内燃機関の燃料噴射制御装置
【課題】燃料の性質に関わらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高める内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃焼量変更部45は、パイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射の一回当たりの噴射量を減じている。燃焼量変更部45は、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減ずることにより、インジェクタ12の近傍に比較的濃い混合気を生成させる。その結果、セタン価の低い燃料であっても、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量は増加する。
【解決手段】燃焼量変更部45は、パイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射の一回当たりの噴射量を減じている。燃焼量変更部45は、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減ずることにより、インジェクタ12の近傍に比較的濃い混合気を生成させる。その結果、セタン価の低い燃料であっても、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量は増加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関は、主たる燃料の噴射であるメイン噴射に先立って燃料を噴射するパイロット噴射が行われている。パイロット噴射を行うことにより、噴射された燃料の着火が促され、騒音および燃料消費量の低減が図られる。このパイロット噴射は、メイン噴射に比較して微量の燃料を一回または複数回に分けて噴射する。このようにパイロット噴射で噴射される燃料は微量であるため、例えばセタン価の低い燃料などを用いると、着火遅れが拡大し、パイロット噴射による燃料の燃焼量の低下あるいは失火を招くおそれがある。
【0003】
特許文献1では、複数回に分割したパイロット噴射において、各パイロット噴射間の間隔を調整することが開示されている。特許文献1の場合、パイロット噴射の間隔は、先行するパイロット噴射で生成した冷炎に、後のパイロット噴射で形成された燃料噴霧が重ならないように設定されている。これにより、冷炎の成長が維持され、パイロット噴射における燃焼量は確保される。
【0004】
しかしながら、特許文献1の場合、噴射された燃料は燃焼することを前提としている。そのため、低温、大気圧が低い、あるいはセタン価の低い燃料を用いるなど燃料の着火性が低い条件の場合、燃料の着火が不十分となり、未燃焼の燃料は増大する。その結果、パイロット噴射における燃料の燃焼量は低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−299496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、条件に関わらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高める内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1から3のいずれか一項記載の発明では、燃焼量変更手段は、燃料の燃焼状態の指標が予め設定された安定燃焼範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数またはパイロット噴射の一回当たりの噴射量の少なくとも一方を変更する。これにより、燃焼量変更手段は、パイロット噴射における燃料の燃焼状態が不安定になるおそれがあるとき、パイロット噴射の回数または一回当たりの噴射量を変更し、パイロット噴射における燃料の着火を促す。パイロット噴射における燃料の失火を回避するには、パイロット噴射において噴射する燃料の総量を増すことが考えられる。しかし、燃料の総量が増すと、燃料の過剰な拡散による未燃焼の炭化水素(HC)の増加や騒音の増大を招く。そこで、燃焼量変更手段でパイロット噴射の回数または一回当たりの噴射量を変更することにより、インジェクタの近傍に比較的濃い混合気を生成させる。そのため、微量のパイロット噴射でも、噴射回数または一回当たりの噴射量を変更することにより、インジェクタの近傍に濃い混合気が生成される。その結果、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量は増加する。したがって、条件にかかわらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0008】
請求項2記載の発明では、燃焼量変更手段は、燃焼状態の指標が安定燃焼範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減じている。一回当たりの噴射量が減少すると、インジェクタから噴射される燃料の到達距離すなわち貫徹力は低下する。そのため、一回当たりの噴射量が減少した燃料は、インジェクタから噴射された後、インジェクタの近傍にとどまる。一方、貫徹力の小さなパイロット噴射を繰り返すことにより、一回当たりの噴射量が減少しても、インジェクタの周囲には比較的濃い混合気が生成する。これにより、パイロット噴射においてインジェクタから噴射される燃料の平均当量比は向上する。その結果、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量が増加する。したがって、燃料の性質にかかわらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0009】
請求項4から6のいずれか一項記載の発明では、パイロット噴射間隔設定手段は、二回以上実行されるパイロット噴射の間隔を制御する。すなわち、パイロット噴射間隔設定手段は、燃焼室に形成されるスワールの流速に基づいて、複数回に分けて噴射されるパイロット噴射の噴霧が互いに重なるようにパイロット噴射の間隔を調整する。燃焼室に形成されるスワールは、燃焼室の周方向へ旋回する。また、機関本体の回転数が低く、スワールの流速が小さいとき、インジェクタから噴射される燃料の噴霧は、インジェクタから周方向へ放射状に噴射されるとともに、スワールによって流されることなく、噴孔の近傍にとどまる。そのため、複数回のパイロット噴射の間隔を調整することにより、先のパイロット噴射で形成された燃料噴霧がとどまっているところへ次のパイロット噴射を行うと、同一の噴孔から形成された先のパイロット噴射における燃料噴霧と後のパイロット噴射における燃料噴霧とは重なり合う。一方、機関本体の回転数が高く、スワールの流速が大きいとき、インジェクタから噴射される燃料の噴霧は、インジェクタから周方向へ放射状に噴射されるとともに、スワールにのってインジェクタの軸を中心に周方向へ旋回する。そのため、複数回のパイロット噴射の間隔を調整することにより、先のパイロット噴射で形成された燃料噴霧がスワールにのって旋回したところへ次のパイロット噴射を行うと、異なる噴孔から形成された燃料噴霧同士は重なり合う。これにより、微量のパイロット噴射を分割してパイロット噴射一回当たりの噴射量が減少しても、インジェクタの周囲には燃料の割合が比較的高い混合気が生成される。したがって、着火性の向上とパイロット噴射における燃焼量の向上とを両立して達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態による燃料噴射制御装置を適用したディーゼルエンジンシステムを示す模式図
【図2】第1実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図3】第1実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【図4】燃料の噴射からの経過時間と燃料噴霧の平均当量比との関係を示す模式図
【図5】インジェクタの作動による燃焼量の変化を示す模式図
【図6】図4においてパイロット噴射による燃料噴射量の影響を示す模式図
【図7】図5においてパイロット噴射の回数を増した例を示す模式図
【図8】第1実施形態の変形例による処理の流れを示す概略図
【図9】第1実施形態の変形例による処理の流れを示す概略図
【図10】第2実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図11】インジェクタの噴孔を示す概略図
【図12】インジェクタの噴孔から形成される燃料噴霧を示す模式図
【図13】噴孔が10個のインジェクタにおける燃料噴霧を示す模式図
【図14】燃料の噴射からの経過時間と噴霧角との関係を示す模式図
【図15】インジェクタの噴孔から形成される燃料噴霧の関係を示す模式図
【図16】燃料の噴射からの経過時間と隣り合う燃料噴霧の移動角度との関係を示す模式図
【図17】燃料の噴射からの駆動時間と燃料噴霧の体積との関係を示す模式図
【図18】第2実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【図19】第3実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図20】第3実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【図21】第4実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図22】第4実施形態による燃料噴射制御装置におけるセタン価を推定する処理の流れを示す概略図
【図23】第4実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、複数の実施形態による内燃機関の燃料噴射制御装置を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する
(第1実施形態)
まず、図1に示す内燃機関としてのディーゼルエンジンシステム10について説明する。ディーゼルエンジンシステム10は、機関本体11、インジェクタ12および燃料供給装置13を備えている。機関本体11は、シリンダブロック14、シリンダヘッド15、ピストン16およびクランクシャフト17などを有している。シリンダブロック14は、内側に複数のシリンダ18を形成している。シリンダヘッド15は、シリンダブロック14の端部に設けられている。ピストン16は、シリンダブロック14が形成するシリンダ18の内側を軸方向へ往復移動する。クランクシャフト17は、シリンダブロック14に収容されている。クランクシャフト17は、コンロッド19によってピストン16に接続している。ピストン16の往復運動は、コンロッド19を通してクランクシャフト17の回転運動に変換される。シリンダ18を形成するシリンダブロック14の内壁、シリンダヘッド15の内壁およびピストン16の端面は、相互の間に燃焼室21を形成している。
【0012】
インジェクタ12は、シリンダヘッド15を貫いて設けられている。インジェクタ12の先端は、燃焼室21に露出している。燃料供給装置13は、コモンレール22、燃料噴射ポンプ23および燃料タンク24を有している。燃料噴射ポンプ23は、燃料タンク24から吸入した燃料を加圧してコモンレール22へ供給する。コモンレール22は、燃料噴射ポンプ23で加圧された燃料を、圧力を維持した状態で貯える。コモンレール22は、インジェクタ12に接続している。これにより、コモンレール22に貯えられた燃料は、インジェクタ12に供給される。
【0013】
ディーゼルエンジンシステム10は、上記の構成に加え、吸気装置25および図示しない排気装置を有している。吸気装置25は、吸気管部材26およびスロットル27を有している。吸気管部材26は、吸気通路28を形成している。吸気通路28は、一方の端部が燃焼室21に接続し、図示しない他方の端部が大気に開放している。スロットル27は、吸気管部材26が形成する吸気通路28を開閉する。図示しない排気装置は、図示しない排気管部材および排気浄化部を有している。排気管部材は、図示しない排気通路を形成している。排気通路は、一方の端部が燃焼室21に接続し、他方の端部が大気に開放している。図示しない排気浄化部は、この排気通路の途中に設けられ、燃焼室21から排出された排気を浄化する。
【0014】
ディーゼルエンジンシステム10は、上記の構成に加え燃料噴射制御装置30を備えている。燃料噴射制御装置30は、ECU(Electronic Control Unit)31を備えている。ECU31は、大気圧センサ32、アクセル開度センサ33、回転数センサ34、水温センサ35および圧力センサ36と接続している。大気圧センサ32は、ディーゼルエンジンシステム10が運転されている環境における大気圧を検出する。大気圧センサ32は、検出した大気圧に基づく電気信号をECU31へ出力する。アクセル開度センサ33は、図示しないアクセルペダルの開度を検出する。アクセル開度センサ33は、検出したアクセルペダルの開度に基づく電気信号をECU31へ出力する。回転数センサ34は、機関本体11のクランクシャフト17の回転数を検出する。回転数センサ34は、検出したクランクシャフト17の回転数に基づく電気信号をECU31へ出力する。水温センサ35は、機関本体11の冷却水の温度を検出する。水温センサ35は、検出した冷却水の温度に基づく電気信号をECU31へ出力する。圧力センサ36は、コモンレール22に貯えられている燃料の圧力を検出する。圧力センサ36は、検出したコモンレール22における燃料の圧力に基づく電気信号をECU31へ出力する。また、ECU31は、筒内圧センサ37と接続している。筒内圧センサ37は、機関本体11に形成されている燃焼室21にそれぞれ設けられている。筒内圧センサ37は、燃焼室21における圧力を検出する。筒内圧センサ37は、検出した燃焼室21の圧力に基づく電気信号をECU31へ出力する。
【0015】
ECU31は、図示しないCPU、ROMおよびRAMからなるマイクロコンピュータで構成されている。ECU31は、ROMに記憶されているコンピュータプログラムにしたがってディーゼルエンジンシステム10の全体を制御する。ECU31は、コンピュータプログラムを実行することにより、図2に示すように噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、燃焼量算出部43、燃焼量範囲判断部44および燃焼量変更部45をソフトウェア的に実現している。これら、噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、燃焼量算出部43、燃焼量範囲判断部44および燃焼量変更部45は、ハードウェア的に実現してもよい。ECU31は、記憶部46に接続している。記憶部46は、例えば不揮発性メモリなどを有している。記憶部46は、ECU31のROMおよびRAMと共用してもよい。
【0016】
噴射量設定部41は、各インジェクタ12から燃焼室21へ噴射する燃料の噴射量を設定する。噴射量設定部41は、アクセル開度センサ33で検出したアクセルペダルの開度、および回転数センサ34で検出したクランクシャフト17の回転数に基づいて、インジェクタ12から噴射する燃料噴射量Qを設定する。このとき、噴射量設定部41は、大気圧センサ32で検出した大気圧、水温センサ35で検出した冷却水の温度、および各インジェクタ12の噴射特性などに基づいて、燃料噴射量Qを補正して決定燃料噴射量Qdを設定する。また、噴射量設定部41は、決定燃料噴射量Qdをメイン噴射における燃料噴射量Qmとパイロット噴射における燃料噴射量Qpとに分配する。
【0017】
インジェクタ駆動部42は、噴射量設定部41で設定した量の燃料を噴射するためにインジェクタ12を駆動する。インジェクタ駆動部42は、インジェクタ12の図示しない電磁駆動部に駆動信号を出力する。これにより、インジェクタ12は、燃料の噴射を断続する。インジェクタ12は、インジェクタ駆動部42からの駆動信号にしたがって、メイン噴射において噴射量設定部41で設定された燃料噴射量Qmを噴射し、パイロット噴射において燃料噴射量Qpを噴射する。ここで、メイン噴射は、インジェクタ12の一回の噴射時期における主たる噴射であり、決定燃料噴射量Qdのうちの大部分の燃料噴射量Qmを噴射する。一方、パイロット噴射は、メイン噴射に先立つ噴射であり、決定燃料噴射量Qdからメイン噴射における燃料噴射量Qmを減じた燃料噴射量Qpを噴射する。なお、パイロット噴射にさらに先立ってプレ噴射を実行したり、メイン噴射に続いてアフター噴射を実行する場合、決定燃料噴射量Qdからメイン噴射における燃料噴射量Qmだけでなくこれらの噴射における噴射量を減じた量がパイロット噴射における燃料噴射量Qpに相当する。
【0018】
燃焼量算出部43は、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態の指標として燃焼量を算出する。具体的には、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力を取得する。そして、燃焼量算出部43は、取得した燃焼室21の圧力に基づいて、メイン噴射およびパイロット噴射においてインジェクタ12から噴射された燃料の燃焼量を検出する。燃焼室21における圧力は、インジェクタ12から噴射された燃料が燃焼することにより上昇する。すなわち、燃焼室21の圧力は、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼量に相関する。これにより、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力から、燃焼室21における燃料の燃焼量を算出する。この燃焼量算出部43および筒内圧センサ37は、特許請求の範囲の燃焼量検出手段に相当するとともに、燃焼状態指標取得手段に相当する。
【0019】
燃焼量範囲判断部44は、燃焼量算出部43で算出したパイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲にあるか否かを判断する。上述のようにパイロット噴射によって噴射された燃料が燃焼室21において燃焼することにより、燃焼室21の圧力は変化する。しかし、燃料の特性、特にセタン価によっては、燃料の着火が不十分となり、燃焼量が所定の燃焼量範囲に含まれないおそれがある。そこで、燃焼量範囲判断部44は、燃焼量算出部43で算出したパイロット噴射における燃料の燃焼量が燃焼量範囲に含まれるか否かを判断する。燃焼量範囲は、機関本体11やインジェクタ12の特性に応じて設定され、記憶部46に記憶されている。燃焼量範囲判断部44は、燃焼量算出部43で算出した燃焼量を、記憶部46に記憶されている燃焼量範囲に基づいてこの燃焼量範囲に含まれるか否かを判断する。すなわち、燃焼量範囲判断部44は、燃焼状態の指標であるパイロット噴射における燃焼量が安定した燃焼を確保するための安定燃焼範囲つまり燃焼量範囲にあるか否かを判断する。これにより、燃焼量範囲判断部44は、特許請求の範囲における安定燃焼範囲判断手段に相当する。
