説明

半導体試験装置

【課題】ピンの有効利用形態をとる場合でも、クロストークの少ない良好な試験が可能な、汎用性の高い半導体試験装置を実現する。
【解決手段】被測定デバイス(DUT)への信号印加及び前記DUTから発生される信号の計測を実行するピンエレクトロニクスカードと、前記DUTのピン端子に接触するデバイスボードまたはプローブカードと、前記ピンエレクトロニクスカードの測定ピンを前記DUTの所望のピン端子に対応させるための配線変換部と、この配線変換部と前記デバイスボードまたはプローブカードとをコネクタ接続する勘合部とを具備する半導体試験装置において、
前記ピンエレクトロニクスカードの測定ピンから前記DUTのピン端子との間に、帯域制限回路を挿入した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定デバイス(DUT)への信号印加及び前記DUTから発生される信号の計測を実行するピンエレクトロニクスカードと、前記DUTのピン端子に接触するデバイスボードまたはプローブカードと、前記ピンエレクトロニクスカードの測定ピンを前記DUTの所望のピン端子に対応させるための配線変換部と、この配線変換部と前記デバイスボードまたはプローブカードとをコネクタ接続する勘合部とを具備し、前記勘合部のピン割付を、2本の隣り合う信号ピンの両側を一対のグラウンドピンで挟む形態とした半導体試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体試験装置の基本的な構成については特許文献1に詳細な技術開示がある。
図5は、従来の半導体試験装置の構成を示す機能ブロック図である。テストヘッド10には、被測定デバイス(DUT)61,…6nへの信号印加及びこれらDUTから発生される信号の計測を行い、そのデバイスの動作ならびに信号の状態を計測して良否を判定する機能を備えるピンエレクトロニクスカード20が搭載されている。ピンエレクトロニクスカード20も含め、半導体試験装置に必要な機能回路は、テストヘッド10に実装される。
【0003】
更に、前記DUT61,…6nのピン端子に接触するデバイスボードまたはプローブカード50と、前記ピンエレクトロニクスカード20の測定ピンを前記DUT61,…6nの所望のピン端子に対応させるための配線変換部30と、この配線変換部と前記デバイスボードまたはプローブカード50とをコネクタ接続する勘合部40とを具備している。
【0004】
近年では、デバイスの高速化に伴い、半導体試験装置も高速動作が要求されている。一方で、ウェハの大型化に伴い、多くのDUTを同時に測定可能な試験装置も求められている。この結果、半導体試験装置の信号ピン数も多ピン化する傾向にある。
【0005】
しかしながら、コネクタ接続される勘合部40の接続ピン数は物理的に限界があり、要求に応じて任意に増加させることが困難な場合がある。近年では、以下の様な利用手法にて勘合部の接続ピンを有効利用する場合がある。
【0006】
図6は、信号ピンの利用形態例を示す平面図であり、勘合部40でのピン割付けを、図6(A)の一般例と図6(B)の有効利用例の比較を行ったものである。図6(A)の一般例のように、従来は信号ピン''S''とグランドピン''G''を交互に配置させる形態に対して、有効利用例では信号ピン''S''の隣り合う2経路を一組にし、この組を一対のグランドピン''G''で挟む形態となっている。この利用形態では、同一接続ピン数で約1.33倍の信号ピンを有効利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−304482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図6(B)に示す有効利用例の形態にした場合には、クロストークが一般例に比べて大きくなる。図7は、信号ピン利用形態に対応した信号ピン間のクロストークの差を説明する特性図である。
【0009】
信号ピンS1とS2を持ち、S1は信号を動かす側(加害者)S2はS1の影響を受ける側(被害者)とする。S2は簡易説明のため終端抵抗を介してグランドレベルに落としておく。
【0010】
図7(イ)は一般例の場合でのクロストーク、図7(ロ)は有効利用例でのクロストークを示す。(イ)及び(ロ)において、(A)はピンに利用形態を示す平面図、(B)は
S1端(DUT端)でのステップ応答波形、(C)はS2端(DUT端)でのクロストーク波形である。
【0011】
図7(イ)の一般例では、S1とS2間のグランドのシールド効果、及びS1とS2間の距離が大きいことにより、クロストークは小さい。しかしながら、図7(ロ)の有効利用例では、S1とS2間の距離が小さく、両者間にグランドが無いことから、図7(イ)に比べクロストーク量が大きくなる。クロストークが大きいと信号ピンの立ち上がり/立下りエッジ波形に影響を及ぼし、良質な試験の妨げとなる。
【0012】
このような理由から、通常の半導体試験装置においては、ピン割付けとして一般例を採用する場合が多い。特に高速な試験を行う場合には、前記クロストークが信号のタイミング精度に悪影響を及ぼすため、一般例のピン割付けを採用するが、ウェハ試験等の様に、比較的低速で同時測定DUTの個数を多く取るアプリケーションでは、有効利用例のピン割付けを採用することもある。
