説明

内視鏡用光学系、及び内視鏡

【課題】シェーディングによる周辺光量不足を抑えるのに好適な内視鏡用光学系を提供すること。
【解決手段】絞りを挟んで前群と後群が物体側から順に配置され、前群が、物体側から順に、負レンズ、正レンズを有し、後群が、物体側から順に、正レンズ、接合レンズを有する内視鏡光学系であって、全系の焦点距離をf(単位:mm)と定義し、像面から射出瞳までの距離(但し、像面より物体側にマイナスの符号をとる。)をEX(単位:mm)と定義し、後群の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(1)、(2)
−10<EX/f<−6・・・(1)
1.15<f/f<1.35・・・(2)
を満たす構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔内観察に適した光学性能を有する内視鏡光学系、及び該内視鏡光学系が組み込まれた内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、患者の体腔内を観察するための機器として、電子内視鏡が一般に知られ、実用に供されている。この種の内視鏡の具体的構成例は、特許文献1〜6に記載されている。特許文献1〜6に記載の内視鏡は、4群5枚構成の内視鏡用光学系を有している。
【0003】
内視鏡は体腔内挿入時の患者の負担を軽減するため、外径が細く設計されている。特許文献1〜6においては内視鏡外径を抑えるため、内視鏡用光学系の射出瞳距離を短くして内視鏡用光学系を小径に設計している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−293709号公報
【特許文献2】特開平6−308381号公報
【特許文献3】特開平8−122632号公報
【特許文献4】特開2004−61763号公報
【特許文献5】特開2004−354888号公報
【特許文献6】特開2007−249189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜6に記載の内視鏡用光学系は、画素数の少ない撮像素子での使用を想定している。しかし、近年、メガピクセル等の多画素撮像素子を搭載した電子スコープが実用化されている。
【0006】
メガピクセル等の多画素撮像素子を搭載する電子スコープでは、個々の画素サイズが小さく受光効率が低い。そのため、特許文献1〜6に記載の内視鏡用光学系を適用した場合、撮像素子周辺部への光線入射角度が大きいため、シェーディングによる周辺光量不足が大きい。マイクロレンズアレイを実装した撮像素子であってもシェーディングを十分に抑制することは難しい。但し、マイクロレンズアレイの精度を向上させればシェーディングを十分に抑制できる可能性がある。しかし、生産技術面や製造コスト面等を考えると、マイクロレンズアレイの精度を向上させてシェーディングを抑制するという対応は安易には採用することができない。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シェーディングによる周辺光量不足を抑えるのに好適な内視鏡用光学系、及び該内視鏡用光学系を有する内視鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る内視鏡用光学系は、絞りを挟んで前群と後群が物体側から順に配置されている。前群は、物体側から順に、負レンズ、正レンズを有している。後群は、物体側から順に、正レンズ、接合レンズを有している。本発明に係る内視鏡用光学系は、全系の焦点距離をf(単位:mm)と定義し、像面から射出瞳までの距離(但し、像面より物体側にマイナスの符号をとる。)をEX(単位:mm)と定義し、後群の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(1)、(2)
−10<EX/f<−6・・・(1)
1.15<f/f<1.35・・・(2)
を満たすことを特徴とする。
【0009】
条件式(1)、(2)が同時に満たされると、広視野角な内視鏡用光学系を体腔内の微細構造を観察するのに必要な光学性能を確保しつつ外径の小さい内視鏡への搭載に適した寸法に抑えて設計することができる。特に、射出瞳距離EXを確保することで結像面に対する入射角が抑えられるため、例えばメガピクセル等の多画素撮像素子に結像させる場合もシェーディングによる周辺光量不足が少ない。また、結像面に対する入射角を抑えつつもテレセントリック光学系にしないことにより、内視鏡用光学系が小径に抑えられる。
【0010】
本発明に係る内視鏡用光学系は、結像面に近い側の光学面にパワーを持たせて射出瞳距離EXをより一層好適に確保するため、接合レンズの焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(3)
2<f/f<3.2・・・(3)
を満たす構成としてもよい。
【0011】
本発明に係る内視鏡用光学系は、コマ収差や色収差等の諸収差をより一層良好に補正するため、前群の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(4)
−2.5<f/f<−1.2・・・(4)
を満たす構成としてもよい。
【0012】
本発明に係る内視鏡用光学系は、射出瞳距離EXをより一層好適に確保するため、接合レンズの物体側面の曲率半径をR(単位:mm)と定義し、該接合レンズの像側面の曲率半径をR10(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(5)又は(6)
−0.5<R10/|R|≦0・・・(5)
|R|/R10<−2・・・(6)
を満たす構成としてもよい。
【0013】
