吊下げ式防振具
【課題】 防振具の小型化、軽量化の要請を満たすと共に、インサートの位置と振動機器を設置する位置がズレている場合であっても、防振材と防振具本体との接触を防いで確実に防振効果を発揮することができる吊下げ式防振具を提供すること。
【解決手段】 振動が発生する振動機器(空調機AC)を吊り下げる吊りボルトの途中(上吊りボルトB1と下吊りボルトB2との間)に介装されて振動機器の荷重を支える防振具本体(ハンガーボックス2)と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて振動機器の振動を吸収する防振材(テーパコイルスプリング3又はテーパゴムスプリング3’)と、この防振材と防振具本体との間及び防振材と吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材(ゴムキャップ4及びゴムブーツ5)と、を備え、振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具において、防振材の外形を円錐台形状とする。
【解決手段】 振動が発生する振動機器(空調機AC)を吊り下げる吊りボルトの途中(上吊りボルトB1と下吊りボルトB2との間)に介装されて振動機器の荷重を支える防振具本体(ハンガーボックス2)と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて振動機器の振動を吸収する防振材(テーパコイルスプリング3又はテーパゴムスプリング3’)と、この防振材と防振具本体との間及び防振材と吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材(ゴムキャップ4及びゴムブーツ5)と、を備え、振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具において、防振材の外形を円錐台形状とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機器などの振動機器や給排水管、給排気用のダクトなどを吊下げる吊下げボルトに介装されて振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具に関するものであり、詳しくは、吊下げ式防振具の防振材と防振具本体との接触により防振効果が阻害されることを防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルなどの建築物では、空調機器、給排水管、給排気用のダクトや配管などは、上階の床スラブや屋根の支持材などの構造躯体から吊りボルトで吊下げられて設置されている。また、このような空調機器、給排水管、給排気用のダクトや配管などは、コンプレッサーなどの動力によりその内部を水や空気などの流体が流れたり急停止したり、駆動モータが回転したり停止したりすることなどのため、振動の発生源となっている。以下、このような空調機器、給排水管、給排気用のダクトや配管などを含む振動を発生させる機器を振動機器という。
【0003】
このような振動機器から発生する振動は、吊りボルトを伝わって床スラブなどの構造躯体に伝播して、建物全体に亘って振動や振動音による障害を発生させてしまうという問題があった。特に、上階の床スラブへ上下振動が伝播した場合は、事務机やキャビネットなどの什器が共振・鳴動したり、OA機器などの誤作動を誘発したりして、様々な振動障害を発生させるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するべく、特許文献1には、天井側吊りボルト20と設備側吊りボルト21との間に介装されて天井配置設備を吊り持ちする天井吊下型防振具であって、支柱11、天井側吊りボルト20が装着される吊持部12、通孔13cが穿設された天井配置設備吊り下げ担持用の負荷担持部13とで構成されたコ字型の吊下具本体10と、吊持部12と負荷担持部13との間に設置された荷重負荷用の圧縮コイルばね14と、負荷担持部13上に載置され、設備側吊りボルト21が挿通される装着用筒部18が設けられた下側弾性座15と、圧縮コイルばね14の上に載置され、装着用筒部18の内径より小さい内径で設備側吊りボルト21の係止端が挿通される上側通孔32が設けられた上側弾性座30と、この上側弾性座30上に設けられ、設備側吊りボルト21の係止端が装着される座金33とで構成され設備側吊りボルト21が垂直方向に対して傾斜するように設置されたとしても、大きな内径である装着用筒部18内を設備側吊りボルト21の軸部分が大きな傾斜角度θで装着用筒部18に接触することなく傾斜して設置することができる天井吊下型防振具Aが開示されている(特許文献1の図1等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の天井吊下型防振具Aでは、設備側吊りボルト21と吊下具本体10との接触は防げるが、防振材である圧縮コイルばね14と防振具本体である吊下具本体10との接触を防ぐには、曲げモーメント上不利な負荷担持部13の片持ち距離を長くして吊下具本体10と圧縮コイルばね14との距離をとらなければならず、(1)狭い天井内のスペースにおける防振具の小型化、軽量化の要請に反するという問題があった。
【0006】
また、圧縮コイルばね14を設備側吊りボルト21に止め付けるナットを回す際には、ナットより下側に圧縮コイルばね14があるため、(2)電動工具を使って回すことができず、手締めしなければならないため防振具の設置に手間が掛かるという問題もあった。
【0007】
そのうえ、設備側吊りボルト21を斜めにして設置した場合、圧縮コイルばね14も傾斜した状態のまま上下動するため、(3)圧縮コイルばね14の伸縮変位方向と鉛直上下方向とがズレて角度が付いてしまうため、有害な上下振動を効率よく減衰することができず、振動吸収の効果が低下してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−223368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこでこの発明は、前記従来の問題を解決し、防振具の小型化、軽量化の要請を満たすと共に、インサートの位置と振動機器を設置する位置がズレている場合であっても、防振材と防振具本体との接触を防いで確実に防振効果を発揮することができる吊下げ式防振具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、上辺部及び下辺部を有し、振動が発生する振動機器を吊り下げる吊りボルトの途中に介装されて前記振動機器の荷重を支える防振具本体と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて前記振動機器の振動を吸収する防振材と、この防振材と前記防振具本体との間及び前記防振材と前記吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材と、を備え、前記振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具であって、前記防振材は、その外形が円錐台形状となっていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の吊下げ式防振具において、前記防振具本体は、前記上辺部及び下辺部と左右一対の側辺部を有する中空矩形状の枠体からなることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部又は下辺部から離れるに従ってコイル径が小さくなっていくコイルスプリングであることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、いずれか一方又は両方が前記コイルスプリングの全部又は一部を覆う袋形状となっていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、前記防振具本体の上辺部に装着され、前記コイルスプリングの上部を覆って水平方向のズレを拘束するゴムキャップと、前記防振材の下端に装着され、前記防振材の外側全体を覆うゴムブーツであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部側に取り付けられ、前記防振具本体の下辺部には、前記防振材止め付け用のナットを締める電動工具のソケット部分を挿通可能な大きさの孔が形成され、この孔に前記振動機器と前記防振具本体とを繋ぐ吊りボルトが挿通されて前記防振具本体に止め付けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の吊下げ式防振具において、構造躯体に埋設されて前記吊りボルトを螺着するインサートの直下に前記防振具本体の上辺部及び前記防振部材が取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、上辺部及び下辺部を有し、振動が発生する振動機器を吊り下げる吊りボルトの途中に介装されて前記振動機器の荷重を支える防振具本体と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて前記振動機器の振動を吸収する防振材と、この防振材と前記防振具本体との間及び前記防振材と前記吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材と、を備え、前記振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具であって、前記防振材は、その外形が円錐台形状となっているので、防振具の小型化、軽量化の要請を満たすと共に、インサートの位置と振動機器を設置する位置がズレている場合であっても、防振材と防振具本体との接触を防いで確実に防振効果を発揮することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の吊下げ式防振具において、前記防振具本体は、前記上辺部及び下辺部と左右一対の側辺部を有する中空矩形状の枠体からなるので、前記作用効果に加え、防振具本体が特許文献1に記載されていたような水平視でコの字形状の場合と比較して片持ち支持の部分がないので強度的に有利であり、経時的に曲げ加工や溶接接続された隅部が塑性変形してしまい、上辺部や下辺部が側辺部に対して開くように変形するおそれが少なく、吊下げ式防振具の耐久性が向上する。また、その分防振具本体の厚さを薄くすることができ軽量化を図ることができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部又は下辺部から離れるに従ってコイル径が小さくなっていくコイルスプリングであるので、前記作用効果に加え、ゴム材などからなる固体密実形状の防振材に比べて上下振動を減衰する効果が高く、振動機器の上下振動の伝播を確実に防止することができる。このため、振動機器の上下振動が、床スラブやフリーアクセスフロアなどの比較的厚さが薄く上下に振動し易い部材で増幅されることがなく、振動障害を確実に低減することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、いずれか一方又は両方が前記コイルスプリングの全部又は一部を覆う袋形状となっているので、前記作用効果に加え、コイルスプリングを設置してナットを締め付ける際に誤ってコイルスプリングの間に手や工具等を挟んでしまうことがなく、作業員が怪我する危険を減らして、取り付け作業の安全性が向上する。また、インサートの埋設位置と振動機器の設置位置がかなり離れており、吊下げボルトを極端に斜めにした状態で防振具を設置しなければならない場合であっても、コイルスプリングを袋形状の弾性材で覆っているため、防振具本体とコイルスプリングが直接接触することがなく、防振具本体からコイルスプリングを介して吊りボルトへ伝わる振動が弾性材で低減され、防振効果が阻害されるのを最小限に抑えることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、前記防振具本体の上辺部に装着され、前記コイルスプリングの上部を覆って水平方向のズレを拘束するゴムキャップと、前記防振材の下端に装着され、前記防振材の外側全体を覆うゴムブーツであるので、ゴムキャップでコイルスプリングの水平方向のズレを拘束すると共に、ゴムブーツでコイルスプリングの外側全体を覆うことで、前記作用効果を発揮することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかに記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部側に取り付けられ、前記防振具本体の下辺部には、前記防振材止め付け用のナットを締める電動工具のソケット部分を挿通可能な大きさの孔が形成され、この孔に前記振動機器と前記防振具本体とを繋ぐ吊りボルトが挿通されて前記防振具本体に止め付けられているので、前記作用効果に加え、防振材を上の吊りボルトに止め付けるナットも、防振具本体を振動機器と接続する下の吊りボルトに止め付けるナットも両方とも、電動工具を使って締め付けることができる。そのため、背景技術で述べた前記(2)の問題を解決し、吊下げ式防振具の取り付け作業を省力化することができ、設置コストも下げることができる。また、下辺部に設けた孔が大きいので、振動機器を繋ぐ吊りボルトの鉛直面との設置角度の自由度が高まり、インサートの位置と振動機器の設置位置とが離れている場合でも吊下げ式防振具を容易に設置して防振効果を発揮することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の吊下げ式防振具において、構造躯体に埋設されて前記吊りボルトを螺着するインサートの直下に前記防振具本体の上辺部及び前記防振部材が取り付けられているので、前記作用効果に加え、少なくともインサートに螺着する吊りボルトと、その吊りボルトに止め付ける防振材は、略鉛直に設置することができる。そのため、背景技術で述べた前記(3)の問題を解決し、確実に防振効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の吊下げ式防振具の使用状態を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具を示す正面図である。
【図3】同上の吊下げ式防振具を、中心を通る鉛直面で切断した状態を示す断面図である。
【図4】実施の形態に係る防振具本体を示す正面図である。
【図5】実施例1に係る防振材を示す正面図である。
【図6】実施例2に係る防振材を示す斜視図である。
【図7】実施の形態に係る上弾性材であるゴムキャップを示す正面図である。
【図8】実施の形態に係る下弾性材であるゴムブーツを示す正面図である。
【図9】インサートと振動機器の設置位置がズレている場合の吊下げ式防振具の取り付け状態を示す説明図である。
【図10】実施の形態に係る吊下げ式防振具の取り付け手順1を示す説明図である。
【図11】実施の形態に係る吊下げ式防振具の取り付け手順2を示す説明図である。
【図12】実施の形態に係る吊下げ式防振具の取り付け手順3を示す説明図である。
【図13】実施の形態に係る吊下げ式防振具を用いて配管を吊下げた状態を示す図1の別例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明に係る吊下げ式防振具の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
<実施の形態>
図1〜図8を用いて、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具の使用状態(取付状態)を示す説明図である。図1において、ACが振動を発生させる振動機器の一実施の形態として例示する空調機であり、1が本発明の吊下げ式防振具の一実施の形態として例示する防振ハンガーである。空調機ACは、図1に示すように、構造躯体である上階の床のコンクリートスラブCSに吊りボルト(上吊りボルトB1,下吊りボルトB2)で吊下げられて支持されており、この吊りボルトは、デッキプレートDP上に所定間隔(一般的には、900mmピッチ)でコンクリート打設前に予め設置された天井インサートTIに螺着することでコンクリートスラブCSに支持される構成となっている。
【0027】
防振ハンガー1は、この吊りボルトの途中、即ち、上吊りボルトB1と下吊りボルトB2との間に介装され、後述の防振材を介して空調機ACやその配管などを弾性支持することで、空調機ACから発生する振動のうち、主にその上下振動成分を吸収してコンクリートスラブCSへの伝播を防止する吊下げ式の防振具としての機能を有している。なお、吊りボルトは、呼び径10の全ねじボルトが使用されることが一般的であるため、図示形態は、上吊りボルトB1と下吊りボルトB2とも呼び径10の全ねじボルトを例示している。勿論、3/8、1/2ボルトなどの他の規格のボルトでも適用可能であることはいうまでもない。
【0028】
