説明

回転電機の冷却構造

【課題】回転電機のエネルギー効率を向上させることができる冷却構造を提供する。
【解決手段】回転軸8によってケースに軸支され、かつ、回転軸8の軸芯Xに沿う方向の両ロータ端面7bに亘って貫通する冷媒液流路13を形成してあるロータ2と、ロータ2の径方向外側に配置され、かつ、ケースに固定されたステータとを備え、ロータ2に、冷媒液流路のロータ端面7bに開口する冷媒出口13bを介して冷媒液を放出する際に、その冷媒液との接触により、当該ロータ2にその回転方向と同じ方向の回転力F1を付与する回転力付与部17を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸によってケースに軸支され、かつ、前記回転軸の軸芯に沿う方向の両ロータ端面に亘って貫通する冷媒液流路を形成してあるロータと、前記ロータの径方向外側に配置され、かつ、前記ケースに固定されたステータとを備えた電動モータや発電機などの回転電機の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記回転電機の冷却構造では、従来、ロータを冷媒液流路内の冷媒液と共に回転させて、その冷媒出口から流出した冷媒液をロータの径方向外方に向けて放出させることにより、ステータのコイルなどに噴き掛けて冷却できるように構成してある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−71923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロータを冷媒液流路内の冷媒液と共に回転させるために、ロータの回転エネルギーの一部が、冷媒液流路内の冷媒液を回転させるためのエネルギーとして消費され、回転電機のエネルギー効率が低下するおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、回転電機のエネルギー効率を向上させることができる冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、回転軸によってケースに軸支され、かつ、前記回転軸の軸芯に沿う方向の両ロータ端面に亘って貫通する冷媒液流路を形成してあるロータと、前記ロータの径方向外側に配置され、かつ、前記ケースに固定されたステータとを備え、前記ロータに、前記冷媒液流路の前記ロータ端面に開口する冷媒出口を介して冷媒液を放出する際に、前記冷媒液との接触により、当該ロータにその回転方向と同じ方向の回転力を付与する回転力付与部を設けてある点にある。
【0006】
本構成であれば、ロータ端面に開口する冷媒出口を介して冷媒液を放出する際に、ロータの径方向外方側に移動しようとする冷媒液との接触により、その冷媒液が有する運動エネルギーを利用して、ロータに対してその回転方向と同じ方向の回転力を付与することができる。
したがって、冷媒液流路内の冷媒液を回転させるために消費されたエネルギーを、ロータの回転エネルギーとして回収することができる。
よって、本構成の回転電機の冷却構造であれば、回転電機のエネルギー効率を向上させることができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記回転力付与部が、前記ロータ端面に固定され、前記冷媒出口から放出された前記冷媒液に、前記ロータの回転方向後方側への方向性を付与する変向面を備えた羽根部材である点にある。
【0008】
本構成であれば、冷媒出口から放出されてロータの径方向外方側に移動しようとする冷媒液が変向面に対して接触することにより、その冷媒液にロータの回転方向後方側に向く方向性を付与すると共に、その付与に伴って発生する反力によってロータに回転方向と同じ方向の回転力を付与することができる。
したがって、ロータ端面に羽根部材を固定してある簡易な構造により、冷媒液が有している運動エネルギーを、ロータの回転エネルギーとして回収することができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記回転力付与部として、前記冷媒液流路の流路軸芯を、前記冷媒出口の側ほど前記ロータの外周側に近づき、かつ、前記回転方向の後方側に変位するように配置してある点にある。
【0010】
本構成であれば、冷媒液が、流路軸芯が冷媒出口の側ほどロータの外周側に近づき、かつ、回転方向の後方側に変位するように配置された冷媒液流路を、ロータの回転に伴う遠心力で冷媒液流路の内面をロータの回転方向に押圧しながら通過するので、ロータに対してその回転方向と同じ方向の回転力を付与することができる。
