説明

半導体素子、および半導体素子の製造方法

【課題】高移動度と高耐圧を両立し、かつ大電流動作が可能なIII族窒化物半導体を用い
た半導体素子を提供する。
【解決手段】半導体素子は、III族窒化物系化合物半導体からなり、シートキャリア密度
が、1×1012cm−2以上5×1013cm−2以下である半導体動作層と、前記半
導体動作層上に形成された第1の電極及び第2の電極とを備え、前記半導体動作層におけ
る転位密度が1×10cm−2以上、5×10cm−2以下であることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクス用デバイスや高周波増幅デバイスとして用いられる
III族窒化物系化合物半導体からなる半導体素子、および半導体素子の製造方法に関する
ものである。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物系化合物半導体に代表されるワイドバンドギャップ半導体は、高い絶縁破
壊電圧(耐圧)、電子移動度、及び熱伝導度を持つため、大電力用途、高周波用途、ある
いは高温環境用途の半導体デバイスの材料として非常に有用である。例えば、AlGaN
/GaNヘテロ接合構造を有する電界効果トランジスタ(FET:Field Effe
ct Transitor)は、ピエゾ効果による分極に起因して、界面に2次元電子ガ
スが発生する。この2次元電子ガスは、高い電子移動度とキャリア密度を有しており、低
いオン抵抗、および高速なスイッチング特性を備えたパワースイッチング素子としての応
用が期待されている。
【0003】
III族窒化物を用いたFETとしては、AlGaN/GaN系HEMTが広く研究され
ているが、しきい値電圧が+1V程度と低かった。また、同様に研究されているMOS型
FETに関しては、移動度が高いデバイスや耐圧が1000V近いデバイスなどが報告さ
れているが、高移動度と高耐圧を両立したデバイスはいまだ実現していない。
【0004】
すなわち、FETやダイオードにおいて、キャリアが移動するドリフト層や電界緩和層
は、OFF時にはできるだけ高抵抗であり、ON時にはできるだけ低抵抗であることが求
められるというトレードオフの関係にある。そのため、ドリフト層や電界緩和層の抵抗を
下げるには、OFF時に動作に直接関係しないキャリア移動度を高くすることが求められ
る。
【0005】
特許文献1は、III族窒化物を用いたMOS型の電界効果型トランジスタにおいて、ド
レイン側のコンタクト領域に隣接して形成された電界緩和領域(リサーフ領域)のシート
キャリア濃度を1×1012cm−2以上、5×1013cm−2以下の範囲内に設定す
ることによって、高耐圧かつ大電流のノーマリオフ型の電界効果型トランジスタを実現で
きることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−311392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1には、リサーフ領域のシートキャリア密度を適切な範囲に設定
することによって、高い耐圧を備えたノーマリオフ型のトランジスタを実現できることが
記載されているものの、高移動度と高耐圧を両立したデバイスはいまだ実現されていない
。単結晶半導体における移動度は、シートキャリア密度と反比例の関係にあるため、移動
度とシートキャリア密度を独立に制御することが出来なかったためである。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて為されたもので、その目的は、高移動度と
高耐圧を両立し、かつ大電流動作が可能なIII族窒化物半導体を用いた半導体素子を提供
することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するにあたり、発明者は、GaNに代表されるIII族窒化物系化合物半
導体は転位密度が高いため、多結晶とみなして扱うことが適切であると考えた。すなわち
、多結晶の半導体の場合、移動度はシートキャリア密度の他、転位密度、不純物密度にも
依存する。このため、オン抵抗及び耐圧を考慮して不純物密度及びシートキャリア密度を
決定した場合でも、転位密度を所定の値に制御することで、高い移動度を有するIII族窒
化物系化合物半導体が得られることを見出したのである。
【0010】
本発明の第一の態様に係る半導体素子は、III族窒化物系化合物半導体からなり、シー
トキャリア密度が1×1012cm−2以上5×1013cm−2以下である半導体動作
層と、前記半導体動作層上に形成された第1の電極及び第2の電極とを備え、前記半導体
