説明

回転角度検出センサーの故障検出装置

【課題】ポジションセンサーのスタック故障等の故障をより確実に検出するとともに、この故障検出の制御をより的確に行う。
【解決手段】ホールICからなる第1および第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計と正常時の第1および第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計との差の絶対値が、隣接するレンジ間のレンジ間幅に基づいて設定された規定値と比較判断される。そして、この差の絶対値が、規定値より大きくなったときに第1および第2IC4a,4bの故障が検出される。これにより、第1および第2IC4a,4bのスタック故障等の故障を確実に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられる自動変速機(以下、A/Tともいう)や無段変速機(以下、CVTともいう)等の変速機のシフトポジションを検出するポジションセンサー等の回転体の回転角度を検出する検出センサにスタック故障等の故障が発生したとき、この故障を検出する回転角度検出センサーの故障検出装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、A/TやCVTにより変速制御される車両においては、シフトレバーによりレンジが設定されると、変速機を制御する電子制御装置(ECU)がそのレンジにおける変速ロジックにしたがって変速機のソレノイド等を制御することにより変速制御が行われる。その場合、ECUが設定されたレンジを判断するにあたって、シフトレバーの回動角をポジションセンサーで検出し、そのポジションセンサーの出力信号に基づいて、ECUは設定されたレンジを判断し確定している。
【0003】
従来のポジションセンサーとしては、シフトレバーで回動されるマニュアルシャフトにこのマニュアルシャフトと一緒に回動するように取り付けられた可動側端子の回動角を非接触で検出して、その回動角に応じた電圧を出力する非接触型のポジションセンサーが提案されている。
【0004】
ECUは、この非接触型のポジションセンサーからの出力値を、予め設定されかつポジションセンサーの出力値に対応した電圧値からなる各レンジの判断基準値(閾値)と比較してそのレンジのパターンを認識して、設定されたレンジのポジション位置を判断している。
この非接触型のポジションセンサーによれば、長期間使用してもほとんど摩耗しないので、安定した出力を長期間にわたって発生することができる(例えば、特許文献1等を参照)。
【0005】
一方、非接触型のポジションセンサーが変速機以外の自動車の構成部分に用いたものが提案されている。この非接触型のポジションセンサーは、内燃機関のスロットルバルブの回動軸の回動角、つまりスロットル開度を検出する非接触式のスロットル開度センサであり、非接触式のスロットル開度センサは、検出素子である2つのホールICを備えている。これらの2つのホールICは、ともに傾きが同じで、傾きの絶対値が異なる入出力特性を有している。そして、2つのホールICのそれぞれの出力電圧の相対関係がマップによる所定誤差範囲を外れているときには、2つのホールICのいずれか一方に異常が発生していると特定している。また、一方のホールICからの出力電圧が予め設定された公差範囲外にあるときは、このホールICが異常であると特定し、他方のホールICからの出力電圧が予め設定された公差範囲外にあるときは、このホールICが異常であると特定している。更に、2つのホールICのうち、一方のホールICが異常であるときは、正常である他方のホールICの出力電圧でスロットルバルブの駆動制御を行うようにしている(例えば、特許文献2等を参照)。
【特許文献1】米国特許第5846160号明細書
【特許文献2】特開2001ー174212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述の特許文献1に開示されたような変速機に用いられた非接触型のポジションセンサーは、マニュアルシャフトの回動によって可動側端子が回動しても、この可動側端子の回動角に対応する電圧がスタックを起こして変化しなくなるというスタック故障を発生することが考えられる。このように、ポジションセンサーにスタック故障が発生すると、ECUは設定されたレンジを正確に確定することができなく、変速機の変速制御が正確に行うことが難しくなることが考えられる。
しかし、従来の非接触型のポジションセンサーを用いた変速機において、ポジションセンサーのスタック故障等の故障について考慮することを提案した例は見あたらない。
