説明

全稈投入型コンバイン

【課題】 分草体による倒伏穀稈の踏み潰しを避けて、掻込みリールなどの他装置による引き起こし作用が及び易くすることにより、倒伏穀稈の刈取を行い易くする。
【解決手段】 刈取られた穀稈の全体を脱穀装置の扱室に投入して脱穀処理する全稈投入型コンバインの分草体33の下縁を、側面視で先端部を含む前方側に位置する下縁部分33aが、後方側に位置する下縁部分33bよりも高くなるように形成して、刈取作業姿勢における前記前方側の下縁部分33aと地面との間に、前記後方側の下縁部分33bと地面との隙間よりも大きな隙間sが形成されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植立穀稈を刈り取る刈取前処理部と、刈取とられた穀稈の全体を扱室に投入して回動する扱胴によって脱穀処理する脱穀部を備えた全稈投入型コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の全稈投入型コンバインでは、分草箇所近くの穀稈が倒伏した姿勢にある状態で分草体を作用させるに際し、分草倒伏姿勢の穀稈をもできるだけ多く引き起こすことができるように、分草体の先端部を刈取作業姿勢で極力地面に近接するように設けていた(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−14708号公報(段落〔0022〕、図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の全稈投入型コンバインにおいては、刈取前処理部の刈り幅の左右両側に分草体が設けられているのであるが、穀稈が大きく倒伏している場合、刈り幅端部近くの倒伏した穀稈が分草体によって引き起こされずに、分草体の下側に潜り込んだ状態となることがある。
このように倒伏穀稈が分草体の下側に潜り込んでしまうと、対地的に低く位置する分草体の下縁によって穀稈が踏み潰された状態となり、より一層倒伏させられて、穂先側を掻き上げる掻込みリールによる引き起こし作用も付与できない状態となることがある。
【0005】
本発明の目的は、分草体による倒伏穀稈の踏み潰しを避けて、掻込みリールなどの他装置による引き起こし作用が及び易くすることにより、倒伏穀稈の刈取を行い易くした全稈投入型コンバインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために講じた本発明の技術手段は、次の点に構成上の特徴、及び作用効果がある。
〔解決手段1〕
本発明は、請求項1の記載のように、刈取前処理部で刈取られた穀稈の全体を脱穀装置の扱室に投入して脱穀処理する全稈投入型コンバインにおいて、
前記刈取前処理部には刈取作用範囲の左右両側で植立穀稈を分草する分草体を設けてあり、
この分草体の下縁を、側面視で先端部を含む前方側に位置する下縁部分が、後方側に位置する下縁部分よりも高くなるように形成して、刈取作業姿勢における前記前方側の下縁部分と地面との間に、前記後方側の下縁部分と地面との隙間よりも大きな隙間が形成されるようにしたことを特徴とする。
【0007】
〔作用効果〕
上記構成によると、分草体の下縁部分のうち、先端部を含む前方側に位置する下縁部分が、後方側に位置する下縁部分よりも高くなり、その前方側の下縁部分と地面との間に、後方側の下縁部分と地面との隙間よりも大きな隙間が形成される。したがって、この隙間が存在する箇所では、倒伏して分草体の下側に潜り込んだ状態の穀稈が強く押し潰された状態となることを避けられるので、上方の掻き上げ用の掻込みリールなどの他装置による引き起こし作用を付与し易くなる利点がある。
【0008】
〔解決手段2〕
本発明の全稈投入型コンバインでは、請求項2の記載のように、分草体の下縁を、側面視で刈刃よりも前方側に位置して先端部を含む下縁部分が、刈刃の下方に位置する下縁部分よりも高くなるように形成して、刈取作業姿勢における刈刃の前方側の下縁部分と地面との間に、刈刃の下方に位置する下縁部分と地面との隙間よりも大きな隙間が形成されるようにしてもよい。
【0009】
〔作用効果〕
上記構成によると、地面との隙間が大きい分草体の下縁部分を、側面視で刈刃よりも前方側に位置して先端部を含む下縁部分としたものであるから、倒伏茎稈の踏み潰しがない状態を刈刃の近くまで続けて、刈刃による倒伏穀稈の切断を良好に行わせ易い利点がある。