図2は、防振ハンガーを示す正面図であり、図3は、防振ハンガーをその中心を通る鉛直面で切断した状態を示す断面図である。図2、図3に示すように、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具である防振ハンガー1は、空調機AC(図1参照)の荷重を支える防振具本体であるハンガーボックス2と、このハンガーボックス2に装着されて空調機ACの振動を吸収する防振材であるテーパコイルスプリング3と、このテーパコイルスプリング3とハンガーボックス2との間に介装される第1の弾性材であるゴムキャップ4と、テーパコイルスプリング3と吊りボルトB2との間に介装される第2の弾性材であるゴムブーツ5と、から主に構成されている。
【0029】
(防振具本体)
図4は、防振具本体の実施の形態であるハンガーボックス2を示す防振ハンガー1の部品図である。このハンガーボックス2は、一般構造用圧延鋼材(SS400)から、図4及び図3に示すように、上辺部21及び下辺部22と左右一対の側辺部23,24を有する中空矩形状(正面及び背面が開口したボックス状)に折り曲げて加工された枠体からなり、空調機AC(図1参照)の荷重を支えて、吊りボルトを上吊りボルトB1と下吊りボルトB2とに離間して(縁を切って)後述の防振材を介在させることにより空調機ACを弾性支持することができるようにするためのものである。また、枠体全体が細長く小型に加工されているので、狭隘なスペースでも防振ハンガー1が設置できるようになっている。
【0030】
また、このハンガーボックス2の上辺部21には、上吊りボルトB1(呼び径10の全ねじボルト又は六角押しボルト)を遊嵌して後述のゴムキャップを内側に嵌着可能な所定径(図示形態では直径φ=25mm)の上孔21aが穿設され、下辺部22には、上吊りボルトB1と螺合するナットを締め付ける電動工具のソケット部分(図10参照)が挿通可能な所定径(図示形態では直径φ=25mm)の下孔22aが穿設されている。
【0031】
ここで、ハンガーボックス2に設けられた貫通孔(特に下孔22a)は、遊挿する吊りボルトより大きいため、図9に示すように、天井インサートTIの設置位置と空調機ACの設置位置がズレている場合であっても、下吊りボルトB2を斜めに設置することで防振ハンガー1を用いて空調機ACを設置することが可能となり、設置の自由度が高まると共に、後述のように、電動工具によりナットを締め付けることができるので、手締めで施工する場合に比べて防振ハンガー及び空調機の設置時間を遥かに短縮することができる。
【0032】
なお、ハンガーボックス2として一般構造用圧延鋼材(SS400)から加工されたものを例示したが、このような鋼製のものに限られるものではなく、1つの吊りボルトに掛かる荷重(例えば、空調機ACを4点吊りで支持した場合は、空調機ACの4分の1の荷重)を支えることができる程度の引張り許容耐力があれば、特に材質が限定されるものではない。
【0033】
(防振材)
図5は、実施例1に係る防振材であるテーパコイルスプリング3の正面図である。防振材の実施例1に係る形態は、ばね用硬鋼線からなるコイルスプリングであり、図5に示すように、そのコイルスプリングのコイル径がハンガーボックス2の上辺部21から離れるに従って、即ち、下方に行くに従って、(円錐台に内接するように)徐々に小さくなっていくように形成されたテーパコイルスプリング3となっている。
また、このテーパコイルスプリング3のバネ定数は、空調機ACが発生させる約20Hz付近の振動数と共振しない範囲(例えば、14Hz以下好ましくは約3〜6Hz)のものに設定されている。
【0034】
このテーパコイルスプリング3は、図3に示すように、ハンガーボックス2の上辺部21の下に後述のゴムキャップ4を介して装着され、上孔21aに挿通された上吊りボルトB1に、この上吊りボルトB1と螺合するボルトで止め付けられ、空調機AC(図1参照)から下吊りボルトB2と、この下吊りボルトB2に止め付けられているハンガーボックス2を経由して伝達される振動を吸収して上吊りボルトB1へ伝達しないようにする機能を有している。また、止め付けるナットは、図示するように、振動等で経時的に緩まないように二重ナットとなっている。
なお、二重ナットとするのではなく上吊りボルトB1を六角押しボルトとしてもよい。
【0035】
図6は、実施例2に係る防振材であるテーパゴムスプリング3’を示す斜視図である。防振材の実施例2に係る形態は、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM樹脂)などの弾性樹脂(ゴム材)から、図6に示すように、その外形がハンガーボックス2の上辺部21から離れるに従って、即ち、下方に行くに従って直径が小さくなる円錐台形状に形成されたテーパゴムスプリング3’となっている。装着位置や装着方法は、実施例1と同様のため説明を省略する。
【0036】
このように、実施例1及び2に係る防振材によれば、その外形が下方に行くに従って直径が徐々に小さくなる円錐台形状となっているので、図9に示すように、天井インサートTIの設置位置と空調機ACの設置位置がズレており、下吊りボルトB2を無理やり斜めに設置して、ハンガーボックス2が少々傾いている状態で防振ハンガー1を取り付けても、ハンガーボックス2に防振材であるテーパコイルスプリング3,テーパゴムスプリング3’が接触するおそれが少なく、確実に防振効果を発揮することができる。
【0037】
なお、防振材の材質は、例示したばね用硬鋼線や弾性樹脂に限られず、外形が円錐台形状であり、空調機ACが発生させる約20Hz付近の振動数と共振しない範囲の固有振動数を示すものであれば使用することができる。但し、実施例1に係るテーパコイルスプリング3のような上下方向には空気層が介在するコイルスプリング形状とした方が、実施例2に係るテーパゴムスプリング3’のようなゴム材などの固体が上下方向に連続した固体密実形状の防振材に比べて上下の疎密振動を減衰する効果が高く、空調機ACの上下振動の伝播を確実に防止することができる。
【0038】
(第1の弾性材)
図7は、第1の弾性材の実施の形態であるゴムキャップ4を示す正面図である。このゴムキャップ4は、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM樹脂)などの弾性樹脂(ゴム材)からなり、図7、図3に示すように、その上部4aに係止溝4bが形成され、下部4cがテーパコイルスプリング3の上部を覆う袋状(キャップ状)に形成されている。
【0039】
このゴムキャップ4は、上部4aの係止溝4bが、ハンガーボックス2の上孔21aの内側に嵌着され、下部4cの袋状の内部にテーパコイルスプリング3の上部が納められており、上吊りボルトB1とハンガーボックス2との間に介在することで、上吊りボルトB1への振動の伝達を低減する機能を有している。
また、テーパコイルスプリング3の上部を覆うことで、テーパコイルスプリング3の上部の水平方向の位置ズレを防止する機能も有している。
【0040】
(第2の弾性材)
図8は、第2の弾性材の実施の形態であるゴムブーツ5を示す正面図である。このゴムブーツ5は、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM樹脂)などの弾性樹脂(ゴム材)からなり、図8、図3に示すように、最上部の外径が32mmで最下部の外径が25mmの全体として逆円錐台形状で、上方が開口してテーパコイルスプリング3全体を覆う袋状(ブーツ状)に形成されていると共に、ゴムキャップ4への嵌め込み代5aの下から底面に亘ってテーパコイルスプリング3の伸縮に追従可能なように蛇腹部5bが形成され、その底部5cには、ナットなどの金属部品との摺接による磨耗を防ぐため、補強用の平座金5dが嵌め込まれている。
この平座金5dは、直径20mm厚さ2mmの座金であり、呼び径10の全ねじボルト(吊りボルトB2)が挿通可能な直径10.5mmの孔が穿孔されている。
【0041】
このゴムブーツ5は、前述のテーパコイルスプリング3を収納してゴムキャップ4の下部4cの内側に嵌め込まれると共に、前記上吊りボルトの下端にナットで止め付けられており、テーパコイルスプリング3の伸縮性を阻害せずに、上吊りボルトB1とテーパコイルスプリング3との間に介在することで上吊りボルトB1への振動の伝達を低減する機能を有している。
また、テーパコイルスプリング3の外側全体を覆うことで、取り付け作業員がテーパコイルスプリング3のスプリング同士の間に指を挟んでしまうおそれをなくし、安全性を向上させる機能も有している。
【0042】
なお、以上説明したゴムキャップ4とゴムブーツ5との相対関係は、上下及び内外が入れ替わっていてもよく、ゴムブーツ5のようにテーパコイルスプリング3の外側全部を覆う形状ではなく、ゴムキャップとゴムブーツとが互いにテーパコイルスプリング3を半分ずつ覆う形状であっても構わない。