動作層における転位密度が1×10cm−2以上、5×10cm−2以下であること
を特徴とする。
【0011】
また、本発明の別の態様は、上記の半導体素子において、前記III族窒化物系化合物半
導体が、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)か
らなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の態様は、上記の半導体素子において、前記第1の電極がショットキ
ー電極であり、前記第2の電極がオーミック電極であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の別の態様は、上記の半導体素子において、前記第1の電極がソース電極
であり、前記第2の電極がドレイン電極であり、前記半導体動作層上であって、前記ソー
ス電極と前記ドレイン電極の間に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜上に形成されたゲート
電極とを更に備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第三の態様に係る半導体素子の製造方法は、基板上にIII族窒化物系化
合物半導体からなり、シートキャリア密度が1×1012cm−2以上5×1013cm
−2以下である半導体動作層を形成する工程と、前記半導体動作層上に第1の電極及び第
2の電極を形成する工程とを備え、前記半導体動作層を形成する工程は、その上に形成さ
れる層の転位密度を1×10cm−2以上、5×10cm−2以下にする転位低減層
を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高移動度と高耐圧を両立し、かつ大電流動作が可能なIII族窒化物系
化合物半導体からなる半導体素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る半導体素子100の模式的な断面図である。
【図2】本発明の第一の実施の形態に係る半導体素子100における電界緩和領域のシートキャリア密度とキャリアの移動度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る半導体素子100の製造方法を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る半導体素子100の製造方法を示す模式的な断面図である。
【図5】転位低減層を形成する工程を示す模式的な断面図である。
【図6】転位低減層における貫通転位の屈曲状態を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の第二の実施の形態に係る半導体素子200の模式的な断面図である。
【図8】本発明の第三の実施の形態に係る半導体素子300の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体素子の実施の形態を詳細に説明する。なお
、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の第一の実施の形態に係る半導体素子100の模式的な断面図である。
図1に示すように、半導体素子100は、基板10上にバッファ層15を介してIII族窒
化物系化合物半導体からなる半導体動作層20を備えている。更に、半導体素子100は
、半導体動作層20上に所定の間隔をおいてソース電極31、ドレイン電極33を備え、
ソース電極31とドレイン電極33の間に、絶縁膜40を介してゲート電極35を備える
ことによって構成されている。すなわち、半導体素子100は、いわゆるMOS型のFE
Tである。
【0019】
半導体動作層20は、p型(例えば、アクセプタ濃度は1×1015cm−3以上、5
×1017cm−3以下)またはアンドープの窒化ガリウム(GaN)であり、ソース電
極31およびドレイン電極33が形成される部分の表面にn型(例えば、ドナー濃度は
1×1019cm−3以上、1×1021cm−3以下)のGaNからなるコンタクト領
域21s、21dをそれぞれ備えている。また、ドレイン電極33側のコンタクト領域2
1dに隣接してn型のGaNからなる電界緩和領域23を備えている。
【0020】
電界緩和領域23は、半導体層20において、ゲート電極35およびドレイン電極33
が形成される部分の間(ゲート−ドレイン間)に形成される。ここで、ソース電極31お
よびドレイン電極33は、いずれもオーミック電極である。
【0021】
電界緩和領域23とソース電極31側のコンタクト領域21sとは、所定の間隔をおい
