説明

回路接続部材およびその製造方法

【課題】充分な押込み耐性を有する回路接続部材を提供する。
【解決手段】厚み方向に伸びる複数の導電部と、これらを相互に絶縁する絶縁部とからなるシート状の回路接続部材であって、シートの厚み方向に対して直角をなす面での前記導電部の断面積が最小となる位置が、シートの表面と裏面との間に存在することを特徴とする回路接続部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路接続部材およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、回路素子相互間の電気的接続やプリント回路基板の検査装置におけるコネクターとして好ましく用いられる、異方導電性シートおよび異方導電性コネクターなどの回路接続部材ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異方導電性シートは、厚み方向にのみ導電性を示すもの、または厚み方向に加圧されたときに厚み方向にのみ導電性を示すものである。異方導電性シートは、ハンダ付けまたは機械的嵌合などの手段を用いずにコンパクトな電気的接続を行うことが可能であること、および機械的な衝撃やひずみを吸収してソフトな接続が可能であることなどの特長を有する。このため異方導電性シートは、電子計算機、電子式デジタル時計、電子カメラおよびコンピューターキーボードなどの分野において、回路素子、例えばプリント回路基板とリードレスチップキャリアー、液晶パネルなどとの相互間の電気的接続を実現するためのコネクターとして広く用いられている。
【0003】
また、プリント回路基板などの回路基板の電気的検査においては、検査対象である回路基板の一面に形成された被検査電極と、検査用回路基板の表面に形成された接続用電極との電気的接続を行うために、回路基板の被検査電極領域と検査用回路基板の接続用電極領域との間に異方導電性シートを介在させることが行われている。
【0004】
従来、このような異方導電性シートとしては、種々の構成を有するものが知られている。特許文献1には、導電性金属で被覆された導電性粒子が厚み方向に配向された状態で含有されてなる異方導電性シートが開示されている。特許文献2には、絶縁性シート体が、熱膨張係数の小さい弾性高分子材料により構成されていることを特徴とする異方導電性シートが開示されている。特許文献3には、異方導電性シート中に含まれる導電性粒子が、数平均粒子径がa[μm]である導電性粒子Aと、数平均粒子径がb[μm]である導電性粒子Bとを含有してなり、前記導電性粒子Aの数平均粒子径a[μm]と、前記導電性粒子Bの数平均粒子径b[μm]との粒子径比(a/b)が4〜9であることを特徴とする異方導電性シートが開示されている。特許文献4には、異方導電性シート中に含まれる導電性粒子の表面に、潤滑剤または離型剤が塗布されていることを特徴とする異方導電性シートが開示されている。特許文献5には、異方導電性シート中に含まれる導電性粒子の、数平均粒子径が5〜100μm、BET比表面積が0.01×103〜0.7×1032/kg、硫黄元素濃度が0.1質量%以下、酸素元素濃度が0.5質量%以下、炭素元
素濃度が0.1質量%以下であることを特徴とする異方導電性シートが開示されている。特許文献6では、フレーク状の導電性コート粒子を含有する異方導電性シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−235509号公報
【特許文献2】特開2000−243486号公報
【特許文献3】特開2001−015190号公報
【特許文献4】特開2002−170608号公報
【特許文献5】特開2002−173702号公報
【特許文献6】特開2007−194083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来、種々の構成を有する異方導電性シートが知られている。このような異方導電性シートとしては、導電性粒子を高分子材料中に均一に分散して得られる、いわゆる分散型異方導電性シートや、導電性磁性粒子を高分子材料中に不均一に分布させることにより、厚み方向に伸びる複数の導電部と、これらを相互に絶縁する絶縁部とが形成されてなる、いわゆる偏在型異方導電性シートがある。偏在型異方導電性シートは、回路基板などの電極パターンと対掌のパターンに従って導電部が形成されているため、分散型異方導電性シートに比較して、接続すべき電極が小さいピッチで配置されている回路基板などに対しても電極間の電気的接続を高い信頼性をもって行うことができる点で有利である。
