説明

制動力調整装置

【課題】パーキングブレーキやサービスブレーキに適した制動力の調整が可能な機構を提供する。
【解決手段】制動力調整装置14は、回転部材に付勢されることで該回転部材との摩擦力により制動力を発生させるブレーキパッド16aと接続される第1のリンク機構18と、第1のリンク機構18と連結されている第2のリンク機構20と、を備える。第1のリンク機構18および第2のリンク機構20は、第1のリンク機構と第2のリンク機構が成す角が変化する場合に、ブレーキパッド16aが回転部材に向けて移動するように構成されており、第1のリンク機構18は、第2のリンク機構20との連結点C1と、ブレーキパッド16aとの接続部C2との距離を調整可能な調整機構22を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トグル機構を用いてブレーキパッドを押圧することでパーキングブレーキの機能を実現する装置が考案されている(特許文献1参照)。この装置は、パーキングレバーを揺動させて回転軸を回転させ、トグルを介してピストンを摺動させ、ピストンに押されたパッドによりディスクを押圧することでパーキングブレーキを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−65920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の装置におけるトグル機構は、パーキングブレーキに特化したものであり、サービスブレーキへの適用については考慮されていない。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、パーキングブレーキやサービスブレーキに適した制動力の調整が可能な機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の制動力調整装置は、回転部材に付勢されることで該回転部材との摩擦力により制動力を発生させる摩擦部材と接続される第1のリンク機構と、前記第1のリンク機構と連結されている第2のリンク機構と、を備える。前記第1のリンク機構および前記第2のリンク機構は、該第1のリンク機構と該第2のリンク機構が成す角が変化する場合に、前記摩擦部材が前記回転部材に向けて移動するように構成されており、前記第1のリンク機構は、前記第2のリンク機構との連結点と、前記摩擦部材との接続部との距離を調整可能な調整機構を有する。
【0007】
この態様によると、例えば、外力により第1のリンク機構と第2のリンク機構が成す角が変化する場合に、連結点と接続部との距離が調整されることで、接続部で発生する出力が変化する。そのため、接続部に接続された摩擦部材が発生させる制動力の制御が可能となる。
【0008】
前記第1のリンク機構および前記第2のリンク機構は、該第1のリンク機構と該第2のリンク機構が成す角が鋭角となるように連結されており、該成す角が小さくなる場合に、前記摩擦部材が前記回転部材に向けて移動するように構成されていてもよい。これにより、回転部材に付勢されることで回転部材との摩擦力により制動力を発生させる摩擦部材を第2のリンク機構に接続すると、一対の摩擦部材で回転部材を挟持できる。
【0009】
前記調整機構は、複数のリンク部材で構成されており、かつ、前記第1のリンク機構の移動に伴い前記複数のリンク部材同士の成す角が変化することで前記連結点と前記接続部との距離が変化するように構成されていてもよい。これにより、簡易な構成で連結点と接続部との距離を変化させることができる。
【0010】
前記調整機構は、リンク部材と、該リンク部材の一端が回動可能に支持されている回転体と、を有してもよい。前記回転体は、回転軸よりも外側に前記リンク部材を支持する支持部が設けられていてもよい。これにより、簡易な構成で連結点と接続部との距離を変化させることができる。
【0011】
前記調整機構は、複数のリンク部材と、前記複数のリンク部材のそれぞれの一端が係止されている距離変化機構と、を有してもよい。前記距離変化機構は、該距離変化機構の回転運動によって、係止されているリンク部材の一端同士の距離が変化するように構成されていてもよい。これにより、簡易な構成で連結点と接続部との距離を変化させることができる。
【0012】
本発明の別の態様もまた、制動力調整装置である。この装置は、複数のリンクを有するトグル機構を用いて制動力を発生させる制動力調整装置であって、該装置は、トグル機構へ外部から力が入力される入力部と、入力された力が増大されて外部へ出力される出力部との距離が調整可能に構成されている。
【0013】
この態様によると、入力部と出力部との距離を調整することで、トグル機構の出力部から出力される力を制御できる。そのため、出力部が発生させる制動力の制御が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パーキングブレーキやサービスブレーキに適した制動力の調整が可能な機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係る制動力調整装置を有するディスクブレーキの正面図である。