て形成されている。この電界緩和領域23とソース電極31側のコンタクト領域21sの
間の領域は、チャネル領域20cとなる。このチャネル領域20cに対応した半導体動作
層20上には、絶縁膜40を介してゲート電極35が形成されており、ゲート電極35に
順方向のバイアス(+数V)が印加されることによってチャネル領域20cに負のキャリ
アである電子が集中して(図示しない)チャネルが形成される。これにより、ソース電極
31、ソース電極31側のコンタクト領域21s、チャネル、電界緩和領域23、ドレイ
ン電極33側のコンタクト領域21d、ドレイン電極33の順に電子の通る電流経路が形
成される。
【0022】
このとき、電界緩和領域23は、隣接するドレイン電極33側のコンタクト領域21d
よりもキャリア濃度が小さくなるように形成されている。これにより、ソース電極31−
ドレイン電極33間に高い電圧が印加されても、半導体動作層20内の電流経路において
、チャネルと電界緩和領域23との間、および電界緩和領域23とドレイン電極側のコン
タクト領域21dとの間に電界が分散され、絶縁破壊の発生を抑制することができる。
【0023】
ここで、電界緩和領域23のシートキャリア密度は、1×1012cm−2以上、5×
1013cm−2以下とすることが好ましい。シートキャリア密度が1×1012cm
よりも小さい場合、ドレイン電極33のゲート電極35側端部に電界が集中し、この部
分で絶縁破壊を起しやすくなるため好ましくない。また、シートキャリア密度が5×10
13cm−2よりも大きい場合、ゲート電極35のドレイン電極33側端部に電界が集中
し、この部分で絶縁破壊を起しやすくなるため、好ましくない。
【0024】
図2は、本発明の第一の実施の形態に係る半導体素子100における電界緩和領域のシ
ートキャリア密度とキャリアの移動度との関係を示すグラフである。図2に示すように、
多結晶半導体において、移動度は転位による散乱L3(L3−1〜3)と不純物による散
乱L1の影響を受ける。移動度は転位による散乱の影響のため、転位密度が高い場合(L
3−2)は移動度が低くなり、転位密度が低い場合(L3−3)は移動度が高くなる。
【0025】
上述したとおりシートキャリア密度には、好ましい範囲が存在するため、あるシートキ
ャリア密度L2における移動度は、L2とL1、またはL2とL3の交点で表される。図
2の場合、移動度はL2とL1の交点Xとなる。
【0026】
このとき、L3が交点Xを通るように転位密度を制御することにより、高移動度を得る
ことができる。また、交点がL2とL3の交点の場合は、転位密度を下げることによって
移動度を向上させる。すなわち、L1、L2およびL3が1つの点で交わるように転位密
度を制御することにより、転位による散乱、および不純物による散乱の影響が最も少なく
なり、高い移動度を得ることが可能となる。
ここで、転位密度とは、結晶中の単位面積当たりの刃状転位の数を、透過型電子顕微鏡
(Transmission Electron Microscope:TEM)の[10-10]方向から励起した暗視野像
によって計測したものを表している。
【0027】
【表1】

【0028】
表1は、電界緩和領域のキャリア密度を5×1017cm−3(シートキャリア密度を
5×1012cm−2)とした時の、転位密度と移動度との関係を示している。
【0029】
以上から、好ましいシートキャリア密度及び不純物散乱による制限を考慮すると、本発
明の第一の実施の形態に係る半導体素子100の電界緩和領域23の転位密度は、1×1
cm−2以上、5×10cm−2以下であることが好ましい。
転位密度が5×10cm−2よりも大きいと、移動度の上限が極端に低くなってしま
うため、好ましくない。また、転位密度が1×10cm−2よりも小さいと、電界緩和
領域23の耐圧が低下してしまうため、好ましくない。
【0030】
以上のように、本発明によれば、高い移動度と高い耐圧性を備え、かつ、大電流動作が
可能なMOSFETを得ることができる。
【0031】
次に、図3、4を用いて本発明の第一の実施形態に係る半導体素子100の製造方法に
ついて説明する。
まず、(111)面を主面とするシリコンからなる基板10上に、トリメチルガリウム
(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、アンモニア(NH)を原料ガス
として、AlN/GaNの複合層を複数積層してバッファ層15を形成する。
その後、TMGaとNHを原料ガスとしてGaNからなる半導体動作層20を形成す
る(図3(A))。
【0032】
ついで、半導体動作層20の表面に、プラズマ化学気相成長(PCVD)で500nm
