説明

参照電極、その製造方法、および電気化学セル

【課題】 取り扱いや製造が容易な参照電極、その製造方法、およびこれを用いた電気化学セルを提供する。
【解決手段】参照電極10は、端子から正極14又は負極16と平行に延びる芯材11と、芯材11の先端から所定長さの領域までを覆うリチウム膜12と、芯材11のうちリチウム膜12によって覆われていない領域の一部を覆う絶縁体13とを備えている。芯材11の少なくとも表面部を構成する材料は、リチウム又はリチウム合金と実質的に反応しない導体材料である。芯材11の断面における最大幅は5μm以上で50μm以下の範囲にあり、リチウム膜の厚みは、0.1μm以上で20μm以下の範囲にあることが好ましい。リチウム又はリチウム合金よりも剛性の高い芯材11を用いることにより、加工が容易で形状が安定するなど、参照電極10の取り扱いや製造が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用極(正極)と対極(負極)を有し、電気化学的反応によりこれらの電極間で電池変化を起こすもの、例えばリチウム電池における電気的諸特性を測定するための参照電極、その製造方法、および当該参照電極を備えた電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の充電は、二次電池に電圧を印加し、正負極間の電位差を所定大きさに回復する過程である。
その際、リチウム二次電池においては、他の二次電池と異なり、過度な充電を行うと負極にデンドライド状の金属リチウム(いわゆるリチウムデンドライド)が析出することが知られている。
負極にリチウムデンドライドが析出すると、充電効率が低下することによるサイクル寿命の低下や、セパレータを突き破ったリチウムデンドライトを介する正極−負極間の短絡による信頼性の低下を引き起こすおそれがあった。
そのため、従来は、上記の問題を回避すべく、充電による回復起電圧の上限は、4.0〜4.3V程度とされている。
【0003】
ところで、負極におけるリチウムデンドライドの析出は、負極のリチウムイオンに対する電位、即ち対リチウムイオン電位が0V以下となったときに起きる。生産工場から出荷された当初のリチウム二次電池の負極では、その対リチウムイオン電位が約1Vとなるように設定されているが、この対リチウムイオン電位は、電池の充放電を繰り返すことで次第に低下することが知られている。
よって、ある程度使用されたリチウム二次電池では、その負極の対リチウムイオン電位は、新品のときのそれより低下しており、充電中には負極へのリチウムイオンの挿入によって更に低下して0V以下となって金属リチウムの析出が生じる。したがって、リチウムデンドライドの析出を回避するには、充電中における負極の対リチウムイオン電位を測定し、適正電位に保持されるよう常に管理することが好ましい。
【0004】
そこで、従来より、二次電池における対リチウムイオン電位を管理するための種々の提案がなされている。
たとえば、特許文献1には、作用極(正極)、対極(負極)に加えて、リチウム又はリチウム合金からなる参照電極を設けた3極セルを構成し、負極−参照電極間の電位差が負極に金属リチウムの析出が生じる電位差まで低下する前に、充電を終了することが記載されている(同文献の段落[0006]参照)。
特許文献2には、正極又は負極の極板に端子を取り付けた3極セルを構成し、各端子により極板の電位を直接測定して、充放電を制御することが記載されている(同文献の段落[0012]参照)。
特許文献3には、正極、負極の近傍に正極参照電極,負極参照電極をそれぞれ配置した4極セル構造を採用し、正極参照電極−正極、負極参照電極−正極、正極参照電極−負極、および、負極参照電極−負極間の各電位差に基づいて、充放電を制御することが記載されている(同文献の段落[0014]参照)。
特許文献4には、特許文献3と同様の4極セル構造を採用することにより、充電時や放電時に作用極(正極)と対極(負極)との間に生じる電位勾配などの情報を得ることが記載されている(同文献の段落[0013]〜[0014]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−67280号公報
【特許文献2】特開2002−50407号公報
【特許文献3】特開2005−019116号公報
【特許文献4】特開2006−179329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記各文献の技術では、以下のような不具合があった。
特許文献1、2の3極セルを設けた3極式リチウム二次電池では、正極単身の電位を見るべく正極−参照電極間の電位差を測定しても、電池内部の電位勾配により負極の影響を受けるため、正極単身の電位を正確に把握することはできない。同様に、負極単身の電位を見るべく負極−参照電極間の電位差を測定しても、電池内部の電位勾配により正極の影響を受けるため、負極単身の電位を正確に把握することはできない。その結果、厳密な充電制御を行うことができず、負極にリチウムデンドライドが析出するおそれがある。
加えて、3極式リチウム二次電池では、1時間率から10時間率(0.1C率〜1C率)の低率充放電における電極電位の情報が得られるのみであり、作用極−対極間に生じる電位勾配の状態や電解液の抵抗を正確に把握することができない。
よって、高い充電効率や高い信頼性を得ることは困難であった。
【0007】
一方、特許文献3,4の4極セルを設けた4極式二次電池では、作用極単身の電位、対極単身の電位をより正確に把握することができ、上述のような不具合をある程度解消することが可能である。
【0008】
しかしながら、上記従来の3極セル、4極セルのいずれを採用する場合においても、セル中の参照電極の取り扱いや作成に多大の手間を要していた。特に、複数の参照電極を設けるセル構造では、製造コストがかさんで、実用化が困難である。
【0009】
本発明の目的は、参照電極の構造を改善することにより、取り扱いや製造が容易な参照電極、その製造方法、および、これを用いた電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の参照電極は、電気化学セルにおける作用極と対極との間に配置される参照電極である。参照電極は、芯材と、芯材の少なくとも一部を覆うリチウム又はリチウム合金からなるリチウム膜とを有しており、芯材の少なくとも表面部を構成する材料は、リチウム又はリチウム合金と実質的に反応しない導体材料である。
ここで、「実質的に反応性しない」とは、まったく反応しない場合だけでなく、わずかに反応しても、参照電極の使用期間中にリチウム膜が正常な機能を維持できる場合をも含んでいる。たとえば、反応の進行を妨げるバリア物質が形成される場合も含まれる。