本発明に係る内視鏡用光学系は、コマ収差や非点収差等の諸収差をより一層良好に補正するため、後群の正レンズが物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズであり、後群の正レンズの焦点距離をf21(単位:mm)と定義し、該後群の正レンズの物体側面の曲率半径をR(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(7)、(8)
1.3<f21/f<1.8・・・(7)
−1<f/R<−0.3・・・(8)
を満たす構成としてもよい。
【0014】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る内視鏡は、上記内視鏡用光学系を挿入部可撓管の先端に搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シェーディングによる周辺光量不足を抑えるのに好適な内視鏡用光学系、及び該内視鏡用光学系を有する内視鏡が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の電子スコープの外観を示す外観図である。
【図2】本発明の実施形態(実施例1)の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例1の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図4】本発明の実施例2の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例2の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図6】本発明の実施例3の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例3の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図8】本発明の実施例4の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例4の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図10】本発明の実施例5の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図11】本発明の実施例5の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図12】本発明の実施例6の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図13】本発明の実施例6の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図14】本発明の実施例7の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図15】本発明の実施例7の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図16】比較例1の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図17】比較例1の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【図18】比較例2の内視鏡用光学系及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。
【図19】比較例2の内視鏡用光学系の各種収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の内視鏡用光学系、及び内視鏡用光学系を有する電子スコープについて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の電子スコープ1の外観を示す外観図である。図1に示されるように、電子スコープ1は、可撓性を有するシース(外皮)11aによって外装された挿入部可撓管(以下、単に「可撓管」と記す。)11を有している。可撓管11の先端には、硬質性を有する樹脂製筐体によって外装された先端部12が連結されている。可撓管11と先端部12との連結箇所にある湾曲部14は、可撓管11の基端に連結された手元操作部13からの遠隔操作(具体的には、湾曲操作ノブ13aの回転操作)によって屈曲自在に構成されている。この屈曲機構は、一般的な電子スコープに組み込まれている周知の機構であり、湾曲操作ノブ13aの回転操作に連動した操作ワイヤの牽引によって湾曲部14を屈曲させるように構成されている。先端部12の方向が上記操作による屈曲動作に応じて変わることにより、電子スコープ1による撮影領域が移動する。
【0019】
先端部12の樹脂製筐体の内部には、内視鏡用光学系100(図1中斜線で示されたブロック)が組み込まれている。内視鏡用光学系100は、撮影領域中の被写体の画像データを採取するため、被写体からの反射光を固体撮像素子(図示省略)の受光面上に結像させる。固体撮像素子には、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサが想定される。
【0020】
本実施形態の電子スコープ1は、例えば下部消化器の観察を想定して設計されている。そのため、内視鏡用光学系100の視野角が狭い場合は、病変部等の見落としが懸念される。そこで、本実施形態では、いわゆる一般的なデジタルスチルカメラよりも広視野、例えば120°以上の視野角を想定している。
【0021】
図2は、本発明の実施例1(詳しくは後述)の内視鏡用光学系100及びその後段に配置された光学部品の配置を示す断面図である。図2を参照しつつ、本実施形態の内視鏡用光学系100について詳細に説明する。