【図2】図1に示すトグルリンクのリンク角による入力Fiおよび出力F0の関係を説明するための模式図である。
【図3】第1のリンク機構と水平方向との成す角αiと、トグルリンク出力との関係の一例を示すグラフである。
【図4】トグル機構における力点と作用点との関係を説明するための模式図である。
【図5】図4に示すトグルリンクにおける変位と出力との関係を示す図である。
【図6】第1の実施の形態に係る制動力調整装置の模式図である。
【図7】第1の実施の形態に係る制動力調整装置をパーキングブレーキとして動作させている状態を示す図である。
【図8】図8(a)は、調整機構における2つのリンクの成す角が負角の場合を示す模式図、図8(b)は、調整機構における2つのリンクの成す角が0°の場合を示す模式図、図8(c)は、調整機構における2つのリンクの成す角が正角の場合を示す模式図である。
【図9】図8(a)に示す範囲Eの要部拡大図である。
【図10】作動量とストロークとの間の関係を示すグラフである。
【図11】作動量と出力との関係を示すグラフである。
【図12】制動力調整装置の調整機構にばねを接続した状態を示す模式図である。
【図13】制動力調整装置の調整機構と第1のリンク機構との間に板バネを設けた状態を示す模式図である。
【図14】第2の実施の形態に係る制動力調整装置の模式図である。
【図15】第2の実施の形態に係る制動力調整装置をパーキングブレーキとして動作させている状態を示す図である。
【図16】第3の実施の形態に係る制動力調整装置の模式図である。
【図17】第3の実施の形態に係る制動力調整装置をパーキングブレーキとして動作させている状態を示す図である。
【図18】調整機構の分解図である。
【図19】図19(a)、図19(b)は、距離変化機構の動作を説明するための模式図である。
【図20】調整機構の変形例の側面図である。
【図21】図21(a)、図21(b)は、距離変化機構の動作を説明するための模式図である。
【図22】第4の実施の形態に係る制動力調整装置の模式図である。
【図23】図22に示す締め付けカム機構をX方向から見た上面図である。
【図24】締め付けカム機構の他の例の上面図である。
【図25】第4の実施の形態の変形例に係る制動力調整装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。以下の実施の形態で説明する制動力調整機構は、車両のブレーキに適用することができる。特に、パーキングブレーキ付きディスクブレーキに好適である。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る制動力調整装置を有するディスクブレーキの正面図である。図1に示すように、ディスクブレーキ10は、回転軸Axを中心とする円板状のディスクロータ12と、制動力調整装置14と、を備える。制動力調整装置14は、ディスクロータ12に付勢されることでディスクロータ12との摩擦力により制動力を発生させる摩擦部材としてのブレーキパッド16aと接続される第1のリンク機構18と、第1のリンク機構18と連結されている第2のリンク機構20と、を備える。
【0018】
第1のリンク機構18および第2のリンク機構20は、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20が成す角が変化する場合に、ブレーキパッド16aがディスクロータ12に向けて移動するように構成されている。第1のリンク機構18は、第2のリンク機構20との連結点C1と、ブレーキパッド16aとの接続部C2との距離を調整可能な調整機構22を有する。
【0019】
本実施の形態に係る第2のリンク機構20は、ディスクロータ12に付勢されることでディスクロータ12との摩擦力により制動力を発生させる摩擦部材としてのブレーキパッド16bが接続部C3において接続されている。また、ディスクブレーキ10は、一対のブレーキパッド16a,16bがディスクロータ12に向かって移動できるようにブレーキパッドの側部を保持する一対のスライド面24と、を有する。本実施の形態では、第1のリンク機構18および第2のリンク機構20によりトグルリンク25が構成される。
【0020】
なお、リンク機構がブレーキパッドに接続(連結)されているとは、リンク機構を構成するリンク部材が直接ブレーキパッドに接続(連結)されている場合だけでなく、他の部材(例えば、ピストン、キャリパ、その他のリンク等)を介して接続(連結)している場合も含まれる。
【0021】
