説明

回転軸シール

【課題】PTFE等から成るシールエレメントに気体(ガス)等の高圧が作用しても、長期間にわたって優れた密封性を発揮できる回転軸シールを提供する。
【解決手段】回転軸2の軸心を含む平面をもって切断した断面形状に於て、L字状の弯曲部4をもって装着されたシールエレメント3を低圧側6から支持する板状サポート具5は、外径側から内径側に、軸心直交壁部10と、内径側が高圧側11へ所定傾斜角度θをもって傾斜した勾配壁部12と、シールエレメント3の肉厚寸法Tに略等しいラジアル方向寸法W13の垂直状内周端平坦壁部13とを、有すると共に、微小間隙Gが形成されるように内周端平坦壁部13の最内周端面14が回転軸2に接近して配設され、受圧状態下で、シールエレメント3の低圧側6の面が、軸心直交壁部10と勾配壁部12の高圧側面に接触して保持され、内周端平坦壁部13の高圧側面に低い接触面圧にて接触するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸シールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図6に示すようにPTFE等から成るシールエレメント31を用いた回転軸シールが知られている。あるいは特許文献1に示された同様のシールエレメントを用いた回転軸シールが知られている。
密封流体(気体を含む)が高圧である場合、あるいは、周囲(特に摺動面32)が高温となり、シールエレメント31の強度が低下した場合に、弯曲部33が局部的に大きく異常摩耗を発生する問題がある。さらに、密封流体室34の圧力Pが高い場合、シールエレメント31の強度不足により、過度に弯曲部33が、(図6(A)の正常状態から)図6(B)に示す如く、局部的に(過度に)変形40を発生し、アウターケース等の板状サポート具35の内周端縁部36と回転軸37との間隙部38からはみ出し、本来の形状(図6(A)参照)を維持できなくなる。このような局部的な摩耗やはみ出しは、長期の使用期間にわたって安定したシール性能を発揮することは難しい。
このような問題に対し、従来、図7に示すような回転軸シールが提案されている(なお、特許文献2の図6にも同様のシールが開示されている。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−194231号公報
【特許文献2】特開2005−201336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この図7等の従来の回転軸シールに於て、アウターケース(板状サポート具)35は、内周縁39が、高圧側(密封流体室34側)へ傾斜しつつ回転軸37に接近する勾配壁部41を有する構成として、シールエレメント31の弯曲部33を低圧側から支持して、図6(B)のような局部的な変形40を防止している。
しかしながら、組付けの都合上、勾配壁部41の内周面36Aと回転軸37はある程度のクリアランス42を確保する必要があり、しかも、勾配壁部41の高圧側に鋭利先端部43を有する。
従って、高圧が負荷した場合、上記クリアランス42からのはみ出しの問題、及び、鋭利先端部43によって弯曲部33が傷付いたり、摩耗粉を発生して、シール寿命が短縮されるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は上述の従来の種々の問題点を解決して、PTFE等から成るシールエレメントが気体(ガス)等の高圧が作用しても、弯曲部が局部的に異常変形せず、局部的に摩耗や損傷を発生せず、長期間にわたって優れた密封性を発揮できる回転軸シールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回転軸シールは、回転軸の軸心を含む平面をもって切断した断面形状に於て、弯曲部をもってL字状に弯曲して装着されたシールエレメントを低圧側から支持する板状サポート具は、外径側から内径側に、軸心直交壁部と、内径側が高圧側へ所定傾斜角度をもって傾斜した勾配壁部と、上記シールエレメントの肉厚寸法に略等しいラジアル方向寸法の軸心直交状の内周端平坦壁部とを、有すると共に、上記内周端平坦壁部と上記回転軸との間に微小間隙が形成されるように上記内周端平坦壁部の最内周端面が上記回転軸に接近して配設され、受圧状態下で、上記シールエレメントの低圧側の面が、上記軸心直交壁部と上記勾配壁部の高圧側面に接触して保持され、かつ、上記内周端平坦壁部の高圧側面に低い接触面圧にて軽く接触するように構成されたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の回転軸シールによれば、高圧の密封流体圧力がシールエレメントに作用した受圧状態下でも、シールエレメントは板状サポート具にて常に安定して受持され、局部的異常変形を起こさず、サポート具と回転軸との間隙部からのはみ出しも発生せず、安定した優れた密封性を長期の使用期間にわたって発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態を示す要部拡大断面図である。
【図2】要部の拡大断面説明図である。
【図3】本発明と従来例と比較例とを比較して説明する作用説明図である。
