説明

回転電機の冷却構造

【課題】冷媒をロータに供給するために必要とするエネルギーを小さくして回転電機のエネルギー損失の低減可能な冷却構造を得る。
【解決手段】ロータ30と一体的に回転する支軸20に小半径となる内径の第1空間S1と大半径となる内径の第2空間S2とを形成する。ロータ30の回転時の遠心力によって作り出される圧力差により第1空間S1のオイル1をロータ30の冷却路32に供給する供給路T1と、冷却路32からのオイル1を第2空間に送る還元路T2とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の冷却構造に関し、詳しくは、回転電機の回転時に冷媒の供給により冷却を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された回転電機として特許文献1には、モータハウジングの内部にロータシャフトと一体的に回転するロータコアと、これを取り囲む位置にステータコイルとを備えると共に、ロータコアには冷却油通路が形成され、モータハウジングの底部の油溜りの油を冷却油供給流路に圧送するポンプを備えた冷却構造が記載されている。
【0003】
この特許文献1の回転電機(文献では電動モータ)ではロータシャフトを垂直方向に配置して使用されるものであり、ロータコアは、上端の上部プレートと下端の下部プレートとの間に複数枚の電磁鋼板を積層した構造を有している。ロータコアには周方向で所定個数の永久磁石が埋設され、ロータを縦方向に貫通する複数の冷却油通路が形成されている。ポンプは、ロータの下部プレートに複数の吸入口を形成した構造であり、ロータシャフトの回転時には吸入口で油を掬い取るように吸入し、冷却油通路に対して下方から上方に油を供給する。
【0004】
このような構成から、回転電機の回転時にはポンプの吸入口からハウジング底部の油が吸引され、冷却油通路に送られることによりロータコアの冷却を実現すると共に、このように送られた油を上部プレートのノズルから上方に噴出させ、ステータコイルの上面に供給することでステータコイルの冷却も実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐71923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される冷却構造では、ロータと共に回転するポンプが油溜りの油面より低いレベルに配置されているため、ロータの回転時にはポンプの回転部に対して油から抵抗が作用しエネルギー損失に繋がるものである。
【0007】
特に、特許文献1に記載される冷却構造では、ロータの上端の上端プレートから油を上方に噴出させる圧力を必要とする構成であるため、ロータの回転に作用する抵抗は比較的大きく、エネルギーの損失も大きいものとなり改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、冷媒をロータに供給するために必要とするエネルギーを小さくして回転電機のエネルギー損失の低減が可能な冷却構造を得る点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、支軸と一体回転するロータと、このロータを取り囲む位置から前記ロータに磁力を作用させるステータとを備えて回転電機が構成されると共に、
前記支軸の軸芯から第1距離だけ離間する第1内壁を有する第1空間と、前記支軸の軸芯から第1距離より長い第2距離だけ離間する第2内壁を有する第2空間とが独立した状態で前記支軸に備えられ、
前記第1空間から前記ロータに形成された冷却路を介して前記第2空間に冷媒を送る冷媒流路と、前記第2空間から冷媒を排出することで前記第2空間において前記軸芯から冷媒の液面位置までの距離を前記第1距離より長くする冷媒排出流路と、前記第1空間に冷媒を補給する冷媒補給手段とが備えられている点にある。
【0010】