【0007】
ところで、接続・検査対象の回路基板は、通常は平坦ではなく、段差を有していたり屈曲していたりする。特に、携帯電話などの素子を小スペースに接続するには、この段差や屈曲がより大きくなる傾向にある。
【0008】
したがって、異方導電性シートのような回路接続部材には、シートの押込み量(シートの変位量)に対する電気抵抗値の安定性(押込み耐性)、つまり、シートの厚み方向にかかる負荷量に対して電気抵抗値が一定である性能が求められている。
【0009】
しかしながら、従来の偏在型回路接続部材は、上記押込み耐性が充分ではなかった。本発明の課題は、充分な押込み耐性を有する偏在型回路接続部材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、回路接続部材(シート)の厚み方向に対して直角をなす面での導電部の断面積が最小となる位置が、シートの表面と裏面との間に存在するように導電部を形成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明およびその好ましい態様は、以下の[1]〜[7]に関する。
【0012】
[1]厚み方向に伸びる複数の導電部と、これらを相互に絶縁する絶縁部とからなるシート状の回路接続部材であって、シートの厚み方向に対して直角をなす面での前記導電部の断面積が最小となる位置が、シートの表面と裏面との間に存在することを特徴とする回路接続部材。
【0013】
[2]シートの厚み方向に対して直角をなす面での前記導電部の最小断面積が、その最大断面積の0.5倍以下であることを特徴とする前記[1]に記載の回路接続部材。
【0014】
[3]前記導電部が、導電性磁性粒子の集合体と高分子材料とから形成されていることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の回路接続部材。
【0015】
[4]前記高分子材料の25℃における粘度が、10Pa・s以上、400Pa・s未満であることを特徴とする前記[3]に記載の回路接続部材。
【0016】
[5]前記導電性磁性粒子が、有機または無機材料の表面の一部または全部を強磁性物質および導電性物質で被覆してなる被覆粒子であることを特徴とする前記[3]または[4]に記載の回路接続部材。
【0017】
[6]前記被覆粒子が、有機または無機材料の表面を強磁性物質で被覆してなる粒子を、さらに導電性物質で被覆してなることを特徴とする前記[5]に記載の回路接続部材。
【0018】
[7](1)25℃における粘度が10Pa・s以上、400Pa・s未満の高分子材料と導電性磁性粒子とを含有するシート形成材料からシート形成材料層を形成する工程、および(2)前記導電性磁性粒子に生じる磁気分極が0.2〜0.7Wb/m2となるよ
うに、前記シート形成材料層における導電部形成予定部の厚み方向に外部磁場を印加する工程を含むことを特徴とする前記[1]〜[6]の何れか一項に記載の回路接続部材の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、充分な押込み耐性(シートの押込み量(シートの変位量)に対する電気抵抗値の安定性)を有する回路接続部材およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)は、本発明の回路接続部材の一具体例であって、導電部の形状を示す図である。図1(b)は、従来の回路接続部材の導電部の形状を示す図である。
【図2】図2は、金型の一例の構成を示す説明用断面図である。
【図3】図3は、金型内にシート形成材料層を形成した説明用断面図である。
【図4】図4(a)は、実施例1で得られた回路接続部材の断面画像であり、図4(b)は、比較例1で得られた回路接続部材の断面画像である。
【図5】図5は、実施例および比較例の回路接続部材の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の回路接続部材およびその製造方法の詳細を説明する。
【0022】
〔回路接続部材〕