【0020】
燃焼量変更部45は、燃焼量範囲判断部44でパイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数およびパイロット噴射一回当たりの噴射量を変更する。本実施形態の場合、燃焼量変更部45は、燃焼量範囲判断部44で燃焼量が不足していると判断されると、パイロット噴射の回数を一回増す。これにより、パイロット噴射の一回当たりの噴射量は減少する。このように、燃焼量変更部45は、燃焼量が不足しているとき、パイロット噴射の回数を増すとともに、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減じる。すなわち、燃焼量変更部45は、燃焼量範囲判断部44において燃焼状態の指標であるパイロット噴射における燃焼量が燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数およびパイロット噴射一回当たりの噴射量を変更する。
【0021】
次に、上記の構成によるディーゼルエンジンシステム10の制御について図3に基づいて説明する。
ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10が運転を開始すると、予め設定された間隔でディーゼルエンジンシステム10の運転状態を取得する(S101)。具体的には、ECU31は、アクセル開度センサ33からアクセルペダルの開度および回転数センサ34から機関本体11の回転数を取得する。これにより、ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10の運転状態すなわち負荷状態を取得する。
【0022】
噴射量設定部41は、S101において取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて決定燃料噴射量Qdを算出する(S102)。具体的には、噴射量設定部41は、S101で取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて基礎となる燃料噴射量Qを設定する。そして、噴射量設定部41は、この燃料噴射量Qを、大気圧センサ32で取得した大気圧、水温センサ35で検出した冷却水の温度、および各インジェクタ12の噴射特性などに基づいて補正し、決定燃料噴射量Qdを設定する。これとともに噴射量設定部41は、燃料の噴射においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する(S103)。例えばディーゼルエンジンシステム10が負荷の小さな状態で運転されているときなどのように、運転状態によってはパイロット噴射は必ずしも要求されない。そこで、噴射量設定部41は、S103においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する。
【0023】
噴射量設定部41は、S103においてパイロット噴射が必要であると判断されると(S103:Yes)、パイロット噴射における燃料噴射量Qpを設定する(S104)。すなわち、噴射量設定部41は、S102において設定した決定燃料噴射量Qdを、メイン噴射における燃料噴射量Qmとパイロット噴射における燃料噴射量Qpとに分配する。さらに、噴射量設定部41は、設定したパイロット噴射における燃料噴射量Qpをパイロット噴射の回数nで除し、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxを設定する(S105)。すなわち、噴射量設定部41は、燃料噴射量Qpをパイロット噴射の回数nで除して、燃料噴射量Qpx=Qp/nを算出する。このパイロット噴射の回数nは、初期値として「1」つまり初期値がn=1として設定されている。噴射量設定部41は、S103においてパイロット噴射が必要でないと判断されると(S103:No)、処理を終了する。
【0024】
インジェクタ駆動部42は、S105で設定されたパイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxに基づいてインジェクタ12を駆動し、パイロット噴射を実行する(S106)。具体的には、インジェクタ駆動部42は、この燃料噴射量Qpxに相当するインジェクタ12の開弁時間に応じた駆動信号をインジェクタ12へ出力する。これにより、インジェクタ12は、一回のパイロット噴射において燃料噴射量Qpxを燃焼室21へ噴射する。
【0025】
燃焼量算出部43は、S106においてインジェクタ12から燃料が噴射されると、燃焼量αを算出する(S107)。具体的には、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37からパイロット噴射における燃焼室21の圧力を取得する。そして、燃焼量算出部43は、取得した燃焼室21の圧力に基づいて、パイロット噴射による燃焼量αを算出する。上述のように、インジェクタ12から噴射された燃料は、燃焼室21において燃焼する。これにより、燃焼室21は、ピストン16の下死点から上死点への移動にともなう燃焼室21の体積の減少による圧力の上昇に加え、燃料の燃焼によっても上昇する。ピストン16の移動にともなう燃焼室21の圧力の変化はクランクシャフト17の角度に応じて規則的であるのに対し、燃料の燃焼による燃焼室21の圧力の上昇は不規則である。そのため、筒内圧センサ37で燃焼室21の圧力を検出することにより、燃料の燃焼にともなう圧力の変化は容易に取得される。この燃料の燃焼にともなう燃焼室21の圧力の変化は、燃料の燃焼量に相関する。つまり、燃焼室21において燃焼する燃料の量が多くなるほど、燃焼室21における圧力の変化は大きくなる。これにより、燃料の燃焼量αは、一回のパイロット噴射で噴射する燃料噴射量Qpx、および筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力が得られれば算出することができる。燃焼量算出部43は、S105で設定された一回のパイロット噴射で噴射する燃料噴射量Qpxと、筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力とから燃料の燃焼量αを算出する。
【0026】
燃焼量範囲判断部44は、S107で算出した燃焼量αが燃焼量範囲にあるか否か、すなわち燃焼量αが下限燃焼量K1よりも大きいか否かを判断する(S108)。燃焼量範囲判断部44は、S107で算出した燃焼量αと、記憶部46に記憶されている下限燃焼量K1とを比較して、K1<αであるか否かを判断する。
【0027】
燃焼量変更部45は、S108において燃焼量αが下限燃焼量K1より大きいと判断すると(S108:Yes)、燃料が正常に着火していると判断し、処理を終了する。一方、燃焼量変更部45は、S108において燃焼量αが下限燃焼量K1以下であると判断すると、つまりα≦K1であると判断すると、パイロット噴射の回数nを一回増す(S109)。すなわち、燃焼量変更部45は、α≦K1のとき、パイロット噴射の回数nを「n+1」回とする。
【0028】
S109においてパイロット噴射の回数nが「n+1」に増加すると、ECU31の処理はS101へリターンし、S101以降の処理を繰り返す。S101以降の処理を繰り返すとき、噴射量設定部41は、S104において算出した燃料噴射量QpをS109で再設定したパイロット噴射の回数「n+1」で除す。そのため、S106で実行されるパイロット噴射は、前回に比較して一回増加するとともに、一回当たりの燃料の噴射量が減少する。
【0029】
次に、上記の構成によるディーゼルエンジンシステム10の作用について説明する。
インジェクタ12から噴射された燃料は、噴射量が多く、噴射時間が長くなるほど、燃焼室21内において遠い位置まで到達する。すなわち、噴射量が多く、噴射時間が長い燃料の噴霧は、貫徹力が大きくなる。一方、パイロット噴射のように噴射量が少なく、噴射時間が短くなると、インジェクタ12から噴射された燃料は貫徹力が小さくなりインジェクタ12の周囲にとどまりやすい。これは、噴射量が小さくかつ噴射時間が短くなるほど、インジェクタ12の図示しないニードルと弁座との間に形成される燃料通路は小さくなるからである。このように噴射量が小さく噴射時間が短いとき、インジェクタ12の図示しない噴孔に流入する燃料は、ニードルと弁座との間の微少な隙間を通過する。そのため、噴孔に流入する燃料は、ニードルと弁座との間の隙間における絞り効果によって流速が低下する。その結果、噴射量が小さく噴射時間が短いとき、インジェクタ12の噴孔から噴射された燃料は、運動エネルギーが小さく、インジェクタ12の周囲にとどまりやすくなる。
【0030】
図4に示すように、一般にインジェクタ12から噴射された燃料の平均当量比は、噴射開始からの時間が経過するにつれて低下する。そのため、燃料が噴射されて燃料が着火するまでの期間、すなわち着火遅れが大きくなると、インジェクタ12から噴射された燃料噴霧は燃焼室21の空気と混合し、その平均当量比は低下する。その結果、平均当量比の低下にともない、インジェクタ12から噴射された燃料はさらに着火性が低下する。図5に示すように、燃料の噴射の時期と噴射された燃料の燃焼による熱発生の時期とは、着火遅れによってずれが生じる。上述のように、着火遅れが生じると、平均当量比が低下するため、燃料の着火性も低下すなわち熱発生量も低下する。特に図5の破線に示すようにセタン価の低い燃料は、着火遅れによる平均当量比の低下の影響が大きくなる。つまり、セタン価が高い燃料は、パイロット噴射時の着火遅れによって平均当量比が低下しても、着火性が維持され、燃料の燃焼による熱が発生する。一方、セタン価が低い燃料は、パイロット噴射時の着火遅れによる平均当量比の低下の影響が大きく、噴射された燃料の燃焼が不十分な失火状態になりやすい。
【0031】
ここで、パイロット噴射時における失火を低減するためにパイロット噴射における燃料の噴射量を増すと、燃焼室21における燃料の過剰な拡散を招く。そのため、未燃焼の炭化水素(HC)の増加を招くおそれがある。また、パイロット噴射における燃料の噴射量を増すと、パイロット噴射とメイン噴射とが重なり、全体として燃料の燃焼量の増大が生じる。その結果、騒音の増加を招くおそれがある。
【0032】
そこで、本実施形態の場合、パイロット噴射における燃料噴射量Qpは変更することなく、一回当たりの噴射量は低減しつつ噴射回数は増している。図6に示すように、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減少させると、燃料の噴射からの経時的な平均当量比の変化は上方へシフトつまり平均当量比が増加する側へ遷移する。そのため、着火遅れがセタン価の高い燃料よりも長い着火遅れBの場合でも、パイロット噴射一回当たりの燃料の噴射量が減少するにつれて平均当量比は向上する。これは、上述のように、パイロット噴射の回数を増しつつパイロット噴射一回当たりの燃料の噴射量を減ずることにより、インジェクタ12から噴射された燃料はインジェクタ12の周囲にとどまり、インジェクタ12の周囲において比較的濃い混合気を生成するからである。これにより、着火性が低いセタン価の低い燃料であっても、パイロット噴射における燃料の総量を増すことなく燃料の着火性を維持することができる。その結果、図7に示すように、分割されたパイロット噴射によって噴射された燃料は、燃焼が促進され、燃焼量が増大する。
【0033】
以上説明した第1実施形態では、燃焼量変更部45は、パイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射の一回当たりの噴射量を減じている。これにより、燃焼量変更部45は、パイロット噴射における燃料の燃焼量が不足するとき、パイロット噴射における燃料の着火を促す。すなわち、燃焼量変更部45は、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減ずることにより、インジェクタ12の近傍に比較的濃い混合気を生成させる。その結果、セタン価の低い燃料であっても、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量は増加する。したがって、燃料の性質にかかわらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0034】
(変形例)
第1実施形態の変形例について説明する。
図3に示す第1実施形態における処理では、S107においてパイロット噴射における燃焼量αを算出し、算出した燃焼量αに基づいてパイロット噴射の回数を変化させる例について説明した。
しかし、パイロット噴射の回数は、燃焼量αに限らず、他のパラメータに基づいて変更する構成としてもよい。
パラメータの一例として着火遅れを用いる処理を図8に示す。図8は、図3におけるS107の処理を置き換えるものである。図3に示すS106においてパイロット噴射が実行されると、インジェクタ駆動部42は引き続きメイン噴射を実行する(S111)。このとき、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37からメイン噴射における燃焼室21の圧力を取得する(S112)。そして、燃焼量算出部43は、S112で取得した燃焼室21の圧力に基づいて熱発生率を算出する(S113)。この熱発生率は、機関本体11のクランクシャフトの回転角度に対する発生熱量の変化を示す。
【0035】
燃焼量算出部43は、S113で算出した熱発生率に基づいて、メイン噴射の着火時期を検出する(S114)。インジェクタ12からメイン噴射が実行されると、噴射された燃料は燃焼室21において燃焼する。そのため、噴射された燃料が着火すると、S113で算出した熱発生率は急激に変化する。燃焼量算出部43は、この燃焼室21における熱発生率の変化に基づいてメイン噴射における着火時期を検出する。さらに、燃焼量算出部43は、S114で検出した着火時期に基づいて、メイン噴射における着火遅れ時間を算出する(S115)。着火遅れ時間は、メイン噴射におけるインジェクタ12からメイン噴射の開始から燃料の着火までの時間である。例えば燃料のセタン価が低くなるほど、または冷却水の温度若しくは大気圧が低くなるほど、メイン噴射における着火遅れ時間は大きくなる。このように、メイン噴射における着火遅れが大きくなる条件では、パイロット噴射における着火も遅れが生じやすく、燃焼が不安定になる。そこで、燃焼量範囲判断部44は、図3に示すS108において、S115で算出したメイン噴射の着火遅れ時間が上限着火遅れ時間よりも短いか否かを判断する。燃焼量変更部45は、S108においてメイン噴射の着火遅れ時間が上限着火遅れ時間よりも短いと判断すると、燃料の燃焼状態が安定していると判断し、処理を終了する。一方、燃焼量変更部45は、S108においてメイン噴射の着火遅れ時間が上限着火遅れ時間よりも長いと判断すると、燃料の燃焼状態が不安定であると判断する。したがって、燃焼量変更部45は、S109において、パイロット噴射の回数nを一回増す。
【0036】
また、パラメータの一例としてIMEPを用いる処理を図9に示す。図9は、図8と同様に図3におけるS107の処理を置き換えるものである。図3に示すS106においてパイロット噴射が実行されると、インジェクタ駆動部42は引き続きメイン噴射を実行する(S121)。このとき、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37からパイロット噴射およびメイン噴射を含めた燃焼室21の圧力を取得する(S122)。そして、燃焼量算出部43は、S122で取得した燃焼室21の圧力に基づいてIMEP(Indicated Mean Effective Pressure:図示平均有効圧)を算出する(S123)。
【0037】
燃焼量算出部43は、S123でIMEPが算出されると、COVを算出する(S124)。このCOVは、S124で算出したIMEPのばらつき割合である。COVすなわちIMEPのばらつき割合は、例えば燃料のセタン価が低くなるほど、または冷却水の温度若しくは大気圧が低くなるほど、大きくなる。つまり、COVは、燃料の燃焼が不安定になるほど大きくなる。そこで、燃焼量範囲判断部44は、図3に示すS108において、S124で算出したCOVが予め設定した範囲にあるか否かを判断する。燃焼量変更部45は、S108においてCOVが予め設定した範囲にあると判断すると、燃料の燃焼状態が安定していると判断し、処理を終了する。一方、燃焼量変更部45は、S108においてCOVが予め設定した範囲を超えていると判断すると、燃料の燃焼状態が不安定であると判断する。したがって、燃焼量変更部45は、S109においてパイロット噴射の回数nを一回増す。
このように、パイロット噴射の回数nは、機関本体11から取得される各種のパラメータに基づいて設定することができる。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態によるディーゼルエンジンシステムの構成を図10に示す。
第2実施形態のディーゼルエンジンシステム10は、図2に示す第1実施形態の構成に加え、図10に示すように流速推定部51およびパイロット噴射間隔設定部52を備えている。回転数センサ34は、特許請求の範囲の機関回転数検出手段を構成している。流速推定部51およびパイロット噴射間隔設定部52は、ECU31においてコンピュータプログラムを実行することによりソフトウェア的またはハードウェア的に実現されている。
【0039】
流速推定部51は、回転数センサ34で検出した機関本体11のクランクシャフト17の回転数に基づいて、燃焼室21に吸入された空気が形成するスワールの流速を推定する。吸気通路28から燃焼室21へ吸入された空気は、燃焼室21の軸すなわちシリンダ18の軸を中心に旋回するスワールと言われる流れを形成する。このスワールは、燃焼室21に吸入される吸気の流速に相関する。また、燃焼室21に吸入される吸気の流速は、機関本体11の回転数が増加するほど増大する。すなわち、スワールの流速は、機関本体11の回転数に相関する。そこで、流速推定部51は、回転数センサ34で検出した機関本体11の回転数に基づいてスワールの流速を推定する。具体的には、流速推定部51は、回転数センサ34で検出した機関本体11の回転数から、予め設定された関数に基づいてスワールの流速つまりスワールの角速度を推定、または予め記憶部46に記憶されているマップにしたがってスワールの流速つまりスワールの角速度を推定する。なお、流速推定部51は、大気圧センサ32で検出した大気圧に基づいて、回転数から推定したスワールの流速を補正する構成としてもよい。
