説明

全面駆動型スピーカ

【課題】 音質の劣化を防ぎつつ実用的な音圧レベルを発生でき、かつ前面形状の設計自由度の大きい全面駆動型スピーカを提供する。
【解決手段】 全面駆動型スピーカは、円筒形の磁気ギャップを有する磁気回路MC1、MC2が縦横にそれぞれ等間隔で配列され、磁気ギャップが近接して対向配置された第1、第2の磁気回路群と、これら磁気回路群間の中性面に配置され、ボイスコイルVCが設けられた振動板21とを備える。上記第1、第2の磁気回路群の各々の磁気回路MC1、MC2は、縦横に1/2ピッチずつずらして対向配置される。上記ボイスコイルVCは、第1、第2の磁気回路群における近接して対向配置された磁気ギャップの隣接した90度分または180度分に相当する扇形領域の外周の円弧を、交叉させることなく連続的に一筆書きで繋ぐ線に沿って形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型で小型の機器に内蔵させるために、薄型化かつ小型化された全面駆動型スピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば小型平面テレビ等の電気・電子機器の薄型化や小型化に伴い、これらの機器に内蔵するスピーカには、より薄型であることが要求されている。しかも、実用的な音圧レベルでの音響再生が可能であり、スピーカの前面形状についても取り付け場所に応じた各種形状に対応できるように設計の自由度が高いことを求められている。
【0003】
一般に、スピーカの薄型化のためには平面型が適しており、平面型において音響特性を重視すれば全面駆動型スピーカが好適であるとされている。しかし、平面型や全面駆動型のスピーカには多様な種類と構成のものが見られるものの、上記の諸要求を十分に満足するものはまだ開発されていない。
【0004】
そこで、本出願人は特許文献1において、円筒形の磁気ギャップを持つ磁気回路を2個以上平面に並べ、各磁気ギャップ上面を交叉しない線により一筆書きで繋ぎ、書き始めと書き終わりが一つの磁気回路にくるようにしたパターンのボイスコイルを用いる「全面駆動スピーカ」を提案した。
【0005】
この構成によって、小型磁気回路1個分の全高でスピーカを形成でき、複数個の磁気回路と線輪の連結の形状によって、限られた正面面積の中に効率よくボイスコイルの有効線密度を上げた薄型のスピーカを実現できた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−245601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1の「全面駆動スピーカ」においては、3mm以下の薄いスピーカユニットを実現するために、振動板の片側のみにおいて磁気回路群をボイスコイルと対峙させる構成としている。このため、利用する磁束ループは、円筒形の磁気ギャップを形成するための短円柱形磁石の外周と、ヨークの凹部内周との間を繋ぐ漏洩ループである。
【0008】
このため、場所によって磁束密度が異なり、空間的に均一な磁束密度部分が少ないので、大振幅の振動時には歪みを生じる可能性がある。従って、薄さを優先する場合や比較的振幅の小さい高音用スピーカとしては有効であるものの、振幅の大きな低音域で音質の改善が望まれている。
【0009】
本発明は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、音質の劣化を防ぎつつ実用的な音圧レベルを発生でき、かつ前面形状の設計自由度の大きい全面駆動型スピーカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に係る本発明の全面駆動型スピーカは、円筒形の磁気ギャップMG1、MG2を有する磁気回路MC1、MC2が縦横にそれぞれ等間隔で配列され、前記磁気ギャップMG1、MG2が近接して対向配置された第1、第2の磁気回路群11、12と、前記第1、第2の磁気回路群11、12の対向する空間の中性面に配置された振動板21と、前記振動板21に設けられたボイスコイルVCとを備え、前記第1、第2の磁気回路群11、12は、各々の磁気回路MC1、MC2が縦横に1/2ピッチずつずらして対向配置され、前記ボイスコイルVCは、前記第1、第2の磁気回路群11、12における近接して対向配置された磁気ギャップMG1、MG2の隣接した90度分または180度分に相当する扇形領域の外周の円弧を、交叉させることなく連続的に一筆書きで繋ぐ線に沿って形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の全面駆動型スピーカにおいて、前記磁気ギャップMG1、MG2の中央部AX1、AX2までの半径をRとしたとき、磁気回路MC1、MC2の縦横の間隔ΔLはそれぞれ、2.4R〜3.2Rであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の全面駆動型スピーカにおいて、前記磁気ギャップMG1、MG2の180度分に相当する扇形領域は、前記ボイスコイルVCのコーナー部であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1記載の全面駆動型スピーカにおいて、前記第1の磁気回路群11の下面における前記磁気回路MC1の極性と、前記第2の磁気回路群12の上面における前記磁気回路MC2の極性が異なることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1記載の全面駆動型スピーカにおいて、前記各磁気回路MC1、MC2に隣接して、前記第2、第1の磁気回路群12、11の対向する位置の磁気回路MC2、MC1に対応して設けられ、前記振動板21の振動によって発生する音圧を前記各磁気回路MC1、MC2の反対側の空間に放射させる開口部20、16を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜5に係る本発明によれば、磁束ループが磁気回路の漏洩ループではなくメインループであるため、均一な磁束の空間を広く形成することが可能となる。しかも、二つの磁気回路群を対向して配置することによって磁束密度を高くすることもできる。これによって、広い振幅領域で、より高感度のスピーカを実現することができる。
【0016】
また、ボイスコイルの各部分は、端部を除いて連続して第1の磁気回路群の真下または第2の磁気回路群の真上にあり、ほぼ全長にわたって磁束と交叉する。これによって、二つの磁気回路群の中性面には多数のラジアル状の磁束ループが形成される。更に、ボイスコイルにおける磁気ギャップの円周方向の部分は、磁気ギャップにラジアルに形成された磁束と直交し、通電するとボイスコイルには中性面に垂直方向の駆動力が効率良く発生する。
【0017】
しかも、各磁気回路を縦横に1/2ピッチずつずらして配置したことで、磁石の直径をDMとすると、0.8×DM程度の大きな開口部を設けることができ、音質向上に効果が大きい。
【0018】
従って、音質の劣化を防ぎつつ実用的な音圧レベルを発生でき、かつ前面形状の設計自由度の大きい全面駆動型スピーカを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係る全面駆動型スピーカの基本構造について説明するためのもので、(a)図は二つの磁気回路群とボイスコイルの平面図、(b)図は(a)図のA−A’線矢示断面図である。
【図2】図1における第1の磁気回路群側を示しており、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA−A’線矢示断面図である。
【図3】図1における第2の磁気回路群側を示しており、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA−A’線矢示断面図である。
【図4】図1における振動板とボイスコイルを抽出して示しており、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA−A’線矢示断面図である。
【図5】図1(b)の一部を拡大して示す断面図である。
【図6】各磁気回路の間隔を設定する際の考察について説明するためのもので、(a)図は「ΔL=2√2・R」の場合、(b)図は「ΔL<2√2・R」の場合を示す図である。
【図7】各磁気回路の間隔を設定する際の考察について説明するためのもので、(a)図はヨークの厚さを考慮した場合、(b)図は「ΔL>2√2・R」の場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願人は、先願(特願2010−120271号)において、対称形に配置した第1、第2の磁気回路群を、磁気ギャップ面を対向させて配置することで音質と感度を向上させた「薄型全面駆動スピーカ」を提案した。
【0021】
本発明は、前述した特許文献1に記載した技術と、上記先願に記載した技術とを組み合わせて更に改良を加えたものである。すなわち、下記(A)〜(C)のようにすることで、振幅の大きな低音域で音質を改善している。
【0022】
(A)特許文献1では利用する磁束ループが漏洩ループであったのを、先願と同様にメインループにすることで、磁束密度を大きくし斉一と見なせる領域も広くする。
【0023】
(B)先願のような磁石の同極を対向させる反発型磁気回路の構成では、コイルの電流と磁束の交叉を増やすべく磁気回路の配置密度を上げていくと、振動板の両面で磁気回路に覆われる部分が増えて音の直接放射面積が減少する。そこで、二つの磁気回路群を、縦横に1/2ピッチずつずらして対向配置し、上記二つの磁気回路群における対向する各磁気回路の極性を変える。
【0024】