【図4】他の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図5】要部拡大断面図である。
【図6】従来例を示す断面図である。
【図7】他の従来例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1と図2と図3(A)は、本発明に係る回転軸シールの実施の一形態を示し、ハウジング1と回転軸2との間に介装される。
【0010】
3は、PTFE等から成る板状シールエレメントであって、弯曲部4をもってL字状に弯曲して、装着される。即ち、図1に示すように、回転軸2の軸心L2 を含む平面をもって切断した断面形状に於て、シールエレメント3は、軸心直交部3Aと弯曲部4と(軸心L2 と平行な)円筒部3Bとから成るL字状である。
5は、シールエレメント3を低圧側6から支持する板状サポート具であり、図1では、ハウジング1に嵌着されるアウターケース7の一部をもって、サポート具5を構成している。即ち、アウターケース7はハウジング嵌着用円筒部8と、軸心直交状のラジアル壁部9をもって構成され、後者(ラジアル壁部9)が前記サポート具5を構成する。
【0011】
このサポート具5は、外径側から内径側に、軸心直交壁部10と、内径側が高圧側11へ所定傾斜角度θをもって傾斜した勾配壁部12と、軸心直交状の内周端平坦壁部13とを、順次、備えている。
この軸心直交状の内周端平坦壁部13は、シールエレメント3の肉厚寸法T3 に略等しいラジアル方向寸法W13を有する。
【0012】
勾配壁部12及び内周端平坦壁部13は、特に、シールエレメント3に対面(乃至接触)する高圧側の面12A,13Aが重要であり、図1に示した断面図に於て、勾配面12Aと平坦面13Aの交点Zから、内周端平坦壁部13の最内周端面14までの径方向の寸法を、前記ラジアル方向寸法W13と呼ぶ。
そして、内周端平坦壁部13と回転軸2との間に、微小間隙Gが形成されるように、上記最内周端面14は回転軸2に接近して配設されている。
上記微小間隙Gは、(片側で)0.1 mm〜0.25mmに設定する。下限値未満では、組付時又は加工公差によって、回転軸2表面に、最内周端面14が接触する虞がある。逆に、上限値を越せば、間隙Gから、シールエレメント3の受圧時の弯曲部位が、はみ出す虞がある。
【0013】
内周端平坦壁部13の外径寸法をDとし、回転軸2の外径寸法をdとし、シールエレメント3の肉厚寸法をT3 とすると、次の数式が成立するように、設定する。
d+ 1.2T3 ≦D≦d+ 3.0T3
ここで、内周端平坦壁部13の上記外径寸法Dは、前述の交点Zが描く円の直径に相当する。
図1と図2からも明らかなように、D=d+2(W13+G)であるから、 1.2T3 ≦2(W13+G)≦ 3.0T3 なる関係式が導きだされる。故に、
0.6 T3 ≦(W13+G)≦1.5 T3
但し、0.1 mm≦G≦0.25mm
なる関係式が成立し、交点Zの位置が、このように設定されるのが望ましい。
【0014】
ここで、図1の全体の概略を説明すれば、この回転軸シールは、ハウジング1の孔部にアウターケース7が直接に接近するように嵌着されて、例えば段付部16と止め輪15等にて軸心方向に位置決めされる。
略L字型断面のアウターケース7内に、シールエレメント3と円環平板状スペーサ17とインナーケース18を順次嵌込んで、アウターケース7の円筒部8の先端側(高圧側11の端部)をカシメ加工して、一体に組付けられる。
【0015】
シールエレメント3は、回転軸2を挿入する前(即ち未装着状態)では、円環平板状であり、回転軸2を挿入した状態(図1の装着状態)では、断面L字状として、円筒部3Bが回転軸2に接触する。この接触面には、図示省略したが、一般に螺旋溝が形成されていて、回転軸2が回転すると、密封流体を高圧側11へ押し戻すポンピング作用をなすように、構成され、材質はPTFE等のプラスチック材が用いられる。
図1からも分かるように、シールエレメント3の外周端縁部は、スペーサ17と軸心直交壁部10にて挾圧状に保持固定されている。そして、アウターケース7の軸心直交壁部10の高圧側面と、勾配壁部12の高圧側面12Aに、シールエレメント3の背面(低圧側面)が接触して保持され、図3(A)に示した通常受圧状態下では、平坦壁部13の高圧側の面13Aは軽く接触する状態を維持するのが好ましい。
【0016】
ところで、(図1と図2及び図5に於て、)勾配壁部12の傾斜角度θは、20°〜40°に設定される。即ち、20°≦θ≦40°に設定される。
さらに、内周端平坦壁部13が軸心直交面20(図5参照)となる角度βが、−5°〜+5°に設定されている。即ち、−5°≦β≦+5°に設定される。
【0017】
このように、内周端平坦壁部13が軸心直交状とは、上記の角度βの範囲にあることを言う。角度βがプラスとは、平坦壁部13が高圧側11へ傾斜している状態を指す。β<(−5°)では、シールエレメント3の背圧側に局部的異常変形を生ずる。逆に、β>+5°では、図7の従来例で述べた先端部43の問題が発生することとなる。
次に、図4は本発明の他の実施の形態を示し、板状サポート具5としては、インナーケース19の一部をもって構成しても良いことを示している。