この構成によると、第1空間と第2空間とがロータと一体的に回転することから、この遠心力の作用によって第1空間における冷媒の液面から軸芯までの距離が、第2空間における冷媒の液面から軸芯までの距離より短くなる。このように液面にレベル差が形成されるため、第1空間からロータの冷却路に対して作用する圧力が第2空間から冷却路に対して作用する圧力より高くなる。この圧力差が、第1空間の冷媒を冷却路に供給し、この冷却路の冷媒を第2空間に還元する流れを作り出すことになり冷却路に対して冷媒を送るためのポンプ類を備えずに済むのである。特に、液面のレベル差によって冷媒を送るので、このレベル差が小さいほど冷媒の流速も低くなり、この冷媒に流れを作り出す力も小さくすることが可能となりエネルギーの損失も小さくできる。
その結果、冷媒をロータに供給するために必要とするエネルギーを小さくして回転電機のエネルギー損失の低減が可能な冷却構造が得られた。
【0011】
本発明は、前記支軸として一端側の内径が他端側の内径より小さい筒状体が用いられ、この筒状体の軸芯方向での中間位置に隔壁を備えることより、この筒状体の前記一端側に前記第1空間が形成され、この筒状体の前記他端側に前記第2空間が形成されても良い。
【0012】
これによると、内径(半径)が異なる筒状体の中間位置に隔壁を備えることにより、支軸の外部に対して第1空間と第2空間とを形成する等、複雑な構造を採用することなく、第1空間と第2空間とを形成できる。
【0013】
本発明は、前記筒状体を半径方向に貫通することで前記第1空間に連通する供給孔と、前記筒状体を半径方向に貫通することで前記第2空間に連通する還元孔とが形成されると共に、前記冷媒流路が、前記供給孔から前記冷却路に冷媒を送る供給路を形成するための供給路形成部材と、前記冷却路からの冷媒を前記還元孔に送る還元路を形成する還元路形成部材とで構成されても良い。
【0014】
これによると、ロータに対して供給路形成部材と還元路形成部材とを備えることにより、第1空間の冷媒が、供給孔から供給路形成部材の供給路を介して冷却路に送られることになる。また、冷却路の冷媒が還元路形成部材の還元路から還元孔に送られ第2空間に戻される。その結果、ロータを特別に加工することなく冷媒を送る経路を形成できるのである。
【0015】
本発明は、前記冷媒補給手段が、前記冷媒排出流路によって排出された冷媒を前記第1空間に供給するポンプを備えても良い。
【0016】
これによると、冷媒排出流路により排出された冷媒をポンプにより第1空間に供給することになり、冷媒を循環させることができる。特に、このポンプは冷媒を循環させる程度の小型のもので済み、冷媒を循環させる構成の小型化も実現する。
【0017】
本発明は、前記冷媒排出流路から排出された前記冷媒を冷却する放熱手段が備えられても良い。
【0018】
これによると、冷媒の温度が上昇しても放熱手段により冷媒の温度低下を図ることができ、温度上昇に伴う永久磁石の性能低下等を招くことがなく回転電機の性能を高く維持できる。
【0019】
本発明は、前記軸芯が水平姿勢に設定されると共に、前記冷媒排出流路が前記第2空間の冷媒を取り出す取出管で構成され、前記冷媒補給手段が、前記取出管で取り出された冷媒を自重によって前記第1空間に流すように前記軸芯に沿って配置された還元管で構成されても良い。
【0020】
これによると、第2空間の冷媒を取出管で取り出し、この冷媒を自重によって還元管により第2空間に流すことが可能となり、ポンプ類を備えずとも、第2空間の冷媒を第1空間に補給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】回転電機の断面と冷却構造とを示す図である。
【図2】冷媒流路の構造を示す断面図である。
【図3】ロータ、供給路形成部材、還元路形成部材等を示す分解斜視図である。
【図4】別実施形態の回転電機の断面と冷却構造とを示す図である。
【図5】別実施形態の冷媒流路の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、ケース10の内部に支軸20により回転自在にロータ30を支持し、ケース10の内部においてロータ30の外周に近接する位置でこのロータ30を囲む位置にステータ40を備えてブラシレス型の回転電機が構成されている。
【0023】
