内燃機関のノック判定装置
【課題】ノックが発生したか否かを精度よく判定する
【解決手段】振動波形の強度の対数値ならびに予め定められるノック波形モデルの強度の対数値の差を算出することにより、あるいは振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差にノック波形モデルの強度の逆数を乗じることにより、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出する。強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差に基づいて、ノックが発生したか否かを判定する。
【解決手段】振動波形の強度の対数値ならびに予め定められるノック波形モデルの強度の対数値の差を算出することにより、あるいは振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差にノック波形モデルの強度の逆数を乗じることにより、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出する。強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差に基づいて、ノックが発生したか否かを判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のノック判定装置に関し、特に、内燃機関の振動の強度を予め定められた基準と比較した結果に基づいてノックが発生したかを判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関においてノックが発生することが知られている。ノックが発生したか否かは、一般的にはノックセンサにより検出される振動の強度に基づいて判定される。たとえば、振動の強度がしきい値よりも大きい場合にノックが発生したと判定される。
【0003】
しかしながら、ノックセンサにより検出される振動には、ノックに起因する振動以外のノイズが含まれ得る。たとえば、吸気バルブもしくは排気バルブが閉じる際に発生する振動がノイズとしてノックセンサにより検出される。ノイズの強度はノックに起因する振動の強度と同程度に大きい場合がある。したがって、ノックが発生していないにもかかわらず、ノックが発生したと誤判定し得る。
【0004】
そこで、振動の強度に加えて、振動の減衰率なども考慮してノックが発生したか否かを判定するために、予め定められた区間における振動の波形を、振動の基準として定められたノック波形モデルと比較した結果に基づいてノックが発生したか否かを判定する技術が提案されている。
【0005】
特開2006−177259号公報(特許文献1)は、内燃機関のクランク角を検出するためのクランク角検出部と、クランク角についての予め定められた間隔における内燃機関の振動の波形を検出するための波形検出部と、内燃機関の振動の波形を予め記憶するための記憶部と、検出された波形と記憶された波形とを複数のタイミングで比較した結果に基づいて、内燃機関にノッキング(ノック)が発生したか否かを判定するための判定部とを含む、内燃機関のノッキング判定装置を開示する。
【0006】
この公報に記載のノッキング判定装置によれば、たとえば実験などにより、ノックが発生した場合の振動の波形であるノック波形モデルを予め作成して記憶しておき、このノック波形モデルと検出された波形とを複数のタイミングで比較して、ノックが発生したか否かが判定される。これにより、クランク角についての予め定められた間隔において複数のタイミングで振動が発生した場合に、各タイミングでの振動がノックに起因した振動であるか否かを詳細に分析することができる。そのため、精度よくノックが発生したか否かを判定することができる。
【特許文献1】特開2006−177259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2006−177259号公報に記載のノッキング判定装置のように内燃機関の振動の波形とノック波形モデルとを比較しても、ノックに起因する振動とノイズとを区別し難い場合がある。たとえば、内燃機関の出力軸回転数が大きい場合、ノイズが発生する時間が一定であってもクランク角が早く大きくなる。そのため、ノイズが検出されるクランク角が比較的長くなる。したがって、ノイズの減衰率が小さくなる。そのため、減衰率が比較的小さいノックに起因する振動の強度と、ノイズの強度との差が小さくなる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し難くなる。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ノックが発生したか否かを精度よく判定することができる内燃機関のノック判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る内燃機関のノック判定装置は、内燃機関の振動の強度を検出するための手段と、内燃機関の振動の強度に基づいて、クランク角についての予め定められた区間における振動の波形を検出するための手段と、検出された波形の強度と、内燃機関の振動の波形の基準として予め定められる波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための算出手段と、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差に応じてノックが発生したか否かを判定するための判定手段とを備える。
【0010】
この構成によると、内燃機関の振動の強度に基づいて、クランク角についての予め定められた区間における振動の波形が検出される。内燃機関の振動の波形の基準として、波形モデルが定められる。ノイズの強度の減衰率が小さくなった状態でも、強度が小さい部分では検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が生じ易い。そのため、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出される。これにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を強調することができる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。検出された波形の強度と波形モデルの強度との差に応じてノックが発生したか否かが判定される。そのため、ノックが発生したか否かを精度よく判定することができる内燃機関のノック判定装置を提供することができる。
【0011】
第2の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1の発明の構成に加え、算出手段は、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数以上である場合に、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む。ノック判定装置は、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数よりも小さい場合に、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、重みを付けずに算出するための手段をさらに備える。
【0012】
この構成によると、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数以上である場合には、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出される。これにより、ノイズの強度の減衰率が小さくなり得る運転状態において、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を強調することができる。そのため、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。一方、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数よりも小さい場合には、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が重みを付けずに算出される。これにより、ノイズの強度が速やかに減衰する運転状態では、不必要な演算を省略することができる。
【0013】
第3の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1または2の発明の構成に加え、算出手段は、検出された波形の強度の対数値と波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む。
【0014】
この構成によると、検出された波形の強度の対数値と波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出することができる。
【0015】
第4の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1または2の発明の構成に加え、算出手段は、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差に波形モデルの強度の逆数を乗算することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む。
【0016】
この構成によると、検出された波形の強度と波形モデルの強度の差に波形モデルの強度の逆数を乗算することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出することができる。
【0017】
第5の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加え、判定手段は、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値よりも小さい場合にノックが発生したと判定するための手段と、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値以上である場合にノックが発生していないと判定するための手段とを含む。
【0018】