要するに、第1の弾性材と第2の弾性材のいずれか一方又は両方が防振材の全部又は一部を覆う袋形状となっており、防振材の伸縮を妨げず、ある程度の伸縮の繰り返しに対して耐久性がある素材であればゴム材等に限られず使用可能である。
【0043】
<防振ハンガーの取り付け手順>
次に、図10〜12を用いて防振ハンガーの取り付け手順について説明する。
(取り付け手順1)
先ず、構造躯体であるコンクリートスラブCSに埋設された天井インサートTIに六角押しボルトや予めダブルナットを螺合し適当な長さに切断した全ねじボルトを電動工具(例えば、電動ナットドライバー)とソケットを用いて防振ハンガー1を装着する。このとき、装着する上吊りボルトB1は、短いボルトを使用するとよい。短い上吊りボルトB1を使用することで、コンクリートスラブCSに埋設された天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがズレている場合であっても、防振材を天井インサートTIの直下に配置して、下吊りボルトB2から下方を斜めに設置することで対応することができるため、防振材の伸縮変位の方向をなるべく鉛直方向に近くなるように設置することができ、効率よく有害な上下振動の構造躯体への伝播を防止して、確実に防振効果を発揮することができるからである。
【0044】
また、ハンガーボックス2の下辺部22に穿孔された下孔22aは、上吊りボルトB1と螺合するナット(又は六角押しボルトの頭部分)を締める電動工具のソケットを挿通可能な大きさを有しているため、防振ハンガー1を電動工具で容易、且つ、短時間で上吊りボルトB1に止め付けることができる。このため、取付作業の作業時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
(取り付け手順2)
次に、図11に示すように、ハンガーボックス2の下孔22aに全ねじボルトからなる下吊りボルトB2を挿入し、ハンガーボックス2の下辺部22の上面及び下面に下辺部22の内径より所定径大きいワッシャを噛ましたうえ、ナットで締め付けて防振ハンガー1に下吊りボルトB2を装着する。このときも、下吊りボルトB2の下方に障害物がないので電動工具でのナットの締め付けが可能であり、取付作業の作業時間の短縮を図ることができる。
【0046】
(取り付け手順3)
最後に、図12に示すように、空調機ACのブラケットを下吊りボルトB2の下端部に下吊りボルトB2と螺合するナットで止め付けることにより防振ハンガー1を介して空調機ACを構造躯体であるコンクリートスラブCSに吊下げ支持する取付作業が終了する。なお、このときも電動工具でナットの締め付けが可能であり、取付作業の作業時間の短縮を図ることができるだけでなく、空調機ACの水平レベル調整も容易にすることができる。
【0047】
<防振ハンガーの作用効果>
以上説明した本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具である防振ハンガー1によれば、防振材(テーパコイルスプリング3又はテーパゴムスプリング3’)の外形が逆円錐台形状となっているので、天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがズレている場合であっても、ハンガーボックス2と防振材とが接触するおそれが少なく、確実に防振効果を発揮することができる。
【0048】
また、ゴムブーツ5がテーパコイルスプリング3全体を覆っているので、テーパコイルスプリング3を設置してナットを締め付ける際に誤ってコイル同士の間に手や工具等を挟んでしまうことがなく、作業員が怪我する危険を減らして、取り付け作業の安全性を向上させることができる。それに加え、天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがかなり離れており、下吊りボルトB2を極端に斜めにした状態で防振ハンガー1を設置しなければならない場合であっても、テーパコイルスプリング3をゴムブーツ5で覆っているため、ハンガーボックス2とテーパコイルスプリング3とが直接接触することがなく、ハンガーボックス2からテーパコイルスプリング3を介して吊りボルトへ伝わる振動がゴムブーツ5で低減され、防振効果が阻害されるのを最小限に抑えることができる。
【0049】
更に、防振材を上吊りボルトB1に止め付けるナットも、ハンガーボックス2を下吊りボルトB2に止め付けるナットも両方とも、電動工具を使って締め付けることができる。そのため、手作業を減らすことにより防振ハンガー1の取り付け作業を省力化することができ、設置コストも下げることができる。また、下孔22aが大きいので、空調機ACを繋ぐ下吊りボルトB2の設置角度の自由度が高まり、天井インサートTIの埋設位置と空調機ACを取り付ける位置とが離れている場合でも防振ハンガー1を容易に設置して防振効果を発揮することができる。
【0050】
以上のように、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具として防振ハンガー1を図示形態で設置する場合を説明したが、この防振ハンガー1は、図示形態と上下を逆に設置した場合であっても、防振具としての機能を発揮することは可能である。但し、逆に設置した場合は、天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがズレている場合、防振材であるテーパコイルスプリング3が止め付けられた吊りボルトB2の方を斜めに配置しなければならず、上下振動の防振効果が阻害する要因となる。
また、振動機器として空調機ACを例示して説明したが、振動機器は、図13に示すように、配管などであっても構わない。
【0051】
そして、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具として図面で示した各構成部材の形状や構造等も、あくまでも好ましい一例を示すものであり、特許請求の範囲内で適宜設計変更が可能であることは云うまでもない。特に、構造躯体としてS造の建築物におけるデッキプレートの上に打設されたコンクリートスラブを例示したが、これに限られず、RC造の建物における床コンクリートスラブ、S造の建物における鉄骨の梁やビーム、又は屋根の垂木や斜材など、振動機器を支持可能な構造躯体であれば本発明を適用することができる。
また、ゴムブーツ5の蛇腹部5bも、外形がR形状に丸く加工されたものを図示したが、断面が直線をジグザグに連ねた単純な蛇腹形状であっても構わない。
【符号の説明】
【0052】
1 防振ハンガー(吊下げ式防振具)
2 ハンガーボックス(防振具本体)
3 テーパコイルスプリング(防振材)
3’ テーパゴムスプリング(防振材)
4 ゴムキャップ(第1の弾性材)
5 ゴムブーツ(第2の弾性材)
AC 空調機(振動機器)
B1 上吊りボルト(吊りボルト)
B2 下吊りボルト(吊りボルト)
CS コンクリートスラブ(構造躯体)
TI 天井インサート(インサート)
DP デッキプレート
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機器などの振動機器や給排水管、給排気用のダクトなどを吊下げる吊下げボルトに介装されて振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具に関するものであり、詳しくは、吊下げ式防振具の防振材と防振具本体との接触により防振効果が阻害されることを防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルなどの建築物では、空調機器、給排水管、給排気用のダクトや配管などは、上階の床スラブや屋根の支持材などの構造躯体から吊りボルトで吊下げられて設置されている。また、このような空調機器、給排水管、給排気用のダクトや配管などは、コンプレッサーなどの動力によりその内部を水や空気などの流体が流れたり急停止したり、駆動モータが回転したり停止したりすることなどのため、振動の発生源となっている。以下、このような空調機器、給排水管、給排気用のダクトや配管などを含む振動を発生させる機器を振動機器という。
【0003】
