説明

受信機およびチューニング方法

【課題】IFフィルタの中心周波数を目的信号の中心周波数に容易に、かつ短時間で一致させることができる受信機およびチューニング方法を提供する。
【解決手段】IFフィルタ25として、通過帯域の中心周波数から離れるに従って利得がなだらかに低下し、高域および低域の遮断周波数において利得が急激に低下する周波数特性を有し、かつこの周波数特性の形状を維持したまま中心周波数を変更可能なデジタルフィルタを用いる。このデジタルIFフィルタ25を用いて目的信号Siを抽出すると、フィルタの中心周波数が目的信号Siの中心周波数と一致したときに、Sメータ36に表示される目的信号Siの強度が最大となり、逆に再生される音声の歪が最小となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信した高周波信号から単側波帯変調された所望の音声周波信号を抽出して音声を再生する受信機、およびこの受信機に採用したチューニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単側波帯変調(Single Side Band:以降「SSB」という)通信方式は、両単側波帯変調通信方式に比べて占有周波数帯域幅がほぼ半分で済む、送信電力が経済的、変調時にのみ出力するので電力効率が良い等の特徴を備えており、無線通信の分野において広く普及している。
【0003】
このSSB通信方式を採用した従来の受信機は、チューニングすなわちミキサによって生成された中間周波(IF)信号から目的とする信号(以降、「目的信号」という)を抽出する手段として、高域通過フィルタ(以降、「HPF」という)と低域通過フィルタ(以降、「LPF」という)とを組み合わせたIFフィルタを用いていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、SSB通信方式は、送信された高周波信号に搬送波を含まないことから、変調された音声周波数(Audio Frequency)の信号(以降、「AF信号」という)の周波数成分によって目的信号の周波数が変動する性質を有している。
【0005】
従来の受信機はこの点を考慮し、LPFの高域遮断周波数とHPFの低域遮断周波数を高域側もしくは低域側にシフトさせることにより、フィルタの通過帯域の帯域幅を維持したまま中心周波数をシフトさせて目的信号を抽出していた。
【0006】
通常、上述のIFフィルタは、通過帯域内の信号について音質を劣化させることなく忠実に再現し、その一方で通過帯域外の信号を極力カットするため、デジタルシグナルプロセッサ(以降、「DSP」という)を用いたデジタルフィルタにより構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−4370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、SSB通信方式は、IFフィルタで目的信号を抽出する際に、高域もしくは低域の成分がカットされると再生音が歪んで聞き取り難くなるという性質を有している。従って、再生音の歪みを極力少なくするためには、フィルタの中心周波数を目的信号の中心周波数にできるだけ一致させて、目的信号がフィルタの通過帯域内に含まれるようにする必要がある。
【0009】
通常、目的信号がフィルタの通過帯域内に含まれているか否かは、フィルタを通過した目的信号の強度をシグナルメータ(以降、「Sメータ」と略す)で読み取ることにより判断する。
【0010】
しかし、デジタルフィルタで構成された従来のIFフィルタは、通過帯域の周波数特性がフラットであるため、フィルタの中心周波数を若干シフトさせる程度では、Sメータに表示される信号強度がほとんど変化しない。従って、Sメータを用いて、フィルタの中心周波数を目的信号の中心周波数と一致させることは難しい。
【0011】
このため従来の受信機では、使用者が再生音を聞きながらフィルタの中心周波数をシフトさせ、再生音の歪が最小になる点を見つけ出していたが、この方法は、フィルタの中心周波数を調整するのに時間がかかる難点があった。
【0012】
