説明

化合物半導体エピタキシャル成長装置

【課題】反応炉内に分解付着物が生成しないような構造とすることにより基板上への異物の付着を抑制し、分解付着物の再蒸発によるエピタキシャル薄膜の劣化を抑制でき、かつ反応炉内の分解付着物を取り除くためのメンテナンス回数を削減可能な構造の化合物半導体エピタキシャル成長装置を提供する。
【解決手段】基板13を収容した反応炉11内に、V族元素を含む原料を供給して、基板13上に気相エピタキシャル成長させる化合物半導体エピタキシャル成長装置10において、V族元素を含む原料が分解し、反応炉11内でその分解付着物が付着する付着部分17の上流側に水素ラジカルを過剰に含むガスを流すための水素ラジカル供給手段36を接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、V族元素を含む原料を用いる気相エピタキシャル成長、すなわち有機金属気相エピタキシャル成長に用いる化合物半導体エピタキシャル成長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III−V族化合物半導体は、高周波電子デバイスおよび発光・受光デバイスとして広く用いられている。その機能を発現するためのエピタキシャル薄膜の製造には、量産に適した有機金属気相エピタキシー(MOVPE;Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法が主として用いられている。
【0003】
MOVPE法により、III−V族化合物半導体を製造する場合、ガリウムやアルミニウム、インジウムといったIII族金属元素を含む有機金属化合物をIII族原料に用い、ヒ素およびリンといったV族元素を含む水素化合物あるいは有機化合物をV族原料に用い、それぞれ水素ガスなどのキャリアガスおよび必要に応じてドーパントガスなどと共に反応炉に供給し、熱分解することにより、反応炉内に設置された基板上にIII−V族化合物半導体薄膜(以下、エピタキシャル薄膜という)を製膜する。
【0004】
このとき、エピタキシャル薄膜の品質を保つため、III族原料供給量に対するV族原料供給量は、数倍から多いときには数千倍もの分圧比で供給される。供給されたV族原料は熱分解され、一部はエピタキシャル薄膜として取り込まれるが、大部分はエピタキシャル薄膜に取り込まれることなく、その一部は排気経路に配置されたV族原料除去装置などに取り込まれ、また別の一部はAsやPなどといったV族元素単体の形で反応炉の内壁や反応炉内に設置した治具などに付着してしまう。
【0005】
反応炉の内壁や治具表面に付着した分解付着物は、安定な状態であれば問題ないが、エピタキシャル成長回数が増加するにつれて分解付着物が剥離しやすい状態になる。剥離してしまった分解付着物は、基板上への異物の付着の原因となる。そのため分解付着物除去のためにある周期でエピタキシャル成長装置のメンテナンスを行わなければならないなどの問題がある。
【0006】
さらに、分解付着物が特に蒸気圧の高いPの場合は、エピタキシャル成長中にP原子を含む原料を流していないにも関わらず、反応炉の内壁や治具表面からP原子が再蒸発し、エピタキシャル薄膜中に不純物として取り込まれ、デバイス特性の劣化の原因ともなる。
【0007】
このような基板にとって不要な分解付着物の生成を抑制するため、反応炉内にエッチング性ガスを供給するなどの方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−164218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、反応炉内の基板よりも下流側にエッチング性ガスを供給することにより、基板よりも下流側での分解付着物の生成を抑制でき、基板搬入時の基板上への異物の付着を抑えることができる。
【0010】
しかしながら、反応炉内において、分解付着物は必ずしも基板よりも下流側に付着するとは限らず、基板よりも上流側、あるいは基板近傍に付着することもある。そのため、特許文献1ではこのような領域に生成した分解付着物が、エピタキシャル成長中に再蒸発して、エピタキシャル薄膜中に不純物として取り込まれてしまうという問題がある。エピタキシャル薄膜中に不純物が取り込まれると、エピタキシャル薄膜の劣化を招き、歩留まりが悪くなってしまうという問題が発生する。
