説明

圧縮ばね及びそれを備える椅子

【課題】汎用性が高く、かつ安価で簡単な構造の圧縮ばねを提供する。
【解決手段】本発明の圧縮ばね23は、2部材5、26と対向する両端部に非可撓性の硬質部23a、23dを有し、かつ両硬質部23a、23dの間の中間部に、両端間に圧縮力が作用することにより、互いに外方に弾性撓曲する1対の弾性撓曲部23bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮ばね、及びこの圧縮ばねにより、背凭れを、弾性抵抗力を付与した状態で後傾させうるようにしたリクライニング式の椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の圧縮ばねとしては、圧縮コイルばねや、ガススプリングに代表されるシリンダ式のものがある。
また、リクライニング椅子の中には、脚杆の上端に取付けた支基(支持アーム)の前端部に、前後方向を向く積層状の板ばねの前端部を固着し、この板ばねを座の取付板により下方に撓ませることにより、座と一体をなす背凭れを弾性抵抗力を付与した状態で後傾させうるようにしたもの(例えば特許文献1参照)、背凭れを前向きに付勢する付勢手段に、支基の後端部と背凭れの下端部との間に設けたガススプリングや、支基に収容したゴムトーションスプリングを用いたものなどがある(例えば特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平5−31965号公報
【特許文献2】特開2005−211244号公報
【特許文献3】特開2006−87616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の圧縮コイルばねは、圧縮荷重と同方向に撓むため、2部材の一方がばねの軸線に対して変位または回動しながら相対移動するものに使用すると、ばねが座屈し易いので、多目的に使用することは難しい。
また、シリンダ式の圧縮ばねは、質量があり、かつ製造コストが高いという問題がある。
【0005】
上記特許文献1に記載されているリクライニング椅子のように、背凭れの付勢手段に板ばねを使用すると、背凭れを効果的に後傾させるためには、板ばねの前後寸法を大とする必要があるので、支基及び座の取付板の前後寸法も長くなる。
また、背凭れを後傾させた際に、板ばね全体が大きく下方に撓むので、板ばねの下方に撓み空間を設ける必要があり、その分、支基に対し座の高さが高くなる。
【0006】
特許文献2に記載のリクライニング椅子においては、背凭れの付勢手段にガススプリングを用いているので、椅子の質量が大きくなるとともに、コスト高となる。また、ガススプリングを、支基の後端部と背凭れの下端部との間に、斜め上下方向を向くように取付けてあるので、座の後下方に、重厚感のあるガススプリングが露呈し、体裁が悪い。
【0007】
特許文献3に記載のリクライニング椅子は、高価で質量のあるゴムトーションスプリングや、それを支基の内部に装着するための各種の部材を必要とするため、椅子の質量が大となるとともに、コストも増大する。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、汎用性が高く、かつ安価で簡単な構造の圧縮ばねを提供することを第1の目的とし、この圧縮ばねを使用することにより、安価で軽量、かつ体裁のよい椅子を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、上記課題は、次の各項のようにして解決される。
(1)両端が互いに離間する方向に付勢力を発生するようにした圧縮ばねであって、両端部に非可撓性の硬質部を有し、かつ両硬質部の間の中間部に、両端間に圧縮力が作用することにより、互いに外方または内方に弾性撓曲する1対の弾性撓曲部を有するものとする。
【0010】
このような構成とすると、両端間に前後方向の圧縮力が作用した際に、両弾性撓曲部は、圧縮方向と直交する内方または外方に弾性撓曲するので、2部材の一方が、他方の部材に対し回動しながら相対移動するものであっても、両弾性撓曲部が効果的に弾性撓曲して、ばね力を発揮することができるので、汎用性が高い。
また、ガススプリング等のシリンダ式の圧縮ばねに比して、構造が簡単であるため、安価で軽量感のある圧縮ばねを提供することができる。
【0011】
(2)上記(1)項において、両弾性撓曲部を、それらを含む平面と直交する方向にも弾性撓曲可能とする。
【0012】
このような構成とすると、圧縮ばねの伸縮量が大となるので、2部材の相対移動量が大きい場合にも対応することができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)項において、両弾性撓曲部と、その各端部同士を連結する連結部分とが、全体として閉ループ状をなすようにする。