本発明は上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、IFフィルタの周波数特性に工夫を加えることにより、IFフィルタの中心周波数を目的信号の中心周波数に容易に、しかも短時間で一致させることができる受信機およびチューニング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明にかかる受信機は、受信した高周波信号から単側波帯変調された音声周波信号を取り出して音声を再生する受信機であって、
前記高周波信号を中間周波信号に変換する第1のミキサと、
前記中間周波信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、
デジタル信号に変換された前記中間周波信号のうち所定の帯域の周波数成分を通過させるデジタルIFフィルタと、
前記デジタルIFフィルタを通過した前記中間周波信号から音声周波信号を復調する第2のミキサと、
前記第2のミキサから出力された音声周波信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータと、を備え、
前記デジタルIFフィルタは、通過帯域の中心周波数から離れるに従って利得がなだらかに低下し、高域および低域の遮断周波数において利得が急激に低下する周波数特性を有し、かつ前記周波数特性の形状を維持したまま中心周波数を変更可能であることを特徴とする。
【0014】
ここで、前記デジタルIFフィルタは、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタおよびバンドパスフィルタを組み合わせて構成され、前記ハイパスフィルタの低域遮断周波数と前記ローパスフィルタの高域遮断周波数との中間の周波数が、前記バンドパスフィルタの中心周波数と略一致する。
【0015】
前記ハイパスフィルタの低域遮断周波数、前記ローパスフィルタの高域遮断周波数および前記バンドパスフィルタの中心周波数は、連動してシフトするように構成されていることが好ましい。
【0016】
また前記前記デジタルIFフィルタは、プログラムに基づいてデジタルシグナルプロセッサで演算が実行されることにより実現されることが好ましい。
【0017】
また本発明にかかるチューニング方法は、音声周波信号が単側波帯変調された高周波信号を中間周波信号に変換した後、この中間周波信号から所定の帯域の周波数成分を抽出するチューニング方法であって、
前記中間周波信号をデジタル信号に変換するステップと、
デジタル信号に変換された前記中間周波信号からデジタルIFフィルタを用いて所定の帯域の周波数成分を抽出するステップと、を含み、
前記デジタルIFフィルタとして、通過帯域の中心周波数から離れるに従って利得がなだらかに低下し、高域および低域の遮断周波数において利得が急激に低下する周波数特性を有し、かつ前記周波数特性の形状を維持したまま中心周波数を変更可能なフィルタを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のチューニング方法によって目的信号の抽出を行うと、デジタルIFフィルタの中心周波数が目的信号の中心周波数と一致したときにSメータに表示される目的信号の強度が最大となり、フィルタの中心周波数が目的信号の中心周波数から離れるほど目的信号の強度は小さくなる。
【0019】
従って、Sメータに表示される目的信号の強度が最大となる位置にフィルタの中心周波数を設定すれば、必然的にフィルタの中心周波数が目的信号の中心周波数と一致する。結果として、歪の最も少ない最適の音声を再現できる。
【0020】
更に、本発明のチューニング方法によれば、フィルタの中心周波数をSメータに表示される信号強度が最大となる位置に保持するだけで済むため、中心周波数の調整を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態にかかる受信機の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のDSP8によって実現される各種の機能を示すブロック図である。
【図3】本発明および従来の受信機におけるデジタルIFフィルタの周波数特性と目的信号との関係を示す概念図である。
【図4】HPF、LPFおよびBPFそれぞれのデジタルフィルタを、DSP8を用いて実現したときの周波数特性の一例を示す図である。