【0022】
内視鏡用光学系100は、図2に示されるように、物体(被写体)側から順に前群G1、後群G2を少なくとも有している。より詳細には、絞りSよりも物体側に配置された光学レンズ群が前群G1を構成し、絞りSよりも像側に配置された光学レンズ群が後群G2を構成する。各群G1、G2を構成する各光学レンズは、内視鏡用光学系100の光軸AXを中心とした回転対称形状を有している。後群G2の後段には、固体撮像素子の受光面全面を覆うフィルタ類Fが配置されている。フィルタ類Fは、色補正フィルタやカバーガラスなど複数の層を含む。本明細書及び図面においては、説明の便宜上、フィルタ類Fは単層で表現する。
【0023】
上記において「少なくとも有している」としたのは、本発明の技術的思想の範囲において、別の光学素子を追加する構成例もあり得るからである。例えば、本発明に係る内視鏡用光学系に対して光学性能に実質的に寄与しない平行平板を追加する構成例や、本発明に係る内視鏡用光学系の構成及び効果を維持しつつ別の光学素子を付加する構成例が想定される。前群G1、後群G2の説明においても、同様の理由で「少なくとも有している」と表現している。
【0024】
前群G1は、負のパワーを持つレンズ群であり、物体側から順に、負レンズL1、正レンズL2を少なくとも有している。
【0025】
後群G2は、正のパワーを持つレンズ群であり、物体側から順に、正レンズL3、正負の各レンズを接合した接合レンズL4を少なくとも有している。
【0026】
以下において、説明の便宜上、各光学部品の物体側の面、像側の面をそれぞれ、第一面、第二面と記す。絞りSは、光軸AXを中心とした所定の円形開口を有する板状部材、又は前群G1の絞りSに最も近いレンズ面(図2の構成例においては、正レンズL2の第二面r4)であって光軸AXを中心とした所定の円形領域以外にコーティングされた遮光膜である。絞りSの厚みは、内視鏡用光学系100を構成する各光学レンズの厚みと比べて非常に薄く、内視鏡用光学系100の光学性能を計算する上で無視しても差し支えない。そのため、本明細書においては、絞りSの厚みを0とみなして説明を進める。
【0027】
内視鏡用光学系100は、全系の焦点距離をf(単位:mm)と定義し、像面から内視鏡用光学系100の射出瞳までの射出瞳距離をEX(単位:mm)と定義し、後群G2の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(1)、(2)
−10<EX/f<−6・・・(1)
1.15<f/f<1.35・・・(2)
を満たすように構成されている。なお、像面は固体撮像素子の受光面であり、図2中、フィルタ類Fの第二面r12と実質的に同位置の面である。射出瞳距離EXは、像面より物体側に伸び、マイナスの符号をとる。
【0028】
条件式(1)の上限を上回ると射出瞳距離EXが短いため、固体撮像素子の受光面に対する入射角が大きく、シェーディングによる周辺光量不足が大きい。特に、メガピクセル等の多画素撮像素子では個々の画素サイズが小さく受光効率が低いため、マイクロレンズアレイによるシェーディング抑制効果が小さく周辺光量不足が大きい。なお、本実施形態では、固体撮像素子が微細なチップであることから、固体撮像素子の受光面とマイクロレンズアレイの光軸方向の位置を実質的に同じ位置とする。
【0029】
条件式(1)の下限を下回ると、広視野角な(例えば120°以上の)電子スコープ1において体腔内の微細構造を観察するのに必要な光学性能を確保するため、接合レンズL4のレンズ径を大きく設計する必要がある。そのため、外径の小さい先端部12への搭載が難しい。
【0030】
正のパワーを持つ後群が絞り近傍に配置されている光学系においては、一般に、後群の前側焦点位置は絞りよりも物体側に位置している。そのため、後群のパワーが弱くなる(焦点距離が長くなる)と正の倍率が小さくなり、射出瞳距離が短くなる。条件式(2)の上限を上回ると、後群G2のパワーが弱く正の倍率が小さいため射出瞳距離EXが短くなり、シェーディングによる周辺光量不足が大きい。
【0031】
条件式(2)の下限を下回ると、体腔内観察に必要な光学性能の確保のため接合レンズL4のレンズ径を大きく設計する必要がある。接合レンズL4の大径化に伴い像面湾曲(特にメリディオナル像面の湾曲)が大きく発生するため、全像高での非点収差の補正が難しい。
【0032】
条件式(1)、(2)が同時に満たされると、広視野角な内視鏡用光学系100を体腔内の微細構造を観察するのに必要な光学性能を確保しつつ外径の小さい先端部12への搭載に適した寸法に抑えて設計することができる。特に、射出瞳距離EXを確保することで結像面に対する入射角が抑えられるため、例えばメガピクセル等の多画素撮像素子に結像させる場合もシェーディングによる周辺光量不足が少ない。また、結像面に対する入射角を抑えつつもテレセントリック光学系にしないことにより、内視鏡用光学系100が小径に抑えられる。
【0033】
内視鏡用光学系100は、更に、結像面に近い側の光学面にパワーを持たせて射出瞳距離EXをより一層好適に確保するため、接合レンズL4の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(3)
2<f/f<3.2・・・(3)
を満たすように構成されている。
【0034】
正のパワーを持つ後群が絞り近傍に配置されている光学系においては、一般に、後群内で最も像側に配置されたレンズのパワーが弱くなると、後群の前側主点位置が物体側(絞りに近い側)へ近付くため正の倍率が小さくなり、射出瞳距離が短くなる。条件式(3)の上限を上回ると、接合レンズL4のパワーが弱く正の倍率が小さいため射出瞳距離EXが短くなり、シェーディングによる周辺光量不足が大きい。
【0035】
