説明

加工装置及び加工方法

【課題】粉塵対策が十分で、広い作業スペースを要しない加工装置及び加工方法を実現する。
【解決手段】作業者は、天井の加工対象箇所にカップ状の防塵ユニット20を被せて覆い、この防塵ユニット20の縁を天井と隙間無く密着させる。作業者は、除塵機30と、蒸気発生器又はミストポンプと、の電源をONして開口部を湿潤する。作業者は、電動ドリル本体50の電源をONして、開口工具21を回転、上昇させ、天井に穴を開ける。作業者は、洗浄水ポンプの電源をONして防塵ユニット20内の粉塵を洗い流す。作業者は、防塵ユニット20を天井から離す。防塵ユニット20が天井から離れると、絞りリング80はシャッターを閉じる。作業者は、防塵ユニット20等を片づけ、必要であればHEPAフィルターを交換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築部材を加工する加工装置及びその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1970年代から1990年代にかけて、我が国において建築物の保温材料又は耐火材料としてアスベストが大量に使用されていた。ところが、このアスベストの粉塵を吸入すると、吸入した人間は石綿肺、肺がんなどの健康被害を被ることが判明し、問題視された。このため、その後のアスベストを含有する建築部材の製造、使用は法令により禁止されている。そして、労働安全衛生法等により、アスベストの使用された建築物の撤去、改修工事では、粉塵を作業者や周囲の人間が吸い込むことのないように、所定の手順に従って作業することが義務づけられている。具体的には、i)作業者は防塵マスクや保護衣を装着し、ii)作業場所を隔離等し、iii)アスベストを含む建材等を湿潤化してから作業を行い、iv)器具、工具、足場等については、作業場所から持ち出す前に、廃棄のために梱包し、又は粉塵を除去しなければない。
【0003】
このように厳格な規制が定められているため、アスベストを含む建材を使用する建物の撤去、改修工事には、多大な作業時間、作業コストを要する。例えば、1箇所10分程度の本作業でも、i)〜iii)の準備に3時間、iv)粉塵の除去のための片づけ、清掃に3時間を要する。また、ii)隔離をしない場合は作業専有面積を大きくとる必要があり、一方、隔離する場合は、養生に費用や時間を要する。さらに、隔離が困難で作業に支障をきたす場所もある。そして、隔離が不完全であるときは、汚染が拡散し、規制に違反するなどの問題を引き起こす。iv)廃棄のための梱包用資材(ビニールシート等)は産業廃棄物となり、環境負担が大きく、その処理に費用がかかる。また、作業用具の交換時にもアスベストが飛散、拡散するので、粉塵の除去に時間を要する。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された、アスベストの撤去装置は、作業場所全面を隔離するのでなく、作業箇所のみを局部的に隔離することで、作業コストの削減を図っている。また、特に天井等を加工する作業について、特許文献2に開示された加工装置は、籠状の防塵具で加工部を覆うことで、開口作業による粉塵の飛散を防ぎ、安全性を高めつつ、加工作業をコストダウンすることを可能としている。特許文献3,4に開示された加工装置は、加工作業を一部自動化することによって、加工作業のコスト削減を図っている。
【特許文献1】特願平7−229743号公報
【特許文献2】特開2004−243693号公報
【特許文献3】特許第3624317号公報
【特許文献4】特許第2757272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、3、4に開示された撤去装置又は加工装置は、大型であるため、作業場所が狭い場合は、使用することができない。一方、特許文献2に開示された加工装置は、比較的小型ではあるものの、粉塵対策が不十分である。このため、作業場所で依然として粉塵が飛散する可能性がある。従って、これらの撤去装置や加工装置を使用する場合、作業専有面積を大きくとる必要があり、或いは粉塵の除去作業に時間と費用を要する。このように、粉塵対策と、作業場所の省スペース化を両立させ、加工作業に要するコストを充分に削減することが困難という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので粉塵対策が十分で、広い作業スペースを要しない加工装置及び加工方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる加工装置は、
建築部材に当接し、該建築部材の加工すべき加工対象箇所を覆うカップ状の被覆手段と、
前記被覆手段と前記建築部材とで形成されるの隙間空間に液体又は気体を吹き付けることにより、前記建築部材を湿潤する湿潤手段と、
前記建築部材の加工対象箇所を加工する加工手段と、
前記加工手段が前記加工対象箇所を加工することにより生じる粉塵を前記被覆手段から除去する粉塵除去手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
前記被覆手段の建築部材との接触面には、弾性部材が配置されていてもよい。
【0009】
前記被覆手段の内面を洗浄する洗浄手段を備えることもできる。
【0010】
前記粉塵除去手段は、前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間から粉塵を吸引する吸引手段を備えることもできる。
【0011】
前記粉塵除去手段は、前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間を大気圧に対して負圧に維持する手段を備えてもよい。
【0012】
前記吸引手段は、前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間から粉塵を含む流体を吸引し、
前記粉塵除去手段は、前記吸引手段により吸引された粉塵を含む流体から粉塵を集塵することで粉塵を除去することもできる。
【0013】
前記湿潤手段は、放水又は水蒸気を噴霧することにより前記加工対象箇所を湿潤してもよい。
【0014】
前記粉塵除去手段は、前記被覆手段から粉塵を含む流体を吸引する吸引手段と、
前記吸引手段により吸入されした粉塵を集塵する集塵フィルターと、
前記集塵フィルターが装着される装着部と、
を備え、
前記装着部に装着された集塵フィルターが交換される場合、新たな集塵フィルタが前記装着部に装着されることで、使用済みの前記集塵フィルタが押し出される構成を有することもできる。
【0015】
前記被覆手段は、前記加工対象箇所を取り囲んで前記建築部材に当接するを覆う際に前記加工箇所を囲む開口部と、
前記開口部を塞ぐ閉鎖閉口手段と、
を備えてもよい。
【0016】
前記閉鎖手段は、前記被覆手段が前記建築部材から離れたことに応答して、前記開口部を塞ぐこともできる。
【0017】
前記閉鎖手段は、
前記開口部を塞ぐ開閉可能なシャッターと、
前記シャッターを閉じさせるように付勢する第1のばねと、
前記第1のばねの消勢を妨げる第1のストッパーと、
前記被覆手段が前記建築部材から離れた状態で前記第1のストッパーを外すように付勢する第2のばねと、
前記第2のばねの消勢を妨げる第2のストッパーと、
を備え、
前記第1及び第2のストッパーにより前記第1及び第2のばねの消勢が妨げられた状態で前記被覆手段により前記建築部材の加工すべき加工対象箇所が覆われ、前記加工対象箇所が覆われた後に前記第2のストッパーが外され、前記第2のストッパーが外された後に前記被覆手段が前記建築部材から離れることにより前記第2のばねが消勢して前記第1のストッパーが外れ、前記第1のストッパーが外れたことにより前記第1のばねが消勢して前記シャッターを閉じてもよい。
【0018】
前記加工手段は、
回転トルクを発生するトルク発生手段と、
前記トルク発生手段により発生した前期回転トルクを第1の回転トルクと第2の回転トルクとに分割するトルク分割手段と、
カッターと、
前記トルク分割手段により分割された前記第1の回転トルクを前記カッターに伝達することにより前記カッターを回転させるトルク伝達手段と、
前記トルク分割手段により分割された前記第2の回転トルクを前記建築部材に前記カッターが近づき又は建築部材から前記カッターが遠ざかる運動の駆動力に変換する変換手段と、
前記変換手段により変換された駆動力が前記建築部材に前記カッターを近づかせ又は前記建築部材から前記カッターを遠ざかせる駆動手段とを備えることもできる。
【0019】
本発明の第2の観点にかかる加工方法は、
建築部材の加工すべき加工対象箇所を被覆手段で覆う被覆ステップと、
前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間を湿潤する湿潤ステップ(ステップS1)と、
前記加工対象箇所を加工する加工ステップと、
前記加工手段が前記加工対象箇所を加工することにより生じる粉塵を前記被覆手段から除去する粉塵除去ステップと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、粉塵対策が十分で、広い作業スペースを要しない加工装置及び加工方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1に係る加工装置の構成について説明する。
本実施形態にかかる加工装置1は、図1に示すように支持ユニット10と、防塵ユニット20と、除塵機30と、電動ドリル本体50と、絞りリング80と、ホース61、63、65、67、69と、を備えて構成される。
【0022】
支持ユニット10は、防塵ユニット20を支持する器具である。支持ユニット10は、昇降用ハンドル11と、支持具13と、円筒状の本体部15と、円盤状の部材である脚部17とを備えて構成される。本体部15の一端には、防塵ユニット20を支持するための支持具13を備え、他端は、支持ユニット10を安定して立てることができるように円盤状の部材を備えている。
【0023】
本体部15は、昇降用ハンドル11を作業者が回転させることにより、円筒の延びる方向に沿って伸縮する。この構成により、作業者は、脚立などの足場を必要とせずに、昇降用ハンドル11を回転することで防塵ユニット20を天井まで押し上げることができる。
【0024】
防護ユニット20は、カップ、ホッパ又は漏斗籠状の器具であり、穴開け加工するべき加工対象箇所を覆い、覆われた空間を密閉するために使用される。防護ユニット20の形状は、カップの開口部を上にして、落ちてくる粉塵やゴミをカップ内に集塵する場合、カップの底部の中心に粉塵等が流れ込みやすいように、側面が傾斜した形状とする。防護ユニット20は、内部に開口工具21と複数の挿通部を備え、カップ状の防塵ユニット20の底部が支持具13に支持される。また、開口部の外縁部には、後述する絞りリング80が取り付けられる。この防塵ユニット20は、カップの底部を下方に向けて、加工対象箇所を覆うように天井に取り付けられる。防塵ユニット20の縁には、ゴムなどの弾性部材が装着され、隙間無く天井に密着させることができる。取り付ける際、防塵ユニット20の縁にゲル状の粘着材を塗布するなどして天井に密着させてもよい。粉塵の様子を確認できるように、防護ユニット20の材料として、例えば透明なアクリル樹脂を使用する。
【0025】
図2に開口工具21の側面図、図3に開口工具21の斜視図を示す。開口工具21は、天井に穴を開けるための工具であり、図2に示すように、支持器具211と、パイプ用クラッチ213と、ギヤ214と、パイプ215と、カッター用クラッチ216と、カッターホルダ217と、カッター219とを備えて構成される。
【0026】
支持器具211は、図3に示すように、ナット2111とパイプ215とを支持する円環状の部材である。支持器具211は、天井に防塵ユニット20の開口部を隙間なく密着させたときに円環のなす平面が天井と平行となるように、防塵ユニット20の内壁に固定される。そして、支持器具211は、ナット2111の開口部と円環とのなす平面が平行となるように、ナット2111を円環の中心部に支持する。このナット2111の溝は、図2に示すように、後述するパイプ215のネジ部2151の溝と係合する。また、ナット2111にパイプ215を挿通させた状態で、支持器具211はパイプ215を支持する。
【0027】
パイプ用クラッチ213は、トルクチューブ51を介して電動ドリル本体50の回転トルクをギヤ214に伝達するクラッチであり、伝達する回転トルクが所定のトルク以上となったときに、部材の破損を防ぐため、回転トルクの伝達を遮断する。具体的には、パイプ用クラッチ213は、パイプ215が上昇限度又は下降限度まで上昇又は下降し、過負荷となったとき回転トルクの伝達を遮断する。
【0028】
ギヤ214は、パイプ用クラッチ213から伝達された回転トルクにより、後述するパイプ215のギヤ部2153と係合しつつ、回転する。ギヤ214の回転により、パイプ215はロッドの伸びる方向と垂直な方向に回転する。
【0029】
パイプ215は、円筒形状で中空のパイプであり、カッターホルダ217及びカッター219を支持し、カッターホルダ217及びカッター219を天井に対して上昇させ又は下降させるために使用される。パイプ215の内部を、パイプ用クラッチ213に接続されるトルクチューブ51とは別系統のトルクチューブ51が挿通する。天井と対向するパイプ215の一端には、パイプ215内部を挿通するトルクチューブ51に接続されたカッター用クラッチ216とカッターホルダ217とが取り付けられる。
【0030】
そして、パイプ215の側面のネジ部2151には、天井と平行な方向からやや傾斜する方向に走る複数の溝が形成されている。このネジ部2151の溝とナット2111の内部の溝とが係合するように、パイプ215は、支持器具211に取り付けられる。
【0031】
