説明

吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法

【課題】低粉じんで、人体に対するアルカリ刺激が少ない吹付け環境を実現でき、セメント量を過剰に配合したコンクリート使用しなくても凝結性に優れた吹付け施工が可能となる吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法を提供する。
【解決手段】1)セメント、骨材、アルギン酸類、及びアルミナセメントを含有するセメントコンクリートと、硫酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムとフッ素化合物を含有する液体急結剤と、からなる吹付け材料、さらに、アルミナセメント、凝結調整剤、ポリマーエマルジョン、スラグ、フライアッシュ、及びシリカフュームの中から選ばれる少なくとも1種を含有する該吹付け材料、該吹付け材料を用いる吹付け工法、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用される吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために急結剤をコンクリートに配合した急結コンクリートの吹付工法が行われている(特許文献1)。この工法は、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、アジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で、他方から圧送した急結剤と混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
【0003】
従来から使用されている急結剤としては、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩等との混合物、焼ミョウバン、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩等の混合物、カルシウムアルミネートと3CaO・SiOとの混合物、消石灰、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩の混合物等が知られている(特許文献2〜5)。
これらの急結剤は、セメントの凝結を促進させる働きがあり、いずれもセメントコンクリートと混合して地山面に吹付けられる。急結剤は地山の緩みを早期に抑えるために吹付けコンクリートには必要な混和剤である。
近年では、粉じん発生量が少なく、人体に対するアルカリ刺激性が少ない作業環境を配慮した硫酸アルミニウム等を主成分とする液体急結剤の使用も増加している(特許文献6〜8)。しかしながら、吹付け直後からの凝結速度が一般の急結剤に比べ遅く、湧水などがある場合や厚付けした場合には、はく落する場合があった。また、セメント量を増加したコンクリート配合で吹き付けると凝結速度の問題は解決する傾向を示すが、材料コストが大幅に上がるといった経済的なデメリットがある。
一方、粉塵発生量が少ない工法として、粉体急結剤を水でスラリー(懸濁液)化しコンクリートに添加して吹付けを実施する技術が知られている(特許文献9〜11)。しかしながら、この方法は、粉じん発生量は低減でき、初期の凝結性状も改善できるが、スラリー化した急結剤はアルカリ性を示し、人体に対するアルカリによる刺激性の点が懸念される。
【0004】
そのため、セメントコンクリートに、カルシウムアルミネート、アルカリ金属硫酸塩、セッコウ、保水性物質を含有してなる急結剤と、アルミニウム、イオウを含有してなるスラリー水とを別々に圧送して合流混合したスラリー急結剤を含有してなる吹付け材料が開発されている(特許文献11)。この方法は、アルミニウム、イオウを含有する酸性のスラリー水でカルシウムアルミネートを含む急結剤をスラリー化してコンクリートに添加する方式であるため人体に対する刺激性が少なく、凝結速度も一般の急結剤と同等レベルであることから初期の強度発現性が良好となる面で優れている。しかしながら、カルシウムアルミネートを含む粉体の急結剤を空気搬送するシステムと酸性のスラリー水を圧送するシステムが必要となり、吹付けシステムとして複雑になり、設備コストが向上するという課題があった。
【0005】
アルギン酸塩を適用した吹付け技術としては、アルギン酸塩と、ポリアクリル酸塩及び/又はポリアクリルアミド類からなるリバウンド低減剤と急結剤を用いる技術が知られている(特許文献12)。この技術は、粉体の急結剤に適用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭60−4149号公報
【特許文献2】特開昭64−051351号公報
【特許文献3】特公昭56−27457号公報
【特許文献4】特開昭61−026538号公報
【特許文献5】特開昭63−210050号公報
【特許文献6】特開2005−60201号公報
【特許文献7】特開2005−89276号公報
【特許文献8】特開2008−30999号公報
【特許文献9】特開平05−139804号公報
【特許文献10】特開平05−097491号公報
【特許文献11】特開2007−277051号公報
