送信された光信号は、波長多重化フィルタ91を介して、受光器92に送られる。この受光器92は、受け取った光信号を電気信号に変換する。電気信号としてのフレーム信号は、伝送制御部93に送られ、当該宅側装置ONU90に対応した信号のみを復号化する。復号化されたフレーム信号は、図示しない宅側装置ONU90のインターフェースなどを介して、パケット信号としてパーソナルコンピュータ99に送られる。
【0030】
一方、パーソナルコンピュータ99からのパケット信号は、宅側装置ONU90の伝送制御部93に送られる。
そして、所定のヘッダなどが付加された信号は、光信号発生器94によって、電気信号から光信号への変換が行われる。光信号発生器94での光信号への変換は、受け取った電気信号をレーザダイオードの駆動電流にすることで、光信号発生器12が発光する波長と違う波長特性を有するレーザダイオード(例えば、主に1310nmの波長を発光するもの)によって、発光を制御することで行われる。
【0031】
次に、波長多重化フィルタ91は、光信号発生器94で発生した光信号を受け取り、光信号を支線光ファイバ71に導く。そして、この光信号は、支線光ファイバ71、光スプリッタ80および幹線光ファイバ70を介して局側装置OLT10に送信される。
ここでは、局側装置OLT10において送信に用いる光波長帯と、宅側装置ONU90において送信に用いる光波長帯とは異なるので、局側装置OLT10と宅側装置ONU90とを1本の光ファイバで接続することができる。
【0032】
また、局側装置10の伝送制御部11および宅側装置90の伝送制御部93において、後述する符号化率可変方式または伝送速度可変方式により好適な伝送の仕方が設定できる。この符号化率可変方式とは、所定の宅側装置ONU90の、誤り訂正符号化率(以下、単に符号化率という)の変更、あるいは、誤り訂正符号方式の変換、を行うことで、好適な伝送条件を探索する方法のことをいう。また、この伝送速度可変方式とは、所定の宅側装置ONU90の伝送速度を変更することで、好適な伝送条件を探索する方法のことをいう。そして、局側装置10に収容された複数ある宅側装置90毎に、好適な伝送の仕方が探索される。
【0033】
ところで、光ファイバを使った1Gbpsの仕様であるIEEE802.3ah(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子技術者協会)標準において、GE−PONシステムで使用されるスペクトル幅の仕様を含む、10kmまでの伝送を対象とした1000BASE−PX10規格と、20kmまでの伝送を対象とした1000BASE−PX20規格とが定められている。光ファイバの波長分散によって生じる波形歪みを考慮して、1000BASE−PX20のスペクトル幅は1000BASE−PX10のものより狭く規定されている。そして、IEEE802.3ahでは、伝送信号のビット誤り率BER(Bit Error Rate:以下、単に伝送誤り率という。)は、10^(-12)以下(^は、べき乗数を表す。以下、同じ。)の品質が要求されている。
【0034】
また、局側装置OLT10が収容する宅側装置ONU90毎で、光ファイバの距離が違っていたり、受光器92の受信感度が違っていることで、通信の状態が違っている。
そこで、本発明は、符号化率可変方式や伝送速度可変方式を適用することによって、宅側装置ONU90毎に実質的な通信速度を上げ、良好な通信を行えるようにできる。
以下では、GE−PONシステムにおいて、符号化率可変方式や伝送速度可変方式を適用したときの実施形態を説明する。
【0035】
図3は、図2のPONシステム1に、符号化率可変方式を適用するときのフローチャートである。
この実施形態でのPONシステム1では、図2の局側装置OLT10の伝送制御部11と宅側装置ONUの伝送制御部93とは、相互に対応した符号化率可変方式を適用している。
【0036】
まず、宅側装置ONU90の電源投入時に、局側装置OLT10から既知のトレーニング信号が送出される(ステップS1)。このときの初期設定として、効率の良い伝送条件を探索するために、下り回線の通信は符号化率を最高に設定しておく。また、宅側装置ONU90における伝送誤り率の結果を局側装置OLT10に確実に伝送するため、上り回線の通信は符号化率を最低に設定しておく。
【0037】
次に、局側装置OLT10は、宅側装置ONU90での伝送誤り率が所定の値(BER10^(-12))以下であるかどうかを判定する(ステップS2)。伝送誤り率が所定の値を超えていたとき(ステップS2でNo)、フローチャートはステップS3へ進む。
次に、局側装置OLT10で設定された符号化率が、局側装置OLT10で設定可能な下限であるかを判別する(ステップS3)。符号化率の設定範囲がまだ下限に達していなければ(ステップS3でNo)、下り回線での通信の符号化率を下げて、再度、局側装置OLT10から既知のトレーニング信号を送出する(ステップS4)。そして、フローチャートはステップS2に戻る。
【0038】