パイプ215の他端に近い側面のギヤ部2153には、パイプ215の伸びる方向と平行な方向に走る複数の溝が形成されている。このギヤ部2153の溝と係合するギヤ214が回転することにより、パイプ215は回転する。ネジ部2151の溝とナット2111の内部の溝とが係合しつつ、パイプ215が回転することにより、パイプ215は、天井に向けて上昇し、又は下降する。電動ドリル本体50の回転速度に対するパイプ215の上昇速度又は下降速度の調整は、ギヤ214とギヤ部2153との間のギヤ比の調整により行う。
【0032】
カッター用クラッチ216は、トルクチューブ51を介して電動ドリル本体50の回転トルクをカッターホルダ217に伝達するクラッチであり、電動ドリル本体50が正転しているときに回転トルクを伝達し、逆転したときに回転トルクの伝達を遮断する。具体的には、パイプ215が上昇中の場合、電動ドリル50が正転し、カッター用クラッチ216が回転トルクを伝達するのでカッター219は回転する。一方、パイプ215が下降中の場合、電動ドリル50が逆転し、カッター用クラッチ216が回転トルクの伝達を遮断するのでカッター219は回転しない。
【0033】
カッターホルダ217は、その一端がパイプ215の先端で支持され、他端にカッター219を支持する部材である。カッターホルダ217はパイプ215に固定された一端を中心として、カッター用クラッチ216を介して伝達された電動ドリル本体50のトルクにより、天井に対して平行な方向に回転する。
【0034】
カッター219は、天井を切削して穴あけ加工するための部材であり、カッターホルダ217の一端に固定される。
【0035】
トルクチューブ51は、一端から伝達されたトルクを2分割して他端に伝達する機構を備えるチューブ状の部材である。
【0036】
電動ドリル本体50は、電動ドリルのドリル部分を取り外した電動ドリルの本体部であり、回転トルクを発生させる工具である。電動ドリル本体50の発生するトルクは、防護ユニット20に設けられた挿通部を挿通するトルクチューブ51を介して2系統に分割され、カッター用クラッチ216とパイプ用クラッチ213とに伝達される。電動ドリル本体50は、スイッチの操作などにより回転方向を変えることができる。例えば、パイプ215を上昇させ、且つカッター219を回転させて開口作業を行う場合は電動ドリル本体50を正転させ、開口作業後にカッター219を回転させず、且つパイプ215を下降させる場合は電動ドリル本体50を逆転させる。
【0037】
上記の構成により、電動ドリル本体50は、回転トルクを発生させる。電動ドリル50本体が発生させた回転トルクは、ギヤ214とギヤ部2153とが係合し、ネジ部2151とナット2111とが係合する構成により、パイプ215の上下運動の駆動力に変換され、パイプ215の上下運動によりカッターホルダ217とカッター219とは天井に向けて上昇し、又は下降する。一方、電動ドリル本体50の回転トルクは、カッターホルダ217を回転させ、カッター219は、カッターホルダ217の回転により、天井に対して平行な方向に回転して天井を切削する。
【0038】
また、防塵ユニット20の側面には、スチームノズル71と、水スプレーノズル73と、洗浄ノズル75と、給気ノズル77とを挿通するための挿通部がそれぞれ形成されている。また、カップ状の防塵ユニット20の底部には、粉塵吸入用ホース67を挿通するための挿通部が形成されている。
【0039】
スチームノズル71は、防塵ユニット20の側面に防塵ユニット20を貫通して取り付けられ、蒸気発生器311が発生させた水蒸気を防塵ユニット20内部に吹き付けるノズルである。
【0040】
水スプレーノズル73は、防塵ユニット20の側面に防塵ユニット20を貫通して取り付けられ、給水ポンプ313が送出する水を防塵ユニット20内部に吹き付けるノズルである。水スプレーノズル73の表面には、微細な針穴状の孔が設置されており、この孔を水が通過する際に、水は霧状となる。
【0041】
洗浄ノズル75は、防塵ユニット20の側面に防塵ユニット20を貫通して取り付けられ、洗浄水ポンプ315が送出する水を防塵ユニット20内部に吹き付けるノズルである。洗浄ノズル75の表面には、複数の孔が形成されており、この孔を水が通過する際に、水はシャワーのように送出される。
【0042】
蒸気用ホース61、給水用ホース63、洗浄水用ホース65は、それぞれスチームノズル71、水スプレーノズル73、洗浄ノズル75と蒸気発生器311、給水ポンプ313、洗浄水ポンプ315とを接続する。また、粉塵吸入用ホース67は、防塵ユニット20とダストドレインタンク33とを接続するために使用され、給気用ホース69は、給気ノズル77と空気チャンバー37とを接続する。
【0043】
図4に除塵機30の側面図を示す。除塵機30は、防塵ユニット20内の粉塵を集塵する機器であり、同図に示すように、給水タンク31と、ダストドレインタンク33と、ダクト35と、空気チャンバー37と、を備えて構成される。
【0044】
給水タンク31は、加工対象箇所を湿潤し、加工により発生した粉塵、屑、ゴミを洗い流すための水を貯水し、蒸気発生器311と、給水ポンプ313と、洗浄水ポンプ315とを備える。
【0045】
蒸気発生器311は、給水タンク31に貯水された水から蒸気を発生させる機器である。発生させた蒸気は、蒸気ホース61を通じて防塵ユニット20に送出される。
【0046】
給水ポンプ313は、給水タンク31に貯水された水を、吸水用ホース63を通じて、防塵ユニット20に送水するポンプである。送水された水は微細な複数の孔が設けられた水スプレーノズル73を通過する際、霧状となって防塵ユニット20内部へ送出される。
【0047】
洗浄水ポンプ315は、給水タンク31に貯水された水を、洗浄水用ホース65を通じて、防塵ユニット20内に送水するポンプである。送水された水は、除塵ユニット20内を洗浄する洗浄用の水として使用され、じょうろ状の洗浄ノズル75からシャワーのように送出される。
【0048】
これらの蒸気発生器311、給水ポンプ313、洗浄水ポンプ315は、除塵機30に設けられたスイッチ等の操作によりそれぞれ独立して運転又は停止する。
【0049】
上記の蒸気発生器311、給水ポンプ313、洗浄水ポンプ315とから、防塵ユニット20内部へ蒸気、水、洗浄水が送出された場合、これらの蒸気、水、洗浄水により、加工により生じた粉塵、屑、ゴミは湿潤され、粉塵等を含む水や粉塵が防塵ユニット20の底部に流れ込む。そして、これらの液体又は気体は防塵ユニット20の底部に接続された粉塵吸入用ホース67を通過して、排水又は排気ガスとしてダストドレインタンク33に流れ込む。
【0050】
ダストドレインタンク33は、防塵ユニット20内の粉塵を含む排水を貯水し、排水するためのタンクである。ダストドレインタンク33は、粉塵吸入用ホース67を通過して流れ込み、粉塵を含む排水を貯水し、排水口331から排水する。一方、ダストドレインタンク33に流れ込んだ排気ガスは、送風機371により、空気チャンバー37内部へ吸い込まれる。
【0051】
ダクト35は、ダストドレインタンク33と空気チャンバー37とを接続する風路であり、風路上にHEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air filter)351を備える。