この構成によると、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値よりも小さい場合にノックが発生したと判定される。検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値以上である場合にノックが発生していないと判定される。これにより、検出された波形が波形モデルから乖離する度合いに基づいてノックが発生したか否かを制度よく判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るノック判定装置を搭載した車両のエンジン100について説明する。このエンジン100には複数の気筒が設けられる。本実施の形態に係るノック判定装置は、たとえばエンジンECU(Electronic Control Unit)200が実行するプログラムにより実現される。なお、ECU200により実行されるプログラムをCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記録して市場に流通させてもよい。
【0021】
エンジン100は、エアクリーナ102から吸入された空気とインジェクタ104から噴射される燃料との混合気を、燃焼室内で点火プラグ106により点火して燃焼させる内燃機関である。点火時期は、出力トルクが最大になるMBT(Minimum advance for Best Torque)になるように制御されるが、ノックが発生した場合など、エンジン100の運転状態に応じて遅角されたり、進角されたりする。
【0022】
混合気が燃焼すると、燃焼圧によりピストン108が押し下げられ、クランクシャフト110が回転する。燃焼後の混合気(排気ガス)は、三元触媒112により浄化された後、車外に排出される。エンジン100に吸入される空気の量は、スロットルバルブ114により調整される。気筒の頭頂部には、吸気バルブ116および排気バルブ118が設けられる。
【0023】
エンジン100は、エンジンECU200により制御される。エンジンECU200には、ノックセンサ300と、水温センサ302と、タイミングロータ304に対向して設けられたクランクポジションセンサ306と、スロットル開度センサ308と、車速センサ310と、イグニッションスイッチ312と、エアフローメータ314とが接続されている。
【0024】
ノックセンサ300は、エンジン100のシリンダブロックに設けられる。ノックセンサ300は、圧電素子により構成されている。ノックセンサ300は、エンジン100の振動により電圧を発生する。電圧の大きさは、振動の大きさと対応した大きさとなる。ノックセンサ300は、電圧を表わす信号をエンジンECU200に送信する。水温センサ302は、エンジン100のウォータージャケット内の冷却水の温度を検出し、検出結果を表わす信号を、エンジンECU200に送信する。
【0025】
タイミングロータ304は、クランクシャフト110に設けられており、クランクシャフト110と共に回転する。タイミングロータ304の外周には、予め定められた間隔で複数の突起が設けられている。クランクポジションセンサ306は、タイミングロータ304の突起に対向して設けられている。タイミングロータ304が回転すると、タイミングロータ304の突起と、クランクポジションセンサ306とのエアギャップが変化するため、クランクポジションセンサ306のコイル部を通過する磁束が増減し、コイル部に起電力が発生する。クランクポジションセンサ306は、起電力を表わす信号を、エンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角およびクランクシャフト110の回転数を検出する。
【0026】
スロットル開度センサ308は、スロットル開度を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。車速センサ310は、車輪(図示せず)の回転数を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、車輪の回転数から、車速を算出する。イグニッションスイッチ312は、エンジン100を始動させる際に、運転者によりオン操作される。エアフローメータ314は、エンジン100に吸入される空気量を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。
【0027】
エンジンECU200は、電源である補機バッテリ320から供給された電力により作動する。エンジンECU200は、各センサおよびイグニッションスイッチ312から送信された信号、ROM(Read Only Memory)202に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて演算処理を行ない、エンジン100が所望の運転状態となるように、機器類を制御する。
【0028】
本実施の形態において、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号およびクランク角に基づいて、予め定められたノック検出ゲート(予め定められた第1クランク角から予め定められた第2クランク角までの区間)におけるエンジン100の振動の波形(以下、振動波形と記載する)を検出し、検出された振動波形に基づいて、エンジン100にノックが発生したか否かを判定する。本実施の形態におけるノック検出ゲートは、燃焼行程において上死点(0度)から90度までである。なお、ノック検出ゲートはこれに限らない。
【0029】
ノックが発生した場合、エンジン100には、図2において実線で示す周波数付近の周波数の振動が発生する。ノックに起因して発生する振動の周波数は一定ではなく、所定の帯域幅を有する。そのため、本実施の形態においては、図2に示すように、第1の周波数帯A、第2の周波数帯Bおよび第3の周波数帯Cを含む第4の周波数帯Dの振動を検出する。なお、図2におけるCAは、クランク角(Crank Angle)を示す。なお、ノックに起因して発生する振動の周波数帯は3つに限られない。
【0030】
図3を参照して、エンジンECU200についてさらに説明する。エンジンECU200は、A/D(アナログ/デジタル)変換部400と、バンドパスフィルタ410と、積算部420とを含む。
【0031】
A/D変換部400は、ノックセンサ300から送信されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。バンドパスフィルタ410は、ノックセンサ300から送信された信号のうち、第4の周波数帯Dの信号のみを通過させる。すなわち、バンドパスフィルタ410により、ノックセンサ300が検出した振動から、第4の周波数帯Dの振動のみが抽出される。
【0032】
積算部420は、バンドパスフィルタ410により選別された信号、すなわち振動の強度を、クランク角度で5度分づつ積算した積算値(以下、5度積算値とも記載する)を算出する。これにより、図4に示すように、周波数帯Dの振動波形が検出される。
【0033】
検出された振動波形は、図5に示すノック波形モデルと比較される。ノック波形モデルは、エンジン100にノックが発生した場合の振動波形のモデルとして作成される。ノック波形モデルは、たとえばROM202に記憶される。
【0034】
ノック波形モデルにおいて、振動の強度は0〜1の無次元数として表され、振動の強度はクランク角と一義的には対応していない。すなわち、本実施の形態のノック波形モデルにおいては、振動の強度のピーク値以降、クランク角が大きくなるにつれ振動の強度が低減することが定められているが、振動の強度がピーク値となるクランク角は定められていない。
【0035】
本実施の形態におけるノック波形モデルは、ノックにより発生した振動の強度のピーク値以降の振動に対応している。なお、ノックに起因した振動の立ち上がり以降の振動に対応したノック波形モデルを記憶してもよい。
【0036】
ノック波形モデルは、たとえば実験などにより、強制的にノックを発生させた場合におけるエンジン100の振動波形を検出し、この振動波形に基づいて予め作成されて記憶される。
【0037】
ノック波形モデルは、エンジン100の寸法やノックセンサ300の出力値が、寸法公差やノックセンサ300の出力値の公差の中央値であるエンジン100(以下、特性中央エンジンと記載する)を用いて作成される。すなわち、ノック波形モデルは、特性中央エンジンに強制的にノックを発生させた場合における振動波形である。なお、ノック波形モデルを作成する方法は、これに限られず、その他、シミュレーションにより作成してもよい。
【0038】
ノックに起因する振動は緩やかに減衰するという特徴を有することが実験などの結果から判明しているため、ノック波形モデルの減衰率は比較的小さく設定される。一方、吸気バルブ116もしくは排気バルブ118が閉じる際などに発生する振動、すなわちノイズの減衰率は比較的大きいことが実験などの結果から判明している。
【0039】
検出された振動波形とノック波形モデルとの比較においては、図6に示すように、正規化された波形とノック波形モデルとが比較される。ここで、正規化とは、たとえば、検出された振動波形における5度積算値の最大値で各5度積算値を除算することにより、振動の強度を0〜1の無次元数で表わすことである。なお、正規化の方法はこれに限らない。
【0040】
本実施の形態において、エンジンECU200は、正規化された振動波形とノック波形モデルとの差に関する値である相関係数Kを算出する。正規化後の振動波形において振動の強度が最大になるタイミングとノック波形モデルにおいて振動の強度が最大になるタイミングとを一致させた状態で、正規化後の振動波形とノック波形モデルとの差の絶対値(ズレ量)をクランク角ごと(5度ごと)に算出することにより、相関係数Kが算出される。
【0041】
相関係数Kの算出方法は、エンジン回転数NEがしきい値NE1より小さい場合とエンジン回転数NEがしきい値NE1以上である場合とで異なる。
【0042】
エンジン回転数NEがしきい値NE1より小さい場合、正規化された振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度とのクランク角毎の差をそのまま用いて相関係数Kが算出される。
【0043】
振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度とのクランク角毎の差の絶対値をΔS(I)(Iは自然数)とおく。図7において斜線で示すように、ノック波形モデルの振動の強度を合計した値、すなわち、ノック波形モデルの面積をSとおく。相関係数Kは、下記の式1を用いて算出される。
【0044】
K=(S−ΣΔS(I))/S・・・(1)
ΣΔS(I)は、ΔS(I)の総和である。
【0045】
エンジン回転数NEがしきい値NE1以上である場合、正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出される。より具体的には、図8に示すように、正規化後の振動波形の強度の対数値ならびにノック波形モデルの強度の対数値の差を用いて相関係数Kが算出される。すなわち、正規化後の振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値とのクランク角毎の差の絶対値がΔS(I)として算出され、式1に従って相関係数Kが算出される。
【0046】