【0007】
そのうえ、自動変速機の制御では、現在のポジション(レンジ)から別のポジション(レンジ)に移動されたとき、必ず何らかの制御を行う必要がある。そこで、現在のポジション(レンジ)から別のポジション(レンジ)に移動するまでに、ポジションセンサーのスタック故障等の故障を検出することが要求される。
しかし、特許文献2に開示されている非接触型のポジションセンサーはエンジンのスロットル開度センサーであることから、自動変速機の制御における前述の要求に応えることはできない。
【0008】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、回転角度を検出する回転角度検出センサーのスタック故障等の故障をより確実に検出するとともに、この故障検出の制御をより的確に行うことのできる回転角度検出センサーの故障検出装置を提供することである。
本発明の他の目的は故障検出のためのロジックを簡単にして故障検出の制御をより的確に行うことのできる回転角度検出センサーの故障検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、請求項1の発明に係る回転角度検出センサーの故障検出装置は、回転体の回転角度を連続的な信号で検出する非接触型の回転角度検出センサーの故障を検出する故障検出装置において、前記回転角度検出センサーが変速機の複数のレンジ位置を検出するセンサーであって、前記回転角度検出センサーが、第1および第2検出素子を備え、前記第1検出素子が、前記回転体の回転角度が増大するに従って出力が増大しかつ前記回転角度が減少するに従って出力が減少する線形の出力特性を有し、前記第2検出素子が、前記回転体の回転角度が増大するに従って出力が減少しかつ前記回転角度が減少するに従って出力が増大する線形の出力特性を有し、前記第1および第2検出素子の出力の傾きの絶対値が互いに等しく設定されており、前記第1および第2検出素子の両出力の合計値と前記第1および第2検出素子の正常時の前記両出力の合計値との差の絶対値が規定値より大きくなったとき、回転角度検出センサーの故障を検出するようにされており、前記規定値が少なくとも隣接するレンジ間のレンジ間幅に基づいて設定されていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2の発明の回転角度検出センサーの故障検出装置は、前記第1および第2検出素子のうち、一方の検出素子の出力が変化しているにもかかわらず、他方の検出素子の出力が変化しないときは、他方の検出素子が異常であると判断することにより、前記第1および第2検出素子のいずれかの故障を検出する手段を備えていることを特徴としている。
【0011】
更に、請求項3の発明の回転角度検出センサーの故障検出装置は、前記変速機のレンジは3つ以上の複数のレンジが設定されており、前記規定値は前記レンジ間幅のうち、最も小さいレンジ間幅に基づいて設定されていることを特徴としている。
【発明の作用および効果】
【0012】
このように構成された本発明に係る回転角度検出センサーの故障検出装置によれば、センサーが止まっている状態(ユーザーがシフトレバーを動かしていない状態)で故障検出をすることができる。
【0013】
また、請求項1および2の回転角度検出センサーの故障検出装置によれば、変速機の複数のレンジ位置を検出する回転角度検出センサーの第1および第2検出素子の出力の合計値と第1および第2検出素子の正常時の出力の合計値との差の絶対値が、隣接するレンジ間のレンジ間幅に基づいて設定された規定値と比較判断される。そして、この差の絶対値が、規定値より大きくなったときに回転角度検出センサーの故障が検出される。したがって、請求項1および2の発明の回転角度検出センサーの故障検出装置によれば、回転角度検出センサーの故障を簡単にかつ確実に検出することができるとともに、故障検出の制御をより的確に行うことができるようになる。特に、請求項1および2の発明によれば、現在のポジション(レンジ)から次のポジションに移動するまでの間に回転角度検出センサーの故障を検出することができる。
【0014】