【特許文献12】特開2001−261397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アルギン酸類等を含有するセメントコンクリートに、硫酸アルミニウムとフッ素化合物を含有する急結剤を適用することで、低粉じんで、人体に対するアルカリ刺激の少ない吹付け環境を適用でき、さらに、セメント量を過剰に配合したコンクリート使用しなくても凝結性に優れた吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、(1)セメント、骨材、アルギン酸類、及びアルミナセメントを含有するセメントコンクリートと、硫酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムとフッ素化合物を含有する液体急結剤と、からなる吹付け材料、(2)セメント100質量部に対してアルギン酸類が0.01〜5質量部である(1)の吹付け材料、(3)セメント100質量部に対してアルミナセメントが0.2〜20質量部である(1)又は(2)の吹付け材料、(4)さらに、凝結調整剤を含有する(1)〜(3)のうちのいずれかの吹付け材料、(5)さらに、ポリマーエマルジョン、スラグ、フライアッシュ、及びシリカフュームの中から選ばれる少なくとも1種を含有する(1)〜(4)のうちのいずれかの吹付け材料、(6)(1)〜(5)のうちのいずれかの吹付け材料を用いる吹付け工法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、低粉じんで、人体に対するアルカリ刺激が少ない吹付け環境を実現でき、セメント量を過剰に配合したコンクリートを使用しなくても凝結性に優れた吹付け施工が可能となる。また、吹付けシステムも粉体の輸送装置が不要となり、液体急結剤の圧送ポンプがあれば対応できるため簡単なシステムで吹付け施工ができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用するセメントとは、普通、早強、超早強、低熱、又は中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、ブレーン比表面積で2000cm/g以上の石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合したフィラーセメント、さらに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)等のポルトランドセメントが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0011】
本発明で使用するアルギン酸類とは、褐藻などに含まれる多糖類で食物繊維の一種であり、α-L-グルロン酸、β-D-マンヌロン酸がピラノース型で1,4−グリコシド結合で結合した構造を有するものである。アルギン酸類は、セメントコンクリートに添加すると適度な粘性を付与し、さらに可溶性のアルミニウムイオンが多量に存在すると強固なゲルを形成する作用を示す。このような強固なゲル形成は、アルミン酸塩、ケイ酸塩等を含む液体急結剤と組み合わせた場合には見られない特性である。また、粉体のカルシウムアルミネート系急結剤やそれをスラリー状にしたスラリー急結剤に適用した場合、著しく強度発現が阻害される現象が認められる。一方、アルギン酸類以外の粘性を付与する物質であるセルロースエーテル類やポリオキシアルキレングリコール類を併用しても強固なゲル形成は認められない。
アルギン酸類は、水溶性の点からアルカリ金属であるナトリウム、カリウム、リチウム、アルカリ土類金属であるカルシウム、マグネシウム等の塩の使用が好ましい。これらの中で、入手しやすさの点でアルギン酸のナトリウムやカルシウム塩の使用が好ましい。
本発明のアルギン酸類の使用量は、セメント100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。0.01質量部未満では、急結剤を添加したときの強ばり状態が不十分な場合があり、5質量部を越えると、必要なセメントコンクリートの流動性が得られない場合がある。
本発明のアルギン酸類はセメントコンクリートを練り混ぜるときに添加しておくことが好ましい。添加方法は特に限定するものではないが、粉体で直接添加する方法や、練り水に溶解して水溶液として添加する方法何れも可能である。
【0012】
本発明のアルミナセメントは、より凝結性を向上させる効果を付与する目的で使用するものである。
本発明のアルミナセメントとは、通常市販されているものが使用できる。例えば、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号(特徴として1号より鉄分が多い)、フォンデュ(特徴として2号よりさらに鉄分が多い)などが使用できる。さらに、アルミ分とカルシウム分以外の成分を極力少なくした純度の高いアルミナセメントも使用できる。
本発明で使用するアルミナセメントの使用量は、セメント100質量部に対して、0.2〜20質量部が好ましく、1〜15質量部がより好ましい。0.2質量部未満では、凝結性を向上させることが難しく湧水下での付着が確保できない場合があり、20質量部を越えると適切なセメントコンクリートの流動性を確保することが難しくなる場合がある。
【0013】
本発明の硫酸アルミニウムとは、セメントの凝結を促進する成分であり、通常市販されているものが使用できる。例えば、粉末状の硫酸アルミニウムが挙げられ、無水塩や含水塩いずれも使用できる。また、液状で市販されている硫酸アルミニウム水溶液を使用することも可能である。
【0014】
本発明のフッ素化合物とは、水に溶解又は分散する化合物であれば特に限定されるものではなく、フッ化塩、ケイフッ化塩、フッ化ホウ素塩、有機フッ素化合物、及びフッ化水素酸等のフッ素化合物が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。