【0010】
〔解決手段3〕
本発明の全稈投入型コンバインでは、請求項3の記載のように、刈刃の直前位置の分草体の下縁部分が刈刃先端と同程度の高さ位置に設定されていてもよい。
【0011】
〔作用効果〕
上記のように、刈刃の直前位置の分草体の下縁部分が刈刃先端と同程度の高さ位置に設定されていると、刈刃先端位置よりも下方側への分草体による倒伏穀稈への踏み潰しが、より確実に生じ難いので、刈刃による倒伏穀稈の切断がより良好に行われ易い利点がある。
【0012】
〔解決手段4〕
本発明の全稈投入型コンバインでは、請求項4の記載のように、刈刃よりも前方側における分草体の下縁部分のうち、前記刈刃から前方側へ離れた先端側箇所の下縁部分には、刈刃に近い側の下縁部分に対して先端側ほど高くなる傾斜下縁を形成してもよい。
【0013】
〔作用効果〕
上記のように、刈刃から前方側へ離れた先端側箇所の下縁部分を、刈刃に近い後端側箇所の下縁部分に対して先端側ほど高くなる傾斜下縁に形成すると、分草体の先端位置の対地高さは、地面からかなり離れた高い位置となる。このため、大きく倒伏した状態の穀稈は分草体による引き起こし作用を受けることができず、逆に傾斜下縁に沿って分草体の下縁側に案内されることになる。
従来では、分草体による引き起こし機能を極力有効に発揮させることを目的として分草体先端の位置をできるだけ地面に近づけるようにすることが技術常識とされていたものであるが、本発明では、発想を転換して、上記のような作用が生じる構成を採用した。
すなわち、分草体先端位置を高くして、分草体の引き起こし機能は、その引き起こし作用がスムースに行われ易いところの、極端な倒伏状態ではない穀稈に対してだけ作用するようにし、大きく倒伏した穀稈に対しては、無理に分草作用を働かせると、絡みついた穀稈が千切れたり、脱粒が生じる虞があるので、引き起こし作用が働かない下縁側へ案内して、かつ踏み潰しの生じ難い状態で切断することができるようにしたものである。
したがって、分草体による穀稈の分草や引き起こし作用を、穀稈の引き千切りや踏み潰しを生じ難い状態で行いながら刈取作業を良好に行ない易い利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔全稈投入型コンバインの全体構成〕
以下、本発明の実施の形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
図1および図3に、本発明に係る全稈投入型のコンバインの全体側面が、また、図2に、その全体平面がそれぞれ示されている。
このコンバインは、左右一対のクローラ走行装置1を備えた機体2に、運転部4、軸流型の脱穀装置5、および、穀粒容器6が搭載されるとともに、前記脱穀装置5の前部に後部側の横軸芯周りで上下揺動自在に刈取り作物搬送用のフィーダ7が連結され、このフィーダ7の前端に機体横幅に相当する刈幅を有する刈取前処理部3が連結された構造となっている。前記運転部4における座席下方に、エンジン(図外)を収容した原動部が設けられている。
【0015】
〔刈取前処理部の構成〕
前記刈取前処理部3は、左右一対の分草フレーム30に亘ってバリカン型の刈取装置31、刈り取った作物を横送りして前記フィーダ7の始端部に送り込むオーガ32が架設された構造となっており、分草フレーム30の前端側には分草体33が装着されている。
前記フィーダ7と機体2との間に架設された油圧シリンダ14の伸縮作動によって刈取前処理部3がフィーダ7と一体に昇降されるようになっている。また、刈取前処理部3の前部上方に、植立した作物を後方に掻き込む掻込みリール35が装備されている。
【0016】
前記掻込みリール35は、支点b周りに上下揺動自在な左右一対の支持アーム16の前部に支持ブラケット17を介して支架されており、油圧シリンダ15によって支持アーム16を上下揺動することで掻込みリール35の掻込み作用高さを変更することができるとともに、支持ブラケット17を支持アーム16に沿ってスライド調節することで掻込み作用位置を前後に調節することが可能となっている。
【0017】