なお、エンジン回転数NEがしきい値NE1以上である場合に相関係数Kを算出するために用いられるノック波形モデルの面積Sは、エンジン回転数NEがしきい値NE1より小さい場合に用いられるノック波形モデルの面積Sと同じである。相関係数Kの算出方法はこれらに限らない。
【0047】
図9に示すように、変数Xの対数値Yの変化率は、変数Xが小さくなるほどより大きくなる。したがって、振動波形における強度の対数値とノック波形モデルにおける強度の対数値と差を算出することにより、強度が小さくなるほど、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差をより強調することができる。
【0048】
なお、振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値との差を算出する代わりに、正規化された振動波形の強度とノック波形モデルの強度とのクランク角毎の差に、各クランク角におけるノック波形モデルの強度の逆数を各クランク角において乗じることにより、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差に重みを付けるようにしてもよい。このようにしても、強度が小さくなるほど、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差をより強調することができる。
【0049】
本実施の形態において、相関係数Kは、振動波形の形状がノック波形モデルの形状に近いほど、大きな値として算出される。したがって、振動波形にノック以外の要因による振動の波形が含まれた場合、相関係数Kは小さく算出される。なお、相関係数Kの算出方法はこれに限らない。
【0050】
本実施の形態においては、相関係数Kの他、ノック強度Nが算出される。ノック強度Nは、図10において斜線で示すように、振動波形における強度(5度積算値)を合計した90度積算値lpkknkを用いて算出される。なお、90度積算値lpkknkの代わりに、振動波形における最大の強度を用いるようにしてもよい。
【0051】
エンジン100にノックが発生していない状態におけるエンジン100の振動の強度を表わす値をBGL(Back Ground Level)と表わす。ノック強度Nは、下記の式2を用いて算出される。
【0052】
N=lpkknk/BGL・・・(2)
なお、ノック強度Nの算出方法はこれに限らない。BGLは、図11に示すように、各90度積算値lpkknkが検出された頻度(回数、確率ともいう)を表わす頻度分布において、標準偏差σと係数(たとえば「1」)との積を、中央値VMEDから減算した値として算出される。
【0053】
なお、頻度分布を作成する際、90度積算値lpkknkの対数値が用いられる。また、ノック強度Nを算出する際、BGLは逆対数変換される。BGLの算出方法はこれに限らず、BGLをROM202に記憶しておくようにしてもよい。
【0054】
本実施の形態においては、振動波形の形状に基づいて算出される相関係数Kおよび振動波形の強度に基づいて算出されるノック強度Nを用いて、ノックが発生したか否かが1点火毎に判定される。ノックが発生したか否かは気筒毎に判定される。
【0055】
相関係数Kがしきい値K1より大きく、かつノック強度Nが判定値VJより大きいと、ノックが発生したと判定される。もしそうでないと、ノックが発生していないと判定される。
【0056】
ここで、前述の式1で記載した通り、K=(S−ΣΔS(I))/Sである。したがって、相関係数Kがしきい値K1より大きい状態を、下記の式3を用いて表わすことができる。
【0057】
(S−ΣΔS(I))/S>K1・・・(3)
さらに、式3は下記の式4に変形することができる。なお、ノック波形モデルの面積Sは正値である。
【0058】
S−ΣΔS(I)>K1×S=・・・(4)
さらに、式4は下記の式5に変形することができる。
【0059】
ΣΔS(I)<S−K1×S・・・(5)
したがって、相関係数Kがしきい値K1より大きい場合、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度との差ΣΔS(I)が「S−K1×S」よりも小さい。すなわち、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度との差ΣΔS(I)が「S−K1×S」よりも小さい場合にノックが発生したと判定される。
【0060】
ノックが発生したと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が遅角される。ノックが発生していないと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が進角される。
【0061】
図12を参照して、エンジンECU200の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はソフトウェアにより実現するようにしてもよく、ハードウェアにより実現するようにしてもよい。
【0062】
エンジンECU200は、クランク角検出部600と、強度検出部602と、波形検出部604と、相関係数算出部606と、90度積算値算出部608と、算出部610と、判定部612と、点火時期制御部614とを備える。
【0063】
クランク角検出部600は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角を検出する。
【0064】
強度検出部602は、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、ノック検出ゲートにおける振動の強度を検出する。振動の強度は、クランク角に対応させて検出される。また、振動の強度は、ノックセンサ300の出力電圧値で表される。なお、ノックセンサ300の出力電圧値と対応した値で振動の強度を表してもよい。
【0065】
波形検出部604は、振動の強度をクランク角で5度分づつ積算することにより、ノック検出ゲートにおける振動波形を検出する。
【0066】
相関係数算出部606は、振動波形がノック波形モデルに類似する度合を表わす(振動波形の形状とノック波形モデルの形状との差を表わす)相関係数Kを算出する。
【0067】
90度積算値算出部608は、振動波形における強度(5度積算値)を合計した90度積算値lpkknkを算出する。
【0068】
算出部610は、90度積算値lpkknkを用いて、ノック強度Nを算出する。判定部612は、相関係数Kおよびノック強度Nを用いて、ノックが発生したか否かを1点火毎に判定する。相関係数Kがしきい値K1より大きく、かつノック強度Nが判定値VJより大きいと、ノックが発生したと判定される。もしそうでないと、ノックが発生していないと判定される。
【0069】
点火時期制御部614は、ノックが発生したか否かに応じて点火時期を制御する。ノックが発生したと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が遅角される。ノックが発生していないと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が進角される。
【0070】
図13を参照して、エンジンECU200が実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0071】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、エンジンECU200は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角を検出する。S102にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、クランク角に対応させて、エンジン100の振動の強度を検出する。
【0072】
S104にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300の出力電圧値(振動の強度を表わす値)を、クランク角で5度ごとに(5度分だけ)積算した5度積算値を算出することにより、エンジン100の振動波形を検出する。
【0073】
S106にて、エンジンECU200は、振動波形における5度積算値のうち、最も大きい5度積算値(ピーク値)を特定する。
【0074】
S108にて、エンジンECU200は、エンジン100の振動波形を正規化する。ここで、正規化とは、特定されたピーク値で各5度積算値を除算することにより、振動の強度を0〜1の無次元数で表わすことをいう。
【0075】
S110にて、エンジンECU200は、エンジン回転数NEがしきいNE1以上であるか否かを判定する。エンジン回転数NEがしきい値NE1以上であると(S110にてYES)、処理はS120に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS124に移される。
【0076】
S120にて、エンジンECU200は、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて、正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を算出する。すなわち、正規化後の振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値との差が算出される。
【0077】
S122にて、エンジンECU200は、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度と差を用いて相関係数Kを算出する。
【0078】
S124にて、エンジンECU200は、重みを付けずに、正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を算出する。S126にて、エンジンECU200は、重みを付けずに算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を用いて相関係数Kを算出する。
【0079】
S128にて、エンジンECU200は、相関係数Kがしきい値K1より大きいか否かを判定する。相関係数Kがしきい値K1より大きいと(S128にてYES)、処理はS130に移される。もしそうでないと(S128にてNO)、処理はS146に移される。
【0080】
S130にて、エンジンECU200は、90度積算値lpkknkを算出する。S132にて、エンジンECU200は、ノック強度Nを算出する。
【0081】
S140にて、エンジンECU200は、ノック強度Nが判定値VJより大きい否かを判定する。ノック強度Nが判定値VJより大きいと(S140にてYES)、処理はS142に移される。もしそうでないと(S140にてNO)、処理はS146に移される。
【0082】