【0052】
HEPAフィルター351は、空気中からゴミ、塵埃などを取り除き、清浄な空気にする目的で使用するエアフィルターの一種である。例えば、定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つものを使用する。このHEPAフィルター351はダストドレインタンク33と空気チャンバー371とを接続するダクト35内に設置されるので、ダストドレインタンク33から送出される排気ガスは、空気チャンバー37に吸い込まれる前にHEPAフィルター351を通過する。通過の際、排気ガスに含まれる有害な粉塵はHEPAフィルター351の粒子捕獲力により集塵される。
【0053】
作業者は、HEPAフィルター351の寿命が尽きた場合、フィルターを交換する必要がある。フィルターの交換は、カートリッジ方式で行う。図5は、フィルター交換時の加工装置1の上面図である。同図に示すように、ダクト35の両側面には、スリットが一対形成されている。
【0054】
作業者は、HEPAフィルター351の寿命が尽きた場合、新たなHEPAフィルター351を用意する。そしてスリットの1つに収納袋353を装着してスリットを隙間無く覆う。作業者は、収納袋353が装着されていないスリットから新たなフィルターを差し込み、使用済みのフィルターを収納袋353の中に押し出す。収納袋353に押し出された使用済みのHEPAフィルター351は、作業者が廃棄する。
【0055】
図4に示すように、空気チャンバー37は、HEPAフィルター351で集塵された空気を防塵ユニット20内へ送出するための機器である送風機371を内部に備える。送風機371は、防塵ユニット20から吸い込まれてHEPAフィルター351により集塵された後の空気を、給気ホース69を通じて再度防塵ユニット20に環流する。この給気により、加工装置1は集塵を継続的に行うことができる。
【0056】
送風機371は、防塵ユニット20内部の空気を吸い込み、防塵ユニット20内部の気圧を防塵ユニット20外部の気圧と比較して負圧に維持する。防塵ユニット20内部の気圧を負圧に維持することで、粉塵が防塵ユニット20外部に飛散しにくくなる。また、送風機371は、吸い込んだ空気を防塵ユニット20に送出する。
【0057】
絞りリング80は、防塵ユニット20の開口部に取り付けられ、開口工具21で天井を穴開け加工をした後、防塵ユニット20の開口部を塞ぐための部材である。図6に示すように、絞りリング80は、シャッターケース89と、カップ側リング91とから構成される。
【0058】
シャッターケース89は、開口部を備えるリング状の部材であり、図7に示すように、収納部86と外縁部88とから構成され、ダイヤフラム81と、絞り羽根83と、回転板85と、押さえ板87と、収納部86内に収納する。
【0059】
ダイヤフラム81は、中央に開口部を有する円盤状の金属板であり、円周上に細長い絞り溝811を等角度で複数備える。絞り溝811は、絞り羽根の枚数と同じ数だけ備えられる。絞り羽根83は、ダイヤフラム81と回転板85との間に挟みこむ金属片であり、一方の面に、絞り溝811に挿入するためのピン831を備え、他方の面に回転板85に挿入するためのピン833を備える。回転板85は、中央に開口部と、ピン831を挿入するためのピン穴851と、作業者が保持するための操作レバー853とを備えた円盤状の部材である。ピン穴851は等間隔で複数設けられている。ピン穴851は、絞り羽根の枚数と同じ数だけ設けられる。押さえ板87は、中央に開口部を備えた円盤状の部材であり、回転板85等をシャッターケース89に押さえつけて収納するために用いられる。
【0060】
そして、シャッターケース89の収納部86は、外縁部88より直径が小さく、厚い部分であり、この収納部86の側面には、操作レバー853を挿通するためのレバー用スリット891が設けられている。
ダイヤフラム81、回転板85、押さえ板87、シャッターケース89に形成された開口部は、すべてほぼ同じ直径であり、防塵ユニット20の開口部の外縁部の直径とほぼ同等である。
【0061】
シャッターケース89への部材の収納方式について説明する。最初にシャッターケース89の収納部86内にダイヤフラム81が収納され、内部に固定される。そして、6つの絞り溝811に、絞り羽根83のピン831をそれぞれ挿入することで、絞り羽根83を取り付ける。絞り羽根83のピン833を、回転板85のピン穴851に挿入し、回転板85の操作レバー853をシャッターケース89のレバー用スリット891に挿入する。最後に押さえ板87で回転板85をシャッターケース89内に押さえつけて、押さえ板87をシャッターケース89内に固定する。係る収納状態では、ダイヤフラム81及び押さえ板87は、シャッターケース89内に固定されている一方で、これらの部材に挟み込まれた絞り羽根83及び回転板85は、固定されていない。このため、絞り羽根83及び回転板85は、操作レバー853が動くことにより、所定角度だけ回転する。
【0062】
図8(a)、(b)は、絞り羽根83等の部材が収納されたシャッターケース89の上面図である。図8(a)は、絞り羽根83がシャッターケース89内部に収納され、シャッターケース89の開口部の中心が塞がれていない(シャッターが開いている)状態を示している。また、図8(b)は、シャッターケース89の中心の開口部が絞り羽根83により隙間無く塞がれている(シャッターが閉じている)状態を示している。図8(a)で、レバー用スリット891から飛び出た操作レバー853を作業者が円周に沿った一方向に所定角度だけ動かすと、回転板85もその方向に回転する。回転板85の回転により、ピン穴851に挿入された絞り羽根83のピン833は、円周方向に動く。一方、ピン833を支点として、ピン831は、絞り溝811に沿って開口部の中心へ向けて動く。ピン831が絞り溝811に沿って動くことにより、絞り羽根83の先端が開口部の中心の空間に移動する。そして、移動した6枚の絞り羽根83によりシャッターが閉じる。一方、シャッターを開ける場合は、作業者は、操作レバー853を所定角度だけ逆方向に動かす。
【0063】
図6に戻り、カップ側リング91は、シャッターケース89と防塵ユニット20との間に挟みこまれるリング状の部材である。その開口部の内縁部の直径は、防塵ユニット20の開口部の外縁部の直系とほぼ等しい。同図に示すように、カップ側リング91には、ボルト911を挿通するための複数のボルト穴が形成されている。
【0064】
各ボルト911は、このボルト穴から同方向に複数挿通され、挿通された各ボルト911に押さえスプリング913が取り付けられる。押さえスプリング913が取り付けられたボルト911の端部は、接着剤等でシャッターケース89に固着される。
【0065】