芯材は、その全体が同一材料で構成されている必要はない。たとえば、芯材の中心部がセラミック等の絶縁体でその周囲(表面部)に金属をめっきした構造であってもよい。
導体材料は、金属に限られず、ガラス、カーボンなどの無機物であってもよい。
【0011】
本発明により、形状安定性が良好な参照電極を利用して、正確に作用極の電位、および対極の電位をより精確に把握でき、同時に作用極の抵抗、対極の抵抗、セパレータの抵抗、電解液抵抗を把握できる。
しかも、参照電極がリチウム膜の下地となる芯材を備えているので、リチウム又はリチウム合金(以下、リチウム等ともいう)のみからなる参照電極に比べて、取り扱いや製造が容易となる。
リチウム(リチウムを主成分とするリチウム合金を含む)は、他の金属元素と比べ、非常に柔らかく、粘着性を有するため、精密な加工が困難であり、参照電極の作製において形状の安定性に乏しい。それに対し、芯材の材種を適宜選択すれば、芯材を容易に加工でき、形状の安定性も問題ない。そして、その後、芯材の表面にリチウム又はリチウム合金を、蒸着、電気めっきなどの慣用手段を用いて被覆することで、参照電極を容易に製造することが可能となる。
また、リチウム又はリチウム合金単独では、柔らかいことから変形を生じやすいために、製造後の取り扱いも難しいが、芯材の材種をリチウム等よりも剛性が高いものに選択することで、製造後の取り扱いも容易となる。
リチウム膜が、芯材の外周を閉環状に覆っていることにより、繋がったリチウム膜の弾性が働くようになり、リチウム膜が剥離しにくくなる。
【0012】
また、本発明者達の実験によると、芯材の断面における幅寸法の最大値は、5μm以上で50μm以下の範囲にあることが好ましいことがわかった。その理由について、以下に説明する。
「芯材の断面における最大幅」とは、例えば、円形の場合は直径の寸法であり、長方形、正方形、多角形の場合は、対角線の寸法である。
芯材の断面における最大幅が小さすぎると、芯材の機械的強度が不十分であるために、端子への接続の際に芯材が断線されるおそれがある。また、一端部で保持した場合にも、芯材の表面に被覆されたリチウム膜の重量のために、芯材が断線することもある。さらに、芯材の断面における最大幅が小さいと、導電性が低下し、後に説明する電気めっき法や真空蒸着法で、均一に金属リチウムを形成することが困難である。
一方、最大幅が大きすぎる場合は、リチウム膜が剥離しやすくなり、安定した電圧や抵抗が得られにくいおそれがある。
これには、芯材の断面における輪郭を表す図形の曲率が関係している。例えば、芯材の最大幅が適正範囲にある場合には、周方向では、リチウム膜の曲率は大きくなり、歪みが生じにくい。即ち、芯材上に形成されるリチウム膜がお互いにつながって閉環状になりやすい。このため、上述のように、閉環状のリチウム膜の弾性が効果的に働いて、リチウム膜が剥離しにくくなる。
ところが、芯材の断面における最大幅が大きすぎる場合、周方向における曲率が小さくなるので、芯材の周方向の形状は平板に近づき、被覆されたリチウム膜の形状も平板形状に近づく。その結果、リチウム膜に歪みが生じやすくなり、芯材からの剥離を生じて閉環状になりにくく、厚みの均一性も乏しくなりやすい。
また、参照電極の断面における最大幅が大きすぎると、測定対象である電極(作用極又は対極)の周辺の電場を乱してしまうために、その電極の電位を正確に測定することができない。
さらに、芯材の断面における最大幅が大きすぎる場合、参照電極の嵩が大きくなってしまうため、電極(作用極および対極)間にその参照電極を配置すると、電極間の距離を一定に保つことが困難になる。
加えて、電気抵抗値を測定する際、理想的には、参照電極は、両電極間のある極所的な一点における電位を測定するべきであるが、芯材の断面における最大幅が大きすぎると、同一の参照電極中で電極に対して遠い場所と近い場所が生まれ、参照電極内の位置によって観測される電位が異なる。
【0013】
以上の観点から、発明に用いる芯材の断面における最大幅には適正な範囲が存在する。本発明者達の実験によると、断面における最大幅が5〜50μm(5μm以上で50μm以下の範囲をいう。以下、同様とする。)の細い導電性を有する線状の芯材が好ましいことがわかっている。より好ましい芯材の断面における最大幅は10〜30μmである。なお、芯材の長さやアスペク比は特に限定されないが、長さは10〜1000mm程度、アスペクト比は1〜500程度が好ましい。また、単線を2〜20本撚った状態で1本の芯材を形成したものも有効である。
【0014】
ところで、非水系の電気化学セルの電解液としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ―ブチロラクトン、N,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、m−クレゾール等の、二次電池の電解液として利用可能な極性の高い溶媒に、LiやK、Na等のアルカリ金属のカチオンとClO、BF4、PF6、CF3SO3、(CF3SO2)2N、(C2F5SO2)2N、(CF3SO2)3C、(C2F5SO2)3C等のハロゲンを含む化合物のアニオンからなる塩を溶解したものが挙げられる。また、これらの塩基性溶媒からなる溶剤や電解質塩を単独、あるいは複数組み合わせて用いることもできる。また、電解液を含むポリマーゲルとしたゲル状電解質としてもよい。
芯材の少なくとも表面部は、前述した電解液に対して実質的に耐性を有していることが好ましい。「実質的に耐性を有している」とは、まったく浸食されない場合だけでなく、多少浸食されても、使用期間中に所望の機能が保持できればよいことを意味する。
リチウム又はリチウム合金と実質的に反応せず、かつ、前述した電解液に対して実質的に耐性を有している導体材料(特に金属)としては、例えば、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Tc(テクネチウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)から選ばれる金属、これからなる合金、ステンレス鋼又はステンレス合金等がある。ただし、導電性を有するガラス,カーボンなどでもよい。
ステンレス鋼又はステンレス合金としては、フェライト系ステンレス鋼(スーパーフェライトステンレス鋼を含む)オーステナイト系ステンレス鋼(スーパーオーステナイトステンレス鋼を含む)、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト−フェライト二相系ステンレス鋼、析出硬化ステンレス鋼、ステンレス合金(ハステロイ、インコネル、インコロイなどの合金)など、耐腐食性の高い周知の材料がある。
特に、リチウム膜との密着性の観点からは、Ti、Cr、Ni、Cu、Pt、Au、ステンレス鋼又はステンレス合金等が好ましく、さらに機械的強度と材料コストの観点から、ステンレス鋼又はステンレス合金がより好ましい。