本発明の回路接続部材は、厚み方向に伸びる複数の導電部と、これらを相互に絶縁する絶縁部とからなるシート状の回路接続部材であって、シートの厚み方向に対して直角をなす面での前記導電部の断面積が最小となる位置が、シートの表面と裏面との間に存在することを特徴とする。以下では、導電部の断面積は、シートの厚み方向に対して直角をなす面での断面積を指すものとする。また、導電部の前記構造を、便宜上「くびれ構造」と称する。
【0023】
本発明では、導電部がくびれ構造を有するので、導電部中の導電性粒子の密度が上がり、また厚み方向への応力に対して導電部が強固となる結果、押込み耐性が向上すると考えられる。くびれ構造を有する導電部を形成するには、後述する方法を採用すればよい。
【0024】
本発明の回路接続部材は、厚み方向にのみ導電性を示すものでもよく、厚み方向に加圧されたときに厚み方向にのみ導電性を示すもの(加圧導電部を有するもの)でもよい。
【0025】
本発明の回路接続部材はシート状であり、そのシートの厚みには特に制限はなく、目的に応じて適宜決定することができ、通常は0.1〜10mmである。
【0026】
本発明の回路接続部材は、回路基板などの電極パターンと対掌のパターンに従って導電部が形成されているため、導電性粒子が回路接続部材の面方向に均一に分散した分散型回路接続部材と比較して、接続すべき電極が小さいピッチで配置されている回路装置などに対しても電極間の電気的接続を高い信頼性で達成することができる点で有利である。特に、導電部が絶縁部から突出するよう形成された回路接続部材は、被検査電極に対する接触が確実に行われる点でより有利である。
【0027】
図1(a)に本発明の回路接続部材の一具体例である回路接続部材1の、上面4および下面5に垂直な断面の一部分の模式図を、図1(b)に従来の回路接続部材1’を示す。以下、回路接続部材1を例にして本発明の回路接続部材の基本的な構造を説明する。
【0028】
本発明の回路接続部材1は、厚み方向に伸びる複数の導電部2と、これらを相互に絶縁する絶縁部3とからなる。例えば、回路接続部材1中の全構成部の体積分率を100%とするとき、導電部2の体積分率は、通常は5〜80%、好ましくは10〜70%、より好ましくは20〜60%である。
【0029】
導電部2は、回路接続部材1の上面4から下面5にわたって形成され、回路接続部材1の厚み方向の導電性を確保する機能を有する。導電部2は、回路接続部材1の厚み方向の導電性を確保できる程度に多数形成されている。導電部2は、導電性磁性粒子4が積み重なった、導電性磁性粒子4の集合体と、後述する高分子材料と形成されていることが好ましい。
【0030】
導電部2はくびれ構造を有する。くびれ構造は、シートの厚み方向における略中心部6から、回路接続部材1の上面4あるいは下面5に向かって断面積が漸次増加するように形成された構造であることが好ましい。すなわち導電部2は、上面4あるいは下面5に対して略中心部6で細く狭まっていることが好ましい。
【0031】
導電性磁性粒子4は、回路接続部材1の厚み方向にその上面4から下面5にわたって、相互に接触しながら、あるいは加圧時に相互に接触するよう配列されて、導電部2を形成している。つまり導電部2は、厚み方向にのみ導電性を示すものでもよく、厚み方向に加圧されて圧縮されたときに抵抗値が減少して導電部2が形成される加圧導電部でもよい。
【0032】
絶縁部3は、導電部2を面方向に囲むように高分子材料から形成され、複数の導電部2を相互に絶縁し、回路接続部材1の面方向の絶縁性を確保する機能を有する。
【0033】
導電部2の、回路接続部材1の面方向に平行な断面の形状には特に制限はなく、円形状、楕円形状、線状、その他任意の形状を採り得る。導電部2の前記断面の形状は、回路接続部材1の厚み方向のどの位置においても同じであってもよく、また厚み方向の位置によって異なっていてもよい。しかしながら、本発明において導電部2の断面積が最小となる位置は、シートの上面4(表面)と下面5(裏面)との間に存在していることが必要であり、導電部2の最小断面積は、その最大断面積の0.5倍以下であることが好ましく、0.5〜0.1倍であることがより好ましい。また、導電部2は略中心部6で細く狭まっていることが好ましい。導電部2の上面4あるいは下面5における径は、通常は0.02〜1mm、好ましくは0.05〜0.5mmである。また導電部2は、回路接続部材1の厚み方向の導電性が確保される限り、回路接続部材1の厚み方向に平行に形成されていてもよく、また平行に形成されていなくてもよい。
【0034】
本発明の回路接続部材1に対して、従来の回路接続部材1'も、厚み方向に伸びる複数