【0040】
パイロット噴射間隔設定部52は、パイロット噴射の間隔を制御する。第2実施形態の場合、パイロット噴射は、メイン噴射に先立って二回以上実行される。パイロット噴射間隔設定部52は、この二回以上実行されるパイロット噴射の間隔を制御する。具体的には、パイロット噴射間隔設定部52は、流速推定部51において推定したスワールの流速に基づいてパイロット噴射の間隔を制御する。インジェクタ12は、図11に示すようにボディ60の先端に周方向へ等間隔で複数の噴孔61を有している。これにより、インジェクタ12から噴射される燃料は、図12に示すようにインジェクタ12の軸を中心に放射状の複数の燃料噴霧62を形成する。第1実施形態で説明したようにパイロット噴射で噴射される燃料は微量かつ短期間であるため、インジェクタ12から噴射された燃料は貫徹力が小さく噴霧がインジェクタ12の噴孔61の近傍に形成される。一方、燃焼室21においては、図12の矢印Sで示すように燃焼室21の軸を中心として旋回するスワールが形成されている。そのため、インジェクタ12の噴孔61の近傍に形成された燃料噴霧62は、スワールにのってインジェクタ12の軸を中心にインジェクタ12の周方向へ旋回する。
【0041】
このように燃料噴霧62は、スワールにのってインジェクタ12の軸を中心に旋回する。そのため、二回以上のパイロット噴射を実行する場合、この二回以上のパイロット噴射の間隔を制御することにより、先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62に、後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62を重ねることができる。すなわち、先のパイロット噴射によってある噴孔61から形成された燃料噴霧62がスワールにのって旋回し、別の噴孔61の延長線上に位置したとき、後のパイロット噴射を実行すると、二つの燃料噴霧62は互いに重なる。
【0042】
具体的には、インジェクタ12が周方向へ等間隔に10個の噴孔61を有する場合、図13に示すように放射状に形成される燃料噴霧62は、その中心同士が約36°間隔となる。この燃料噴霧62同士の間隔は、インジェクタ12に設けられる噴孔61の数によって変化する。また、このとき、インジェクタ12の噴孔61から噴射される燃料噴霧62は、約20°程度の広がりをもって形成される。すなわち、インジェクタ12の噴孔61から噴射される燃料噴霧62の噴霧角は、約20°となる。この噴霧角は、図14に示す例の場合、パイロット噴射の開始から0.2m秒程度の短期間で一定となる。また、噴霧角は、パイロット噴射一回当たりの噴射量が減少しても、約15°程度の十分な広がりを有している。
【0043】
ここで、スワール比が2.2の機関本体11に、10個の噴孔61を有するインジェクタ12を備えた機関本体11を例に説明する。燃料噴霧62は、紡錘形に近似した形状を有している。そのため、図15に示すようにスワールにのって旋回する燃料噴霧62の旋回方向前方側の移動角度はDa、旋回する燃料噴霧62の旋回方向後方側の移動角度はDb、旋回する燃料噴霧62の中心間の移動角度はDcとする。図14に示す噴霧角の経時的な変化を考慮すると、インジェクタ12の周方向において隣り合う噴孔61から噴射された燃料噴霧62は図16に示すような角度範囲に形成される。図16における噴射開始からの時間は、機関本体11のクランクシャフト17の回転角度を示している。これにより、第一回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62と第二回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62とを重ねるためには、「噴射の間隔=(噴孔の間隔−噴霧角)/スワール角速度」として求められる。すなわち、噴射の間隔は、流速推定部51で推定したスワールの流速つまりスワールの角速度に基づいて制御することができる。
【0044】
図15および図16に示す場合、燃料噴霧62の噴霧角は20°程度である。そのため、第一回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62に第二回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62の少なくとも一部を重ねるためには、最短でクランクシャフト17の回転角度が7°程度、最長でクランクシャフト17の回転角度が27°程度である。すなわち、第一回目のパイロット噴射からクランクシャフト17の回転角度が7°〜27°の範囲の期間に第二回目のパイロット噴射を実行すると、二つのパイロット噴射で形成された燃料噴霧62は互いに重なり合う。したがって、流速推定部51は回転数センサ34で取得した機関本体11のクランクシャフト17の回転速度からスワールの流速を推定し、パイロット噴射間隔設定部52は取得したクランクシャフト17の回転角度に応じて複数のパイロット噴射の時期を制御する。
【0045】
このように複数回のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62を重ねることにより、パイロット噴射の分割によって一回当たりの燃料の噴射量が減少したときでも、複数の噴霧が合成される。このとき、第二回目のパイロット噴射の燃料噴霧は、第一回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧に向けて形成される。これにより、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧と第二回目のパイロット噴射による燃料噴霧とが重なりあった部分、すなわち燃料噴霧同士が合成された部分の燃料噴霧の体積は、第一回目の燃料噴霧および第二回目の燃料噴霧の単独の体積よりも減少する。つまり、本実施形態の場合、第一回目のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧は、第二回目のパイロット噴射までの間に拡散する。そして、この拡散した第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧に向けて第二回目のパイロット噴射を実行している。これにより、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧と第二回目のパイロット噴射による燃料噴霧とが重なり合って濃い混合気を形成する部分の体積は、第一回目および第二回目のパイロット噴射による単独の燃料噴霧の体積よりも小さくなる。そのため、図17に示すように二回のパイロット噴射で合成された濃い混合気からなる燃料噴霧62の体積は、合成されない場合の単独の燃料噴霧の体積と比較して減少する。一方、二回のパイロット噴射の燃料噴霧を合成することにより、合成した燃料噴霧は、単独の燃料噴霧よりも燃料の濃度が高くなる。すなわち、二回のパイロット噴射を合成した燃料噴霧は、その混合気における燃料の濃度が高くなる。その結果、インジェクタ12から噴射された燃料は、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量が減少しても、インジェクタ12の噴孔61の近傍に比較的濃い混合気を形成する。これにより、パイロット噴射一回当たりの燃料の噴射量が微量であっても、インジェクタの近傍で平均当量比が増加し、燃料の着火性が向上する。
【0046】
次に、上記の構成による第2実施形態によるディーゼルエンジンシステム10の処理の流れについて図18に基づいて説明する。
図18に示す処理の流れは、複数回に分割されたパイロット噴射の噴射時期を設定するものである。そのため、図3に示す第1実施形態における処理の流れにおいて、S108に後続して実行される。
【0047】
流速推定部51は、機関本体11のクランクシャフト17の回転数を取得する(S201)。すなわち、流速推定部51は、回転数センサ34からクランクシャフト17の回転数を取得する。流速推定部51は、S201で取得した回転数に基づいて、スワールの流速を推定する(S202)。すなわち、流速推定部51は、クランクシャフト17の回転数に相関するスワールの角速度Sを推定する。
【0048】
パイロット噴射間隔設定部52は、S202で推定したスワールの角速度を用いて、複数回のパイロット噴射の間隔ΔTを算出する(S203)。パイロット噴射間隔設定部52は、インジェクタ12の周方向における噴孔61の間隔θ、S202で取得したスワールの角速度S、調整時間t、および重ね合わせる燃料噴霧62の数nから、パイロット噴射の噴射間隔ΔTを、ΔT=(α/S−t)/nで算出する。パイロット噴射の噴射間隔ΔTは、クランクシャフト17の回転角度として算出される。噴孔61の間隔θは、インジェクタ12によって既知の値である。そのため、噴孔61の間隔θは、例えば記憶部46などに記憶されている。調整時間tは、パイロット噴射の間隔を調整するための任意の値である。
【0049】
パイロット噴射間隔設定部52は、S203で算出したパイロット噴射の噴射間隔ΔTから、燃料噴霧62を重ね合わせるための最短噴射間隔ΔTminを算出する(S204)。パイロット噴射間隔設定部52は、インジェクタ12の噴孔61の間隔、S202で取得したスワールの角速度S、および各噴孔61から形成される燃料噴霧62の噴霧角βを用いて、最短噴射間隔ΔTminを、ΔTmin=(θ−β)/Sとして算出する。
【0050】
パイロット噴射間隔設定部52は、S203において算出した噴射間隔ΔTと重ね合わせる燃料噴霧62の数nとの積がS204において算出した最短噴射間隔ΔTminより大きいか否かを判断する(S205)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、ΔTmin<ΔT×nであるか否かを判断する。ここで、最短噴射間隔ΔTminが噴射間隔ΔTと重ね合わせる燃料噴霧62の数nとの積以下、つまりΔT×n≦ΔTminであると判断されると(S205:No)、パイロット噴射間隔設定部52は重ね合わせる燃料噴霧62の数を「1」増加する(S206)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、重ね合わせる燃料噴霧62の数nをn=n+1とする。ΔT×n≦ΔTminであるとき、複数回のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62は、互いに重なり合わないことになる。つまり、後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62は、先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62の相互間に形成され、互いに重なり合わない。そこで、パイロット噴射間隔設定部52は、ΔT×n≦ΔTminであるとき重なり合わせる燃料噴霧62の数を増し、各パイロット噴射で形成された燃料噴霧62同士が重なり合うように設定する。そして、パイロット噴射間隔設定部52は、S203へリターンし、S203以降の処理を繰り返す。
【0051】
一方、パイロット噴射間隔設定部52は、S205において噴射間隔ΔTと重ね合わせる燃料噴霧62の数nとの積が最短噴射間隔ΔTminより大きいと判断すると(S205:Yes)、第一回目のパイロット噴射から第n回目のパイロット噴射までの総噴射期間Tを算出する(S207)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、総噴射期間Tを、噴射間隔ΔTおよびパイロット噴射の回数nから、T=ΔT×nとして算出する。
【0052】
パイロット噴射間隔設定部52は、S207においてパイロット噴射の総噴射期間Tを算出すると、総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まるか否かを判断する(S208)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、T<Tmaxであるか否かを判断する。この制限期間は、パイロット噴射の期間として許容される最大値であり、例えば記憶部46などに記憶されている。この総噴射期間Tが制限期間Tmax以上になると、パイロット噴射とメイン噴射との間隔が過小になり、燃料の安定した燃料の妨げになる。そこで、パイロット噴射間隔設定部52は、総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まるか否かを判断する。
【0053】
パイロット噴射間隔設定部52は、S208において総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まらないと判断すると(S208:No)、調整時間tを減少させる(S209)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、S203における噴射間隔ΔTの算出に用いた調整時間tを小さくし、総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まるように調整する。そして、パイロット噴射間隔設定部52は、S203へリターンし、S203以降の処理を繰り返す。一方、パイロット噴射間隔設定部52は、S208において総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まると判断すると(S208:Yes)、インジェクタ12からパイロット噴射を実行し(S210)、処理を完了する。
【0054】
以上の手順により、ECU31は、パイロット噴射を複数回実行するとき、各パイロット噴射で形成された燃料噴霧62同士を重ね合わせている。
第2実施形態では、パイロット噴射間隔設定部52は、二回以上実行されるパイロット噴射の間隔を制御する。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、燃焼室21に形成されるスワールの流速つまりスワールの角速度に基づいて、複数回に分けて噴射されるパイロット噴射の燃料噴霧62が互いに重なるようにパイロット噴射の間隔を調整する。これにより、微量のパイロット噴射を分割してパイロット噴射一回当たりの噴射量が減少しても、インジェクタ12の周囲には燃料の割合が比較的高い混合気が生成される。したがって、着火性の向上とパイロット噴射における燃焼量の向上とを両立して達成することができる。
【0055】
なお、第2実施形態では、隣接する噴孔61から形成された燃料噴霧62同士を重ね合わせる例について説明した。しかし、スワールの流速に応じて、一つおき、または二つおき以上の噴孔61から形成された燃料噴霧62同士を重ね合わせてもよい。つまり、先のパイロット噴射である噴孔61から形成した燃料噴霧62に、次のパイロット噴射でその隣の噴孔61から形成した燃料噴霧62を重ねるのではなく、遠い位置の噴孔61から形成した燃料噴霧62を形成してもよい。また、同様に、重ね合わせる燃料噴霧62のパイロット噴射の時期も任意に設定することができる。例えば、三回のパイロット噴射を実行するとき、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧62と第二回目のパイロット噴射による燃料噴霧62とを重ね合わせるだけでなく、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧62と第三回目のパイロット噴射による燃料噴霧62とを重ね合わせてもよい。
【0056】
また、機関本体11の回転数が低い場合、燃焼室21に形成されるスワールの流速が小さいことがある。この場合、インジェクタ12の噴孔61から形成された燃料噴霧62は、スワールにのって他の噴孔61側へ旋回することなく、噴射された噴孔61の近傍にとどまることになる。すなわち、スワールの流速が小さいとき、ある特定の噴孔61から噴射された燃料噴霧62は他の噴孔61側へほとんど旋回しない。そこで、パイロット噴射間隔設定部52は、回転数センサ34で検出した機関本体11のクランクシャフト17の回転数が境界回転数以上であるか否かを判断する。これにより、パイロット噴射間隔設定部52は、機関本体11の運転状態が、燃焼室21に形成されるスワールの流速が大きな高回転領域であるか、燃焼室21に形成されるスワールの流速が小さな低回転領域であるかを判断する。この境界回転数は、機関本体11の特性などに応じて予め設定されている。この場合、パイロット噴射間隔設定部52は、クランクシャフト17の回転数に限らず、流速推定部51で推定したスワールの流速に基づいて機関本体11の運転状態を判断してもよい。
【0057】
パイロット噴射間隔設定部52は、機関本体11の回転数が境界回転数よりも低いと判断したとき、インジェクタ12の複数の噴孔61のうち特定の噴孔61から形成された燃料噴霧62に、この特定の噴孔61から噴射された燃料噴霧62を重ねる。すなわち、境界回転数よりも低い低回転領域では、燃焼室21に形成されるスワールの流速は小さい。そのため、特定の噴孔61から形成された燃料噴霧62は、スワールによって旋回することなく、この特定の噴孔61の周辺にとどまる。これにより、パイロット噴射間隔設定部52は、先に形成した燃料噴霧62に対し、この先の燃料噴霧62と同一の噴孔61から後の燃料噴霧62を形成し、同一の噴孔61から形成された先の燃料噴霧62と後の燃料噴霧62とを重ねる。その結果、機関本体11の回転数が低く、スワールの流速が小さいときでも、複数の噴射で形成された燃料噴霧62を重ねることができる。
【0058】
一方、パイロット噴射間隔設定部52は、機関本体11の回転数が境界回転数以上であると判断したとき、上述のようにインジェクタ12の複数の噴孔61のうち特定の噴孔61から形成された燃料噴霧62に、この特定の噴孔61と異なる噴孔61から形成された燃料噴霧62を重ねる。これにより、スワールの流速に関わらず、複数の噴射で形成された燃料噴霧62を重ねることができる。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態によるディーゼルエンジンシステムの燃料噴射制御装置を図19に示す。