【0014】
このような構成とすると、弾性撓曲部を効果的に弾性撓曲させて、大きなばね力を得ることができ、かつ繰り返し荷重に対しても十分な強度および耐久性を有する。
【0015】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、弾性撓曲部を、ほぼ円形の断面形状とする。
【0016】
このような構成とすると、弾性撓曲部を、内方や外方の外、どのような方向にも効果的に弾性変形させることができる。
【0017】
(5)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、両弾性撓曲部を、それらを含む平面に沿う方向に長い長方形断面とする。
【0018】
このような構成とすると、両弾性撓曲部が、それらを含む平面と直交する方向に弾性撓曲し易くなるので、2部材の相対移動量がより大きなものにも対応することができる。
【0019】
(6)上記(1)〜(5)項のいずれかにおいて、弾性撓曲部と硬質部とを、合成樹脂により一体的に成形する。
【0020】
このような構成とすると、合成樹脂により、軽量で安価な圧縮ばねを容易に成形することができ、また閉ループ状をなす部分を有していても、金型により簡単に成形することができる。
【0021】
(7)脚によって支持された支基に座を支持するとともに、背凭れの下部を前記支基または座の後部に、左右方向を向く軸をもって枢着し、前記背凭れを後傾可能とした椅子において、背凭れにおける前記軸より下方の部分と前記支基とを、上記(1)〜(6)項のいずれかに記載の圧縮ばねにおける両端部の硬質部をもって連結することにより、前記圧縮ばねの弾性撓曲部が弾性収縮して、前記背凭れを後傾しうるようにする。
【0022】
このような構成とすると、ガススプリングやゴムトーションスプリングのような高価で複雑な構造の背凭れ付勢手段を用いる必要がないので、安価で軽量な椅子を提供することができる。
また、重厚感のあるガススプリング等が外部に露呈しないので、椅子の体裁がよくなる。
【0023】
(8)脚によって支持された支基と、前記支基に、左右方向を向く枢軸をもって枢着され、後部が上下方向に回動可能とした座と、前記支基に設けられ、かつ座における前記枢軸よりも後部を上向きに付勢する付勢手段とを設けてなる椅子において、
前記支基における前記枢軸より下方の部分と背凭れにおける前記軸より下方の部分とを、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮ばねにおける両端部の硬質部をもって連結することにより、座の下向き回動時に、前記圧縮ばねが背凭れの下端部を後方に押動して、背凭れを起立状態に維持し、また前記圧縮ばねの弾性撓曲部が弾性収縮することにより、座に対する背凭れの後傾を可能とする。
【0024】
このような構成とすると、上記(7)項に記載の効果と同様の効果を奏することができるとともに、座が後上向き傾斜する位置から、後下向き傾斜する位置に回動するまでの間は、背凭れは、圧縮ばねの付勢力により起立状態に保持されているので、着座者が着座しようとする際に、背が不用意に後方に倒れる恐れはなく、安全である。
【0025】
(9)上記(8)項において、圧縮ばねを、弾性撓曲部が支基と座との間において左右方向に弾性撓曲しうるように配設する。
【0026】
このような構成とすると、弾性撓曲部が椅子の左右方向に弾性撓曲するので、支基と座との間に、圧縮ばねの上下方向の撓み空間を殆ど設ける必要がなく、座が使用位置にあるときの高さを低く設定することができる。
【0027】
(10)上記(9)項において、左右方向に幅広とした前後の硬質部を、それらに挿通した左右方向の軸をもって、それぞれ支基と背凭れとに枢着する。
【0028】
このような構成とすると、前後の硬質部を左右方向に幅広としてあるので、圧縮ばねを支基と背凭れに安定よく取り付けることができ、支基と座間において弾性撓曲部を左右方向に効果的に弾性変形させることができる。
また、圧縮ばねの前後の端部を、支基と背凭れとに、左右方向の軸をもって簡単に連結することができる。
【0029】
上記(7)〜(10)項のいずれかにおいて、座の下面に左右方向の軸をもって前端部を枢着したほぼ前後方向を向くリンクの後端部に、長手方向を向く長孔を設け、この長孔に、圧縮ばねの後端部と背凭れとを連結する左右方向を向く軸を摺動可能に嵌合することにより、座に対する背凭れの回動範囲を規制するようにする。
【0030】