次に、トグルリンクについて説明する。トグルリンクが有する特徴としては、例えば、(i)入力はリンク系によって伝達される、(ii)入力によって部材が入力方向に移動する、(iii)リンクが一直線(図2に示す角度αi=180deg)になったときには入力が除去されても、部材は反入力方向に戻らず位置が保持される、(iv)位置が保持された後、反入力方向の外力に対して大きな抗力を持つ、などが挙げられる。このようなトグルリンクを実施の形態に係るディスクブレーキに適用することで、通常の油圧で作動するブレーキキャリパの(a)力を発生させる機能、(b)ストロークする機能を置き換えることができる。また、前述の(iii)の特徴により、パーキングブレーキとしての使用にも適している。
【0022】
次に、図1に示すトグルリンク25の入力と出力との関係を説明する。図1に示すように、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20との連結点C1に矢印の方向から入力Fiが加わると、第1のリンク機構18のブレーキパッド16aとの接続部C2、および、第2のリンク機構20のブレーキパッド16bとの接続部C3には、それぞれ矢印の方向へ出力F0が生じる。
【0023】
図2は、図1に示すトグルリンクのリンク角による入力Fiおよび出力F0の関係を説明するための模式図である。第1のリンク機構18と水平方向とが成す角をαi、第2のリンク機構20と水平方向とが成す角をα0、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20とが成す角をα1とすると、以下の式(1)、式(2)が導かれる。
α0=sin−1(A×sinαi/B)・・・式(1)
F0=(Fi×cosα0/sin(αi+α0))・・・式(2)
【0024】
図3は、第1のリンク機構18と水平方向との成す角αiと、トグルリンク出力との関係の一例を示すグラフである。なお、図3に示すグラフの縦軸は出力F0/入力Fi、横軸は第1のリンク機構18と水平方向との成す角αiである。また、グラフに示す特性は、第1のリンク機構18や第2のリンク機構20の長さ等によって異なるものであり、前述の式(1)、式(2)の関係を満たす範囲で変化しうる。
【0025】
図3に示す出力特性では、出力F0が常に入力Fiを上回っていることから、外部よりサーボ機構を必要としない少ない力で大きな制動力をディスクブレーキに発生させることができる。本実施の形態では、トグルリンクがサーボ機構として機能する。また、角度αiの増加に伴い出力/入力の値が増加しているため、出力/入力の値が5〜15倍となる領域Aは、走行時や停車時の通常のフットブレーキに適しており、出力/入力の値が20倍前後となる領域Bはパーキングブレーキに適している。そこで、トグルリンクの動作量を制御することで一つのディスクブレーキによりサービスブレーキ(フットブレーキ)とパーキングブレーキとを兼用することができる。このように、本実施の形態に係るディスクブレーキ10は、トグルリンクの特長を生かしてパーキングブレーキとしても作動でき、その状態を保持する場合は外部からの入力を必要としないようにすることができる。
【0026】
このように、ディスクブレーキ10は、トグルリンク25により入力Fiを増幅してブレーキパッド16a,16bをディスクロータ12に押し付けることができる。また、入力に対する出力の倍率が5〜15程度の緩やかなところで使用することで、通常のブレーキ(サービスブレーキ)としても制御性にも優れる。また、駐車時にはクランプ力がほぼ無限大となるため、外部より力を加えることなく、駐車を維持できる。
【0027】
ところで、トグル機構を用いて推力を発生するブレーキ機構では、機構の構成により摩擦部材のストロークの最大量が決まる。また、トグル機構の不可逆特性を利用してパーキングブレーキ作動時の入力を低減(または0に)するためには、摩擦部材のストロークが最大となる付近で利用することが求められる。一方、通常のサービスブレーキに必要な力の最大値は、摩擦部材のストロークが最大となるまでに発生する必要があり、一般に駐車のために必要な力より小さい。つまり、対策の採られていないトグル機構は、パーキングブレーキ作動時には必要以上の力を発生させることとなる。
【0028】
そのため、トグル機構を用いてパーキングブレーキやサービスブレーキにより適した制動力を発揮するためには、何らかの手段が必要となる。また、トグル機構は、変位変化は余り大きくないが、出力は過大となる。
【0029】
図4は、トグル機構における力点と作用点との関係を説明するための模式図である。図5は、図4に示すトグルリンクにおける変位と出力との関係を示す図である。図4に示すトグルリンク26は、2つのリンク28,30が角度θで連結されている。リンク28は、その一端が支点に支持されており、その他端がリンク30と連結されている。リンク28の他端とリンク30の一端との連結部は力点として機能し、その力点に矢印の方向から力Fが入力されると、リンク30の他端である作用点において力Pが矢印の方向に出力される。
【0030】
ここで、力Fと力Pとの関係は以下の式(3)で示される。