のSiOを成膜し、電界緩和領域となる部分およびドレイン電極側コンタクト層となる
部分のSiOを除去して、電界緩和領域形成用の第1のイオン注入マスクMを形成す
る(図3(B))。SiOの原料としては、シラン(SiH)と亜酸化窒素(一酸化
二窒素:NO)を使用する。
【0033】
次に、半導体動作層20の第1のイオン注入マスクMを設けた部分以外にイオン注入
法によって、SiイオンIをドーピングして第1の注入領域23’を形成する(図3(
C))。このとき、イオン注入深さが50nm、イオン注入領域のシートキャリア密度が
1×1012cm−2程度になるように、注入エネルギーやドーズ量等の条件を調整する

【0034】
その後、第1のイオン注入マスクMを除去し、チャネルおよび電界緩和領域となる部
分にコンタクト領域形成用の第2のイオン注入マスクMを形成する。また、第2のイオ
ン注入マスクMは、第1のイオン注入マスクMと同様にSiOからなり、その厚さ
は1μm程度に形成する。
半導体動作層20の第2のイオン注入マスクMを設けた部分以外にイオン注入法によ
って、SiイオンIをドーピングして第2の注入領域21s’、21d’を形成する(
図3(D))。このとき、これらの第2の注入領域21s’、21d’が後述するアニー
ルされてできるコンタクト領域21s、21dのシートキャリア密度が、1×1016
−2程度になるように設定する。
【0035】
次に、第2のイオン注入マスクM2を除去した後、半導体動作層20の表面全体にSi
からなる(図示しない)アニール用マスクを形成し、1200℃で30秒間、アニー
ルすることによってイオン注入した不純物(Siイオン)を活性化させて、電界緩和領域
23、ソース電極側コンタクト領域21s、およびドレイン電極側コンタクト領域21d
を形成する(図4(A))。
【0036】
次に、アニール用マスクを除去した後、チャネルおよび電界緩和領域上にSiOから
なる絶縁膜40を形成し、ソース電極側コンタクト領域21s上、およびドレイン電極側
コンタクト領域21d上に、フォトリソグラフィによってTi、Alを順次積層させて、
ソース電極31およびドレイン電極33を形成する(図4(A))。
【0037】
その後、リフトオフ法等によって絶縁膜40上にゲート電極35を形成する(図4(B
))。
以上の工程により、本発明の第一の実施の形態にかかる半導体素子100が完成する。
【0038】
次に、半導体動作層20の転位密度の制御方法の一例について説明する。半導体動作層
20の転位密度は、半導体動作層20の一部、または半導体動作層20よりも基板側に形
成される層(例えば、バッファ層)中に転位密度制御層を導入することにより制御するこ
とができる。
【0039】
図5は、バッファ層15上に転位密度制御層を形成する工程を示す模式的な断面図であ
る。転位密度制御層50は、低温成長層51、粗面化層53、平坦化層55を備えている
。まず、低温成長層51として、基板温度500℃、成長圧力500Torrで、40n
mのGaNからなる層を成長させる。低温成長層51は、その上に形成される粗面化層5
3を成長する際の成長核となる層である。
【0040】
ついで、粗面化層53として、基板温度900℃、成長圧力500Torrで、平均厚
さが200nm程度のGaNからなる層を成長させる。粗面化層53は、GaNの成長条
件を調整し、表面に凹凸が形成されるように結晶成長する。
【0041】
その後、粗面化層53上に、凹凸を平坦化させるための平坦化層55として、基板温度
1050℃、成長圧力100Torrで、平均厚さが1000nm程度のGaNからなる
層を形成する。
【0042】
図6に示すように、(図示しない)基板とバッファ層の界面において発生した転位D
〜Dは、低温成長層51および粗面化層53を積層方向の上方に向かって延びるが、凹
凸形状の境界面の傾斜面(基板の主面に対して傾斜している面)において屈曲(D、D
)し、平坦化層55をさらに延びて、転位密度制御層50の直上に位置する層(図示し
ない、バッファ層または半導体動作層)へと延びる。
【0043】
ここで、転位D、Dを、互いに逆向きのバーガースベクトルを有する転位とする。
これらの転位D、Dも、低温成長層51および粗面化層53を上方に向かって延び、
粗面化層53の凹凸形状の傾斜面において屈曲し、平坦化層55内の点Pにおいて合流す
る。これらの転位D、Dは、互いに逆向きのバーガースベクトルを有する場合、点P
において消滅する。または、点Pで消滅しなくとも、そこでバーガースベクトルの大きさ
は小さくなるので、さらにその上方に延びる途中で消滅しやすくなる。
【0044】
すなわち、この転位密度制御層50は、凹凸形状の境界面によって転位を屈曲させ、転