この回転電機は、ハイブリッド型の自動車や電気自動車の駆動源に用いられるものであり、支軸20の軸芯Xを水平姿勢に設定して使用される。ケース10は、第1ケース11と第2ケース12とを支軸20の軸芯Xに沿う方向に分離可能に連結した構造を有している。第1ケース11の下側には冷媒としてオイル1(潤滑油としても機能する)の貯留空間13が形成され、このオイル1をロータ30に供給する冷却構造を備えている(この冷却構造については後述する)。
【0024】
図1〜図3に示すように、前記ロータ30は、軸芯Xを中心にした円板状で円周方向で所定の間隔で貫通孔をプレス加工によって形成した磁性鋼板31が用いられている。このロータ30は、前述のようにプレス加工された磁性鋼板31の表面に絶縁膜を形成したものを複数枚積層し、貫通孔として形成された複数の冷却路32の内部でロータ30の外周側に永久磁石33を埋め込んだ構造を有している。このロータ30を挟む位置の支軸20を軸芯Xを中心として回転自在に支持するようにボールベアリングで成る軸受15が第1ケース11と第2ケース12とに備えられている。この軸受15に回転自在に支承される支軸20の一端側をケース10の外部に突出し、この突出部に対して出力ギヤ20Aが備えられている。尚、永久磁石33の配置や冷却路32の配置は、図面に示されるものに限るものではない。
【0025】
前記ステータ40は、表面に絶縁膜が形成された磁性鋼板41を積層し、周方向で所定角度で並ぶ複数のティース部にコイル42を巻回した構造を有している。このステータ40が前記第1ケース11の内面側に嵌め込む形態で回転不能に支持されている。
【0026】
このような構成から、回転制御装置(図示せず)が複数のコイル42の何れかに対して選択的に電流を供給することで、ステータ40からロータ30に作用する磁力によりロータ30を駆動回転させ、その回転駆動力を出力ギヤ20Aから取り出せる。尚、この回転電機では支軸20を駆動回転することによりステータ40から電力を取り出す発電機として機能させることも可能である。
【0027】
〔冷却構造〕
この回転電機では、回転時に冷媒としてのオイル1を図1、図2に矢印として示すように流動させる形態でロータ30に供給することによりロータ30と永久磁石33との冷却を実現する冷却構造を備えている。この冷却構造は、支軸20に備えた第1空間S1から冷媒としてのオイル1をロータ30の冷却路32に供給してロータ30と永久磁石33との冷却を行い、この冷却路32から支軸20に備えた第2空間S2に戻す冷媒流路Tを備えている。更に、この冷却構造は、第2空間S2からオイル1を排出する冷媒排出流路EXと、この冷媒排出流路EXからケース内部の貯留空間13に送り出されたオイル1を第1空間S1に送る冷媒補給手段Uとを備えている。
【0028】
〔冷却構造:冷媒流路〕
前記支軸20は、一端側の内径が他端側の内径より小さい筒状体が用いられている。具体的には、筒状体として、一端側(第1空間側)の内壁の第1半径R1(第1距離の一例)が、他端側(第2空間側)の内壁の第2半径R2(第2距離の一例)より小さく断面形状が円筒となる形状のものが用いられている。この支軸20(筒状体)の中間部分に隔壁23を備えることにより、この支軸20の一端側に第1空間S1と、他端側に第2空間S2とが独立した状態で支軸20に備えられている。
【0029】
この実施形態では、支軸20は、棒状の材料に対して軸芯Xに沿って内径が異なる孔を穿設することで第1空間S1と第2空間S2とを形成し、これらの中間位置に支軸20と一体的に隔壁23が形成される構造を示している。本発明の支軸20は、このような構造に限るものではなく、例えば、プレス絞り加工や、へら絞り加工等により第1空間S1と第2空間S2とを形成し、これらの中間位置に隔壁23を挿入して固定する構造のものでも良い。
【0030】
図2に示すように、支軸20に第1空間S1と第2空間S2とが形成されることにより、軸芯Xから第1空間S1の第1内壁F1までの距離(第1半径R1)が、軸芯Xから第2空間S2の第2内壁F2までの距離(第2半径R2)に対して距離差Gだけ長く設定される。この実施形態では第1空間S1と第2空間S2とを支軸20の内部に形成していたが、支軸20の画面に対して、例えば、筒状部材を備えることにより、支軸20の外面に対して第1空間S1と第2空間S2とを形成しても良い。
【0031】