S142にて、エンジンECU200は、エンジン100にノックが発生したと判定する。S144にて、エンジンECU200は、点火時期を遅角する。S146にて、エンジンECU200は、エンジン100にノックが発生していないと判定する。S148にて、エンジンECU200は、点火時期を進角する。
【0083】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態におけるエンジンECU200の動作について説明する。
【0084】
エンジン100の運転中、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角が検出される(S100)。ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、クランク角に対応させて、エンジン100の振動の強度が検出される(S102)。ノックセンサ300の出力電圧値をクランク角で5度ごとに積算した5度積算値を算出することにより、エンジン100の振動波形が検出される(S104)。
【0085】
振動波形における5度積算値のうち、最も大きい積算値(ピーク値)が特定され(S106)、特定されたピーク値で各5度積算値を除算することにより、振動波形が正規化される(S108)。
【0086】
エンジン回転数NEが高い場合、クランク角が早く大きくなる。言い換えると、振動が発生する時間は一定であっても、振動が検出されるクランク角が長くなる。そのため、検出される振動波形の減衰率はクランク角に関して小さくなる。すなわち、ノイズが検出された場合でも、ノイズの減衰率が小さくなる。
【0087】
図14に示すように、振動の強度(振幅)が比較的大きいノイズが検出された場合、正規化後のノイズの減衰率が小さくなっても、ノック波形モデルと振動波形とが比較される区間の後半においてノック波形モデルの強度とノイズの強度との差が明確に生じる。そのため、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易い。
【0088】
図15に示すように、振動の強度が比較的小さいノイズが検出された場合、正規化後のノイズの減衰率がさらに小さくなる。そのため、ノック波形モデルの強度とノイズの強度との差が小さくなる。したがって、ノックに起因する振動とノイズとを区別し難い。
【0089】
そこで、エンジン回転数NEがしきいNE1以上であると(S110にてYES)、図16および図17に示すように、振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される(S120)。
【0090】
あるいは、正規化された振動波形の強度とノック波形モデルの強度とのクランク角毎の差に、各クランク角におけるノック波形モデルの強度の逆数を各クランク角において乗じることにより、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される(S120)。
【0091】
これにより、強度が小さくなるほど、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差をより強調することができる。そのため、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差を明確に把握することができる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。なお、図16には、正規化前の強度が比較的大きいノイズが示される。図17には、正規化前の強度が比較的小さいノイズが示される。
【0092】
さらに、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度と差を用いて相関係数Kが算出される(S122)。
【0093】
一方、エンジン回転数NEが低いと、振動の強度が比較的小さいノイズが検出された場合であっても、図18に示すように、ノック波形モデルの減衰率とノイズの減衰率との差は明確に生じる。そのため、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易い。
【0094】
この場合、重みを付けずに正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される(S124)。さらに、重みを付けずに算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を用いて相関係数Kが算出される(S126)。これにより、不必要な処理を省略することができる。
【0095】
相関係数Kがしきい値K1より大きいと(S128にてYES)、検出された振動波形の形状がノックによる波形の形状に類似しているといえる。すなわち、ノッキングが発生した可能性が非常に高いといえる。
【0096】
この場合、90度積算値lpkknkが算出され(S130)、ノック強度Nが算出される(S132)。ノック強度Nが判定値VJより大きいと(S140にてYES)、エンジン100にノックが発生したと判定される(S142)。ノッキングを抑制するために、点火時期が遅角される(S144)。
【0097】
相関係数Kがしきい値K1以下である場合(S128にてNO)、またはノック強度Nが判定値VJ以下である場合(S140にてNO)、エンジン100にノックが発生していないと判定される(S146)。この場合、点火時期が進角される(S148)。
【0098】
以上のように、本実施の形態に係るノック判定装置によれば、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される。これにより、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を強調することができる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度と差に基づいてノックが発生したか否かが判定される。そのため、ノックが発生したか否かを精度よく判定することができる。
【0099】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】エンジンを示す図である。
【図2】ノック時にエンジンで発生する振動の周波数帯を示す図である。
【図3】エンジンECUを示す制御ブロック図である。
【図4】エンジンの振動波形を示す図である。
【図5】ノック波形モデルを示す図である。
【図6】振動波形とノック波形モデルとを比較した図である。
【図7】ノック波形モデルの面積Sを示す図である。
【図8】正規化後の振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値とを比較した図である。
【図9】変数Xに対する対数値Yを示す図である。
【図10】90度積算値lpkknkを示す図である。
【図11】90度積算値lpkknkの頻度分布を示す図である。
【図12】エンジンECUの機能ブロック図である。
【図13】エンジンECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図14】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その1)である。
【図15】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その2)である。
【図16】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その3)である。
【図17】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その4)である。
【図18】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その5)である。
【符号の説明】
【0101】
100 エンジン、102 エアクリーナ、104 インジェクタ、106 点火プラグ、108 ピストン、110 クランクシャフト、112 三元触媒、114 スロットルバルブ、116 吸気バルブ、118 排気バルブ、200 エンジンECU、202 ROM、300 ノックセンサ、302 水温センサ、304 タイミングロータ、306 クランクポジションセンサ、308 スロットル開度センサ、310 車速センサ、312 イグニッションスイッチ、314 エアフローメータ、320 補機バッテリ、400 A/D変換部、410 バンドパスフィルタ、420 積算部、600 クランク角検出部、602 強度検出部、604 波形検出部、606 相関係数算出部、608 90度積算値算出部、610 算出部、612 判定部、614 点火時期制御部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のノック判定装置に関し、特に、内燃機関の振動の強度を予め定められた基準と比較した結果に基づいてノックが発生したかを判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関においてノックが発生することが知られている。ノックが発生したか否かは、一般的にはノックセンサにより検出される振動の強度に基づいて判定される。たとえば、振動の強度がしきい値よりも大きい場合にノックが発生したと判定される。
【0003】
しかしながら、ノックセンサにより検出される振動には、ノックに起因する振動以外のノイズが含まれ得る。たとえば、吸気バルブもしくは排気バルブが閉じる際に発生する振動がノイズとしてノックセンサにより検出される。ノイズの強度はノックに起因する振動の強度と同程度に大きい場合がある。したがって、ノックが発生していないにもかかわらず、ノックが発生したと誤判定し得る。
【0004】
そこで、振動の強度に加えて、振動の減衰率なども考慮してノックが発生したか否かを判定するために、予め定められた区間における振動の波形を、振動の基準として定められたノック波形モデルと比較した結果に基づいてノックが発生したか否かを判定する技術が提案されている。
【0005】
特開2006−177259号公報(特許文献1)は、内燃機関のクランク角を検出するためのクランク角検出部と、クランク角についての予め定められた間隔における内燃機関の振動の波形を検出するための波形検出部と、内燃機関の振動の波形を予め記憶するための記憶部と、検出された波形と記憶された波形とを複数のタイミングで比較した結果に基づいて、内燃機関にノッキング(ノック)が発生したか否かを判定するための判定部とを含む、内燃機関のノッキング判定装置を開示する。
【0006】
この公報に記載のノッキング判定装置によれば、たとえば実験などにより、ノックが発生した場合の振動の波形であるノック波形モデルを予め作成して記憶しておき、このノック波形モデルと検出された波形とを複数のタイミングで比較して、ノックが発生したか否かが判定される。これにより、クランク角についての予め定められた間隔において複数のタイミングで振動が発生した場合に、各タイミングでの振動がノックに起因した振動であるか否かを詳細に分析することができる。そのため、精度よくノックが発生したか否かを判定することができる。
