説明

内視鏡用可撓管のコート層形成方法

【課題】安価・簡単に気泡の巻き込みを抑制する。
【解決手段】可撓管13を、フック34が取り付けられた一端部13aを下に向けた状態で、希釈剤37を貯留する容器40上に支持する。可撓管13のフック34、及びこのフック34と一端部13aとの接続部分に巻き付けられたマスクキングテープ35を、希釈剤37中に浸漬させる。可撓管13を、略鉛直方向に伸びかつ一端部13aを下に向けた状態で、この一端部13a(フック34)からコート液26中に浸漬させる。コート液26への浸漬前に、フック34及びマスキングテープ35にコート液26に含まれる希釈剤と同じ種類の希釈剤37が塗布しておくことで、両者のコート液26に対する濡れ性が向上する。これにより、コート液26への浸漬時に気泡が発生し難くなるので、コート層25への気泡の巻き込みを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用可撓管の外周面にコート層を形成する内視鏡用可撓管のコート層形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者の体腔内を観察するための医療用の内視鏡が知られている。この内視鏡は,患者の体腔内に挿入される挿入部と、挿入部の基端に設けられた操作部とを備えている。挿入部を構成する主な部品である可撓管は、金属帯片を螺旋状に巻回することにより形成される螺旋管と、この螺旋管を覆う筒状網体と、筒状網体の表面に積層されたウレタン樹脂などの外皮層とから構成されている(特許文献1参照)。
【0003】
可撓管は、内視鏡の使用の都度、洗浄消毒処理が施されるため、耐薬品性を有することが要求されている。また、可撓管は、患者の体内への挿入を容易にし、かつ患者の苦痛を軽減する観点から滑り性を有することが要求されている。このため、可撓管の外周面には、耐薬品性及び滑り性を有するコート層が形成されている(特許文献2〜5参照)。
【0004】
このようなコート層を形成するコート層形成工程は、可撓管をコート液(コート層の成分、希釈剤等の混合液)に浸漬する浸漬工程と、可撓管に乾燥処理を施してその外周面のコート液を硬化させる乾燥工程とから構成されている。また、乾燥工程では、可撓管を鉛直方向に伸ばした状態で乾燥処理を行うため、可撓管の一端部には、重りを吊り下げるためのフックが取り付けられている。このため、コート層形成工程の各工程は、可撓管にフックを取り付けたまま行われる。
【0005】
ところで、浸漬工程では、可撓管と共にフックをコート液中に浸漬する際に、フックにより気泡が生じるという問題が発生する。この気泡が可撓管に付着すると、可撓管外周面に塗布されたコート液中に気泡を巻き込んだ状態になる。このような状態で乾燥工程を実行すると、コート層中に気泡が残ってしまうため外観不良が発生してしまう。
【0006】
そこで、特許文献6には、真空脱泡装置内のコート液中に可撓管を浸漬させた後、真空脱泡装置を密閉した状態でこの装置内を減圧することで、可撓管に付着した気泡を取り除くようにした技術が記載されている。また、特許文献6では、真空脱泡装置内を減圧するのと同時に、コート液中で可撓管を揺動させることにより、可撓管に付着した気泡の除去を短時間で行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−194913号公報
【特許文献2】特開2007−259999号公報
【特許文献3】特開昭61−222433号公報
【特許文献4】特開平9−225396号公報
【特許文献5】特開2002−30258号公報
【特許文献6】特開平7−31583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献6では、コート液を貯留する容器、この容器内の空気を吸引する吸引装置、及びコート液中の可撓管を揺動させる揺動装置からなる真空脱泡装置を用いる必要があるので、設備が高価・大型になるという問題が生じる。また、真空脱泡装置内の減圧にもある一定の時間が掛かるため、生産効率が低下するという問題も生じる。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、従来よりも安価・簡単に気泡の巻き込みを抑制することができる内視鏡用可撓管のコート層形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の内視鏡用可撓管のコート層形成方法は、内視鏡用可撓管の一端部を、この一端部の濡れ性を向上させる濡れ性向上液に浸漬させる第1浸漬工程と、前記内視鏡用可撓管を、略鉛直方向に伸び且つ前記一端部を下に向けた状態で、当該一端部からコート液に浸漬させる第2浸漬工程と、前記内視鏡用可撓管を乾燥処理して、前記内視鏡用可撓管の外周面に塗布された前記コート液を硬化させることにより、当該外周面にコート層を形成する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