更に、請求項3の発明によれば、規定値が、互いに隣接するレンジ間のポジションセンサー角度(レンジ間幅)のうち、最も小さいレンジ間幅に基づいて設定される。これにより、どのレンジにおいても、回転角度検出センサーであるポジションセンサーのスタック故障等の故障が発生したときは、次の隣接するレンジが確定される前に、ポジションセンサーのスタック故障等の故障を検出することが確実にできるようになる。これにより、どのレンジにおいても、レンジが確定される前にこの故障を検出したときは、変速機に対して変速制御を行わないフェールセーフ制御等の、ポジションセンサーのスタック故障等の故障に対する対応策を講じることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明にかかる回転角度検出センサー故障検出装置の実施の形態で、自動変速機に適用した一例を模式的に示し、(a)は部分断面図、(b)は(a)におけるIB−IB線に沿う断面図である。
【0016】
図1(a)および(b)に示すように、この例では回転角度検出センサー故障検出装置をA/Tのポジションセンサー故障検出装置1として適用されている。このポジションセンサー故障検出装置1は、A/Tケース2の外側でマニュアルシャフト3に取り付けられるとともに、それぞれ検出素子であるホールICからなる第1IC4aおよび第2IC4bを有するポジションセンサー5と、A/Tを制御する電子制御装置(以下、ECUともいう;本発明の制御装置に相当)6と、このECU6により制御されるA/Tのソレノイド、エンジンおよびインジケータ等の複数の被制御装置と接続するために複数の端子を有するコネクタ7と、ECUケース8とから構成されている。
【0017】
ポジションセンサー5はマニュアルシャフト3に固定された軟質磁性材料からなる環状の内側コア9と、ECUケース8に内側コア9と同心状に固定された軟質磁性材料からなる環状の外側コア10とを有している。内側コア9の外周には、環状のマグネット11が固定されており、これらの内側コア9およびマグネット11はマニュアルシャフト3とともに一体回転するようになっている。また、外側コア10はほぼ半円弧状の一対のコア10a,10bからなり、これらのコア10a,10bの両端が互いに所定間隙を有して対向するように配設されている。そして、一対のコア10a,10bの所定間隙に、前述の第1および第2IC4a,4bがそれぞれ配設されている。
【0018】
その場合、マグネット11のN極部分11aが第1IC4aに対向し、また、S極部分11bが第2IC4bに対向するように設定されている。これにより、マグネット11のN極部分11aと第1IC4aとにより、本発明の第1ポジションセンサーが構成され、また、マグネット11のS極部分11bと第2IC4bとにより、本発明の第2ポジションセンサーが構成されている。
【0019】
ポジションセンサー5の第1および第2IC4a,4bとECU6はともにECUケース8の内部に配置されかつ互いに電気的に接続されていて、ECU6はポジションセンサー一体ECUとして構成されている。もちろん、ポジションセンサー5とECU6とをECUケース8内に一体にしないで互いに別々に離間して設け、それらを電気的に接続することもできる。また、コネクタ7はECUケース8に取り付けられているとともにECU6に電気的に接続されている。
なお、A/T ECU6はエンジンを制御するE/G ECU12に接続されている。
【0020】
マニュアルシャフト3は、図示しないが従来のA/Tと同様に、A/Tケース2の外側でレバーおよびワイヤ等を介してシフトレバーに連結されているとともに、A/Tケース2の内部でディテントおよびマニュアルバルブのバルブスプールに連結されている。
【0021】
ポジションセンサー5は、マグネット11がいずれも第1および第2IC4a,4bと接触しない非接触型のポジションセンサーとして構成されている。そして、第1および第2IC4a,4bは、それぞれ対応するマグネット11のN,S極部分11a,11bの回動量(回動角;つまり、シフト操作レバーの操作量)に応じた第1および第2センサー電圧値をシフトポジション検出信号として連続的に出力するようになっている。
【0022】
その場合、図2に実直線αで示すように、第1IC4aは入力側のポジションセンサー角度(N極部分4aの回動角)(°)の増移動に対して出力する第1センサー電圧(V)が線形(リニア)に連続的に増移動し、また入力側のポジションセンサー角度の減移動に対して第1センサー電圧が線形に連続的に減移動する線形の入出力特性を有している。また、図2に点直線βで示すように第2IC4bは第1IC4aの入出力特性と逆の入出力特性であり、入力側のポジションセンサー角度(S極部分4bの回動角)(°)の増移動に対して第2センサー電圧(V)が線形(リニア)に連続的に減移動し、また入力側のポジションセンサー角度の減移動に対して第2センサー電圧が線形に連続的に増移動する線形の入出力特性を有している。そして、この例では、第1、第2IC4a,4bの線形の入出力特性の傾きの絶対値は互いに等しく設定されている。なお、2つの第1および第2IC4a,4bが逆の傾きの線形の出力特性を有するものでありさえすれば、入出力特性の傾きの絶対値は互いに異なるように設定することもできる。以下の実施の形態の説明では、図示のように第1、第2IC4a,4bの入出力特性の傾きの絶対値が互いに等しく設定されているものとして説明する。
