説明

医療用途のための靴

永久磁石がN磁極(2)及びS磁極(3)を有する基体(1)を含み、該基体(1)が弾性的に変形可能である、永久磁石を備えた靴によって、この靴の着用者に靴の材料特性及び状態についての情報を付与可能な靴を実現するという課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用途のための靴及び靴用のインソール(中底若しくは中敷)に関する。
【背景技術】
【0002】
殊に糖尿病患者は血行障害を患い、特に圧力負荷に抵抗力がない。この圧力負荷は身体に押圧跡若しくは痣をもたらし、この押圧跡若しくは痣は炎症を起こして傷の形成に至る場合がある。
【0003】
従来技術で公知の靴には、フォーム材料(発泡体)が入れられることが多い。このフォーム材料は、時間の経過とともに圧縮され、さらにその完全な弾性作用及びクッション作用を発揮することができない。その結果が、その靴における、もはや弾力を有することもクッションとなることもできない領域である。これによって、前記着用者の足に圧力負荷がかかってしまう可能性がある。
【0004】
この圧力負荷に苦しむのは特に糖尿病患者であり、そして、糖尿病患者の足には急速に傷が形成されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、靴の着用者に靴の材料特性及び状態についての情報を与えることができる靴を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記課題は、特許請求項1及び11の特徴によって解決される。
【0007】
それらによれば、靴又はインソールが永久磁石を有し、この永久磁石が、N磁極及びS磁極を有する基体を含み、この基体が弾性的に変形可能となっている。
【0008】
本発明によれば、弾性の永久磁石が、永久磁石の変形状態及び弾性特性についての情報をもたらす信号の生成を可能にする。極めて具体的には、弾性の永久磁石を、弾性の永久磁石乃至はその基体の個々の領域が既に著しく大きく圧縮されているか否かを、靴の着用者に知らせるセンサと組み合わせることができる。このような圧縮された領域は、もはや弾性作用及びクッション作用を発揮することができず、着用者の足に押圧跡をもたらす場合がある。殊に糖尿病患者は、糖尿病疾患のため、痛み及び押圧跡により生じる傷に十分に早くに気付くことができない。前記永久磁石と共に作用するセンサがあれば、靴の着用者、殊に糖尿病患者に、靴又はそのソールを交換しなければならないという警告信号を送ることができる。したがって、冒頭に記載の課題が解決される。
【0009】
医療用途のための靴を製造するのに弾性のある永久磁石を使用することによって、とりわけ健康を増進する靴の製造が開示される。
【0010】
永久磁石は、靴のソール中に配置されていてよい。この具体的な実施形態によって、靴の新調が問題なく可能となる。ソール(靴底)が擦り減らされるか又は弾性作用をもはや発揮することができない程度に圧縮された場合、ソールを交換することができる。その場合、靴の上部材料を再使用することができる。
【0011】
永久磁石が靴のインソールの構成要素であることも考えられうる。この場合にも、履き古された場合、インソールを交換して靴を再利用することができる。
【0012】
永久磁石は、靴の踵領域内及び/又は母指球領域内に位置していてよい。靴の踵領域及び母指球領域は、特に強い圧力負荷を受けている。したがって、踵領域及び母指球領域は、特に十分にクッションが効かされていなければならない。永久磁石が靴の踵領域内及び/又は母指球領域内に位置していることによって、靴の特に危険な(重要な)箇所を監視することが可能となる。
【0013】
基体は、硬質磁性粒子がその中に分散しているフォーム材料から製作されていてよい。フォーム材料の使用は特に有利であり、それは、フォーム材料からなる基体は、圧力の負荷により何の問題もなく弾性を示し且つ可逆的に変形可能であるからである。
【0014】
これを背景として、フォーム材料としてエラストマーフォームを使用することも、熱可塑性エラストマーからなるフォームを使用することも、或いはこれらの両方の混合物を使用することもできる。本願の意味するところでは、エラストマーフォームとは、ゴム弾性挙動を示す発泡プラスチックであると理解される。これは、粗く化学的又は物理的に架橋されたポリマーであってよく、このポリマーは、ガラス転移温度未満では鋼弾性的(stahlelastisch)に挙動し、ガラス転移温度を上回る温度ではゴム弾性である。有利には、使用されるエラストマーのガラス転移温度は20℃以下である。好ましくは、使用されるエラストマーフォームは、その融点又は分解温度までゴム弾性的に挙動する。
【0015】