の導電部2と、これらを相互に絶縁する絶縁部3とからなるものの、導電部2はくびれ構造を有していない。このため、従来の回路接続部材1’は、押込み耐性が充分ではない。
【0035】
本発明の回路接続部材の表面側から見た導電部において、導電性磁性粒子の集合密度は均一であることが好ましい。集合密度が均一であると、回路接続部材をソケットまたはコネクターなどの電子回路の実装用に用いることができる程度に導通抵抗を小さくすることが容易になる。
【0036】
本発明の回路接続部材は、その上面または下面の少なくとも一方の面において、平面部と該平面部から突出した導電部からなる突起部とを有していてもよい。突起部の形状は特に限定されず、例えば円盤状の突起部が挙げられる。回路接続部材がこのような突起部を有していると、加圧時に接続端子にかかる荷重を軽減できるという利点がある。
【0037】
《導電性磁性粒子》
上記導電性磁性粒子は、粒子全体が導電性物質や磁性物質で形成されている必要はなく、少なくとも表面が導電性物質(例:導電性金属)で形成されていればよい。粒子表面に導電性物質を被覆する手段としては、特に限定されるものではないが、電気メッキまたは無電解メッキなどが挙げられる。
【0038】
導電性磁性粒子としては、単体の金属粒子、2種以上の金属が混合されてなる複合粒子、有機もしくは無機材料を導電性物質で被覆してなる被覆粒子、または前記単体の金属粒子、複合粒子および被覆粒子から選ばれる2種以上の混合粒子などが挙げられる。
【0039】
このような導電性磁性粒子としては、例えば、(1)強磁性物質の粒子およびこれらを含む合金の粒子、(2)これらの粒子に導電性物質をメッキなどにより被覆してなる粒子、(3)有機または無機材料の表面の一部または全部を強磁性物質および導電性物質で被覆してなる被覆粒子などが挙げられる。前記強磁性物質としては、ニッケル、鉄、コバルトなどが挙げられる。前記導電性物質としては、金、銀、銅、錫、パラジウム、ロジウムなどが挙げられる。
【0040】
上記導電性磁性粒子の中でも、導電部形成時の外部磁場の印加によって生じる磁気分極を後述する範囲により容易に調整可能な上記(3)の導電性磁性粒子が特に好ましい。本発明では、外部磁場により導電性磁性粒子に生じる磁気分極と後述する高分子材料の粘度との関係により生じる、モーメントの方向と強さにより、導電部の構造がくびれ構造になると考えられる。本発明者らの検討によれば、通常用いられる高分子材料の粘度で、通常用いられている外部磁場を加えると、従来使用されている導電性粒子は磁性が強いため、外部磁場の印加によって導電部が棒状に形成されてしまうことが判明した。このように通常用いられる高分子材料や外部磁場では、良好なくびれ構造を形成することが困難である。本発明では、前述の導電性磁性粒子のような磁化率を下げることが可能な構成を採用することにより、通常用いられる高分子材料や外部磁場の条件において、外部磁場の印加によってくびれ構造を有する導電部を形成することができる。
【0041】
上記導電性磁性粒子としては、具体的には、有機または無機材料の表面の一部または全部を強磁性物質および導電性物質で被覆してなる被覆粒子が好ましく、有機または無機材料の表面を強磁性物質で被覆してなる粒子を、さらに導電性物質で被覆してなる被覆粒子が特に好ましい。ここで、強磁性物質から形成される層の膜厚は、必要な磁気分極により適宜設定されるが、0.01〜5μmであることが好ましく、導電性物質から形成される層の膜厚は0.01〜5μmであることが好ましい。導電性磁性粒子の市販品としては、積水化学工業(株)製のミクロパールNi−B、ミクロパールNi−P、ミクロパールAU228−Sなどが挙げられる。
【0042】
製造コストの低減化を図る観点からは、上記強磁性物質としては、ニッケル、鉄またはこれらの合金が好ましい。また、導通抵抗が小さいという電気的特性を利用するソケット、コネクターなどの用途では、表面が金メッキされた粒子が好ましい。
【0043】
導電性磁性粒子の形状は特に限定されず、球状、フレーク状、棒状などが挙げられる。導電部における導電性磁性粒子の密度を上げるため、粒子の形状は揃っている方が好ましい。特に、押込み耐性の観点から、導電性磁性粒子としては球状粒子が好ましい。球状粒
子の電子顕微鏡により測定される平均粒子径(粒子100個の平均値)は、通常は1〜500μm、好ましくは5〜200μmである。
【0044】