このような構成とすると、背凭れの最大後傾量が規制されるとともに、圧縮ばねの弾性撓曲部が過度に弾性変形するのが防止されるので、圧縮ばねの耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の圧縮ばねによれば、2部材の一方が、他方の部材に対し回動しながら相対移動するものであっても、両弾性撓曲部が効果的に弾性撓曲して、ばね力を発揮することができるので、汎用性が高い。
また、ガススプリング等のシリンダ式の圧縮ばねに比して、構造が簡単であるため、安価で軽量感のある圧縮ばねを提供することができる。
【0032】
本発明の椅子によれば、ガススプリングやゴムトーションスプリングのような複雑かつ高価な背凭れ付勢手段を用いる必要がないので、安価で軽量な椅子を提供することができる。
また、重厚感のあるガススプリング等が外部に大きく露呈しないので、椅子の体裁がよくなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の椅子の着座前の正面図である。
【図2】同じく、着座前の側面図である。
【図3】同じく、着座時の側面図である。
【図4】同じく、背凭れを後傾させたときの側面図である。
【図5】同じく、着座前の椅子の要部の中央縦断拡大側面図である。
【図6】支基とその上面に取付けられた付勢手段の斜視図である。
【図7】板ばねの拡大平面図である。
【図8】同じく、拡大側面図である。
【図9】本発明の圧縮ばねの拡大平面図である。
【図10】同じく、拡大側面図である。
【図11】図9のXIーXI線拡大縦断面図である。
【図12】圧縮ばねの変形例を示す拡大平面図である。
【図13】同じく、拡大側面図である。
【図14】図12のXIVーXIV線拡大縦断面図である。
【図15】図12の圧縮ばねを備える椅子の側面図である。
【図16】圧縮ばねのさらなる変形例と、それを用いた着座前の椅子の要部の中央縦断拡大側面図である。
【図17】変形例を示す圧縮ばねと座の下部とをリンクにより連係した連係部の斜視図である。
【図18】圧縮ばねを他の椅子に装着した変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の圧縮ばねを備える椅子の着座前の正面図、図2は同じく側面図、図3は、同じく着座時の側面図、図4は、背凭れを後傾させたときの側面図、図5は、着座前の椅子の要部の中央縦断側面図、図6は、支基とその上面に取付けられた付勢手段の斜視図である。
【0035】
図1〜図4に示すように、この椅子は、先端部にキャスタ1を備える放射状をなす5本の脚杆2を有する脚体3を備えている。脚体3の中央には、ガススプリング(図示略)を備える伸縮式の脚柱4が立設され、脚柱4の上端には、前方を向く支基5の後部が固着されている。なお、支基5と脚柱4と脚体3とを一体化して実施してもよい。
【0036】
支基5は、図6に示すように、前方に向かって拡開する平面視三角形の浅い皿状をなすとともに、側面視において前上方に向かって傾斜している。また、図1に示すように、支基5は、前方より見て上向きコ字状をなし、前方に開口しているので、支基5への部材の取付け作業時に、側方や後方だけでなく、前方からも部材や工具等を挿入し易いようになっている。
【0037】
座6は、合成樹脂製の座板7と、その上面に取付けられたクッション材8とからなり、座板7の前端両側部を、支基5の前端両側部に左右方向を向く枢軸9をもってそれぞれ枢着することにより、図2に示す後上向きに傾斜する不使用位置と、図3に示す水平、または後下向きに傾斜する使用位置とに、枢軸9を中心として回動可能である。この回動範囲は、ほぼ15度程度とするのが好ましい。
【0038】
座6は、後述する付勢手段12により、常時不使用位置に向かって上向きに付勢されている。
図2に示すように、座6が不使用位置にあるとき、着座者が座ろうとする際に最初に当接する初期当接部Pが、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにしてある。
この初期当接部Pは、座6が使用位置にあるときは、着座者が適正な着座姿勢で着座したとき、その臀部である座骨部付近を安定よく支持する安定支持部と一致するように定めておくのが好ましい。
【0039】
この初期当接部Pを、座6が不使用位置にあるとき、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにしておくと、着座者が不使用位置にある座6に着座する際に、着座者の臀部が座6の初期当接部Pに当接したとき、椅子が後方に移動するという不都合が生じるおそれはない。
また、着座者の臀部が座6の初期当接部Pに当接した後、座6は、着座者の臀部とともに、付勢手段12の付勢力に抗して使用位置まで回動し、着座者の臀部を安定支持点まで誘導して、着座者が迅速に適正な着座姿勢を取ることができ、また着座者の荷重が脚柱4よりも後方に加わるので、座6の後部により、着座者の臀部を安定よく支持することができる。