条件式(3)の下限を下回ると、接合レンズL4のパワーが強くレンズ面の曲率が大きいため、先端部12に収まる寸法の(つまり外径の小さい)接合レンズL4ではコバ厚の確保が難しい。また、接合レンズL4のパワーが強すぎて、組立誤差(偏心)による収差性能の劣化(特にメリディオナル像面の湾曲に伴う非点収差の発生)が大きい。
【0036】
内視鏡用光学系100は、更に、コマ収差や色収差等の諸収差をより一層良好に補正するため、前群G1の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(4)
−2.5<f/f<−1.2・・・(4)
を満たすように構成されている。
【0037】
条件式(4)の上限を上回ると、前群G1の負のパワーが大きいため、体腔内観察に必要な広視野角設計を試みるとコマ収差や色収差等の諸収差を良好に補正するのが難しい。また、後群G2の倍率を高く設定せざるを得ないため、組立時の前群G1と後群G2との群間隔の誤差に伴う後群G2の倍率変化を抑えることが難しい。更には後群G2の倍率変化に伴う視野角変化も大きくなるため、仕様を満足する安定した視野角の保証が難しい。
【0038】
条件式(4)の下限を下回ると、内視鏡用光学系100の各光学レンズの外径を抑えて設計することが難しく、外径の小さい先端部12への搭載に不向きである。また、前群G1の倍率を高く設定せざるを得ないため、前群G1が光軸AXに対して偏心して組み付けられた際の像面倒れが大きく、観察視野周辺で画質劣化が生じやすい。なお、像面倒れは、理想的には光軸を基準に対称に残存する像面湾曲が、結像レンズの組立時の偏心量及び偏心方向に依存して光軸を基準に非対称に残存する現象をいう。
【0039】
内視鏡用光学系100は、更に、射出瞳距離EXをより一層好適に確保するため、接合レンズL4の第一面r8の曲率半径をR(単位:mm)と定義し、接合レンズL4の第二面r10の曲率半径をR10(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(5)又は(6)
−0.5<R10/|R|≦0・・・(5)
|R|/R10<−2・・・(6)
を満たすように構成されている。
【0040】
条件式(5)の上限を上回ると、後群G2の最も像側に位置する第二面r10が凹面となり射出瞳距離EXが短くなるため、シェーディングによる周辺光量不足が大きくなる。
【0041】
条件式(5)の下限を下回る又は条件式(6)の上限を上回ると、接合レンズL4のパワーが弱く正の倍率が小さいため射出瞳距離EXが短くなり、シェーディングによる周辺光量不足が大きい。
【0042】
内視鏡用光学系100は、更に、コマ収差や非点収差等の諸収差をより一層良好に補正するため、図2に示されるように、正レンズL3が物体側に凹面を向けたメニスカスレンズであって、正レンズL3の焦点距離をf21(単位:mm)と定義し、正レンズL3の第一面r6の曲率半径をR(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(7)、(8)
1.3<f21/f<1.8・・・(7)
−1<f/R<−0.3・・・(8)
を同時に満たすように構成されている。
【0043】
条件式(7)の上限を上回ると、正レンズL3のパワーが弱くコマ収差が増加する。具体的には、正のパワーを確保するために曲率半径を大きくすることができない正レンズL3の第二面r7(凸面)に代わり、第一面r6(凹面)の曲率半径が極端に小さくなるため、コマ収差が増加する。後群G2のパワーを維持するためには接合レンズL4のパワーを大きく設定する必要があり、組立偏心誤差による収差性能の劣化(特にメリディオナル像面の湾曲に伴う非点収差の発生)が懸念される。
【0044】
条件式(7)の下限を下回ると、正レンズL3のパワーが強すぎて良好な収差性能が得られない。具体的には、正レンズL3のパワーの増加に伴い球面収差が発生すると共に、ペッツバール和の増加により像面湾曲が大きく発生し、また、組立偏心誤差による非点収差が増加する。
【0045】
条件式(8)の上限を上回ると、正レンズL3の第一面r6(凹面)の曲率半径が大きいため、非点収差の補正が困難になる。
【0046】
条件式(8)の下限を下回ると、正レンズL3の第一面r6(凹面)の曲率半径が小さいため、正レンズL3のパワーが弱くコマ収差が増加する。
【0047】
次に、これまで説明した内視鏡用光学系100の具体的数値実施例を7例説明し、各数値実施例1〜7と比較する比較例を2例説明する。各数値実施例1〜7の内視鏡用光学系100及び比較例1、2の内視鏡用光学系は、図1に示される電子スコープ1の先端部12に配置されている。
【実施例1】
【0048】
上述したように、本発明の実施例1の内視鏡用光学系100の構成は、図2に示される通りである。
【0049】
本実施例1の内視鏡用光学系100(及びその後段に配置された光学部品)の具体的数値構成(設計値)は、表1に示される。表1に示される面番号NOは、絞りSに対応する面番号5を除き、図2中の面符号rn(nは自然数)に対応する。表1において、R(単位:mm)は光学部材の各面の曲率半径を、D(単位:mm)は光軸AX上の光学部材厚又は光学部材間隔を、N(d)はd線(波長588nm)の屈折率を、νdはd線のアッベ数を、それぞれ示す。表2は、内視鏡用光学系100の仕様を示す。ここで示す仕様は、実効Fナンバー、光学倍率、半画角(単位:deg)、像高(単位:mm)、バックフォーカスBF(単位:mm)、内視鏡用光学系100の全長(単位:mm)、全系の焦点距離f(単位:mm)、射出瞳距離EX(単位:mm)、前群G1の焦点距離f(単位:mm)、後群G2の焦点距離をf(単位:mm)、正レンズL3の焦点距離f21(単位:mm)、接合レンズL4の焦点距離f(単位:mm)である。
【0050】
【表1】