【図5】本発明におけるデジタルIFフィルタの周波数特性の一例を示す図である。
【図6】HPF、LPFおよびBPFを組み合わせた、本発明と類似の構成のデジタルIFフィルタの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のチューニング方法を採用した受信機について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
<受信機の構成>
図1に、SSB通信方式を採用した本発明の実施の形態にかかる受信機の構成を示す。本実施の形態にかかる受信機1は、アンテナ2、ミキサ3、局部発信器4、ルーフィングフィルタ5、IFアンプ6、A/Dコンバータ7ならびに15、DSP8、D/Aコンバータ9ならびに16、AFアンプ10、スピーカ11、制御部12、入力部13および検波部14を含む。
【0024】
ミキサ3は、アンテナ2で受信した高周波信号Srを局部発信器4の出力信号Soに同調させることにより、目的とするAF信号を含む中間周波信号(目的信号)Siを抽出する。本実施の形態では、中間周波数を36kHzに設定している。
【0025】
ルーフィングフィルタ5は、後段のDSP8における信号処理が可能となるように、ミキサ3から出力された目的信号Siの高域および低域の周波数成分をカットして、所定の帯域の成分のみを通過させる。
【0026】
IFアンプ6はAGC(自動利得制御)用のアンプであり、DSP8から出力された、後述する目的信号Siの振幅レベルを判定するレベル判定信号に基づいて振幅制限を行い、目的信号Siに飽和が生じないように調整する。
【0027】
A/Dコンバータ7は、IFアンプ6から出力された目的信号Siを、DSP8での処理が可能となるようにデジタル信号に変換する。本実施の形態では、サンプリングレートを96kHzに設定してデジタル信号への変換を行っている。
【0028】
DSP8は、デジタル信号に変換された目的信号Siに対し、制御部12から入力された制御信号Sc1に基づいて以下の処理を行う。第1に、混信を防止するためチューニングを行う。具体的には、デジタルAFフィルタによって目的信号Siのうち所定の帯域に含まれる周波数成分だけを取り出す。第2に、所定の周波数帯域に限定された目的信号Siを検波してAF信号Saを復調する。第3に、AF信号Saに音声再生に必要な各種の処理を施す。DSP8の構成と機能については、後に図2を参照して詳細に説明する。
【0029】
D/Aコンバータ9は、DSP8で復調されたデジタルのAF信号SaをアナログのAF信号に変換する。AFアンプ10は、D/Aコンバータ9から出力されたアナログのAF信号Saを、スピーカ11において音声として出力できるレベルまで増幅する。
【0030】
制御部12は、DSP8から出力された信号および入力部13から入力されたデータに基づき、DSP8の動作を制御する制御信号Sc1、および局部発信器4の動作を制御する制御信号Sc2を生成する。通常、制御部12はCPU、RAMおよびROMによって構成される。また入力部13は押ボタンやバリコン、ボリューム等で構成される。
【0031】
検波部14は、IFアンプ6に入力される目的信号Siを検波してその強度を検出する。検波部14から出力された信号は、A/Dコンバータ15でデジタル信号に変換された後、目的信号Siのレベル判定を行うためDSP8に入力される。
【0032】
D/Aコンバータ16は、DSP8から出力されたレベル判定信号をアナログ信号に変換し、AGC用の信号としてIFアンプ6に出力する。
【0033】
<DSPの構成>
次に、DSP8について説明する。図2に、DSP8によって実現される各種の機能をブロックで示す。これらの機能は、DSP8に格納されたプログラムに基づき、図示しない演算回路で演算が行われることにより実現される。A/Dコンバータ7から供給されるデジタルの目的信号Siは、図示しないFIFO(First-in First-out)バッファに順次取り込まれる。そしてDSP8は、取り込んだ目的信号Siに対して、図2の各ブロックで表示される処理を順次実行する。
【0034】