押さえスプリング913は、シャッターケース89を天井に押さえつけるように付勢するスプリングである。カップ側リング91を下にしてシャッターケース89が押し下げられることで押さえスプリング913は付勢され、押さえスプリング913が消勢することによりシャッターケース89がカップ側リング91から離れる。集塵ユニット20の開口部が天井に密着しているときに、押さえスプリング913が消勢することにより、シャッターケース89が天井に押し付けられる。
【0066】
また、カップ側リング91の外縁部には、複数のリングストッパー917が取り付けられる。このリングストッパー917は、3枚の板状の部材が、接続部分の1つが可動するようにコの字型に接続されたものである。カップ側リング91を下にしてシャッターケース89を押し下げた場合、押さえスプリング913の弾性力により、カップ側リング91とシャッターケース89とは離れようとする。リングストッパー917は、シャッターケース89の外縁部88にリングストッパー917を掛けることで、カップ側リング91とシャッターケース89とが離れることを防ぐ。
【0067】
そして、シャッターケース89とカップ側リング91とから構成される絞りリング80は防塵ユニット20の外縁部にカップ側リング91を接着剤等で固着することで、防塵ユニット20に取り付けられる。ここで、防塵ユニット20の外縁部は、ゴム等の弾性部材である。シャッターケース89を押し下げようとすると、この弾性部材にボルト911の頭がめり込むので、シャッターケース89とカップ側リング91とが重なるまでシャッターケース89を押し下げることができる。
【0068】
上記の構成により、作業者は天井の加工対象箇所の真下まで防塵ユニット20を運び、昇降用ハンドル11を操作して防塵ユニット20を天井に押し上げる。そして、作業者は、防塵ユニット20の縁が天井と隙間無く密着するように防塵ユニット20を天井に取り付ける。続いて、作業者は、除塵機30の電源をONする。また、作業者は蒸気発生器311又はミストポンプ313と、洗浄水ポンプ315との電源をONし、加工対象箇所周辺を湿潤する。
【0069】
その後、作業者は、電動ドリル本体50の電源をONし、開口工具21に回転トルクを伝達することで開口工具21を回転させて、天井の穴開け加工を開始する。穴開け加工の際に生じるアスベスト等を含む粉塵は洗浄水により洗い流され、粉塵を含む水は防塵ユニット20に接続された粉塵吸入用ホース67を通過して、ダストドレインタンク33に流れ込む。また、粉塵を含む空気は送風機47により空気用チャンバー37に吸い込まれ、途中のHEPAフィルター351を通過する際に、粉塵が集塵される。
【0070】
作業終了後、作業者は防塵ユニット20の開口部に取り付けられた絞りリング80のシャッターを閉じ、粉塵を充分に洗い流した後、除塵機30の電源をOFFする。作業者は、支持ユニット10、防塵ユニット20、除塵機30等の器具を片づけ、必要であればHEPAフィルター351を交換する。
【0071】
次に、加工装置1を使用して、アスベスト等を含有する天井に開口作業を行う際の作業フローについて、詳細に説明する。
【0072】
作業者は、本作業に先立って、アスベスト等の粉塵から身を守るため、法規制に従い、呼吸器用保護具、保護衣又は作業衣を着用する。通常は、作業者は、作業場所を隔離し、封じ込め又は吊りボルト等での囲い込みの作業を行う。そして、作業者は、作業場所に作業者以外の者が立ち入ることを禁止し、その旨の表示を行う。しかし、本実施形態では、アスベスト等の粉塵は防塵ユニット20の外部へ飛散しない構成とするので、呼吸器用保護具等の装備や作業場所の隔離は必要ないか、或いは最小限でよい。
【0073】
作業者は、天井の加工対象箇所の真下まで支持ユニット10及び防塵ユニット20を運び、昇降用ハンドル11を操作することで、防塵ユニット20を天井まで押し上げる。そして、作業者は、加工対象箇所を防塵ユニット20で覆い、防塵ユニット20の開口部を天井に密着させる。そして、リングストッパー917を外して絞りリング80をフリー状態にする。
【0074】
作業者は、除塵機30の排水口391と排水溝とをホース等で接続する。作業者は、除塵機30の電源をONし、蒸気発生器311又は給水ポンプ313の電源をONする。通常は、水スプレーの吹きつけにより加工対象箇所を湿潤する。
【0075】
水を多量に使用した場合、穴開け後に開口部から水が漏れる。そこで、穴開け後の水漏れを防止したいときは、蒸気発生器311の電源のみをONして、スチームの吹きつけにより加工対象箇所を湿潤する。
【0076】
作業者は、湿潤後、蒸気発生器311、給水ポンプ313の電源をOFFする。そして、作業者は電動ドリル本体50の電源をONし、トルクチューブ51を介して開口工具21に回転トルクを伝達して、開口工具21を回転させる。開口工具21の回転により天井に穴が開けられる。
【0077】
天井に開口部が形成されたなら、作業者は電動ドリル本体50の電源をOFFにし、絞りリング80を操作して、防塵ユニット20の開口部を塞ぐ。そして、作業者は、洗浄水ポンプ315の電源をONにし、洗浄水ポンプ315により防塵ユニット20内部へ送水された洗浄水は防塵ユニット20内の粉塵を洗い流す。
【0078】
洗浄が終了したら、作業者は洗浄水ポンプ315の電源をOFFし、除塵機30の電源をOFFする。作業者は、操作レバー853を所定角度動かし、絞りリングのシャッターを閉じ、防塵ユニット20を天井から離す。シャッターが閉じた状態で防塵ユニット20内を洗浄した後、作業者は除塵機30の電源をOFFする。最後に作業者は、作業場所の後かたづけ、清掃を行う。この際、作業者はアスベスト等の粉塵が付着した器具を梱包せずに作業場所外へ持ち出さないようにする。作業者は、HEPAフィルター351の寿命が尽きたなら、新たなフィルターに交換する。
以上で、開口作業は終了する。
【0079】
本発明の作用、効果について説明する。通常、アスベスト等を含有する天井に開口作業を行う場合、粉塵対策を十分に行う必要がある。このためには、例えば特許文献1、3、4に開示された加工装置のように大型の装置が必要とされる。しかし、本実施形態に係る加工装置1は、これらに比較して非常に小型であり、省スペースでの作業を可能としている。
【0080】
また、加工装置1は、加工対象箇所を湿潤するので、粉塵比重が増加し、粉塵の集塵が容易となる。このため、粉塵が加工装置1の外部に飛散しない。
【0081】
また、穴あけ後の防塵ユニット20の開口部を、絞りリング80で塞ぐ。このため、作業者が防塵ユニット20を天井から取り外すとき、防塵ユニット20の開口部から粉塵やゴミなどが飛散しない。
【0082】
コスト削減の効果について、例えば、2人で作業する場合、これまで養生に係わる労働時間、清掃に係る作業時間は、1箇所当たり、それぞれ3時間程度かかっていた。しかし、本発明に係る加工装置1によれば、粉塵が加工装置外部に飛散しないから、養生や清掃が短時間で済む。これらの作業は、例えばそれぞれ0.25時間で終了する。よって、作業時間の大幅な削減により、作業コストを削減できる。
【0083】
また、養生シートなどの産業廃棄物が、例えば1箇所当たり600円であった。本発明によれば、このコストも削減できる。
【0084】
(実施形態2)