【0011】
また、分解付着物の生成を抑制するために、基板の上流側からエッチング性ガスとして塩化水素などのハロゲン化水素を供給すると、エピタキシャル薄膜自体をエッチングして結晶の劣化の原因となってしまうという問題もある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、反応炉内にV族元素を含む原料の分解付着物が生成しないような構造とすることにより基板上への異物の付着を抑制し、分解付着物の再蒸発によるエピタキシャル薄膜の劣化を抑制でき、かつ反応炉内の分解付着物を取り除くためのメンテナンス回数を削減(反応炉内のメンテナンス周期を増加)可能な構造の化合物半導体エピタキシャル成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、基板を収容した反応炉内に、V族元素を含む原料を供給して、前記基板上に気相エピタキシャル成長させる化合物半導体エピタキシャル成長装置において、前記V族元素を含む原料が分解し、前記反応炉内でその分解付着物が付着する付着部分の上流側に水素ラジカルを過剰に含むガスを流すための水素ラジカル供給手段を接続した化合物半導体エピタキシャル成長装置である。
【0014】
前記水素ラジカル供給手段は、水素を含むガスを供給するガス供給源と、該ガス供給源から供給された前記水素を含むガスの水素をラジカル化して前記水素ラジカルを過剰に含むガスを生成する水素ラジカル生成装置と、該水素ラジカル生成装置で生成された水素ラジカルを過剰に含むガスを前記反応炉の前記付着部分の領域に流す水素ラジカル供給管とからなるとよい。
【0015】
前記反応炉は、横型円筒反応器の一端に原料供給管が設けられ、他端に排気管が設けられ、その外周に高周波加熱コイルが設けられて形成され、その横型円筒反応器内にサセプタ上に支持された前記基板が収容され、前記水素ラジカル供給手段は、前記基板の上部の前記横型円筒反応器の上流側に接続されるとよい。
【0016】
前記反応炉は、縦型円筒反応器の底板中央に原料供給管、その外周に排気管が形成され、かつ頂板に抵抗加熱ヒータが設けられ、かつその抵抗加熱ヒータの下方に前記基板を支持する回転自在なサセプタが設けられて構成され、前記原料供給管の外周から底板上に水素ラジカル供給手段を接続してもよい。
【0017】
前記水素ラジカルを過剰に含むガスが水素ラジカルを過剰に含むアルゴンガスであるとよい。
【0018】
前記水素ラジカルを過剰に含むガスが水素ラジカルを過剰に含む窒素ガスであってもよい。
【0019】
前記V族元素を含む原料がアルシンまたはターシャリブチルアルシンのうちの少なくとも1つを含むとよい。
【0020】
前記V族元素を含む原料がホスフィンまたはターシャリブチルホスフィンのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、反応炉内にV族元素を含む原料の分解付着物が生成しないような構造とすることにより基板上への異物の付着を抑制し、分解付着物の再蒸発によるエピタキシャル薄膜の劣化を抑制でき、かつ反応炉内の分解付着物を取り除くためのメンテナンス回数を削減(反応炉内のメンテナンス周期を増加)可能な構造の化合物半導体エピタキシャル成長装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係る化合物半導体エピタキシャル成長装置の構造を示した概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る化合物半導体エピタキシャル成長装置の構造を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る化合物半導体エピタキシャル成長装置の構造を示した概略図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る化合物半導体エピタキシャル成長装置10は、基板13を収容した反応炉11内に、V族元素を含む原料(原料ガス)を供給して、基板13上に気相エピタキシャル成長させるものである。
【0026】
反応炉11は、高純度の石英でできた横型円筒反応器11aの一端に原料供給管14が設けられ、他端に排気管34が設けられ、その外周に高周波加熱コイル15が設けられて形成される。横型円筒反応器11a内には、サセプタ12上に支持された基板13(例えばGaAs基板)が収容される。
