説明

円偏波パッチアンテナ及び円偏波アレイアンテナ

【課題】給電素子の一点から給電する手法を取り入れながら、軸比特性が広帯域となり、かつアンテナ利得が広い周波数範囲で比較的に高利得になる円偏波パッチアンテナ(アレイアンテナ)を提供する。
【解決手段】地導体板60上に1つの給電点62を有し、四角形の一方の2角を切り落とした六角形給電素子52と四角形無給電素子54を同軸上に配置し、六角形給電素子52に対して四角形無給電素子54の角度を、一致させた円偏波パッチアンテナ50は、軸比特性が広帯域になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円偏波パッチアンテナ及び円偏波アレイアンテナに関し、一層詳細には、無給電素子付きの円偏波パッチアンテナ及び円偏波アレイアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
パッチアンテナにより円偏波を放射する場合、第1に、給電素子に対して位置が90゜異なる点から90゜の位相差をつけて給電する、いわゆる2点給電円偏波パッチアンテナによる手法と、第2に、給電素子の一点から給電し放射素子に切り欠きを設ける、いわゆる1点給電円偏波パッチアンテナによる手法がある(特許文献1)。
【0003】
第1の手法は、一般的に広い周波数帯域にわたり良好な円偏波を放射することができるが、1個の給電素子に対して2個の給電点を必要とする。また、アンテナ以外に90゜位相差をつける給電回路を必要とする、という2つの理由により給電構造が複雑になるという問題がある。
【0004】
第2の手法は、給電構造は比較的簡単であるが、アンテナの入力インピーダンスに依存して円偏波を放射する方式であるため、実用的な軸比の帯域が数%と狭くなるという問題がある。
【0005】
図10は、特許文献1の図6に記載された軸比帯域の狭い円偏波アレイアンテナ(0゜並列配列円偏波アレイアンテナともいう。)10の構成を示している。この円偏波アレイアンテナ10では、誘電体基板12上に、切り欠きからなる縮退分離素子14が対向する2角に設けられた給電素子16が並列に設けられ、給電口18に接続される給電線20が給電素子16の給電点22に接続されている。
【0006】
図11は、特許文献1の図1に記載された軸比帯域が広い範囲に改善された円偏波アレイアンテナ(90゜直交並列円偏波アレイアンテナともいう。)30の構成を示している。この円偏波アレイアンテナ30では、誘電体基板12上に、切り欠きからなる縮退分離素子14が対向する2角に設けられた給電素子16の片方を90゜回転させて並列に設けており、給電口18に接続される給電線20が給電素子16の給電点22に接続されている。
【0007】
図12は、この出願の発明者により特許文献1に係る技術を追試した結果であって、これら2つの円偏波アレイアンテナ10、30に対して、素子間隔0.8[λ]での規格化周波数−アンテナ利得[dBi]特性を示している。アンテナ利得特性2x´は、図10の円偏波アレイアンテナ10に対応し、アンテナ利得特性2y´は、図11の円偏波アレイアンテナ30に対応している。なお、上記特許文献1では、規格化中心周波数を、例えば2.4[GHz]帯としているが、この明細書においては、中心周波数は、1.592[GHz]{波長λは、λ=188[cm]}としているので、図12、図13の規格化周波数「1」は、1.592[GHz]に対応する。
【0008】
図13は、素子間隔0.8[λ]での規格化周波数−軸比特性を示している。軸比特性2xは、図10の円偏波アレイアンテナ10に対応し、軸比特性2yは、図11の円偏波アレイアンテナ30に対応している。
【0009】
このように、図10の0゜並列配列の円偏波アレイアンテナ10に比較して、図11の90゜直交並列配列の円偏波アレイアンテナ30は、図12に示したアンテナ利得特性2x´、2y´では、それほど差異はないが、図13に示す軸比特性2yでは、軸比特性2xに比較して相当広範囲に改善されていることが分かる。
【0010】
【特許文献1】特開2004−112652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図11に示した円偏波アレイアンテナ30を、図14に示すように、素子単体の円偏波パッチアンテナ30sとして使用する場合には、図15に示すように、素子単体での軸比特性1yが狭帯域になってしまうという欠点がある。
【0012】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、給電素子の一点から給電する手法を取り入れながら、軸比特性が広帯域となり、かつアンテナ利得が広い周波数範囲で比較的に高利得である円偏波パッチアンテナ及び円偏波アレイアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る円偏波パッチアンテナは、直線偏波の1つの給電点の六角形給電素子と四角形無給電素子を同軸上に平行して配置する構成により、軸比特性が広帯域となり、かつアンテナ利得が広い周波数範囲で比較的に高利得になる。