【特許文献1】特開2006−177259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2006−177259号公報に記載のノッキング判定装置のように内燃機関の振動の波形とノック波形モデルとを比較しても、ノックに起因する振動とノイズとを区別し難い場合がある。たとえば、内燃機関の出力軸回転数が大きい場合、ノイズが発生する時間が一定であってもクランク角が早く大きくなる。そのため、ノイズが検出されるクランク角が比較的長くなる。したがって、ノイズの減衰率が小さくなる。そのため、減衰率が比較的小さいノックに起因する振動の強度と、ノイズの強度との差が小さくなる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し難くなる。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ノックが発生したか否かを精度よく判定することができる内燃機関のノック判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る内燃機関のノック判定装置は、内燃機関の振動の強度を検出するための手段と、内燃機関の振動の強度に基づいて、クランク角についての予め定められた区間における振動の波形を検出するための手段と、検出された波形の強度と、内燃機関の振動の波形の基準として予め定められる波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための算出手段と、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差に応じてノックが発生したか否かを判定するための判定手段とを備える。
【0010】
この構成によると、内燃機関の振動の強度に基づいて、クランク角についての予め定められた区間における振動の波形が検出される。内燃機関の振動の波形の基準として、波形モデルが定められる。ノイズの強度の減衰率が小さくなった状態でも、強度が小さい部分では検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が生じ易い。そのため、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出される。これにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を強調することができる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。検出された波形の強度と波形モデルの強度との差に応じてノックが発生したか否かが判定される。そのため、ノックが発生したか否かを精度よく判定することができる内燃機関のノック判定装置を提供することができる。
【0011】
第2の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1の発明の構成に加え、算出手段は、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数以上である場合に、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む。ノック判定装置は、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数よりも小さい場合に、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、重みを付けずに算出するための手段をさらに備える。
【0012】
この構成によると、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数以上である場合には、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出される。これにより、ノイズの強度の減衰率が小さくなり得る運転状態において、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を強調することができる。そのため、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。一方、内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数よりも小さい場合には、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差が重みを付けずに算出される。これにより、ノイズの強度が速やかに減衰する運転状態では、不必要な演算を省略することができる。
【0013】
第3の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1または2の発明の構成に加え、算出手段は、検出された波形の強度の対数値と波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む。
【0014】
この構成によると、検出された波形の強度の対数値と波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出することができる。
【0015】
第4の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1または2の発明の構成に加え、算出手段は、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差に波形モデルの強度の逆数を乗算することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む。
【0016】
この構成によると、検出された波形の強度と波形モデルの強度の差に波形モデルの強度の逆数を乗算することにより、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出することができる。
【0017】
第5の発明に係る内燃機関のノック判定装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加え、判定手段は、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値よりも小さい場合にノックが発生したと判定するための手段と、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値以上である場合にノックが発生していないと判定するための手段とを含む。
【0018】
この構成によると、検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値よりも小さい場合にノックが発生したと判定される。検出された波形の強度と波形モデルの強度との差がしきい値以上である場合にノックが発生していないと判定される。これにより、検出された波形が波形モデルから乖離する度合いに基づいてノックが発生したか否かを制度よく判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るノック判定装置を搭載した車両のエンジン100について説明する。このエンジン100には複数の気筒が設けられる。本実施の形態に係るノック判定装置は、たとえばエンジンECU(Electronic Control Unit)200が実行するプログラムにより実現される。なお、ECU200により実行されるプログラムをCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記録して市場に流通させてもよい。
【0021】
エンジン100は、エアクリーナ102から吸入された空気とインジェクタ104から噴射される燃料との混合気を、燃焼室内で点火プラグ106により点火して燃焼させる内燃機関である。点火時期は、出力トルクが最大になるMBT(Minimum advance for Best Torque)になるように制御されるが、ノックが発生した場合など、エンジン100の運転状態に応じて遅角されたり、進角されたりする。
【0022】
混合気が燃焼すると、燃焼圧によりピストン108が押し下げられ、クランクシャフト110が回転する。燃焼後の混合気(排気ガス)は、三元触媒112により浄化された後、車外に排出される。エンジン100に吸入される空気の量は、スロットルバルブ114により調整される。気筒の頭頂部には、吸気バルブ116および排気バルブ118が設けられる。
【0023】
エンジン100は、エンジンECU200により制御される。エンジンECU200には、ノックセンサ300と、水温センサ302と、タイミングロータ304に対向して設けられたクランクポジションセンサ306と、スロットル開度センサ308と、車速センサ310と、イグニッションスイッチ312と、エアフローメータ314とが接続されている。
【0024】
ノックセンサ300は、エンジン100のシリンダブロックに設けられる。ノックセンサ300は、圧電素子により構成されている。ノックセンサ300は、エンジン100の振動により電圧を発生する。電圧の大きさは、振動の大きさと対応した大きさとなる。ノックセンサ300は、電圧を表わす信号をエンジンECU200に送信する。水温センサ302は、エンジン100のウォータージャケット内の冷却水の温度を検出し、検出結果を表わす信号を、エンジンECU200に送信する。
【0025】
タイミングロータ304は、クランクシャフト110に設けられており、クランクシャフト110と共に回転する。タイミングロータ304の外周には、予め定められた間隔で複数の突起が設けられている。クランクポジションセンサ306は、タイミングロータ304の突起に対向して設けられている。タイミングロータ304が回転すると、タイミングロータ304の突起と、クランクポジションセンサ306とのエアギャップが変化するため、クランクポジションセンサ306のコイル部を通過する磁束が増減し、コイル部に起電力が発生する。クランクポジションセンサ306は、起電力を表わす信号を、エンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角およびクランクシャフト110の回転数を検出する。
【0026】
スロットル開度センサ308は、スロットル開度を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。車速センサ310は、車輪(図示せず)の回転数を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、車輪の回転数から、車速を算出する。イグニッションスイッチ312は、エンジン100を始動させる際に、運転者によりオン操作される。エアフローメータ314は、エンジン100に吸入される空気量を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。