【0027】
高周波加熱コイル15の代わりに、抵抗加熱ヒータを使用してもよいが、高周波加熱コイル15の方が加熱および冷却に要する時間が短く、横型円筒反応器11aが直接加熱されないので好ましい。サセプタ12は、反応炉11内の熱膨張、熱輻射、強度などを考慮して、カーボン製とする。
【0028】
原料供給管14からは、V族元素を含む原料が気体で導入される。V族原料のうちで、As原子を含む原料としてはアルシンやターシャリブチルアルシンを用いることができ、P原子を含む原料としてはホスフィンやターシャリブチルホスフィンを用いることができる。
【0029】
ところで、V族原料を用いる化合物半導体エピタキシャル成長装置において、V族原料が分解して生成するAs原子やP原子を含む分解生成物、例えばAsHやPHのような水素原子が1つ結合した分子や、AsラジカルやPラジカルなどの化学的に不安定な分子は、反応炉11内の相対的に温度が低い領域に熱拡散によって拡散し、滞留して、ある平均滞在時間の後に、化学的に安定な固体のAsやPなどの形で反応炉11の内壁や治具(サセプタなど)に分解付着物として付着する。
【0030】
本実施の形態では、反応炉11内の相対的に温度が低い領域が、サセプタ12から離れた横型円筒反応器11aの内壁にあたり、基板13の上部である図示17の領域になる。この分解付着物が最も付着しやすい領域を付着部分17と呼称する。
【0031】
さて、本実施の形態に係る化合物半導体エピタキシャル成長装置10では、横型円筒反応器11a内に供給されたV族元素を含む原料が分解し、横型円筒反応器11a内でその分解付着物が付着する付着部分17の上流側に水素ラジカルを過剰に含むガスを流すための水素ラジカル供給手段36が接続される。
【0032】
水素ラジカル供給手段36は、水素を含むガスを供給するガス供給源18と、ガス供給源18から供給された水素を含むガスの水素をラジカル化して水素ラジカルを過剰に含むガスを生成する水素ラジカル生成装置16と、水素ラジカル生成装置16で生成された水素ラジカルを過剰に含むガスを横型円筒反応器11aの付着部分17の領域に流す水素ラジカル供給管19とからなる。
【0033】
水素ラジカル生成装置16は、例えばマイクロ波発生源から発生されるマイクロ波を水素ガスに照射することにより、水素ガスを活性化し電離させて水素ラジカルを生成するものである。
【0034】
なお付着部分17に水素ラジカルが効率よく供給されるように、水素ラジカル供給管19の接続位置を調整するとよい。また横型円筒反応器11aと水素ラジカル供給管19の接続部分に水素ラジカルを誘導する部材を設けてもよいし、水素ラジカル供給管19には付着部分17に水素ラジカルを供給する流速を調整できるように工夫を施してもよい。
【0035】
本実施の形態では、水素ラジカル供給手段36において、ガス供給源18からは水素ガスを水素ラジカル生成装置16に供給したが、これに限らず、水素ガスとアルゴンガスからなる混合ガス、あるいは水素ガスと窒素ガスからなる混合ガスを供給してもよい。その場合、水素ラジカル供給管19からは、水素ラジカルを過剰に含むアルゴンガス、あるいは水素ラジカルを過剰に含む窒素ガスが横型円筒反応器11aの付着部分17に供給される。
【0036】
水素ラジカルは、他の水素ラジカルと反応して、容易に水素分子に変化してしまう。そこで、水素ラジカル同士の衝突確率を低くする必要があるが、アルゴンガスおよび窒素ガスといった不活性ガスとともに水素ラジカルを横型円筒反応器11a内に供給することにより、分解付着物を付着防止させたい領域に水素ラジカルが効率的に輸送され、付着防止効果を高めることができる。
【0037】
本発明の化合物半導体エピタキシャル成長装置10を用いて、基板13上に気相エピタキシャル成長させる場合、横型円筒反応器11a内に原料供給管14からV族元素を含む原料を供給する。
【0038】
具体的には、III−V族化合物半導体エピタキシャル薄膜を成長させる場合、III族原料(例えばトリメチルガリウム)、V族原料(例えばアルシンガス)、キャリアガス(例えば水素ガス)、必要に応じてドーパントガスなどを成長させたいエピタキシャル薄膜の膜厚に応じ、所望の割合で供給する。なお、III族元素を含む原料は有機金属であるため、液体でその容器ごと水槽などに入れ温度制御されており、必要な量だけが気体で供給される。