【0014】
この場合、前記六角形給電素子の対向する他方の2角の対角線と、前記四角形無給電素子の対角線とを一致させることで、製作が容易になる。
【0015】
前記六角形給電素子を形成する四角形と、前記四角形無給電素子は、それぞれ正方形であることが好ましい。
【0016】
この発明には、上述した円偏波パッチアンテナを複数含む円偏波アレイアンテナも含まれる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、給電素子の一点から給電する手法を取り入れながら、軸比特性が広帯域となり、かつアンテナ利得が広い周波数範囲で比較的に高利得になる円偏波パッチアンテナ及び円偏波アレイアンテナが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、この実施形態で説明するアンテナの使用周波数帯は、300[MHz]〜30[GHz]のマイクロ波帯である。
【0019】
図1は、この発明の一実施形態の1素子アンテナからなる円偏波パッチアンテナ50の平面図である。
【0020】
図2は、1素子アンテナからなる円偏波パッチアンテナ50の斜視図である。
【0021】
この1素子アンテナからなる円偏波パッチアンテナ50は、アルミニューム製の地導体板(地導体)60上に、誘電体51、53を挟んでそれぞれ金属の給電素子52と無給電素子54が同軸上に重ねて平行に配置された、いわゆるスタック構成になっている。ここで、無給電素子54は、八木アンテナにおける導波器と同様に動作するが、直線偏波を形成する。
【0022】
給電素子52は、正方形の対向する一方の2角を、1つの給電点62で直線偏波となるように同じ大きさ分切り落とし、縮退分離素子56とした六角形形状とされ、一方、無給電素子54の1辺の長さは、この六角形の中央の四角形部と略重なる大きさの正方形とされている。
【0023】
また、六角形の給電素子52の対向する他方の2角の対角線DL6と、四角形の無給電素子54の対角線DL4とを平面的に見て一致させて配置している。六角形の給電素子52は、対角線DL6に対して対称な形状になっている。
【0024】
上記のように構成された円偏波パッチアンテナ50は、円偏波特性を有する。
【0025】
図1、図2に示すように、給電素子52には、給電点62が設けられている。給電点62に対する給電方法は、第1にマイクロストリップ給電線で給電する。第2に地導体板60の裏側から地導体板60を貫通して給電する。第3に地導体板60に開口窓を開け裏面から電磁給電する、という方法のいずれかを選択することができる。
【0026】
以上のように構成される円偏波パッチアンテナ50では、六角形の一辺に形成された給電点62から給電することで、対角線DL6(図1参照)と平行する方向DR6(図3参照)に直線偏波が形成されるような給電素子52と、四角形の一辺に給電点を形成し、そこから給電をした場合、その給電点に近い辺側から他方の辺側に向かう方向DR4(図3参照)に直線偏波が形成されるような無給電素子54を、図3に示すように同軸上に配置して、給電点62から給電することで、全体として、円偏波アンテナとして動作する。換言すれば、図3に示す六角形の給電素子52単体に給電した場合、及び四角形の無給電素子54単体に六角形の給電素子52と同様な給電点から給電した場合は、それぞれ図3に示すような偏波方向DR6、DR4を有する直線偏波が形成され、そのような特性を有する六角形の給電素子52上に四角形の無給電素子54を図3に示すように同軸上に配置し、六角形の給電素子52の給電点62から給電することで、全体として円偏波アンテナとして動作する。
【0027】
図4は、円偏波パッチアンテナ50の給電素子52の切り落とし量をパラメータとして変化させた場合の規格化周波数(f/f0)と軸比[dB]との関係を示している。
【0028】
なお、図4において、各要素は、図5のように定義し、各値を設定している。
【0029】
給電素子52の切り落としのない正方形の1辺の長さをal1、その正方形の面積al1×al1をS、切り落とされた2つの三角形の面積をそれぞれΔS、無給電素子54の正方形の1辺の長さをal2、地導体板60から給電素子52までの距離(誘電体51の厚み)をTL(TL=0.043λ0)、地導体板60から無給電素子54までの距離(誘電体51+給電素子52+誘電体53の厚み)をTH(TH=0.096λ0)、中心周波数f0の波長をλ0としている。なお、面積Sは、給電素子52の切り落としのない正方形の面積である。
【0030】