第3実施形態の場合、燃料噴射制御装置70は、ECU31を備えている。ECU31は、大気圧センサ32、アクセル開度センサ33、回転数センサ34、水温センサ35および圧力センサ36と接続している。ECU31は、コンピュータプログラムを実行することにより、噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、燃焼状態指標取得部71およびパイロット噴射回数変更部72をソフトウェア的またはハードウェアに実現している。ECU31は、記憶部46に接続している。第3実施形態の場合、第1実施形態や第2実施形態における筒内圧センサ37は必須の構成要素でない。
【0060】
燃焼状態指標取得部71は、燃焼室21におけるインジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態の指標を取得する。具体的には、燃焼状態指標取得部71は、大気圧センサ32から大気圧を取得し、水温センサ35から機関本体11の冷却水の温度を取得する。すなわち、これら大気圧センサ32で取得した大気圧、および水温センサ35で取得した冷却水の温度は、いずれも燃焼状態の指標となる。
【0061】
パイロット噴射回数変更部72は、燃焼状態指標取得部71で取得した燃焼状態の指標、すなわち大気圧および冷却水の温度が予め設定された安定燃焼範囲にあるか否かを判断し、パイロット噴射の回数を設定する。具体的には、パイロット噴射回数変更部72は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、パイロット噴射の回数を設定する。例えば大気圧が低いとき、あるいは冷却水の温度が低いとき、インジェクタ12から微量のパイロット噴射を行っても、パイロット噴射による燃料は着火性は低い。そのため、例えば標高が高い地域や、ディーゼルエンジンシステム10の始動直後のように冷却水の温度が低いとき、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態は悪化する。そこで、パイロット噴射回数変更部72は、燃焼状態指標取得部71で取得した大気圧および冷却水の温度がパイロット噴射による燃料が安定して燃焼する安定燃焼範囲にあるか否かを判断するとともに、パイロット噴射において安定した燃焼を得るための噴射の回数を設定する。記憶部46は、燃焼状態の指標である大気圧および冷却水の温度とパイロット噴射の回数nとの関係をマップとして記憶している。パイロット噴射回数変更部72は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、大気圧および冷却水の温度に対応するパイロット噴射の回数nを設定する。このように、パイロット噴射回数変更部72は、特許請求の範囲における安定燃焼範囲判断手段および燃焼量変更手段に相当する。
【0062】
次に、図20に基づいて第3実施形態によるディーゼルエンジンシステム10の制御について説明する。なお、図3に示す第1実施形態と実質的に同一の処理については、説明を省略する。
ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10が運転を開始すると、予め設定された間隔でディーゼルエンジンシステム10の運転状態を取得する(S301)。噴射量設定部41は、S301において取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて決定燃料噴射量Qdを設定する(S302)。これとともに、噴射量設定部41は、燃料の噴射においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する(S303)。
【0063】
噴射量設定部41は、S303においてパイロット噴射が必要であると判断されると(S303:Yes)、パイロット噴射における燃料噴射量Qpを設定する(S304)。S304でパイロット噴射における燃料噴射量Qpが設定されると、燃焼状態指標取得部71は機関本体11の冷却水の温度を取得する(S305)。すなわち、燃焼状態指標取得部71は、水温センサ35から機関本体11の冷却水の温度を取得する。さらに、燃焼状態指標取得部71は、大気圧センサ32から大気圧を取得する(S306)。噴射量設定部41は、S303においてパイロット噴射が必要でないと判断されると(S303:No)、処理を終了する。
【0064】
パイロット噴射回数変更部72は、パイロット噴射における回数nを設定する(S307)。具体的には、パイロット噴射回数変更部72は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、S305で取得した冷却水の温度、およびS306で取得した大気圧に対応するパイロット噴射の回数nを抽出する。噴射量設定部41は、S304で設定した燃料噴射量QpをS307で設定したパイロット噴射の回数nで除し、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxを設定する(S308)。インジェクタ駆動部42は、S308で設定されたパイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxに基づいてインジェクタ12を駆動し、パイロット噴射を実行する(S309)。上記の手順により、パイロット噴射は、大気圧および冷却水の温度に基づいて実行される。
【0065】
以上説明したように、第3実施形態では、パイロット噴射の回数nは、大気圧および冷却水の温度に基づいて設定される。そのため、パイロット噴射による燃料の着火性が低い条件のときでも、パイロット噴射の回数は適切に設定される。したがって、条件に関わらず、パイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0066】
また、第3実施形態では、パイロット噴射の回数nは、記憶部46に記憶されたマップに基づいて大気圧および冷却水の温度に対応する値として求められる。そのため、複雑な演算や追加の構成を必要としない。したがって、構成を簡単にしつつ、パイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0067】
(第4実施形態)
第4実施形態によるディーゼルエンジンシステムの燃料噴射制御装置を図21に示す。
第4実施形態の場合、燃料噴射制御装置80は、ECU31を備えている。ECU31は、大気圧センサ32、アクセル開度センサ33、回転数センサ34、水温センサ35および圧力センサ36と接続している。ECU31は、コンピュータプログラムを実行することにより、噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、セタン価推定部81およびパイロット噴射回数変更部82をソフトウェア的またはハードウェア的に実現している。ECU31は、記憶部46に接続している。第4実施形態の場合、第3実施形態と同様に筒内圧センサ37は必須の構成要素でない。
【0068】
セタン価推定部81は、燃焼室21におけるインジェクタ12から噴射される燃料のセタン価を取得する。燃焼室21における燃料の燃焼状態は、セタン価によって変化する。すなわち、燃料の燃焼状態は、燃料のセタン価に相関し、セタン価が高くなるほど向上する。そこで、セタン価推定部81は、燃料の燃焼状態の指標として燃料のセタン価を取得する。これにより、セタン価推定部81は、特許請求の範囲の燃焼状態指標取得手段に相当する。
【0069】
ここで、セタン価推定部81による燃料のセタン価の推定手順について図22に基づいて説明する。
セタン価推定部81は、パイロット噴射の回数を設定する制御とは非同期で平行して実行される。セタン価推定部81は、予め設定されたセタン価判定時期になると、回転数センサ34から機関本体11の回転数を取得する(S401)。セタン価判定時期は、例えば機関本体11の運転がアイドリング状態にあるときである。そして、セタン価推定部81は、S401で機関本体11の回転数を取得すると、機関本体11の回転の変動を取得する(S402)。具体的には、セタン価推定部81は、インジェクタ12からの燃料の噴射量を維持したまま、燃料の噴射時期を遅角側へ変化させる。そして、セタン価推定部81は、このように噴射時期を遅角側へ変化させつつ回転数センサ34から機関本体11の回転数の変化を取得する。燃料の噴射時期が遅角側へ変化するとき、燃料のセタン価が低いほど燃料の燃焼は不安定となりやすい。そこで、セタン価推定部81は、S402で取得した回転数の変動に基づいて、燃料のセタン価を推定する(S403)。推定されたセタン価は、記憶部46に記憶される。
【0070】
パイロット噴射回数変更部82は、セタン価推定部81で推定した燃焼状態の指標、すなわち燃料のセタン価が予め設定された安定燃焼範囲にあるか否かを判断し、パイロット噴射の回数を設定する。具体的には、パイロット噴射回数変更部82は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、パイロット噴射回数を設定する。例えばセタン価が低い燃料のとき、インジェクタ12から微量のパイロット噴射を行っても、パイロット噴射による燃料の着火性は低い。そのため、セタン価の低い燃料を用いたとき、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態は悪化する。そこで、パイロット噴射回数変更部82は、セタン価推定部81で推定した燃料のセタン価がパイロット噴射による燃料が安定して燃焼する安定燃焼範囲あるか否かを判断するとともに、パイロット噴射において安定した燃焼を得るための噴射の回数を設定する。記憶部46は、燃焼状態の指標である燃料のセタン価とパイロット噴射の回数nとの関係をマップとして記憶している。パイロット噴射回数変更部82は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、燃料のセタン価に対応するパイロット噴射の回数nを設定する。このように、パイロット噴射回数変更部82は、特許請求の範囲における安定燃焼範囲判断手段および燃焼量変更手段に相当する。
【0071】
次に、図23に基づいて第4実施形態によるディーゼルエンジンシステム10の制御について説明する。なお、第3実施形態と実質的に同一の処理については、説明を省略する。
ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10が運転を開始すると、予め設定された間隔でディーゼルエンジンシステム10の運転状態を取得する(S501)。噴射量設定部41は、S501において取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて決定燃料噴射量Qdを設定する(S502)。これとともに、噴射量設定部41は、燃料の噴射においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する(S503)。
【0072】
噴射量設定部41は、S503においてパイロット噴射が必要であると判断されると(S503:Yes)、パイロット噴射における燃料噴射量Qpを設定する(S504)。S504でパイロット噴射における燃料噴射量Qpが設定されると、セタン価推定部81は燃料のセタン価を取得する(S505)。具体的には、セタン価推定部81は、上述のようにパイロット噴射の回数の設定とは異なる時期に用いている燃料のセタン価を推定し、記憶部46に記憶している。そのため、セタン価推定部81は、記憶部46から既に推定した燃料のセタン価を取得する。噴射量設定部41は、S503においてパイロット噴射が必要でないと判断されると(S503:No)、処理を終了する。
【0073】
パイロット噴射回数変更部82は、パイロット噴射における回数nを設定する(S506)。具体的には、パイロット噴射回数変更部82は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、S505で取得した燃料のセタン価に対応するパイロット噴射の回数nを抽出する。噴射量設定部41は、S504で設定した燃料噴射量QpをS506で設定したパイロット噴射の回数nで除し、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxを設定する(S507)。インジェクタ駆動部42は、S507で設定されたパイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxに基づいてインジェクタ12を駆動し、パイロット噴射を実行する(S508)。上記の手順により、パイロット噴射は、燃料のセタン価に基づいて実行される。
以上説明したように、第4実施形態では、パイロット噴射の回数nは、燃料のセタン価に基づいて設定される。そのため、パイロット噴射による燃料の着火性が低い条件のときでも、パイロット噴射の回数は適切に設定される。したがって、条件に関わらず、パイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0074】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。上記で説明した複数の実施形態は、上記の説明のように単独での適用に限らず、それぞれ組み合わせて適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
図面中、10はディーゼルエンジンシステム(内燃機関)、11は機関本体(内燃機関本体)、12はインジェクタ、21は燃焼室、30、70、80は燃料噴射制御装置、34は回転数センサ(機関回転数検出手段)、37は筒内圧センサ(燃焼量検出手段)、41は噴射量設定部(噴射量設定手段)、42はインジェクタ駆動部(インジェクタ駆動手段)、43は燃焼量算出部(燃焼状態指標取得手段、燃焼量検出手段)、44は燃焼量範囲判断部(安定燃焼範囲判断手段)、45は燃焼量変更部(燃焼量変更手段)、51は流速推定部(流速推定手段)、52はパイロット噴射間隔設定部(パイロット噴射間隔設定手段)、71は燃焼状態指標取得部(燃焼状態指標取得手段)、72パイロット噴射回数変更部(安定燃焼範囲判断手段、燃焼量変更手段)、81はセタン価推定部(燃焼状態指標取得手段)、82はパイロット噴射回数変更部(安定燃焼範囲判断手段、燃焼量変更手段)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関は、主たる燃料の噴射であるメイン噴射に先立って燃料を噴射するパイロット噴射が行われている。パイロット噴射を行うことにより、噴射された燃料の着火が促され、騒音および燃料消費量の低減が図られる。このパイロット噴射は、メイン噴射に比較して微量の燃料を一回または複数回に分けて噴射する。このようにパイロット噴射で噴射される燃料は微量であるため、例えばセタン価の低い燃料などを用いると、着火遅れが拡大し、パイロット噴射による燃料の燃焼量の低下あるいは失火を招くおそれがある。
【0003】
特許文献1では、複数回に分割したパイロット噴射において、各パイロット噴射間の間隔を調整することが開示されている。特許文献1の場合、パイロット噴射の間隔は、先行するパイロット噴射で生成した冷炎に、後のパイロット噴射で形成された燃料噴霧が重ならないように設定されている。これにより、冷炎の成長が維持され、パイロット噴射における燃焼量は確保される。
【0004】
しかしながら、特許文献1の場合、噴射された燃料は燃焼することを前提としている。そのため、低温、大気圧が低い、あるいはセタン価の低い燃料を用いるなど燃料の着火性が低い条件の場合、燃料の着火が不十分となり、未燃焼の燃料は増大する。その結果、パイロット噴射における燃料の燃焼量は低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−299496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、条件に関わらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高める内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1から3のいずれか一項記載の発明では、燃焼量変更手段は、燃料の燃焼状態の指標が予め設定された安定燃焼範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数またはパイロット噴射の一回当たりの噴射量の少なくとも一方を変更する。これにより、燃焼量変更手段は、パイロット噴射における燃料の燃焼状態が不安定になるおそれがあるとき、パイロット噴射の回数または一回当たりの噴射量を変更し、パイロット噴射における燃料の着火を促す。パイロット噴射における燃料の失火を回避するには、パイロット噴射において噴射する燃料の総量を増すことが考えられる。しかし、燃料の総量が増すと、燃料の過剰な拡散による未燃焼の炭化水素(HC)の増加や騒音の増大を招く。そこで、燃焼量変更手段でパイロット噴射の回数または一回当たりの噴射量を変更することにより、インジェクタの近傍に比較的濃い混合気を生成させる。そのため、微量のパイロット噴射でも、噴射回数または一回当たりの噴射量を変更することにより、インジェクタの近傍に濃い混合気が生成される。その結果、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量は増加する。したがって、条件にかかわらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0008】
請求項2記載の発明では、燃焼量変更手段は、燃焼状態の指標が安定燃焼範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減じている。一回当たりの噴射量が減少すると、インジェクタから噴射される燃料の到達距離すなわち貫徹力は低下する。そのため、一回当たりの噴射量が減少した燃料は、インジェクタから噴射された後、インジェクタの近傍にとどまる。一方、貫徹力の小さなパイロット噴射を繰り返すことにより、一回当たりの噴射量が減少しても、インジェクタの周囲には比較的濃い混合気が生成する。これにより、パイロット噴射においてインジェクタから噴射される燃料の平均当量比は向上する。その結果、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量が増加する。したがって、燃料の性質にかかわらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0009】