《高分子材料》
上記高分子材料の25℃における粘度は、10Pa・s以上、400Pa・s未満であることが好ましく、100〜300Pa・sであることがより好ましい。25℃における粘度が前記範囲にある高分子材料を用いると、より良好なくびれ構造を有する導電部を形成することができる。
【0045】
上記高分子材料は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、絶縁性高分子材料であることが好ましい。絶縁性高分子材料としては、シリコーンゴム、エチレンプロピレン系ゴム、ウレタン系ゴム、フッ素系ゴム、ポリエステル系ゴム、スチレンブタジエン系ゴム、スチレンブタジエンブロック共重合体ゴム、スチレンイソプロピレンブロック共重合体ゴム、軟質エポキシ樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0046】
絶縁性高分子材料としては、シート製造時の温度で液状であるかまたは流動性を有し、その後硬化するものが好ましい。絶縁性高分子材料がこのような性質を有すると、シート製造時に磁場を作用させることにより導電性磁性粒子を配向または集合させることができ、その後、絶縁性高分子材料を硬化させて導電性磁性粒子を固定することができる。
【0047】
例えば、熱硬化型のシリコーンゴムは、常温で液状であり、加熱により硬化して固形ゴムになるので好ましい。また例えば、軟質液状エポキシ樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性軟質樹脂などは、常温で固体であっても、後述のシート製造時に流動性を有し、シート製造後は固体となるので好ましい。
【0048】
また、絶縁性高分子材料としては、架橋構造を有するものが耐熱性、耐久性などの点において好ましい。このような架橋構造を有する材料としては、上記シリコーンゴム、エチレンプロピレン系ゴム、ウレタン系ゴム、フッ素系ゴム、ポリエステル系ゴム、スチレンブタジエン系ゴム、スチレンブタジエンブロック共重合体ゴム、スチレンイソプロピレンブロック共重合体ゴム、軟質エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0049】
絶縁性高分子材料は、硬化後に固体状であり、かつゴム弾性を有するものが、回路接続部材を電気回路部品、電気回路基板などに接続するときに、それらの表面の凹凸を吸収し、安定な電気的接触を得るのに有利である点で好ましい。シートの用途によっては、弾性が小さいものであってもかまわない。
【0050】
また、回路接続部材を基板などに接着または粘着することが要求される場合には、絶縁性高分子材料は接着性または粘着性を有する絶縁性高分子材料であることが好ましい。このような接着性または粘着性を有する絶縁性高分子材料としては、エポキシ樹脂やメラミン樹脂などが挙げられる。
【0051】
〔回路接続部材の製造方法〕
上記くびれ構造の形成には、外部磁場により導電性磁性粒子に生じる磁気分極と高分子材料の粘度との関係により生じる、モーメントの方向と強さが関連すると考えられる。本発明の回路接続部材の製造方法は、(1)25℃における粘度が10Pa・s以上、400Pa・s未満の高分子材料と導電性磁性粒子とを含有するシート形成材料からシート形成材料層を形成する工程、および(2)前記導電性磁性粒子に生じる磁気分極が0.2〜0.7Wb/m2となるように、前記シート形成材料層における導電部形成予定部の厚み
方向に外部磁場を印加する工程を含む。以下、上記各工程を具体例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
《工程(1)》
先ず、高分子材料と導電性磁性粒子とを含有するシート形成材料を調製する。ここで、シート形成材料に対して、必要に応じて減圧による脱泡処理を行うことができる。前記シート形成材料において、導電性磁性粒子の含有割合(体積分率)は、形成すべき導電部における導電性磁性粒子の含有割合などを考慮して定められるが、通常は5〜80%、好ましくは10〜70%、より好ましくは20〜60%である。次いで、上記シート形成材料を電磁石および磁極板を備えてなる金型内に注入して、シート形成材料層を形成する。あるいは、上記シート形成材料をPTFEフィルムなどの基板上に塗布して、シート形成材料層を形成し、得られた塗布基板を金型内に設置してもよい。
【0053】
《工程(2)》