DSP8は、アンプ21および26、ノイズブランカ22、HPF23、ダウンサンプラ24(図では「↓D」と表示)、デジタルIFフィルタ25、ミキサ27、ビート発信器28、LPF29、AF信号処理部30、アップサンプラ(図では「↑U」と表示)31、LPF32、レベル判定部33、利得補正部34および検波部35の各ブロックを含む。またDSP8にはSメータ36が外付けされている。
【0035】
アンプ21は、DSP8に入力された目的信号Siの利得を調整するために用いられる。アンプ21および図1のIFアンプ6の利得の調整は、レベル判定部33から出力されたレベル判定信号に基づいて行われる。以下、レベル判定部33による利得制御について簡単に説明する。
【0036】
図1の検波部14から出力され、A/Dコンバータ16でデジタル信号に変換された、目的信号Siの強度を示す信号は、レベル判定部33で振幅レベルが判定される。レベル判定部33から出力されたレベル判定信号は、D/Aコンバータ16を介して図1のIFアンプ6にフィードバックされ、IFアンプ6の利得を調整して、出力信号が飽和するのを防止する(以降、この一連の動作を「外部AGC」という)。
【0037】
IFアンプ6による外部AGCの結果、DSP8には利得が抑制された目的信号Siが入力される。利得補正部34は、レベル判定部33から出力されたレベル判定信号に基づいて、抑制された目的信号Siの利得を元に戻すための補正信号を作成し、アンプ21に供給する。
【0038】
アンプ21における利得の調整は、妨害信号によって外部AGCが働いているときに、抑圧された目的信号Siの利得を元に戻すことで、目的信号Siの劣化を防止する効果がある。
【0039】
次に、ノイズブランカ22は、図示しないノイズ検出部とブランク処理部とで構成され、外部AGC用アンプ21より出力された目的信号Siのノイズ成分を検出すると共に、ブランク処理(減衰処理)を行う。
【0040】
HPF23は、次段のダウンサンプラ24で行うダウンサンプリングの際に折り返し成分によって歪が生じないように、予め、目的信号Siから所定の周波数以下の成分を除去する。すなわち、ダウンサンプラ24においてサンプリングレートが96kHzから48kHzに変換されるが、この際、24kHzを中心に折り返し成分が生じる。HPF23は、ダウンサンプリングの際に24kHz以下の成分が重畳されないように、予めこの帯域の周波数成分を除去しておく。
【0041】
ダウンサンプラ24は、上述したようにサンプリングレートを96kHzから48kHzに下げるものである。ダウンサンプリングは、DSP8の処理速度を下げて、デジタルIFフィルタ25の演算を行う際の処理時間を確保するために行われる。
【0042】
デジタルIFフィルタ25は、混信を防止するため、高域遮断周波数および低域遮断周波数において利得が急激に低下する特性を備えたフィルタにより、目的信号Siから不要な周波数成分をカットする。デジタルIFフィルタ25の機能については、後に図3(a)を参照して更に詳しく説明する。
【0043】
アンプ26はAGC用のアンプであり、スピーカ11(図1参照)から再生される音声レベルを安定化させるために、ミキサ27に入力される目的信号Siのレベルを調整する(以降、この動作を「内部AGC」という)。
【0044】
内部AGCの動作について簡単に説明する。検波部35は、アンプ26から出力された目的信号Siを検波して信号の強度を検出する。検波部35から出力された信号は、アンプ26にフィードバックされ、アンプ26から出力される目的信号Siの利得を調整する。
【0045】
ミキサ27は、アンプ26で利得が調整された目的信号Siを、ビート発信器28から出力されるビート信号Sbを用いて検波し、AF信号Saを復調する。本実施の形態では、ビート発信器28から12kHzの周波数のビート信号Sbを出力している。
【0046】
LPF29は、ミキサ27により復調されたAF信号Saのうち不要な成分である高域の周波数成分をカットして、低域の周波数成分だけを取り出す。本実施の形態では、LPF29の高域遮断周波数を4.9kHzに設定している。
【0047】
AF信号処理部30は、LPF29から出力されたAF信号Saに対して、音声を再生する際に必要となる各種の処理を施す。
【0048】
アップサンプラ31は、サンプリングレートを48kHzから96kHzに変換する。後段のD/Aコンバータ9(図1参照)での処理はサンプリングレートが96kHzで設計されているため、ここでサンプリングレートを当初の値である96kHzに戻す。