【表2】

【0051】
図3(a)〜(d)は、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100の各種収差図である。具体的には、図3(a)は、d線(588nm)、g線(436nm)、C線(656nm)、F線(486nm)、e線(546nm)での球面収差及び軸上色収差を示す。図3(b)は、d線、g線、C線、F線、e線での倍率色収差を示す。図3(a)、(b)中、実線はd線での収差を、点線はg線での収差を、一点鎖線はC線での収差を、短破線はF線での収差を、長破線はe線での収差を、それぞれ示す。図3(c)は、非点収差を示す。図3(c)中、実線はサジタル成分を、点線はメリディオナル成分を、それぞれ示す。図3(d)は、歪曲収差を示す。図3(a)〜(c)の各図の縦軸は像高を、横軸は収差量を、それぞれ示す。図3(d)の縦軸は像高を、横軸は歪曲率を、それぞれ示す。なお、本実施例1の各表又は各図面についての説明は、以降の各数値実施例又は比較例で提示される各表又は各図面においても適用する。
【実施例2】
【0052】
図4は、本実施例2の内視鏡用光学系100を含む各光学部品の配置を示す断面図である。本実施例2の内視鏡用対物レンズ100は、図4に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図5(a)〜(d)は、本実施例2の内視鏡用対物レンズ100の各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表3は、本実施例2の内視鏡用対物レンズ100を含む各光学部品の具体的数値構成を、表4は、本実施例2の内視鏡用対物レンズ100の仕様を、それぞれ示す。
【0053】
【表3】