フッ化塩としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、及びクリオライト等が挙げられる。クリオライトは天然物又は合成したものいずれも使用可能である。ケイフッ化塩としては、ケイフッ化アンモニウム、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム、及びケイフッ化マグネシウム等が挙げられる。フッ化ホウ素塩としては、フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素モノエチルアミンコンプレックス、三フッ化ホウ素酢酸コンプレックス、及び三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、ホウフッ化アンモニウム、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化カリウム、及びホウフッ化第一鉄等が挙げられる。
本発明では、安全性が高く、製造コストが安く、かつ、凝結性状が優れる点から、フッ化塩やケイフッ化塩、又はフッ化水素酸が好ましい。
フッ素化合物の使用量は、硫酸アルミニウム100質量部に対して3〜38質量部が好ましい。3質量部未満では、凝結の伸びが期待できず湧水下での付着が悪い場合があり、38質量部を越えると凝結を阻害し付着を悪く可能性がある。
【0015】
本発明の硫酸アルミニウムとフッ素化合物を主成分とする液体急結剤の固形分は、25〜35質量%が好ましい。25質量%未満では十分な凝結力が得られず、湧水下での付着を得ることが難しい場合があり、35質量%を越えると温度変化による析出物が発生し貯蔵安定性が悪くなる可能性がある。
【0016】
本発明の液体急結剤の使用量は、セメント100質量部に対して固形分で0.5〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。0.5質量部未満では、十分な凝結力を与えることが難しく湧水下での付着が確保できない場合があり、5質量部を越えると、水セメント比が増加しすぎて、液体急結剤添加直後の強ばりを阻害し湧水下での付着が得られない場合がある。
【0017】
本発明の凝結調整剤とは、練り混ぜたセメントコンクリートの可使時間を調整する目的で使用する。例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酪酸、乳酸、及びサリチル酸、並びにそれらのアルカリ金属塩に代表されるオキシカルボン酸類、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、亜硫酸塩、水酸化物等の無機塩類、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、及びこれらの誘導等のアルカノールアミン類、ぎ酸、酢酸、及びプロピオン酸等のモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、及びフタル酸等のジカルボン酸類、リメリト酸やトリカルバリリル酸等のトリカルボン酸類、アスパラギン酸やグルタミン酸等のアミノカルボン酸類、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やトランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CyDTA)等のアミノポリカルボン酸類、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)〔EDTPO〕、エチレンジアミンジ(メチレンホスホン酸)〔EDDPO〕、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)〔NTPO〕、1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸〔HEDPO〕等のホスホン酸類、リン酸、トリポリリン酸、及びヘキサメタリン酸等の縮合リン酸類、アセチルアセトンやヘキサフルオロアセチルアセトン等のジケトン類等が挙げられる。また、これらを2種以上併用して使用することも可能である。
これらの中で、流動性を良好にし、液体急結剤を添加したときに、凝結性や強度発現性に影響を与えにくい、オキシカルボン酸類や、オキシカルボン酸類と無機塩を併用したものの使用が好ましい。
本発明の凝結調整剤の使用量は、セメント100質量部に対して0.02〜3質量部が好ましく、0.1〜2質量部がより好ましい。0.02質量部未満では、流動性を向上する効果がない場合があり、3質量部を越えると、液体急結剤を添加したときの強度発現性を阻害する場合がある。
【0018】
本発明のポリマーエマルジョン、スラグ、フライアッシュ、シリカフュームとは、セメントコンクリートに適度な粘りを与える以外に、硬化体の緻密性を向上させる効果を示す材料である。
本発明のポリマーエマルジョンとしては、特に限定されるものではないが、JIS A 6203に規定されているセメント混和剤ポリマーディスパージョンであれば使用可能である。例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及び天然ゴム等のゴムラテックスや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、及びスチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体等の樹脂エマルジョン等が挙げられる。ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプがある。これらを混合して使用してもよい。
【0019】
本発明のスラグとは、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、転炉スラグ、電気炉還元期スラグ等が挙げられ、一般に市販されているものが使用できる。スラグの粒度は、特に限定するものではないが、ブレーン値(ブレーン比表面積)で3,000cm/g以上が好ましい。
【0020】