【0049】
LPF32は、滑らかな音声を再生するため、アップサンプラ31から出力されたAF信号Saの高域成分をカットする。本実施の形態では、LPF32の高域遮断周波数を3.5kHzに設定している。
【0050】
Sメータ36は、アンプ26から出力された目的信号Siが検波部35で検波された値、すなわち目的信号Siの強度を表示するものである。
【0051】
<デジタルIFフィルタの機能と特性>
次に、混信防止のため目的信号Siから不要な周波数成分を除去するデジタルIFフィルタ25について説明する。最初に、図3を参照してデジタルIFフィルタ25の機能を、従来の受信機のそれと比較して説明する。
【0052】
図3(a)は、図2のデジタルIFフィルタ25の周波数特性と目的信号の周波数成分との関係を示す概念図である。図において、斜線で示した部分は目的信号Siの周波数成分を示す。これに対し、FR1はデジタルIFフィルタ25の周波数特性を示す。
【0053】
図から明らかなように、FR1は、通過帯域の中心周波数fcから離れるに従って利得がなだらかに低下し、かつ高域および低域の遮断周波数において利得が急激に低下する周波数特性を有している。
【0054】
また図3(a)において、FR2(点線で表示)は中心周波数fcを高域側にシフトさせた場合、FR3(一点鎖線で表示)は中心周波数fcを低域側にシフトさせた場合のデジタルIFフィルタ25の周波数特性を示す。
【0055】
前述したように、SSB通信方式では高周波信号に搬送波が含まれないため、AF信号の周波数成分によって中間周波信号である目的信号Siの周波数が変動する。これに対応するため、デジタルIFフィルタ25は、周波数特性の形状を維持したまま、中心周波数fcを高域側および低域側にシフトできるように設計されている。
【0056】
比較のため、図3(b)に、従来の受信機で用いたデジタルIFフィルタの周波数特性と目的信号Siの周波数成分との関係を示す。図3(b)において、FR4、FR5およびFR6は従来のデジタルIFフィルタの周波数特性を示す。FR4(実線で表示)は中心周波数fcにずれがない場合、FR5(点線で表示)は中心周波数fcを高域側にシフトさせた場合、FR6(一点鎖線で表示)は中心周波数fcを低域側にシフトさせた場合の周波数特性である。
【0057】
図3(b)に示すように従来の受信機では、通過帯域においてフラットな周波数特性を有するデジタルIFフィルタを用いていた。このようなデジタルIFフィルタを用いた場合、デジタルIFフィルタの中心周波数Fcと目的信号Siの中心周波数がずれても、Sメータ36(図2参照)に表示される目的信号Siの強度はほとんど変化しない。従って、Sメータを用いてフィルタの中心周波数fcを目的信号Siの中心周波数と一致させることは難しい。
【0058】
これに対し、図3(a)に示すように本発明のデジタルIFフィルタ25は、通過帯域の周波数特性が上方に丸くカーブしており、中心周波数fcにおいて利得が最大の値を示している。従って、デジタルIFフィルタの中心周波数fcを高域側もしくは低域側にシフトさせた場合、デジタルIFフィルタの中心周波数と目的信号Siの中心周波数が一致するところでSメータが最大の強度を示し、それよりも上方もしくは下方にずれると、目的信号Siの強度は小さくなる。
【0059】
前述したように、デジタルIFフィルタの中心周波数fcと目的信号Siの中心周波数が一致した位置では、再生される音声の歪みが最小となる。従って、デジタルIFフィルタ25の中心周波数fcをシフトさせて、Sメータが示す目的信号Siの強度が最大となる位置で保持すれば、簡単に歪みのない音声を再生できる。上述した中心周波数の調整方法は、再生音を聞きながら行う従来の調整方法に比べ、Sメータの表示を見ながら短時間に行なえる利点がある。
【0060】
次に、デジタルIFフィルタ25の設計について説明する。図3(a)に示すような急峻な立ち下り特性を有し、かつ中心周波数をシフトできるフィルタを、抵抗やコンデンサで構成されたアナログのフィルタを用いて実現することは難しい。そこで本実施の形態では、DSPを用いたデジタルフィルタにより実現している。
【0061】