【0023】
この例のポジションセンサー故障検出装置1が適用されているA/Tでは、パーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)およびドライブレンジ(Dレンジ)の4つのレンジが設定されている。なお、これらのレンジに限定されることはなく、例えば4速レンジ、3速レンジ、および2速レンジ等、任意に他のレンジを設定することができる。以下の実施形態の説明では、A/Tは前述の4つのレンジが設定されているものとして説明する。
【0024】
各レンジP、R、NおよびDに対応してそれぞれポジションセンサー角度(°)つまり電圧値(V)が設定されている。図2に点線で示すように各レンジにおけるシフト領域のポジションセンサー角度領域が設定されている。また、図2に実線で示すようにA/Tで設定された各レンジのポジションセンサー角度が設定されているとともに、これらのレンジのポジションセンサー角度に対応するポジションセンサー電圧値がそれぞれ設定されている。例えば、Pレンジのポジションセンサー電圧値は、第1IC4aではV1P(V)に、第2IC4bではV2P(V)に設定されている。また、Rレンジのポジションセンサー電圧値は、第1IC4aではV1R(V)に、第2IC4bではV2R(V)に設定されている。更に、図示しないが、NおよびDレンジのポジションセンサー電圧値も、同様にして直線α,βに基づいてそれぞれ設定されている。これらの各レンジのポジションセンサー角度が検出されることで、それぞれ対応するレンジが確定される。
【0025】
また、第1および第2IC4a,4bの通常使用領域は、それぞれPレンジのシフト開始からDレンジのシフト終了までのポジションセンサー角度に設定されている。これをポジションセンサー電圧値で示すと、第1IC4aの通常使用領域はV1n1(V)〜V1n2(V)であり、また第2IC4bの通常使用領域はV2n1(V)〜V2n2(V)である。
【0026】
更に、この例の互いに隣接するレンジ間のポジションセンサー角度(レンジ間幅)は、PレンジとRレンジとの間ではaに設定され、またRレンジとNレンジとの間ではbに設定され、更にNレンジとDレンジとの間ではcに設定されている。その場合、この例では、各レンジ間幅の大小は、b<c<aに設定されている。もちろん、各レンジ間幅の大小はこれに限定されるものではなく、任意に設定することができる。
【0027】
図3に示すように、ECU6には、ポジションセンサー故障検出ロジック9およびポジションセンサーフェールセーフ制御手段10が設けられている。
ポジションセンサー故障検出ロジック9は、ポジションセンサーのスタック故障を検出するものである。このスタック故障検出のロジックでは、2つの第1、第2IC4a,4bの出力するセンサー電圧値の合計値を基に第1、第2IC4a,4bのいずれかのスタック故障を判断し検出している。具体的には、第1、第2IC4a,4bのいずれかにスタック故障が発生している時の第1、第2IC4a,4bの出力するセンサー電圧値の合計値が両IC4a,4bの正常時の第1、第2IC4a,4bの出力するセンサー電圧値の合計値との差の絶対値が規定値より大きくなったときに、第1、第2IC4a,4bのいずれかのスタック故障を検出するとともに、スタック故障が発生しているポジションセンサーを検出している。また、あるレンジから次の隣接するレンジにシフトする際、ECU6によりこの隣接するレンジが確定される前にスタック故障を検出して、そのセンサー故障情報をポジションセンサーフェールセーフ制御手段10に出力するようにしている。
【0028】
その場合、スタック故障の判断における規定値は、次のように設定している。規定値を設定するにあたって、まず、スタック故障検出を行うポジションセンサー角度の基準幅が最も小さい(狭い)レンジ間に基づいて設定される。すなわち、この例では、最も狭いレンジ間幅は前述のようにRレンジとNレンジの間であるから、図2に示すようにRレンジとNレンジの間でこれらのレンジ間幅bより小さい基準幅dが設定されている。このようにスタック故障検出の基準幅dを設定することで、すべてのレンジ間において、あるレンジから次の隣接するレンジが確定される前にスタック故障を検出することが可能となる。
【0029】