好ましくは、使用されるエラストマーは、成形工程で良好に加工可能な、SBR(ポリスチレン−ブタジエンゴム)、NBR(ニトリル−ブタジエンゴム)、EPM(エチレン−プロピレンゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、EVA(エチルビニルアセテート)、CSM(クロロスルホニル−ポリエチレンゴム)、VSi(シリコーンゴム)又はAEM(エチレンアクリレートゴム)である。
【0016】
好ましくは、使用される熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリアミド、架橋されていない熱可塑性ポリオレフィン、部分架橋された熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性スチレンポリマー及びとりわけ熱可塑性ポリウレタンである。これらの材料は、発泡工程で良好に加工できる。
【0017】
フォーム材料は、任意の孔径を有していてよい。連続気泡フォームが使用されてもよいし、独立気泡フォームが使用されてもよい。連続気泡フォームでは、個々の気孔の少なくとも一部が互いに接し合っている。独立気泡フォームでは、全ての気孔が、ポリマーマトリックス中で互いに孤立して存在する。典型的な孔径は、10μm〜3mmの範囲内で変動する。
【0018】
好ましいことに、硬質磁性粒子の使用によって、基体が磁化後に持続的な磁化を維持することが保証される。磁化を著しく容易に失う軟質磁性粒子とは全く異なり、硬質磁性粒子はその磁化を維持する。極めて具体的には、要素磁石(Elementarmagnete)が持続的に配向されており、それにより持続的なN磁極及びS磁極を形成する。
【0019】
基体は、エチルビニルアセテートからなるフォーム材料からなっていてよい。この材料からなるフォームは、硬質磁性粒子を均一に分散させて収容するのに特に適当であることが分かった。さらに、エチルビニルアセテートからなる個々のフォーム材料層は、特に容易に加硫又は接着によって相互に結合することができる。
【0020】
靴用のソールを形成するために、硬さの異なる3つのフォーム材料層が加硫又は接合によって相互に結合されることが好ましい。ソールに十分な安定性を与えるために、床の方を向くフォーム材料層が最も硬いフォーム材料層であってよい。
【0021】
基体中には、SrFeO粒子(ストロンチウムフェライト粒子)が分散していてよい。この材料は、持続的な磁化を示し、よって永久磁石の製造に特に適する。
【0022】
これを背景として、基体中にNdFeB粒子(ネオジウム・鉄・ボロン粒子)が分散していてもよい。硬質磁性粒子は、その要素磁石が外部の永久磁石又は磁気パルスによって配向された後、持続的な磁化を示す。
【0023】
前記粒子が平均直径10nm〜500μmを有していてよい。このサイズの粒子は、好ましくは、フォーム材料マトリックスの構造を妨げない。気孔間のウェブ若しくは結合部(Stege)は、その安定性に関しほとんど影響を受けない。
【0024】
特に好ましくは、平均直径0.5〜5μmの硬質磁性粒子が使用されてよく、それというのは、そのような硬質磁性粒子は、問題なく発泡性材料中に分散させることができ、完成したフォーム中で特に均一に分散しているからである。
【0025】
基体には、センサが配設されていてよい。その場合、立方体状、直方体状又は円筒状の基体がその1つの面に1個のセンサを有することが、具体的に考えられ得る。基体が靴のソールとして形成されている場合には、この基体は、くさび形に形成されていてよい。センサによって、弾性の基体の変形により生じる磁場の変化乃至は磁場の強さの変化を測定することができる。センサとして、ホールセンサが使用されてよい。ホールセンサは、高い解像度及び信頼性を特徴とする。
【0026】
基体が靴のソールとして形成されている場合、センサが基体に埋め込まれていてよい。これによって、センサは、環境の影響から効果的に保護される。
【0027】
これを背景として、センサが備えられた弾性の永久磁石は、圧力センサとして使用されることが具体的に考えられ得る。センサによって電圧値を測定し、出力することができ、この電圧値は、永久磁石の磁場の変化に相当する。そして、この磁場の変化は、所定の距離ごとの基体の変形と相関関係にあり得る。基体の圧縮率が既知であれば、距離−電圧線図から、基体を変形させる力乃至は圧力を逆に推論することができる。
【0028】
ここに記載の永久磁石は、以下の工程を含む方法で製造されてよい。
【0029】
発泡可能な材料及び硬質磁性粒子からの均一な混合物を生成し、前記材料を発泡させ、完成したフォームを生成し、外部の永久磁石又は磁気パルスによって硬質磁性粒子を磁化する。
【0030】
この方法によって、その中に硬質磁性粒子が均一に分散したフォーム材料から永久磁石を製造することができる。
【0031】
基体及びセンサの構造に関する全ての実施形態は、同様に、インソール乃至は中敷きソールの構成で使用される。