(C)先願の構成では、音の放射は隣り合う磁気回路の間に設けられた開口部や磁気回路中央に設けられた穴を通して行われる。振動板周辺に構造的な音響回路の形成を最小化することが音質の劣化を防ぐために必要であるが、この場合は開口部や穴の直径をなるべく大きくすることが重要である。先願の構成では、近接する磁気回路の隙間に開口部(穴)を設けるため、開口部の直径は磁石の直径をDMとすると、0.3×DM程度が限界であった。しかし、上記のように二つの磁気回路群を縦横に1/2ピッチずつずらして対向配置することで、0.8×DM程度のより大きな開口部(貫通孔)を設けることができる。
【0025】
上記(A)〜(C)のような考察に基づき、本発明の実施の形態では、全面駆動型スピーカを下記(1)〜(4)のように構成している。
【0026】
(1)円筒形の磁気ギャップを縦横にそれぞれ等間隔で配列した二つの磁気回路群を形成し、これら二つの磁気回路群の磁気ギャップの面を近接して対向配置する。
【0027】
(2)上記二つの磁気回路群はそれぞれ、磁気ギャップの中央部までの半径をRとしたとき、磁気回路を縦横の間隔(ΔL)がそれぞれ2.4R〜3.2Rとなるように等間隔で並べる。そして、これら二つの磁気回路群を、縦横に1/2ピッチずつずらして対向配置する。ここで、上記二つの磁気回路群における対向する各磁気回路の極性は異なっている。
【0028】
(3)上記二つの磁気回路群の対向する空間の中性面にボイスコイルを配置する。このボイスコイルは、二つの磁気回路群における近接して対向配置された磁気ギャップの隣接した90度分または180度分に相当する扇形領域の外周の円弧を、交叉させることなく連続的に一筆書きで繋ぐ線に沿って形成する。
【0029】
(4)上記二つの磁気回路群における各磁気回路の対向面に開口部(貫通孔)を設ける。
【0030】
上記のような構成によれば、二つの磁気回路群の中性面には多数のラジアル状の磁束ループが形成される。この磁束ループは磁気回路の漏洩ループではなくメインループである。また、磁気ギャップの円周方向のボイスコイルは、磁気ギャップにラジアルに形成された磁束と直交し、通電するとボイスコイルには中性面に垂直方向の駆動力が効率良く発生する。更に、振動板の振動によって発生する音圧を開口部から磁気回路の反対側の空間に効果的に放射できる。
【0031】
これによって、音質の劣化を防ぎつつ実用的な音圧レベルを発生でき、かつ前面形状の設計自由度を大きくできる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1は、本発明の実施例に係る全面駆動型スピーカの基本構造について説明するためのもので、(a)図は二つの磁気回路群とボイスコイルの平面図、(b)図は(a)図のA−A’線矢示断面図である。また、図2〜図4はそれぞれ図1における第1、第2の磁気回路群、及び振動板とボイスコイルを抽出して示しており、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA−A’線矢示断面図である。
【0034】
図2(a)、(b)に示すように、第1の磁気回路群11には、m行n列の磁気回路、本例では4行4列の円形の磁気回路MC1が縦横に配列されている。これらの磁気回路MC1は、円筒形の磁気ギャップMG1の中央部AX1までの半径をRとすると、磁気回路MC1を縦横に2.4R〜3.2Rの正方形となるように等間隔(ΔLピッチ)で並べた配置になっている。
【0035】
上記第1の磁気回路群11の各々の磁気回路MC1は、筐体13の底部に設けられた凹部13aに有底円筒形状のヨーク14が嵌合され、このヨーク14内に、ヨーク14の内径よりも小さい短円柱状の磁石15が収容されて形成される。これによって、上記ヨーク14の内面と磁石15の外周との間には、円筒形の磁気ギャップMG1が形成される。更に、各磁気回路MC1間の筐体13には、上記第2の磁気回路群12の各々の磁気回路MC2に対応する位置に開口部(貫通孔)16が形成されている。
【0036】
図3(a)、(b)に示すように、第2の磁気回路群12も第1の磁気回路群11と同様な構成になっており、本例では3行3列の円形の磁気回路MC2が縦横に等間隔に配列されている。これらの磁気回路MC2は、第1の磁気回路群11と同様に、円筒形の磁気ギャップMG2の中央部AX2までの半径をRとすると、磁気回路MC2を縦横に2.4R〜3.2Rの正方形となるように等間隔(ΔLピッチ)に並べた配置になっている。
【0037】
上記第2の磁気回路群12の各々の磁気回路MC2は、筐体17の底部に設けられた凹部17aに有底円筒形状のヨーク18が嵌合され、このヨーク18内に、ヨーク18の内径よりも小さい短円柱状の磁石19が収容されて形成される。これによって、上記ヨーク18の内面と磁石19の外周との間には、円筒形の磁気ギャップMG2が形成される。更に、筐体17の上記第1の磁気回路群11の各々の磁気回路MC1に対向する位置には、開口部(貫通孔)20が形成されている。
【0038】