【0040】
不使用位置に位置しているときの座6の後上向き傾斜角度は、大とすればするほど、初期当接部Pが前方に移動して、脚柱4に接近するか、もしくはその前方に位置するようになるが、上記のように、初期当接部Pが、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するように、不使用位置に位置しているときの座6の後上向き傾斜角度を制限するのが好ましい。
【0041】
座板7の後部両側には、背凭れ10の下部両側より前方を向く延出部10aの前部が、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにして、左右方向を向く支軸11をもってそれぞれ枢着され、背凭れ10は、図2および図3に示すように、ほぼ上方を向く起立位置と、図4に示すような後傾位置とに、支軸11を中心として回動可能である。なお、この背凭れ10およびその枢着部分の具体的な構造については、本発明と直接関係しないので、その詳細な図示および説明は省略する。
【0042】
支基5には、座6の後部を上向きに付勢する付勢手段12が設けられている。
この付勢手段12は、支基5における枢軸9より下方の部分と座6における枢軸9より後方の部分とを連結する弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方において、座6の下面に前上端部が固着され、中間部が側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられ、かつ前下端部が支基5における枢軸9より下方の位置に止着された左右1対の弾性撓曲手段14、14とを備えている。
【0043】
弾性伸縮手段13は、この例では、図2、図5および図6に示すように、前端部が支基5に左右方向の軸15をもって枢着され、かつ後端部が座6の下面における前後方向の中間部に左右方向の軸ピン16をもって枢着された、ロック機能のないガススプリング17としてある。しかし、ロック機能を有するガススプリングや、圧縮コイルばね、またはオイルダンパもしくはエアダンパ等とすることもできる。
ロック機能を有するガススプリングとする場合には、そのロック解除操作手段を、例えば肘掛け(図示略)の一部等に設けるのが好ましい。
【0044】
左右の各弾性撓曲手段14は、この例では、図5〜図8に示すように、座6の下面における両側前部にねじ止め等により止着された前後方向に長い長方形の上部取付部18aと、この上部取付部18aから後方に延出する上片18bと、上片18bの後端から前下方へ向かってほぼ半円弧状に湾曲する弾性撓曲部18cと、弾性撓曲部18cの下端から前方または前下方に延出する下片18dと、下片18dの前端に設けられ、かつ支基5に取付けるための下部取付部18eとを有する合成樹脂製の左右1対の板ばね18、18からなるものとしてある。なお、各板ばね18は、金属製としてもよい。
【0045】
左右の板ばね18、18における両下片18d、18dの左右方向の幅は、前方に向かって漸次小としてある。これは、ガススプリング17や後述する押動杆23との干渉を避けて、座6の下方の狭い空間内に、それらを集約的に収容するためである。
【0046】
また、左右の板ばね18、18は、図6に示すように、その両下片18d、18d同士が、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。さらに、両上片18b、18b同士も、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。このようにすることによって、座6の後部を安定よく支持することができる。
【0047】
左右の板ばね18、18における下部取付部18e、18eは、上記軸15の両側端部に枢着されている。
【0048】
軸15は、次のようにして、支基5の前部上面に固定されている。すなわち、図5および図6に示すように、支基5における枢軸9より下方の前部の底面に、左右方向を向く凹部5aを設け、この凹部5a内に左右方向に並べて設けた複数の突部19の上面に、上方および左右両方向に開口するU字状の凹溝20をそれぞれ設け、各凹溝20に軸15を嵌合したのち、各突部19の上面に、押え金具21を、ねじ22、22をもって止着することにより、軸15は、回動不能(回動可能としてもよい)として支基5の前端部上面に固定されている。
【0049】
付勢手段12を、弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方に配設した左右1対の弾性撓曲手段14とを備えるものとしてあるので、座6の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座6を安定よく支持することができる。