本発明のフライアッシュとは、例えば、火力発電所から発生するものが使用でき、一般に市販されているものが使用できる。フライアッシュの粒度は特に限定するものではないが、ブレーン値で3,000cm/g以上が好ましい。
【0021】
本発明のシリカフュームとは、一般に市販されているものが使用できる。シリカフュームの粒度は特に限定するものではないが、BET比表面積で8m/g以上が好ましい。
【0022】
本発明のポリマーエマルジョン、スラグ、フライアッシュ、シリカフュームの使用量は、アルミナセメント100質量部に対して50〜300質量部が好ましい。
【0023】
本発明のセメントコンクリートは、吹付けが可能であれば特に配合は限定されるものではない。一般的な配合としては、スランプ10cm程度、W/C=60質量%程度、s/a=60質量%程度、セメント量360kg/m程度、砂利の最大寸法13mmで実施されている場合が多く、高強度タイプでは、スランプ20cm程度、スランプフローで25〜35cm、W/C=40〜50質量%程度、s/a=60質量%程度、セメント量400〜500kg/m程度、砂利の最大寸法13mmで実施されている場合が多い。
【0024】
本発明で使用する骨材は、特に限定するものではなく、市販されているあらゆる骨材の使用が可能であり、吹付け施工に支障をきたさないものであれば問題ない。
【0025】
本発明では、吹付け施工及び硬化した吹付けコンクリートの性能に支障をきたさない範囲で、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、セルロースエーテル類、ポリエチレンオキサイド類、アルギン酸類以外の多糖類等の増粘剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子凝集剤、ベントナイト等の粘土鉱物やハイドロタルサイト等のアニオン交換体等の各種添加剤、無水セッコウ、ニ水セッコウ、半水セッコウ等のセッコウ類、アルミナセメント以外のカルシウムアルミネート類からなる群のうちの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0026】
本発明の吹付け方法は、特に限定するものではないが、圧送されてくる水を加えて練り混ぜたセメントコンクリートに急結剤を合流させて吹き付ける湿式吹付け工法や、ドライな状態でコンクリートと急結剤を圧送し、ノズル手前で水を合流させて吹き付ける乾式吹付け工法が可能である。
【実施例】
【0027】
「実験例1」
各材料の単位量、セメント400kg/m、細骨材1,058kg/m、粗骨材710kg/m、水200kg/m、セメント100質量部に対してアルミナセメントを8質量部、アルギン酸類を表に示すように加え、さらに、高性能減水剤4kg/mを加え吹付けコンクリートを調製し、この吹付けコンクリートを吹付け圧力0.4MPa、吹付け速度10m/hの条件下で、コンクリート圧送機「MKW−25SMT」によりポンプ圧送した。5m/minの圧縮空気でミスト化した液体急結剤をノズル先端から0.6mの位置に接続した合流管で圧送されてくるコンクリートと混合して吹き付けた。液体急結剤はセメント100質量部に対して固形分で2.5質量部となるように添加した。この急結性吹付けコンクリートについて厚付け性、湧水下の付着性、コンクリート圧縮強度を測定した。なお、比較のために、アルギン酸類及びアルミナセメントを除いたコンクリート配合で、市販の硫酸アルミニウムを主成分とする液体急結剤を用いて同じ試験を行った。結果を表1に示す。
【0028】
(使用材料)
高性能減水剤:ポリカルボン酸系、市販品
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.66、最大寸法13mm
細骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.62、最大寸法5mm
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
アルギン酸類a:アルギン酸ナトリウム、市販品
アルギン酸類b:アルギン酸カルシウム、市販品
セルロースエーテル類(CE):メチルセルロース、重合度1000、市販品
ポリオキシアルキレンオキサイド類(PEO):ポリエチレンオキサイド、重合度10000、市販品
アルミナセメント:アルミナセメント1号、市販品
液体急結剤(1):硫酸アルミニウム100質量部に対してフッ化ナトリウム15質量部の混合物を30質量%水溶液にしたもの。硫酸アルミニウム及びフッ化ナトリウムは市販品。
液体急結剤(2):硫酸アルミニウム、固形分濃度27質量%
液体急結剤(3):カルシウムアルミネート系、電気化学工業社製 商品名ナトミックTYPE−5
液体急結剤(4):アルカリ金属アルミン酸塩系、電気化学工業社製 商品名ナトミックTYPE−L
液体急結剤(5):ケイ酸ソーダ(3号水ガラス)、市販品
液体急結剤(6):カルシウムサルホアルミネート系、電気化学工業社製 商品名ナトミックUS−50
【0029】
(測定方法)
スランプ:JIS A 1101に準拠して測定した。測定は練り上がり直後とした。
厚付け性:吹付けノズルを1mの範囲で繰り返し動かしながら吹付けコンクリートを天井面に吹き付け、はく落するまでの厚みを計測した。30cm以上の厚みになったら良好な吹付け性と判断し試験を止めた。なお、試験を止めてから24時間以内ではく落した場合は厚付け性が不良と判断した。吹き付けた下地は鉄板。
湧水下の付着性:鉄板(幅90cm×高さ180cm)で垂直面を作り、その鉄板表面に沿って上部から水を流した。流水量は3L/min(鉄板幅の端部から22.5cm部、45cm部、67.5cm部に合計3箇所の流水孔を設け、各孔より1L/minの水を流した。)。その流水下の鉄板に向けてコンクリートを吹き付けたときの、付着状態を観察し、材齢1日後の付着強度を測定した。付着強度はコアドリルで円形の切れ目(φ5cm)を入れて建研式付着力試験機で測定した。