【0015】
また、芯材の中心部にリチウムと合金化しやすい金属を用いる場合でも、表面部に上述のごとき、リチウムと合金化しにくい金属を被覆した芯材であれば問題なく用いることができる。例えば、鋼線等にニッケル等を被覆したものが該当する。
【0016】
芯材の外周全体に、そのままリチウム膜を形成し、参照電極として用いることも可能であるが、芯材のうちリチウム膜によって覆われていない領域は、絶縁体によって覆われていてもよい。
電気化学セル内に参照電極を設置する際に、参照電極が作用極又は対極と接触して電気的短絡を生じやすい。そこで、芯材のうちリチウム膜を形成する領域は電位の計測に必要な部分にとどめ、それ以外の領域は、リチウム膜に代えて絶縁体を被覆することで、リチウム膜と作用極又は対極との電気的短絡を容易に回避することができる。ただし、当該領域の全てが絶縁体によって覆われていなくてもよく、正極又は負極と接触を生じる可能性のある部分が絶縁体によって覆われていればよい。
加えて、芯材からの電圧ノイズを低減することもできる。ここで、絶縁体とは、導体と導体、導体と大地との間の電位差にある程度まで耐えうる機能(耐圧性)を有するものをいう。そのため、絶縁体の耐圧限界を超えた電流が流れると、絶縁体は破損、燃焼などを起こすが、参照電極には通常電流を流さないため、実際上ほとんどの絶縁体が使用可能である。
ただし、非水系の電気化学セルに用いられる電解液は、有機溶媒やイオン性液体であるため、有機溶媒等に対する耐性を有す絶縁体が好ましい、例えば、天然ゴム(NB)、エチレンプロピレン(EP)、ポリビニル(PV)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、架橋ポリエチレン(PEX)、ハイパーロン、珪素ゴム(シリコーン)、フッ素樹脂などの樹脂やジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカなどの酸化物などが挙げられる。
【0017】
上述のように、芯材の断面における最大幅は5〜50μmの範囲が好ましいが、この範囲内のいずれの値であっても芯材は比較的細い。しかし、リチウム膜の厚さが大きすぎると参照電極の断面における最大幅が大きくなり、上述のごとく、測定対象である電極(作用極又は対極)の周辺の電場を乱してしまうために、その電極の電位を正確に測定することができない。反面、リチウム膜の厚さが小さすぎると、芯材が直接電解液と導通し、芯材の電圧が混ざるため、ノイズの原因となる。
本発明者達の実験によると、リチウム膜の厚みは、0.1μm以上で20μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0018】
また、リチウム等は、非常に活性な金属であるため、空気中の水分や電解液中に微量に含まれる水分によって容易に酸化される。
そこで、リチウム膜の外表面を、防水性を有する、実質的に電子伝導性が無いイオン透過性物質膜によって被覆することにより、リチウム膜と水との接触を避け、電極と参照電極とが接触した際の短絡を防ぐことができる。
「実質的に電子伝導性が無い」とは、全く電子伝導性がない場合だけでなく、わずかな電子伝導性があっても、測定精度にほとんど影響を与えない程度であれば含まれることを意味する。
イオン透過性物質としては、リチウムイオンを透過するイオン透過性ポリマーや酸化物等があり、防水性を有していればよい。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェロセニルジメチルシラン(PFDMS)、アラミド樹脂、ガラス等が挙げられる。
【0019】
芯材の上にリチウム膜を形成する方法としては、特に限定されるわけではないが、圧着法、エアロゾルデポジション法、電解析出法、物理気相成長法等が挙げられる。以下、それぞれの形成方法について説明する。
圧着法とは、リチウム等の柔らかい特性を活かして、芯材のわずかな表面凹凸を利用し、アンカー効果で密着させる方法であって、もっとも容易且つコストパフォーマンスに優れている。ただし、この方法では、リチウム膜の厚さ精度や厚さの均一性が、それほど高くない。
【0020】
エアロゾルデポジション法とは、陽圧雰囲気中に存在するリチウム等の粉末を一気に陰圧雰囲気中に存在する芯材へ噴射し、薄膜を形成する方法である。ただし、粉末状のリチウム等の粉末は製造しにくく、また爆発しやすいため取り扱いに注意を要する。
【0021】
電解析出法とは、芯材上にリチウム膜を電気化学的に形成する方法である。電解析出法を用いれば、通電した部分のみにリチウム膜を形成することができる。ただし、電解析出法を用いた場合、電解液起因の表面皮膜が形成されるので、電位測定精度はそれほど高くない。
【0022】
物理気相成長法には、たとえば、真空蒸着(抵抗加熱蒸着,電子ビーム蒸着,レーザブレーション等),スパッタリング(2極スパッタリング,マグネトロンスパッタリング,ECRスパッタリング,イオンビームスパッタリング,反応性スパッタリング等),イオンプレーティング(直流または高周波励起イオンプレーティング,電子ビーム励起イオンプレーティング,クラスターイオンプレーティング,反応性イオンプレーティング等)などが挙げられる。
このうち、スパッタリング法を用いると、高密度のリチウム膜を形成することができる。ただし、スパッタリング法では、真空蒸着法に比べて、芯材の外周を閉環状に覆うようにリチウム膜を形成するには工夫を要する。また、スパッタリングターゲットの利用率が低く、コストパフォーマンスが悪い。
一方、真空蒸着法は、減圧チャンバー内で蒸発源からリチウム原料を加熱蒸発させ、蒸発源に対向して配置された芯材上にリチウム等を堆積させる方法である。この方法では、蒸発源と芯材の距離を適宜調整すればリチウム原料の利用率を上げることが可能であり、リチウム膜を均一な厚さに形成することも容易である。
【0023】
したがって、リチウム膜を形成する方法としては、電解析出法や真空蒸着法等が好ましい。電解析出法や真空蒸着法等を用いることにより、芯材表面へ均一厚さのリチウム膜を容易に形成することが可能である。また、適宜条件を選択すれば、リチウム膜と芯材との密着性も高くすることができ、リチウム膜表面の平滑度の向上を図ることも可能である。
さらに、電解析出法や真空蒸着法等を用いると、大面積のリチウム膜が容易且つ安価に得られるため、量産性にも優れている。
【0024】
本発明の電気化学セルは、上述のような少なくとも1つの参照電極と、参照電極を挟んで設けられた作用極および対極とを備えたものである。
電気化学セルとは、作用極(正極)と対極(負極)を有し、電気化学的反応によりこれらの電極間で電池変化を起こすものを云い、例えばリチウムイオン電池(リチウム一次電池やリチウム二次電池)、キャパシター等の主要部として機能するものが挙げられる。