位同士が合流する確率を高めることによって、互いに逆向きのバーガースベクトルを有す
る転位同士の打ち消しあいによる消滅、またはその大きさの低減の確率を高めることがで
きる。
【0045】
そのため、粗面化層53の成長条件、例えば成長圧力を調整して、半導体層の成長面に
おける凹凸形状の傾斜面の割合を変化させることにより、平坦化層55において転位を低
減させる割合を変えることができる。その結果、その上に形成されるバッファ層15およ
び/または半導体動作層20に到達する転位の密度を制御することが可能となる。
【0046】
なお、上記の工程は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、イオン注入法による不純物の導入は、電界緩和領域23に対応する部分を形成
した後に、コンタクト領域21s、21dに対応する部分を形成する場合について説明し
たが、この順序が逆になっていてもよい。また、ソース電極31、およびドレイン電極3
3としてTi/Alの積層構造を例に挙げたが、コンタクト領域21s、21dとのオー
ミック接触が得られるような材料であれば、これに限らない。
【0047】
また、転位密度を制御する方法としては、上記のような転位制御層を導入する以外の方
法を採用してもよい。例えば、基板の成長面に複数の開口を有するマスクを形成し、開口
で露出した基板から選択横方向成長(ELOG:Epitaxial Lateral
Overgrowth)することによって、凹凸を有する層を形成し、転位密度を制御し
てもよい。
【0048】
更に、上記の説明では、転位低減層とバッファ層を別の層として説明したが、転位低減
層の形成箇所には特に限定はなく、バッファ層中に転位密度制御層を形成してもよい。例
えば、基板上に低温成長層51、粗面化層53、平坦化層55を順次成長して転位密度制
御層を形成し、その上にバッファ層を形成してもよい。
【0049】
次に、本発明の第二の実施の形態に係る半導体素子200について説明する。図7は、
本発明の第二の実施の形態に係る半導体素子200の模式的な断面図である。半導体素子
200は、半導体素子100と同様に、基板10上にバッファ層15、半導体動作層20
を備えている。更に、半導体素子200では、半導体動作層20上に、半導体動作層より
もアクセプタ濃度の低い、またはアンドープのGaNからなるドリフト層25を備え、ド
リフト層25上には、AlGaNからなる電子供給層27を備えている。
【0050】
このとき、ドリフト層25は、第二の実施の形態に係る半導体素子200における電界
緩和領域として作用するため、その転位密度は、1×10cm−2以上、5×10
−2以下となるように形成される。
【0051】
また、半導体素子200は、電子供給層27の表面からドリフト層25の表面に至る凹
部からなるリセス部25cを有し、リセス部25c内には、p型GaNからなる再成長層
29を備えている。
【0052】
半導体素子200は、更に、再成長層29上、および電子供給層27上に、SiO
らなる絶縁膜40を備え、リセス部25cに対応する絶縁膜40上には、ゲート電極35
を備えている。また、半導体素子200は、電子供給層27上に、リセス部25cを挟ん
でソース電極31、ドレイン電極33を備えている。
【0053】
以上の構成により、半導体素子200は、高い耐圧性に加えて、下記の効果を奏する。
すなわち、電子供給層27は、ドリフト層25とヘテロ接合を形成し、かつ、ドリフト
層25よりもバンドギャップエネルギーが大きいため、自発分極およびピエゾ分極により
ヘテロ接合界面のドリフト層25側に2次元電子ガス(2DEG:2 Dimentio
nal Electron Gas)25gが発生している。この2DEGは、キャリア
(電子)濃度、および電子移動度が高いため、素子のオン抵抗を低減することができる。
【0054】
更に、この構成によれば、リセス部25cを形成することによって、ゲート部分でヘテ
ロ接合が形成されず、2DEGが発生しない。このため、ゲート電極に順バイアス(正の
電圧)が印加されていない場合、ソース電極−ドレイン電極間を電気的に接続するチャネ
ルが形成されないため、半導体素子200はノーマリオフ動作を得ることができる。
【0055】
また、半導体素子200では、リセス部25cを形成した後、再成長層29を形成して
いる。このため、リセス部25cの形成時に半導体表面に与えられたダメージによって、
半導体と絶縁層の界面に準位が形成されることを抑制できる。このため、ゲート部分での
移動度の低下を抑制することができる。
【0056】
次に、本発明の第三の実施の形態に係る半導体素子300について説明する。図8は、