請求項4から6のいずれか一項記載の発明では、パイロット噴射間隔設定手段は、二回以上実行されるパイロット噴射の間隔を制御する。すなわち、パイロット噴射間隔設定手段は、燃焼室に形成されるスワールの流速に基づいて、複数回に分けて噴射されるパイロット噴射の噴霧が互いに重なるようにパイロット噴射の間隔を調整する。燃焼室に形成されるスワールは、燃焼室の周方向へ旋回する。また、機関本体の回転数が低く、スワールの流速が小さいとき、インジェクタから噴射される燃料の噴霧は、インジェクタから周方向へ放射状に噴射されるとともに、スワールによって流されることなく、噴孔の近傍にとどまる。そのため、複数回のパイロット噴射の間隔を調整することにより、先のパイロット噴射で形成された燃料噴霧がとどまっているところへ次のパイロット噴射を行うと、同一の噴孔から形成された先のパイロット噴射における燃料噴霧と後のパイロット噴射における燃料噴霧とは重なり合う。一方、機関本体の回転数が高く、スワールの流速が大きいとき、インジェクタから噴射される燃料の噴霧は、インジェクタから周方向へ放射状に噴射されるとともに、スワールにのってインジェクタの軸を中心に周方向へ旋回する。そのため、複数回のパイロット噴射の間隔を調整することにより、先のパイロット噴射で形成された燃料噴霧がスワールにのって旋回したところへ次のパイロット噴射を行うと、異なる噴孔から形成された燃料噴霧同士は重なり合う。これにより、微量のパイロット噴射を分割してパイロット噴射一回当たりの噴射量が減少しても、インジェクタの周囲には燃料の割合が比較的高い混合気が生成される。したがって、着火性の向上とパイロット噴射における燃焼量の向上とを両立して達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態による燃料噴射制御装置を適用したディーゼルエンジンシステムを示す模式図
【図2】第1実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図3】第1実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【図4】燃料の噴射からの経過時間と燃料噴霧の平均当量比との関係を示す模式図
【図5】インジェクタの作動による燃焼量の変化を示す模式図
【図6】図4においてパイロット噴射による燃料噴射量の影響を示す模式図
【図7】図5においてパイロット噴射の回数を増した例を示す模式図
【図8】第1実施形態の変形例による処理の流れを示す概略図
【図9】第1実施形態の変形例による処理の流れを示す概略図
【図10】第2実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図11】インジェクタの噴孔を示す概略図
【図12】インジェクタの噴孔から形成される燃料噴霧を示す模式図
【図13】噴孔が10個のインジェクタにおける燃料噴霧を示す模式図
【図14】燃料の噴射からの経過時間と噴霧角との関係を示す模式図
【図15】インジェクタの噴孔から形成される燃料噴霧の関係を示す模式図
【図16】燃料の噴射からの経過時間と隣り合う燃料噴霧の移動角度との関係を示す模式図
【図17】燃料の噴射からの駆動時間と燃料噴霧の体積との関係を示す模式図
【図18】第2実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【図19】第3実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図20】第3実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【図21】第4実施形態による燃料噴射制御装置を示すブロック図
【図22】第4実施形態による燃料噴射制御装置におけるセタン価を推定する処理の流れを示す概略図
【図23】第4実施形態による燃料噴射制御装置の処理の流れを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、複数の実施形態による内燃機関の燃料噴射制御装置を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する
(第1実施形態)
まず、図1に示す内燃機関としてのディーゼルエンジンシステム10について説明する。ディーゼルエンジンシステム10は、機関本体11、インジェクタ12および燃料供給装置13を備えている。機関本体11は、シリンダブロック14、シリンダヘッド15、ピストン16およびクランクシャフト17などを有している。シリンダブロック14は、内側に複数のシリンダ18を形成している。シリンダヘッド15は、シリンダブロック14の端部に設けられている。ピストン16は、シリンダブロック14が形成するシリンダ18の内側を軸方向へ往復移動する。クランクシャフト17は、シリンダブロック14に収容されている。クランクシャフト17は、コンロッド19によってピストン16に接続している。ピストン16の往復運動は、コンロッド19を通してクランクシャフト17の回転運動に変換される。シリンダ18を形成するシリンダブロック14の内壁、シリンダヘッド15の内壁およびピストン16の端面は、相互の間に燃焼室21を形成している。
【0012】
インジェクタ12は、シリンダヘッド15を貫いて設けられている。インジェクタ12の先端は、燃焼室21に露出している。燃料供給装置13は、コモンレール22、燃料噴射ポンプ23および燃料タンク24を有している。燃料噴射ポンプ23は、燃料タンク24から吸入した燃料を加圧してコモンレール22へ供給する。コモンレール22は、燃料噴射ポンプ23で加圧された燃料を、圧力を維持した状態で貯える。コモンレール22は、インジェクタ12に接続している。これにより、コモンレール22に貯えられた燃料は、インジェクタ12に供給される。
【0013】
ディーゼルエンジンシステム10は、上記の構成に加え、吸気装置25および図示しない排気装置を有している。吸気装置25は、吸気管部材26およびスロットル27を有している。吸気管部材26は、吸気通路28を形成している。吸気通路28は、一方の端部が燃焼室21に接続し、図示しない他方の端部が大気に開放している。スロットル27は、吸気管部材26が形成する吸気通路28を開閉する。図示しない排気装置は、図示しない排気管部材および排気浄化部を有している。排気管部材は、図示しない排気通路を形成している。排気通路は、一方の端部が燃焼室21に接続し、他方の端部が大気に開放している。図示しない排気浄化部は、この排気通路の途中に設けられ、燃焼室21から排出された排気を浄化する。
【0014】
ディーゼルエンジンシステム10は、上記の構成に加え燃料噴射制御装置30を備えている。燃料噴射制御装置30は、ECU(Electronic Control Unit)31を備えている。ECU31は、大気圧センサ32、アクセル開度センサ33、回転数センサ34、水温センサ35および圧力センサ36と接続している。大気圧センサ32は、ディーゼルエンジンシステム10が運転されている環境における大気圧を検出する。大気圧センサ32は、検出した大気圧に基づく電気信号をECU31へ出力する。アクセル開度センサ33は、図示しないアクセルペダルの開度を検出する。アクセル開度センサ33は、検出したアクセルペダルの開度に基づく電気信号をECU31へ出力する。回転数センサ34は、機関本体11のクランクシャフト17の回転数を検出する。回転数センサ34は、検出したクランクシャフト17の回転数に基づく電気信号をECU31へ出力する。水温センサ35は、機関本体11の冷却水の温度を検出する。水温センサ35は、検出した冷却水の温度に基づく電気信号をECU31へ出力する。圧力センサ36は、コモンレール22に貯えられている燃料の圧力を検出する。圧力センサ36は、検出したコモンレール22における燃料の圧力に基づく電気信号をECU31へ出力する。また、ECU31は、筒内圧センサ37と接続している。筒内圧センサ37は、機関本体11に形成されている燃焼室21にそれぞれ設けられている。筒内圧センサ37は、燃焼室21における圧力を検出する。筒内圧センサ37は、検出した燃焼室21の圧力に基づく電気信号をECU31へ出力する。
【0015】
ECU31は、図示しないCPU、ROMおよびRAMからなるマイクロコンピュータで構成されている。ECU31は、ROMに記憶されているコンピュータプログラムにしたがってディーゼルエンジンシステム10の全体を制御する。ECU31は、コンピュータプログラムを実行することにより、図2に示すように噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、燃焼量算出部43、燃焼量範囲判断部44および燃焼量変更部45をソフトウェア的に実現している。これら、噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、燃焼量算出部43、燃焼量範囲判断部44および燃焼量変更部45は、ハードウェア的に実現してもよい。ECU31は、記憶部46に接続している。記憶部46は、例えば不揮発性メモリなどを有している。記憶部46は、ECU31のROMおよびRAMと共用してもよい。
【0016】
噴射量設定部41は、各インジェクタ12から燃焼室21へ噴射する燃料の噴射量を設定する。噴射量設定部41は、アクセル開度センサ33で検出したアクセルペダルの開度、および回転数センサ34で検出したクランクシャフト17の回転数に基づいて、インジェクタ12から噴射する燃料噴射量Qを設定する。このとき、噴射量設定部41は、大気圧センサ32で検出した大気圧、水温センサ35で検出した冷却水の温度、および各インジェクタ12の噴射特性などに基づいて、燃料噴射量Qを補正して決定燃料噴射量Qdを設定する。また、噴射量設定部41は、決定燃料噴射量Qdをメイン噴射における燃料噴射量Qmとパイロット噴射における燃料噴射量Qpとに分配する。
【0017】
インジェクタ駆動部42は、噴射量設定部41で設定した量の燃料を噴射するためにインジェクタ12を駆動する。インジェクタ駆動部42は、インジェクタ12の図示しない電磁駆動部に駆動信号を出力する。これにより、インジェクタ12は、燃料の噴射を断続する。インジェクタ12は、インジェクタ駆動部42からの駆動信号にしたがって、メイン噴射において噴射量設定部41で設定された燃料噴射量Qmを噴射し、パイロット噴射において燃料噴射量Qpを噴射する。ここで、メイン噴射は、インジェクタ12の一回の噴射時期における主たる噴射であり、決定燃料噴射量Qdのうちの大部分の燃料噴射量Qmを噴射する。一方、パイロット噴射は、メイン噴射に先立つ噴射であり、決定燃料噴射量Qdからメイン噴射における燃料噴射量Qmを減じた燃料噴射量Qpを噴射する。なお、パイロット噴射にさらに先立ってプレ噴射を実行したり、メイン噴射に続いてアフター噴射を実行する場合、決定燃料噴射量Qdからメイン噴射における燃料噴射量Qmだけでなくこれらの噴射における噴射量を減じた量がパイロット噴射における燃料噴射量Qpに相当する。
【0018】
燃焼量算出部43は、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態の指標として燃焼量を算出する。具体的には、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力を取得する。そして、燃焼量算出部43は、取得した燃焼室21の圧力に基づいて、メイン噴射およびパイロット噴射においてインジェクタ12から噴射された燃料の燃焼量を検出する。燃焼室21における圧力は、インジェクタ12から噴射された燃料が燃焼することにより上昇する。すなわち、燃焼室21の圧力は、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼量に相関する。これにより、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力から、燃焼室21における燃料の燃焼量を算出する。この燃焼量算出部43および筒内圧センサ37は、特許請求の範囲の燃焼量検出手段に相当するとともに、燃焼状態指標取得手段に相当する。
【0019】
燃焼量範囲判断部44は、燃焼量算出部43で算出したパイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲にあるか否かを判断する。上述のようにパイロット噴射によって噴射された燃料が燃焼室21において燃焼することにより、燃焼室21の圧力は変化する。しかし、燃料の特性、特にセタン価によっては、燃料の着火が不十分となり、燃焼量が所定の燃焼量範囲に含まれないおそれがある。そこで、燃焼量範囲判断部44は、燃焼量算出部43で算出したパイロット噴射における燃料の燃焼量が燃焼量範囲に含まれるか否かを判断する。燃焼量範囲は、機関本体11やインジェクタ12の特性に応じて設定され、記憶部46に記憶されている。燃焼量範囲判断部44は、燃焼量算出部43で算出した燃焼量を、記憶部46に記憶されている燃焼量範囲に基づいてこの燃焼量範囲に含まれるか否かを判断する。すなわち、燃焼量範囲判断部44は、燃焼状態の指標であるパイロット噴射における燃焼量が安定した燃焼を確保するための安定燃焼範囲つまり燃焼量範囲にあるか否かを判断する。これにより、燃焼量範囲判断部44は、特許請求の範囲における安定燃焼範囲判断手段に相当する。
【0020】
燃焼量変更部45は、燃焼量範囲判断部44でパイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数およびパイロット噴射一回当たりの噴射量を変更する。本実施形態の場合、燃焼量変更部45は、燃焼量範囲判断部44で燃焼量が不足していると判断されると、パイロット噴射の回数を一回増す。これにより、パイロット噴射の一回当たりの噴射量は減少する。このように、燃焼量変更部45は、燃焼量が不足しているとき、パイロット噴射の回数を増すとともに、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減じる。すなわち、燃焼量変更部45は、燃焼量範囲判断部44において燃焼状態の指標であるパイロット噴射における燃焼量が燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数およびパイロット噴射一回当たりの噴射量を変更する。
【0021】
次に、上記の構成によるディーゼルエンジンシステム10の制御について図3に基づいて説明する。
ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10が運転を開始すると、予め設定された間隔でディーゼルエンジンシステム10の運転状態を取得する(S101)。具体的には、ECU31は、アクセル開度センサ33からアクセルペダルの開度および回転数センサ34から機関本体11の回転数を取得する。これにより、ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10の運転状態すなわち負荷状態を取得する。
【0022】
噴射量設定部41は、S101において取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて決定燃料噴射量Qdを算出する(S102)。具体的には、噴射量設定部41は、S101で取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて基礎となる燃料噴射量Qを設定する。そして、噴射量設定部41は、この燃料噴射量Qを、大気圧センサ32で取得した大気圧、水温センサ35で検出した冷却水の温度、および各インジェクタ12の噴射特性などに基づいて補正し、決定燃料噴射量Qdを設定する。これとともに噴射量設定部41は、燃料の噴射においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する(S103)。例えばディーゼルエンジンシステム10が負荷の小さな状態で運転されているときなどのように、運転状態によってはパイロット噴射は必ずしも要求されない。そこで、噴射量設定部41は、S103においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する。
【0023】
噴射量設定部41は、S103においてパイロット噴射が必要であると判断されると(S103:Yes)、パイロット噴射における燃料噴射量Qpを設定する(S104)。すなわち、噴射量設定部41は、S102において設定した決定燃料噴射量Qdを、メイン噴射における燃料噴射量Qmとパイロット噴射における燃料噴射量Qpとに分配する。さらに、噴射量設定部41は、設定したパイロット噴射における燃料噴射量Qpをパイロット噴射の回数nで除し、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxを設定する(S105)。すなわち、噴射量設定部41は、燃料噴射量Qpをパイロット噴射の回数nで除して、燃料噴射量Qpx=Qp/nを算出する。このパイロット噴射の回数nは、初期値として「1」つまり初期値がn=1として設定されている。噴射量設定部41は、S103においてパイロット噴射が必要でないと判断されると(S103:No)、処理を終了する。
【0024】
インジェクタ駆動部42は、S105で設定されたパイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxに基づいてインジェクタ12を駆動し、パイロット噴射を実行する(S106)。具体的には、インジェクタ駆動部42は、この燃料噴射量Qpxに相当するインジェクタ12の開弁時間に応じた駆動信号をインジェクタ12へ出力する。これにより、インジェクタ12は、一回のパイロット噴射において燃料噴射量Qpxを燃焼室21へ噴射する。
【0025】
燃焼量算出部43は、S106においてインジェクタ12から燃料が噴射されると、燃焼量αを算出する(S107)。具体的には、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37からパイロット噴射における燃焼室21の圧力を取得する。そして、燃焼量算出部43は、取得した燃焼室21の圧力に基づいて、パイロット噴射による燃焼量αを算出する。上述のように、インジェクタ12から噴射された燃料は、燃焼室21において燃焼する。これにより、燃焼室21は、ピストン16の下死点から上死点への移動にともなう燃焼室21の体積の減少による圧力の上昇に加え、燃料の燃焼によっても上昇する。ピストン16の移動にともなう燃焼室21の圧力の変化はクランクシャフト17の角度に応じて規則的であるのに対し、燃料の燃焼による燃焼室21の圧力の上昇は不規則である。そのため、筒内圧センサ37で燃焼室21の圧力を検出することにより、燃料の燃焼にともなう圧力の変化は容易に取得される。この燃料の燃焼にともなう燃焼室21の圧力の変化は、燃料の燃焼量に相関する。つまり、燃焼室21において燃焼する燃料の量が多くなるほど、燃焼室21における圧力の変化は大きくなる。これにより、燃料の燃焼量αは、一回のパイロット噴射で噴射する燃料噴射量Qpx、および筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力が得られれば算出することができる。燃焼量算出部43は、S105で設定された一回のパイロット噴射で噴射する燃料噴射量Qpxと、筒内圧センサ37で検出した燃焼室21の圧力とから燃料の燃焼量αを算出する。