掻込みリール35自体は側面形状が五角形に構成され、その角部に回転可能に横架した丸パイプ製のタイン取付け杆36に多数本のタイン37が並列装着されている。このタイン37の駆動形態は周知のものであるため、詳細な構造の説明は省略するが、前記タイン取付け杆36は、掻込みリール35の前方への公転に対応して逆方向に同速度で相対自転されることで、掻込みリール35の回転にかかわらず常に一定姿勢にあるように構成されており、これによって各タイン取付け杆36に取付けられたタイン37が常に下向きの掻き込み姿勢に維持されるようになっている。
【0018】
刈取前処理部3に設けられた前記刈取装置31の刈刃31a、及び前記オーガ32は、夫々が右側の分草フレーム30の横外側に配備された駆動機構(図外)を介して駆動されるように構成されている。また、前記掻込みリール35に対する駆動系は、前記前記刈取装置31及びオーガ32への駆動系の途中から分岐された動力が伝動チェーン19及び伝動ベルト18を介して伝達されるように構成されている。
【0019】
〔分草体の構成〕
前記分草フレーム30の前端側に装着された分草体33は次のように構成されている。
図3乃至図5に示すように、後端側を分草フレーム30に連結された分草体33は、その下縁を、側面視で先端部34を含む前方側に位置する下縁部分33aが、後方側に位置する下縁部分33bよりも高くなるように形成して、刈取作業姿勢における前記前方側の下縁部分33aと地面との間に、前記後方側の下縁部分33bと地面との隙間よりも大きな隙間sが形成されるようにしてある。
【0020】
すなわち、刈刃31aの下方に位置する後方側の下縁部分33bは、刈取作業姿勢ではほとんど地面と摺接する程度にまで低く設定されている。この後方側の下縁部分33bに対して、側面視で刈刃31aよりも前方側に位置して分草体33の先端部を含む範囲に設けられた前方側の下縁部分33aは、刈取作業姿勢における刈刃31aの先端の対地高さと同程度になるように高い位置に設けられていて、両下縁部分33a,33b同士の間には段差が形成されている。
したがって、この段差に相当する隙間sが前記前方側の下縁部分33aと地面との間に、刈刃31aの下方に位置する下縁部分33bと地面との隙間よりも大きな隙間sとして形成されることになる。
【0021】
刈刃31aよりも前方側における分草体33の下縁部分33aのうち、前記刈刃31aから前方側へ離れた先端側箇所の下縁部分33aには、刈刃31aの下方に位置する後方側の下縁部分33bや、前方側の下縁部分33aのうちでも刈刃31aに近い側の下縁部分33aに対しては、傾斜して交差する下縁となるように、先端側ほど高くなる傾斜下縁33cが形成されている。
【0022】
上述のように構成した分草体33による作用状態を図4に示す。
図4の図中、仮想線で示すように、分草体33の近くで倒伏している穀稈a’が存在している場合、前述の前方側の下縁部分33aによる隙間sが存在していなければ、倒伏穀稈の株元近くが踏み潰されて極端な倒伏状態となることがある。
これに比べて、本発明のように、前記前方側の下縁部分33aによる隙間sが存在していることにより、同図中に実線で示すように、倒伏姿勢の穀稈の株元を踏み潰すことなく、分草体33の下側に潜り込んだ穀稈aを、ある程度の起き上がり状態のままで刈刃31aによる切断をすることが可能となる。
【0023】
尚、図3に示すように、この実施形態における分草体33の下縁は、刈刃31aの直前で刈り刃の下方に回り込むように屈曲された形状であり、実際に刈刃31aの先端が存在する箇所の分草体33の前後方向位置では、分草体33の下縁は刈刃31aよりも低い後方側の下縁部分33bである。
したがって、刈刃31aによる倒伏穀稈の切断時点では、分草体33の下縁が倒伏した穀稈の株元を踏んだ状態となっていることがある。しかしながら、穀稈aは踏まれる直前まで掻き込みリール35による引き起こし作用を受けて図4に示すようにある程度起きあがった状態となっており、踏まれてから機体進行中の僅かな時間差で切断されるものであり、踏まれた途端に完全な倒伏状態になるものでもないので、支障なく切断することが可能となる。
【0024】
また、分草体33の下縁のうち、先端側に傾斜下縁33cを形成した場合には、図5に示すように、分草体33の先端の対地高さが、刈刃31aと比べてもかなり高い位置となる。