上述した本発明の参照電極を電気化学セルの一部として用いることにより、実用化、量産化に適した参照電極を利用して、電気化学セル内の電極の電位、抵抗、又は、電極間の電解液およびセパレータの抵抗を正確に測定することができる。
【0025】
特に、参照電極として、作用極参照電極と対極参照電極とを設けた、いわゆる4極セル構造を構成することにより、実用化、量産化に適した参照電極を利用して、作用極−作用極参照電極間、作用極−対極参照電極間、対極−作用極参照電極間、および、対極−対極参照電極間の各電位差に基づいて、充放電を精度よく制御することができる。
このように、各参照電極を作用極,対極の近傍に配置することで、各参照電極は遠い側の電極の影響をそれぞれ受けにくくなる。しかし、参照電極を電極に近づけ過ぎると当該電極近傍の電場を乱してしまい、正確な電位を測定することが困難となる。そこで、100〜500μm程度の距離を保つことが好ましい。
一方、作用極参照電極と対極参照電極との間の距離についても、上述と同様の理由から100〜1000μm程度の距離を保つことが好ましい。
また、作用極と対極との極間距離が狭すぎると、電場が乱れる。反面、作用極と対極との極間距離が広すぎると、リチウムイオン電池(リチウム一次電池やリチウム二次電池)、キャパシター等に使われる電解液は、一般的に抵抗が高いため、内部抵抗の大きな電気化学セルとなってしまい評価や実用には不向きである。したがって、作用極と対極との極間距離は1〜2mmの範囲にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、上述のような参照電極の構造の改善により、取り扱いや製造が容易な参照電極、その製造方法、およびこれを用いた電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態に係る電気化学セルの構造を概略的に示す斜視図である。
【図2】(a)、(b)は、順に、参照電極の斜視図、および断面図である
【図3】実施の形態に係る参照電極の光学顕微鏡写真図である。
【図4】参照電極の変形例を示す断面図である。
【図5】(a)〜(d)は、変形例に係る参照電極の製造工程を示す断面図である。
【図6】実施例1のサンプルについての充放電サイクル実験により得られた充放電曲線を示す図である。
【図7】図6中の休止点B1付近における充放電曲線の拡大図である。
【図8】実施例2のサンプルについての充放電サイクル実験により得られた充放電曲線を示す図である。
【図9】実施例3のサンプルについての充放電サイクル実験により得られた充放電曲線を示す図である。
【図10】比較例1のサンプルについての充放電サイクル実験により得られた充放電曲線を示す図である。
【図11】各実施例および各比較例のサンプル構造と、60秒間の電流休止時における電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分とを表にして示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の実施の形態に係る電気化学セルAの構造を概略的に示す斜視図である。この電気化学セルAは、リチウム二次電池の主要部として用いられるものであるが、本発明の電気化学セルは、必ずしもリチウム二次電池の一部として利用されるものに限定されない。
本実施の形態の電気化学セルAは、アルミラミネートからなる電池容器19内に、作用極である正極14と、対極である負極16とが、セパレータ18aを挟んで配置されてた、いわゆる角型ラミネートセル構造を有している。
なお、図示されていないが、電池容器19内には、電解液が充填されている。
【0029】
また、電池容器19内において、正極14と負極16との間の領域における正極14の近傍には、作用極参照電極である正極参照電極10aが配置され、正極14と負極16との間の領域における負極16の近傍には、対局参照電極である負極参照電極10bが配置されている。
正極14と正極参照電極10aとは、セパレータ18bを介して、互いに平行に配置されている。同様に、負極16と負極参照電極10bとは、セパレータ18bを介して、互いに平行に配置されている。また、正極参照電極10a、負極参照電極10bと、セパレータ18aとの間にも、それぞれセパレータ18bが配置されている。
すなわち、本実施の形態に係る電気化学セルAは、正極14と負極16との間の領域に、正極参照電極10aと負極参照電極10bとを配置した、いわゆる4極セル構造を有している。
ただし、本発明の電気化学セルは上記4極セル構造を有するものに限定されるものではなく、正極と負極との間の領域に単一の参照電極を配置した3極セル構造を有するものでもよい。
【0030】
図2(a)、(b)は、順に、参照電極10(正極参照電極10aおよび負極参照電極10bをいう。以下、同じ。)の斜視図、および断面図である。図3は、本実施の形態に係る参照電極10の光学顕微鏡写真図である。
図2(a)、(b)に示すように、本実施の形態に係る参照電極10は、端子から正極14又は負極16と平行に延びる芯材11と、芯材11の先端から所定長さの領域までを覆う、リチウム(いわゆる金属リチウム)からなるリチウム膜12と、芯材11のうちリチウム膜12によって覆われていない領域の一部を覆う絶縁体13とを備えている。
リチウム膜12は、電位の計測に必要な領域に形成されていればよく、残部は絶縁体13で覆っておくのが好ましい。
絶縁体13は、正極14又は負極16と接触するおそれがある領域に形成されていればよい。また、必ずしも絶縁体13が設けられている必要はない。
図3に示すように、本実施の形態では、芯材11として径が20μmのステンレス線(ステンレス鋼又はステンレス合金)を用い、リチウム膜12の厚みは、7.5μmである。
【0031】
本実施の形態では、芯材11全体がリチウム又はリチウム合金と実質的に反応しない導体材料であるステンレス鋼又はステンレス合金(ステンレス線)によって構成されているが、芯材11の表面部だけがリチウム又はリチウム合金と実質的に反応しない導体材料によって構成されていてもよい。
また、本実施の形態では、電気化学セルAの電解液として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ―ブチロラクトン、N,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、m−クレゾール等の、二次電池の電解液として利用可能な極性の高い溶媒に、LiやK、Na等のアルカリ金属のカチオンとClO、BF4、PF6、CF3SO3、(CF3SO2)2N、(C2F5SO2)2N、(CF3SO2)3C、(C2F5SO2)3C等のハロゲンを含む化合物のアニオンからなる塩を溶解したものから選ばれる電解液を用いている。