上記シート形成材料層に対して強度分布を有する外部磁場を、上記シート形成材料層の厚み方向に印加することにより、シート形成材料層中の導電性磁性粒子を導電部形成予定部に集合させる。ここで、上記導電性磁性粒子に生じる磁気分極が、通常は0.2〜0.7Wb/m2となるように、シート形成材料層における導電部形成予定部の厚み方向に外
部磁場を印加する。このような条件で外部磁場を印加することにより、上述のくびれ構造を有する導電部形成予定部を形成することができる。
【0054】
その状態でシート形成材料層を硬化することにより、高分子材料から形成された硬化層中に導電性磁性粒子が密に充填された複数の導電部と、これらを相互に絶縁する高分子材料から形成された絶縁部とからなる本発明の回路接続部材が得られる。
【0055】
シート形成材料層の硬化処理は、平行磁場を作用させたままの状態で行うこともできるが、平行磁場の作用を停止させた後に行うこともできる。また、平行磁場の作用を途中で停止して、作用方向を反転させた後、再度平行磁場を作用させてもよい。
【0056】
シート形成材料層の硬化処理は、高分子材料の種類によって適宜選定されるが、通常、加熱処理によって行われる。具体的な加熱温度および加熱時間は、高分子材料などの種類、導電性磁性粒子の配向に要する時間などを考慮して適宜設定される。
【0057】
図2は、上記金型の一例の構成を示す説明用断面図である。この金型は、上型10およびこれと対となる下型15が、枠状のスペーサー14を介して互いに対向するよう配置されて構成され、上型10の下面と下型15の上面との間にキャビティが形成されるものである。
【0058】
上型10においては、基板11の下面に、目的とする回路接続部材1の導電部2の配置パターンと同一のパターンに従って強磁性体層12が形成され、この強磁性体層12以外の個所には、強磁性体層12の厚みより大きい厚みを有する非磁性体層13が形成されている。
【0059】
一方、下型15においても、基板16の上面に、目的とする回路接続部材1の導電部2の配置パターンと同一のパターンに従って強磁性体層17が形成され、この強磁性体層17以外の個所には、強磁性体層17の厚みより大きい厚みを有する非磁性体層18が形成されている。
【0060】
上記金型を用いた具体例を以下に記す。図3に示すように、金型内にシート形成材料を注入してシート形成材料層20を形成し、上型10の上面および下型15の下面に例えば電磁石または永久磁石を配置し、金型内のシート形成材料層20の厚み方向に、導電性磁性粒子に生じる磁気分極が上記範囲となるように、平行磁場を作用させる。シート形成材
料層20には、上型10の強磁性体層12とこれに対応する下型15の強磁性体層17との間の部分(導電部形成予定部)21において、それ以外の部分より大きい強度の磁場が作用されることから、シート形成材料層20中に分散されている導電性磁性粒子が導電部形成予定部21に集合する。そして、この状態において、シート成形材料層20を硬化処理することにより、回路接続部材1が得られる。
【実施例】
【0061】
(1)回路接続部材の製造
[実施例1]
付加型液状シリコーンゴムに、導電性磁性粒子(積水化学工業(株)製、商品名「ミクロパールAU228−S」、直径28μmの樹脂製の略球状の粒子を、厚み約0.5μmのニッケルで被覆し、さらに厚み約0.04μmの金で被覆したもの)を、導電性磁性粒子の体積分率が27%となるように添加して混合した後、減圧による脱泡処理を行うことにより、シート形成材料を調製した。このシート形成材料を、スクリーン印刷法によって、PTFEフィルム(商標)に塗布して塗布基板を形成した。得られた塗布基板を、100℃に熱を加えながら、平行磁場(0.5〜1テスラ)中に置き、外部磁場を30分間加えた。外部磁場印加中に導電性磁性粒子に生じた磁気分極は、0.2〜0.7Wb/m2
であった。PTFEフィルムを剥がした後、200℃で4時間加熱処理を行うことにより、厚み400μmの回路接続部材を製造した。得られた回路接続部材の断面画像を図4(a)に示す。
【0062】
なお、付加型液状シリコーンゴムとしては、A液の粘度が250Pa・sで、B液の粘度が250Pa・sである二液型のものであって、硬化物の150℃における永久圧縮歪みが5%、硬化物のデュロメーターA硬度が35、硬化物の引裂強度が25kN/mのものを用いた。
【0063】
[比較例1]