実施形態1に係る加工装置では、絞りリング80のシャッターの開閉を手動で行っていたが、防塵ユニット20が天井から離れることに応答して、絞りリング80のシャッターが自動的に閉じる構成とすることもできる。以下、絞りリング80のシャッターの開閉機構を工夫した実施形態2に係る加工装置について説明する。
【0085】
実施形態2に係る加工装置は、図9に示すように、絞りリング80のシャッターケース89にリング用スリット893とレバー用スプリング895とを追加し、カップ側リング91にレバーストッパー915を追加した以外は、実施形態1に係る加工装置と同様の構成である。
ストッパー用スリット893は、シャッターケースの外縁部88に形成された、レバーストッパー915を挿通するためのスリットである。また、ストッパー用スリット893は、レバー用スリット891の近くに形成される。
【0086】
収納部86の側面のレバー用スリット891の一端の近くにレバースプリング895が取り付けられる。レバースプリング895は、レバー用スリット891を挿通した操作レバー853に取り付けるスプリングである。
【0087】
レバーストッパー915は、レバースプリング895が消勢するのを妨げるための板状の部材であり、カップ側リング91のシャッターケース89と重ね合わせる面に板の側面が固着される。レバーストッパー915は、レバースプリング895が付勢され(伸ばされ)、付勢されたレバースプリング895と操作レバー853との間にレバーストッパー915が挿入されることで、レバースプリング895の消勢を妨げる。レバーストッパー915の高さは、ボルト911の長さより短いので、集塵ユニット20の開口部が天井から離れている場合に、押さえスプリング913が消勢することで、レバーストッパー915がレバースプリング895から外れる。
【0088】
また、ボルト911の固着の際、カップ側リング91のレバーストッパー915とシャッターケース89のストッパー用スリット893との位置が一致するように取り付ける。このため、カップ側リング91を下にして、シャッターケース89を押し下げると、ストッパー用スリット893をレバーストッパー915が挿通する。
【0089】
次に、絞りリングの操作方法について、図10及び図11を参照して説明する。作業者は、まず、図10(a)に示すように、作業者は、操作レバー853をシャッターの開く方向に動かす。作業者は、防塵ユニット20に取り付けられた絞りリング80のシャッターケース89を押し下げる。作業者がシャッターケース89を押し下げることにより、レバーストッパー915がストッパー用スリット893を挿通する。そして、作業者はレバースプリング895を付勢して(伸ばして)操作レバー853に掛ける。レバースプリング895の消勢は、レバーストッパー915により妨げられる。即ち、操作レバー853がレバーストッパー915に掛かった状態となる。また、作業者はリングストッパー917をシャッターケース89に掛ける。リングストッパー917が掛けられたことにより、シャッターケース89とカップ側リング91とが離れず、シャッターが開いた状態が維持される。そして、作業者は、防塵ユニット20のアクリル製カップの開口部を天井に隙間なく密着させる。
【0090】
続いて作業者は、図10(b)に示すように、防塵ユニット20の開口部を天井に密着させた状態でリングストッパー917を外す。リングストッパー917が外れると、押さえスプリング913の弾性力によりシャッターケース89は押し上げられ、天井に押し付けられる。但し、シャッターケース89が天井に達しても、依然としてレバーストッパー915は、操作レバー853に掛かったままの状態である。このため、シャッターケース89のシャッターは開いた状態のままである。レバーストッパー915を外した状態(フリー状態)で、作業者は、開口作業を行う。
【0091】
作業者は、開口作業後、図11に示すように、絞りリング80(シャッターケース89及びカップ側リング91)が装着された防塵ユニット20を下げて、天井から離す。防塵ユニット20が天井から離れると、押さえスプリング913の弾性力により、シャッターケース89はさらに押し上げられ、レバーストッパー915は、ストッパー用スリット893を通過する。即ちレバーストッパー915が外れる。レバーストッパー915が外れると、レバースプリング895の弾性力により、操作レバー853がレバー用スリット891に沿ってシャッターの閉じる方向に動き、シャッターケース89のシャッターが閉じる。
【0092】
従って、本実施形態に係る絞りリング80(シャッターケース89及びカップ側リング91)の構成により、防塵ユニット20が天井から離れたことに応答して、シャッターケース89のシャッターが閉じ、防塵ユニット20の開口部が塞がれる。作業者は、天井から防塵ユニット20を離す前に操作レバー853を動かす必要が無いため、作業者の作業負担がより軽減される。
【0093】
(実施形態3)
実施形態1、2に係る加工装置は、加工装置の各器具を手動で操作していたが、本発明はこれに限定されない。開口作業を加工装置が自動で行う構成とすることもできる。以下、開口作業を加工装置が自動で行う本発明の実施形態3に係る加工装置の構成について説明する。
【0094】
本実施形態にかかる加工装置1aは、図12に示すように、電動ドリル本体50の代わりにモータ50aを備え、さらに制御器100を備える他は、実施形態1に係る加工装置1又は2と同様の構成である。
【0095】
モータ50aは、制御器100の制御に従って、回転トルクを発生させる。モータ50aが発生させた回転トルクは、トルクチューブ51を介してパイプ用クラッチ213及びカッター用クラッチ216に伝達される。
【0096】
制御器100は、加工装置1aを制御する制御装置であり、CPU(Central Processing Unit)110と、ROM(Read Only Memory)130と、RAM(Random Access Memory)120とを備えて構成される。制御器100は除塵機30及びモータ50aを制御する。
【0097】
CPU110は、ROM130に格納されたプログラムを読み出して繰り返し実行する。
【0098】
RAM(Random Access Memory)120は、CPU110のワークエリアとして機能する。
【0099】
ROM130は、開口プログラムと、カッター上昇距離S(cm)と、を格納する。カッター上昇距離S(cm)は、カッター219の上昇距離の上限値であり、この値以上の場合に、天井に穴開け加工がされたと判断される。
【0100】
加工装置1aの動作について説明する。作業者は、防塵ユニット20を天井に押し上げ、防塵ユニット20を天井に隙間なく密着させる。そして、作業者は制御器100を動作させる。CPU110は、開口プログラムをROM130から読み出して開口処理を実行する。
【0101】