一方、ステップS2で、宅側装置ONU90での伝送誤り率が所定の値以下であったとき(ステップS2でYes)、この時点での符号化率の設定が好適であると判断されるので、下り回線での符号化率可変方式の伝送条件の探索は一旦終了し、次のステップS6に進む。
また、ステップS3で、所定の伝送誤り率を超えており、かつ、符号化率が設定可能な下限に達しているとき(ステップS3でNo)、下り伝送が不可とされる(ステップS5)。
【0039】
次に、最低の符号化率に設定されていた上り回線は、下り回線の符号化率に対応した符号化率に設定される(ステップS6)。あるいは、下り回線と同様の手順によって、好適な符号化率に設定されてもよい。
このように、この符号化率の設定は、通信サービス開始に先だって、宅側装置ONU90の電源投入時に行われる。それに加え、通信サービス提供の間隙を縫って適当な時間間隔で随時、符号化率の設定を行い、通信中の伝送誤り率が所定の値以下かどうかの監視を行う(ステップS7)。もし、通信途中で、所定の伝送誤り率が所定の値を超えたと判断された場合(ステップS7でNo)、フローチャートはS1に戻り、再度、好適な符号化率を求める。これにより、局側装置OLT10と宅側装置ONU90との間において、良好な伝送状態を維持することができる。
【0040】
以上のように、誤り訂正符号方式を繰り返し行うことで、局側装置OLT10と特定の宅側装置ONU90との通信状態を監視し、局側装置OLT10は、各宅側装置ONU90にとって、好適な符号化率を設定することができる。
なお、このフローチャートにより探索された符号化率により通信を行うことが好ましいが、より確実な通信を行うために、探索された符号化率をわずかに下げて通信を行ってもよい。これにより、局側装置OLTおよび宅側装置ONU間の通信は、より安定して行うことができる。
【0041】
また、上記の説明では、符号化率可変方式として、誤り訂正符号化率を変更することを主に説明したが、同様の結果を得られるときには、他の誤り訂正符号化方式に変更することで、好適な伝送条件を探索してもよい。
図4は、図2のPONシステム1に、伝送速度可変方式を適用するときのフローチャートである。
【0042】
この実施形態でのPONシステム1では、図2の局側装置OLT10の伝送制御部11と宅側装置ONUの伝送制御部93とは、相互に対応した伝送速度可変方式を適用している。
まず、宅側装置ONU90の電源投入時に、局側装置OLT10から既知のトレーニング信号が送出される(ステップS11)。このときの初期設定として、効率の良い伝送条件を探索するために、下り回線の通信は伝送速度を最高速に設定しておく。また、宅側装置ONU90における伝送誤り率の結果を局側装置OLT10に確実に伝送するために、上り回線の通信は伝送速度を最低速にしておく。
【0043】
次に、局側装置OLT10は、宅側装置ONU90での伝送誤り率が所定の値(BER10^(-12))以下であるかどうかを判定する(ステップS12)。伝送誤り率が所定の値を超えていたとき(ステップS12でNo)、フローチャートはステップS3へ進む。
次に、局側装置OLT10で設定された伝送速度が、局側装置OLTで設定可能な下限であるかを判別する(ステップS13)。伝送速度の設定範囲がまだ下限に達していなければ(ステップS13でNo)、下り回線での通信の伝送速度を下げて、再度、局側装置OLT10から既知のトレーニング信号を送出する(ステップS14)。そして、フローチャートはステップS12に戻る。
【0044】
一方、ステップS12で、宅側装置ONU90での伝送誤り率が所定の値以下であったとき(ステップS12でYes)、この時点での伝送速度の設定が好適であると判断されるので、下り回線での伝送速度可変方式の伝送条件の探索は一旦終了し、次のステップS16に進む。
また、ステップS13で、所定の伝送誤り率を超えており、かつ、伝送速度が設定可能な下限に達しているとき(ステップS13でNo)、下り伝送が不可とされる(ステップS15)。
【0045】
次に、伝送速度が最低速に設定されていた上り回線は、下り回線の伝送速度に対応した伝送速度に設定される(ステップS16)。あるいは、下り回線と同様の手順によって、好適な伝送速度に設定されてもよい。
このように、この伝送速度の設定は、通信サービス開始に先だって、宅側装置ONU90の電源投入時に行われる。それに加え、通信サービス提供の間隙を縫って適当な時間間隔で随時、伝送速度の設定を行い、通信中の伝送誤り率が所定の値以下かどうかの監視を行う(ステップS17)。もし、通信途中で、所定の伝送誤り率が所定の値を超えたと判断された場合(ステップS17でNo)、フローチャートはS11に戻り、再度、好適な伝送速度を求める。これにより、局側装置OLT10と宅側装置ONU90との間において、良好な伝送状態を維持することができる。
【0046】
以上のように、一定の周期で、局側装置OLT10と特定の宅側装置ONU90との通信状態を監視し、局側装置OLT10は、各宅側装置ONU90にとって、好適な伝送速度を設定することができる。