したがって、冷媒出口から放出された冷媒液の運動エネルギーに加えて、冷媒液流路内を移動する冷媒液の運動エネルギーも、ロータの回転エネルギーとして回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】回転電機(電動モータ)の縦断面図である。
【図2】冷媒出口の側のロータ端面を示す正面図である。
【図3】第2実施形態における回転電機(電動モータ)の縦断面図である。
【図4】第2実施形態における冷媒出口の側のロータ端面を示す正面図である。
【図5】図3におけるV−V線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1,図2は、車両などに搭載される本発明による冷却構造を備えた回転電機の一例としての電動モータを示す。
電動モータは、ハウジング(ケース)1の内側に横向きの回転軸芯X周りで回転自在に支持されたロータ2と、ハウジング1の内側に固定されたステータ3とを備えている。
【0013】
ロータ2は、多数の電磁鋼板を回転軸芯Xの方向に積層してあるロータコア4と、ロータコア4の回転軸芯Xの方向の両端面に固定したエンドプレート5a,5bとを備えている。ロータコア4の内部には、複数の永久磁石6がロータ周方向に間隔を隔てて取り付けられている。両エンドプレート5a,5bの外向き面がロータ端面7a,7bを形成している。
ロータ2は、動力伝達用の回転軸8に油密に外嵌固定され、この回転軸8によって一対のベアリング8a,8bを介してハウジング1に回転自在に軸支されている。
【0014】
ステータ3は、多数の電磁鋼板を回転軸芯Xの方向に積層してあるステータコア9と、ステータコア9に巻き付けたステータコイル10とを備えている。ステータ3は、ステータコア9をロータ2の径方向外側に僅かな隙間を隔てて配置して、ハウジング1の内側に固定されている。
【0015】
ステータコア9の両端部におけるステータコイル10の巻き返し部分がコイルエンド11として形成され、ステータコイル10に電流を流すことにより、ロータ2を回転させる磁界が発生する。
【0016】
回転軸8は、冷媒液としての冷却油の供給路である冷却油供給路12を内側に形成した中空軸で構成してある。
冷却油供給路12は、冷却油を供給するための図示しないオイルポンプに接続されている。
【0017】
ロータ2には、回転軸芯Xに沿う方向の両ロータ端面7a,7bに亘って回転軸芯Xと平行に貫通する複数の冷却油流路(冷媒液流路)13をロータ周方向に等間隔で形成してある。
冷却油流路13は、横断面形状が円形で、ロータコア4と両エンドプレート5a,5bとに亘って一連に形成され、円形の冷却油入口(冷媒入口)13aが一方のロータ端面7aに開口しており、円形の冷却油出口(冷媒出口)13bが他方のロータ端面7bに開口している。
【0018】
回転軸8には、冷却油供給路12に対して回転軸芯Xに直交する方向から連通する連通孔14が形成され、この連通孔14と各冷却油流路13の冷却油入口13aとを連通する連通路15が設けられている。
連通路15は、回転軸8と冷媒入口13aを形成してあるエンドプレート5aとに亘って油密に固定した円盤状の通路形成部材16の内側に環状に形成されている。
【0019】
冷却油は、冷却油供給路12から連通孔14と連通路15とを経由して、各冷却油流路13に供給され、ロータ2が回転している状態で、各冷却油流路13を通過中の冷却油には遠心力が作用しており、冷却油出口13bから流出した冷却油は、冷却油出口13bの回転軌跡に接する接線方向に沿って、ロータ2の径方向外方に向けて放出される。
【0020】
ロータ2には、図2に示すように、各冷却油出口13b毎に対応して、冷却油出口13bを介して冷却油を放出する際に、その冷却油との接触により、当該ロータ2にその回転方向aと同じ方向の回転力F1を付与する回転力付与部17を各別に設けてある。
【0021】
回転力付与部17の夫々は、冷却油出口13bが開口するエンドプレート5bの側のロータ端面7bに固定された板状の羽根部材19で構成してある。
羽根部材19は、冷却油出口13bから放出された冷却油に、ロータ2の回転方向後方側への方向性を付与する変向面18を備えている。
【0022】
変向面18は、回転軸芯方向視で、回転軸芯Xと冷却油出口13bの中心Yとを結ぶ直線L1が冷却油出口13bの周縁に回転軸8の側において交わる位置を始点Pとし、回転軸芯Xを通り、かつ、冷却油出口13bの周縁に対して回転方向aの上手側で接する直線L2がロータ端面7bの外縁に交わる位置よりも回転方向aの上手側の位置を終点Qとする曲面状に形成してある。
【0023】