前記内視鏡用可撓管の一端部には、重りを吊り下げるためのフックが取り付けられており、前記第1浸漬工程では、少なくとも前記フックを前記濡れ性向上液に浸漬させることが好ましい。これにより、フックをコート液に浸漬させた際の気泡の発生、及び可撓管の外周面に塗布されるコート液への気泡の巻き込みが抑制される。
【0012】
前記コート液は、前記コート層の成分と希釈剤とを混合した混合液であり、前記第1浸漬工程では、前記濡れ性向上液として前記希釈剤を用いることが好ましい。希釈剤のコストは比較的安いため、第1浸漬工程の追加による製造コストの上昇を小幅に抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内視鏡用可撓管のコート層形成方法は、可撓管の一端部を濡れ性向上液に浸漬させて、この一端部のコート液に対する濡れ性を向上させた後、可撓管を略鉛直方向に伸びた状態で一端部からコート液に浸漬させることにより、一端部をコート液に浸漬させた際に気泡が発生し難くなるため、その結果、可撓管外周面に塗布されたコート液中に気泡が巻き込まれることが抑制されるので、コート層中に気泡が残る外観不良の発生が抑えられる。また、従来の真空脱泡装置のような高価・大型な設備が不要となる。従って、本発明により従来よりも安価・簡単に気泡の巻き込みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電子内視鏡の構成を示す外観図である。
【図2】電子内視鏡の可撓管の概略的な構成を示す部分断面図である。
【図3】コート層形成工程のフローチャートである。
【図4】可撓管の一端部に取り付けられたフックの拡大図である。
【図5】希釈剤浸漬工程を説明するための説明図である。
【図6】コート液浸漬工程を説明するための説明図である。
【図7】乾燥工程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、電子内視鏡10は、小腸、大腸等の管腔内に挿入される挿入部11と、電子内視鏡10の把持及び挿入部11の操作に用いられる操作部12とを備えている。挿入部11は、可撓性を有する棒状体であり、根元側から可撓管13、湾曲部14、挿入部先端部15を備えている。
【0016】
可撓管13は、挿入部11の大半を占める長さを有しており、更にそのほぼ全長にわたって可撓性を有している。湾曲部14は、操作部12で操作することにより先端側の向きが自在に変えられる。挿入部先端部15には、図示は省略するが、撮像部、鉗子出口、照明部、送気・送水用ノズル等が設けられている。また、挿入部11の内部には、図示は省略するが、鉗子チャンネル、及び空気や水が流れる送気・送水チャンネル等が設けられている。
【0017】
操作部12は、アングルノブ12a、鉗子入口12b、及び操作ボタン12cを備えている。アングルノブ12aは、湾曲部14の湾曲方向及び湾曲量を調整する際に回転操作される。鉗子入口12bは、鉗子チャンネルの入口側開口部である。操作ボタン12cは、送気・送水や吸引等の各種の操作に用いられる。
【0018】
操作部12に接続されたユニバーサルコード17には、送気・送水チャンネルと、撮像部及び照明部の配線とが組み込まれている。このユニバーサルコード17の先端部には、コネクタ部17aが設けられている。このコネクタ部17aは、照明部の光源である図示しない光源装置に接続する。また、コネクタ部17aからは、図示しないビデオプロセッサに接続するコネクタ部17bが分岐している。
【0019】
図2に示すように、可撓管13は、最内側に設けられ、金属帯片を螺旋状に巻き回して形成された螺旋管20と、この螺旋管20の外周面に被覆された可撓管素材21と、この可撓管素材21の外周面に熱融着された外皮層22とから構成されている。なお、可撓管素材21は、螺旋管20の周面に被覆され、金属線を編組してなる筒状網体21aと、この筒状網体21aの両端部にそれぞれ設けられ、操作部12及び湾曲部14にそれぞれ連結する口金23とから構成されている。
【0020】
可撓管13(外皮層22)の外周面には、耐薬品性及び滑り性を有するコート層25が形成されている。このコート層25は、可撓管13をコート液26(図6参照)中に浸漬(ディッピング)したのち乾燥させることにより形成される。