開口処理は、加工装置1aに天井を穴開け加工させる処理である。図13に開口処理のフローチャートを示す。CPU110は、除塵機の運転を開始させる。また、蒸気発生器311と給水ポンプ313とを運転させて、水又は水蒸気で天井の加工対象箇所を湿潤させる(ステップS1)。一定時間経過後、CPU110は、モータ50aを正転させることによりカッター219を上昇させ、且つカッター219を回転させ、(ステップS3)、カッター219がカッター上昇距離S(cm)以上、上昇したか否かを判別する(ステップS5)。カッター219がカッター上昇距離S(cm)以上、上昇していないならば(ステップS5:NO)、CPU110はステップS5に戻る。カッター219がカッター上昇距離S(cm)以上、上昇したならば(ステップS5:YES)、CPU110はモータ50aを逆転させることによりカッター219の回転を停止させ、またカッター219をカッター上昇距離S(cm)だけ下降させる(ステップS7)。続いてCPU110は、洗浄水ポンプ315を運転させて、防塵ユニット20を洗浄させる(ステップS9)。一定時間経過後、CPU10は、除塵機30を停止させる(ステップS11)。ステップS11の後、CPU110は開口処理を終了する。
【0102】
本実施形態では、制御器100が、自動で穴開け加工を行うので、作業者の本作業の負担が軽減される。
【0103】
(実施形態4)
実施形態1〜3では、絞りリング80を防塵ユニット20の開口部を塞ぐために使用しているが、絞りリング80を開口作業で開口した天井の開口部を塞ぐために使用しても良い。以下、開口作業で開口した天井の開口部を塞ぐ、本発明の実施形態4に係る加工装置について説明する。
【0104】
本実施形態に係る加工装置は、絞りリング81をさらに備える他は、実施形態2に係る加工装置と同様である。
【0105】
絞りリング81は、絞りリング80と同様の構成であり、開口作業で開口した天井の開口部を塞ぐために使用される。
【0106】
開口作業の作業フローについて説明する。図14(a)は、穴開け加工前の本実施形態に係る防塵ユニット20の断面図である。作業者は、同図に示すように、加工対象箇所を絞りリング81の開口部が囲むように、絞りリング81を接着剤やネジなどで取り付ける。そして、作業者は、防塵ユニット20の開口部を天井に隙間なく密着させ、絞りリング80のリングストッパー917を外してフリー状態にする。
【0107】
図14(b)は、穴開け加工後の本実施形態に係る防塵ユニット20の断面図である。穴開け加工が終了した後、作業者は、防塵ユニット20を天井から離す。防塵ユニット20が天井から離れることで、絞りリング80のシャッターが閉じ、防塵ユニット20の開口部が塞がれる。また、作業者は絞りリング81のリングストッパーを外す。絞りリング81のリングストッパーが外れ、絞りリング81のシャッターが閉じることで天井の開口部が塞がれる。
【0108】
本実施形態では、絞りリング80、81のシャッターが閉じることで防塵ユニット20のみならず、天井の開口部も塞がれるため、粉塵が防塵ユニット20や天井の開口部から飛散しにくい。
【0109】
なお、防塵ユニット20の形状は、カップ状に限られず、加工対象箇所を覆い、粉塵を防塵ユニット20の外部へ飛散させないものであれば他の形状であってもよい。
【0110】
開口部を塞ぐ部材は、絞り羽根を備えたリング状の部材に限られず、取り付けるときに防塵ユニット20の開口部を開けて、防塵ユニット20を取り外すときに開口部を塞ぐものであれば、その形状、構成は問わない。
【0111】
天井から防塵ユニット20が離れたことに応答して、絞りリング80がシャッターを閉じる構成は、上記実施形態に示したものに限られない。
例えば、絞りリング80が、モータなどの絞り羽根83の駆動機構と、駆動機構を制御する制御部と、防塵ユニット20が天井から離れたことを検知するセンサーを備え、防塵ユニット20が天井から離れたことをセンサーが検知したことに応答して、制御部が駆動機構を制御して絞り羽根83を動かし、開口部を塞ぐ構成とすることもできる。また、制御器100が、絞りリング80のシャッターの開閉を制御してもよい。
【0112】
本発明に係る加工装置は、アスベストを含有しない一般の建築物の加工作業にも使用できることは勿論である。その場合、例えば、蒸気用ホース61、給水用ホース63、スチームノズル71、水スプレーノズル73、蒸気発生器311及び給水ポンプ313などを取り除き、加工装置をより小型化することもできる。
【0113】
また、上記の実施形態では天井に穴開け加工することを前提としているが、天井に限られず、床や壁などを加工してもよい。壁に開口する場合、支持ユニット10は、壁に防塵ユニット20を押しつけるように形状を工夫しても良いし、床に防塵ユニット20を密着させる場合は、支持ユニット10を用いなくても構わない。
【0114】
加工対象箇所に吹き付ける気体や液体は、水に限らず、粉塵を湿潤させ、粉塵の比重を増加させるものであれば、種類は問わない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施形態1に係る加工装置の全体図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る開口工具の側面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る開口工具の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る除塵機の全体図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る防塵フィルターの交換方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る絞りリングの構造を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態1に係るシャッターケースの構造を説明するための図である。
【図8】(a)本発明の実施形態1に係る絞りリングの上面図である。(b)本発明の実施形態1に係る絞りリングの上面図である。
【図9】本発明の実施形態2に係る絞りリングの構造図である。
【図10】(a)本発明の実施形態2に係る絞りリングの開口作業前における操作方法を説明するための図である。(b)本発明の実施形態2に係る絞りリングの開口作業中の操作方法を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態2に係る絞りリングの開口作業後の操作方法を説明するための図である。
【図12】本発明の実施形態3に係る加工装置の全体図である。
【図13】本発明の実施形態3に係る開口処理のフローチャートである。
【図14】(a)穴開け加工前の本発明の実施形態4に係る防塵ユニットの断面図である。(b)穴開け加工後の本発明の実施形態4に係る防塵ユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0116】
10 支持ユニット
11 昇降用ハンドル
13 支持具
15 本体部
17 脚部
20 防塵ユニット
21 開口工具
211 支持器具
2111 ナット