また、弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14とを、小型化して、座6の下方にコンパクトに配設することができるので、椅子の体裁をよくすることができる。
【0050】
上記のように、弾性伸縮手段13をガススプリング17とし、弾性撓曲手段14を板ばね18とすると、弾性伸縮手段13および弾性撓曲手段14の構造は簡素化され、安価に製造することができる。
【0051】
また、弾性伸縮手段13の前端部と弾性撓曲手段14の下側の前端部とを、左右方向を向く共通の軸15をもって支基5に枢着してあるから、構造を簡素化できるだけでなく、支基5への弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14との枢着作業を簡略化することができる。
【0052】
弾性撓曲手段14である板ばね18における後部の側面視半円弧状の弾性撓曲部18cの上面は、座6の下面に当接しており、座6の下向き回動時に、板ばね18における上部取付部18aと下部取付部18eとの間隔が縮まることにより、下片18dが後上方に押し出され、弾性撓曲部18cが、座6の下面に沿って漸次後方に移行するように、板ばね18は弾性変形する。
このように板ばね18が弾性変形することによって、板ばね18の同一箇所に応力が集中するのを防止し、板ばね18の耐久性を向上することができるとともに、板ばね18の反力を増大させることができる。
結果的に、板ばね18の反力は、座6を下向きに回動させればさせるほど大となる。
【0053】
支基5における枢軸9より下方の部分と、背凭れ10における上記支軸11より下方の部分とは、前後方向を向く弾性伸縮可能の押動杆23により連結されている。
座6の不使用位置から使用位置への下向き回動時に、この押動杆23により、背凭れ10の下端部が後方に押動されて、背凭れ10は起立状態に維持され、また押動杆23が弾性収縮することにより、背凭れ10は、この押動杆23の弾性復元力に抗して、図4に示すように、後傾させることができる。
【0054】
図6および図9〜図11に示すように、押動杆23は、前端部が弾性伸縮手段13であるガススプリング17の両側方において、左右方向の軸15により支基5に枢着された硬質かつ非可撓性の左右1対の足片23a、23aと、両足片23a、23aの後端に連設された断面円形の後方を向く左右1対の弾性撓曲部23b、23bと、ガススプリング17の下方において、両足片23a、23aの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の連結片23cと、両弾性撓曲部23b、23bの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の連結部23dとを有する圧縮ばねにより構成してある。
連結片23cの中央部は、ガススプリング17の下面と干渉しないように、下方に凹ませてある。なお、押動杆23は、例えばポリアミド系の硬質合成樹脂により一体成形するのが好ましい。
【0055】
左右の足片23a、23aの前端部には、軸15に挿通される左右方向の軸孔24が形成されている。
また、後端の左右方向に幅広の連結部23dにも、左右方向を向く軸孔25が設けられ、この軸孔25には、連結部23dを、背凭れ10の下端部前面の左右方向の中央部に前向き突設された左右1対の軸受片26に枢着するための軸ピン27が挿通されている(図5参照)。
【0056】
左右の弾性撓曲部23b、23bは、椅子の左右方向外方に向かって概ね凸円弧状に湾曲され、かつ断面形状はほぼ円形とされている。
押動杆23における左右の弾性撓曲部23b、23bと、それらの各端部同士を連結する連結片23c、および連結部23dとにより、平面視ほぼ円形の閉ループ状に形成されている。
【0057】
押動杆23を、両弾性撓曲部23b、23bが椅子の左右に並ぶように配設して、支基5と背凭れ10に連結することにより、背凭れ10の後傾時において、弾性撓曲部23b、23bは、図9に2点鎖線で示すように、互いに左右方向外向きに膨らむように弾性撓曲する。なお、左右の弾性撓曲部23b、23bを、上記とは反対に、互いに内向き円弧状に湾曲させて、両弾性撓曲部23bが、椅子の左右方向内方に向かって弾性撓曲するようにすることもある。
【0058】
なお、図10に示すように、左右の弾性撓曲部23b、23bの中間部は、側面視においてわずかに下向き円弧状に湾曲され、両弾性撓曲部23bに前後方向の圧縮荷重が作用した際に、それらの中間部が、両弾性撓曲部23bを含む平面と直交する下方にも弾性変形しうるようにしてある。なお、弾性撓曲部23bを、上記とは反対に、上向き円弧状に湾曲させてもよい。