P=(1/2)×F×tan(θ/2)・・・式(3)
【0031】
図5は、力点の変位に対する作用点の変位、および、力点の変位に対する入力/出力の比の関係を示したグラフである。図5に示すように、力点の変位の増加に伴い入力/出力の比は増加する。そして、2つのリンクが成す角θが170°を超えた辺りで入力/出力の比が10倍程度となる。したがって、力点の変位が5.5mm前後、2つのリンクが成す角θが170°を超えた辺りまでの範囲R1では、通常のサービスブレーキに適した制御が可能となる。
【0032】
力点の変位が大きな範囲では、力点の変位に対する作用点の変位は徐々に小さくなり、2つのリンクが成す角θが180°前後(図5に示す範囲R2)ではほとんど変化しなくなる。このように、トグル機構の不可逆特性を利用して、パーキングブレーキ作動時の入力を低減するためには、そのストローク(力点変位)が最大となる付近で利用することになる。一方、力点の変位が最大値8mm、2つのリンクが成す角θが180°の場合、入力/出力の比が必要以上に大きくなる(P/F>20)。そのため、パーキングブレーキを作動させる毎に発生する過大な出力は、性能上不必要である上に、ブレーキ装置の耐久性を考慮すると不必要に各部材の強度を上げることとなる。その結果、ブレーキ装置全体のコストの上昇を招くことにもなる。
【0033】
そこで、本発明者は鋭意検討し、トグルリンクによりブレーキパッドを押圧する機構を有するディスクブレーキにおいて、要求される制動力に応じて力点と作用点の間のリンク長さを変更する機構を設けることで、サービスブレーキとパーキングブレーキの制動力を適度な範囲に調整する制動力調整装置を考案した。この装置によれば、例えば、サービスブレーキ時、パーキングブレーキ時で最大制動力の変更が可能となり、パーキングブレーキ時に過大な制動力が発生することを防止できる。
【0034】
以下、本実施の形態に係る制動力調整装置の構成について詳述する。図6は、第1の実施の形態に係る制動力調整装置の模式図である。図7は、第1の実施の形態に係る制動力調整装置をパーキングブレーキとして動作させている状態を示す図である。なお、図6および図7では、ディスクロータの図示を省略している。また、各図では、制動力調整装置の動作の説明が容易となるように、各部材の変位を実際よりも誇張して描いている。
【0035】
制動力調整装置14の第1のリンク機構18は、調整機構22とリンク32とを備える。調整機構22とリンク32は、連結点C4において互いに固定されている。調整機構22は、2つのリンク34,36で構成されている。リンク34とリンク36は、リンク角度が変化するように連結されている。そして、調整機構22は、第1のリンク機構18の移動に伴いリンク34,36同士の成す角が変化することで連結点C1と接続部C2との距離が変化するように構成されている。これにより、簡易な構成で連結点C1と接続部C2との距離を変化させることができる。
【0036】
このように構成されている制動力調整装置14の連結点C1に入力Fiが加わると、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20との成す角が小さくなり、最終的に図7に示す状態となる。この際、リンク32とリンク34との連結点C4は、ブレーキパッド16aに向かって距離d1だけ移動するが、リンク32とリンク34とが互いに固定されているため、調整機構22の働きによって調整機構22の全長d2が短くなる。その結果、ブレーキパッド16aとブレーキパッド16bとの間隔d3の変化を吸収することができる。
【0037】
このように、連結点C1と接続部C2との距離が調整されることで、接続部C2で発生する出力が変化する。そのため、接続部C2に接続されたブレーキパッド16aが発生させる制動力の制御が可能となる。したがって、本実施の形態に係る制動力調整装置14を用いた制動装置は、サービスブレーキからパーキングブレーキへ切り替わる際に、備えているリンクの長さを短縮したりリンク角度を変化させたりすることにより、パーキングブレーキ時に発生する出力の増大を抑制できる。
【0038】
また、前述の第1のリンク機構18および第2のリンク機構20は、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20とが成す角(リンク角)が鋭角となるように連結されている。そして、リンク角が小さくなる場合に、ブレーキパッド16aがディスクロータ12に向けて移動するように構成されている。これにより、ディスクロータ12に付勢されることでディスクロータ12との摩擦力により制動力を発生させるブレーキパッド16bを第2のリンク機構20に接続すると、一対のブレーキパッド16a,16bでディスクロータ12を挟持できる。
【0039】
なお、図6、図7では、リンク32とリンク34とが互いに固定されている構成を示しているが、互いに回動可能に連結してもよい。ここで、各リンクの長さやリンク角度は、目的とする制動装置の性能や構成、大きさ、材質などの諸元に合わせて適宜決定すればよい。