実施例1で用いた導電性磁性粒子の代わりに、金メッキ処理を行った直径が約30μmの略球状のニッケル粒子(商品名「SF300」、スルザーメトコ社製)を用いたこと以外は実施例1と同じ手法にて、回路接続部材を製造した。なお、外部磁場印加中に導電性磁性粒子に生じた磁気分極は、0.8Wb/m2以上であった。得られた回路接続部材の
断面画像を図4(b)に示す。
【0064】
(2)回路接続部材の評価(押込み耐性)
金メッキ板上に、回路接続部材を乗せ、さらにその上にプローブ電極(直径300μmの円形状)を乗せた。前記プローブ電極を押し込みながら、金メッキ板とプローブ電極間に流れる電流の抵抗値(Ω)を測定した。また、プローブ電極にかかる荷重(回路接続部材の反発によるプローブ電極にかかる荷重)についても、プローブ電極にロードセルを設置することにより測定を行った。結果を表1および図5に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
上記結果から明らかなように、実施例1の回路接続部材は、シートの厚み方向にかかる負荷量に対して電気抵抗値が一定であった。これに対して、比較例1の回路接続部材は、シートの厚み方向にかかる負荷量に対して電気抵抗値にバラツキが生じた。また、実施例1の回路接続部材は、比較例1の回路接続部材に比べ、シートの厚み方向への押込み量に対する、シートの厚み方向にかかる負荷量が小さいため、シートの厚み方向に押し込むことが可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0067】
1 ・・・本発明の回路接続部材
1’・・・従来の回路接続部材
2 ・・・導電部
3 ・・・絶縁部
4 ・・・回路接続部材の上面
5 ・・・回路接続部材の下面
6 ・・・回路接続部材の厚み方向の中心部
10・・・上型
11・・・基板
12・・・強磁性体層
13・・・非磁性体層
14・・・スペーサー
15・・・下型
16・・・基板
17・・・強磁性体層
18・・・非磁性体層
20・・・シート形成材料層
21・・・導電部形成予定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に伸びる複数の導電部と、これらを相互に絶縁する絶縁部とからなるシート状の回路接続部材であって、シートの厚み方向に対して直角をなす面での前記導電部の断面積が最小となる位置が、シートの表面と裏面との間に存在することを特徴とする回路接続部材。
【請求項2】
シートの厚み方向に対して直角をなす面での前記導電部の最小断面積が、その最大断面積の0.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の回路接続部材。
【請求項3】
前記導電部が、導電性磁性粒子の集合体と高分子材料とから形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回路接続部材。
【請求項4】
前記高分子材料の25℃における粘度が、10Pa・s以上、400Pa・s未満であることを特徴とする請求項3に記載の回路接続部材。
【請求項5】
前記導電性磁性粒子が、有機または無機材料の表面の一部または全部を強磁性物質および導電性物質で被覆してなる被覆粒子であることを特徴とする請求項3または4に記載の回路接続部材。
【請求項6】
前記被覆粒子が、有機または無機材料の表面を強磁性物質で被覆してなる粒子を、さらに導電性物質で被覆してなることを特徴とする請求項5に記載の回路接続部材。
【請求項7】
(1)25℃における粘度が10Pa・s以上、400Pa・s未満の高分子材料と導電性磁性粒子とを含有するシート形成材料からシート形成材料層を形成する工程、および
(2)前記導電性磁性粒子に生じる磁気分極が0.2〜0.7Wb/m2となるように
、前記シート形成材料層における導電部形成予定部の厚み方向に外部磁場を印加する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の回路接続部材の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−222216(P2011−222216A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88625(P2010−88625)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】