このような振動機器から発生する振動は、吊りボルトを伝わって床スラブなどの構造躯体に伝播して、建物全体に亘って振動や振動音による障害を発生させてしまうという問題があった。特に、上階の床スラブへ上下振動が伝播した場合は、事務机やキャビネットなどの什器が共振・鳴動したり、OA機器などの誤作動を誘発したりして、様々な振動障害を発生させるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するべく、特許文献1には、天井側吊りボルト20と設備側吊りボルト21との間に介装されて天井配置設備を吊り持ちする天井吊下型防振具であって、支柱11、天井側吊りボルト20が装着される吊持部12、通孔13cが穿設された天井配置設備吊り下げ担持用の負荷担持部13とで構成されたコ字型の吊下具本体10と、吊持部12と負荷担持部13との間に設置された荷重負荷用の圧縮コイルばね14と、負荷担持部13上に載置され、設備側吊りボルト21が挿通される装着用筒部18が設けられた下側弾性座15と、圧縮コイルばね14の上に載置され、装着用筒部18の内径より小さい内径で設備側吊りボルト21の係止端が挿通される上側通孔32が設けられた上側弾性座30と、この上側弾性座30上に設けられ、設備側吊りボルト21の係止端が装着される座金33とで構成され設備側吊りボルト21が垂直方向に対して傾斜するように設置されたとしても、大きな内径である装着用筒部18内を設備側吊りボルト21の軸部分が大きな傾斜角度θで装着用筒部18に接触することなく傾斜して設置することができる天井吊下型防振具Aが開示されている(特許文献1の図1等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の天井吊下型防振具Aでは、設備側吊りボルト21と吊下具本体10との接触は防げるが、防振材である圧縮コイルばね14と防振具本体である吊下具本体10との接触を防ぐには、曲げモーメント上不利な負荷担持部13の片持ち距離を長くして吊下具本体10と圧縮コイルばね14との距離をとらなければならず、(1)狭い天井内のスペースにおける防振具の小型化、軽量化の要請に反するという問題があった。
【0006】
また、圧縮コイルばね14を設備側吊りボルト21に止め付けるナットを回す際には、ナットより下側に圧縮コイルばね14があるため、(2)電動工具を使って回すことができず、手締めしなければならないため防振具の設置に手間が掛かるという問題もあった。
【0007】
そのうえ、設備側吊りボルト21を斜めにして設置した場合、圧縮コイルばね14も傾斜した状態のまま上下動するため、(3)圧縮コイルばね14の伸縮変位方向と鉛直上下方向とがズレて角度が付いてしまうため、有害な上下振動を効率よく減衰することができず、振動吸収の効果が低下してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−223368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこでこの発明は、前記従来の問題を解決し、防振具の小型化、軽量化の要請を満たすと共に、インサートの位置と振動機器を設置する位置がズレている場合であっても、防振材と防振具本体との接触を防いで確実に防振効果を発揮することができる吊下げ式防振具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、上辺部及び下辺部を有し、振動が発生する振動機器を吊り下げる吊りボルトの途中に介装されて前記振動機器の荷重を支える防振具本体と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて前記振動機器の振動を吸収する防振材と、この防振材と前記防振具本体との間及び前記防振材と前記吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材と、を備え、前記振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具であって、前記防振材は、その外形が円錐台形状となっていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の吊下げ式防振具において、前記防振具本体は、前記上辺部及び下辺部と左右一対の側辺部を有する中空矩形状の枠体からなることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部又は下辺部から離れるに従ってコイル径が小さくなっていくコイルスプリングであることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、いずれか一方又は両方が前記コイルスプリングの全部又は一部を覆う袋形状となっていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、前記防振具本体の上辺部に装着され、前記コイルスプリングの上部を覆って水平方向のズレを拘束するゴムキャップと、前記防振材の下端に装着され、前記防振材の外側全体を覆うゴムブーツであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部側に取り付けられ、前記防振具本体の下辺部には、前記防振材止め付け用のナットを締める電動工具のソケット部分を挿通可能な大きさの孔が形成され、この孔に前記振動機器と前記防振具本体とを繋ぐ吊りボルトが挿通されて前記防振具本体に止め付けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の吊下げ式防振具において、構造躯体に埋設されて前記吊りボルトを螺着するインサートの直下に前記防振具本体の上辺部及び前記防振部材が取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、上辺部及び下辺部を有し、振動が発生する振動機器を吊り下げる吊りボルトの途中に介装されて前記振動機器の荷重を支える防振具本体と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて前記振動機器の振動を吸収する防振材と、この防振材と前記防振具本体との間及び前記防振材と前記吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材と、を備え、前記振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具であって、前記防振材は、その外形が円錐台形状となっているので、防振具の小型化、軽量化の要請を満たすと共に、インサートの位置と振動機器を設置する位置がズレている場合であっても、防振材と防振具本体との接触を防いで確実に防振効果を発揮することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の吊下げ式防振具において、前記防振具本体は、前記上辺部及び下辺部と左右一対の側辺部を有する中空矩形状の枠体からなるので、前記作用効果に加え、防振具本体が特許文献1に記載されていたような水平視でコの字形状の場合と比較して片持ち支持の部分がないので強度的に有利であり、経時的に曲げ加工や溶接接続された隅部が塑性変形してしまい、上辺部や下辺部が側辺部に対して開くように変形するおそれが少なく、吊下げ式防振具の耐久性が向上する。また、その分防振具本体の厚さを薄くすることができ軽量化を図ることができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部又は下辺部から離れるに従ってコイル径が小さくなっていくコイルスプリングであるので、前記作用効果に加え、ゴム材などからなる固体密実形状の防振材に比べて上下振動を減衰する効果が高く、振動機器の上下振動の伝播を確実に防止することができる。このため、振動機器の上下振動が、床スラブやフリーアクセスフロアなどの比較的厚さが薄く上下に振動し易い部材で増幅されることがなく、振動障害を確実に低減することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、いずれか一方又は両方が前記コイルスプリングの全部又は一部を覆う袋形状となっているので、前記作用効果に加え、コイルスプリングを設置してナットを締め付ける際に誤ってコイルスプリングの間に手や工具等を挟んでしまうことがなく、作業員が怪我する危険を減らして、取り付け作業の安全性が向上する。