213 パイプ用クラッチ
214 ギヤ
215 パイプ
2151 ネジ部
2153 ギヤ部
216 カッター用クラッチ
217 カッターホルダ
219 カッター
30 除塵機
31 給水タンク
311 蒸気発生器
313 給水ポンプ
315 洗浄水ポンプ
33 ダストドレインタンク
35 ダクト
351 HEPAフィルター
353 収納袋
37 空気チャンバー
371 送風機
50 電動ドリル本体
50a モータ
51 トルクチューブ
61 蒸気用ホース
63 給水用ホース
65 洗浄水用ホース
67 粉塵吸入用ホース
69 給気用ホース
71 スチームノズル
73 水スプレーノズル
75 洗浄ノズル
80 絞りリング
81 ダイヤフラム
811 絞り溝
83 絞り羽根
831、833 ピン
85 回転板
851 ピン穴
853 操作レバー
86 収納部
87 押さえ板
88 外縁部
89 シャッターケース
891 レバー用スリット
893 ストッパー用スリット
895 レバースプリング
91 カップ側リング
911 ボルト
913 押さえスプリング
915 レバーストッパー
917 リングストッパー
100 制御器
110 CPU
120 RAM
130 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築部材に当接し、該建築部材の加工対象箇所を覆うカップ状の被覆手段と、
前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間を湿潤する湿潤手段と、
前記建築部材の加工対象箇所を加工する加工手段と、
前記加工手段が前記加工対象箇所を加工することにより生じる粉塵を前記被覆手段から除去する粉塵除去手段と、
を備えることを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記被覆手段の建築部材との接触面には、弾性部材が配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記被覆手段の内面を洗浄する洗浄手段を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記粉塵除去手段は、前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間から粉塵を吸引する吸引手段を備える、
ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の加工装置。
【請求項5】
前記粉塵除去手段は、前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間を大気圧に対して負圧に維持する手段を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項6】
前記吸引手段は、前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間から粉塵を含む流体を吸引し、
前記粉塵除去手段は、前記吸引手段により吸引された粉塵を含む流体から粉塵を集塵することで粉塵を除去する、
ことを特徴とする請求項5に記載の加工装置。
【請求項7】
前記湿潤手段は、放水又は水蒸気を噴霧することにより前記加工対象箇所を湿潤する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項8】
前記粉塵除去手段は、前記被覆手段から粉塵を含む流体を吸引する吸引手段と、
前記吸引手段により吸入された粉塵を集塵する集塵フィルタと、
前記集塵フィルタが装着される装着部と、
を備え、
前記装着部に装着された集塵フィルターが交換される場合、新たな集塵フィルタが前記装着部に装着されることで、使用済みの前記集塵フィルタが押し出される構成を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項9】
前記被覆手段は、前記加工対象箇所を取り囲んで前記建築部材に当接する開口部と、
前記開口部を塞ぐ閉鎖手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項10】
前記閉鎖手段は、前記被覆手段が前記建築部材から離れたことに応答して、前記開口部を塞ぐ、
ことを特徴とする請求項9に記載の加工装置。
【請求項11】
前記閉鎖手段は、
前記開口部を塞ぐ開閉可能なシャッターと、
前記シャッターを閉じさせるように付勢する第1のばねと、
前記第1のばねの消勢を妨げる第1のストッパーと、
前記被覆手段が前記建築部材から離れた状態で前記第1のストッパーを外すように付勢する第2のばねと、
前記第2のばねの消勢を妨げる第2のストッパーと、
を備え、
前記第1及び第2のストッパーにより前記第1及び第2のばねの消勢が妨げられた状態で前記被覆手段により前記建築部材の加工対象箇所が覆われ、前記加工対象箇所が覆われた後に前記第2のストッパーが外され、前記第2のストッパーが外された後に前記被覆手段が前記建築部材から離れることにより前記第2のばねが消勢して前記第1のストッパーが外れ、前記第1のストッパーが外れたことにより前記第1のばねが消勢して前記シャッターを閉じる、
ことを特徴とする請求項10に記載の加工装置。
【請求項12】
前記加工手段は、
回転トルクを発生するトルク発生手段と、
前記トルク発生手段により発生した前期回転トルクを第1の回転トルクと第2の回転トルクとに分割するトルク分割手段と、
カッターと、
前記トルク分割手段により分割された前記第1の回転トルクを前記カッターに伝達することにより前記カッターを回転させるトルク伝達手段と、
前記トルク分割手段により分割された前記第2の回転トルクを前記建築部材に前記カッターが近づき又は建築部材から前記カッターが遠ざかる運動の駆動力に変換する変換手段と、
前記変換手段により変換された駆動力が前記建築部材に前記カッターを近づかせ又は建築部材から前記カッターを遠ざかせる駆動手段とを備える、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項13】
建築部材の加工すべき加工対象箇所を被覆手段で覆う被覆ステップと、
前記被覆手段と前記建築部材とで形成される空間を湿潤する湿潤ステップと、
前記加工対象箇所を加工する加工ステップと、
前記加工手段が前記加工対象箇所を加工することにより生じる粉塵を前記被覆手段から除去する粉塵除去ステップと、
を備えることを特徴とする加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−274664(P2008−274664A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120344(P2007−120344)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000149790)株式会社大気社 (136)
【Fターム(参考)】