【0027】
エンジンECU200は、電源である補機バッテリ320から供給された電力により作動する。エンジンECU200は、各センサおよびイグニッションスイッチ312から送信された信号、ROM(Read Only Memory)202に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて演算処理を行ない、エンジン100が所望の運転状態となるように、機器類を制御する。
【0028】
本実施の形態において、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号およびクランク角に基づいて、予め定められたノック検出ゲート(予め定められた第1クランク角から予め定められた第2クランク角までの区間)におけるエンジン100の振動の波形(以下、振動波形と記載する)を検出し、検出された振動波形に基づいて、エンジン100にノックが発生したか否かを判定する。本実施の形態におけるノック検出ゲートは、燃焼行程において上死点(0度)から90度までである。なお、ノック検出ゲートはこれに限らない。
【0029】
ノックが発生した場合、エンジン100には、図2において実線で示す周波数付近の周波数の振動が発生する。ノックに起因して発生する振動の周波数は一定ではなく、所定の帯域幅を有する。そのため、本実施の形態においては、図2に示すように、第1の周波数帯A、第2の周波数帯Bおよび第3の周波数帯Cを含む第4の周波数帯Dの振動を検出する。なお、図2におけるCAは、クランク角(Crank Angle)を示す。なお、ノックに起因して発生する振動の周波数帯は3つに限られない。
【0030】
図3を参照して、エンジンECU200についてさらに説明する。エンジンECU200は、A/D(アナログ/デジタル)変換部400と、バンドパスフィルタ410と、積算部420とを含む。
【0031】
A/D変換部400は、ノックセンサ300から送信されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。バンドパスフィルタ410は、ノックセンサ300から送信された信号のうち、第4の周波数帯Dの信号のみを通過させる。すなわち、バンドパスフィルタ410により、ノックセンサ300が検出した振動から、第4の周波数帯Dの振動のみが抽出される。
【0032】
積算部420は、バンドパスフィルタ410により選別された信号、すなわち振動の強度を、クランク角度で5度分づつ積算した積算値(以下、5度積算値とも記載する)を算出する。これにより、図4に示すように、周波数帯Dの振動波形が検出される。
【0033】
検出された振動波形は、図5に示すノック波形モデルと比較される。ノック波形モデルは、エンジン100にノックが発生した場合の振動波形のモデルとして作成される。ノック波形モデルは、たとえばROM202に記憶される。
【0034】
ノック波形モデルにおいて、振動の強度は0〜1の無次元数として表され、振動の強度はクランク角と一義的には対応していない。すなわち、本実施の形態のノック波形モデルにおいては、振動の強度のピーク値以降、クランク角が大きくなるにつれ振動の強度が低減することが定められているが、振動の強度がピーク値となるクランク角は定められていない。
【0035】
本実施の形態におけるノック波形モデルは、ノックにより発生した振動の強度のピーク値以降の振動に対応している。なお、ノックに起因した振動の立ち上がり以降の振動に対応したノック波形モデルを記憶してもよい。
【0036】
ノック波形モデルは、たとえば実験などにより、強制的にノックを発生させた場合におけるエンジン100の振動波形を検出し、この振動波形に基づいて予め作成されて記憶される。
【0037】
ノック波形モデルは、エンジン100の寸法やノックセンサ300の出力値が、寸法公差やノックセンサ300の出力値の公差の中央値であるエンジン100(以下、特性中央エンジンと記載する)を用いて作成される。すなわち、ノック波形モデルは、特性中央エンジンに強制的にノックを発生させた場合における振動波形である。なお、ノック波形モデルを作成する方法は、これに限られず、その他、シミュレーションにより作成してもよい。
【0038】
ノックに起因する振動は緩やかに減衰するという特徴を有することが実験などの結果から判明しているため、ノック波形モデルの減衰率は比較的小さく設定される。一方、吸気バルブ116もしくは排気バルブ118が閉じる際などに発生する振動、すなわちノイズの減衰率は比較的大きいことが実験などの結果から判明している。
【0039】
検出された振動波形とノック波形モデルとの比較においては、図6に示すように、正規化された波形とノック波形モデルとが比較される。ここで、正規化とは、たとえば、検出された振動波形における5度積算値の最大値で各5度積算値を除算することにより、振動の強度を0〜1の無次元数で表わすことである。なお、正規化の方法はこれに限らない。
【0040】
本実施の形態において、エンジンECU200は、正規化された振動波形とノック波形モデルとの差に関する値である相関係数Kを算出する。正規化後の振動波形において振動の強度が最大になるタイミングとノック波形モデルにおいて振動の強度が最大になるタイミングとを一致させた状態で、正規化後の振動波形とノック波形モデルとの差の絶対値(ズレ量)をクランク角ごと(5度ごと)に算出することにより、相関係数Kが算出される。
【0041】
相関係数Kの算出方法は、エンジン回転数NEがしきい値NE1より小さい場合とエンジン回転数NEがしきい値NE1以上である場合とで異なる。
【0042】
エンジン回転数NEがしきい値NE1より小さい場合、正規化された振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度とのクランク角毎の差をそのまま用いて相関係数Kが算出される。
【0043】
振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度とのクランク角毎の差の絶対値をΔS(I)(Iは自然数)とおく。図7において斜線で示すように、ノック波形モデルの振動の強度を合計した値、すなわち、ノック波形モデルの面積をSとおく。相関係数Kは、下記の式1を用いて算出される。
【0044】
K=(S−ΣΔS(I))/S・・・(1)
ΣΔS(I)は、ΔS(I)の総和である。
【0045】
エンジン回転数NEがしきい値NE1以上である場合、正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出される。より具体的には、図8に示すように、正規化後の振動波形の強度の対数値ならびにノック波形モデルの強度の対数値の差を用いて相関係数Kが算出される。すなわち、正規化後の振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値とのクランク角毎の差の絶対値がΔS(I)として算出され、式1に従って相関係数Kが算出される。
【0046】
なお、エンジン回転数NEがしきい値NE1以上である場合に相関係数Kを算出するために用いられるノック波形モデルの面積Sは、エンジン回転数NEがしきい値NE1より小さい場合に用いられるノック波形モデルの面積Sと同じである。相関係数Kの算出方法はこれらに限らない。
【0047】
図9に示すように、変数Xの対数値Yの変化率は、変数Xが小さくなるほどより大きくなる。したがって、振動波形における強度の対数値とノック波形モデルにおける強度の対数値と差を算出することにより、強度が小さくなるほど、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差をより強調することができる。
【0048】
なお、振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値との差を算出する代わりに、正規化された振動波形の強度とノック波形モデルの強度とのクランク角毎の差に、各クランク角におけるノック波形モデルの強度の逆数を各クランク角において乗じることにより、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差に重みを付けるようにしてもよい。このようにしても、強度が小さくなるほど、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差をより強調することができる。
【0049】
本実施の形態において、相関係数Kは、振動波形の形状がノック波形モデルの形状に近いほど、大きな値として算出される。したがって、振動波形にノック以外の要因による振動の波形が含まれた場合、相関係数Kは小さく算出される。なお、相関係数Kの算出方法はこれに限らない。
【0050】
本実施の形態においては、相関係数Kの他、ノック強度Nが算出される。ノック強度Nは、図10において斜線で示すように、振動波形における強度(5度積算値)を合計した90度積算値lpkknkを用いて算出される。なお、90度積算値lpkknkの代わりに、振動波形における最大の強度を用いるようにしてもよい。
【0051】
エンジン100にノックが発生していない状態におけるエンジン100の振動の強度を表わす値をBGL(Back Ground Level)と表わす。ノック強度Nは、下記の式2を用いて算出される。
【0052】
N=lpkknk/BGL・・・(2)
なお、ノック強度Nの算出方法はこれに限らない。BGLは、図11に示すように、各90度積算値lpkknkが検出された頻度(回数、確率ともいう)を表わす頻度分布において、標準偏差σと係数(たとえば「1」)との積を、中央値VMEDから減算した値として算出される。
【0053】
なお、頻度分布を作成する際、90度積算値lpkknkの対数値が用いられる。また、ノック強度Nを算出する際、BGLは逆対数変換される。BGLの算出方法はこれに限らず、BGLをROM202に記憶しておくようにしてもよい。
【0054】
本実施の形態においては、振動波形の形状に基づいて算出される相関係数Kおよび振動波形の強度に基づいて算出されるノック強度Nを用いて、ノックが発生したか否かが1点火毎に判定される。ノックが発生したか否かは気筒毎に判定される。
【0055】
相関係数Kがしきい値K1より大きく、かつノック強度Nが判定値VJより大きいと、ノックが発生したと判定される。もしそうでないと、ノックが発生していないと判定される。
【0056】
ここで、前述の式1で記載した通り、K=(S−ΣΔS(I))/Sである。したがって、相関係数Kがしきい値K1より大きい状態を、下記の式3を用いて表わすことができる。