【0040】
次に、前述の制動力調整装置14において、第1のリンク機構18の変位におけるリンク34とリンク36との成す角の変化について説明する。図8(a)は、調整機構22における2つのリンクの成す角が負角の場合を示す模式図、図8(b)は、調整機構22における2つのリンクの成す角が0°の場合を示す模式図、図8(c)は、調整機構22における2つのリンクの成す角が正角の場合を示す模式図である。図9は、図8(a)に示す範囲Eの要部拡大図である。なお、リンク34とリンク36との成す角とは、図9に示すように、リンク34とリンク36の両端の軸P1,P2を結ぶ線と、リンク34およびリンク36の連結点C5とリンク34の軸P1とを結ぶ線と、が成す角である。
【0041】
図8(a)や図9に示すように、制動力調整装置14は、第1のリンク機構18の移動により、リンク34とリンク36との成す角が負角の状態から、図8(b)に示す、リンク34とリンク36との成す角=0°の状態を経て、最終的には、リンク34とリンク36との成す角が正角の状態へと変化する。
【0042】
その際、リンク32とリンク34とは互いに固定されているため、連結点C1が徐々に下がると、リンク34は徐々に持ち上がる。図10は、作動量とストロークとの間の関係を示すグラフである。図10に示すラインL1は、調整機構22を有していない場合の作動量とストロークとの関係を示しており、ラインL2は、調整機構22を有している場合の作動量とストロークとの関係を示している。ラインL2に示すように、調整機構22を備えた制動力調整装置14においては、作動量に対してストロークが減少する作動量の範囲が存在する。
【0043】
また、図11は、作動量と出力との関係を示すグラフである。図11に示すL3は、調整機構22を有していない場合の作動量と出力との関係を示しており、ラインL4は、調整機構22を有している場合の作動量と出力との関係を示している。
【0044】
図8(a)に示す状態のように、調整機構22のリンク34に対するリンク36の長手方向が負角である状態からトグルリンク25の作動が始まると、ストロークを増加させる効果がある。一方、出力は、リンク34とリンク36との成す角=0°で不連続となる(図11のラインL4参照。)。そのため、リンク34とリンク36との成す角が0°を挟んで変化しないように所定の作動領域を設定するか、またはリンク34とリンク36との成す角が0°を挟んで変化しないように作動領域内において作動量を制御することが好ましい。なお、図11の領域Gでは、調整機構22の有無による出力の差が少ないが、これは幾何学的な力のつり合いから求めた計算結果であり、実際には調整機構22がある場合の出力は低下すると考えられる。
【0045】
リンク34とリンク36との成す角が負角にならないようにするためには、以下の構成が考えられる。図12は、制動力調整装置の調整機構にばねを接続した状態を示す模式図である。図13は、制動力調整装置の調整機構と第1のリンク機構との間に板バネを設けた状態を示す模式図である。
【0046】
図12に示すばね38は、リンク34とリンク36との連結点C5に接続され、調整機構22を常に図の上方に向けて引っ張っている。そのため、リンク34とリンク36との成す角が負角にならない。また、図13に示す板ばね40は、第1のリンク機構18のリンク32と調整機構22のリンク34とを所定の角度で保持するように設けられている。
【0047】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態に係る調整機構は、複数のリンクで構成されていた。本実施の形態に係る調整機構は、回転部材と1つ以上のリンクで構成されている。なお、第1の実施の形態と同様の部材や構成については同じ符号を付し説明を適宜省略する。
【0048】
図14は、第2の実施の形態に係る制動力調整装置42の模式図である。図15は、第2の実施の形態に係る制動力調整装置をパーキングブレーキとして動作させている状態を示す図である。なお、図14および図15では、ディスクロータの図示を省略している。また、各図では、制動力調整装置42の動作の説明が容易となるように、各部材の変位を実際よりも誇張して描いている。
【0049】
制動力調整装置42の第1のリンク機構18は、調整機構44とリンク32とを備える。調整機構44とリンク32は、連結点C4において互いに固定されている。調整機構44は、リンク34と、リンク34の一端が回動可能に支持されている回転体としてのカム46と、を有している。カム46は、回転軸P3よりも外側にリンク34を支持する支持部46aが設けられている。そして、調整機構44は、第1のリンク機構18の移動に伴いリンク34の一端が持ち上がることでカム46の支持部46aが回転し、連結点C1と接続部C2との距離が変化するように構成されている。これにより、簡易な構成で連結点C1と接続部C2との距離を変化させることができる。