更に、図3(a)に示すような通過帯域で上方にカーブし、高域および低域の遮断周波数で急峻な立ち下り特性を有する周波数特性のフィルタは、HPFとLPFの組み合わせにより実現することが難しい。そこで本実施の形態では、HPF、LPFおよび通過帯域が上方にカーブしたバンドパスフィルタ(以降、「BPF」という)を組み合わせて実現している。
【0062】
また図3(a)に示すように、デジタルIFフィルタ25は、HPFの低域遮断周波数とLPFの高域遮断周波数との中間の周波数が、BPFの中心周波数と略一致するように構成されている。更に、HPFの低域遮断周波数、LPFの高域遮断周波数およびBPFの中心周波数は、連動して高域側または低域側にシフトするように設計されている。このように構成することにより、周波数特性の形状を維持したまま中心周波数fcをシフトさせることが可能となる。
【0063】
DSPを用いてデジタルフィルタを実現する方法については、一般によく知られているため詳細な説明は省略する。HPF、LPFおよびBPFの各フィルタは、それぞれのフィルタを実現するプログラムに基づいてDSP8の演算回路で演算を行うことにより実現される。
【0064】
なお、HPFの低域遮断周波数、LPFの高域遮断周波数、およびBPFの中心周波数は、制御部12から送信される制御信号Sc1により設定される(図1参照)。制御部12のCPUは、入力部13から入力されたデータに基づいてROMに記憶されたパラメータ(フィルタ係数)を読み出し、そのパラメータを制御信号Sc1に含めてDSP8に送信する。
【0065】
図4に、HPF、LPFおよびBPFのそれぞれのデジタルフィルタを、DSP8を用いて実現した時の周波数特性の一例を示す。図4(a)はHPF、図4(b)はLPF、図4(c)はBPFのそれぞれの周波数特性を示す。
【0066】
図4(a)〜(c)において、横軸は中間周波数(IF)である36kHzからのずれの周波数を示し、縦軸はフィルタの減衰量すなわち利得を示す。また図4(a)において、重複して表示された特性は、HPFの低域遮断周波数を25Hzずつシフトさせたときの周波数特性を重ねて示したものである。同様に、図4(b)は、LPFの高域遮断周波数を25Hzずつシフトさせたときの周波数特性を重ねて示し、図4(c)は、BPFの中心周波数を12.5Hzずつシフトさせたときの周波数特性を重ねて示したものである。
【0067】
図5(a)、(b)は、図4(a)〜(c)に示す周波数特性のデジタルフィルタを組み合わせて作成したデジタルIFフィルタ25の周波数特性を示す。図5(a)、(b)において、図4と同様に、横軸は中間周波数(IF)である36kHzからのずれの周波数を示し、縦軸はBPF25の減衰量を示す。
【0068】
図5(a)の周波数特性では、フィルタの中心周波数fcは中間周波数(IF)である36kHzから1.5kHz高域側にずれた37.5kHzに設定され、かつ低域遮断周波数が36kHz、高域遮断周波数が39kHzに設定されている。これに対し図5(b)の周波数特性では、図5(a)の周波数特性から中心周波数fcが1.5kHz低域側にシフトしている。
【0069】
図5(a)、(b)から明らかなように、中心周波数fcがずれても、フィルタの周波数特性はほとんど変化せず、フィルタの利得は中心周波数fcにおいて最大となっている。従って、デジタルIFフィルタ25として、このような周波数特性を有するデジタルフィルタを用い、かつデジタルフィルタの中心周波数fcをSメータ36(図2参照)の表示が最大となる位置で保持すれば、歪の少ない最適の音声を再生できる。
【0070】
なお、本発明と目的は異なるが、本発明のデジタルIFフィルタと同様に、HPF、LPFおよび通過帯域が上方にカーブしたBPFを組み合わせてデジタルIFフィルタを構成した受信機を、本出願人は商品化している(機種名:IC−7800)。
【0071】
この受信機に採用されたデジタルIFフィルタは、アナログフィルタに近い受信音を実現させることを目的として周波数特性の肩を丸めたものであり、中心周波数が中間周波数と一致する場合には、図5(a)に示した周波数特性とほぼ同様の周波数特性を示す。
【0072】
しかし、上述のデジタルIFフィルタは、BPFとして中心周波数が固定されたデジタルフィルタを用いている。図6にこのデジタルIFフィルタの周波数特性の一例を示すが、BPFの中心周波数が固定のため、中心周波数fcが初期設定した周波数(37.5kHz)からシフトすると、これに対応して最大の利得を示す周波数が中心周波数fcからずれる。