【0026】
燃焼量範囲判断部44は、S107で算出した燃焼量αが燃焼量範囲にあるか否か、すなわち燃焼量αが下限燃焼量K1よりも大きいか否かを判断する(S108)。燃焼量範囲判断部44は、S107で算出した燃焼量αと、記憶部46に記憶されている下限燃焼量K1とを比較して、K1<αであるか否かを判断する。
【0027】
燃焼量変更部45は、S108において燃焼量αが下限燃焼量K1より大きいと判断すると(S108:Yes)、燃料が正常に着火していると判断し、処理を終了する。一方、燃焼量変更部45は、S108において燃焼量αが下限燃焼量K1以下であると判断すると、つまりα≦K1であると判断すると、パイロット噴射の回数nを一回増す(S109)。すなわち、燃焼量変更部45は、α≦K1のとき、パイロット噴射の回数nを「n+1」回とする。
【0028】
S109においてパイロット噴射の回数nが「n+1」に増加すると、ECU31の処理はS101へリターンし、S101以降の処理を繰り返す。S101以降の処理を繰り返すとき、噴射量設定部41は、S104において算出した燃料噴射量QpをS109で再設定したパイロット噴射の回数「n+1」で除す。そのため、S106で実行されるパイロット噴射は、前回に比較して一回増加するとともに、一回当たりの燃料の噴射量が減少する。
【0029】
次に、上記の構成によるディーゼルエンジンシステム10の作用について説明する。
インジェクタ12から噴射された燃料は、噴射量が多く、噴射時間が長くなるほど、燃焼室21内において遠い位置まで到達する。すなわち、噴射量が多く、噴射時間が長い燃料の噴霧は、貫徹力が大きくなる。一方、パイロット噴射のように噴射量が少なく、噴射時間が短くなると、インジェクタ12から噴射された燃料は貫徹力が小さくなりインジェクタ12の周囲にとどまりやすい。これは、噴射量が小さくかつ噴射時間が短くなるほど、インジェクタ12の図示しないニードルと弁座との間に形成される燃料通路は小さくなるからである。このように噴射量が小さく噴射時間が短いとき、インジェクタ12の図示しない噴孔に流入する燃料は、ニードルと弁座との間の微少な隙間を通過する。そのため、噴孔に流入する燃料は、ニードルと弁座との間の隙間における絞り効果によって流速が低下する。その結果、噴射量が小さく噴射時間が短いとき、インジェクタ12の噴孔から噴射された燃料は、運動エネルギーが小さく、インジェクタ12の周囲にとどまりやすくなる。
【0030】
図4に示すように、一般にインジェクタ12から噴射された燃料の平均当量比は、噴射開始からの時間が経過するにつれて低下する。そのため、燃料が噴射されて燃料が着火するまでの期間、すなわち着火遅れが大きくなると、インジェクタ12から噴射された燃料噴霧は燃焼室21の空気と混合し、その平均当量比は低下する。その結果、平均当量比の低下にともない、インジェクタ12から噴射された燃料はさらに着火性が低下する。図5に示すように、燃料の噴射の時期と噴射された燃料の燃焼による熱発生の時期とは、着火遅れによってずれが生じる。上述のように、着火遅れが生じると、平均当量比が低下するため、燃料の着火性も低下すなわち熱発生量も低下する。特に図5の破線に示すようにセタン価の低い燃料は、着火遅れによる平均当量比の低下の影響が大きくなる。つまり、セタン価が高い燃料は、パイロット噴射時の着火遅れによって平均当量比が低下しても、着火性が維持され、燃料の燃焼による熱が発生する。一方、セタン価が低い燃料は、パイロット噴射時の着火遅れによる平均当量比の低下の影響が大きく、噴射された燃料の燃焼が不十分な失火状態になりやすい。
【0031】
ここで、パイロット噴射時における失火を低減するためにパイロット噴射における燃料の噴射量を増すと、燃焼室21における燃料の過剰な拡散を招く。そのため、未燃焼の炭化水素(HC)の増加を招くおそれがある。また、パイロット噴射における燃料の噴射量を増すと、パイロット噴射とメイン噴射とが重なり、全体として燃料の燃焼量の増大が生じる。その結果、騒音の増加を招くおそれがある。
【0032】
そこで、本実施形態の場合、パイロット噴射における燃料噴射量Qpは変更することなく、一回当たりの噴射量は低減しつつ噴射回数は増している。図6に示すように、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減少させると、燃料の噴射からの経時的な平均当量比の変化は上方へシフトつまり平均当量比が増加する側へ遷移する。そのため、着火遅れがセタン価の高い燃料よりも長い着火遅れBの場合でも、パイロット噴射一回当たりの燃料の噴射量が減少するにつれて平均当量比は向上する。これは、上述のように、パイロット噴射の回数を増しつつパイロット噴射一回当たりの燃料の噴射量を減ずることにより、インジェクタ12から噴射された燃料はインジェクタ12の周囲にとどまり、インジェクタ12の周囲において比較的濃い混合気を生成するからである。これにより、着火性が低いセタン価の低い燃料であっても、パイロット噴射における燃料の総量を増すことなく燃料の着火性を維持することができる。その結果、図7に示すように、分割されたパイロット噴射によって噴射された燃料は、燃焼が促進され、燃焼量が増大する。
【0033】
以上説明した第1実施形態では、燃焼量変更部45は、パイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲に無いと判断されると、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射の一回当たりの噴射量を減じている。これにより、燃焼量変更部45は、パイロット噴射における燃料の燃焼量が不足するとき、パイロット噴射における燃料の着火を促す。すなわち、燃焼量変更部45は、パイロット噴射の回数を増し、パイロット噴射一回当たりの噴射量を減ずることにより、インジェクタ12の近傍に比較的濃い混合気を生成させる。その結果、セタン価の低い燃料であっても、パイロット噴射における燃料の燃焼が促進され、燃焼量は増加する。したがって、燃料の性質にかかわらずパイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0034】
(変形例)
第1実施形態の変形例について説明する。
図3に示す第1実施形態における処理では、S107においてパイロット噴射における燃焼量αを算出し、算出した燃焼量αに基づいてパイロット噴射の回数を変化させる例について説明した。
しかし、パイロット噴射の回数は、燃焼量αに限らず、他のパラメータに基づいて変更する構成としてもよい。
パラメータの一例として着火遅れを用いる処理を図8に示す。図8は、図3におけるS107の処理を置き換えるものである。図3に示すS106においてパイロット噴射が実行されると、インジェクタ駆動部42は引き続きメイン噴射を実行する(S111)。このとき、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37からメイン噴射における燃焼室21の圧力を取得する(S112)。そして、燃焼量算出部43は、S112で取得した燃焼室21の圧力に基づいて熱発生率を算出する(S113)。この熱発生率は、機関本体11のクランクシャフトの回転角度に対する発生熱量の変化を示す。
【0035】
燃焼量算出部43は、S113で算出した熱発生率に基づいて、メイン噴射の着火時期を検出する(S114)。インジェクタ12からメイン噴射が実行されると、噴射された燃料は燃焼室21において燃焼する。そのため、噴射された燃料が着火すると、S113で算出した熱発生率は急激に変化する。燃焼量算出部43は、この燃焼室21における熱発生率の変化に基づいてメイン噴射における着火時期を検出する。さらに、燃焼量算出部43は、S114で検出した着火時期に基づいて、メイン噴射における着火遅れ時間を算出する(S115)。着火遅れ時間は、メイン噴射におけるインジェクタ12からメイン噴射の開始から燃料の着火までの時間である。例えば燃料のセタン価が低くなるほど、または冷却水の温度若しくは大気圧が低くなるほど、メイン噴射における着火遅れ時間は大きくなる。このように、メイン噴射における着火遅れが大きくなる条件では、パイロット噴射における着火も遅れが生じやすく、燃焼が不安定になる。そこで、燃焼量範囲判断部44は、図3に示すS108において、S115で算出したメイン噴射の着火遅れ時間が上限着火遅れ時間よりも短いか否かを判断する。燃焼量変更部45は、S108においてメイン噴射の着火遅れ時間が上限着火遅れ時間よりも短いと判断すると、燃料の燃焼状態が安定していると判断し、処理を終了する。一方、燃焼量変更部45は、S108においてメイン噴射の着火遅れ時間が上限着火遅れ時間よりも長いと判断すると、燃料の燃焼状態が不安定であると判断する。したがって、燃焼量変更部45は、S109において、パイロット噴射の回数nを一回増す。
【0036】
また、パラメータの一例としてIMEPを用いる処理を図9に示す。図9は、図8と同様に図3におけるS107の処理を置き換えるものである。図3に示すS106においてパイロット噴射が実行されると、インジェクタ駆動部42は引き続きメイン噴射を実行する(S121)。このとき、燃焼量算出部43は、筒内圧センサ37からパイロット噴射およびメイン噴射を含めた燃焼室21の圧力を取得する(S122)。そして、燃焼量算出部43は、S122で取得した燃焼室21の圧力に基づいてIMEP(Indicated Mean Effective Pressure:図示平均有効圧)を算出する(S123)。
【0037】
燃焼量算出部43は、S123でIMEPが算出されると、COVを算出する(S124)。このCOVは、S124で算出したIMEPのばらつき割合である。COVすなわちIMEPのばらつき割合は、例えば燃料のセタン価が低くなるほど、または冷却水の温度若しくは大気圧が低くなるほど、大きくなる。つまり、COVは、燃料の燃焼が不安定になるほど大きくなる。そこで、燃焼量範囲判断部44は、図3に示すS108において、S124で算出したCOVが予め設定した範囲にあるか否かを判断する。燃焼量変更部45は、S108においてCOVが予め設定した範囲にあると判断すると、燃料の燃焼状態が安定していると判断し、処理を終了する。一方、燃焼量変更部45は、S108においてCOVが予め設定した範囲を超えていると判断すると、燃料の燃焼状態が不安定であると判断する。したがって、燃焼量変更部45は、S109においてパイロット噴射の回数nを一回増す。
このように、パイロット噴射の回数nは、機関本体11から取得される各種のパラメータに基づいて設定することができる。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態によるディーゼルエンジンシステムの構成を図10に示す。
第2実施形態のディーゼルエンジンシステム10は、図2に示す第1実施形態の構成に加え、図10に示すように流速推定部51およびパイロット噴射間隔設定部52を備えている。回転数センサ34は、特許請求の範囲の機関回転数検出手段を構成している。流速推定部51およびパイロット噴射間隔設定部52は、ECU31においてコンピュータプログラムを実行することによりソフトウェア的またはハードウェア的に実現されている。
【0039】
流速推定部51は、回転数センサ34で検出した機関本体11のクランクシャフト17の回転数に基づいて、燃焼室21に吸入された空気が形成するスワールの流速を推定する。吸気通路28から燃焼室21へ吸入された空気は、燃焼室21の軸すなわちシリンダ18の軸を中心に旋回するスワールと言われる流れを形成する。このスワールは、燃焼室21に吸入される吸気の流速に相関する。また、燃焼室21に吸入される吸気の流速は、機関本体11の回転数が増加するほど増大する。すなわち、スワールの流速は、機関本体11の回転数に相関する。そこで、流速推定部51は、回転数センサ34で検出した機関本体11の回転数に基づいてスワールの流速を推定する。具体的には、流速推定部51は、回転数センサ34で検出した機関本体11の回転数から、予め設定された関数に基づいてスワールの流速つまりスワールの角速度を推定、または予め記憶部46に記憶されているマップにしたがってスワールの流速つまりスワールの角速度を推定する。なお、流速推定部51は、大気圧センサ32で検出した大気圧に基づいて、回転数から推定したスワールの流速を補正する構成としてもよい。
【0040】
パイロット噴射間隔設定部52は、パイロット噴射の間隔を制御する。第2実施形態の場合、パイロット噴射は、メイン噴射に先立って二回以上実行される。パイロット噴射間隔設定部52は、この二回以上実行されるパイロット噴射の間隔を制御する。具体的には、パイロット噴射間隔設定部52は、流速推定部51において推定したスワールの流速に基づいてパイロット噴射の間隔を制御する。インジェクタ12は、図11に示すようにボディ60の先端に周方向へ等間隔で複数の噴孔61を有している。これにより、インジェクタ12から噴射される燃料は、図12に示すようにインジェクタ12の軸を中心に放射状の複数の燃料噴霧62を形成する。第1実施形態で説明したようにパイロット噴射で噴射される燃料は微量かつ短期間であるため、インジェクタ12から噴射された燃料は貫徹力が小さく噴霧がインジェクタ12の噴孔61の近傍に形成される。一方、燃焼室21においては、図12の矢印Sで示すように燃焼室21の軸を中心として旋回するスワールが形成されている。そのため、インジェクタ12の噴孔61の近傍に形成された燃料噴霧62は、スワールにのってインジェクタ12の軸を中心にインジェクタ12の周方向へ旋回する。
【0041】
このように燃料噴霧62は、スワールにのってインジェクタ12の軸を中心に旋回する。そのため、二回以上のパイロット噴射を実行する場合、この二回以上のパイロット噴射の間隔を制御することにより、先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62に、後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62を重ねることができる。すなわち、先のパイロット噴射によってある噴孔61から形成された燃料噴霧62がスワールにのって旋回し、別の噴孔61の延長線上に位置したとき、後のパイロット噴射を実行すると、二つの燃料噴霧62は互いに重なる。
【0042】
具体的には、インジェクタ12が周方向へ等間隔に10個の噴孔61を有する場合、図13に示すように放射状に形成される燃料噴霧62は、その中心同士が約36°間隔となる。この燃料噴霧62同士の間隔は、インジェクタ12に設けられる噴孔61の数によって変化する。また、このとき、インジェクタ12の噴孔61から噴射される燃料噴霧62は、約20°程度の広がりをもって形成される。すなわち、インジェクタ12の噴孔61から噴射される燃料噴霧62の噴霧角は、約20°となる。この噴霧角は、図14に示す例の場合、パイロット噴射の開始から0.2m秒程度の短期間で一定となる。また、噴霧角は、パイロット噴射一回当たりの噴射量が減少しても、約15°程度の十分な広がりを有している。
【0043】
ここで、スワール比が2.2の機関本体11に、10個の噴孔61を有するインジェクタ12を備えた機関本体11を例に説明する。燃料噴霧62は、紡錘形に近似した形状を有している。そのため、図15に示すようにスワールにのって旋回する燃料噴霧62の旋回方向前方側の移動角度はDa、旋回する燃料噴霧62の旋回方向後方側の移動角度はDb、旋回する燃料噴霧62の中心間の移動角度はDcとする。図14に示す噴霧角の経時的な変化を考慮すると、インジェクタ12の周方向において隣り合う噴孔61から噴射された燃料噴霧62は図16に示すような角度範囲に形成される。図16における噴射開始からの時間は、機関本体11のクランクシャフト17の回転角度を示している。これにより、第一回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62と第二回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62とを重ねるためには、「噴射の間隔=(噴孔の間隔−噴霧角)/スワール角速度」として求められる。すなわち、噴射の間隔は、流速推定部51で推定したスワールの流速つまりスワールの角速度に基づいて制御することができる。
【0044】
図15および図16に示す場合、燃料噴霧62の噴霧角は20°程度である。そのため、第一回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62に第二回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62の少なくとも一部を重ねるためには、最短でクランクシャフト17の回転角度が7°程度、最長でクランクシャフト17の回転角度が27°程度である。すなわち、第一回目のパイロット噴射からクランクシャフト17の回転角度が7°〜27°の範囲の期間に第二回目のパイロット噴射を実行すると、二つのパイロット噴射で形成された燃料噴霧62は互いに重なり合う。したがって、流速推定部51は回転数センサ34で取得した機関本体11のクランクシャフト17の回転速度からスワールの流速を推定し、パイロット噴射間隔設定部52は取得したクランクシャフト17の回転角度に応じて複数のパイロット噴射の時期を制御する。
【0045】