本発明の第三の実施の形態に係る半導体素子300の模式的な断面図である。半導体素子
300は、半導体素子100と同様に、基板10上にバッファ層15、半導体動作層20
が形成されている。
【0057】
また、半導体素子300は、半導体動作層20の表面にコンタクト領域21aを備え、
半導体動作層20上には、アノード電極(ショットキー電極)61、およびコンタクト領
域21aと接するようにカソード電極(オーミック電極)63を備えている。アノード電
極61は、半導体動作層20上で、コンタクト領域21aに接触しないように離隔して形
成されている。すなわち、半導体素子300は、いわゆるショットキーバリアダイオード
(SBD)である。
【0058】
ここで、半導体動作層20は、半導体素子100と同様に、その転位密度が1×10
cm−2以上、5×10cm−2以下となるように形成されている。
【0059】
以上の構成により、高い移動度と高い耐圧性を備え、かつ大電流動作が可能なSBDを
得ることができる。
【0060】
本発明は、上記の各実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で
様々な変更が可能である。例えば、上記の各実施の形態では、MOSFET、SBDにつ
いて説明したが、MISFET(Metal Insulator Semicondu
ctor FET)、MESFET(MEtal Semiconductor FET
)についても適用できる。
【0061】
また、半導体素子を形成する材料についても、GaN、AlNに限らず、AlInGa
Nで表記される窒化物系化合物半導体であれば、適宜使用することが可能である。更に、
基板についても、シリコン、SiC、ZnO、サファイア等、公知の材料からなる基板を
使用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
100、200、300 半導体素子
10 基板
15 バッファ層
20 半導体動作層
20c チャネル領域
21s、21d コンタクト領域
23 電界緩和領域
25 ドリフト層
25c リセス部
25g 2次元電子ガス
27 電子供給層
29 再成長層
31 ソース電極
33 ドレイン電極
35 ゲート電極
40 絶縁膜
50 転位密度制御層
51 低温成長層
53 粗面化層
55 平坦化層
61 アノード電極
63 カソード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物系化合物半導体からなり、シートキャリア密度が1×1012cm−2
上5×1013cm−2以下である半導体動作層と、
前記半導体動作層上に形成された第1の電極及び第2の電極とを備え、
前記半導体動作層における転位密度が1×10cm−2以上、5×10cm−2
下であることを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
前記III族窒化物系化合物半導体が、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0
≦y≦1、0≦x+y≦1)からなることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記第1の電極がショットキー電極であり、前記第2の電極がオーミック電極であるこ
とを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記第1の電極がソース電極であり、前記第2の電極がドレイン電極であり、
前記半導体動作層上であって、前記ソース電極と前記ドレイン電極の間に形成された絶
縁膜と、
前記絶縁膜上に形成されたゲート電極とを更に備えることを特徴とする請求項1または
請求項2に記載の半導体素子。
【請求項5】
基板上にIII族窒化物系化合物半導体からなり、シートキャリア密度が1×1012
−2以上5×1013cm−2以下である半導体動作層を形成する工程と、
前記半導体動作層上に第1の電極及び第2の電極を形成する工程とを備え、
前記半導体動作層を形成する工程は、該半導体動作層の転位密度を1×10cm−2
以上、5×10cm−2以下にする転位密度制御層を形成する工程を有することを特徴
とする半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−187623(P2011−187623A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50416(P2010−50416)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】