【0059】
押動杆23として使用した圧縮ばねは、前後の両端間に前後方向の圧縮力が作用した際に、両弾性撓曲部23b、23bは、圧縮方向と直交する方向に弾性撓曲し、2部材(支基5と背凭れ10)の一方が、上記の背凭れ10のように回動しながら相対移動するものであっても、両弾性撓曲部23b、23bは効果的に弾性撓曲して、ばね力を発揮することができ、汎用性の高いものとなる。
【0060】
また、ガススプリング等のシリンダ式の圧縮ばねに比して、構造が簡単であるため、安価で軽量な圧縮ばねを提供することができる。
さらに、両弾性撓曲部23b、23bと、それらの端部同士を連結する前後の硬質の連結片23cおよび連結部23dとにより、平面視円形または非円形(互いに内方に弾性撓曲させる場合等)の閉ループ状に形成されているので、弾性撓曲部23bを効果的に弾性撓曲させて、大きなばね力を得ることができ、かつ繰り返し荷重に対しても十分な強度および耐久性を有することができる。しかも、各弾性撓曲部23bをほぼ円形断面としてあるので、どのような方向にも効果的に弾性変形させることができる。
【0061】
両弾性撓曲部23bを、それらを含む平面と直交する方向にも弾性変形しうるようにしてあるので、前後の端部間の相対移動量が大となり、背凭れ10を大きく後傾させることができる。
【0062】
上記のような圧縮ばねを、上記実施形態の椅子において支基5と背凭れ10との間に押動杆23として装着すると、背凭れ10を後傾させた際に、左右の弾性撓曲部23b、23bは、左右方向に弾性撓曲するので、支基5と座6との間に、押動杆23の上下方向の撓み空間を殆ど設ける必要がなく、座6が使用位置にあるときの高さを低く設定することができる。
【0063】
また、押動杆23とした圧縮ばねは、ガススプリングやゴムトーションスプリングのような背凭れ付勢手段に比して、構造が簡単で安価であるので、椅子を軽量化することができるとともに、コスト低減が図れる。
【0064】
さらに、押動杆23は、前部の左右1対の足片23aと、後部の左右方向に幅広の連結部23dとを、それぞれ左右方向の軸15および軸ピン27をもって、支基5と背凭れ10に枢着してあるので、それを安定よく弾性変形させることができる。
【0065】
押動杆23における足片23a、23aの前端部を、弾性伸縮手段13であるガススプリング17の前端部と、弾性撓曲手段14である左右の板ばね18、18の下部取付部18e、18eとともに、左右方向を向く共通の軸15をもって支基5に枢着してあるので、構造をさらに簡素化できるだけでなく、支基5への弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14と押動杆23との枢着作業をさらに簡単化することができる。
【0066】
以上のような構成の椅子は、図2に示す待機状態では、付勢手段12の付勢力によって、座6の後部が上方に持ち上げられ、座6は後上向き傾斜する不使用位置に位置しており、背凭れ10は、押動杆23の伸長により、ほぼ上方を向く起立位置に保持されている。
【0067】
この状態で、着座者が着座しようとすると、まず着座者の臀部が、上述したように座6の初期当接部Pに当接し、座6は着座者の臀部とともに、付勢手段12の付勢力に抗して、図3に示す使用位置まで回動させられ、着座者の臀部を安定支持点まで誘導し、着座者は迅速に適正な着座姿勢を取ることができる。
【0068】
図3に示す着座状態から、着座者が背中を背凭れ10に凭せかけて背を後方に倒すと、背凭れ10は、押動杆23を弾性収縮させつつ、支軸11を中心として、図4に示すような後傾位置まで回動させられる。この押動杆23の弾性収縮の初期に、硬質の連結部23dが軸ピン27により前方に押動され、そのときの左右の弾性撓曲部23b、23bにおける連結部23dへの結合部分が若干上下方向に捩れつつ、弾性撓曲部23b、23b全体が、図9に2点鎖線で示すように、互いに左右方向外向きに膨らむように弾性撓曲するとともに、上下方向にも若干蛇行するように弾性変形する。
【0069】
着座者が背中を前方に戻すと、背凭れ10は、押動杆23の弾性復元力による伸長によって、支軸11を中心として前方に回動させられ、元の起立位置まで戻される。
【0070】
図3に示す着座状態から、着座者が立上がろうとすると、座6は、弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14との相乗作用により、不使用位置に向かって上向き回動するように付勢され、着座者の起立を支援することができる。
【0071】