このように複数回のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62を重ねることにより、パイロット噴射の分割によって一回当たりの燃料の噴射量が減少したときでも、複数の噴霧が合成される。このとき、第二回目のパイロット噴射の燃料噴霧は、第一回目のパイロット噴射で形成された燃料噴霧に向けて形成される。これにより、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧と第二回目のパイロット噴射による燃料噴霧とが重なりあった部分、すなわち燃料噴霧同士が合成された部分の燃料噴霧の体積は、第一回目の燃料噴霧および第二回目の燃料噴霧の単独の体積よりも減少する。つまり、本実施形態の場合、第一回目のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧は、第二回目のパイロット噴射までの間に拡散する。そして、この拡散した第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧に向けて第二回目のパイロット噴射を実行している。これにより、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧と第二回目のパイロット噴射による燃料噴霧とが重なり合って濃い混合気を形成する部分の体積は、第一回目および第二回目のパイロット噴射による単独の燃料噴霧の体積よりも小さくなる。そのため、図17に示すように二回のパイロット噴射で合成された濃い混合気からなる燃料噴霧62の体積は、合成されない場合の単独の燃料噴霧の体積と比較して減少する。一方、二回のパイロット噴射の燃料噴霧を合成することにより、合成した燃料噴霧は、単独の燃料噴霧よりも燃料の濃度が高くなる。すなわち、二回のパイロット噴射を合成した燃料噴霧は、その混合気における燃料の濃度が高くなる。その結果、インジェクタ12から噴射された燃料は、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量が減少しても、インジェクタ12の噴孔61の近傍に比較的濃い混合気を形成する。これにより、パイロット噴射一回当たりの燃料の噴射量が微量であっても、インジェクタの近傍で平均当量比が増加し、燃料の着火性が向上する。
【0046】
次に、上記の構成による第2実施形態によるディーゼルエンジンシステム10の処理の流れについて図18に基づいて説明する。
図18に示す処理の流れは、複数回に分割されたパイロット噴射の噴射時期を設定するものである。そのため、図3に示す第1実施形態における処理の流れにおいて、S108に後続して実行される。
【0047】
流速推定部51は、機関本体11のクランクシャフト17の回転数を取得する(S201)。すなわち、流速推定部51は、回転数センサ34からクランクシャフト17の回転数を取得する。流速推定部51は、S201で取得した回転数に基づいて、スワールの流速を推定する(S202)。すなわち、流速推定部51は、クランクシャフト17の回転数に相関するスワールの角速度Sを推定する。
【0048】
パイロット噴射間隔設定部52は、S202で推定したスワールの角速度を用いて、複数回のパイロット噴射の間隔ΔTを算出する(S203)。パイロット噴射間隔設定部52は、インジェクタ12の周方向における噴孔61の間隔θ、S202で取得したスワールの角速度S、調整時間t、および重ね合わせる燃料噴霧62の数nから、パイロット噴射の噴射間隔ΔTを、ΔT=(α/S−t)/nで算出する。パイロット噴射の噴射間隔ΔTは、クランクシャフト17の回転角度として算出される。噴孔61の間隔θは、インジェクタ12によって既知の値である。そのため、噴孔61の間隔θは、例えば記憶部46などに記憶されている。調整時間tは、パイロット噴射の間隔を調整するための任意の値である。
【0049】
パイロット噴射間隔設定部52は、S203で算出したパイロット噴射の噴射間隔ΔTから、燃料噴霧62を重ね合わせるための最短噴射間隔ΔTminを算出する(S204)。パイロット噴射間隔設定部52は、インジェクタ12の噴孔61の間隔、S202で取得したスワールの角速度S、および各噴孔61から形成される燃料噴霧62の噴霧角βを用いて、最短噴射間隔ΔTminを、ΔTmin=(θ−β)/Sとして算出する。
【0050】
パイロット噴射間隔設定部52は、S203において算出した噴射間隔ΔTと重ね合わせる燃料噴霧62の数nとの積がS204において算出した最短噴射間隔ΔTminより大きいか否かを判断する(S205)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、ΔTmin<ΔT×nであるか否かを判断する。ここで、最短噴射間隔ΔTminが噴射間隔ΔTと重ね合わせる燃料噴霧62の数nとの積以下、つまりΔT×n≦ΔTminであると判断されると(S205:No)、パイロット噴射間隔設定部52は重ね合わせる燃料噴霧62の数を「1」増加する(S206)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、重ね合わせる燃料噴霧62の数nをn=n+1とする。ΔT×n≦ΔTminであるとき、複数回のパイロット噴射で形成された燃料噴霧62は、互いに重なり合わないことになる。つまり、後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62は、先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧62の相互間に形成され、互いに重なり合わない。そこで、パイロット噴射間隔設定部52は、ΔT×n≦ΔTminであるとき重なり合わせる燃料噴霧62の数を増し、各パイロット噴射で形成された燃料噴霧62同士が重なり合うように設定する。そして、パイロット噴射間隔設定部52は、S203へリターンし、S203以降の処理を繰り返す。
【0051】
一方、パイロット噴射間隔設定部52は、S205において噴射間隔ΔTと重ね合わせる燃料噴霧62の数nとの積が最短噴射間隔ΔTminより大きいと判断すると(S205:Yes)、第一回目のパイロット噴射から第n回目のパイロット噴射までの総噴射期間Tを算出する(S207)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、総噴射期間Tを、噴射間隔ΔTおよびパイロット噴射の回数nから、T=ΔT×nとして算出する。
【0052】
パイロット噴射間隔設定部52は、S207においてパイロット噴射の総噴射期間Tを算出すると、総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まるか否かを判断する(S208)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、T<Tmaxであるか否かを判断する。この制限期間は、パイロット噴射の期間として許容される最大値であり、例えば記憶部46などに記憶されている。この総噴射期間Tが制限期間Tmax以上になると、パイロット噴射とメイン噴射との間隔が過小になり、燃料の安定した燃料の妨げになる。そこで、パイロット噴射間隔設定部52は、総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まるか否かを判断する。
【0053】
パイロット噴射間隔設定部52は、S208において総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まらないと判断すると(S208:No)、調整時間tを減少させる(S209)。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、S203における噴射間隔ΔTの算出に用いた調整時間tを小さくし、総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まるように調整する。そして、パイロット噴射間隔設定部52は、S203へリターンし、S203以降の処理を繰り返す。一方、パイロット噴射間隔設定部52は、S208において総噴射期間Tが制限期間Tmaxに収まると判断すると(S208:Yes)、インジェクタ12からパイロット噴射を実行し(S210)、処理を完了する。
【0054】
以上の手順により、ECU31は、パイロット噴射を複数回実行するとき、各パイロット噴射で形成された燃料噴霧62同士を重ね合わせている。
第2実施形態では、パイロット噴射間隔設定部52は、二回以上実行されるパイロット噴射の間隔を制御する。すなわち、パイロット噴射間隔設定部52は、燃焼室21に形成されるスワールの流速つまりスワールの角速度に基づいて、複数回に分けて噴射されるパイロット噴射の燃料噴霧62が互いに重なるようにパイロット噴射の間隔を調整する。これにより、微量のパイロット噴射を分割してパイロット噴射一回当たりの噴射量が減少しても、インジェクタ12の周囲には燃料の割合が比較的高い混合気が生成される。したがって、着火性の向上とパイロット噴射における燃焼量の向上とを両立して達成することができる。
【0055】
なお、第2実施形態では、隣接する噴孔61から形成された燃料噴霧62同士を重ね合わせる例について説明した。しかし、スワールの流速に応じて、一つおき、または二つおき以上の噴孔61から形成された燃料噴霧62同士を重ね合わせてもよい。つまり、先のパイロット噴射である噴孔61から形成した燃料噴霧62に、次のパイロット噴射でその隣の噴孔61から形成した燃料噴霧62を重ねるのではなく、遠い位置の噴孔61から形成した燃料噴霧62を形成してもよい。また、同様に、重ね合わせる燃料噴霧62のパイロット噴射の時期も任意に設定することができる。例えば、三回のパイロット噴射を実行するとき、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧62と第二回目のパイロット噴射による燃料噴霧62とを重ね合わせるだけでなく、第一回目のパイロット噴射による燃料噴霧62と第三回目のパイロット噴射による燃料噴霧62とを重ね合わせてもよい。
【0056】
また、機関本体11の回転数が低い場合、燃焼室21に形成されるスワールの流速が小さいことがある。この場合、インジェクタ12の噴孔61から形成された燃料噴霧62は、スワールにのって他の噴孔61側へ旋回することなく、噴射された噴孔61の近傍にとどまることになる。すなわち、スワールの流速が小さいとき、ある特定の噴孔61から噴射された燃料噴霧62は他の噴孔61側へほとんど旋回しない。そこで、パイロット噴射間隔設定部52は、回転数センサ34で検出した機関本体11のクランクシャフト17の回転数が境界回転数以上であるか否かを判断する。これにより、パイロット噴射間隔設定部52は、機関本体11の運転状態が、燃焼室21に形成されるスワールの流速が大きな高回転領域であるか、燃焼室21に形成されるスワールの流速が小さな低回転領域であるかを判断する。この境界回転数は、機関本体11の特性などに応じて予め設定されている。この場合、パイロット噴射間隔設定部52は、クランクシャフト17の回転数に限らず、流速推定部51で推定したスワールの流速に基づいて機関本体11の運転状態を判断してもよい。
【0057】
パイロット噴射間隔設定部52は、機関本体11の回転数が境界回転数よりも低いと判断したとき、インジェクタ12の複数の噴孔61のうち特定の噴孔61から形成された燃料噴霧62に、この特定の噴孔61から噴射された燃料噴霧62を重ねる。すなわち、境界回転数よりも低い低回転領域では、燃焼室21に形成されるスワールの流速は小さい。そのため、特定の噴孔61から形成された燃料噴霧62は、スワールによって旋回することなく、この特定の噴孔61の周辺にとどまる。これにより、パイロット噴射間隔設定部52は、先に形成した燃料噴霧62に対し、この先の燃料噴霧62と同一の噴孔61から後の燃料噴霧62を形成し、同一の噴孔61から形成された先の燃料噴霧62と後の燃料噴霧62とを重ねる。その結果、機関本体11の回転数が低く、スワールの流速が小さいときでも、複数の噴射で形成された燃料噴霧62を重ねることができる。
【0058】
一方、パイロット噴射間隔設定部52は、機関本体11の回転数が境界回転数以上であると判断したとき、上述のようにインジェクタ12の複数の噴孔61のうち特定の噴孔61から形成された燃料噴霧62に、この特定の噴孔61と異なる噴孔61から形成された燃料噴霧62を重ねる。これにより、スワールの流速に関わらず、複数の噴射で形成された燃料噴霧62を重ねることができる。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態によるディーゼルエンジンシステムの燃料噴射制御装置を図19に示す。
第3実施形態の場合、燃料噴射制御装置70は、ECU31を備えている。ECU31は、大気圧センサ32、アクセル開度センサ33、回転数センサ34、水温センサ35および圧力センサ36と接続している。ECU31は、コンピュータプログラムを実行することにより、噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、燃焼状態指標取得部71およびパイロット噴射回数変更部72をソフトウェア的またはハードウェアに実現している。ECU31は、記憶部46に接続している。第3実施形態の場合、第1実施形態や第2実施形態における筒内圧センサ37は必須の構成要素でない。
【0060】
燃焼状態指標取得部71は、燃焼室21におけるインジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態の指標を取得する。具体的には、燃焼状態指標取得部71は、大気圧センサ32から大気圧を取得し、水温センサ35から機関本体11の冷却水の温度を取得する。すなわち、これら大気圧センサ32で取得した大気圧、および水温センサ35で取得した冷却水の温度は、いずれも燃焼状態の指標となる。
【0061】
パイロット噴射回数変更部72は、燃焼状態指標取得部71で取得した燃焼状態の指標、すなわち大気圧および冷却水の温度が予め設定された安定燃焼範囲にあるか否かを判断し、パイロット噴射の回数を設定する。具体的には、パイロット噴射回数変更部72は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、パイロット噴射の回数を設定する。例えば大気圧が低いとき、あるいは冷却水の温度が低いとき、インジェクタ12から微量のパイロット噴射を行っても、パイロット噴射による燃料は着火性は低い。そのため、例えば標高が高い地域や、ディーゼルエンジンシステム10の始動直後のように冷却水の温度が低いとき、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態は悪化する。そこで、パイロット噴射回数変更部72は、燃焼状態指標取得部71で取得した大気圧および冷却水の温度がパイロット噴射による燃料が安定して燃焼する安定燃焼範囲にあるか否かを判断するとともに、パイロット噴射において安定した燃焼を得るための噴射の回数を設定する。記憶部46は、燃焼状態の指標である大気圧および冷却水の温度とパイロット噴射の回数nとの関係をマップとして記憶している。パイロット噴射回数変更部72は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、大気圧および冷却水の温度に対応するパイロット噴射の回数nを設定する。このように、パイロット噴射回数変更部72は、特許請求の範囲における安定燃焼範囲判断手段および燃焼量変更手段に相当する。
【0062】
次に、図20に基づいて第3実施形態によるディーゼルエンジンシステム10の制御について説明する。なお、図3に示す第1実施形態と実質的に同一の処理については、説明を省略する。
ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10が運転を開始すると、予め設定された間隔でディーゼルエンジンシステム10の運転状態を取得する(S301)。噴射量設定部41は、S301において取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて決定燃料噴射量Qdを設定する(S302)。これとともに、噴射量設定部41は、燃料の噴射においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する(S303)。
【0063】
噴射量設定部41は、S303においてパイロット噴射が必要であると判断されると(S303:Yes)、パイロット噴射における燃料噴射量Qpを設定する(S304)。S304でパイロット噴射における燃料噴射量Qpが設定されると、燃焼状態指標取得部71は機関本体11の冷却水の温度を取得する(S305)。すなわち、燃焼状態指標取得部71は、水温センサ35から機関本体11の冷却水の温度を取得する。さらに、燃焼状態指標取得部71は、大気圧センサ32から大気圧を取得する(S306)。噴射量設定部41は、S303においてパイロット噴射が必要でないと判断されると(S303:No)、処理を終了する。
【0064】
パイロット噴射回数変更部72は、パイロット噴射における回数nを設定する(S307)。具体的には、パイロット噴射回数変更部72は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、S305で取得した冷却水の温度、およびS306で取得した大気圧に対応するパイロット噴射の回数nを抽出する。噴射量設定部41は、S304で設定した燃料噴射量QpをS307で設定したパイロット噴射の回数nで除し、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxを設定する(S308)。インジェクタ駆動部42は、S308で設定されたパイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxに基づいてインジェクタ12を駆動し、パイロット噴射を実行する(S309)。上記の手順により、パイロット噴射は、大気圧および冷却水の温度に基づいて実行される。
【0065】
以上説明したように、第3実施形態では、パイロット噴射の回数nは、大気圧および冷却水の温度に基づいて設定される。そのため、パイロット噴射による燃料の着火性が低い条件のときでも、パイロット噴射の回数は適切に設定される。したがって、条件に関わらず、パイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0066】
また、第3実施形態では、パイロット噴射の回数nは、記憶部46に記憶されたマップに基づいて大気圧および冷却水の温度に対応する値として求められる。そのため、複雑な演算や追加の構成を必要としない。したがって、構成を簡単にしつつ、パイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0067】
(第4実施形態)
第4実施形態によるディーゼルエンジンシステムの燃料噴射制御装置を図21に示す。