コンクリート圧縮強度:材齢1時間、24時間の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性吹付けコンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引き抜き、その時の引き抜き強度を求め、(圧縮強度)=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から圧縮強度を算出した。材齢28日の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性吹付けコンクリートを吹付け、1日後にコアドリルで採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定し、圧縮強度を求めた。測定までの養生は20℃水中養生とした。
【0030】
【表1】

【0031】
「実験例2」
セメント100質量部に対してアルギン酸類a0.5質量部、液体急結剤(1)を2.5質量部用い、アルミナセメントの量を表に示すように変えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
「実験例3」
アルギン酸類aをセメント100質量部に対して0.5質量部、アルミナセメントを8質量部用い、急結剤中の硫酸アルミニウムとフッ化ナトリウムの量を表に示すように変えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0034】
(使用材料)
液体急結剤(7):硫酸アルミニウム100質量部に対してフッ化ナトリウム3質量部の混合物を30質量%水溶液にしたもの。硫酸アルミニウム及びフッ化ナトリウムは市販品
液体急結剤(8):硫酸アルミニウム100質量部に対してフッ化ナトリウム25質量部の混合物を30質量%水溶液にしたもの。硫酸アルミニウム及びフッ化ナトリウムは市販品
液体急結剤(9):硫酸アルミニウム100質量部に対してフッ化ナトリウム38質量部の混合物を30質量%水溶液にしたもの。硫酸アルミニウム及びフッ化ナトリウムは市販品
【0035】
【表3】

【0036】
「実験例4」
アルギン酸類aをセメント100質量部に対して0.5質量部とし、凝結調整剤の量を表に示すように変えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0037】
(使用材料)
凝結調整剤A:クエン酸ナトリウム 市販品
凝結調整剤B:クエン酸100質量部に対して炭酸カリウムを200質量部混合した混合物。炭酸カリウムは市販品
【0038】
【表4】

【0039】
「実験例5」
実験No.1-5、実験No.4-4の配合に下記に示す混和材を表に示すように加えた以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0040】
(使用材料)
ポリマーエマルジョン(P):アクリル−スチレン系共重合体系、粉末タイプ 市販品
シリカフューム(S):金属シリコン製造時の副産品 BET比表面積18m/g 市販品
高炉スラグ(B):ブレーン比表面積4600cm/g 市販品
フライアッシュ(F):ブレーン比表面積4200cm/g 市販品
【0041】
(測定方法)
空隙率:ASTM C 502(煮沸吸水試験)に準拠し測定した。試験体は圧縮強度試験と同様にコアで採取し、20℃で水中養生し材齢は28日後に測定した。
【0042】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、低粉じんで、人体に対するアルカリ刺激が少ない吹付け環境を実現でき、セメント量を過剰に配合したコンクリート使用しなくても凝結性に優れた吹付け施工が可能となる。また、吹付けシステムも粉体の輸送装置が不要となり、液体急結剤の圧送ポンプがあれば対応できるため簡単なシステムで吹付け施工ができるので、土木・建築業界で広範に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、アルギン酸類、及びアルミナセメントを含有するセメントコンクリートと、硫酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムとフッ素化合物を含有する液体急結剤とからなる吹付け材料。
【請求項2】
セメント100質量部に対してアルギン酸類が0.01〜5質量部であることを特徴とする請求項1記載の吹付け材料。
【請求項3】
セメント100質量部に対してアルミナセメントが0.2〜20質量部であることを特徴とする請求項1又は2記載の吹付け材料。
【請求項4】
さらに、凝結調整剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項記載の吹付け材料。
【請求項5】
さらに、ポリマーエマルジョン、スラグ、フライアッシュ、及びシリカフュームの中から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項記載の吹付け材料。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1項記載の吹付け材料を用いる吹付け工法。

【公開番号】特開2012−6782(P2012−6782A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143267(P2010−143267)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】