【0013】
本発明の目的は、ピンの有効利用形態をとる場合でも、クロストークの少ない良好な試験が可能な、汎用性の高い半導体試験装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)被測定デバイス(DUT)への信号印加及び前記DUTから発生される信号の計測を実行するピンエレクトロニクスカードと、前記DUTのピン端子に接触するデバイスボードまたはプローブカードと、前記ピンエレクトロニクスカードの測定ピンを前記DUTの所望のピン端子に対応させるための配線変換部と、この配線変換部と前記デバイスボードまたはプローブカードとをコネクタ接続する勘合部とを具備する半導体試験装置において、
前記ピンエレクトロニクスカードの測定ピンから前記DUTのピン端子との間に、帯域制限回路を挿入したことを特徴とする半導体試験装置。
【0015】
(2)前記帯域制限回路を、前記配線変換部と前記勘合部との間に設けたことを特徴とする(1)に記載の半導体試験装置。
【0016】
(3)前記帯域制限回路を、前記勘合部と前記デバイスボードまたはプローブカードとの間に設けたことを特徴とする(1)または(2)に記載の半導体試験装置。
【0017】
(4)前記帯域制限回路を、着脱可能としたことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の半導体試験装置。
【0018】
(5)前記帯域制限回路は、ローパスフィルタで構成されることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の半導体試験装置。
【0019】
(6)前記帯域制限回路は、フィルタ特性を無効とするジャンパー手段を備えることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の半導体試験装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)ピンエレクトロニクスカードの測定ピンからDUTのピン端子との間に、帯域制限回路を挿入した結果、ピンエレクトロニクスカード自身のスルーレートが高速な場合においても、帯域制限回路のカットオフ周波数を適切に設定することで、多ピン要求により信号ピンを有効利用せざるを得ない場合と、高速化要求により勘合部に一般例のピン割付けを採用する場合とで、同一のピンエレクトロニクスカードを使用することが可能であり、多様なテストに対応でき、装置の汎用性が向上する。
(2)半導体試験装置の開発工数および開発費用の低減にも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用した半導体試験装置の一実施例を示す機能ブロック図である。
【図2】信号ピン有効利用形態において本発明の帯域制限回路を適用した場合の回路構成図である。
【図3】本発明の帯域制限回路によるクロストーク軽減効果を説明する特性図である。
【図4】本発明の帯域制限回路によるステップ応答の解析例を示す特性図である。
【図5】従来の半導体試験装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図6】信号ピンの利用形態例を示す平面図である。
【図7】信号ピン利用形態に対応した信号ピン間のクロストークの差を説明する特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明を適用した半導体試験装置の一実施例を示した構成図である。図5で説明した従来構成と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0023】
図5で説明した従来構成に追加される本発明の特徴部は、配線変換部30と勘合部40とに間に帯域制限回路100を挿入した構成にある。帯域制限回路100としては、例えば誘導素子Lと容量素子Cと抵抗素子Rを用いたLPF(低域通過フィルタ)が挙げられる。
【0024】
この帯域制限回路100を適切なカットオフ周波数に設計することにより、図7で説明したS1(加害者)の立ち上がり/立下りのスルーレートを落とすことができる。一般的に、加害者S1の通過信号スルーレートを低減すると、被害者(ここではS2)へのクロストークが低減することは良く知られており、図1の構成を採用することで、クロストークを低減することが可能となる。
【0025】
クロストークと帯域制限回路のカットオフ周波数はトレードオフの関係があるため、テストを行うDUTの種類やテストプログラムにより、適切なカットオフ周波数を選択することで、好適な試験を行うことができる。
【0026】
例えば、勘合部40でのピン利用形態として図6(A)の一般例を採用する場合は、クロストークが小さいので、帯域制限回路100のカットオフ周波数を高く設定することが可能となり、より高速な試験を実施することができる。
【0027】
図6(B)の有効利用例を採用する場合は、高速な信号を通過させるとクロストークが大きくなってしまうので、帯域制限回路100のカットオフ周波数を適切に設定し、クロストークが試験に及ぼす悪影響を排除しながら、試験のスピードを最適化することが可能となる。
【0028】