第4実施形態の場合、燃料噴射制御装置80は、ECU31を備えている。ECU31は、大気圧センサ32、アクセル開度センサ33、回転数センサ34、水温センサ35および圧力センサ36と接続している。ECU31は、コンピュータプログラムを実行することにより、噴射量設定部41、インジェクタ駆動部42、セタン価推定部81およびパイロット噴射回数変更部82をソフトウェア的またはハードウェア的に実現している。ECU31は、記憶部46に接続している。第4実施形態の場合、第3実施形態と同様に筒内圧センサ37は必須の構成要素でない。
【0068】
セタン価推定部81は、燃焼室21におけるインジェクタ12から噴射される燃料のセタン価を取得する。燃焼室21における燃料の燃焼状態は、セタン価によって変化する。すなわち、燃料の燃焼状態は、燃料のセタン価に相関し、セタン価が高くなるほど向上する。そこで、セタン価推定部81は、燃料の燃焼状態の指標として燃料のセタン価を取得する。これにより、セタン価推定部81は、特許請求の範囲の燃焼状態指標取得手段に相当する。
【0069】
ここで、セタン価推定部81による燃料のセタン価の推定手順について図22に基づいて説明する。
セタン価推定部81は、パイロット噴射の回数を設定する制御とは非同期で平行して実行される。セタン価推定部81は、予め設定されたセタン価判定時期になると、回転数センサ34から機関本体11の回転数を取得する(S401)。セタン価判定時期は、例えば機関本体11の運転がアイドリング状態にあるときである。そして、セタン価推定部81は、S401で機関本体11の回転数を取得すると、機関本体11の回転の変動を取得する(S402)。具体的には、セタン価推定部81は、インジェクタ12からの燃料の噴射量を維持したまま、燃料の噴射時期を遅角側へ変化させる。そして、セタン価推定部81は、このように噴射時期を遅角側へ変化させつつ回転数センサ34から機関本体11の回転数の変化を取得する。燃料の噴射時期が遅角側へ変化するとき、燃料のセタン価が低いほど燃料の燃焼は不安定となりやすい。そこで、セタン価推定部81は、S402で取得した回転数の変動に基づいて、燃料のセタン価を推定する(S403)。推定されたセタン価は、記憶部46に記憶される。
【0070】
パイロット噴射回数変更部82は、セタン価推定部81で推定した燃焼状態の指標、すなわち燃料のセタン価が予め設定された安定燃焼範囲にあるか否かを判断し、パイロット噴射の回数を設定する。具体的には、パイロット噴射回数変更部82は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、パイロット噴射回数を設定する。例えばセタン価が低い燃料のとき、インジェクタ12から微量のパイロット噴射を行っても、パイロット噴射による燃料の着火性は低い。そのため、セタン価の低い燃料を用いたとき、インジェクタ12から噴射された燃料の燃焼状態は悪化する。そこで、パイロット噴射回数変更部82は、セタン価推定部81で推定した燃料のセタン価がパイロット噴射による燃料が安定して燃焼する安定燃焼範囲あるか否かを判断するとともに、パイロット噴射において安定した燃焼を得るための噴射の回数を設定する。記憶部46は、燃焼状態の指標である燃料のセタン価とパイロット噴射の回数nとの関係をマップとして記憶している。パイロット噴射回数変更部82は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、燃料のセタン価に対応するパイロット噴射の回数nを設定する。このように、パイロット噴射回数変更部82は、特許請求の範囲における安定燃焼範囲判断手段および燃焼量変更手段に相当する。
【0071】
次に、図23に基づいて第4実施形態によるディーゼルエンジンシステム10の制御について説明する。なお、第3実施形態と実質的に同一の処理については、説明を省略する。
ECU31は、ディーゼルエンジンシステム10が運転を開始すると、予め設定された間隔でディーゼルエンジンシステム10の運転状態を取得する(S501)。噴射量設定部41は、S501において取得したディーゼルエンジンシステム10の運転状態に基づいて決定燃料噴射量Qdを設定する(S502)。これとともに、噴射量設定部41は、燃料の噴射においてパイロット噴射が必要であるか否かを判断する(S503)。
【0072】
噴射量設定部41は、S503においてパイロット噴射が必要であると判断されると(S503:Yes)、パイロット噴射における燃料噴射量Qpを設定する(S504)。S504でパイロット噴射における燃料噴射量Qpが設定されると、セタン価推定部81は燃料のセタン価を取得する(S505)。具体的には、セタン価推定部81は、上述のようにパイロット噴射の回数の設定とは異なる時期に用いている燃料のセタン価を推定し、記憶部46に記憶している。そのため、セタン価推定部81は、記憶部46から既に推定した燃料のセタン価を取得する。噴射量設定部41は、S503においてパイロット噴射が必要でないと判断されると(S503:No)、処理を終了する。
【0073】
パイロット噴射回数変更部82は、パイロット噴射における回数nを設定する(S506)。具体的には、パイロット噴射回数変更部82は、記憶部46に記憶されているマップに基づいて、S505で取得した燃料のセタン価に対応するパイロット噴射の回数nを抽出する。噴射量設定部41は、S504で設定した燃料噴射量QpをS506で設定したパイロット噴射の回数nで除し、パイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxを設定する(S507)。インジェクタ駆動部42は、S507で設定されたパイロット噴射一回当たりの燃料噴射量Qpxに基づいてインジェクタ12を駆動し、パイロット噴射を実行する(S508)。上記の手順により、パイロット噴射は、燃料のセタン価に基づいて実行される。
以上説明したように、第4実施形態では、パイロット噴射の回数nは、燃料のセタン価に基づいて設定される。そのため、パイロット噴射による燃料の着火性が低い条件のときでも、パイロット噴射の回数は適切に設定される。したがって、条件に関わらず、パイロット噴射における燃料の燃焼量を高めることができる。
【0074】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。上記で説明した複数の実施形態は、上記の説明のように単独での適用に限らず、それぞれ組み合わせて適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
図面中、10はディーゼルエンジンシステム(内燃機関)、11は機関本体(内燃機関本体)、12はインジェクタ、21は燃焼室、30、70、80は燃料噴射制御装置、34は回転数センサ(機関回転数検出手段)、37は筒内圧センサ(燃焼量検出手段)、41は噴射量設定部(噴射量設定手段)、42はインジェクタ駆動部(インジェクタ駆動手段)、43は燃焼量算出部(燃焼状態指標取得手段、燃焼量検出手段)、44は燃焼量範囲判断部(安定燃焼範囲判断手段)、45は燃焼量変更部(燃焼量変更手段)、51は流速推定部(流速推定手段)、52はパイロット噴射間隔設定部(パイロット噴射間隔設定手段)、71は燃焼状態指標取得部(燃焼状態指標取得手段)、72パイロット噴射回数変更部(安定燃焼範囲判断手段、燃焼量変更手段)、81はセタン価推定部(燃焼状態指標取得手段)、82はパイロット噴射回数変更部(安定燃焼範囲判断手段、燃焼量変更手段)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃焼室(21)を有する内燃機関本体(11)と、前記燃焼室(21)にそれぞれ設けられ燃料を噴射するインジェクタ(12)と、を備える内燃機関(10)の燃料噴射制御装置(30、70、80)であって、
前記インジェクタ(12)から噴射する燃料の量を設定する噴射量設定手段(41)と、
前記インジェクタ(12)を駆動して、前記噴射量設定手段(41)で設定した燃料の噴射量のうち主たる量を噴射するメイン噴射、および前記メイン噴射に先立って少なくとも一回のパイロット噴射を実行するインジェクタ駆動手段(42)と、
前記燃焼室(21)における前記インジェクタ(12)から噴射された燃料の燃焼状態の指標を取得する燃焼状態指標取得手段(43、71、81)と、
前記燃焼状態指標取得手段(43、71、81)で取得した燃焼状態の指標が、予め設定された安定した燃焼を確保するための安定燃焼範囲にあるか否かを判断する安定燃焼範囲判断手段(44、72、82)と、
前記安定燃焼範囲判定手段(44、72、82)において前記燃焼状態指標取得手段(43、71、81)で取得した燃焼状態の指標が前記安定燃焼範囲に無いと判断されると、前記パイロット噴射の回数または前記パイロット噴射の一回当たりの噴射量の少なくとも一方を変更する燃焼量変更手段(45、72、82)と、
を備える内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃焼量変更手段(45、72、82)は、前記安定燃焼範囲判断手段(44、72、82)において前記燃焼状態指標取得手段(43、71、81)で取得した燃焼状態の指標が前記安定燃焼範囲に無いと判断されると、前記パイロット噴射の回数を増し、前記パイロット噴射の一回当たりの噴射量を減じる請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記燃焼状態指標取得手段(43)は、前記燃焼室(21)ごとに前記パイロット噴射において前記インジェクタ(12)から噴射された燃料の燃焼量を検出する燃焼量検出手段(37)を有し、
前記安定燃焼範囲判断手段(44)は、前記燃焼量検出手段(43)で検出した前記パイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲にあるか否かを判断し、
前記燃焼量変更手段(45)は、前記安定燃焼範囲判断手段(44)において前記パイロット噴射における燃料の燃焼量が前記燃焼量範囲に無いと判断されると、前記パイロット噴射の回数または前記パイロット噴射の一回当たりの噴射量の少なくとも一方を変更する請求項1または2記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関本体(11)の回転数を検出する機関回転数検出手段(34)と、
前記機関回転数検出手段(34)で検出した前記内燃機関本体(11)の回転数に基づいて、前記燃焼室(21)に吸入された空気が形成するスワールの流速を推定する流速推定手段(51)と、
前記流速推定手段(51)で推定したスワールの流速に基づいて二回以上のパイロット噴射の間隔を制御して、先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)に後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねるパイロット噴射間隔設定手段(52)と、
をさらに備える請求項1、2または3記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記インジェクタ(12)は、周方向へ放射状に燃料を噴射する複数の噴孔(61)を有し、
前記パイロット噴射間隔設定手段(52)は、前記機関回転数検出手段(34)で検出した前記内燃機関本体(11)の回転数が予め設定された境界回転数よりも低いとき、
前記複数の噴孔(61)のうち特定の噴孔(61)からの先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)に、前記特定の噴孔(61)からの後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねる請求項4記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記インジェクタ(12)は、周方向へ放射状に燃料を噴射する複数の噴孔(61)を有し、
前記パイロット噴射間隔設定手段(52)は、前記機関回転数検出手段(34)で検出した前記内燃機関本体(11)の回転数が予め設定された境界回転数以上のとき、
前記複数の噴孔(61)のうち特定の噴孔(61)からの先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)に、前記特定の噴孔(61)からの後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねるか、
または前記燃焼室(21)に形成されたスワールにのって前記インジェクタ(12)の周方向へ回転する先のパイロット噴射によって形成された前記特定の噴孔(61)からの燃料噴霧(62)に、前記特定の噴孔(61)とは異なる噴孔(61)からの後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねることを特徴とする請求項4または5記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項1】
複数の燃焼室(21)を有する内燃機関本体(11)と、前記燃焼室(21)にそれぞれ設けられ燃料を噴射するインジェクタ(12)と、を備える内燃機関(10)の燃料噴射制御装置(30、70、80)であって、
前記インジェクタ(12)から噴射する燃料の量を設定する噴射量設定手段(41)と、
前記インジェクタ(12)を駆動して、前記噴射量設定手段(41)で設定した燃料の噴射量のうち主たる量を噴射するメイン噴射、および前記メイン噴射に先立って少なくとも一回のパイロット噴射を実行するインジェクタ駆動手段(42)と、
前記燃焼室(21)における前記インジェクタ(12)から噴射された燃料の燃焼状態の指標を取得する燃焼状態指標取得手段(43、71、81)と、
前記燃焼状態指標取得手段(43、71、81)で取得した燃焼状態の指標が、予め設定された安定した燃焼を確保するための安定燃焼範囲にあるか否かを判断する安定燃焼範囲判断手段(44、72、82)と、
前記安定燃焼範囲判定手段(44、72、82)において前記燃焼状態指標取得手段(43、71、81)で取得した燃焼状態の指標が前記安定燃焼範囲に無いと判断されると、前記パイロット噴射の回数または前記パイロット噴射の一回当たりの噴射量の少なくとも一方を変更する燃焼量変更手段(45、72、82)と、
を備える内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃焼量変更手段(45、72、82)は、前記安定燃焼範囲判断手段(44、72、82)において前記燃焼状態指標取得手段(43、71、81)で取得した燃焼状態の指標が前記安定燃焼範囲に無いと判断されると、前記パイロット噴射の回数を増し、前記パイロット噴射の一回当たりの噴射量を減じる請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記燃焼状態指標取得手段(43)は、前記燃焼室(21)ごとに前記パイロット噴射において前記インジェクタ(12)から噴射された燃料の燃焼量を検出する燃焼量検出手段(37)を有し、
前記安定燃焼範囲判断手段(44)は、前記燃焼量検出手段(43)で検出した前記パイロット噴射における燃料の燃焼量が予め設定された燃焼量範囲にあるか否かを判断し、
前記燃焼量変更手段(45)は、前記安定燃焼範囲判断手段(44)において前記パイロット噴射における燃料の燃焼量が前記燃焼量範囲に無いと判断されると、前記パイロット噴射の回数または前記パイロット噴射の一回当たりの噴射量の少なくとも一方を変更する請求項1または2記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関本体(11)の回転数を検出する機関回転数検出手段(34)と、
前記機関回転数検出手段(34)で検出した前記内燃機関本体(11)の回転数に基づいて、前記燃焼室(21)に吸入された空気が形成するスワールの流速を推定する流速推定手段(51)と、
前記流速推定手段(51)で推定したスワールの流速に基づいて二回以上のパイロット噴射の間隔を制御して、先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)に後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねるパイロット噴射間隔設定手段(52)と、
をさらに備える請求項1、2または3記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記インジェクタ(12)は、周方向へ放射状に燃料を噴射する複数の噴孔(61)を有し、
前記パイロット噴射間隔設定手段(52)は、前記機関回転数検出手段(34)で検出した前記内燃機関本体(11)の回転数が予め設定された境界回転数よりも低いとき、
前記複数の噴孔(61)のうち特定の噴孔(61)からの先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)に、前記特定の噴孔(61)からの後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねる請求項4記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記インジェクタ(12)は、周方向へ放射状に燃料を噴射する複数の噴孔(61)を有し、
前記パイロット噴射間隔設定手段(52)は、前記機関回転数検出手段(34)で検出した前記内燃機関本体(11)の回転数が予め設定された境界回転数以上のとき、
前記複数の噴孔(61)のうち特定の噴孔(61)からの先のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)に、前記特定の噴孔(61)からの後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねるか、
または前記燃焼室(21)に形成されたスワールにのって前記インジェクタ(12)の周方向へ回転する先のパイロット噴射によって形成された前記特定の噴孔(61)からの燃料噴霧(62)に、前記特定の噴孔(61)とは異なる噴孔(61)からの後のパイロット噴射によって形成された燃料噴霧(62)を重ねることを特徴とする請求項4または5記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−32768(P2013−32768A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−63621(P2012−63621)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]