本実施の形態では、芯材11の少なくとも表面部には、前述した電解液に対して実質的に耐性を有している材料を用いている。
リチウム又はリチウム合金と実質的に反応せず、かつ、前述した電解液に対して実質的に耐性を有している導体材料(特に金属)としては、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Tc(テクネチウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)から選ばれる金属、これからなる合金、ステンレス鋼又はステンレス合金等がある。
本実施の形態では、リチウム膜12との密着性と、材料コストの観点から、芯材11を構成する材料としてステンレス鋼又はステンレス合金を用いている。
ただし、芯材11の少なくとも表面部がリチウム又はリチウム合金と実質的に反応しない導体材料であればよいので、芯材11として鋼線にNi等をめっきしたものを用いてもよい。
【0032】
正極14は、平面形状が長方形である平板によって構成されており、その平面寸法は、たとえば1.4cm×2.0cmである。正極14は、たとえば厚み約18μmのアルミニウム箔を集電体とし、この片面(負極16に対向する面)に、活物質がリン酸鉄リチウム(LiFePO4)である厚み80μmの正極層を塗布により形成したものである。正極層の組成は、たとえば、LiFePO4:85wt%、KB:5wt%、PVdF:10wt%である。
負極16の形状は、正極14とほぼ同じである。負極16は、厚み20μmの銅箔を集電体とし、この片面(正極14に対向する面)に、活物質がSiOである厚み30μmの負極層を塗布により形成したものである。負極層の組成は、たとえば、SiO:80wt%、KB:5wt%、PI:15wt%である。
ただし、正極14および負極16の活物質、形状などの構造は、本実施の形態の構造に限定されるものではない。
【0033】
本実施の形態では、正極14と正極参照電極10aとの距離は、たとえば400μmである。また、正極14の中心部に正極参照電極10aのリチウム膜12が対向するように、かつ、正極14と正極参照電極10aとが互いに平行になるように配置されている。
同様に、負極16と負極参照電極10bとの距離は、たとえば400μmである。また、負極16の中心部に負極参照電極10bのリチウム膜12が対向するように、かつ、負極16と負極参照電極10bとが互いに平行になるように配置されている。
正極参照電極10aと負極参照電極10bとの間の距離は、1000μmであり、正極14と負極16との極間距離は、600μmである。
上述のように、正極参照電極10aと負極参照電極10bとの間の距離は、100〜1000μmの範囲にあればよく、正極14と負極16との極間距離は、1〜2mmの範囲にあればよい。
【0034】
また、セパレータ18a、18bは、いずれも厚み200μmの平板ガラスフィルターであり、平面形状は細長い長方形である。
【0035】
本実施の形態のごとく、正極参照電極10aを正極14の近傍に配置することで、正極参照電極10aは負極16の電場の影響を受けにくくなる。しかし、正極参照電極10aを正極14に近づけ過ぎると正極14近傍の電場を乱してしまい、正確な電位を測定することが困難となる。そのため、正極14と正極参照電極10aとの距離は、100〜500μm程度であることが好ましい。
同様に、負極16と負極参照電極10bとの距離は、100〜500μm程度であることが好ましい。
【0036】
本実施の形態によると、以下の効果を奏することができる。
本実施の形態では、参照電極10全体をリチウム又はリチウム合金によって構成するのではなく、参照電極10を、ステンレス線からなる芯材11と、芯材11の上に形成されたリチウム膜12とによって構成している。
このように、リチウム膜12に比べて剛性の高い材料からなる芯材11を用いることで、すでに説明したように、取り扱いや製造が容易となる。
また、正極参照電極10aと負極参照電極10bとを配置した4極セル構造を採用することで、実用化、量産化に適した参照電極を利用して、正極−正極参照電極間、正極−負極参照電極間、負極−正極参照電極間、および、負極−負極参照電極間の各電位差に基づいて、充放電を精度よく制御することができる。
【0037】
特に、ステンレス線などの剛性の高い芯材11を用いることにより、径が35μm(図3参照)という細線の参照電極10を構成することが可能になった。
このように細線の参照電極10を用いることによって、上記したような位置関係に、正極14、負極16、正極参照電極10a、および負極参照電極10bを配置することができる。その結果、従来の3極式リチウム二次電池や4極式リチウム二次電池に比べて、正極−正極参照電極間の電位差を、正極14の単身における現在の電位や充電・放電時の電位変化を正確に把握するために役立てることができる。
同様に、従来の3極式リチウム二次電池や4極式リチウム二次電池に比べて、負極−負極参照電極間の電位差を、負極16の単身における現在の電位や充電・放電時の電位変化を正確に把握するために役立てることができる。
【0038】
また、上記のように正極14(および負極16)と正極参照電極10a(および負極参照電極10b)とを、セパレータ18bを介して平行に配置することができ、正極14(および負極16)の任意の場所に正極参照電極10a(および負極参照電極10b)を設置することができる。そして、参照電極10が非常に細いため、正極14(および負極16)内の任意の位置における電位測定も可能となり、正極14(および負極16)内の電位分布を測定することにも利用することが可能となる。
【0039】
−参照電極の変形例−
図4は、参照電極10の変形例を示す断面図である。同図に示すように、本変形例に係る参照電極10は、リチウム膜12および絶縁体13を覆うイオン透過性保護膜20(イオン透過性物質膜)を備えている。なお、絶縁体13は、イオン透過性保護膜20によって覆われている必要はない。
本変形例に係るイオン透過性保護膜20は、電子伝導性がなく、リチウムイオンを透過し、かつ、防水性を有するポリフッ化ビニリデン(PVdF)によって構成されている。
リチウム等は、非常に活性な金属であるため、容易に空気中の水分や電解液中に微量に含まれる水分で酸化されやすい。
そこで、この変形例のように、リチウム膜12の外表面を、防水性を有する、実質的に電子伝導性の無いイオン透過性保護膜20によって覆うことにより、リチウム膜12と電解液との接触を避けるとともに、正極14と正極参照電極10a、又は負極16と負極参照電極10bとが接触した際の電気的短絡を防ぐことができる。
【0040】
−参照電極の製造工程−