【0073】
このようなデジタルIFフィルタを用いて中心周波数の調整を行うと、デジタルIFフィルタの中心周波数を目的信号Siの中心周波数と一致させることができないため、本発明のデジタルIFフィルタと同様の効果を発揮することはできない。
【0074】
<受信機の動作>
次に、図1および図2を参照して、本実施の形態の受信機1の動作を説明する。最初に、使用者は、目的とするAF信号を含む高周波信号Srを受信するため、バリコン等を用いて入力部13に周波数のデータを入力する(図1参照)。制御部12は、入力部13に入力された周波数のデータを含む制御信号Sc2を局部発信器4に送信する。
【0075】
制御信号Sc2に基づいて局部発信器4から指定された周波数の信号が出力され、ミキサ3において、アンテナ2で受信した高周波信号Srから、入力部13で指定した周波数の信号が取り出され、中間周波信号(目的信号)Siに変換される。
【0076】
ミキサ3から出力された目的信号Siは、ルーフィングフィルタ5で高域および低域の不要な周波数成分がカットされ、更にIFアンプ6で利得が調整された後、A/Dコンバータ7において96kHzのサンプリングレートでデジタル信号に変換される。
【0077】
デジタル信号に変換された目的信号SiはDSP8に入力される。DSP8は、制御部12からの制御信号Sc1に従い、目的信号Siに対して各種の処理を行う。
【0078】
DSP8に入力した目的信号Siは、アンプ21で利得が調整され、ノイズブランカ22で不要なノイズ成分が取り除かれ、更にHPF23で24kHz以下の周波数成分がカットされた後、ダウンサンプラ24でサンプリングレートが48kHzに変更される(図2参照)。
【0079】
ダウンサンプラ24から出力された目的信号Siは、混信を防止するためデジタルIFフィルタ25で不要な帯域の周波数成分がカットされる。このとき、使用者は、バリコン等により入力部13から、デジタルIFフィルタ25の中心周波数をシフトさせる指示データを制御部12に送信する。制御部12は、入力部13から転送されたデータに基づいてDSP8に制御信号Sc1を送信し、デジタルIFフィルタ25の中心周波数を高域側もしくは低域側にシフトさせる。
【0080】
使用者は、入力部13においてバリコン等を用いてデジタルIFフィルタ25の中心周波数fcをシフトさせると共に、Sメータ36に表示される目的信号Siの強度を確認し、目的信号Siの強度が最大となる位置にフィルタの中心周波数fcを保持する。
【0081】
このようにして、デジタルIFフィルタ25の中心周波数fcを目的信号Siの中心周波数と一致させることで、デジタルIFフィルタ25から歪成分の少ない目的信号Siが取り出される。
【0082】
デジタルIFフィルタ25から出力された目的信号Siはアンプ26で利得が調整された後、ミキサ27においてビート発信器28から出力されたビート信号Sbによって検波され、AF信号Saが復調される。
【0083】
ミキサ27から出力されたAF信号Saは、LPF29で不要な高域の周波数成分がカットされ、またAF信号処理部30で必要な信号処理が行われた後、アップサンプラ31でサンプリングレートが48kHzから96kHzに戻され、更にLPF32で高域の周波数成分がカットされ、なめらかな波形のAF信号Saに変換される。
【0084】
このようにしてDSP8で各種処理が施されたAF信号Saは、図1のD/Aコンバータ9でアナログ信号に変換され、AFアンプ10で増幅された後、スピーカ11から音声として再生される。
【0085】
以上説明したように、本発明によれば、Sメータ36に表示された目的信号Siの強度を確認しながらデジタルIFフィルタ25の中心周波数をシフトさせ、Sメータ36の強度が最大となる位置で保持することにより、歪みのない高音質の音声を再生できる。しかも、再生音を聞きながら中心周波数の調整を行う従来の方法に比べ、短時間に調整を終えることができる。
【0086】