【0050】
このように構成されている制動力調整装置42の連結点C1に入力Fiが加わると、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20との成す角が小さくなり、最終的に図15に示す状態となる。この際、リンク32とリンク34との連結点C4は、ブレーキパッド16aに向かって距離d1だけ移動するが、リンク32とリンク34とが互いに固定されているため、調整機構44の働きによって調整機構44の全長d2が短くなる。その結果、ブレーキパッド16aとブレーキパッド16bとの間隔d3の変化を吸収することができる。
【0051】
このように、連結点C1と接続部C2との距離が調整されることで、接続部C2で発生する出力が変化する。そのため、接続部C2に接続されたブレーキパッド16aが発生させる制動力の制御が可能となる。したがって、本実施の形態に係る制動力調整装置42を用いた制動装置は、サービスブレーキからパーキングブレーキへ切り替わる際に、備えているリンクの長さを短縮したりリンク角度を変化させたりすることにより、パーキングブレーキ時に発生する出力の増大を抑制できる。
【0052】
なお、図14、図15では、リンク32とリンク34とが互いに固定されている構成を示しているが、互いに回動可能に連結してもよい。ここで、各リンクの長さやリンク角度、偏心カムの偏心量などは、目的とする制動装置の性能や構成、大きさ、材質などの諸元に合わせて適宜決定すればよい。
【0053】
(第3の実施の形態)
第1の実施の形態に係る調整機構は、複数のリンクで構成されていた。本実施の形態に係る調整機構は、複数のリンク同士の距離を変える距離変化機構を備えている。なお、前述の実施の形態と同様の部材や構成については同じ符号を付し説明を適宜省略する。
【0054】
図16は、第3の実施の形態に係る制動力調整装置48の模式図である。図17は、第3の実施の形態に係る制動力調整装置をパーキングブレーキとして動作させている状態を示す図である。なお、図16および図17では、ディスクロータの図示を省略している。また、各図では、制動力調整装置48の動作の説明が容易となるように、各部材の変位を実際よりも誇張して描いている。
【0055】
制動力調整装置48の第1のリンク機構18は、調整機構50とリンク32とを備える。調整機構50とリンク32は、連結点C4において回転可能に連結されている。調整機構50は、リンク52およびリンク54と、各リンク52、54のそれぞれの一端が係止されている距離変化機構56と、を有している。距離変化機構56は、距離変化機構の回転運動(図16に示す矢印方向)によって、係止されているリンク52,54の一端同士の距離が変化するように構成されていている。これにより、簡易な構成で連結点C1と接続部C2との距離を変化させることができる。
【0056】
図18は、調整機構50の分解図である。図19(a)、図19(b)は、距離変化機構の動作を説明するための模式図である。
【0057】
図18に示すように、距離変化機構56は、筒状の部材であり、両側に穴56a,56bが設けられている。一方の穴56aの内周面には、左ねじ方向の雌ねじ56cが形成されている。また、他方の穴56bの内周面には、右ねじ方向の雌ねじ56dが形成されている。
【0058】
また、リンク32と連結されるリンク52の外周面には、左ねじ方向の雄ねじ52aが形成されている。また、リンク54の外周面には、右ねじ方向の雄ねじ54aが形成されている。そして、リンク52およびリンク54は、図19(a)に示すように、距離変化機構56の穴56a,56bの途中まで侵入した状態で保持されている。この状態でのリンク52における連結点C4とリンク54における接続部C2との距離をd2とする。
【0059】
この状態で、モータ等の外部駆動手段により距離変化機構56を図19(a)に示す矢印方向に回転させると、リンク52およびリンク54は共に距離変化機構56の内部へ向かって引き込まれる。その結果、図19(b)に示すように、リンク52における連結点C4とリンク54における接続部C2との距離がd2’へと変化し、調整機構50全体の長さが短くなる。
【0060】
したがって、図16に示す制動力調整装置48の連結点C1に入力Fiが加わると、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20との成す角が小さくなり、最終的に図17に示す状態となる。この際、リンク32とリンク34との連結点C4は、ブレーキパッド16aに向かって距離d1だけ移動するが、調整機構50の働きによって調整機構50の全長d2がd2’へと短くなる。その結果、ブレーキパッド16aとブレーキパッド16bとの間隔d3の変化を吸収することができる。
【0061】