【0039】
横型円筒反応器11a内でサセプタ12上に支持された基板13を高周波加熱コイル15で加熱しつつ、V族元素を含む原料を供給することで、基板13付近のV族元素を含む原料が熱により分解し、基板13上にエピタキシャル薄膜が成長する。
【0040】
同時に、ガス供給源18から供給された水素を含むガスを水素ラジカル生成装置16により、分解付着物と化学反応を起こしやすい状態、すなわち反応性の高い水素ラジカルにして、水素ラジカル供給管19から横型円筒反応器11a内で分解付着物が付着する付着部分17、すなわちAsやPが付着しやすい領域に選択的に供給することで、AsHやPHおよびAsラジカルやPラジカルなどの不安定な分子が反応炉11の内壁や治具などに付着する前に、AsH3やPH3などの化学的に安定なガスである水素化物に変化させて、反応炉11の内壁や治具に付着させることなく、排気させる。
【0041】
例えば、アルシンやターシャリブチルアルシンは、熱分解によってAsHやAsラジカルの形に分解するので、水素ラジカルの供給により、安定なAsH3となり排気される。
【0042】
また、ホスフィンやターシャリブチルホスフィンは、熱分解によってPHやPラジカルの形に分解するので、水素ラジカルの供給により、安定なPH3となり排気される。
【0043】
本実施の形態の作用を説明する。
【0044】
本実施の形態に係る化合物半導体エピタキシャル成長装置10は、V族元素を含む原料が分解し、反応炉11内でその分解付着物が付着する付着部分17の上流側に水素ラジカルを過剰に含むガスを流すための水素ラジカル供給手段36を接続している。
【0045】
これにより、水素ラジカルが有する特性、すなわち水素ラジカル同士が反応して容易に水素分子に戻るという特性を利用して、水素ラジカル供給管19の接続位置や水素ラジカルを供給する流速を工夫することで、空間的に限定された範囲でのみ分解付着物の付着防止作用を機能させることが可能となるため、反応炉11の内壁および治具への不要な分解付着物の生成を効果的に抑制でき、基板13上への異物の付着を抑制できる。
【0046】
また、水素ラジカルは反応性が強いため、V族原料が熱分解して生じる、例えばAs原子やP原子を含む活性化分子を、反応炉11の内壁および反応炉11内に設置した治具に付着する前に蒸気圧の高い水素化物にすることができる。したがって、分解付着物が反応炉11の内壁や治具へ付着するのを未然に防ぎ、かつ分解付着物が再蒸発してエピタキシャル薄膜中に不純物として混入することを効果的に防止できるので、反応炉11内の分解付着物を取り除くためのメンテナンス回数が削減し、生産のスループットが向上する。
【0047】
さらに、水素ラジカルがエピタキシャル成長領域に達したとしても、水素ラジカル自身は通常のエピタキシャル成長条件でも存在し、また基板13のクリーニングにも利用されているものなので、ハロゲン化水素のようにエピタキシャル薄膜を劣化させることはない。
【0048】
図2に示すように、本発明の他の実施の形態に係る化合物半導体エピタキシャル成長装置20は、縦型円筒反応器21aの底板中央に原料供給管24、その外周に排気管44が形成され、かつ頂板に抵抗加熱ヒータ25が設けられ、かつその抵抗加熱ヒータ25の下方に基板23を支持する回転自在なサセプタ22が設けられて構成され、原料供給管24の外周から底板上に水素ラジカル供給手段46を接続している。
【0049】
本実施の形態では、原料供給管24は、原料供給管24a,24bの2つの管に分かれており、それぞれに適宜原料ガスを供給するようにしている。
【0050】
化合物半導体エピタキシャル成長装置20では、縦型円筒反応器21a内に供給されたV族元素を含む原料が分解し、縦型円筒反応器21a内でその分解付着物が付着する付着部分27の上流側に水素ラジカルを過剰に含むガスを流すための水素ラジカル供給手段46が接続される。
【0051】
水素ラジカル供給手段46は、水素を含むガスを供給するガス供給源28と、ガス供給源28から供給された水素を含むガスの水素をラジカル化して水素ラジカルを過剰に含むガスを生成する水素ラジカル生成装置26と、水素ラジカル生成装置26で生成された水素ラジカルを過剰に含むガスを縦型円筒反応器21aの付着部分27の領域に流す水素ラジカル供給管29とからなる。