また、インサートの埋設位置と振動機器の設置位置がかなり離れており、吊下げボルトを極端に斜めにした状態で防振具を設置しなければならない場合であっても、コイルスプリングを袋形状の弾性材で覆っているため、防振具本体とコイルスプリングが直接接触することがなく、防振具本体からコイルスプリングを介して吊りボルトへ伝わる振動が弾性材で低減され、防振効果が阻害されるのを最小限に抑えることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の吊下げ式防振具において、前記2つの弾性材は、前記防振具本体の上辺部に装着され、前記コイルスプリングの上部を覆って水平方向のズレを拘束するゴムキャップと、前記防振材の下端に装着され、前記防振材の外側全体を覆うゴムブーツであるので、ゴムキャップでコイルスプリングの水平方向のズレを拘束すると共に、ゴムブーツでコイルスプリングの外側全体を覆うことで、前記作用効果を発揮することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかに記載の吊下げ式防振具において、前記防振材は、前記防振具本体の上辺部側に取り付けられ、前記防振具本体の下辺部には、前記防振材止め付け用のナットを締める電動工具のソケット部分を挿通可能な大きさの孔が形成され、この孔に前記振動機器と前記防振具本体とを繋ぐ吊りボルトが挿通されて前記防振具本体に止め付けられているので、前記作用効果に加え、防振材を上の吊りボルトに止め付けるナットも、防振具本体を振動機器と接続する下の吊りボルトに止め付けるナットも両方とも、電動工具を使って締め付けることができる。そのため、背景技術で述べた前記(2)の問題を解決し、吊下げ式防振具の取り付け作業を省力化することができ、設置コストも下げることができる。また、下辺部に設けた孔が大きいので、振動機器を繋ぐ吊りボルトの鉛直面との設置角度の自由度が高まり、インサートの位置と振動機器の設置位置とが離れている場合でも吊下げ式防振具を容易に設置して防振効果を発揮することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の吊下げ式防振具において、構造躯体に埋設されて前記吊りボルトを螺着するインサートの直下に前記防振具本体の上辺部及び前記防振部材が取り付けられているので、前記作用効果に加え、少なくともインサートに螺着する吊りボルトと、その吊りボルトに止め付ける防振材は、略鉛直に設置することができる。そのため、背景技術で述べた前記(3)の問題を解決し、確実に防振効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の吊下げ式防振具の使用状態を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具を示す正面図である。
【図3】同上の吊下げ式防振具を、中心を通る鉛直面で切断した状態を示す断面図である。
【図4】実施の形態に係る防振具本体を示す正面図である。
【図5】実施例1に係る防振材を示す正面図である。
【図6】実施例2に係る防振材を示す斜視図である。
【図7】実施の形態に係る上弾性材であるゴムキャップを示す正面図である。
【図8】実施の形態に係る下弾性材であるゴムブーツを示す正面図である。
【図9】インサートと振動機器の設置位置がズレている場合の吊下げ式防振具の取り付け状態を示す説明図である。
【図10】実施の形態に係る吊下げ式防振具の取り付け手順1を示す説明図である。
【図11】実施の形態に係る吊下げ式防振具の取り付け手順2を示す説明図である。
【図12】実施の形態に係る吊下げ式防振具の取り付け手順3を示す説明図である。
【図13】実施の形態に係る吊下げ式防振具を用いて配管を吊下げた状態を示す図1の別例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明に係る吊下げ式防振具の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
<実施の形態>
図1〜図8を用いて、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具の使用状態(取付状態)を示す説明図である。図1において、ACが振動を発生させる振動機器の一実施の形態として例示する空調機であり、1が本発明の吊下げ式防振具の一実施の形態として例示する防振ハンガーである。空調機ACは、図1に示すように、構造躯体である上階の床のコンクリートスラブCSに吊りボルト(上吊りボルトB1,下吊りボルトB2)で吊下げられて支持されており、この吊りボルトは、デッキプレートDP上に所定間隔(一般的には、900mmピッチ)でコンクリート打設前に予め設置された天井インサートTIに螺着することでコンクリートスラブCSに支持される構成となっている。
【0027】
防振ハンガー1は、この吊りボルトの途中、即ち、上吊りボルトB1と下吊りボルトB2との間に介装され、後述の防振材を介して空調機ACやその配管などを弾性支持することで、空調機ACから発生する振動のうち、主にその上下振動成分を吸収してコンクリートスラブCSへの伝播を防止する吊下げ式の防振具としての機能を有している。なお、吊りボルトは、呼び径10の全ねじボルトが使用されることが一般的であるため、図示形態は、上吊りボルトB1と下吊りボルトB2とも呼び径10の全ねじボルトを例示している。勿論、3/8、1/2ボルトなどの他の規格のボルトでも適用可能であることはいうまでもない。
【0028】
図2は、防振ハンガーを示す正面図であり、図3は、防振ハンガーをその中心を通る鉛直面で切断した状態を示す断面図である。図2、図3に示すように、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具である防振ハンガー1は、空調機AC(図1参照)の荷重を支える防振具本体であるハンガーボックス2と、このハンガーボックス2に装着されて空調機ACの振動を吸収する防振材であるテーパコイルスプリング3と、このテーパコイルスプリング3とハンガーボックス2との間に介装される第1の弾性材であるゴムキャップ4と、テーパコイルスプリング3と吊りボルトB2との間に介装される第2の弾性材であるゴムブーツ5と、から主に構成されている。
【0029】
(防振具本体)
図4は、防振具本体の実施の形態であるハンガーボックス2を示す防振ハンガー1の部品図である。このハンガーボックス2は、一般構造用圧延鋼材(SS400)から、図4及び図3に示すように、上辺部21及び下辺部22と左右一対の側辺部23,24を有する中空矩形状(正面及び背面が開口したボックス状)に折り曲げて加工された枠体からなり、空調機AC(図1参照)の荷重を支えて、吊りボルトを上吊りボルトB1と下吊りボルトB2とに離間して(縁を切って)後述の防振材を介在させることにより空調機ACを弾性支持することができるようにするためのものである。また、枠体全体が細長く小型に加工されているので、狭隘なスペースでも防振ハンガー1が設置できるようになっている。
【0030】
また、このハンガーボックス2の上辺部21には、上吊りボルトB1(呼び径10の全ねじボルト又は六角押しボルト)を遊嵌して後述のゴムキャップを内側に嵌着可能な所定径(図示形態では直径φ=25mm)の上孔21aが穿設され、下辺部22には、上吊りボルトB1と螺合するナットを締め付ける電動工具のソケット部分(図10参照)が挿通可能な所定径(図示形態では直径φ=25mm)の下孔22aが穿設されている。
【0031】
ここで、ハンガーボックス2に設けられた貫通孔(特に下孔22a)は、遊挿する吊りボルトより大きいため、図9に示すように、天井インサートTIの設置位置と空調機ACの設置位置がズレている場合であっても、下吊りボルトB2を斜めに設置することで防振ハンガー1を用いて空調機ACを設置することが可能となり、設置の自由度が高まると共に、後述のように、電動工具によりナットを締め付けることができるので、手締めで施工する場合に比べて防振ハンガー及び空調機の設置時間を遥かに短縮することができる。
【0032】
なお、ハンガーボックス2として一般構造用圧延鋼材(SS400)から加工されたものを例示したが、このような鋼製のものに限られるものではなく、1つの吊りボルトに掛かる荷重(例えば、空調機ACを4点吊りで支持した場合は、空調機ACの4分の1の荷重)を支えることができる程度の引張り許容耐力があれば、特に材質が限定されるものではない。
【0033】
(防振材)
図5は、実施例1に係る防振材であるテーパコイルスプリング3の正面図である。防振材の実施例1に係る形態は、ばね用硬鋼線からなるコイルスプリングであり、図5に示すように、そのコイルスプリングのコイル径がハンガーボックス2の上辺部21から離れるに従って、即ち、下方に行くに従って、(円錐台に内接するように)徐々に小さくなっていくように形成されたテーパコイルスプリング3となっている。
また、このテーパコイルスプリング3のバネ定数は、空調機ACが発生させる約20Hz付近の振動数と共振しない範囲(例えば、14Hz以下好ましくは約3〜6Hz)のものに設定されている。
【0034】