そして、図1(a)、(b)に示すように、上記図2(a)、(b)及び図3(a)、(b)に示した第1、第2の磁気回路群11、12を磁気ギャップMG1、MG2の面が近接して対向配置されている。この際、各磁気回路MC1、MC2を縦横にそれぞれ1/2ピッチ(ΔL/2)ずつずらして、換言すれば半周期ずつずらしている。これによって、磁気回路MC1の磁気ギャップMG1の中央部AX1と、磁気回路MC2の磁気ギャップMG2の中央部AX2とが一致した状態で対向配置される。
【0039】
ここで、上記磁気回路MC1は下面がS極、磁気回路MC2は上面がN極である。これら磁気回路MC1、MC2の極性は異なっていれば良く、磁気回路MC1の下面がN極、磁気回路MC2の上面がS極でも構わない。
【0040】
上記磁気回路MC1、MC2間の中性面には、筐体13の端部の側板13b、13c間にボイスコイル(フレキシブルコイル)VCが張設されている。このボイスコイルVCは、図4(a)、(b)に示すように、振動板21として働く薄膜上(または薄膜内)に形成されている。そして、第1、第2の磁気回路群11、12における近接して対向配置された磁気ギャップMG1、MG2の隣接した90度分(コーナー部では180度分)に相当する扇形領域の外周の円弧を、交叉させることなく連続的に一筆書きで繋ぐ線に沿ったパターン形状になっている。
【0041】
従って、図5に図1(b)の破線で囲んだ領域SEを拡大して示すように、同一の順方向(反発方向ではない)の磁気回路MC1、MC2により、中性面には水平で放射状の磁束ループが形成される。また、この磁束ループはN極とS極が対向するメインループでもあるので、磁束密度が大きく斉一と見なせる領域も広い。
【0042】
しかも、中性面内に配置される振動板21に保持されたボイスコイルVCの円形部分の各々はラジアル状のメイン磁束ループ内に配置され、ボイスコイルVCに通電したとき、コイルには中性面と振動板21に対して垂直方向の駆動力が効率よく発生する。
【0043】
上記筐体13、17に形成された開口部16、20の中心軸AX3、AX4はそれぞれ、対向配置された磁気回路MC1、MC2の磁石15、19の中心軸AX5、AX6と一致して配置される。このように、磁気回路MC1、MC2が上下で互い違いに配置されたことで、開口部16、20を各磁気回路路MC1、MC2間の隙間を利用して効率的に配置できるので、磁石15、19の直径をDMとすると、0.8×DM程度の大きな開口部を設けることができる。
【0044】
従って、ボイスコイルVCへの通電時の駆動力で振動板21が振動し、振動によって発生する音圧は、これら開口部16、20を介して筐体13、17の外側の空間に効果的に放射され、音質向上に効果が大きい。
【0045】
なお、上記各磁気回路MC1、MC2の間隔ΔLは、次のような考察に基づいて設定している。磁気回路MC1のギャップ中正円(ギャップ中央の円)と磁気回路MC2のギャップ中正円とが、図6(a)に示すように4点(X1〜X4)で接したときの磁気回路MC1の間隔ΔLは「√2×2R」である。よって、ΔL=2√2・R(約2.83R)」になる。
【0046】
また、「ΔL<2√2・R」にすると、図6(b)に示すように、上下の磁気回路MC1、MC2の中正円の交点Yが8カ所(Y1〜Y8)となり、円周方向における磁束密度Bの均一度が上がり、駆動力(Bil)の面では有利になる。ここで、駆動力(Bil)とは、駆動コイルに電流を流すことによってフレミングの法則により発生する電磁力F(F=Bil、B:磁束密度、i:電流、l:コイルの有効長)である。
【0047】
但し、ヨーク14の厚さがあるため、実際に取り得る最小値は2.4R程度となる。例えば、図7(a)に示すように、ヨーク14の外径φ1が14mm、内径φ2が12mm、磁石15の直径φ3が10mmとすると、磁気回路MC1の隣同士の距離ΔLは、「ΔL=14mm=約2.55R」である。
【0048】
一方、「ΔL>2√2・R」になると磁束密度Bが減少する。すなわち、図7(b)に示すように、磁気回路MC1、MC2間の磁場の干渉が減り、単独の磁気回路の漏洩磁場に近づく。そして、ΔLが3.2R程度を超えると漏洩磁場が支配的になる。従って、好ましい各磁気回路MC1、MC2の間隔ΔLは、2.4R〜3.2Rの範囲内である。
【0049】
上記のような構成によれば、利用する磁束ループは上記の通りメイン磁束ループであるため、均一な磁束の空間を広く形成することが可能となる。また、磁気回路群の対向配列によって磁束密度を高くすることも可能となる。しかも、図1(a)に示したように、ボイスコイルの各部分は端部を除いて連続して磁気ギャップの真上または真下にあり、ほぼ全長にわたって磁束と交叉する。これによって、斉一な磁束密度の空間を広くでき、かつ対向磁気回路の構成によって磁束密度も高い。従って、振幅領域の広い、より高感度のスピーカを実現できる。
【0050】
更に、特許文献1のような反発方向に構成された磁気回路群とは異なり、スピーカを組み立ててから着磁することが可能であり、組み立て(製造工程)を簡略化できる。
【0051】