支軸20を構成する筒状体を半径方向に貫通することで第1空間S1と連通する複数の供給孔21が形成され、これと同様に支軸20を構成する筒状体を半径方向に貫通することで第2空間S2と連通する複数の還元孔22とが形成されている。複数の供給孔21からのオイル1を冷却路32に送る供給路T1を形成するための供給路形成部材24がロータ30の一方の側面に備えられ、供給路T1からのオイル1を還元孔22に戻す還元路T2を形成するための還元路形成部材25がロータ30の他方の側面に備えられている。この供給路T1と還元路T2とで前述した冷媒流路Tが構成されている。
【0032】
供給路形成部材24と、還元路形成部材25とは樹脂材料を用いて皿状に成形されたものであり、夫々とも支軸20に外嵌すると共に、支軸20の外周に備えたブッシュ26により、その外周部分がロータ30の側面に押し付けられる状態で配置される。前述した供給孔21と還元孔22との数は、ロータ30に形成される冷却路32の数と一致させる必要はないが、複数の冷却路32のうちの特定のものに偏ってオイル1が供給される不都合を避けるために、供給孔21から半径方向の延長上から外れた位置に冷却路32が配置されるように夫々の相対的な位置が設定されている。
【0033】
尚、これら供給路形成部材24と、還元路形成部材25とは金属を用いて構成されるものであっても良い。また、これら供給路形成部材24と、還元路形成部材25とはロータ30の側面に対して接着固定される形態で備えて良く、樹脂を用いてロータ30の外面に一体化する状態で形成されても良い。特に、供給路形成部材24と、還元路形成部材25とがロータ30の側面に接触する部位にO−リング等のシール部材を備えても良い。
【0034】
〔冷却構造:冷媒排出流路〕
図1に示すように支軸20の他端側を第2空間S2を軸芯Xに沿う方向に開放させる形態となるように冷媒排出流路EXが形成されている。また、この冷媒排出流路EXから送り出されたオイル1を貯留空間13に送る排出油路14が第1ケース11に形成されている。
【0035】
〔冷却構造:冷媒補給手段〕
貯留空間13のオイル1は、第1補給油路U1を介して油圧ポンプPに送られ、この油圧ポンプPから第2補給油路U2に介装された放熱手段としてのラジエータ2を通過して第1空間S1に戻す循環系が構成されている。この第1補給油路U1と第2補給油路U2と油圧ポンプPとで前述した冷媒補給手段Uが構成されている。
【0036】
この冷媒補給手段Uでは、油圧ポンプPを駆動する電動型のポンプモータMを備え、ラジエータ2に冷却風を供給する電動型の冷却ファン3を備えている。更に、第1補給油路U1に送られるオイル1の油温を計測する油温センサ4を備え、この油温センサ4の計測結果を取得しポンプモータMと冷却ファン3とを制御する温度制御装置5を備えている。
【0037】
〔冷却作動形態〕
このような構成から、回転電機の稼動時(ロータ30の回転時)には遠心力によって第1空間S1に存在するオイル1は第1内壁F1の方向に押し付けられ、第2空間S2に存在するオイル1は第2内壁F2に押し付けられる。第2空間S2には軸端側に開放する冷媒排出流路EXが形成されているため、この第2空間S2に存在するオイル1の液面は第2内壁F2と略一致することになり、この液面は第1空間S1に存在するオイル1の液面より軸芯Xから長い距離に存在することになる。尚、図1、図2では第2空間S2に存在するオイル1を所定の厚さで示しているが、これは理解を助けるために誇張して示したものである。
【0038】
このように第1空間S1に存在するオイル1と、第2空間S2に存在するオイル1とにレベル差があるため、第1空間S1のオイル1の液面から冷却路32までの距離が、第2空間S2のオイル1の液面から冷却路32までの距離より必ず長くなる。従って、供給路T1の圧力が還元路T2の圧力より高くなる。この圧力差から第1空間S1のオイル1が供給孔21から供給路T1を介して冷却路32に送られ、この冷却路32からのオイル1は還元路T2から還元孔22を介して第2空間S2に戻されることになる。そして、冷却路32にオイル1が送られる際に、オイル1がロータ30と永久磁石33との熱を奪い冷却が実現する。
【0039】