このテーパコイルスプリング3は、図3に示すように、ハンガーボックス2の上辺部21の下に後述のゴムキャップ4を介して装着され、上孔21aに挿通された上吊りボルトB1に、この上吊りボルトB1と螺合するボルトで止め付けられ、空調機AC(図1参照)から下吊りボルトB2と、この下吊りボルトB2に止め付けられているハンガーボックス2を経由して伝達される振動を吸収して上吊りボルトB1へ伝達しないようにする機能を有している。また、止め付けるナットは、図示するように、振動等で経時的に緩まないように二重ナットとなっている。
なお、二重ナットとするのではなく上吊りボルトB1を六角押しボルトとしてもよい。
【0035】
図6は、実施例2に係る防振材であるテーパゴムスプリング3’を示す斜視図である。防振材の実施例2に係る形態は、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM樹脂)などの弾性樹脂(ゴム材)から、図6に示すように、その外形がハンガーボックス2の上辺部21から離れるに従って、即ち、下方に行くに従って直径が小さくなる円錐台形状に形成されたテーパゴムスプリング3’となっている。装着位置や装着方法は、実施例1と同様のため説明を省略する。
【0036】
このように、実施例1及び2に係る防振材によれば、その外形が下方に行くに従って直径が徐々に小さくなる円錐台形状となっているので、図9に示すように、天井インサートTIの設置位置と空調機ACの設置位置がズレており、下吊りボルトB2を無理やり斜めに設置して、ハンガーボックス2が少々傾いている状態で防振ハンガー1を取り付けても、ハンガーボックス2に防振材であるテーパコイルスプリング3,テーパゴムスプリング3’が接触するおそれが少なく、確実に防振効果を発揮することができる。
【0037】
なお、防振材の材質は、例示したばね用硬鋼線や弾性樹脂に限られず、外形が円錐台形状であり、空調機ACが発生させる約20Hz付近の振動数と共振しない範囲の固有振動数を示すものであれば使用することができる。但し、実施例1に係るテーパコイルスプリング3のような上下方向には空気層が介在するコイルスプリング形状とした方が、実施例2に係るテーパゴムスプリング3’のようなゴム材などの固体が上下方向に連続した固体密実形状の防振材に比べて上下の疎密振動を減衰する効果が高く、空調機ACの上下振動の伝播を確実に防止することができる。
【0038】
(第1の弾性材)
図7は、第1の弾性材の実施の形態であるゴムキャップ4を示す正面図である。このゴムキャップ4は、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM樹脂)などの弾性樹脂(ゴム材)からなり、図7、図3に示すように、その上部4aに係止溝4bが形成され、下部4cがテーパコイルスプリング3の上部を覆う袋状(キャップ状)に形成されている。
【0039】
このゴムキャップ4は、上部4aの係止溝4bが、ハンガーボックス2の上孔21aの内側に嵌着され、下部4cの袋状の内部にテーパコイルスプリング3の上部が納められており、上吊りボルトB1とハンガーボックス2との間に介在することで、上吊りボルトB1への振動の伝達を低減する機能を有している。
また、テーパコイルスプリング3の上部を覆うことで、テーパコイルスプリング3の上部の水平方向の位置ズレを防止する機能も有している。
【0040】
(第2の弾性材)
図8は、第2の弾性材の実施の形態であるゴムブーツ5を示す正面図である。このゴムブーツ5は、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM樹脂)などの弾性樹脂(ゴム材)からなり、図8、図3に示すように、最上部の外径が32mmで最下部の外径が25mmの全体として逆円錐台形状で、上方が開口してテーパコイルスプリング3全体を覆う袋状(ブーツ状)に形成されていると共に、ゴムキャップ4への嵌め込み代5aの下から底面に亘ってテーパコイルスプリング3の伸縮に追従可能なように蛇腹部5bが形成され、その底部5cには、ナットなどの金属部品との摺接による磨耗を防ぐため、補強用の平座金5dが嵌め込まれている。
この平座金5dは、直径20mm厚さ2mmの座金であり、呼び径10の全ねじボルト(吊りボルトB2)が挿通可能な直径10.5mmの孔が穿孔されている。
【0041】
このゴムブーツ5は、前述のテーパコイルスプリング3を収納してゴムキャップ4の下部4cの内側に嵌め込まれると共に、前記上吊りボルトの下端にナットで止め付けられており、テーパコイルスプリング3の伸縮性を阻害せずに、上吊りボルトB1とテーパコイルスプリング3との間に介在することで上吊りボルトB1への振動の伝達を低減する機能を有している。
また、テーパコイルスプリング3の外側全体を覆うことで、取り付け作業員がテーパコイルスプリング3のスプリング同士の間に指を挟んでしまうおそれをなくし、安全性を向上させる機能も有している。
【0042】
なお、以上説明したゴムキャップ4とゴムブーツ5との相対関係は、上下及び内外が入れ替わっていてもよく、ゴムブーツ5のようにテーパコイルスプリング3の外側全部を覆う形状ではなく、ゴムキャップとゴムブーツとが互いにテーパコイルスプリング3を半分ずつ覆う形状であっても構わない。
要するに、第1の弾性材と第2の弾性材のいずれか一方又は両方が防振材の全部又は一部を覆う袋形状となっており、防振材の伸縮を妨げず、ある程度の伸縮の繰り返しに対して耐久性がある素材であればゴム材等に限られず使用可能である。
【0043】
<防振ハンガーの取り付け手順>
次に、図10〜12を用いて防振ハンガーの取り付け手順について説明する。
(取り付け手順1)
先ず、構造躯体であるコンクリートスラブCSに埋設された天井インサートTIに六角押しボルトや予めダブルナットを螺合し適当な長さに切断した全ねじボルトを電動工具(例えば、電動ナットドライバー)とソケットを用いて防振ハンガー1を装着する。このとき、装着する上吊りボルトB1は、短いボルトを使用するとよい。短い上吊りボルトB1を使用することで、コンクリートスラブCSに埋設された天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがズレている場合であっても、防振材を天井インサートTIの直下に配置して、下吊りボルトB2から下方を斜めに設置することで対応することができるため、防振材の伸縮変位の方向をなるべく鉛直方向に近くなるように設置することができ、効率よく有害な上下振動の構造躯体への伝播を防止して、確実に防振効果を発揮することができるからである。
【0044】
また、ハンガーボックス2の下辺部22に穿孔された下孔22aは、上吊りボルトB1と螺合するナット(又は六角押しボルトの頭部分)を締める電動工具のソケットを挿通可能な大きさを有しているため、防振ハンガー1を電動工具で容易、且つ、短時間で上吊りボルトB1に止め付けることができる。このため、取付作業の作業時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
(取り付け手順2)
次に、図11に示すように、ハンガーボックス2の下孔22aに全ねじボルトからなる下吊りボルトB2を挿入し、ハンガーボックス2の下辺部22の上面及び下面に下辺部22の内径より所定径大きいワッシャを噛ましたうえ、ナットで締め付けて防振ハンガー1に下吊りボルトB2を装着する。このときも、下吊りボルトB2の下方に障害物がないので電動工具でのナットの締め付けが可能であり、取付作業の作業時間の短縮を図ることができる。
【0046】
(取り付け手順3)
最後に、図12に示すように、空調機ACのブラケットを下吊りボルトB2の下端部に下吊りボルトB2と螺合するナットで止め付けることにより防振ハンガー1を介して空調機ACを構造躯体であるコンクリートスラブCSに吊下げ支持する取付作業が終了する。なお、このときも電動工具でナットの締め付けが可能であり、取付作業の作業時間の短縮を図ることができるだけでなく、空調機ACの水平レベル調整も容易にすることができる。
【0047】
<防振ハンガーの作用効果>
以上説明した本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具である防振ハンガー1によれば、防振材(テーパコイルスプリング3又はテーパゴムスプリング3’)の外形が逆円錐台形状となっているので、天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがズレている場合であっても、ハンガーボックス2と防振材とが接触するおそれが少なく、確実に防振効果を発揮することができる。
【0048】