次に、参照電極10の製造方法について、上記変形例の構造を例にとって説明する。図5(a)〜(d)は、上記変形例に係る参照電極10の製造工程を示す断面図である。
まず、図5(a)に示す工程で、所望の長さのステンレス線からなる芯材11を形成する。
次に、図5(b)に示す工程で、真空蒸着法を用いて、芯材11の所定領域上にリチウムを堆積して、リチウム膜12を形成する。
その際、加熱するリチウム原料の温度にもよるが、蒸発源から芯材11までの距離が5〜30cmの範囲、好ましくは、10〜20cmの範囲になるように調整し、圧力が0.01〜0.001Paの減圧下、好ましくは0.05〜0.5Paの減圧下で行うのが好ましい。リチウム原料の加熱温度は、減圧する条件にもよるが、400〜600℃の範囲、好ましくは450〜550℃の範囲がよい。400℃未満の場合、リチウム原料の蒸発速度が遅いため、均一性は良くなるが生産性に欠ける。600℃を超えるとリチウム原料の蒸発速度は速いが均一性に乏しくなる。
この例では、真空蒸着法を用いてリチウム膜12を形成したが、真空蒸着法に代えて電解析出法を用いてもよい。その場合には、電解析出浴に含まれる溶媒にもよるが、リチウム塩が0.01〜5mol/Lの範囲、好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲になるよう調整し、電流密度が0.1mA/cm2〜100mA/cm2の範囲、好ましくは1mA/cm2〜10mA/cm2の範囲で行うとよい。
【0041】
次に、図5(c)に示す工程で、芯材11のうちリチウム膜12が形成されていない領域に、絶縁体13を被覆する。
この例では、絶縁体13として、有機溶媒等の耐性を有す絶縁体、例えば、天然ゴム(NB)、エチレンプロピレン(EP)、ポリビニル(PV)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、架橋ポリエチレン(PEX)、ハイパーロン、珪素ゴム(シリコーン)、フッ素樹脂などの絶縁樹脂やジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカなどの酸化物などから選ばれる絶縁材料を用いる。
この例では、芯材11のうちリチウム膜12が形成されていない領域を、上記絶縁樹脂の融液に芯材11を浸漬することにより、芯材11の周囲に絶縁体13を形成している。ただし、この例に限定されるものではない。
【0042】
次に、図5(d)に示す工程で、リチウム膜12および絶縁体13の表面上に、イオン透過性保護膜20を形成する。
イオン透過性保護膜20を形成する方法としては、コート法等が挙げられる。例えば、イオン透過性ポリマーを有機溶媒に溶かしたコート液に、参照電極10をディッピングし、次いで、有機溶媒を揮発させることでリチウム膜の表面にイオン透過性保護膜20を形成することができる。又は、スプレーガンでコート液を噴霧或いは粉末自身を噴霧することにより、イオン透過性の樹脂や酸化物等からなるイオン透過性保護膜20を形成することもできる。
イオン透過性保護膜20の厚さは、1〜20μmが好ましく、2〜10μmがより好ましい。この厚さが1μm未満であると、耐水性が乏しくなる。一方、20μmを超えると、参照電極10の断面における最大幅が大きくなるため、上述した不具合が生じる。また、イオン透過性保護膜20を均一厚さで形成するのが難しくなる。
【実施例】
【0043】
(サンプルの作成)
次に、参照電極10および電気化学セルA(リチウム二次電池)の特性評価のためのサンプル、すなわち、本発明の構造を有する各実施例のサンプルや、実施例との性能比較のための各比較例のサンプルを形成した。
−実施例1−
正極参照電極10a、負極参照電極10bは、いずれも、直径20μmのステンレス線からなる芯材11の表面上に、真空蒸着法により、厚さ7μmのリチウム膜12を形成したものである。正極参照電極10a、負極参照電極10bを、それぞれ正極14、負極16の中心部に対向する位置にセットした。
参照電極10の形成に際し、真空蒸着法の条件は、蒸発源から芯材11を10cm離し、1.0×10−3Paの減圧下、リチウム原料を480℃まで加熱し、リチウム原料を蒸発させて、芯材11の外周を閉環状に覆うリチウム膜12を形成した。
−実施例2−
参照電極10の芯材11として、直径40μmのステンレス線を用い、芯材11の表面上に、真空蒸着法により、厚さ10μmのリチウム膜12を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
−実施例3−
参照電極10の芯材11として、直径10μmのステンレス線を用い、芯材11の表面上に、真空蒸着法により、厚さ5μmのリチウム膜12を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
−実施例4−
参照電極10の芯材11として、直径10μmのステンレス線を用い、芯材11の表面上に、真空蒸着法により、厚さ1μmのリチウム膜12を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
−実施例5−
参照電極10の芯材11として、直径20μmのステンレス線を用い、芯材11の表面上に、真空蒸着法により、厚さ15μmのリチウム膜12を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
−実施例6−
参照電極10として、実施例1の条件で形成したリチウム膜12の上に、ポリフッ化ビニリデンPVdFからなる厚さ5μmのイオン透過性保護膜20を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
−実施例7−
参照電極10として、実施例1の条件で形成したリチウム膜12の上に、ポリフッ化ビニリデンPVdFからなる厚さ30μmのイオン透過性保護膜20を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
【0044】
また、サンプルとして、実施例との特性比較のための各比較例を作成した。
−比較例1−
参照電極10として、厚さ500μmからなるリチウム箔を幅2mmに切ったものを用いた。他の条件は、実施例1と同様である。
−比較例2−
参照電極10の芯材11として、直径70μmのステンレス線を用い、芯材11の表面上に、真空蒸着法により、厚さ7μmのリチウム膜12を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
−比較例3−
参照電極10の芯材11として、直径20μmのステンレス線を用い、芯材11の表面上に、真空蒸着法により、厚さ50μmのリチウム膜12を形成した。他の条件は、実施例1と同様である。
【0045】
(内部抵抗の評価)