【表4】

【実施例3】
【0054】
図6は、本実施例3の内視鏡用光学系100を含む各光学部品の配置を示す断面図である。本実施例3の内視鏡用対物レンズ100は、図6に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図7(a)〜(d)は、本実施例3の内視鏡用対物レンズ100の各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表5は、本実施例3の内視鏡用対物レンズ100を含む各光学部品の具体的数値構成を、表6は、本実施例3の内視鏡用対物レンズ100の仕様を、それぞれ示す。
【0055】
【表5】

【表6】

【実施例4】
【0056】
図8は、本実施例4の内視鏡用光学系100を含む各光学部品の配置を示す断面図である。本実施例4の内視鏡用対物レンズ100は、図8に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図9(a)〜(d)は、本実施例4の内視鏡用対物レンズ100の各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表7は、本実施例4の内視鏡用対物レンズ100を含む各光学部品の具体的数値構成を、表8は、本実施例4の内視鏡用対物レンズ100の仕様を、それぞれ示す。
【0057】
【表7】

【表8】

【実施例5】
【0058】
図10は、本実施例5の内視鏡用光学系100を含む各光学部品の配置を示す断面図である。本実施例5の内視鏡用対物レンズ100は、図10に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図11(a)〜(d)は、本実施例5の内視鏡用対物レンズ100の各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表9は、本実施例5の内視鏡用対物レンズ100を含む各光学部品の具体的数値構成を、表10は、本実施例5の内視鏡用対物レンズ100の仕様を、それぞれ示す。
【0059】
【表9】

【表10】

【実施例6】
【0060】
図12は、本実施例6の内視鏡用光学系100を含む各光学部品の配置を示す断面図である。本実施例6の内視鏡用対物レンズ100は、図12に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図13(a)〜(d)は、本実施例6の内視鏡用対物レンズ100の各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表11は、本実施例6の内視鏡用対物レンズ100を含む各光学部品の具体的数値構成を、表12は、本実施例6の内視鏡用対物レンズ100の仕様を、それぞれ示す。
【0061】
【表11】

【表12】

【実施例7】
【0062】
図14は、本実施例7の内視鏡用光学系100を含む各光学部品の配置を示す断面図である。本実施例7の内視鏡用対物レンズ100は、図14に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図15(a)〜(d)は、本実施例7の内視鏡用対物レンズ100の各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表13は、本実施例7の内視鏡用対物レンズ100を含む各光学部品の具体的数値構成を、表14は、本実施例7の内視鏡用対物レンズ100の仕様を、それぞれ示す。
【0063】
【表13】

【表14】

【0064】
(比較例1)
図16は、比較例1の内視鏡用光学系100Cを含む各光学部品の配置を示す断面図である。比較例1の内視鏡用対物レンズ100Cは、図16に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図17(a)〜(d)は、比較例1の内視鏡用対物レンズ100Cの各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表15は、比較例1の内視鏡用対物レンズ100Cを含む各光学部品の具体的数値構成を、表16は、比較例1の内視鏡用対物レンズ100Cの仕様を、それぞれ示す。
【0065】
【表15】