次に、設定されたスタック故障検出の基準幅dに対応するセンサー電圧値が求められる。すなわち、第1IC4aでは、センサー電圧値がV1RN−V1R=Aであり、第1IC4aに対応してこのAがスタック故障の判断における第1規定値として設定される。また、第2IC4bでは、センサー電圧値がV2R−V2RN=Aであり、第2ポジションセンサー4に対応してこのAがスタック故障の判断における第2規定値として設定される。このとき、第1、第2IC4a,4bの入出力特性における傾きの絶対値が等しく設定されているので、第1および第2規定値は、ポジションセンサー角度の増大する方向およびポジションセンサー角度の減少する方向のいずれにおいても、互いに等しくAである(以下のこの例の説明においては、単に規定値Aという)。
なお、第1、第2IC4a,4bの入出力特性における傾きの絶対値が互いに異なるように設定されている場合には、後述するように第1および第2規定値は互いに異なるように設定される。
【0030】
このように設定された規定値Aを用いたポジションセンサー故障検出ロジック9による、ポジションセンサーのスタック故障検出を説明する。図2においてシフトレバーがPレンジに設定された状態にあるとする。この状態では、第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値はそれぞれV1P,V2Pであり、それらの合計はV1P+V2Pである。この状態で、Pレンジ以外のレンジに設定するため、シフトレバーがRレンジ方向にシフト操作されると、マニュアルシャフト3が回動する。これにより、第1、第2IC4a,4bの回動部4a,5aがマニュアルシャフト3の回動と共に回動する。
【0031】
これらのセンサーの回動で、第1IC4aの出力するセンサー電圧は実直線αに沿って線形に増大し、また、第2IC4bの出力するセンサー電圧は実直線βに沿って線形に増大する。このとき、第1、第2IC4a,4bが電圧スタック故障を起こしていなく正常であれば、このようにPレンジからRレンジへシフトする途中では、第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計はV1PR+V2PRである。第1、第2IC4a,4bの入出力特性の傾きが互いに逆でかつその絶対値が同じであるから、第1IC4aのセンサー電圧が増大した電圧値と同じ電圧値だけ、第2IC4bのセンサー電圧が減少するので、第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計は変わらなく、V1P+V2P=V1PR+V2PRとなる。
【0032】
そして、シフトレバーがRレンジ位置に設定されかつそのレンジ位置に保持されると、第1IC4aのセンサー電圧値がV1Rになり、また第2IC4bのセンサー電圧値がV2Rになり、両センサー電圧値の合計がV1R+V2Rとなる。このとき、センサー電圧値の合計は変わらないことから、ECU6はV1P+V2P=V1PR+V2PR=V1R+V2Rを判断して、第1、第2IC4a,4bのスタック故障を検出しない。これにより、ECU6はRレンジを確定して、従来とのA/Tと同様にA/Tに対してRレンジの制御を行う。
【0033】
RレンジからNレンジへ、またNレンジからDレンジへシフト操作が行われる場合も、同様にして第1、第2IC4a,4bが正常である限りは、第1IC4aのセンサー電圧値は線形に増大し、第2ポジションセンサーのセンサー電圧値は線形に第1IC4aのセンサー電圧値の増大した電圧値と同じ電圧値だけ線形に減少するが、第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計は変化しない。また、逆にDレンジからNレンジへ、またNレンジからRレンジへ、更にRレンジからPレンジへ、つまりポジションセンサー角度が減少する方向にシフト操作が行われる場合も、第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の増減が前述のポジションセンサー角度が増大する方向にシフト操作が行われる場合と逆になるだけで、第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計は変化しない。
そして、ECU6はRレンジ以外の他のレンジについても、前述のRレンジと同様にしてを確定し、従来とのA/Tと同様にA/Tに対して確定したレンジの制御を行う。
【0034】