【0057】
(S−ΣΔS(I))/S>K1・・・(3)
さらに、式3は下記の式4に変形することができる。なお、ノック波形モデルの面積Sは正値である。
【0058】
S−ΣΔS(I)>K1×S=・・・(4)
さらに、式4は下記の式5に変形することができる。
【0059】
ΣΔS(I)<S−K1×S・・・(5)
したがって、相関係数Kがしきい値K1より大きい場合、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度との差ΣΔS(I)が「S−K1×S」よりも小さい。すなわち、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度との差ΣΔS(I)が「S−K1×S」よりも小さい場合にノックが発生したと判定される。
【0060】
ノックが発生したと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が遅角される。ノックが発生していないと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が進角される。
【0061】
図12を参照して、エンジンECU200の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はソフトウェアにより実現するようにしてもよく、ハードウェアにより実現するようにしてもよい。
【0062】
エンジンECU200は、クランク角検出部600と、強度検出部602と、波形検出部604と、相関係数算出部606と、90度積算値算出部608と、算出部610と、判定部612と、点火時期制御部614とを備える。
【0063】
クランク角検出部600は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角を検出する。
【0064】
強度検出部602は、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、ノック検出ゲートにおける振動の強度を検出する。振動の強度は、クランク角に対応させて検出される。また、振動の強度は、ノックセンサ300の出力電圧値で表される。なお、ノックセンサ300の出力電圧値と対応した値で振動の強度を表してもよい。
【0065】
波形検出部604は、振動の強度をクランク角で5度分づつ積算することにより、ノック検出ゲートにおける振動波形を検出する。
【0066】
相関係数算出部606は、振動波形がノック波形モデルに類似する度合を表わす(振動波形の形状とノック波形モデルの形状との差を表わす)相関係数Kを算出する。
【0067】
90度積算値算出部608は、振動波形における強度(5度積算値)を合計した90度積算値lpkknkを算出する。
【0068】
算出部610は、90度積算値lpkknkを用いて、ノック強度Nを算出する。判定部612は、相関係数Kおよびノック強度Nを用いて、ノックが発生したか否かを1点火毎に判定する。相関係数Kがしきい値K1より大きく、かつノック強度Nが判定値VJより大きいと、ノックが発生したと判定される。もしそうでないと、ノックが発生していないと判定される。
【0069】
点火時期制御部614は、ノックが発生したか否かに応じて点火時期を制御する。ノックが発生したと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が遅角される。ノックが発生していないと判定された場合、予め定められた量だけ点火時期が進角される。
【0070】
図13を参照して、エンジンECU200が実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0071】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、エンジンECU200は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角を検出する。S102にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、クランク角に対応させて、エンジン100の振動の強度を検出する。
【0072】
S104にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300の出力電圧値(振動の強度を表わす値)を、クランク角で5度ごとに(5度分だけ)積算した5度積算値を算出することにより、エンジン100の振動波形を検出する。
【0073】
S106にて、エンジンECU200は、振動波形における5度積算値のうち、最も大きい5度積算値(ピーク値)を特定する。
【0074】
S108にて、エンジンECU200は、エンジン100の振動波形を正規化する。ここで、正規化とは、特定されたピーク値で各5度積算値を除算することにより、振動の強度を0〜1の無次元数で表わすことをいう。
【0075】
S110にて、エンジンECU200は、エンジン回転数NEがしきいNE1以上であるか否かを判定する。エンジン回転数NEがしきい値NE1以上であると(S110にてYES)、処理はS120に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS124に移される。
【0076】
S120にて、エンジンECU200は、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて、正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を算出する。すなわち、正規化後の振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値との差が算出される。
【0077】
S122にて、エンジンECU200は、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度と差を用いて相関係数Kを算出する。
【0078】
S124にて、エンジンECU200は、重みを付けずに、正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を算出する。S126にて、エンジンECU200は、重みを付けずに算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を用いて相関係数Kを算出する。
【0079】
S128にて、エンジンECU200は、相関係数Kがしきい値K1より大きいか否かを判定する。相関係数Kがしきい値K1より大きいと(S128にてYES)、処理はS130に移される。もしそうでないと(S128にてNO)、処理はS146に移される。
【0080】
S130にて、エンジンECU200は、90度積算値lpkknkを算出する。S132にて、エンジンECU200は、ノック強度Nを算出する。
【0081】
S140にて、エンジンECU200は、ノック強度Nが判定値VJより大きい否かを判定する。ノック強度Nが判定値VJより大きいと(S140にてYES)、処理はS142に移される。もしそうでないと(S140にてNO)、処理はS146に移される。
【0082】
S142にて、エンジンECU200は、エンジン100にノックが発生したと判定する。S144にて、エンジンECU200は、点火時期を遅角する。S146にて、エンジンECU200は、エンジン100にノックが発生していないと判定する。S148にて、エンジンECU200は、点火時期を進角する。
【0083】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態におけるエンジンECU200の動作について説明する。
【0084】
エンジン100の運転中、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角が検出される(S100)。ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、クランク角に対応させて、エンジン100の振動の強度が検出される(S102)。ノックセンサ300の出力電圧値をクランク角で5度ごとに積算した5度積算値を算出することにより、エンジン100の振動波形が検出される(S104)。
【0085】
振動波形における5度積算値のうち、最も大きい積算値(ピーク値)が特定され(S106)、特定されたピーク値で各5度積算値を除算することにより、振動波形が正規化される(S108)。
【0086】
エンジン回転数NEが高い場合、クランク角が早く大きくなる。言い換えると、振動が発生する時間は一定であっても、振動が検出されるクランク角が長くなる。そのため、検出される振動波形の減衰率はクランク角に関して小さくなる。すなわち、ノイズが検出された場合でも、ノイズの減衰率が小さくなる。
【0087】
図14に示すように、振動の強度(振幅)が比較的大きいノイズが検出された場合、正規化後のノイズの減衰率が小さくなっても、ノック波形モデルと振動波形とが比較される区間の後半においてノック波形モデルの強度とノイズの強度との差が明確に生じる。そのため、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易い。
【0088】
図15に示すように、振動の強度が比較的小さいノイズが検出された場合、正規化後のノイズの減衰率がさらに小さくなる。そのため、ノック波形モデルの強度とノイズの強度との差が小さくなる。したがって、ノックに起因する振動とノイズとを区別し難い。
【0089】
そこで、エンジン回転数NEがしきいNE1以上であると(S110にてYES)、図16および図17に示すように、振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される(S120)。
【0090】
あるいは、正規化された振動波形の強度とノック波形モデルの強度とのクランク角毎の差に、各クランク角におけるノック波形モデルの強度の逆数を各クランク角において乗じることにより、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される(S120)。
【0091】
これにより、強度が小さくなるほど、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差をより強調することができる。そのため、振動波形における強度とノック波形モデルにおける強度と差を明確に把握することができる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。なお、図16には、正規化前の強度が比較的大きいノイズが示される。図17には、正規化前の強度が比較的小さいノイズが示される。
【0092】
さらに、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度と差を用いて相関係数Kが算出される(S122)。