次に、第2空間S2に戻されたオイル1は支軸20の他方側の端部の冷媒排出流路EXから支軸外に排出され、排出油路14から下方に送り出され貯留空間13に回収される。この実施形態では支軸20の他端側を開放させることで冷媒排出流路EXを構成していたが、この冷媒排出流路EXを第2空間S2に連通するように支軸20に穿設した貫通孔で構成しても良い。
【0040】
そして、この貯留空間13のオイル1は第1補給油路U1を介して油圧ポンプPに送られ、この油圧ポンプPからのオイル1が第2補給油路U2のラジエータ2に送られ、このラジエータ2から支軸20の突出側の軸端に備えたロータリ型のジョイント6を介して第1空間S1に戻される。これによりオイル循環系が構成されている。
【0041】
このオイル循環系には前述したように温度制御装置5を備えており、この温度制御装置5は、回転電機が稼働する状況において、設定された温度を超える油温を油温センサ4で計測した場合にのみ冷却ファン3を駆動することにより、冷却ファン3を無駄に駆動する不都合を解消している。
【0042】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施の形態以外に以下のように構成しても良い(この別実施形態で実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0043】
図4及び図5に示すように、この別実施形態では、ケース10に対して支軸20が軸受15により回転自在に支持され、この支軸20のうちケース10から外部に突出する一端側に出力部20Bが形成されている。支軸20の内部には第1半径R1の第1空間S1と、第2半径R2の第2空間S2とが形成され、第1空間S1の第1内壁F1と、第2空間S2の第2内壁F2との半径方向で距離差Gが設定されている。第1空間S1のオイル1を供給孔21から供給路形成部材24の供給路T1を介して冷却路32に送り、この冷却路32のオイル1を還元路形成部材25の還元路T2から還元孔22を介して第2空間S2に戻すように冷媒流路Tが構成されている。特に、この別実施形態では第2空間S2のオイル1をポンプ類を用いずに第1空間S1に戻すため冷媒補給手段Uとしての還元ユニット50を備えている。
【0044】
還元ユニット50は、支軸20の相対回転を許しながら第1ケース11に回転不能に支持されている。この還元ユニット50は、支軸20の軸端に套嵌される筒状部51と、支軸20の他端側の開放部を閉塞する壁部52と、筒状部51と支軸20の外面とに間に配置されるオイルシール53と、壁部52の上側(高いレベル)から第2空間S2のオイル1を取り出す取出管54と、この取出管54からのオイル1を第2空間S2に戻す還元管55とを備えている。
【0045】
前述した取出管54が壁部52の上側に形成され、この取出管54の下側で取出管54からのオイル1を第1空間S1に送り込むように取出管54に連通する還元管55が配置されている。この還元管55は、軸芯Xに沿う姿勢で配置されるものであり、隔壁23の中央位置に形成された孔部23Aを貫通する位置に配置されている。第2空間S2に貯留されるオイル1の液面が、第1内壁F1のレベルを超えて軸芯Xに接近しないように壁部52にはオイル1を排出するオーバーフロー孔56が形成されている。この別実施形態では、取出管54が本発明の冷媒排出流路EXを構成する。
【0046】
還元管55には油量と油温とを計測するように複数のセンサを組み合わせた複合センサ57を備え、ケース10の外部には、貯留空間13のオイル1を還元管55に戻す補充油路Dを備えている。この補充油路Dには油圧ポンプPと、ラジエータ2とを備えている。油圧ポンプPを駆動する電動型のポンプモータMを備え、ラジエータ2に冷却風を供給する電動型の冷却ファン3を備えている。また、前述した複合センサ57の計測結果に基づいてポンプモータMと冷却ファン3とを制御する補充制御装置8を備えている。
【0047】
尚、複合センサ57のうち油温を計測するセンサとしてサーミスタを用いることが考えられ、複合センサ57のうち油量を計測するセンサとしてオイル1の圧力を計測する圧力センサを用いることや、オイル1の量を静電容量から計測する静電容量センサを用いることが考えられる。
【0048】