【0032】
本発明の理論を有利に形成し且つ発展させる種々の可能性が存在する。これについては、一方では添付の請求の範囲を、他方では図面に基づく本発明の有利な実施例の後続の説明を参照されたい。
【0033】
図面に基づく本発明の有利な実施例の説明に関連して、前記の教示の有利な形態及び発展形も一般的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】無負荷の状態及び圧力負荷によって変形した状態の永久磁石の概略図である。
【図2】ここに記載の種類の永久磁石を含む圧力センサの距離−電圧線図である。
【図3】ソールが永久磁石として形成されている靴を示す概略図である。
【図4】2つの異なるフォーム材料層から製造されたインソールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に、円筒状の基体1である永久磁石を示す。基体1は、N磁極2及びS磁極3を有する。基体1は、弾性的に変形可能である。これは、概略的に図1の右図に示されている。
【0036】
基体1は、エチルビニルアセテートからなるフォーム材料からなっており、このフォーム材料中には、ストロンチウムフェライト(SrFeO粒子)からなる硬質磁性粒子4が均一に分散している。この粒子は、平均直径0.5〜5μmを有する。ストロンチウムフェライト粒子4を、外部の永久磁石又は磁気パルスによって、その要素磁石が基体1中で持続的に配向されるように磁化した。したがって、図1による永久磁石は持続的な磁化を示す。
【0037】
基体1は、10μm〜3mmの範囲内で変動する孔6を有するフォーム材料からなる。
【0038】
図1による円筒状の基体1の円形の底面7には、センサ5が配置されている。センサ5はホールセンサとして形成されている。センサ5及び基体1は、それら全体で1つの圧力センサを形成し、この圧力センサは、圧力又は距離ΔTの測定に使用することかできる。
【0039】
図1の左図に、無負荷状態の基体1を示す。無負荷の状態では、基体1は所定の密度の磁力線を形成する。図1の右図のように、圧力(P)による基体1の圧力負荷の際には、磁力線の構造、特に磁力線の密度が変化する。磁場の力線の変化及びひいては磁場の強さによって、ホールセンサ5においてセンサ信号として電圧Uが発生する。電圧Uは、基体1が圧縮された距離ΔTと相関関係にある。
【0040】
したがって、検出した電圧から距離ΔTを求めることができる。
【0041】
基体1のフォーム材料の圧縮率と基体1を第1の高さから第2の高さにもたらした距離ΔTとが分かれば、基体1に作用する圧力を推測することができる。したがって、ここに記載の弾性の永久磁石を圧力センサに使用することができる。
【0042】
図2に、Allegro A 1395型のホールセンサ5で測定した距離−電圧線図を示す。使用された弾性の永久磁石は、エチルビニルアセテートからなるフォーム材料から製作された基体1を有する。フォーム材料中には、0.5μm〜5μmの範囲からの平均直径を有する硬質磁性ストロンチウムフェライト粒子が分散している。円筒状の基体1は高さ4mmであり、その底面は直径6mmである。前記孔2、3は前記底面に配設されている。基体1の非負荷状態では、5.5mT(ミリテスラ)の磁場強さとなる。
【0043】
図2に、mmで測定した距離ΔTの基体1の圧縮とmVで測定したセンサ信号とが相関関係にあることを示す。
【0044】
増大する負荷(増圧)の際に生じるセンサ信号も、減少する負荷(減圧)の際に生じるセンサ信号も測定した。センサ5により出力されたmVでの電圧は、基体1が軸線方向に変形若しくは圧縮される距離又はした距離ΔTに比例する。その際、その都度の電圧値は、基体1の変形状態と相関関係にある。したがって、電圧値を把握することによって基体1の変形もしくは圧縮の程度を推論することができる。
【0045】
図3に、N磁極2及びS磁極3を有する基体1を含む永久磁石を有する靴、殊に糖尿病患者用の靴を示す。基体1は、弾性的に変形可能である。永久磁石はソール8中に配置されている。極めて具体的には、基体1はソール8として形成されている。永久磁石は、踵領域9内にも母指球領域10内にも配置されている。
【0046】
基体1は、エチルビニルアセテートのフォーム材料から製造されている。フォーム材料中には、ストロンチウムフェライト粒子として形成された硬質磁性粒子4が分散している。この粒子4は平均直径0.5〜5μmを有する。ストロンチウムフェライト粒子4は、外部の永久磁石又は磁気パルスによって、ストロンチウムフェライト粒子の要素磁石が基体1中で持続的に配向されるように磁化された。したがって、図3による永久磁石は持続的な磁化を示す。基体1は、孔6を有するフォーム材料からできている。孔6の直径は10μm〜3mmの範囲内で変動する。
【0047】