【0052】
本実施の形態では、反応炉21内の相対的に温度が低い領域が、サセプタ22から離れた縦型円筒反応器21aの底板上の領域となり、この領域が付着部分27となる。
【0053】
付着部分27に水素ラジカルが効率よく供給されるように、縦型円筒反応器21aと水素ラジカル供給管29の接続部分には、水素ラジカルを誘導する部材29aを設ける。部材29aは、水素ラジカルが、水素ラジカル供給管29から縦型円筒反応器21aに噴出される口を、鉛直方向から底板と平行になるように、90°曲げて形成される。すなわち部材29aは断面視でL字状に形成される。
【0054】
なお、縦型円筒反応器21aと水素ラジカル供給管29の接続位置を調整してもよいし、水素ラジカル供給管29には、付着部分27に水素ラジカルを供給する流速を調整できるような工夫を施してもよい。
【0055】
化合物半導体エピタキシャル成長装置20を用いて、基板23上に気相エピタキシャル成長させる場合、図1の化合物半導体エピタキシャル成長装置10と同様に、縦型円筒反応器21a内に原料供給管24a,24bからV族元素を含む原料を供給する。
【0056】
化合物半導体エピタキシャル成長装置20によれば、図1の化合物半導体エピタキシャル成長装置10と同様に、反応炉21の内壁および治具への不要な分解付着物の生成を効果的に抑制でき、基板23上への異物の付着を抑制できる効果が得られる。
【0057】
また、V族原料が熱分解して生じる、例えばAs原子やP原子を含む活性化分子が、反応炉21の内壁および反応炉21内に設置した治具に付着する前に蒸気圧の高い水素化物にすることができる。したがって、分解付着物が反応炉21の内壁や治具へ付着するのを未然に防ぎ、かつ分解付着物が再蒸発してエピタキシャル薄膜中に不純物として混入することを効果的に防止できるので、反応炉21内の分解付着物を取り除くためのメンテナンス回数が削減し、生産のスループットが向上する効果が得られる。
【0058】
上記実施の形態では、反応炉として、横型円筒反応器11aと縦型円筒反応器21aを用いたが、本発明の効果はこれに限定されるものではなく、縦フロー型、シャワーヘッド型、バレル型などいずれの構造を用いたMOVPE反応炉にも適用できる。
【0059】
また上記実施の形態では、V族原料として、アルシン、ターシャリブチルアルシン、ホスフィン、ターシャリブチルホスフィンを用いた場合を説明したが、使用するV族原料についてはこれに限定されない。つまり、他の材料を用いた場合でも、水素ラジカルを過剰に含むガスを不要な分解付着物が生じる領域に選択的に供給する構造を有していれば、本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0060】
実施例1
図1に示す横型円筒反応器11a内に収容されたサセプタ12上にGaAs基板13を設置し、III族原料およびV族原料の混合ガスを原料供給管14から横型円筒反応器11a内に供給し、高周波加熱コイル15によって加熱分解し、GaAs基板13上にGaAs薄膜をエピタキシャル成長させた。
【0061】
III族原料としては、トリメチルガリウムを用い、V族原料には水素で10%に希釈したアルシンガスを用いた。III族原料分圧に対するV族原料分圧の比、すなわちV/III比を100、成長温度650℃、成長圧力6.666kPa(50Torr)、および水素キャリアガスを含む原料供給管14における総流量を3.9L/minとした。
【0062】
この際に、基板13の対向面(基板13の上部)に当たる領域に固体のAsが付着することが別の実験により分かっていたので、この領域(付着部分17)の上流側、すなわち横型円筒反応器11aの上流側に水素ラジカル供給管19を設置し、水素ラジカル生成装置16を通して生成した水素ラジカルを過剰に含むガスを、水素ラジカル供給管19から横型円筒反応器11a内に供給した。
【0063】
水素ラジカル生成装置16へは、ガス供給源18から水素ガスを0.1L/min供給した。
【0064】
付着部分17に何も分解付着物がない状態から、1回あたり10μmのGaAsエピタキシャル薄膜を成長させ、これを複数回繰り返し、GaAsエピタキシャル薄膜表面に大きさ1μm以上の異物が現れはじめる成長総膜厚を調べたところ、水素ラジカル生成装置16を稼動せずに水素のみを供給した場合と比較して1.35倍となった。