このような冷却構造を備えているので、回転電機の稼動時(ロータ30の回転時)には遠心力によって第1空間S1に存在するオイル1と、第2空間S2に存在するオイル1とのレベル差に起因して圧力差が生ずる。これにより、第1空間S1のオイル1は供給孔21から供給路T1を介して冷却路32に送られ、この冷却路32からのオイル1は還元路T2から還元孔22を介して第2空間S2に戻されることになる。そして、冷却路32にオイル1が送られる際にロータ30と永久磁石33との熱を奪い冷却を実現する。
【0049】
次に、第2空間S2に戻されたオイル1は支軸20の他方側の端部の還元ユニット50の取出管54から取り出され、次に、還元管55から第1空間S1に戻される。これにより、ポンプ類を用いることなく冷媒としてのオイル1を循環させてロータ30と永久磁石33との冷却を実現することになる。つまり、第2空間S2に存在するオイル1は、遠心力により第2内壁F2の内面に沿う領域に存在することになり、この領域のうち軸芯Xより上側に存在するものを取出管54で取り出し、レベル差を利用してオイル1の自重による流れにより還元管55に送り、この還元管55により第1空間S1に戻すように、取出管54の位置と還元管55との位置関係が設定されている。
【0050】
このようにオイル1を循環させて冷却が行われている際にオイル1のリークによりオイル量が減少した場合には、この減少を複合センサ57が検出し、補充制御装置8が油圧ポンプPを作動させる。そして、この油圧ポンプPの作動によりオイル1は補充油路Dから還元管55に対して直接的に補給され、このように補給されたオイル1の量が必要とする量に達したことを複合センサ57で検出することで補給が停止する。
【0051】
また、複合センサ57によりオイル1の油温が設定値を超えたことが検出された場合には補充制御装置8が冷却ファン3を駆動させ、油圧ポンプPを作動させることで低温のオイル1を補充する制御が行われる。このように低温のオイル1を補充する際には、オイル1の熱をラジエータ2で放熱させることが目的であるので、油圧ポンプPを継続的に作動させることでオイル1が補充油路Dから還元管55に対して直接的に補給され、第1空間S1に補充される。
【0052】
このように補充されたオイル1は冷媒流路Tに送られると同時に、オイル1の一部が隔壁23の孔部23Aを介して第2空間S2にオーバーフローし、更に、第2空間S2からオーバーフロー孔56を介して排出される。そして、オイル1の温度が適正な値まで低下したことを複合センサ57で検出することで補給が停止する。尚、このようにオーバーフロー孔56から排出されたオイル1は、貯留空間13に貯留され、再び油圧ポンプPにより第1空間S1に補給されるのである。
【0053】
この別実施形態では、還元ユニット50が、第2空間S2のオイル1を支軸20の内部の還元管55を介して第1空間S1に戻すように構成されていた。この別実施形態の異なる構成として、ポンプ類を用いずにオイル1の自重を利用してオイル1を第1空間S1に戻すものであれば、ケース10の外部を介して第1空間S1に対してオイル1を送るチューブを備えて還元ユニット50を構成されるものであっても良い。
【0054】
〔実施形態(別実施形態)の作用・効果〕
このように、回転電機の駆動時にはロータ30と一体的に回転する支軸20に備えられた第1空間S1と第2空間S2との構造から圧力差を作り出し、ポンプ類を用いることなく冷媒としてのオイル1の流れを作り出し、ロータ30と永久磁石33との冷却を実現している。また、このオイル1の流れは、遠心力により第1空間S1から供給路T1に存在するオイル1に作用する圧力と、遠心力により第2空間S2から還元路T2に存在するオイル1に作用する圧力との差によって作り出されることから、還元路T2において第2空間S2の方向にオイル1が流れる際にも、この流れを遠心力が抑制することになり、オイル1の流れの高速化が抑制される。このような理由から回転電機の駆動力がオイル1の流れを作り出すエネルギーとして無駄に消費される不都合を解消する。
【0055】
オイル1の温度が上昇した場合にはケース10の外部のラジエータ2によってオイル1の冷却を行い、オイル1の温度の過剰な上昇の抑制が可能となる。