図4の軸比特性において、軸比3[dB]以下の軸比特性で帯域を評価すると、軸比特性1z(al1=0.47λ0、al2=0.39λ0、ΔS/S=15.5[%])が最も広帯域であり、次に、軸比特性1za(al1=0.47λ0、al2=0.39λ0、ΔS/S=11.4[%])、軸比特性1zb(al1=0.47λ0、al2=0.39λ0、ΔS/S=20.2[%])が広帯域であり、比較的に切欠量の多い軸比特性1zc(al1=0.47λ0、al2=0.39λ0、ΔS/S=25.6[%])、比較的に切欠量の少ない軸比特性1zd(al1=0.47λ0、al2=0.39λ0、ΔS/S=7.9[%])は、軸比特性が不良であることが分かる。
【0031】
図6は、給電素子52及び無給電素子54の材質を軸比特性1z(図4参照)で示す銅(導電率:5.8×107)から、アルミ(3.8×107)、銀(6.1×107)、ステンレス(1.1×106)、鋳鉄(1.5×106)に変更した場合の軸比特性の変化の具合を示しているが、導電率が1×106〜10×107程度の導体であれば、軸比特性に対して影響がほとんどないことが分かる。
【0032】
図7は比較例であり、図8に示すように、無給電素子54を設けないで、給電素子52と地導体板60からなる円偏波パッチアンテナ150の切欠量に対する周波数・軸比の関係を示している。
【0033】
この図7から、給電素子52のみを有する円偏波パッチアンテナ150の場合の軸比特性が最適となる切欠量ΔS/Sは、3.6[%]であることが分かる。
【0034】
なお、円偏波パッチアンテナ50は、2個以上並べて、例えば図9に示すように、2つの円偏波パッチアンテナ50aを素子アンテナとして地導体板60上に配置した、90゜直交配列の円偏波アレイアンテナ70として使用することもできる。
【0035】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の一実施形態の1素子アンテナからなる円偏波パッチアンテナの平面図である。
【図2】図1例の円偏波パッチアンテナの斜視図である。
【図3】給電素子単体に給電した場合に形成される直線偏波の方向、及び無給電素子に給電点を形成して給電した場合に、無給電素子単体に形成される直線偏波の方向を示す説明図である。
【図4】給電素子の切り落としの有無に対して軸比を比較する特性図である。
【図5】パッチアンテナを構成する各パラメータの定義を示す説明図である。
【図6】材質の違いに対する軸比特性の変化を示す特性図である。
【図7】給電素子の切り落とし量の変化に対する軸比特性の変化を示す特性図である。
【図8】この実施形態で無給電素子を設けない場合のパッチアンテナの斜視図である。
【図9】この実施形態に係る90゜直交配列の円偏波アレイアンテナの平面図である。
【図10】従来技術に係る軸比帯域の狭い円偏波アレイアンテナ(0゜並列配列円偏波アレイアンテナ)の平面図である。
【図11】従来技術に係る軸比帯域が広い範囲に改善された円偏波アレイアンテナ(90゜直交並列円偏波アレイアンテナ)の平面図である。
【図12】図10、図11例の円偏波アレイアンテナのアンテナ利得特性を比較する特性図である。
【図13】図10、図11例の円偏波アレイアンテナの軸比特性を比較する特性図である。
【図14】素子単体の円偏波パッチアンテナの平面図である。
【図15】図14例の円偏波パッチアンテナの軸比特性図である。
【符号の説明】
【0037】
10…円偏波アレイアンテナ 50…円偏波パッチアンテナ
51、53…誘電体 52…給電素子
54…無給電素子 56…縮退分離素子
60…地導体板 62…給電点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形の4角中、対向する一方の2角を、1つの給電点で直線偏波となるように切り落とした六角形給電素子と、
前記六角形給電素子に対して同軸上に平行して配置した直線偏波の四角形無給電素子とを備え、
前記2角を切り落とした前記六角形給電素子と前記四角形無給電素子とで円偏波特性を得るようにした
ことを特徴とする円偏波パッチアンテナ。
【請求項2】
請求項1記載の円偏波パッチアンテナにおいて、
前記六角形給電素子の対向する他方の2角の対角線と、前記四角形無給電素子の対角線とを一致させた
ことを特徴とする円偏波パッチアンテナ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の円偏波パッチアンテナにおいて、
前記六角形給電素子を形成する前記四角形と、前記四角形無給電素子は、それぞれ正方形である
ことを特徴とする円偏波パッチアンテナ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の円偏波パッチアンテナを複数含む
ことを特徴とする円偏波アレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−36930(P2007−36930A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220092(P2005−220092)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】