【0065】
この結果から、V族元素を含む原料を供給して、基板13上に気相エピタキシャル成長させる際には、反応炉11内に水素ラジカルを過剰に含むガスを供給することで、付着部分17への不要な分解付着物の生成を抑制できることがわかり、本発明の有効性が確認できた。
【0066】
実施例2
実施例1と同様に、図1に示す横型円筒反応器11a内に収容されたサセプタ12上にGaAs基板13を設置し、III族原料およびV族原料の混合ガスを原料供給管14から横型円筒反応器11a内に供給し、高周波加熱コイル15によって加熱分解し、GaAs基板13上にGaAs薄膜をエピタキシャル成長させた。
【0067】
III族原料としては、トリメチルガリウムを用い、V族原料には水素で10%に希釈したアルシンガスを用いた。III族原料分圧に対するV族原料分圧の比、すなわちV/III比を100、成長温度650℃、成長圧力6.666kPa(50Torr)、および水素キャリアガスを含む原料供給管14における総流量を3.9L/minとした。
【0068】
この際に、基板13の対向面(基板13の上部)に当たる領域に固体のAsが付着することが別の実験により分かっていたので、この領域(付着部分17)の上流側、すなわち横型円筒反応器11aの上流側に水素ラジカル供給管19を設置し、水素ラジカル生成装置16を通して生成した水素ラジカルを過剰に含むガスを、水素ラジカル供給管19から横型円筒反応器11a内に供給した。
【0069】
水素ラジカル生成装置16へは、ガス供給源18から水素ガス0.05L/minとアルゴンガス0.05L/minの混合ガスを供給した。このとき、水素ラジカル生成装置16の出力を調整して、実質的な水素ラジカル量が、実施例1と同じになるようにした。
【0070】
付着部分17に何も分解付着物がない状態から、1回あたり10μmのGaAsエピタキシャル薄膜を成長させ、これを複数回繰り返し、GaAsエピタキシャル薄膜表面に大きさ1μm以上の異物が現れはじめる成長総膜厚を調べたところ、水素ラジカル生成装置16を稼動せずに水素のみを供給した場合と比較して1.42倍となった。
【0071】
実施例1と実施例2の結果から、V族元素を含む原料を供給して、基板13上に気相エピタキシャル成長させる際には、反応炉11内に水素ラジカルを供給しない場合だけでなく、水素ラジカルのみ供給する場合と比較しても、水素ラジカルを過剰に含むアルゴンガスを供給した方が、付着部分17での不要な分解付着物の析出抑制効果が高まることがわかり、本発明の効果が確認できた。
【0072】
実施例3
図2に示す縦型円筒反応器21a内に収容された回転自在なサセプタ22上にGaAs基板23を設置し、縦型円筒反応器21aの底板中央の原料供給管24a,24bからそれぞれV族原料およびIII族原料を縦型円筒反応器21a内に供給し、縦型円筒反応器21a内の頂板に設けられた抵抗加熱ヒータ25によって加熱分解し、GaAs基板23上にGaAsバッファ層0.1μm、In0.49Ga0.51P層0.5μm、GaAsキャップ層0.2μmの順のエピタキシャル積層構造を形成させた。
【0073】
III族原料であるガリウム原料としてはトリメチルガリウム、インジウム原料としてはトリメチルインジウム、V族原料であるヒ素原料としては100%アルシン、リン原料としては100%ホスフィンを用いた。
【0074】
GaAsバッファ層、In0.49Ga0.51P層、GaAsキャップ層のいずれも、成長温度650℃、成長圧力6.666kPa(50Torr)、および水素キャリアガスを含む原料供給管24a,24bにおける総流量を29L/minとした。
【0075】
不要な分解付着物が形成される付着部分27の上流側、すなわち原料供給管24a,24bの外周から底板上に水素ラジカル供給管29を設置し、水素ラジカル生成装置26を通して生成した水素ラジカルを過剰に含むガスを、水素ラジカル供給管29から縦型円筒反応器21a内に供給した。
【0076】
水素ラジカル生成装置26へは、ガス供給源28から水素ガス0.5L/minとアルゴンガス0.5L/minの混合ガスを供給した。
【0077】