【0093】
一方、エンジン回転数NEが低いと、振動の強度が比較的小さいノイズが検出された場合であっても、図18に示すように、ノック波形モデルの減衰率とノイズの減衰率との差は明確に生じる。そのため、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易い。
【0094】
この場合、重みを付けずに正規化後の振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される(S124)。さらに、重みを付けずに算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を用いて相関係数Kが算出される(S126)。これにより、不必要な処理を省略することができる。
【0095】
相関係数Kがしきい値K1より大きいと(S128にてYES)、検出された振動波形の形状がノックによる波形の形状に類似しているといえる。すなわち、ノッキングが発生した可能性が非常に高いといえる。
【0096】
この場合、90度積算値lpkknkが算出され(S130)、ノック強度Nが算出される(S132)。ノック強度Nが判定値VJより大きいと(S140にてYES)、エンジン100にノックが発生したと判定される(S142)。ノッキングを抑制するために、点火時期が遅角される(S144)。
【0097】
相関係数Kがしきい値K1以下である場合(S128にてNO)、またはノック強度Nが判定値VJ以下である場合(S140にてNO)、エンジン100にノックが発生していないと判定される(S146)。この場合、点火時期が進角される(S148)。
【0098】
以上のように、本実施の形態に係るノック判定装置によれば、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差が算出される。これにより、振動波形の強度とノック波形モデルの強度との差を強調することができる。その結果、ノックに起因する振動とノイズとを区別し易くすることができる。強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出された振動波形の強度とノック波形モデルの強度と差に基づいてノックが発生したか否かが判定される。そのため、ノックが発生したか否かを精度よく判定することができる。
【0099】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】エンジンを示す図である。
【図2】ノック時にエンジンで発生する振動の周波数帯を示す図である。
【図3】エンジンECUを示す制御ブロック図である。
【図4】エンジンの振動波形を示す図である。
【図5】ノック波形モデルを示す図である。
【図6】振動波形とノック波形モデルとを比較した図である。
【図7】ノック波形モデルの面積Sを示す図である。
【図8】正規化後の振動波形の強度の対数値とノック波形モデルの強度の対数値とを比較した図である。
【図9】変数Xに対する対数値Yを示す図である。
【図10】90度積算値lpkknkを示す図である。
【図11】90度積算値lpkknkの頻度分布を示す図である。
【図12】エンジンECUの機能ブロック図である。
【図13】エンジンECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図14】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その1)である。
【図15】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その2)である。
【図16】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その3)である。
【図17】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その4)である。
【図18】ノック波形モデルとノイズとを比較した図(その5)である。
【符号の説明】
【0101】
100 エンジン、102 エアクリーナ、104 インジェクタ、106 点火プラグ、108 ピストン、110 クランクシャフト、112 三元触媒、114 スロットルバルブ、116 吸気バルブ、118 排気バルブ、200 エンジンECU、202 ROM、300 ノックセンサ、302 水温センサ、304 タイミングロータ、306 クランクポジションセンサ、308 スロットル開度センサ、310 車速センサ、312 イグニッションスイッチ、314 エアフローメータ、320 補機バッテリ、400 A/D変換部、410 バンドパスフィルタ、420 積算部、600 クランク角検出部、602 強度検出部、604 波形検出部、606 相関係数算出部、608 90度積算値算出部、610 算出部、612 判定部、614 点火時期制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のノック判定装置であって、
前記内燃機関の振動の強度を検出するための手段と、
前記内燃機関の振動の強度に基づいて、クランク角についての予め定められた区間における振動の波形を検出するための手段と、
検出された波形の強度と、前記内燃機関の振動の波形の基準として予め定められる波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための算出手段と、
前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差に応じてノックが発生したか否かを判定するための判定手段とを備える、内燃機関のノック判定装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数以上である場合に、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含み、
前記ノック判定装置は、前記内燃機関の出力軸回転数が前記予め定められた回転数よりも小さい場合に、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、重みを付けずに算出するための手段をさらに備える、請求項1に記載の内燃機関のノック判定装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記検出された波形の強度の対数値と前記波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む、請求項1または2に記載の内燃機関のノック判定装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差に前記波形モデルの強度の逆数を乗算することにより、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む、請求項1または2に記載の内燃機関のノック判定装置。
【請求項5】
前記判定手段は、
前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差がしきい値よりも小さい場合にノックが発生したと判定するための手段と、
前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差が前記しきい値以上である場合にノックが発生していないと判定するための手段とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関のノック判定装置。
【請求項1】
内燃機関のノック判定装置であって、
前記内燃機関の振動の強度を検出するための手段と、
前記内燃機関の振動の強度に基づいて、クランク角についての予め定められた区間における振動の波形を検出するための手段と、
検出された波形の強度と、前記内燃機関の振動の波形の基準として予め定められる波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための算出手段と、
前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差に応じてノックが発生したか否かを判定するための判定手段とを備える、内燃機関のノック判定装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記内燃機関の出力軸回転数が予め定められた回転数以上である場合に、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含み、
前記ノック判定装置は、前記内燃機関の出力軸回転数が前記予め定められた回転数よりも小さい場合に、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、重みを付けずに算出するための手段をさらに備える、請求項1に記載の内燃機関のノック判定装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記検出された波形の強度の対数値と前記波形モデルの強度の対数値との差を算出することにより、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む、請求項1または2に記載の内燃機関のノック判定装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差に前記波形モデルの強度の逆数を乗算することにより、前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差を、強度が小さくなるほどより大きな重みを付けて算出するための手段を含む、請求項1または2に記載の内燃機関のノック判定装置。
【請求項5】
前記判定手段は、
前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差がしきい値よりも小さい場合にノックが発生したと判定するための手段と、
前記検出された波形の強度と前記波形モデルの強度との差が前記しきい値以上である場合にノックが発生していないと判定するための手段とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関のノック判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−19226(P2010−19226A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182640(P2008−182640)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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