したがって、この分草体33で分草を行った場合、分草体33による引き起こし機能が働くのは、分草体33の先端よりも高い位置で分草体33と接触した穀稈であり、あまり大きく倒伏した状態ではない穀稈に対してのみ、分草、及び引き起こし作用が働くことになる。
このように、あまり大きく倒伏していない穀稈であれば、その穀稈相互の絡みつき度合いも比較的少ないので、絡みついた穀稈が千切れたり、脱粒が生じる虞の少ないスムースな分草ならびに引き起こしを行い易いものである。
【0025】
そして、分草体33の先端よりも低い位置で分草体と接触した倒伏穀稈は、その分草体33の傾斜下縁33cに案内されて分草体33の下縁側に導入され、前記図3,4で説明した場合と同様の、掻き込みリール35による引き起こし、ならびに刈刃31aによる切断作用を受けることになる。
【0026】
〔他の実施形態例〕
本発明は、以下のような形態で実施することもできる。
[1]上述の実施形態では、分草フレーム30に対して別部材で構成された分草体33を連結したが、分草フレーム30と分草体33とを一体部材で構成してもよい。
[2] また、分草体33の後端側の下縁部分33bを分草フレーム30の下側に延出した前述の実施形態の構造に限らず、分草フレーム30の下端側に分草体33の後方側の下縁部分33bの役割をなす部分を形成して、分草フレーム30が分草体33の一部を兼ねるようにした構造であってもよい。この場合、分草フレーム30の前方側に位置する分草体33の構成部分には前方側の下縁部分33aのみが存在することになる。
[3]分草体33の前方側の下縁部分33aは、刈刃31aの直前位置から前方側に設けられるものに限らず、刈刃31aの先端よりも後方側から前方側に向けて設けられていてもよく、また、刈取作業姿勢で地面に対して下縁が平行でなければならないものではなく、後方側から前方側に向けて徐々に高くなるような下縁であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】全稈投入型コンバインの左側面図
【図2】全稈投入型コンバインの平面図
【図3】刈取前処理部の右側面図
【図4】分草体の作用を示す正面図
【図5】分草体の作用を示す右側面図
【符号の説明】
【0028】
3 刈取前処理部
30 分草フレーム
31 刈取装置
31a 刈刃
32 オーガ
33 分草体
33a 前方側の下縁部分
33b 後方側の下縁部分
33c 傾斜下縁
35 掻込みリール
s 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取前処理部で刈取られた穀稈の全体を脱穀装置の扱室に投入して脱穀処理する全稈投入型コンバインであって、
前記刈取前処理部には刈取作用範囲の左右両側で植立穀稈を分草する分草体を設けてあり、
この分草体の下縁を、側面視で先端部を含む前方側に位置する下縁部分が、後方側に位置する下縁部分よりも高くなるように形成して、刈取作業姿勢における前記前方側の下縁部分と地面との間に、前記後方側の下縁部分と地面との隙間よりも大きな隙間が形成されるようにしたことを特徴とする全稈投入型コンバイン。

【請求項2】
分草体の下縁を、側面視で刈刃よりも前方側に位置して先端部を含む下縁部分が、刈刃の下方に位置する下縁部分よりも高くなるように形成して、刈取作業姿勢における刈刃の前方側の下縁部分と地面との間に、刈刃の下方に位置する下縁部分と地面との隙間よりも大きな隙間が形成されるようにした請求項1記載の全稈投入型コンバイン。

【請求項3】
刈刃の直前位置の分草体の下縁部分が刈刃先端と同程度の高さ位置に設定されている請求項1または2記載の全稈投入型コンバイン。

【請求項4】
刈刃よりも前方側における分草体の下縁部分のうち、前記刈刃から前方側へ離れた先端側箇所の下縁部分には、刈刃に近い側の下縁部分に対して先端側ほど高くなる傾斜下縁を形成してある請求項1、2、または3記載の全稈投入型コンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−220280(P2008−220280A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63856(P2007−63856)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】