図12〜図14は、押動杆23として使用する圧縮ばねの変形例を示すもので、この例の圧縮ばね28は、上述した押動杆23と基本的構造は同じで、硬質かつ非可撓性の左右1対の足片28a、28aと、両足片28aの後端に連設された左右1対の弾性撓曲部28b、28bと、両足片28aの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の下方に凹入する連結片28cと、両弾性撓曲部28bの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の連結部28dとからなっている。
【0072】
左右の弾性撓曲部28b、28bの断面形状は、それらを含む平面に沿う方向である椅子の左右方向に長い概ね長方形をなし、弾性撓曲部28b全体は扁平な形状とされている。
また、両弾性撓曲部28bの後部は、側面視において若干下向き円弧状に湾曲され、下方にも比較的大きく弾性撓曲しうるようにしてある。
【0073】
図15は、この圧縮ばね28を上記と同様の椅子に装着して、背凭れ10を後傾させたときの側面図を示すもので、左右の弾性撓曲部28b、28bは扁平とされ、かつ後部を下向き円弧状に湾曲させてあるので、両弾性撓曲部28bは、上述した押動杆23に比して、下方に弾性変形しやすく、支基5と背凭れ10との相対移動量が大となるので、背凭れ10を比較的大きく後傾させることが可能となる。
【0074】
図16は、押動杆23として使用する圧縮ばねのさらなる変形例を備える椅子の縦断側面図、図17は、同じく、この圧縮ばねと座の下部との連係部の斜視図を示すもので、この例の圧縮ばね29は、硬質かつ非可撓性の足片30aと、足片30aの後端に連設された平面視外向き凸円弧状の弾性撓曲部30bと、弾性撓曲部30bの後端に連設された硬質かつ非可撓性の連結部30cとを備える左右1対のばね片30、30とからなっている。
【0075】
両ばね片30の足片30a、30aの前端部は、上記と同様、それらの間にガススプリング17の前端部を位置させた状態で、軸15により支基5に枢着されている。
【0076】
両ばね片30の連結部30c、30cは、それらの間に前後方向を向くリンク31の後端部を摺動可能に挟入した状態で、その部分に設けた前後方向を向く長孔32と、両連結部30cに設けた左右方向の軸孔33とに挿通した軸ピン34により、背凭れ10の下部の軸受片26に枢着されている。
【0077】
リンク31の前端部は、座板7の下面に取り付けられた、ガススプリング17の後端部を枢着する取付部材34に、軸ピン16により回動可能に連結されている。軸ピン16は、図16に示すように、座6が不使用位置にあるとき、長孔32の前端と当接または近接し、使用位置まで座6が回動したとき、長孔32の後端部に位置するようになっている。
【0078】
この例の圧縮ばね29における左右のばね片30、30の弾性撓曲部30b、30bも、背凭れ10を後傾させると、図9に示す圧縮ばね23と同様に、左右方向外側に弾性変形し、ばね力を発揮する。
また、座6を使用位置まで回動させた状態で、背凭れ10を後傾させると、両弾性撓曲部30bが弾性変形することにより、それまでリンク31の長孔32の後端部に位置していた軸ピン34が、長孔32の前端と当接するまで、前方に移動する。
上記のようなリンク31を設けることにより、座6に対する背凭れ10の回動範囲、特に最大後傾量が規制されるとともに、両弾性撓曲部30bが過度に弾性変形するのが防止されるので、圧縮ばね29の耐久性を向上させることができる。なお、このようなリンク31を、図9や図12に示す一体構造の圧縮ばね23、28を用いた椅子にも適用することができる。この際には、例えば軸ピン16、27を長寸として、それらの少なくともいずれか一方の側端部同士を、リンク31をもって連結すればよい。
【0079】
本発明は、上記のような着座者の起立を支援する椅子の外、図18に示すように、背凭れ35を支持する左右1対の背杆36の前端部が支基37に回動可能に枢着され、背凭れ35が支基37を中心として後傾するようにした一般的な椅子にも適用することができる。
この際には、上記実施形態の圧縮ばね23、28、29の前後の端部を、それぞれ、支基37の後端と背凭れ35の下端部とに、圧縮ばね23、28、29が前後方向を向くように連結すればよい。なお、図18に示す椅子の外、背凭れが座の後端部に枢着されている椅子にも、本発明の圧縮ばね23、28、29を使用することができる。
【0080】
このような一般的な椅子には、通常、背凭れ29の付勢手段にガススプリングが使用されるが、本発明のような圧縮ばね23、28を使用すると、重厚感のあるガススプリングが座の下方に露呈しないので、椅子の体裁がよくなる。
また、圧縮ばね23、28はガススプリングに比して安価で軽量であるため、椅子のコスト及び質量が低減される。
【符号の説明】