水素ラジカル生成装置26を稼動させた場合と稼動させなかった場合の2種類のサンプルを用意し、二次イオン質量分析(SIMS;Semicondary Ion Mass Spectrometry)装置を用いて、GaAsキャップ層におけるP濃度を比較した。
【0078】
水素ラジカル生成装置26を稼動させなかった場合、すなわち水素ラジカルを供給しなかったサンプルでは、GaAsキャップ層中にバックグラウンドレベル(1×1016atoms/cm3)を越えるPが検出された。
【0079】
しかし、水素ラジカル生成装置26を稼動させた場合、すなわち水素ラジカルを供給したサンプルでは、GaAsキャップ層でのP濃度は、SIMSのバックグラウンドレベルに隠れて検知できなかった。
【0080】
この結果から、V族元素を含む原料を供給して、基板23上に気相エピタキシャル成長させる際には、反応炉21内に水素ラジカルを過剰に含むガスを供給することにより、付着部分27にPを含む不要な分解付着物の生成が抑制され、さらにGaAsキャップ層成長時に再蒸発してGaAs中への混入を防ぐことがわかり、本発明の効果が確認できた。
【符号の説明】
【0081】
10 化合物半導体エピタキシャル成長装置
11 反応炉
11a 横型円筒反応器
12 サセプタ
13 基板
14 原料供給管
15 高周波加熱コイル
16 水素ラジカル生成装置
17 付着部分
18 ガス供給源
19 水素ラジカル供給管
34 排気管
36 水素ラジカル供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容した反応炉内に、V族元素を含む原料を供給して、前記基板上に気相エピタキシャル成長させる化合物半導体エピタキシャル成長装置において、
前記V族元素を含む原料が分解し、前記反応炉内でその分解付着物が付着する付着部分の上流側に水素ラジカルを過剰に含むガスを流すための水素ラジカル供給手段を接続したことを特徴とする化合物半導体エピタキシャル成長装置。
【請求項2】
前記水素ラジカル供給手段は、水素を含むガスを供給するガス供給源と、該ガス供給源から供給された前記水素を含むガスの水素をラジカル化して前記水素ラジカルを過剰に含むガスを生成する水素ラジカル生成装置と、該水素ラジカル生成装置で生成された水素ラジカルを過剰に含むガスを前記反応炉の前記付着部分の領域に流す水素ラジカル供給管とからなる請求項1に記載の化合物半導体エピタキシャル成長装置。
【請求項3】
前記反応炉は、横型円筒反応器の一端に原料供給管が設けられ、他端に排気管が設けられ、その外周に高周波加熱コイルが設けられて形成され、その横型円筒反応器内にサセプタ上に支持された前記基板が収容され、前記水素ラジカル供給手段は、前記基板の上部の前記横型円筒反応器の上流側に接続される請求項1または2に記載の化合物半導体エピタキシャル成長装置。
【請求項4】
前記反応炉は、縦型円筒反応器の底板中央に原料供給管、その外周に排気管が形成され、かつ頂板に抵抗加熱ヒータが設けられ、かつその抵抗加熱ヒータの下方に前記基板を支持する回転自在なサセプタが設けられて構成され、前記原料供給管の外周から底板上に水素ラジカル供給手段を接続した請求項1または2に記載の化合物半導体エピタキシャル成長装置。
【請求項5】
前記水素ラジカルを過剰に含むガスが水素ラジカルを過剰に含むアルゴンガスである請求項1〜4いずれかに記載の化合物半導体エピタキシャル成長装置。
【請求項6】
前記水素ラジカルを過剰に含むガスが水素ラジカルを過剰に含む窒素ガスである請求項1〜4いずれかに記載の化合物半導体エピタキシャル成長装置。
【請求項7】
前記V族元素を含む原料がアルシンまたはターシャリブチルアルシンのうちの少なくとも1つを含む請求項1〜6いずれかに記載の化合物半導体エピタキシャル成長装置。
【請求項8】
前記V族元素を含む原料がホスフィンまたはターシャリブチルホスフィンのうちの少なくとも1つを含む請求項1〜6いずれかに記載の化合物半導体エピタキシャル成長装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−129822(P2011−129822A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289252(P2009−289252)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】