直流内部抵抗の測定には電流休止法を好適に採用することができる。ここでは、各実施例や比較例のサンプルを参照電極として用いた電気化学セルAについて、充放電サイクル試験により、直流内部抵抗の測定を行なった。以下、その方法と結果とを説明する。
−実施例1の評価−
満充電された電気化学セルAを、0.5C率放電で12分間放電した後、休止状態(電流を流さない状態)で1分間放置する、という操作を、電気化学セルAの電圧が2.0Vになるまで、10サイクル繰り返した。この際の電流休止点を含む充放電曲線(電圧の時間変化特性)を図6に示す。
図7は、図6に示す休止点B1付近における充放電曲線の拡大図である。但し、図7においては、電圧軸の一部を省略して表示している。
図7に示されるように、5種類の充放電曲線が得られている。この中に表示されている充放電曲線には、電池電圧(正極−負極間電圧)(V+V−)、および各電極と各参照電極との電位差ΔVとがある。
各電極と各参照電極との電位差ΔVには、正極−正極参照電極間電位差(V+R+)、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)、負極−正極参照電極間電位差(V−R+)、および負極−負極参照電極間電位差(V−R−)が含まれる。
【0046】
上記電位差(V+R+)と電位差(V+R−)とから正極14の電位が測定され、電位差(V−R−)と電位差(V−R+)とから負極16の電位が測定される。このとき、通電中の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との差分と、電位差(V−R+)と電位差(V−R−)との差分とは同じ値を示す(後述する図8、図9、図10では、煩雑さを避けるため、電位差(V+R+)と電位差(V+R−)とだけを表示)。これらの差分は、正極参照電極14と負極参照電極16との間に存在する電解液およびセパレータの抵抗RによるIRドロップに相当するため、電解液とセパレータの抵抗に関する情報を得ることができる。
【0047】
また、電位差(V+R+)と電位差(V−R−)とから、それぞれ電解液とセパレータの抵抗の影響を除いた正極14、負極16の電位が測定される。したがって、電流値を変化させた場合(本評価では、0.5C率放電相当の電流値から電流値ゼロへ変化させた場合)、観測される電位差(ΔV)と電流値から各抵抗成分の値が求まる。本評価では、電流休止直前(t=0)と電流を休止してから60秒後(t=60)の電位差(ΔV60)とを用いて、各抵抗を算出した。
上記評価において得られた放電休止点B1における電池全体の抵抗は69.6Ωで、その内訳は、正極抵抗成分が9.2Ω、負極抵抗成分が20.9Ω、電解液およびセパレータ抵抗成分が39.5Ωであった。
【0048】
図7に示す60秒間の電流休止時には、電位差(V+R+)と電位差(V+R−)の間の平均電位差は、1.0mVであり、その差がほぼなくなっていることがわかる。
これは電流が流れていない状態では、正極参照電極と負極参照電極の間に存在する電解液およびセパレータの抵抗RによるIRドロップが存在しないためである。本発明の参照電極10と電気化学セルAとを用いることによって、このように正確な測定が可能となった。
【0049】
−実施例2の評価−
実施例2のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)との時間変化特性(充放電曲線)を図8に示す。図中の充放電曲線において、上に凸の部分が60秒間の電流休止時の電位を示しており、60秒間の電流休止時の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分は、1.3mVであり、正極電位を正しく示していることがわかる。
【0050】
−実施例3の評価−
実施例3のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)との時間変化特性(充放電曲線)を図9に示す。図中の充放電曲線において、上に凸の部分が60秒間の電流休止時の電位を示しており、60秒間の電流休止時の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分は、1.2mVであり、正極電位を正しく示していることがわかる。
【0051】
−実施例4の評価−
実施例4のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた放電曲線の図示は省略するが、放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)とを測定した結果、60秒間の電流休止時の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分は、1.8mVであり、正極電位を正しく示していることがわかる。
【0052】
−実施例5の評価−
実施例5のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた放電曲線の図示は省略するが、放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)とを測定した結果、60秒間の電流休止時の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分は、1.7mVであり、正極電位を正しく示していることがわかる。
【0053】
−実施例6評価−
実施例6のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた放電曲線の図示は省略するが、放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)とを測定した結果、60秒間の電流休止時の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分は、1.7mVであり、正極電位を正しく示していることがわかる。
【0054】
−実施例7の評価−
実施例7のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた放電曲線の図示は省略するが、放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)とを測定した結果、60秒間の電流休止時の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分は、3.2mVであった。比較的高精度ではあるが、実施例6に比べると正極電位の評価精度が若干劣る傾向にある。
その原因は、実施例7のサンプルでは、イオン透過性保護膜20の厚さが30μmを超えていることにあると考えられる。
【0055】
−比較例1の評価−