従って、音質の劣化を防ぎつつ、数ミリ程度の薄さでありながら実用的な音圧レベルを発生でき、かつ前面形状の設計自由度の大きい、換言すれば取り付け場所に応じた形状の設計が容易な全面駆動型スピーカを提供できる。
【0052】
なお、二群の磁気回路を対向配置とすることでスピーカの厚さは特許文献1の構成の約2倍となるが、それでも小型の磁気回路の場合は10mm以下が可能であり、他の方式に比べればまだ十分に薄い水準にある。
【0053】
また、上記実施例では第1の磁気回路群11が4行4列の磁気回路MC1、第2の磁気回路群12が3行3列の磁気回路MC2の場合をそれぞれ正方形に配置する例を説明した。しかしながら、第1の磁気回路群11をm行n列(但し、m、nは2以上の整数)の磁気回路MC1で形成し、第2の磁気回路群12を(m−1)行(n−1)列の磁気回路MC2で形成しても良く、正方形以外の種々の形状に配置しても良いのはもちろんである。
【0054】
以上実施の形態と実施例を用いて本発明の説明を行ったが、本発明は上記実施の形態や実施例に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施の形態と実施例には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば実施の形態と実施例に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題の少なくとも一つが解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも一つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0055】
11 第1の磁気回路群
12 第2の磁気回路群
13、17 筐体
13a、17a 凹部
13b、13c 側板
14、18 ヨーク
15、19 磁石
16、20 開口部
21 振動板
MG1、MG2 磁気ギャップ
MC1、MC2 磁気回路
ΔL 間隔
VC ボイスコイル
AX1、AX2 中央部
AX3〜AX6 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の磁気ギャップ(MG1、MG2)を有する磁気回路(MC1、MC2)が縦横にそれぞれ等間隔で配列され、前記磁気ギャップ(MG1、MG2)が近接して対向配置された第1、第2の磁気回路群(11、12)と、
前記第1、第2の磁気回路群(11、12)の対向する空間の中性面に配置された振動板(21)と、
前記振動板(21)に設けられたボイスコイル(VC)とを備え、
前記第1、第2の磁気回路群(11、12)は、各々の磁気回路(MC1、MC2)が縦横に1/2ピッチずつずらして対向配置され、
前記ボイスコイル(VC)は、前記第1、第2の磁気回路群(11、12)における近接して対向配置された磁気ギャップ(MG1、MG2)の隣接した90度分または180度分に相当する扇形領域の外周の円弧を、交叉させることなく連続的に一筆書きで繋ぐ線に沿って形成されることを特徴とする全面駆動型スピーカ。
【請求項2】
前記磁気ギャップ(MG1、MG2)の中央部(AX1、AX2)までの半径をRとしたとき、磁気回路(MC1、MC2)の縦横の間隔(ΔL)はそれぞれ、2.4R〜3.2Rであることを特徴とする請求項1記載の全面駆動型スピーカ。
【請求項3】
前記磁気ギャップ(MG1、MG2)の180度分に相当する扇形領域は、前記ボイスコイル(VC)のコーナー部であることを特徴とする請求項2記載の全面駆動型スピーカ。
【請求項4】
前記第1の磁気回路群(11)の下面における前記磁気回路(MC1)の極性と、前記第2の磁気回路群(12)の上面における前記磁気回路(MC2)の極性が異なることを特徴とする請求項1記載の全面駆動型スピーカ。
【請求項5】
前記各磁気回路(MC1、MC2)に隣接して、前記第2、第1の磁気回路群(12、11)の対向する位置の磁気回路(MC2、MC1)に対応して設けられ、前記振動板(21)の振動によって発生する音圧を前記各磁気回路(MC1、MC2)の反対側の空間に放射させる開口部(20、16)を更に備えることを特徴とする請求項1記載の全面駆動型スピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−239055(P2012−239055A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107068(P2011−107068)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【特許番号】特許第5042376号(P5042376)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000112565)フォスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】