このように、連結点C1と接続部C2との距離が調整されることで、接続部C2で発生する出力が変化する。そのため、接続部C2に接続されたブレーキパッド16aが発生させる制動力の制御が可能となる。したがって、本実施の形態に係る制動力調整装置48を用いた制動装置は、サービスブレーキからパーキングブレーキへ切り替わる際に、備えているリンク同士の間隔を短縮することにより、パーキングブレーキ時に発生する出力の増大を抑制できる。
【0062】
図20は、調整機構58の変形例の側面図である。図21(a)、図21(b)は、距離変化機構60の動作を説明するための模式図である。
【0063】
図20に示すように、距離変化機構60は、筒状の部材であり、両側に穴60a,60bが設けられている。リンク52の一方の端部には貫通孔52bが形成されており、その貫通孔52bにピン62が挿入され固定されている。また、リンク54の一方の端部にも貫通孔54bが形成されており、その貫通孔54bにピン64が挿入され固定されている。また、距離変化機構60の側部には、ピン62の両端部をガイドする2つのガイド部60cと、ピン64の両端部をガイドする2つのガイド部60dとが形成されている。各ガイド部60c,60dは、距離変化機構60の側面の周方向に対して斜めになるように形成されている。
【0064】
そして、リンク52およびリンク54は、図21(a)に示すように、距離変化機構60の穴60a,60bの途中まで侵入した状態で保持されている。この状態でのリンク52における連結点C4とリンク54における接続部C2との距離をd2とする。
【0065】
この状態で、モータ等の外部駆動手段により距離変化機構60を図21(a)に示す矢印方向に回転させると、リンク52に固定されているピン62およびリンク54に固定されているピン64がガイド部60c,60dに沿って距離変化機構60の中央部に向かって移動する。そして、リンク52およびリンク54は共に距離変化機構56の内部へ向かって引き込まれる。その結果、図21(b)に示すように、リンク52における連結点C4とリンク54における接続部C2との距離がd2’へと変化し、調整機構50全体の長さが短くなる。
【0066】
なお、本実施の形態に係る各距離変化機構は、リンク52とリンク54との間隔を調整できる。そのため、例えば、ブレーキパッド16a,16bの摩耗に応じて、トグルリンク25のストローク量を調整するための摩耗量調整機構として用いることもできる。
【0067】
(第4の実施の形態)
次に、パーキングブレーキで過大な制動力が発生しないようにするもう一つの方法として、リンクの角度を固定する例について説明する。
【0068】
図22は、第4の実施の形態に係る制動力調整装置の模式図である。本実施の形態に係る制動力調整装置66は、第1のリンク機構18および第2のリンク機構20との連結点C1を締め付けて固定する締め付けカム機構68を備えている。この締め付けカム機構68を外部の駆動手段により動作させることで、ディスクブレーキがサービスブレーキからパーキングブレーキへと機能を変化させる際に、パーキングブレーキとしての制動力が過剰に発生しないようにすることができる。
【0069】
図23は、図22に示す締め付けカム機構をX方向から見た上面図である。締め付けカム機構68は、偏心カム70と、偏心カム70を回転させるレバー72と、偏心カム70に支持されているタイロッド74と、タイロッド74を係止する係止ピン76と、を備える。
【0070】
締め付けカム機構68は、外部の駆動手段により、レバー72が矢印方向に移動すると、偏心カム70に接続されているタイロッド74が矢印方向に移動する。タイロッド74は、その端部が係止ピン76により係止されているため、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20とが互いに締め付けられる。その結果、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20とのリンクの角度が固定される。
【0071】
図24は、締め付けカム機構の他の例の上面図である。締め付けカム機構78は、くさびカム80と、くさびカム80を回転させるレバー72と、くさびカム80に固定されているタイロッド74と、タイロッド74を係止する係止ピン76と、を備える。
【0072】
締め付けカム機構78は、外部の駆動手段により、タイロッド74の長手方向を軸としてレバー72が矢印方向に回転すると、くさびカム80によりタイロッド74が矢印方向に移動する。タイロッド74は、その端部が係止ピン76により係止されているため、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20とが互いに締め付けられる。その結果、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20とのリンクの角度が固定される。
【0073】
次に、第1のリンク機構18と第2のリンク機構20とのリンク角度を固定する他の例について説明する。図25は、第4の実施の形態の変形例に係る制動力調整装置の模式図である。