【0081】
1 キャスタ
2 脚杆
3 脚体
4 脚柱
5 支基
5a凹部
6 座
7 座板
8 クッション材
9 枢軸
10 背凭れ
10a延出部
11 支軸
12 付勢手段
13 弾性伸縮手段
14 弾性撓曲手段
15 軸
16 軸ピン
17 ガススプリング
18 板ばね
18a上部取付部
18b上片
18c弾性撓曲部
18d下片
18e下部取付部
19 凸部
20 凹溝
21 押え金具
22 ねじ
23 押動杆(圧縮ばね)
23a足片(硬質部)
23b弾性撓曲部
23c連結片(硬質部)
23d連結部(硬質部)
24、25 軸孔
26 軸受片
27 軸ピン
28 圧縮ばね
28a足片
28b弾性撓曲部
28c連結片(硬質部)
28d連結部(硬質部)
29 圧縮ばね
30 ばね片
30a足片(硬質部)
30b弾性撓曲部
30c連結部(硬質部)
31 リンク
32 長孔
33 軸孔
34 軸ピン
35 背凭れ
36 背杆
37 支基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が互いに離間する方向に付勢力を発生するようにした圧縮ばねであって、両端部に非可撓性の硬質部を有し、かつ両硬質部の間の中間部に、両端間に圧縮力が作用することにより、互いに外方または内方に弾性撓曲する1対の弾性撓曲部を有することを特徴とする圧縮ばね。
【請求項2】
両弾性撓曲部を、それらを含む平面と直交する方向にも弾性撓曲可能とした請求項1記載の圧縮ばね。
【請求項3】
両弾性撓曲部と、その各端部同士を連結する連結部分とが、全体として閉ループ状をなすようにした請求項1または2記載の圧縮ばね。
【請求項4】
弾性撓曲部を、ほぼ円形の断面形状としてなる請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮ばね。
【請求項5】
両弾性撓曲部を、それらを含む平面に沿う方向に長い長方形断面としてなる請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮ばね。
【請求項6】
弾性撓曲部と硬質部とを、合成樹脂により一体的に成形してなる請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮ばね。
【請求項7】
脚によって支持された支基に座を支持するとともに、背凭れの下部を前記支基または座の後部に、左右方向を向く軸をもって枢着し、前記背凭れを後傾可能とした椅子において、
背凭れにおける前記軸より下方の部分と前記支基とを、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮ばねにおける両端部の硬質部をもって連結することにより、前記圧縮ばねの弾性撓曲部が弾性収縮することにより、前記背凭れを後傾しうるようにしたことを特徴とする椅子。
【請求項8】
脚によって支持された支基と、前記支基に、左右方向を向く枢軸をもって枢着され、後部が上下方向に回動可能とした座と、前記支基に設けられ、かつ座における前記枢軸よりも後部を上向きに付勢する付勢手段とを設けてなる椅子において、
前記支基における前記枢軸より下方の部分と背凭れにおける前記軸より下方の部分とを、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮ばねにおける両端部の硬質部をもって連結することにより、座の下向き回動時に、前記圧縮ばねが背凭れの下端部を後方に押動して、背凭れを起立状態に維持し、また前記圧縮ばねの弾性撓曲部が弾性収縮することにより、座に対する背凭れの後傾を可能としたことを特徴とする椅子。
【請求項9】
圧縮ばねを、弾性撓曲部が支基と座との間において左右方向に弾性撓曲しうるように配設した請求項8記載の椅子。
【請求項10】
左右方向に幅広とした前後の硬質部を、それらに挿通した左右方向の軸をもって、それぞれ支基と背凭れとに枢着した請求項9記載の椅子。
【請求項11】
座の下面に左右方向の軸をもって前端部を枢着したほぼ前後方向を向くリンクの後端部に、長手方向を向く長孔を設け、この長孔に、圧縮ばねの後端部と背凭れとを連結する左右方向を向く軸を摺動可能に嵌合することにより、座に対する背凭れの回動範囲を規制するようにした請求項7〜10のいずれかに記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−255073(P2011−255073A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133750(P2010−133750)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】