【0056】
特に、別実施形態のように還元ユニット50を備えるものでは、第2空間S2のオイル1を第1空間S1に戻すために専用のポンプ類を必要とすることなく、単純で小型な構成とすることを可能にする。
【0057】
また、別実施形態では、オイル1を補充時に過剰な量のオイル1が第1空間S1に供給された場合でも、そのオイル1が隔壁23の孔部23Aを介して第2空間S2にオーバーフローし、更に、還元ユニット50のオーバーフロー孔56から支軸20の外部に排出されるので適正なオイル1の使用が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ロータの冷却を必要とする回転電機全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 冷媒(オイル)
2 放熱手段(ラジエータ)
20 支軸
21 供給孔
22 還元孔
23 隔壁
24 供給路形成部材
25 還元路形成部材
30 ロータ
32 冷却路
40 ステータ
54 取出管
55 還元管
F1 第1内壁
F2 第2内壁
P ポンプ(油圧ポンプ)
R1 第1距離(第1半径)
R2 第2距離(第2半径)
S1 第1空間
S2 第2空間
U 冷媒補給手段
T 冷媒流路
T1 供給路
X 軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支軸と一体回転するロータと、このロータを取り囲む位置から前記ロータに磁力を作用させるステータとを備えて回転電機が構成されると共に、
前記支軸の軸芯から第1距離だけ離間する第1内壁を有する第1空間と、前記支軸の軸芯から前記第1距離より長い第2距離だけ離間する第2内壁を有する第2空間とが独立した状態で前記支軸に備えられ、
前記第1空間から前記ロータに形成された冷却路を介して前記第2空間に冷媒を送る冷媒流路と、前記第2空間から冷媒を排出することで前記第2空間において前記軸芯から冷媒の液面位置までの距離を前記第1距離より長くする冷媒排出流路と、前記第1空間に冷媒を補給する冷媒補給手段とが備えられている回転電機の冷却構造。
【請求項2】
前記支軸として一端側の内径が他端側の内径より小さい筒状体が用いられ、この筒状体の軸芯方向での中間位置に隔壁を備えることより、この筒状体の前記一端側に前記第1空間が形成され、この筒状体の前記他端側に前記第2空間が形成されている請求項1記載の回転電機の冷却構造。
【請求項3】
前記筒状体を半径方向に貫通することで前記第1空間に連通する供給孔と、前記筒状体を半径方向に貫通することで前記第2空間に連通する還元孔とが形成されると共に、前記冷媒流路が、前記供給孔から前記冷却路に冷媒を送る供給路を形成するための供給路形成部材と、前記冷却路からの冷媒を前記還元孔に送る還元路を形成する還元路形成部材とで構成されている請求項2記載の回転電機の冷却構造。
【請求項4】
前記冷媒補給手段が、前記冷媒排出流路によって排出された冷媒を前記第1空間に供給するポンプを備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項5】
前記冷媒排出流路から排出された前記冷媒を冷却する放熱手段が備えられている請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項6】
前記軸芯が水平姿勢に設定されると共に、前記冷媒排出流路が前記第2空間の冷媒を取り出す取出管で構成され、前記冷媒補給手段が、前記取出管で取り出された冷媒を自重によって前記第1空間に流すように前記軸芯に沿って配置された還元管で構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転電機の冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−254580(P2011−254580A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124731(P2010−124731)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】