比較例1のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)との時間変化特性(充放電曲線)を図10に示す。図中の充放電曲線において、上に凸の部分が60秒間の電流休止時の電位を示している。60秒間の電流休止時における電位差(V+R+)の曲線と電位差(V+R−)との平均差分は6.3mVであった。また、電位差(V+R+)と電位差(V+R−)の曲線とはほぼ重なることがなかった。これは電流が流れていない状態では、正極参照電極と負極参照電極の間に存在する電解液およびセパレータの抵抗RによるIRドロップが存在しないからであり、正極電位を正しく示していないことがわかる。
【0056】
−比較例2の評価−
比較例2のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた充放電曲線の図示は省略するが、放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)とを測定した結果、60秒間の電流休止時の電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分は、5.7mVであった。このことから、参照電極10の芯材11の直径が70μmを超えると、正極電位を正しく示しにくい傾向にあると思われる。
【0057】
−比較例3の評価−
比較例3のサンプルについても、実施例1と同様の充放電サイクル実験により、内部直流抵抗の評価を行なった。得られた充放電曲線の図示は省略するが、放電休止点B1における正極−正極参照電極間電位差(V+R+)と、正極−負極参照電極間電位差(V+R−)とを測定した結果、60秒間の電流休止時の(V+R+)と(V+R−)の平均電位差は、5.2mVであった。このことから、リチウム膜12の厚みが50μmを超えると正極電位を正しく示しにくい傾向にあると思われる。
【0058】
図11は、上述の実施例1〜7、および比較例1〜3のサンプル構造と、60秒間の電流休止時における、電位差(V+R+)と電位差(V+R−)との平均差分とを表にして示す図である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、携帯電話,ノートパソコン,ハイブリッド車,電気自動車等の電源装置や,無停電電源装置に内蔵されるリチウム二次電池などの電気化学セルに利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
A 電気化学セル
10 参照電極
10a 正極参照電極(作用極参照電極)
10b 負極参照電極(対極参照電極)
11 芯材
12 リチウム膜
13 絶縁体
14 正極(作用極)
15 正極タブ
16 負極(対極)
17 負極タブ
18a、18b セパレータ
19 電池容器
20 イオン透過性保護膜(イオン透過性物質膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルにおける作用極と対極との間の領域に配置される参照電極であって、
芯材と、該芯材の少なくとも一部を覆うリチウム又はリチウム合金からなるリチウム膜とを有し、
上記芯材の少なくとも表面部を構成する材料が、リチウム又はリチウム合金と実質的に反応しない導体材料である、参照電極。
【請求項2】
請求項1記載の参照電極において、
上記芯材の断面における最大幅は、5μm以上で50μm以下の範囲にある、参照電極。
【請求項3】
請求項1又は2記載の参照電極において、
上記芯材の少なくとも表面部は、上記電気化学セルの電解液に対して実質的に耐性を有している、参照電極。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の参照電極において、
上記芯材の少なくとも表面部を構成する導体材料は、ステンレス鋼又はステンレス合金からなる、参照電極。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の参照電極において、
上記芯材は、
鋼線からなる中心部と、
上記中心部を覆う上記リチウム又はリチウム合金と実質的に反応しない導体材料からなる表面部と、
を有している、参照電極。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載の参照電極において、
上記芯材のうち上記リチウム膜によって覆われていない領域の少なくとも一部を覆う絶縁体をさらに有している、参照電極。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1つに記載の参照電極において、
上記リチウム膜の厚みは、0.1μm以上で20μm以下の範囲にある、参照電極。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか1つに記載の参照電極において、
上記リチウム膜の外表面は、防水性を有する、実質的に電子伝導性が無いイオン透過性物質膜によって被覆されている、参照電極。
【請求項9】
請求項8記載の参照電極において、
上記イオン透過性物質膜の厚みは、1μm以上で20μm以下の範囲にある、参照電極。
【請求項10】
請求項1〜9のうちいずれか1つに記載の参照電極の製造方法であって、
上記リチウム膜を、真空蒸着法又は電解析出法を用いて形成する工程を含む、参照電極の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のうちいずれか1つに記載の少なくとも1つの参照電極と、
上記少なくとも1つの参照電極を挟んで設けられた作用極および対極と、
を備えている電気化学セル。
【請求項12】
請求項11記載の電気化学セルにおいて、
上記電気化学セルがリチウムイオン電池の一部として機能する、電気化学セル。
【請求項13】
請求項11又は12記載の電気化学セルにおいて、
上記少なくとも1つの参照電極は、上記作用極と参照電極との間にそれぞれ設けられた、作用極近傍に位置する作用極参照電極と、対極近傍に位置する対極参照電極とであり、
上記作用極と対極との極間距離が1mm以上で2mm以下の範囲にあり、
上記作用極参照電極と作用極との距離、および、上記対極参照電極と対極との距離の少なくともいずれか一方の距離が、100μm以上で500μm以下の範囲にある、電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−33365(P2012−33365A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171430(P2010−171430)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(390000435)本城金属株式会社 (10)
【Fターム(参考)】