また、ゴムブーツ5がテーパコイルスプリング3全体を覆っているので、テーパコイルスプリング3を設置してナットを締め付ける際に誤ってコイル同士の間に手や工具等を挟んでしまうことがなく、作業員が怪我する危険を減らして、取り付け作業の安全性を向上させることができる。それに加え、天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがかなり離れており、下吊りボルトB2を極端に斜めにした状態で防振ハンガー1を設置しなければならない場合であっても、テーパコイルスプリング3をゴムブーツ5で覆っているため、ハンガーボックス2とテーパコイルスプリング3とが直接接触することがなく、ハンガーボックス2からテーパコイルスプリング3を介して吊りボルトへ伝わる振動がゴムブーツ5で低減され、防振効果が阻害されるのを最小限に抑えることができる。
【0049】
更に、防振材を上吊りボルトB1に止め付けるナットも、ハンガーボックス2を下吊りボルトB2に止め付けるナットも両方とも、電動工具を使って締め付けることができる。そのため、手作業を減らすことにより防振ハンガー1の取り付け作業を省力化することができ、設置コストも下げることができる。また、下孔22aが大きいので、空調機ACを繋ぐ下吊りボルトB2の設置角度の自由度が高まり、天井インサートTIの埋設位置と空調機ACを取り付ける位置とが離れている場合でも防振ハンガー1を容易に設置して防振効果を発揮することができる。
【0050】
以上のように、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具として防振ハンガー1を図示形態で設置する場合を説明したが、この防振ハンガー1は、図示形態と上下を逆に設置した場合であっても、防振具としての機能を発揮することは可能である。但し、逆に設置した場合は、天井インサートTIの位置と空調機ACの設置位置とがズレている場合、防振材であるテーパコイルスプリング3が止め付けられた吊りボルトB2の方を斜めに配置しなければならず、上下振動の防振効果が阻害する要因となる。
また、振動機器として空調機ACを例示して説明したが、振動機器は、図13に示すように、配管などであっても構わない。
【0051】
そして、本発明の実施の形態に係る吊下げ式防振具として図面で示した各構成部材の形状や構造等も、あくまでも好ましい一例を示すものであり、特許請求の範囲内で適宜設計変更が可能であることは云うまでもない。特に、構造躯体としてS造の建築物におけるデッキプレートの上に打設されたコンクリートスラブを例示したが、これに限られず、RC造の建物における床コンクリートスラブ、S造の建物における鉄骨の梁やビーム、又は屋根の垂木や斜材など、振動機器を支持可能な構造躯体であれば本発明を適用することができる。
また、ゴムブーツ5の蛇腹部5bも、外形がR形状に丸く加工されたものを図示したが、断面が直線をジグザグに連ねた単純な蛇腹形状であっても構わない。
【符号の説明】
【0052】
1 防振ハンガー(吊下げ式防振具)
2 ハンガーボックス(防振具本体)
3 テーパコイルスプリング(防振材)
3’ テーパゴムスプリング(防振材)
4 ゴムキャップ(第1の弾性材)
5 ゴムブーツ(第2の弾性材)
AC 空調機(振動機器)
B1 上吊りボルト(吊りボルト)
B2 下吊りボルト(吊りボルト)
CS コンクリートスラブ(構造躯体)
TI 天井インサート(インサート)
DP デッキプレート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上辺部及び下辺部を有し、振動が発生する振動機器を吊り下げる吊りボルトの途中に介装されて前記振動機器の荷重を支える防振具本体と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて前記振動機器の振動を吸収する防振材と、この防振材と前記防振具本体との間及び前記防振材と前記吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材と、を備え、前記振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具であって、
前記防振材は、その外形が円錐台形状となっていることを特徴とする吊下げ式防振具。
【請求項2】
前記防振具本体は、前記上辺部及び下辺部と左右一対の側辺部を有する中空矩形状の枠体からなることを特徴とする請求項1に記載の吊下げ式防振具。
【請求項3】
前記防振材は、前記防振具本体の上辺部又は下辺部から離れるに従ってコイル径が小さくなっていくコイルスプリングであることを特徴とする請求項1又は2に記載の吊下げ式防振具。
【請求項4】
前記2つの弾性材は、いずれか一方又は両方が前記コイルスプリングの全部又は一部を覆う袋形状となっていることを特徴とする請求項3に記載の吊下げ式防振具。
【請求項5】
前記2つの弾性材は、前記防振具本体の上辺部に装着され、前記コイルスプリングの上部を覆って水平方向のズレを拘束するゴムキャップと、前記防振材の下端に装着され、前記防振材の外側全体を覆うゴムブーツであることを特徴とする請求項4に記載の吊下げ式防振具。
【請求項6】
前記防振材は、前記防振具本体の上辺部側に取り付けられ、
前記防振具本体の下辺部には、前記防振材止め付け用のナットを締める電動工具のソケット部分を挿通可能な大きさの孔が形成され、この孔に前記振動機器と前記防振具本体とを繋ぐ吊りボルトが挿通されて前記防振具本体に止め付けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の吊下げ式防振具。
【請求項7】
構造躯体に埋設されて前記吊りボルトを螺着するインサートの直下に前記防振具本体の上辺部及び前記防振部材が取り付けられていることを特徴とする請求項6に記載の吊下げ式防振具。
【請求項1】
上辺部及び下辺部を有し、振動が発生する振動機器を吊り下げる吊りボルトの途中に介装されて前記振動機器の荷重を支える防振具本体と、この防振具本体の上辺部と下辺部との間に配設されて前記振動機器の振動を吸収する防振材と、この防振材と前記防振具本体との間及び前記防振材と前記吊りボルトとの間に介装される上下2つの弾性材と、を備え、前記振動機器の振動の伝播を防止する吊下げ式防振具であって、
前記防振材は、その外形が円錐台形状となっていることを特徴とする吊下げ式防振具。
【請求項2】
前記防振具本体は、前記上辺部及び下辺部と左右一対の側辺部を有する中空矩形状の枠体からなることを特徴とする請求項1に記載の吊下げ式防振具。
【請求項3】
前記防振材は、前記防振具本体の上辺部又は下辺部から離れるに従ってコイル径が小さくなっていくコイルスプリングであることを特徴とする請求項1又は2に記載の吊下げ式防振具。
【請求項4】
前記2つの弾性材は、いずれか一方又は両方が前記コイルスプリングの全部又は一部を覆う袋形状となっていることを特徴とする請求項3に記載の吊下げ式防振具。
【請求項5】
前記2つの弾性材は、前記防振具本体の上辺部に装着され、前記コイルスプリングの上部を覆って水平方向のズレを拘束するゴムキャップと、前記防振材の下端に装着され、前記防振材の外側全体を覆うゴムブーツであることを特徴とする請求項4に記載の吊下げ式防振具。
【請求項6】
前記防振材は、前記防振具本体の上辺部側に取り付けられ、
前記防振具本体の下辺部には、前記防振材止め付け用のナットを締める電動工具のソケット部分を挿通可能な大きさの孔が形成され、この孔に前記振動機器と前記防振具本体とを繋ぐ吊りボルトが挿通されて前記防振具本体に止め付けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の吊下げ式防振具。
【請求項7】
構造躯体に埋設されて前記吊りボルトを螺着するインサートの直下に前記防振具本体の上辺部及び前記防振部材が取り付けられていることを特徴とする請求項6に記載の吊下げ式防振具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−127438(P2012−127438A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280346(P2010−280346)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(502173361)株式会社TOZEN (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(502173361)株式会社TOZEN (7)
【Fターム(参考)】
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