【0074】
図25に示す制動力調整装置82は、第1のリンク機構18および第2のリンク機構20との相対位置を固定する固定機構84を備えている。固定機構84は、第1のリンク機構18のリンクの中間部と、第2のリンク機構20のリンクの中間部とを連結し、その距離をネジの進退により変化できるように構成されている。この固定機構84を外部の駆動手段により動作させることで、ディスクブレーキがサービスブレーキからパーキングブレーキへと機能を変化させる際に、パーキングブレーキとしての制動力が過剰に発生しないようにすることができる。
【0075】
以上、上述の制動力調整装置は、複数のリンクを有するトグル機構を用いて制動力を発生させる装置であり、その装置は、トグル機構へ外部から力が入力される入力部と、入力された力が増大されて外部へ出力される出力部との距離が調整可能に構成されている。そのため、入力部と出力部との距離を調整することで、トグル機構の出力部から出力される力を制御できる。そのため、出力部が発生させる制動力の制御が可能となる。
【0076】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0077】
なお、上述のディスクブレーキは、車両だけではなく、産業用の設備において制動力が必要な用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0078】
10 ディスクブレーキ、 14 制動力調整装置、 16a,16b ブレーキパッド、 18 第1のリンク機構、 20 第2のリンク機構、 22 調整機構、 25 トグルリンク、 32,34,36 リンク、 42 制動力調整装置、 44 調整機構、 46 カム、 48 制動力調整装置、 50 調整機構、 52 リンク、 52a 雄ねじ、 52b 貫通孔、 54 リンク、 54a 雄ねじ、 54b 貫通孔、 56 距離変化機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に付勢されることで該回転部材との摩擦力により制動力を発生させる摩擦部材と接続される第1のリンク機構と、
前記第1のリンク機構と連結されている第2のリンク機構と、を備え、
前記第1のリンク機構および前記第2のリンク機構は、
該第1のリンク機構と該第2のリンク機構が成す角が変化する場合に、前記摩擦部材が前記回転部材に向けて移動するように構成されており、
前記第1のリンク機構は、前記第2のリンク機構との連結点と、前記摩擦部材との接続部との距離を調整可能な調整機構を有することを特徴とする制動力調整装置。
【請求項2】
前記第1のリンク機構および前記第2のリンク機構は、
該第1のリンク機構と該第2のリンク機構が成す角が鋭角となるように連結されており、該成す角が小さくなる場合に、前記摩擦部材が前記回転部材に向けて移動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の制動力調整装置。
【請求項3】
前記調整機構は、複数のリンク部材で構成されており、かつ、前記第1のリンク機構の移動に伴い前記複数のリンク部材同士の成す角が変化することで前記連結点と前記接続部との距離が変化するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の制動力調整装置。
【請求項4】
前記調整機構は、
リンク部材と、
該リンク部材の一端が回動可能に支持されている回転体と、を有し、
前記回転体は、回転軸よりも外側に前記リンク部材を支持する支持部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の制動力調整装置。
【請求項5】
前記調整機構は、
複数のリンク部材と、
前記複数のリンク部材のそれぞれの一端が係止されている距離変化機構と、を有し、
前記距離変化機構は、該距離変化機構の回転運動によって、係止されているリンク部材の一端同士の距離が変化するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の制動力調整装置。
【請求項6】
複数のリンクを有するトグル機構を用いて制動力を発生させる制動力調整装置であって、該装置は、トグル機構へ外部から力が入力される入力部と、入力された力が増大されて外部へ出力される出力部との距離が調整可能に構成されていることを特徴とする制動力調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−47549(P2013−47549A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186153(P2011−186153)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】