【0021】
コート液26は、例えば、コート層25の成分である主剤及び硬化剤と、希釈剤との計3液を混合して形成される。主剤としては、例えば架橋タイプのウレタン樹脂が用いられる。硬化剤としては、例えばウレタン樹脂塗料用硬化剤が用いられる。希釈剤としては、例えばトルエン、ベンゼン、キシレン、またはこれらの混合液などが用いられる。
【0022】
次に、図3を用いて可撓管13の外周面にコート層25を形成するコート層形成工程28について説明する。コート層形成工程28は、螺旋管20・可撓管素材21・外皮層22の各形成工程からなる可撓管形成工程29の後工程であり、大別して希釈剤浸漬工程(第1浸漬工程)30と、コート液浸漬工程(第2浸漬工程)31と、乾燥工程32とから構成される。ここで、外皮層22の形成工程では、螺旋管20・可撓管素材21に重りを吊り下げて両者を略鉛直方向に伸ばした状態で、外皮層22の熱融着処理・冷却処理等が行われる。
【0023】
図4に示すように、コート層形成工程28の各工程30〜32は、可撓管13の一端部13aに重りを吊り下げるためのフック34を取り付けた状態で行われる。フック34は、例えば口金23の開口部に嵌合する嵌合部(図示せず)を備えており、この嵌合部を口金23に嵌合することで一端部13aに取り付けられる。また、フック34と一端部13aとの接続部分には、可撓管13内へのコート液26等の浸入を防止するため、マスキングテープ35が巻き付けられている。
【0024】
図5において、希釈剤浸漬工程30では、可撓管13の一端部13a、より具体的にはフック34及びマスキングテープ35を、コート液26に含まれる希釈剤と同じ種類の希釈剤37(濡れ性向上液)に浸漬する。この希釈剤浸漬工程30では、最初に、ディッピング装置39の上下動可能なアーム(図示せず)に、可撓管13の他端部13bを把持させる。ディッピング装置39は、可撓管13を略鉛直方向に伸びかつ一端部13aを下に向けた状態で容器40上に支持する。容器40は、上端部が開口した有底筒状を有しており、その内部に希釈剤37を貯留する。
【0025】
次いで、ディッピング装置39のアームを下降させて、可撓管13の一端部13a(フック34)から希釈剤37中に浸漬させ、更にアームの下降を継続してマスキングテープ35も希釈剤37中に浸漬させ、このマスキングテープ35の全体が希釈剤37中に浸漬した時に、アームの下降を停止する。これにより、フック34及びマスキングテープ35に希釈剤37が塗布されて両者の親水性が高まる。この際に、フック34及びマスキングテープ35(以下、必要に応じて両者という)の希釈剤37に対する濡れ性は、コート液26に対する濡れ性よりも良好である。このため、両者に塗布される希釈剤37に気泡が巻き込まれる可能性は少ない。
【0026】
ここで、濡れ性とは、対象となる部材の表面(以下、「対象表面」と表記する)に液状の材料を滴下したときに、滴下された材料に対して対象表面が濡れる程度を表す量であり、対象表面の形状(表面粗さ)や、滴下される液体の表面張力などに応じて定まる量である。例えば対象表面に液体を滴下した時に、対象表面上における液滴の接触角が小さい場合には「濡れ性が高い」という。逆に、対象表面上における液滴の接触角が大きい場合には「濡れ性が低い」という。
【0027】
フック34及びマスキングテープ35を希釈剤37中に所定時間浸漬させた後、ディッピング装置39のアームを上昇させて、両者を希釈剤37から引き上げる。以上で希釈剤浸漬工程30が完了する。
【0028】
図6に示すように、コート液浸漬工程31では、可撓管13をコート液26中に浸漬する。このコート液浸漬工程31では、上述の希釈剤浸漬工程30と同様に、ディッピング装置41のアームで可撓管13の他端部13bを把持して、この可撓管13を略鉛直方向に伸びかつ一端部13aを下に向けた状態で容器42上に支持する。容器42は、上述の容器40と略同形状であり、その内部にコート液26を貯留する。なお、可撓管13をコート液26中に浸漬する際に、他端部13b側からのコート液26の浸入を防止するため、他端部13bの開口を各種シール部材でシールしておくことが好ましい。
【0029】
次いで、ディッピング装置41のアームを下降させて、可撓管13の一端部13aのフック34からコート液26に浸漬させるとともに、更にアームの下降を継続してマスキングテープ35、可撓管13の残りの部分もコート液26中に浸漬させ、この可撓管13の全体がコート液26に浸漬した時に、アームの下降を停止する。これにより、可撓管13の外周面全体にコート液26が塗布される。