いま、図2に示すように、例えば、シフトレバーがPレンジからRレンジに向けて、つまりポジションセンサ角度が増大する方向にシフト操作されて移動したとすると、前述と同様に第1、第2IC4a,4bの回動部4a,5aが回動する。このとき、Pレンジの位置で第2IC4bにスタック故障が発生すると、第1IC4aのセンサー電圧値は前述と同様に実直線αに沿って増大していくが、第2IC4bのセンサー電圧値は変わらなく(減少しなく)、V2Pのままに保持される。このため、前述の第2IC4bが正常の場合に比べて、第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計V1PR+V2Pは、両IC4a,4bの正常時に比べて第2IC4bのセンサー電圧値が減少しない分{(V1PR+V2P)−(V1PR+V2PR)=V2P−V2PR}だけ増大する。そして、図2に示すようにこの増大分、つまり第2IC4bにスタック故障が発生しているときの第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計と両IC4a,4bの正常時の第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計との差が正となる。したがって、ポジションセンサー故障検出ロジック9はこの差の絶対値と第2IC4bに対応した規定値Aとを比較する。この差の絶対値がこの規定値Aより大きくなると、ポジションセンサー故障検出ロジック9が第2IC4bにスタック故障が発生していると判断する。これにより、ポジションセンサー故障検出ロジック9は第2IC4bのスタック故障を検出し、センサー故障情報としてポジションセンサーフェールセーフ制御手段10に出力する。
【0035】
このようにポジションセンサー故障検出ロジック9が第2IC4bのスタック故障を検出したときは、ECU6によるRレンジが確定する前である。このようにRレンジが確定する前にスタック故障が検出されるのは、前述のように最も狭いレンジ間幅(RレンジとNレンジの間の幅)を基に設定した基準幅dにより決定した規定値Aを用いているからである。
【0036】
Pレンジ以外の他のレンジでのポジションセンサー角度の増大する方向のシフト操作時の第2IC4bのスタック故障の場合も同様にして、次のレンジが確定される前に検出される。また、ポジションセンサー角度の増大する方向の第1IC4aのスタック故障の場合にも同様にして次のレンジが確定される前に検出されるが、この場合には両ポジションセンサー4のセンサー電圧値の合計と両ポジションセンサー4の正常時の両ポジションセンサー4のセンサー電圧値の合計との差が負になる。しがって、この場合のスタック故障検出のための規定値は、第1IC4aに対応した規定値Aが用いられる。
【0037】
更に、ポジションセンサー角度の減少する方向の第1、第2IC4a,4bの各スタック故障の場合にも同様にして次のレンジが確定される前に検出されるが、この場合には、両IC4a,4bの電圧値の増減がポジションセンサー角度の増大する方向の両IC4a,4bの電圧値の増減と逆になる。しかし、この例では前述の差の絶対値と規定値とを比較しているので、第1、第2IC4a,4bのスタック故障検出のための規定値は、ポジションセンサー角度の増大する方向の場合と同様にそれぞれ第1、第2IC4a,4bに対応した規定値が用いられる。
【0038】
ポジションセンサーフェールセーフ制御手段10は、ポジションセンサー故障検出ロジック9から前述のセンサー故障情報が入力されると、A/Tに対して次のレンジの制御を行わないようにフェールセーフ制御を行う。このとき、次のレンジが確定される前にセンサー故障情報が入力されるので、このフェールセーフ制御は次のレンジが確定される前に開始され、誤って次のレンジが確定されたとしても、A/Tに対する次のレンジの制御は確実に行われないようになる。
【0039】
ところで、A/T等の変速機の制御システムには、温度等の環境によりセンサー電圧値が変化する。このため、温度等の環境の影響を極力小さくするために、スタック故障検出のためのソフトによりセンサー電圧値の幅絞ることで、センサー精度が必要な領域のみで向上された制御システムが採用されている。このような変速機の制御システムにも、前述のポジションセンサースタック故障検出装置1が適用できる。この場合には、スタック故障検出のための規定値として、前述の基準幅dをより小さく設定して、前述の規定値Aより小さく決めた規定値Bが用いられる。もちろん、この規定値Bは、第1、第2IC4a,4bにそれぞれ対応して設定された規定値である。
【0040】
図4は、前述のポジションセンサーのスタック故障検出を行うためのフローを示す図である。