図2は、信号ピン有効利用形態において本発明の帯域制限回路を適用した場合の回路構成図である。帯域制限回路100のカットオフ周波数は、DUT及びテストプログラムの種類により適切な値が異なる為、容易に変更できる構成が望ましい。
【0029】
このために、帯域制限回路100に第2の勘合部を設け、勘合部40の配線変換部30側、または、デバイスポートまたはプローブカード50側に接続して帯域制限回路100を着脱交換可能な構成とすることができる。
【0030】
この様な構成を用いると、例えば稼動している半導体試験装置の試験対象デバイスやテストプログラムが変更され、帯域制限回路100のカットオフ周波数を変更する必要が生じた場合でも、配線変換部30を交換することなく、帯域制限回路100のみを交換するだけ対応可能となり、メンテナンスコストの低減や半導体試験装置稼働率の向上が期待できる。
【0031】
図3は、本発明の帯域制限回路によるクロストーク軽減効果を説明する特性図である。図3(A)は、S1端(DUT端)でのステップ応答波形であり、実線F1が帯域制限回路無しの応答、破線F2が帯域制限回路追加の応答特性である。図3(B)は、S2端(DUT端)でのクロストーク波形であり、実線P1が帯域制限回路無しの応答、破線P2が帯域制限回路追加の応答特性である。
【0032】
図4は、本発明の帯域制限回路によるステップ応答の解析例を示す特性図であり、FR-4に代表される一般的な誘電体基板を用いた50ohm線路100mmに1GHz(10-90%で350ps)の1.6V振幅の波形を入力した時の観測点における応答を帯域制限回路有無で解析を行ったものである。
【0033】
立ち上がり時間と周波数の関係は、
Tr(10-90%) = 0.35 / Fmax
Tr(10-90%):10%-90%間の立ち上がり時間(s)
Fmax :波形に含まれる最も高い周波数成分
と良く知られている式を用いて換算を行っている。
【0034】
本解析では、一例として線路の中間点に帯域制限回路100として400MHzにて設計した低域通過フィルタを追加した例を示す。
帯域制限回路がない場合は、10-90%で370psであるため換算後の周波数は945MHzである。
帯域制限回路を追加した場合は、10-90%で843psであるため換算後の周波数415MHzとなり、帯域制限回路を追加することによって本発明の目的が実現可能であることを示している。
【0035】
本発明の実施形態として、帯域制限回路100にフィルタ特性を無効にできる適当なジャンパー手段を設けることにより、帯域制限回路を装着した状態のままで、帯域制限回路を具備しない従来構成の半導体試験装置に戻すことが可能である。
【0036】
図1の実施例では、帯域制限回路100の配置を配線変換部30と勘合部40の間としているが、勘合部40とデバイスポートまたはプローブカード50間に挿入してもよい。理論的には、帯域制限回路100の配置は、ピンエレクトロニクスカード20の測定ピン端子からDUTのピン端子間のどの部位に配置しても、同様の効果が期待することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 テストヘッド
20 ピンエレクトロニクスカード
30 配線変換部
40 勘合部
50 デバイスボードまたはプローブカード
61,…6n DUT
100 帯域制限回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定デバイス(DUT)への信号印加及び前記DUTから発生される信号の計測を実行するピンエレクトロニクスカードと、前記DUTのピン端子に接触するデバイスボードまたはプローブカードと、前記ピンエレクトロニクスカードの測定ピンを前記DUTの所望のピン端子に対応させるための配線変換部と、この配線変換部と前記デバイスボードまたはプローブカードとをコネクタ接続する勘合部とを具備する半導体試験装置において、
前記ピンエレクトロニクスカードの測定ピンから前記DUTのピン端子との間に、帯域制限回路を挿入したことを特徴とする半導体試験装置。
【請求項2】
前記帯域制限回路を、前記配線変換部と前記勘合部との間に設けたことを特徴とする請求項1に記載の半導体試験装置。
【請求項3】
前記帯域制限回路を、前記勘合部と前記デバイスボードまたはプローブカードとの間に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体試験装置。
【請求項4】
前記帯域制限回路を、着脱可能としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体試験装置。
【請求項5】
前記帯域制限回路は、ローパスフィルタで構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体試験装置。
【請求項6】
前記帯域制限回路は、フィルタ特性を無効とするジャンパー手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の半導体試験装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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