【0030】
この際に、フック34及びマスキングテープ35には、希釈剤浸漬工程30においてコート液26に含まれる希釈剤と同じ種類の希釈剤37が塗布されている。このため、両者の親水性が高まり、両者のコート液26に対する濡れ性は、希釈剤37の塗布前の状態よりも向上している。これにより、両者をコート液26に浸漬させた際に気泡が発生し難くなるため、その結果、可撓管外周面に塗布されたコート液26中に気泡が巻き込まれることが抑制される。
【0031】
可撓管13の全体をコート液26に所定時間浸漬させた後、ディッピング装置41のアームを上昇させて、可撓管13をコート液26から引き上げる。以上でコート液浸漬工程31が完了する。
【0032】
図7に示すように、乾燥工程32では、可撓管13のフック34に重り43を吊り下げて、この可撓管13を略鉛直方向に伸ばした状態で、可撓管13に乾燥処理を施す。この乾燥処理は、周知のオーブン・乾燥室等の各種乾燥装置を用いて行われる。これにより、可撓管13の外周面に塗布されたコート液26(コート液層)が硬化して、この外周面上にコート層25が形成される。以上でコート層形成工程28の全工程が終了する。
【0033】
以上のように本発明では、コート液浸漬工程31の前に、可撓管13の一端部13aのフック34及びマスキングテープ35を希釈剤37に浸漬させることにより、両者の親水性を高めてコート液26に対する濡れ性を向上させることができる。これにより、コート液浸漬工程31時に、可撓管外周面に塗布されたコート液26への気泡の巻き込みが抑制されるため、コート層25中に気泡が残る外観不良の発生が抑えられる。また、本発明では、ディッピング装置39,41と容器40,42とからなる安価・簡単な設備でコート層25の形成が可能であり、従来の真空脱泡装置のような高価・大型な設備が不要となる。更に、真空脱泡装置を用いた場合とは異なり減圧が不要となるので、コート層25の形成に要する時間を短縮することができ、生産効率が向上する。
【0034】
上記実施形態では、一端部13aのコート液26に対する濡れ性を向上させる濡れ性向上液として、コート液26に含まれる希釈剤と同じ種類の希釈剤37を例に挙げて説明を行ったが、濡れ性向上液として各種液を用いてよい。
【0035】
上記実施形態では、希釈剤浸漬・コート液浸漬工程30,31において、ディッピング装置39,41を用いて可撓管13をそれぞれ希釈剤37、コート液26中に浸漬(ディッピング)しているが、作業者がマニュアルで浸漬作業を行ってもよい。
【0036】
上記実施形態では、可撓管13内へのコート液26等の浸入を防止するために、フック34と一端部13aとの接続部分にマスキングテープ35を巻き付けているが、O−ring等でコート液26等の浸入を防止してもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 電子内視鏡
13 可撓管
25 コート層
26 コート液
28 コート層形成工程
30 希釈剤浸漬工程
31 コート液浸漬工程
32 乾燥工程
34 フック
37 希釈剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡用可撓管の一端部を、この一端部の濡れ性を向上させる濡れ性向上液に浸漬させる第1浸漬工程と、
前記内視鏡用可撓管を、略鉛直方向に伸び且つ前記一端部を下に向けた状態で、当該一端部からコート液に浸漬させる第2浸漬工程と、
前記内視鏡用可撓管を乾燥処理して、前記内視鏡用可撓管の外周面に塗布された前記コート液を硬化させることにより、当該外周面にコート層を形成する乾燥工程と、
を有することを特徴とする内視鏡用可撓管のコート層形成方法。
【請求項2】
前記内視鏡用可撓管の一端部には、重りを吊り下げるためのフックが取り付けられており、
前記第1浸漬工程では、少なくとも前記フックを前記濡れ性向上液に浸漬させることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用可撓管のコート層形成方法。
【請求項3】
前記コート液は、前記コート層の成分と希釈剤とを混合した混合液であり、
前記第1浸漬工程では、前記濡れ性向上液として前記希釈剤を用いることを特徴とする請求項1または2記載の内視鏡用可撓管のコート層形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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