図4に示すように、ポジションセンサーのスタック故障検出がスタートされると、まずステップS1で現在の第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値が取得される。次に、ステップS2で両IC4a,4bの各センサー電圧値が、それぞれ通常使用領域(第1IC4aではV1n1〜V1n2、第2IC4bではV2n2〜V2n1)内にあるか否かが判断される。各センサー電圧値がそれぞれ通常使用領域内にある判断されると、ステップS3でセンサー電圧値のどちらか一方がセンサー精度を上げた領域内にあるか否かが判断される。両センサー電圧値のいずれもセンサー精度を上げた領域外であると判断されると、ステップS4で第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計と両IC4a,4bの正常時の両IC4a,4bのセンサー電圧値の合計との差の絶対値が規定値Aより大きいか否かが比較判断される。この差の絶対値が規定値Aより小さいと判断されると、ステップS5で両IC4a,4bが正常であると判断されてポジションセンサーのスタック故障検出が終了する。
【0041】
ステップS4で、前述の差の絶対値が規定値Aより大きいと判断されると、ステップS6で前述の差の正負およびポジション角度の増減方向に基づいてポジションセンサーのスタック故障あるいは発振故障が検出されるとともに、スタック故障が発生しているポジションセンサーが検出されて、ポジションセンサーのスタック故障検出が終了する。
【0042】
また、ステップS3で両センサー電圧値のどちらか一方がセンサー精度を上げた領域内であると判断されると、ステップS7で第1、第2IC4a,4bのセンサー電圧値の合計と両IC4a,4bの正常時の両IC4a,4bのセンサー電圧値の合計との差の絶対値が規定値Bより大きいか否かが比較判断される。この差の絶対値が規定値Bより小さいと判断されると、ステップS8で両IC4a,4bが正常であると判断されてポジションセンサーのスタック故障検出が終了する。
【0043】
ステップS7で、前述の差の絶対値が規定値Bより大きいと判断されると、ステップS9で前述の差の正負およびポジション角度の増減方向に基づいてポジションセンサーのスタック故障が検出されるとともに、スタック故障が発生しているポジションセンサーが検出されて、ポジションセンサーのスタック故障検出が終了する。
更に、ステップS2で各センサー値が通常使用領域外であると判断されると、ステップS10でセンサー断線あるいはショート等のスタック故障以外のポジションセンサーの故障と判断されてポジションセンサーのスタック故障検出が終了する。
【0044】
この例のポジションセンサーのスタック故障検出装置によれば、入出力特性の線形の傾きが互いに逆になる特性の第1および第2IC4a,4bのセンサー電圧の合計と正常時の第1および第2IC4a,4bのセンサー電圧の合計との差の絶対値が予め設定された規定値AまたはBとを比較判断しているので、スタック故障が発生しているポジションセンサーによって第1および第2ポジションセンサーのセンサー電圧の合計を異ならせることができるため、前述の差もスタック故障が発生しているポジションセンサーによって異ならせることができる。これにより、センサーが止まっている状態(ユーザーがシフトレバーを動かしていない状態)で故障検出をすることができるとともに、第1および第2IC4a,4bのスタック故障を次のレンジが確定する前に確実に検出することができる。
【0045】
また、この例のポジションセンサーのスタック故障検出装置によれば、第1および第2IC4a,4bの入出力特性はその線形の傾きが逆でかつ傾きの絶対値が互いに等しい特性を有しているので、第1および第2IC4a,4bに対して規定値を互いに等しく設定することができる。これにより、スタック故障検出の制御をより簡単にかつより的確に行うことができるようになる。
【0046】
更に、規定値A,Bを、互いに隣接するレンジ間のポジションセンサー角度(レンジ間幅)のうち、最も小さいレンジ間幅(R−Nレンジ間幅)に基づいて設定しているので、どのレンジにおいても、ポジションセンサーのスタック故障が発生したときは、次の隣接するレンジが確定される前に、ポジションセンサーのスタック故障を検出することが確実にできるようになる。これにより、どのレンジにおいても、レンジが確定される前にこのスタック故障を検出したときは、変速機に対して変速制御を行わないフェールセーフ制御等の、ポジションセンサーのスタック故障に対する対応策を講じることができるようになる。しかも、ECU6による変速機のレンジの誤確定を防止することもできる。
【0047】