図4に於て、アウターケース21は円筒部21bと高圧側内鍔部21aとカシメ部21cとを有する。アウターケース21の高圧側内鍔部21aを被覆するU字状ゴム部22aと、高圧側11へ延伸して回転軸2に摺接するゴムリップ部22bと、ハウジング1の内周面に安定される外周被覆ゴム層部22cとから成るゴム部22がアウターケース21に接着等にて一体固着されている。
【0018】
アウターケース21の内鍔部21aと、インナーケース19の軸心直交壁部23によって、シールエレメント3が挾持されるが、U字状ゴム部22aの一部が介在して挾持される。
インナーケース19の軸心直交壁部23が、板状サポート具5に対応している。
この図4に示した実施の形態に於ける板状サポート具5の形状及び寸法等の構成は、図1,図2,図5等にて説明した構成と同様であり(同一符号は同一構成を示し)、その説明を省略する。
【0019】
次に、図3に於て、本発明の主要な構成による作用(効果)につき、説明すると、図3(A)は前述の図1と図2(又は図4)の本発明の実施の形態に於ける受圧状態を示し、圧力Pが作用したときシールエレメント3は適度に変形して、変形グセや傷を受けない。つまり、勾配壁部12の高圧側面12Aにてシールエレメント3は確実に受持され、回転軸2に近い平坦壁部13の高圧側面13Aは、軽い接触(低い接触面圧)にて、受持するので、異常局部変形が防止でき、かつ、傷が付くこともない。
【0020】
ところが、図3(B)は、いわば、D=d+2Gにて表されるように、図3(A)の平坦壁部13が無い場合を示し、従来の図7の場合に相当する。このときは、圧力Pが作用した受圧状態で、シールエレメント31は、勾配壁部41の鋭利先端部43にて傷を生ずる虞があり、クリアランス42の部位にはみ出しを生ずる虞もあって、寿命が短い。このことは、D<d+ 1.2T3 の場合に発生する問題である。
【0021】
また、図3(C)に示すように、D>d+ 3.0T3 の場合には、シールエレメント3が2〜3箇所で屈曲(屈折)した形状となり、いびつな変形となったり、反り返り等を起こして、局部的に異常発熱や異常摩耗を発生する。
従って、図3(A)と(B)(C)とを比較すれば、本発明の前記数式 d+ 1.2T3 ≦D≦d+ 3.0T3 及び、0.1 mm≦G≦0.25mmを充足することが重要である。言い換えれば、上記数式を充足することで、(PTFE等の)シールエレメント3の「はみ出し(防止)」と「変形」のバランスが良く、シールエレメント3の厚み方向と垂直のクリープ(ズレ)が生じないで、シール面に対する影響───シール面の横方向の移動やスクリュー溝(ラセン溝)の角度の変化───が少なく、優れたシール性能を維持できる。
【0022】
なお、本発明は上述の図示の実施の形態に限らず、種々設計変更自由であって、シールエレメント3を2枚以上有する場合や、図4のゴムリップ部22bが2枚以上有する場合であっても自由であり、特に、板状サポート具5としては、アウターケース7でも、インナーケース19でも、良い。また、勾配壁部12又は内周端平坦壁部13は、断面直線状とする以上に、大きな曲率半径の弧状とすることも可能である。また、板状サポート具5の製法としては、図示の板金加工に限らず、切削加工や鍛造等であっても良い。また、板状サポート具5としては、金属に限らず、プラスチックとしても好ましい。
【符号の説明】
【0023】
2 回転軸
3 シールエレメント
4 弯曲部
5 板状サポート具
6 低圧側
10 軸心直交壁部
11 高圧側
12 勾配壁部
13 内周端平坦壁部
14 最内周端面
20 軸心直交面
θ 傾斜角度
β 角度
D 外径寸法
d 外径寸法
G 微小間隙
2 軸心
3 肉厚寸法
13 ラジアル方向寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(2)の軸心(L2 )を含む平面をもって切断した断面形状に於て、弯曲部(4)をもってL字状に弯曲して装着されたシールエレメント(3)を低圧側(6)から支持する板状サポート具(5)は、外径側から内径側に、軸心直交壁部(10)と、内径側が高圧側(11)へ所定傾斜角度(θ)をもって傾斜した勾配壁部(12)と、上記シールエレメント(3)の肉厚寸法(T3 )に略等しいラジアル方向寸法(W13)の軸心直交状の内周端平坦壁部(13)とを、有すると共に、上記内周端平坦壁部(13)と上記回転軸(2)との間に微小間隙(G)が形成されるように上記内周端平坦壁部(13)の最内周端面(14)が上記回転軸(2)に接近して配設され、
受圧状態下で、上記シールエレメント(3)の低圧側(6)の面が、上記軸心直交壁部(10)と上記勾配壁部(12)の高圧側面に接触して保持され、かつ、上記内周端平坦壁部(13)の高圧側面に低い接触面圧にて軽く接触するように構成されたことを特徴とする回転軸シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−7488(P2013−7488A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198429(P2012−198429)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【分割の表示】特願2007−277271(P2007−277271)の分割
【原出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】