なお、このフローチャートにより探索された伝送速度により通信を行うことが好ましいが、より確実な通信を行うために、探索された伝送速度をわずかに下げて通信を行ってもよい。これにより、局側装置OLTおよび宅側装置ONU間の通信は、より安定して行うことができる。
【0047】
以上の実施形態において、このPONシステム1は、通信サービス開始後にも、伝送誤りの発生を監視して、伝送誤り率が所定値を超えたことを検出することができる。また、所定時間が経過したことを検出して、良好な伝送条件を探索しなおすことができる。これにより、光部品などの経時劣化が生じた場合にも、符号化率を落としながら、あるいは、通信速度を落としながら、通信を維持することができる。そして、常時、伝送誤り率を観測することができるので、致命的な劣化を予見し、局側装置OLT10に通知することができ、PONシステム1の保守・点検を容易にすることができる。
【0048】
ところで、PONシステム1は、たとえば、受信機に低いレベルの信号でも受信をすることができるような高価なアバランシェフォトダイオードを使用した宅側装置ONUでは、符号化率および伝送速度を最高にすることができ、最大限の通信容量のサービスを受けることができる。一方、比較的安価なPINフォトダイオードなどを使用した宅側装置ONUでは、符号化率や伝送速度を最低としなければいけないため、最大通信容量が制限を受けうる。このような場合でも、局側装置OLT10は、宅側装置ONU90毎に好適な符号化率あるいは伝送速度の探索・設定をすることができるので、それぞれの宅側装置ONU90の受信機の性能、宅側装置ONU90までの伝送損失の多少などによって提供される通信サービスのランク(通信容量)を宅側装置ONU90毎に合わせて変化させることができる。そして、局側装置OLT10から宅側装置ONU90までに、介在する光スプリッタによる損失や光ファイバの伝送による損失の度合いが異なっていても、宅側装置ONU90毎の最大通信容量を変化させることができ、同一PONシステムに収容された加入者にさまざまなランクの通信サービスを提供することができる。また、宅側装置ONU90は、同一PONシステム内において、受信機の性能改善を図ることによって、他の加入者のサービスを停止することなく、上位クラスの通信サービスを受けることができるようになり、柔軟性に富み、求められた好適な符号化方式・符号化率に基づいて、通信サービスを提供することができる。
【0049】
また、符号化率可変方式と伝送速度可変方式とを組み合わせることで、より良好な伝送状態を探索することもできる。
さらに、本発明のPONシステムでは、上り下りに専用回線を用いた2線式やマルチドロップ型などの形態でも、良好に適用することができる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】局側装置と複数の宅側装置との間に光スプリッタを介して光ファイバで接続した光通信システムの構成例を示す概略図である。
【図2】PONシステムにおける局側装置OLTおよび宅側装置ONUの基本構成を示す概略図である。
【図3】図2のPONシステムに、符号化率可変方式を適用するときのフローチャートである。
【図4】図2のPONシステムに、伝送速度可変方式を適用するときのフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
1 PONシステム(光通信システム)
10 局側装置(OLT)
11 伝送制御部
12 光信号発生器
13 波長多重化フィルタ
14 受光器
70 幹線光ファイバ
71 支線光ファイバ
80 光スプリッタ
90 宅側装置(ONU)
91 波長多重化フィルタ
92 受光器
93 伝送制御部
94 光信号発生器
99 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局側装置と、
前記局側装置と光ファイバ網とを介して接続された複数の宅側装置と、を含み、
前記局側装置は、
宅側装置毎に、検出された通信状態に基づいて、好適な伝送の仕方を設定する設定手段を有する、光通信システム。
【請求項2】
前記局側装置の設定手段は、
宅側装置に対する上記好適な伝送の仕方を、伝送信号の誤り訂正符号化率または誤り訂正符号化方式の変更によって、伝送誤り率が所定の値以下になるように設定する、請求項1記載の光通信システム。
【請求項3】
前記局側装置の設定手段は、
宅側装置に対する上記好適な伝送の仕方を、伝送速度の変更によって、伝送誤り率が所定の値以下になるように設定する、請求項1記載の光通信システム。
【請求項4】
前記局側装置の設定手段は、
通信状態の監視が繰り返しなされ、
監視された通信状態に基づいて、上記好適な伝送の仕方を設定する、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−36607(P2007−36607A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216280(P2005−216280)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】