踵領域9内にも母指球領域10内にもそれぞれ1つのセンサ5が配置されている。前記センサ5及び前記基体1は、それら全体で1つの圧力センサを形成している。センサ5は、電圧値の測定によって、基体1が弾性作用をもはや発揮することができない程度に既に圧縮されているかどうかを明らかにすることができる。センサ5により提供される電圧値は、靴の着用者に、基体1乃至はソール8若しくはソール8の一部が老朽化(劣化)又は脆弱過程(Absetzprozessen)が原因で既に著しく変形しているか否かの信号を送る。その場合、図2のそれぞれの電圧値は、基体1乃至は靴底8の変形若しくは圧縮の程度に対応する。
【0048】
ソール8は、複数の弾性フォーム材料層から構成されていてよく、その場合には、これらのフォーム材料層の少なくとも1つが、ここに記載の弾性永久磁石の基体1である。フォーム材料層は、加硫によって相互に結合されていてよい。
【0049】
図4に、2つの異なるフォーム材料層1及び11から構成された靴用のインソールを示す。図4では、フォーム材料層1は、その構成において、上述の基体1に相当し、弾性永久磁石として形成されている。踵領域9及び母指球領域10内にはそれぞれ、ホールセンサ5が取り付けられており、これらを用いてフォーム材料層1及び11の変形を追跡することができる。
【0050】
本発明の教示のさらなる有利な形態及び発展形に関しては、一方では明細書の一般的な部分を、他方では特許請求の範囲を参照されたい。
【0051】
最後に、上で純粋に任意に選択された実施例は、単に本発明の教示を説明するために用いられているのであって、本発明の教示がこの実施例に限定されないことをとりわけ特に強調しておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有する靴であって、前記永久磁石がN磁極(2)及びS磁極(3)を有する基体(1)を含み、前記基体(1)が弾性的に変形可能である、靴。
【請求項2】
前記永久磁石がソール(8)中に配置されている、請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記永久磁石が、踵領域(9)内及び/又は母指球領域(10)内に配置されている、請求項1又は2記載の靴。
【請求項4】
前記基体(1)が、硬質磁性粒子(4)がその中に分散しているフォーム材料から製作されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の靴。
【請求項5】
前記基体(1)が、エチルビニルアセテートのフォーム材料を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の靴。
【請求項6】
前記基体(1)が、SBR(ポリスチレン−ブタジエンゴム)、NBR(ニトリル−ブタジエンゴム)、EPM(エチレン−プロピレンゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、EVA(エチルビニルアセテート)、CSM(クロロスルホニル−ポリエチレンゴム)、VSi(シリコーンゴム)又はAEM(エチレンアクリレートゴム)の群からの1つのエラストマーを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の靴。
【請求項7】
前記基体(1)中にSrFeO粒子(4)が分散している、請求項1から6のいずれか1項に記載の靴。
【請求項8】
前記基体(1)中にNdFeB粒子(4)が分散している、請求項1から7のいずれか1項に記載の靴。
【請求項9】
前記基体(1)に配設されたセンサ(5)を特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の靴。
【請求項10】
前記センサ(5)が前記基体(1)に埋め込まれている、請求項9記載の靴。
【請求項11】
永久磁石を有するインソールであって、前記永久磁石がN磁極(2)及びS磁極(3)を有する基体(1)を含み、前記基体(1)が弾性的に変形可能である、インソール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−532690(P2010−532690A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515375(P2010−515375)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005238
【国際公開番号】WO2009/007016
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(508112184)ノラ・システムズ・ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】