なお、上述した本実施の形態では、デジタルIFフィルタ25、ミキサ27およびAF信号処理部30をDSP8により実現した。しかし、必ずしもDSPを用いる必要はなく、高速演算が可能であれば、マイクロコンピュータやマイクロプロセッサを用いて実現してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、業務用、民生用等の用途の如何にかかわらず、SSB通信方式を採用した受信機に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0088】
1 受信機
2 アンテナ
3、27 ミキサ
4 局部発振器
5 ルーフングフィルタ
6 IFアンプ
7、15 A/Dコンバータ
8 DSP
9、16 D/Aコンバータ
10 AFアンプ
11 スピーカ
12 制御部
13 入力部
14、35 検波部
21、26 アンプ
22 ノイズブランカ
23 HPF
24 ダウンサンプラ
25 デジタルIFフィルタ
28 ビート発振器
29、32 LPF
30 AF信号処理部
31 アップサンプラ
33 レベル判定部
34 利得補正部
36 Sメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した高周波信号から単側波帯変調された音声周波信号を取り出して音声を再生する受信機であって、
前記高周波信号を中間周波信号に変換する第1のミキサと、
前記中間周波信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、
デジタル信号に変換された前記中間周波信号のうち所定の帯域の周波数成分を通過させるデジタルIFフィルタと、
前記デジタルIFフィルタを通過した前記中間周波信号から音声周波信号を復調する第2のミキサと、
前記第2のミキサから出力された音声周波信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータと、を備え、
前記デジタルIFフィルタは、通過帯域の中心周波数から離れるに従って利得がなだらかに低下し、高域および低域の遮断周波数において利得が急激に低下する周波数特性を有し、かつ前記周波数特性の形状を維持したまま中心周波数を変更可能である、ことを特徴とする受信機。
【請求項2】
前記デジタルIFフィルタは、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタおよびバンドパスフィルタを組み合わせて構成され、
また前記ハイパスフィルタの低域遮断周波数と前記ローパスフィルタの高域遮断周波数との中間の周波数が、前記バンドパスフィルタの中心周波数と略一致する、ことを特徴とする請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記ハイパスフィルタの低域遮断周波数、前記ローパスフィルタの高域遮断周波数および前記バンドパスフィルタの中心周波数は、連動してシフトするように構成されている、ことを特徴とする請求項2に記載の受信機。
【請求項4】
前記前記デジタルIFフィルタは、プログラムに基づいてデジタルシグナルプロセッサで演算が実行されることにより実現される、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の受信機。
【請求項5】
音声周波信号が単側波帯変調された高周波信号を中間周波信号に変換した後、この中間周波信号から所定の帯域の周波数成分を抽出するチューニング方法であって、
前記中間周波信号をデジタル信号に変換するステップと、
デジタル信号に変換された前記中間周波信号からデジタルIFフィルタを用いて所定の帯域の周波数成分を抽出するステップと、を含み、
前記デジタルIFフィルタとして、通過帯域の中心周波数から離れるに従って利得がなだらかに低下し、高域および低域の遮断周波数において利得が急激に低下する周波数特性を有し、かつ前記周波数特性の形状を維持したまま中心周波数を変更可能なフィルタを用いる、ことを特徴とするチューニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−61502(P2011−61502A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209058(P2009−209058)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】