【表16】

【0066】
(比較例2)
図18は、比較例2の内視鏡用光学系100Cを含む各光学部品の配置を示す断面図である。比較例2の内視鏡用対物レンズ100Cは、図18に示されるように、本実施例1の内視鏡用対物レンズ100と同じ枚数構成である。図19(a)〜(d)は、比較例2の内視鏡用対物レンズ100Cの各種収差(球面収差、軸上色収差、倍率色収差、非点収差、歪曲収差)図である。表17は、比較例2の内視鏡用対物レンズ100Cを含む各光学部品の具体的数値構成を、表18は、比較例2の内視鏡用対物レンズ100Cの仕様を、それぞれ示す。
【0067】
【表17】

【表18】

【0068】
(比較検証)
表19は、本実施例1〜7、比較例1、2の各例において、条件式(1)〜(8)のそれぞれを適用したときに算出される値の一覧表である。
【0069】
【表19】

【0070】
表19に示されるように、比較例1、2の内視鏡用光学系100Cは、条件式(1)、(2)を共に満たさない。比較例1の内視鏡用光学系100Cは、図16又は図17に示されるように、接合レンズL4のレンズ径が大きいため、先端部12への搭載に適さないと共に像面湾曲(特にメリディオナル像面の湾曲)に伴う非点収差の発生が大きい。比較例2の内視鏡用光学系100Cは、表18に示されるように、射出瞳距離EXが短いため、特許文献1〜6に記載の内視鏡用光学系と同様にシェーディングによる周辺光量不足が大きい。
【0071】
これに対して、本実施例1〜7の内視鏡用光学系100は、表19に示されるように、条件式(1)、(2)を同時に満たすことにより、各実施例の説明で提示した図又は表に示す通り、体腔内の微細構造を観察するのに必要な光学性能を確保しつつ外径の小さい先端部12への搭載に適した寸法に抑えられている。特に、射出瞳距離EXを確保することで結像面に対する入射角が抑えられるため、メガピクセル等の多画素撮像素子に結像させる場合もシェーディングによる周辺光量不足が少ない。
【0072】
本実施例1〜7の内視鏡用光学系100は、条件式(3)〜(8)も更に満たす。従って、本実施例1〜7の内視鏡用光学系100では、条件式(1)及び(2)を満たすことにより奏する効果のみならず、各条件式(3)〜(8)に関して既述したような種々の効果も更に奏される。
【0073】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 電子スコープ
100 内視鏡用光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞りを挟んで前群と後群が物体側から順に配置され、
前記前群は、物体側から順に、負レンズ、正レンズを有し、
前記後群は、物体側から順に、正レンズ、接合レンズを有し、
全系の焦点距離をf(単位:mm)と定義し、像面から射出瞳までの距離(但し、像面より物体側にマイナスの符号をとる。)をEX(単位:mm)と定義し、前記後群の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(1)、(2)
−10<EX/f<−6・・・(1)
1.15<f/f<1.35・・・(2)
を満たすことを特徴とする内視鏡用光学系。
【請求項2】
前記接合レンズの焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(3)
2<f/f<3.2・・・(3)
を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の内視鏡用光学系。
【請求項3】
前記前群の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(4)
−2.5<f/f<−1.2・・・(4)
を満たすことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の内視鏡用光学系。
【請求項4】
前記接合レンズの物体側面の曲率半径をR(単位:mm)と定義し、該接合レンズの像側面の曲率半径をR10(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(5)
−0.5<R10/|R|≦0・・・(5)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の内視鏡用光学系。
【請求項5】
前記接合レンズの物体側面の曲率半径をR(単位:mm)と定義し、該接合レンズの像側面の曲率半径をR10(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(6)
|R|/R10<−2・・・(6)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の内視鏡用光学系。
【請求項6】
前記後群の正レンズは物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズであり、
前記後群の正レンズの焦点距離をf21(単位:mm)と定義し、該後群の正レンズの物体側面の曲率半径をR(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(7)、(8)
1.3<f21/f<1.8・・・(7)
−1<f/R<−0.3・・・(8)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の内視鏡用光学系。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の内視鏡用光学系を挿入部可撓管の先端に搭載したことを特徴とする内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−168245(P2012−168245A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27091(P2011−27091)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】