したがって、冷却油出口13bから放出されて、冷却油出口13bの回転軌跡の接線方向に沿って放出され、ロータ2に対してはロータ2の径方向外方側に移動しようとする冷却油が変向面18に接触することにより、その冷却油に対して変向面18に沿ってロータ2の回転方向aの後方側へ移動する方向性を付与することができる。また、その付与に伴って発生する反力によってロータ2に対して回転方向aと同じ方向の回転力F1を付与することができる。
【0024】
変向面18を通過した冷却油は、ハウジング1の外周側に放出され、図外の循環機構によって再び冷却油供給路12に戻される。
尚、ハウジング1の側に放出される冷却油は、ステータコイル10の冷却にも利用される。しかし、ステータコイル10の損傷を防止する上では、直接にステータコイル10に飛散させない構成にするのが望ましい。
【0025】
〔第2実施形態〕
図3〜図5は、本発明による冷却構造を備えた回転電機の一例としての別実施形態の電動モータを示す。
本実施形態では、回転力付与部17として、第1実施形態で示した羽根部材19に加えて、冷却油流路13の流路軸芯Zを、冷却油流路13の中間箇所において、冷却油出口13bの側ほどロータ2の外周側に近づき、かつ、回転方向aの後方側に変位するように配置してある。
【0026】
つまり、冷却油流路13の冷却油入口13aと冷却油出口13bとの間における流路軸芯Zを、図5に示すように、冷却油流路13の流路上手側から見て、冷却油出口13bに向けてロータ2の回転方向aとは逆方向に螺進し、かつ、冷却油出口13bの側ほど螺旋径が大きくなる螺旋状に配置してある。
尚、図5はロータ2の断面を示しているが、図面を見易くするために、ロータコア4についてはハッチングを施していない。
【0027】
このような冷却油流路13は、例えばロータコア4を構成する電磁鋼板に形成する冷却油流路用の貫通孔の位置を、隣り合う電磁鋼板毎に少しずつずらせることにより設けることができる。
【0028】
したがって、冷却油が、冷却油出口13bの近くにおいて、ロータ2の回転に伴う遠心力で冷却油流路13の内面をロータ2の回転方向に押圧しながら通過するので、図5に示すように、ロータ2に対してその回転方向と同じ方向の回転力F2を付与することができる。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0029】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による回転電機の冷却構造は、電動モータの他に、発電機や、電動モータ又は発電機として択一的に機能するモータジェネレータの冷却構造であってもよい。
2.本発明による回転電機の冷却構造は、第1実施形態において、羽根部材19が、冷却油出口13bをその回転方向下手側から囲む状態で、始点Pと終点Qとを通る円弧形状に沿う内周面を変向面18として備えていてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 ケース
2 ロータ
3 ステータ
7a,7b ロータ端面
8 回転軸
13 冷媒液流路
13b 冷媒出口
17 回転力付与部
18 変向面
19 羽根部材
X 軸芯
F1,F2 回転力
Z 流路軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸によってケースに軸支され、かつ、前記回転軸の軸芯に沿う方向の両ロータ端面に亘って貫通する冷媒液流路を形成してあるロータと、前記ロータの径方向外側に配置され、かつ、前記ケースに固定されたステータとを備え、
前記ロータに、前記冷媒液流路の前記ロータ端面に開口する冷媒出口を介して冷媒液を放出する際に、前記冷媒液との接触により、当該ロータにその回転方向と同じ方向の回転力を付与する回転力付与部を設けてある回転電機の冷却構造。
【請求項2】
前記回転力付与部が、前記ロータ端面に固定され、前記冷媒出口から放出された前記冷媒液に、前記ロータの回転方向後方側への方向性を付与する変向面を備えた羽根部材である請求項1記載の回転電機の冷却構造。
【請求項3】
前記回転力付与部として、前記冷媒液流路の流路軸芯を、前記冷媒出口の側ほど前記ロータの外周側に近づき、かつ、前記回転方向の後方側に変位するように配置してある請求項2記載の回転電機の冷却構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−254571(P2011−254571A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124722(P2010−124722)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】