なお、前述の各例では、変速機として自動変速機を用いて本発明を説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、非接触で線形の電圧値を出力するポジションセンサーからのセンサー電圧を用いてECUにより制御されるものであれば、例えば無段変速機(CVT)等の他の変速機に適用することができる。
また、各レンジの設定も前述の例に限定されることなく、種々任意に設定することができる。
更に、本発明は、回転角度検出センサーの検出素子の出力が故障により通常時より変化するものであれば、前述のスタック故障以外の他の故障にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、自動車等に用いられる自動変速機や無段変速機等の変速機のシフトポジションを検出するポジションセンサー等の回転体の回転角度を検出する検出センサにスタック故障等の故障が発生したとき、この故障を検出する回転角度検出センサーの故障検出装置に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明にかかる回転角度検出センサーの故障検出装置の実施の形態の自動変速機に適用した一例を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す例の回転角度検出センサーの故障検出装置の検出素子である2つのホールICを用いたポジションセンサーの故障検出を説明する図である。
【図3】図1に示す例の回転角度検出センサーの故障検出装置を模式的に示すブロック図である。
【図4】ポジションセンサーの故障検出のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1…ポジションセンサーの故障検出装置、2…A/Tケース、3…マニュアルシャフト、4a…第1IC、4b…第2IC、5…ポジションセンサー、6…電子制御装置(ECU)、7…コネクタ、8…ECUケース、9…ポジションセンサー故障検出ロジック、10…ポジションセンサーフェールセーフ制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転角度を連続的な信号で検出する非接触型の回転角度検出センサーの故障を検出する故障検出装置において、
前記回転角度検出センサーは変速機の複数のレンジ位置を検出するセンサーであって、
前記回転角度検出センサーは、第1および第2検出素子を備え、
前記第1検出素子は、前記回転体の回転角度が増大するに従って出力が増大しかつ前記回転角度が減少するに従って出力が減少する線形の出力特性を有し、
前記第2検出素子は、前記回転体の回転角度が増大するに従って出力が減少しかつ前記回転角度が減少するに従って出力が増大する線形の出力特性を有し、
前記第1および第2検出素子の出力の傾きの絶対値が互いに等しく設定されており、
前記第1および第2検出素子の両出力の合計値と前記第1および第2検出素子の正常時の前記両出力の合計値との差の絶対値が規定値より大きくなったとき、回転角度検出センサーの故障を検出するようにされており、
前記規定値は少なくとも隣接するレンジ間のレンジ間幅に基づいて設定されていることを特徴とする回転角度検出センサーの故障検出装置。
【請求項2】
前記第1および第2検出素子のうち、一方の検出素子の出力が変化しているにもかかわらず、他方の検出素子の出力が変化しないときは、他方の検出素子が異常であると判断することにより、前記第1および第2検出素子のいずれかの故障を検出する手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の回転角度検出センサーの故障検出装置。
【請求項3】
前記変速機のレンジは3つ以上の複数のレンジが設定されており、前記規定値は前記レンジ間幅のうち、最も小さいレンジ間幅に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の回転角度検出センサーの故障検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−220669(P2006−220669A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133247(P2006−133247)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【分割の表示】特願2003−118086(P2003−118086)の分割
【原出願日】平成15年4月23日(2003.4.23)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】